種類株式とは経営権維持と資金調達を両立する9類型の実務

種類株式とは何でしょうか。この記事では普通株式との違いに加え、会社法が定める9種類それぞれの権利内容、メリット・デメリット、導入手続や事業承継・資金調達の活用事例までを一気に解説します。

目次

  1. 種類株式の基礎
  2. 普通株式との違い
  3. 種類株式9種の概要
  4. メリットとデメリット
  5. 導入手続と注意点
  6. 事業承継での活用
  7. 資金調達での活用
  8. 属人的株式との比較
  9. まとめ

種類株式の基礎

種類株式とは、会社が発行する株式のうち、配当・議決権・譲渡制限などの権利内容に差を設けた株式を指します。通常の株式会社では、株主平等の原則に基づき、株主全員に同一の権利内容を持つ普通株式だけを発行します。しかし、会社法では一定の範囲でこの原則を緩和し、経営上の目的に応じて複数の種類株式を設計できる制度を認めています。種類株式を活用すれば、経営権を維持しつつ資金を集める、後継者に議決権を集中させる、といった柔軟な対応が可能になります。

普通株式との違い

普通株式は「株式=議決権・配当・残余財産分配などの権利が平等に付与されているもの」として位置付けられます。それに対し種類株式は、以下のように権利の優先・制限を自由に組み合わせられる点が特徴です。

  • 配当の優先または劣後
  • 残余財産分配の優先または劣後
  • 議決権を付与しない、あるいは一部議案のみ行使可
  • 株式譲渡を会社の承認制にする
  • 一定事由で会社が株式を取得できる/株主から取得請求できる

これにより、会社と株主は自らの立場や目的に合わせた条件を選択できます。たとえば、経営に関与しない代わりに安定配当を重視する投資家には「無議決権だが優先配当が得られる株式」を発行する、といった設計が行えます。




種類株式9種の概要

会社法108条1項で認められる種類株式は9類型です。それぞれの権利の方向性を整理すると次の通りです。

剰余金配当優先・劣後株式

他の株式より先に、または後に配当を受ける順位を定めた株式です。優先配当株式では、あらかじめ定めた配当額を優先的に受け取り、未払いの場合は繰り越される設計も可能です。安定収益を求める投資家と相性が良い一方、会社側は配当負担を見通しやすいという利点があります。

残余財産分配優先・劣後株式

会社が解散・清算するときに残った財産を分配する順序を調整する株式です。清算価値に着目する投資家にとって、自己のリスクを把握しやすくなるメリットがあります。

議決権制限株式

株主総会の決議事項の全部または一部に関して議決権を行使できない株式です。経営に口を出さない代わりに配当条件など経済的メリットを重視したい投資家を招き入れたい場面で利用されます。議決権を制限する分だけ株価評価を抑えられる点も資金調達の柔軟性を高めます。

譲渡制限株式

株式の譲渡に会社の承認を要する株式で、非公開会社や持株比率を維持したい場合に導入されます。譲渡制限を新設するときは種類株主総会の特別決議が必要で、反対株主には株式買取請求権が発生します。

取得請求権付株式

株主が会社に対して株式を買い取るよう請求できる権利を備えた株式です。株主は出口戦略を確保でき、会社は分配可能額の範囲で自社株を取得します。ベンチャー投資家がリスクを抑えたいときに用いられます。

取得条項付株式

会社が定款で定めた一定の事由(株式公開や特定イベントの発生など)が起こった場合に、会社が自ら株式を取得できる株式です。取得対価が金銭の場合は株主の地位が消滅し、株式や他の財産の場合は転換します。

全部取得条項付株式

株主総会の特別決議により、会社がその種類株式の全部を取得できる株式です。MBOや完全子会社化、少数株主の整理などで活用されます。対価は現金や普通株式など柔軟に設定できます。

拒否権付株式(黄金株)

特定の議題について、この種類株主総会の決議を要件に加えることで実質的な拒否権を与える株式です。友好的買収を前提とした経営権防衛や一定期間だけ創業者の影響力を残したい場合などに使用されます。

