業種別の事業承継|後継者・承継方法・M&Aのポイント

建設、製造、IT、医療・介護、物流、飲食、小売など、業種別の事業承継を解説。後継者問題、親族内承継、従業員承継、M&A、許認可や人材など業界固有のポイントを整理します。

業種別の事業承継

事業承継では、会社の株式や経営権を後継者へ引き継ぐだけでなく、その会社が持つ技術、人材、取引先、許認可、設備、店舗、ブランドなどを次の世代へどのように残すかを考える必要があります。

そして、事業承継で重視すべきポイントは業種によって大きく異なります。

例えば建設業では許認可や有資格者、製造業では技術や設備、医療・介護では制度や人材、IT業ではエンジニアや顧客基盤、飲食・小売では店舗やブランドなどが承継上の重要な要素になります。

このページでは、各業界の特徴を踏まえて、後継者問題、親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)など、事業承継を考えるための情報を業種別に整理しています。

業種によって事業承継のポイントは異なる

どの会社にも共通する事業承継の基本はありますが、実際の承継では業界固有の事情を考慮する必要があります。

特に次のような要素は、業種による違いが大きいポイントです。

後継者に必要な資格や経験

事業を引き継ぐために特別な資格を必要としない業界もあれば、許認可や有資格者の確保が事業継続に直結する業界もあります。

建設、医療、介護、運送などでは、単に会社の株式を承継するだけでなく、必要な人的要件や事業継続条件も確認する必要があります。

従業員や技術を承継できるか

製造業、建設業、IT、医療・介護、専門サービスなどでは、熟練した従業員や技術者そのものが会社の競争力になっている場合があります。

後継者へ経営権を移した後も重要な人材が会社に残るかは、事業承継を考えるうえで重要なテーマです。

許認可や契約を引き継げるか

事業承継の方法によっては、許認可や取引契約が当然には引き継がれない場合があります。

特に事業譲渡などを利用する場合には、業種固有の制度を確認したうえで承継方法を選ぶ必要があります。

設備・不動産・店舗をどう引き継ぐか

工場、倉庫、車両、店舗、医療設備など、多額の固定資産を必要とする業種では、それらを誰がどのように保有するかも重要です。

経営者個人が事業用不動産を所有している場合などは、株式と事業用資産を分けて考える必要があります。

顧客・取引先・ブランドを維持できるか

会社の価値は決算書だけでは判断できません。

地域での知名度、取引先との長年の関係、顧客データ、ブランド、営業ノウハウなど、業界ごとに異なる無形の経営資源をどのように引き継ぐかも重要です。

事業承継の方法を業種に合わせて考える

事業承継には、大きく親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)があります。

業種によって「どの方法が適しているか」が決まるわけではありません。後継者候補、株式、資金、従業員、許認可、取引先などを総合的に検討して選択します。

親族内承継

子どもなどの親族へ会社を引き継ぐ方法です。

早い段階から後継者教育を行いやすい一方、後継者本人の意思や適性、株式の承継、相続なども考える必要があります。

詳しくは親族内承継をご覧ください。

従業員承継

役員や従業員へ経営を引き継ぐ方法です。

社内事情や業界に詳しい人材を後継者にできるメリットがありますが、株式を取得するための資金などが課題になることがあります。

詳しくは従業員承継をご覧ください。

第三者承継(M&A)

