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食品業界のM&A戦略と課題を最新事例から解説

食品業界でM&Aを考えていますか?本記事では市場規模や課題、動向、メリット・デメリット、成功事例まで網羅的に解説し、スムーズな譲受・譲渡を実現するポイントをお伝えします。

目次:

  1. 食品業界とはその役割と範囲
  2. 外部環境と市場規模の現状を把握する
  3. 食品業界が直面する4つの課題
  4. 食品業界のM&A動向を読み解く
  5. 買い手と売り手それぞれのM&Aメリットを整理
  6. 食品業界M&Aデメリットと対策
  7. 食品業界M&A成功事例に学ぶポイント
  8. M&Aプロセスと税理士法人の活用メリット
  9. 食品業界M&Aを検討する経営者へのアドバイス
  10. まとめ

食品業界とはその役割と範囲

食品業界は、原材料を仕入れ、工場で加工し、飲料や食料品として販売して利益を得る産業です。畜産食料品や水産食料品、缶詰、調味料、糖類、製粉、パン・菓子、動植物油脂などを製造する事業者が該当します。味の素、日本ハム、明治ホールディングス、森永乳業などの大手企業が代表例です。

ここでは、業界の流通構造、安全性への配慮、原料依存度、季節変動、賞味期限対応といった特性を整理しつつ、食品製造に携わる譲渡企業・譲受企業双方がどのような経営判断を迫られているのかを確認します。

仲介者の多い流通構造がコストと連携を左右する

食品製造業界では加工業者、卸売業者、小売業者、飲食店など多くの事業者が関わります。複数の仲介者を経由することで製品が消費者に届くため、各段階でコストとリードタイムが発生します。特に譲受を検討する企業にとっては、流通ネットワークをどのように効率化するかが重要な検討事項となります。

安全性への配慮はブランド信頼を支える必須条件

消費者が口にする食品の安全性は最優先事項です。異物混入や病原菌の発生は、信用失墜につながります。製造ラインの衛生管理や検査体制にはコストがかかりますが、譲渡後も維持することでブランド信頼を守り、長期的な売上を支えることができます。

原料を輸入に依存するリスクと対応

日本の食料自給率は低く、多くの原料を海外から調達しています。海外依存は資金流出だけでなく、長距離輸送による賞味期限の短縮リスクを伴います。為替変動や国際情勢による価格変動も大きく、在庫管理や調達先の分散が欠かせません。

季節変動が生産計画と人員配置に影響する

農畜水産物は季節や作況によって収穫量が変わります。食品製造企業は、需給変動に合わせて生産量やスタッフ数を柔軟に調整する必要があります。人件費や設備稼働率の最適化は、低利益率のビジネスモデルを支える鍵となります。

賞味期限設定と表示基準への対応が複雑化

消費者庁の食品表示基準では、賞味期限や消費期限の設定は企業自身が科学的に行うよう求められています。基準は詳細に定義されていないため、各社がテストや検証を通じて期限を設定する必要があります。譲受企業は、対象企業が持つノウハウや検査体制を正確に把握し、統合後に品質基準を統一することが求められます。


出典:第166回 食品・農林水産業界(マールオンライン)

外部環境と市場規模の現状を把握する

2021年度の食品製造業売上高は41兆6,385億円で前年度比1.2%減でしたが、営業利益率は2.9%と26.1%増加し、縮小傾向から持ち直しの兆しが見えています。売上高上位企業の多くが2021~2022年度に増収を達成しており、市場全体としては緩やかな回復局面に入っています。

一方で、海外製品の輸入拡大は国内メーカーの競争環境を厳しくしています。飲食業は直接の競合となりにくいものの、価格競争やブランド力では海外メーカーとの比較が避けられません。海外原料依存度の高さはコスト面の負担につながり、為替リスクを伴います。

国内市場縮小と高齢化が需要構造を変える

日本では人口減少と少子高齢化が進行し、一人当たりの食品消費量が減少傾向にあります。また、共働き家庭や単身世帯の増加により、自炊の機会が減り、簡便食品や外食サービスの利用が拡大しています。こうしたライフスタイルの変化は、新製品開発や販売チャネルの多角化を迫る要因です。