役員選任権付株式

取締役や監査役の選任を特定株主が単独で決定できる株式です。ベンチャーキャピタルが取締役を送り込みたいケースや、引退する創業者が経営監督権限を残したいケースで設計されます。ただし、非公開会社でしか発行できません。

メリットとデメリット

ここでは会社側と株主側、それぞれの立場から種類株式導入の可否を考える際のポイントを整理します。

会社にとってのメリット

  • 資金調達手段の幅が広がり、投資家ごとのニーズに合わせた条件設定が可能。たとえば、安定配当を望む投資家には優先配当株式、ハイリスクハイリターンを求める投資家には取得請求権付株式などを組み合わせることで、同一ラウンドでも柔軟な資金調達が行える。

  • 後継者への議決権集中や経営権維持が図りやすい。議決権制限株式や拒否権付株式を適切に設計すれば、持株比率を下げずとも支配権を保持でき、敵対的買収防衛や創業者ビジョンの継承にも役立つ。

  • 取得請求や取得条項を活用すると自社株買い・将来の再編を計画的に行える。株式公開、MBO、グループ再編など出口戦略を条項で規定することで、タイムリーな株主整理が可能となり、手続コストを抑えられる。

  • 配当政策や残余財産分配の順位を調整することで、利益還元と内部留保のバランスを最適化できる。結果として財務体質の安定性が高まり、金融機関からの信用度向上や格付け改善にも寄与する。

会社にとってのデメリット

  • 種類株主総会の開催や定款変更など管理コスト・実務負担が増大。特に優先配当株式では累積未払配当の計算・開示義務が発生し、会計システムの改修を要する場合がある。

  • 株主構成が複雑化し、意思決定やIR資料の作成が煩雑になる。投資家ごとに異なる権利内容を説明するため、ディスクロージャー資料や契約書が長文化し、法務コストが上がる。

  • 条項の設計が不適切だと、将来の上場審査や第三者割当増資で金融機関や証券取引所の承認を得られず、機動的な資金調達機会を逃すリスクがある。

株主にとってのメリット

  • 投資目的に沿ったリターン・リスク設計の株式を選択できる。リスク許容度が低い投資家は優先配当・残余財産優先株式を取得しやすく、ハイリスク志向の投資家は譲渡制限のない普通株式でキャピタルゲインを狙える。

  • 拒否権や優先配当など、交渉力を確保しやすい。株主は重要議案に対する拒否権を得ることで経営に影響力を持ち、EXIT時には取得請求権で公正な価格による売却を実現できる。

  • 株価評価が種類ごとに異なるため、同額出資でも権利内容に応じて希望のリターンプロファイルを実現しやすい。

株主にとってのデメリット

  • 権利行使の条件を正確に把握する必要があり、理解コストが高い。条項の解釈や優先順位を誤ると、想定通りの配当や議決権行使ができないケースがある。

  • 無議決権株式などは普通株と比べ市場での流動性が下がる場合がある。特に非公開会社では買い手が限定されるため、取得請求権が無い場合には売却出口が狭まる。

  • 権利内容が複雑な株式は金融機関の担保評価が低くなり、資金調達や個人保証の解除に不利に働くことがある。

導入手続と注意点

種類株式を実際に発行するには、定款変更と株主総会決議が不可欠です。まず、発行可能な種類株式の内容や発行総数を定款に盛り込み、株主総会の特別決議(出席株主の議決権3分の2以上)で承認を得ます。非公開会社で新株を発行する場合も同様に特別決議が必要です。既存の普通株式を種類株式へ転換する場合は、原則としてその普通株式を保有する株主全員の同意が求められます――特に全部取得条項や譲渡制限を一斉に付す場合などは決議要件が変わるため、事前に手続を整理することが大切です。

導入の基本的フロー

種類株式を初めて導入する場合、実務上は次の四つのステップを踏むのが一般的です。

1.定款変更案の作成

発行できる種類株式の名称、具体的権利内容、発行可能株式総数を条文に追加します。

2.種類株式発行会社である旨の登記

定款変更後、法務局で「種類株式発行会社」であることを登記し、外部に公示します。

3.新株発行または既発行株式の転換

新株発行には株主総会特別決議、転換には原則として対象株主全員の同意が必要です。

4.発行済株式数などの登記事項変更

発行済株式の種類・数、転換比率などを登記簿に反映させ、最新情報を維持します。

種類株式の内容を後から変更する場合

一度発行した後に権利内容を見直すときは、

  • 定款変更(株主総会特別決議)

