種類株式とは?普通株との違い・具体的な内容・活用事例を紹介

種類株式の9つの分類と特徴、メリット・デメリットを詳しく解説します。事業承継や資金調達における活用事例も紹介し、企業経営に役立つ種類株式の知識を分かりやすくまとめています。

目次

  1. 種類株式の概要
  2. 種類株式の9種
  3. 種類株式の活用事例
  4. まとめ

種類株式の概要

種類株式とは、権利内容が異なる2種類以上の株式を発行する場合における各株式のことを指します。通常の株式会社では、同じ権利内容を持つ普通株式のみを発行しますが、種類株式を導入することで、異なる権利や条件を持つ株式を発行することができます。

普通株式と種類株式の違い

普通株式は、一般的に「株式」と呼ばれるもので、原則として同一・平等な権利が付与されています。一方、種類株式は以下のような点で普通株式と異なる特徴を持っています。


 • 配当に関する優先権や制限

 • 残余財産の分配に関する優先権や制限

 • 議決権の有無や制限

 • 株式の譲渡に関する制限

 • 株式の取得に関する条件

これらの特徴により、種類株式は会社の資金調達や事業承継、経営権の維持など、様々な目的に応じて柔軟に設計することができます。

種類株式の導入の是非

種類株式を導入することで、会社と株主それぞれにメリットとデメリットがあります。

会社にとってのメリット:

 • 資金調達の選択肢が広がる

 • 投資家のニーズに合わせた株式設計が可能

 • 経営権の維持や事業承継対策に活用できる

株主にとってのメリット:

 • 投資目的に合わせた権利内容の株式を選択できる

 • 投資リスクを軽減できる場合がある

会社にとってのデメリット:

 • 種類株主総会の開催など、管理コストが増加する可能性がある

 • 株主構成が複雑化する

株主にとってのデメリット:

 • 権利行使の条件や制限を正確に理解する必要がある

 • 普通株式と比べて流動性が低い場合がある

種類株式の導入を検討する際は、これらのメリットとデメリットを慎重に検討し、会社の状況や目的に適した設計を行うことが重要です。

種類株式の9種

会社法第108条第1項第1号から第9号に基づき、種類株式は以下の9つに分類されます。それぞれの特徴と役割を詳しく見ていきましょう。

剰余金配当

この種類株式は、剰余金の配当について他の株式より優先または劣後する権利を持ちます。例えば、優先配当株式は、一定額の配当を優先的に受け取る権利があります。この株式は、安定した収益を求める投資家にとって魅力的な選択肢となります。

残余財産分配

会社が解散する際の残余財産の分配について、条件付けされた株式です。他の株式より優先または劣後して分配を受ける権利があります。この株式は、会社の清算時のリスクを考慮する投資家に適しています。

議決権制限株式

株主総会の決議事項の全部または一部について、議決権を行使することができない株式です。例えば、役員選任決議では議決権を行使できないなど、細かい設計が可能です。この株式は、経営への関与を望まない代わりに、優先的な配当を求める投資家向けに設計されることが多いです。

譲渡制限株式

株式の譲渡に会社の承認を要する株式です。非公開会社で株主を限定したい場合や、特定の株主の持株比率を維持したい場合に有効です。譲渡制限を新たに設ける場合は、その種類株主総会の特別決議が必要となり、反対株主には株式買取請求権が与えられます。

取得請求権付株式

株主が会社に対して、保有する株式と引き換えに金銭やその他の財産を請求できる権利が付与された株式です。株主にとっては投資リスクを軽減できるメリットがあり、会社にとっては資金調達を容易にするメリットがあります。会社は分配可能額の範囲内で株式を取得する義務があります。

取得条項付株式

会社が一定の事由(例:株式公開)が生じたことを条件に、株式を取得できる条項が付いた株式です。取得の対価が金銭の場合は株主としての地位が失われ、他の株式が対価の場合はその種類株主としての地位に転換されます。

全部取得条項付株式

株主総会の特別決議により、会社がその全ての株式を取得することができる株式です。取得の対価として、事前に取り決めた現金や普通株式などの財産が交付されます。この株式は、非公開化(MBO)や完全子会社化などの際に利用されることがあります。

拒否権付株式(黄金株)

特定の事項について、株主総会や取締役会の決議に加えて、この種類株主総会の決議を要する株式です。拒否権付株式の保有者は、通常の株主総会で決議された事項であっても、その種類株主総会で否決する権限を持ちます。この株式は、特定の株主に強い影響力を与えたい場合に利用されます。

役員選任権付株式

取締役や監査役を選任する議決権が特別に付与された株式です。この種類株主は、定款の定めにより一定数の役員を選任する権限を持ちます。ベンチャーキャピタルが企業に出資する場合や、引退する創業者が会社への影響力を維持したい場合などに活用されます。

種類株式の活用事例

種類株式は、その多様な設計方法により、様々な場面で活用されています。ここでは、特に重要な2つの活用事例について詳しく見ていきます。

事業承継における種類株式の活用

事業承継とは、現経営者から次の経営者へ会社の経営権、すなわち株式を引き継ぐことを指します。特に中小企業では、事業承継の問題解決のために種類株式が有効活用されています。

例えば、以下のような活用方法があります:

 1. 議決権のある普通株式や拒否権付株式を後継者に引き継ぐ

 2. 無議決権株式を経営に関与しない相続人に引き継ぐ

このような設計により、議決権を後継者に集中させることが可能となり、スムーズな事業承継と承継後の円滑な経営につながります。

資金調達時の種類株式の利用

ベンチャー企業など、成長段階にある企業では、金融機関からの借入だけでは十分な資金を調達できないことがあります。そのため、ベンチャーキャピタルなどからの出資を受け入れる際に、種類株式が活用されます。

具体的には、以下のような種類株式が利用されます:

 1. 議決権制限株式:経営権を維持しながら資金調達を行いたい場合

 2. 優先株式:安定した配当を求める投資家向け

 3. 取得請求権付株式:投資家の出口戦略を確保したい場合

これらの種類株式を組み合わせることで、企業は自社のニーズと投資家の要望のバランスを取りながら、効果的な資金調達を行うことができます。

まとめ

種類株式は、会社法に基づく9つの分類があり、それぞれ特徴的な権利や制限が設定できます。これにより、企業は資金調達や事業承継など、様々な経営課題に対して柔軟に対応することが可能となります。ただし、種類株式の設計は複雑であり、目的に応じた適切な設計が求められます。専門家のアドバイスを受けながら、慎重に検討することが重要です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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