海外市場戦略と輸入競合のバランス

国内需要の頭打ちを補うため、多くの食品製造企業が海外展開を進めています。輸出や現地生産は売上拡大の機会となる一方で、輸入食品との競争激化という課題も生じます。譲受を通じて海外ネットワークを取り込む動きは、リスク分散と成長加速の両面で有効です

食品製造業界が直面する4つの課題

食品製造企業は低利益率構造と原価高騰に直面しています。加えて、人口減少や自炊機会の減少が市場規模を縮小させています。ここでは、業界全体が抱える課題を確認し、その克服に向けたM&Aの可能性を考えます。

低利益率と価格競争の激化

大量生産・大量消費によるコスト削減モデルは、他社との価格競争を招きます。差別化が難しいために利益率が低下しやすく、収益力の向上が課題です。

原料費・人件費・物流費の高騰

急激な資源価格の変動や物流網の混乱は、食品製造企業の経営を圧迫しています。特に冷蔵・冷凍食品を扱う場合、エネルギーコストが大きく増加する点が無視できません。

後継者不足と事業承継問題

中小規模の食品製造企業では経営者の高齢化が進み、後継者不在が深刻です。早期の承継体制構築が求められています。

SDGsへの対応と食品廃棄削減

SDGsへの意識が高まり、食品ロス削減や環境配慮型生産への転換が急務となっています。工程自動化やリサイクル技術の導入を進めるには投資負担が伴いますが、M&Aにより技術を持つ企業を取り込む手法が注目されています。

食品業界のM&A動向を読み解く

食品業界では、水平統合と垂直統合の両面でM&Aが活発化しています。成熟した中小メーカーが大手に譲渡するケースや、卸売・商社・小売が製造部門を取り込む動きが目立ちます。さらに、バイオテクノロジーやフードテック分野への投資も進み、多角化・国際化を狙う企業が増えています。

水平統合で製品ライン強化と効率化を図る

同業者間での譲受は、生産規模拡大によるコスト削減や技術融合を通じ、新製品開発を促進します。市場が縮小するセグメントでは、経営資源を集約し競争力を維持する再編が進んでいます。

垂直統合でサプライチェーンを内製化する

卸売業者や商社、小売企業が製造企業を譲受し、プライベートブランドの開発力向上や物流効率化を狙う動きも活発です。原材料調達から製造、販売までをグループ内で完結させることで、リードタイム短縮と収益性向上を実現します。

成長分野を取り込む投資ファンドと総合商社の活躍

バイオテクノロジーやアグリテックなど成長期待の高い分野では、投資ファンドや総合商社が資本参加し、経営支援を行う事例が増加しています。これにより、従来型製造企業も先端技術を取り込み、競争優位を築くことが可能になります。めることができます。綿密な計画、適切な交渉、そして効果的なPMIの実施が、M&A成功の鍵となります。

M&A活発化を後押しする4つの追い風

現在、食品製造業界でM&Aが盛り上がる理由として以下が指摘されています。

  • 同業他社の多角化参入
  • 海外進出の加速
  • 異業種からの新規参入
  • 生産性向上の遅れ

これらはいずれも、譲渡企業・譲受企業双方にとって市場拡大と事業選択の好機となります。また、少子高齢化や後継者不足といった構造的課題に対応する手段としてもM&Aが選択される傾向にあります。

消費者ニーズ変化への迅速対応が鍵

健康志向やサステナビリティ志向の高まりは、新製品の開発スピードを早める要因です。譲受により既存ブランドや研究開発力を獲得すれば、消費者トレンドに迅速に応える体制を構築できます。これは参考資料で示された「消費者の嗜好変化対応」に合致します。

食品安全規制をクリアする設備体制の統合

食品安全や品質管理に関する規制は厳格です。譲渡前後で基準を満たす設備や検査フローを共有し、グループ全体で統一することで、法令順守コストの削減とブランド信頼向上の両立が図れます。参考資料にある「譲受企業状況による追加投資リスク」を低減するポイントになります。

デューデリジェンスで確認すべき5つの項目

  • 品質管理体制
  • 食品表示基準への対応記録
  • 原料調達契約と価格変動リスク
  • 労働安全衛生と従業員教育の履歴
  • ブランドイメージに関わる過去のリコール・事故情報