親族や社内に適切な後継者がいない場合などには、第三者へ会社や事業を引き継ぐM&Aも選択肢になります。

買い手企業の経営資源を活用することで、人材採用、設備投資、営業力強化などにつながる場合もあります。

詳しくは第三者承継(M&A)をご覧ください。

業種によってM&Aのニーズや特徴も異なる

第三者承継としてM&Aを選択する場合も、業界によって買い手が評価するポイントやM&Aが行われる背景は異なります。

人材不足を背景とする業界、規模拡大が重要な業界、許認可や店舗網を取得したい業界、技術や顧客基盤の獲得を目的とする業界など、M&Aの目的はさまざまです。

業種によるM&Aニーズの違いを最初に把握する場合は、次の記事も参考になります。

業種から事業承継情報を探す

現在公開している業種別の記事を、事業承継を検討する経営者が探しやすいよう業界ごとに整理しています。

現時点ではM&Aを中心とした記事が多くなっていますが、各業界の事業承継を考えるうえで参考となる情報です。

建設・不動産・工事業の事業承継

建設・工事関連では、後継者不足に加えて、技術者や有資格者の確保、建設業許可、取引先との関係、設備などが承継の重要なポイントになります。

不動産業では、会社が保有する不動産と事業そのものの価値を分けて考える必要がある場合もあります。

建築・建設業

建築・建設業では、経営者の交代だけでなく、施工管理能力、技術者、受注基盤などを維持できるかが重要です。

土木・設備・電気・内装工事

専門工事業では、有資格者、現場管理能力、元請・下請関係など、業種固有の経営資源を引き継ぐ必要があります。

測量・不動産

測量や不動産では、資格、人材、顧客との関係に加え、保有資産や許認可などを確認します。

製造・資源・環境業の事業承継

製造業では、工場や設備だけではなく、熟練技術、取引先、品質管理体制などが会社の重要な価値になります。

資源・廃棄物関連では、設備に加えて許認可や処理能力なども承継上の重要な要素です。

製造・食品製造

製造業では、技術の属人化を防ぎ、後継者や次世代の従業員へノウハウを引き継ぐことが重要です。

産業廃棄物・再生資源

廃棄物・リサイクル関連では、許認可、設備、車両、処理施設、取引先などを一体として考える必要があります。

物流・交通・旅行・宿泊業の事業承継

物流・交通業では、ドライバー不足、車両、営業所、許認可などが重要です。

宿泊・旅行業では、人材や顧客基盤だけでなく、不動産や施設への投資負担も事業承継に大きく影響します。

物流・運送・交通

人材不足が経営課題となりやすい業界では、後継者だけでなく、事業を支える従業員を維持できるかも重要です。

ホテル・旅館・旅行

ホテル・旅館では不動産を含む資産構成や設備投資、旅行業では顧客・仕入先とのネットワークなども確認します。

IT・デジタル・メディア業の事業承継

IT・デジタル関連では、大規模な設備よりも人材、顧客、システム、知的財産、アカウントなどが企業価値の中心となる場合があります。

特定の経営者やエンジニアに技術や取引関係が集中していないかも重要です。

IT・SES・システム開発

IT企業では、エンジニアや開発ノウハウ、継続契約などの承継が重要になります。

アプリ・ゲーム・YouTube

デジタル事業では、ソフトウェアだけでなく、ユーザー、運営アカウント、コンテンツ、知的財産なども承継対象になります。

広告・出版・印刷

広告・メディア関連では、クリエイターなどの人材、顧客との関係、媒体やコンテンツなどが重要です。

医療・介護・福祉業の事業承継

医療・介護・福祉分野では、一般企業とは異なる法人制度や許認可が関係する場合があります。

経営者だけでなく、医師、薬剤師、介護職などの専門人材を継続的に確保できるかも重要です。

医療法人・クリニック・歯科

医療分野では、法人形態や開設者などの制度を踏まえて承継方法を検討します。

薬局・医薬品・医療機器

薬局や医薬品関連では、制度変更、専門人材、店舗網などが事業承継に影響します。

介護・福祉・保育

介護・福祉分野では、人材不足や行政制度への対応なども事業継続の重要な要素です。

小売・卸売・飲食・消費財の事業承継

小売・飲食などでは、店舗、従業員、立地、ブランド、仕入先、顧客など複数の要素が事業価値を構成します。

オーナー個人の知名度に依存している場合は、後継者へ顧客との関係を移行することも必要です。

飲食・給食

飲食業では、店舗、ブランド、料理・運営ノウハウ、人材などを総合的に引き継ぎます。

小売・卸売

小売・卸売では、店舗網、仕入先、顧客基盤、在庫などが事業承継に関係します。

アパレル・化粧品・ブランド

消費財分野では、ブランドや商標、販売チャネル、顧客層なども重要な承継対象です。

フィットネス・消費者向けサービス

店舗型サービスでは、ブランド、顧客、従業員、店舗網などが承継のポイントになります。

教育・人材・専門・金融サービスの事業承継

サービス業では、大規模な設備よりも従業員、専門知識、顧客との関係などが企業価値の中心になることがあります。

経営者自身への依存度が高い会社では、承継前から顧客との関係を組織へ移していくことも重要です。

教育・美容

教育や美容などでは、店舗・教室だけでなく、人材や顧客との継続的な関係が重要です。

人材サービス

人材関連では、求職者・登録者、顧客企業、担当者などのネットワークが事業価値に影響します。

会計・保険・金融

専門サービスでは、資格者や担当者、顧客との信頼関係を次世代へ引き継げるかが重要です。

業種別の事業承継で共通して確認したいこと

業界固有の事情は異なっても、事業承継を進める際には共通して確認しておきたいポイントがあります。

承継方法を決める前に、会社の現状を整理することが重要です。

後継者候補がいるか

まず親族や役員・従業員の中に後継者候補がいるかを確認します。

候補者がいることと、本人に承継意思や経営者としての適性があることは別の問題です。早い段階から意思確認や育成を進める必要があります。

経営者に依存しているものを洗い出す

営業、技術、仕入、金融機関との関係などが経営者個人へ集中している会社では、経営者が交代すると事業価値が低下する可能性があります。

事業承継の前から、顧客やノウハウを組織へ移しておくことが重要です。

株式と事業用資産を確認する

誰が株式を保有しているかだけでなく、会社で使用している土地・建物などを経営者個人が所有していないかも確認します。

株式、経営権、事業用資産をどのように次世代へ移すかを一体として考えます。

許認可・契約・資格を確認する

業種によっては、経営者交代や事業譲渡などによって許認可や契約について手続が必要になることがあります。

重要な許認可、契約、有資格者などを早めに一覧化しておくと、承継方法を検討しやすくなります。

親族・従業員・第三者への承継を比較する

最初から一つの方法だけに決める必要はありません。

親族内承継、従業員承継、第三者承継を比較し、「会社と事業を最も良い状態で次世代へ残せる方法は何か」という視点で判断することが重要です。

事業承継全般については、事業承継の基礎もあわせてご覧ください。