  • 種類株主総会での特別
  • 種類株主総会での特別決議

         変更が当該種類株式だけでなく他株式にも影響する場合、各株主区分ごとに種類株主総会を開催し、それぞれで             特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上)を得る必要があります。

         決議を省略できないため、スケジュール調整や議案説明資料の整備など、準備期間を十分に確保しましょう。

事業承継での活用

中小企業の事業承継では、経営を託す後継者と経営に関与しない相続人の利害を調整することが不可欠です。種類株式を組み合わせれば、議決権を後継者に集中させながら利益配分の公平性を保つことができます。

議決権集中スキームの例

  1. 後継者に普通株式または拒否権付株式を渡す
  2. 他の相続人には無議決権の優先配当株式を渡す

この構成により、重要な経営判断は後継者が迅速に行い、配当は家族全体で享受する――というバランスを実現できます。

税負担の軽減効果

議決権制限株式や無議決権株式は、株価算定上ディスカウントが適用されるため、贈与税・相続税評価額を抑えられる点も大きなメリットです。ただし、ディスカウント率が高すぎると株主間の不公平感を生む可能性もあるため、税務とガバナンスの両面から丁寧な設計が求められます。

全部取得条項付株式の活用

創業者が退任するタイミングで会社が自己株式として引き取る設計を採れば、事前に承継後の持株比率を調整でき、意思決定がシンプルになります。MBOや相続開始時の株主整理にも応用可能です。

資金調達での活用

成長企業が外部投資家から資金を獲得する際、種類株式は「経営権の希薄化を抑えつつリスクマネーを呼び込む」ための有力な手段です。

議決権制限株式で経営権を守る

議決権を制限した株式を発行すると、外部株主を迎えても取締役選任等の重要議案で既存経営陣の意思決定が揺らぎません。特にスタートアップでは、シリーズA以降も創業者が成長戦略を主導するために用いられます。

優先株式で投資家に安定配当を提供

配当優先条項を付した株式は、キャッシュフローが安定した段階で投資家へ確定的なリターンを示せるため、資金調達コストを下げる効果があります。累積配当条項を組み込めば、配当未達分を将来年度に繰り越すことも可能です。

取得請求権付株式で出口戦略を確保

投資家が一定時点で会社に株式買い取りを請求できる条項は、上場やM&Aが想定より長期化したときのセーフティネットになります。会社は分配可能額の範囲で買い取る義務を負いますが、株価算定方法をあらかじめ定めておけば資金計画を立てやすくなります。

属人的株式との比較

属人的株式は、株主ごとに異なる配当・残余財産分配・議決権を定める制度であり、株式そのものではなく「株主属性」に応じて権利が変わる点が種類株式と大きく異なります。

属人的株式の概要

  • 非公開会社(全株式に譲渡制限がある会社)でのみ導入可能
  • 定款に定めるだけで発行でき、登記は不要
  • 株式を譲渡すると属人的定めは新株主には及ばない

違いと使い分け

比較項目種類株式属人的株式
権利の帰属単位株式の種類株主個人
公示方法登記簿に記載定款でのみ確認
発行会社要件公開・非公開を問わず可非公開会社に限定
譲渡時の効果権利も新株主へ移転特別取扱いは消滅

属人的株式は発行コストが低く外部からは見えにくいという利点がありますが、株式の譲渡で効力が失われるため、長期にわたって経営権を保護したい場合は種類株式のほうが適しています。短期的に特定株主へインセンティブを与えたいときは属人的株式、恒常的な資本政策には種類株式――という使い分けが現実的です。

属人的株式の注意点

  • 株主権を自由に設計できる反面、無秩序な権利設定は紛争の火種となる
  • 定款確認が必須で外部投資家への情報開示負担が増える
  • 株式譲渡で特別取扱いが失われるため、相続やM&Aでの継続性に欠ける

具体例で理解する事業承継設計

ここでは「創業家三兄妹」のケースを例に、種類株式を活用した設計をイメージしてみましょう。

  • 長男:現社長で後継者。議決権を確保し、今後も経営を主導したい。

  • 長女:医師として独立しており、経営には携わらないが会社の成長を応援したい。

  • 次男:海外在住で会社には関与しないが、相続財産としての株式価値に期待している。

この場合、長男には普通株式と拒否権付株式を合わせて65%、長女と次男には無議決権優先株式を17.5%ずつ交付する設計が考えられます。長男が経営判断を迅速に行い、利益は三兄妹へ配分されるため、権利内容とリターンのバランスが取れます。さらに、優先株式の配当利回りを3%で固定しておけば、安定収入を望む長女・次男のニーズに応えられます。

承継後も続く管理実務

種類株式を発行すると、株式ごとに配当順位の計算や株主名簿の区分管理が必要になります。特に優先配当が累積する設計では「未払優先配当残高」を個別に把握する帳簿を設けるケースが多く、経理部門には追加の事務負担が生じます。導入段階で管理フローを整え、会計システムの補助科目設定や議決権台帳のフォーマットを用意しておくとスムーズです。

失敗事例に学ぶ注意ポイント

  • 優先配当株式の配当水準を高く設定し過ぎ、業績悪化時に分配可能額が不足してしまった
  • 取得請求権付株式の買取価格を「直前期の簿価」としたため、投資家との認識ギャップが生じ紛争化した
  • 全部取得条項付株式を付しながら定款の手当てを漏らし、登記後に効力の有無を巡ってトラブルになった

資金調達フェーズ別の種類株式選択

フェーズ調達目的適した種類株式主な理由

シード試作品開発費の確保議決権制限株式経営権握ったまま少額資金を受ける

アーリーユーザー獲得・人材採用優先配当+取得請求権付株式投資家の下方リスクを限定

ミドルシェア拡大・M&A資金取得条項付株式IPOやM&A時に種類統一しやすい

レイター上場前のブリッジ全部取得条項付株式上場直前に普通株へ整理

属人的株式の作成手続とコスト感

属人的株式を導入する際は、定款に「●●株主の議決権は1株につき10個とする」といった属人的定めを明記します。変更決議は総株主数の過半数かつ議決権の4分の3以上という高いハードルがあるため、合意形成が難しければ種類株式で代替する方が実務的です。もっとも、登記が不要で登録免許税や公告費用がかからないため「一時的な株主構成の調整」でコストを抑えたいシーンでは有効です。

属人的株式と種類株式を並存させる場合の留意点

  • 定款の条文順を「種類株式→属人的株式」の順に整理し、権利順位を明確化
  • 種類株主総会と属人的株主総会を同日に開催する場合、議案説明資料で双方の関係を図示
  • 株式事務を委託する信託銀行や証券会社に条文全文を提供し、権利執行時のオペレーションを共有

同一企業で複数スキームを併用するとドキュメントも複雑になりますが、要件をチェックリスト化しておくだけで実務負担は大幅に軽減できます。

ケーススタディで理解する属人的株式の活用

ある非公開会社では、創業家が経営を続ける間だけ創業者に拒否権的な権利を付与し、事業承継完了後にその効力を消滅させる目的で属人的株式を利用しました。種類株式では権利が株式に付随するため譲渡先にも残存してしまいますが、属人的株式なら「株主が変われば権利も消滅」するため、期間限定の経営権保護に適していました。

以上の通り、種類株式と属人的株式は「資本政策とガバナンスを同時に設計できる日本独自の柔軟な制度」です。制度趣旨を正しく理解し、会社のライフサイクルに合わせて拡張・縮退できる設計を行うことが、長期的な企業価値向上につながります。

まとめ

種類株式は資金調達や事業承継、経営権の維持を柔軟に実現できる便利な制度です。手続と管理負担を理解し、定款設計と株主合意を緻密に組み立て、専門家と連携しながら活用しましょう。みつき税理士法人グループでは無料相談を承っています。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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