M&Aを通じたSDGs対応と食品ロス削減

工程自動化やリサイクル技術を既に導入している企業を譲受することで、食品廃棄物削減のノウハウを短期間で獲得できます。SDGs時代において環境対応は企業価値を高める要素となりうるため、M&A戦略で優先度を上げる企業が増えています。

海外展開成功のポイントを共有

海外展開では、現地の食習慣や規制を踏まえた商品開発が不可欠です。例えば、味付けやパッケージ表示を現地仕様に合わせることで販売機会が広がります。譲受企業が保有する現地ネットワークや流通ノウハウは、スムーズな市場浸透に直結します。現地工場を保有する譲渡企業を取り込むことが出来れば、関税や輸送コストの削減にもつながり、収益性を高められます。

ブランド信頼を守る統合後のコミュニケーション

統合後は従業員や既存取引先に対して方針を明確に伝え、品質維持への取り組みを発信することが不可欠です。これにより、企業文化の違いによる混乱を防ぎ、顧客離れを最小限に抑えられます。

買い手と売り手それぞれのM&Aメリットを整理

食品業界ではスケールメリットや技術移転効果が大きいため、譲受企業・譲渡企業の双方に多面的な利点があります。ここでは代表的なメリットを具体例とともにまとめます。

譲受企業のメリットは事業拡大とリスク分散

  • 既存ブランドや製品ラインを獲得し、新市場へ短期間で参入できる
  • 譲渡企業の研究開発力や製造技術を取り込み、商品開発期間を短縮できる
  • 原材料共同購買により仕入コストを削減し、価格競争力を高められる
  • 販路や流通網の統合で物流効率を高め、納期短縮と在庫圧縮を実現できる
  • 海外ネットワークを得ることで、為替リスクを分散しつつ新興国需要を取り込める

譲渡企業のメリットは安定経営と成長機会の確保

  • 大手グループに参入することで資金調達力が向上し、研究開発や設備投資を加速できる
  • 後継者不足を解消し、従業員の雇用を守りつつ企業価値を維持できる
  • 選択と集中により非中核事業を切り離し、主力事業へ経営資源を集中できる
  • 親会社の海外販路を活用し、国内成熟市場を補完する売上を確保できる

食品業界M&Aデメリットと対策

メリットが大きい一方で、譲受企業・譲渡企業は統合後に生じるリスクを軽減するための準備が欠かせません。

譲受企業のデメリットと解決策

  • 品質管理水準の差による追加投資リスク 
    →事前デューデリジェンスで設備更新費を試算し、買収価額に織り込む

  • 従業員や取引先の関係維持コスト  
    →PMIチームを編成し、統合計画やコミュニケーション施策を早期に提示する

  • ブランドイメージ毀損の恐れ  
    →譲渡企業の過去のリコール履歴やクレーム情報を洗い出し、再発防止策を共有する

譲渡企業のデメリットと解決策

  • 統合後の経営方針変更による従業員離職
    →譲受企業と協議し、待遇や職務内容を明確にしてからクロージングする

  • 取引先や顧客の不安による売上減少 
    →M&Aの目的と今後の供給体制を説明し、信頼関係を維持する

  • 企業文化の違いによる摩擦
    →双方の価値観を尊重し、段階的な制度統合とジョブローテーションを採用する

食品業界M&A成功事例に学ぶポイント

具体的な事例を通じて、効果的な統合シナリオとリスク管理手法を確認します。

ダスキンが蜂屋乳業を譲渡し選択と集中を実践

ダスキンは清掃事業に経営資源を集中するため、アイスクリームOEM子会社の蜂屋乳業を持株会社バンリューへ譲渡しました。譲渡企業は非中核事業から撤退し、譲受企業はOEM製造力を獲得してグループ全体の製品ポートフォリオを拡大しました。

三井物産が五洋食品産業を子会社化し海外展開を加速

三井物産はフローズンスイーツメーカー五洋食品産業を譲受し、東南アジアを中心に海外販路を強化しました。商社のグローバルネットワークとメーカーの製造技術を融合し、海外現地仕様の新商品を投入することでシナジーを創出しています。

三光マーケティングフーズが海商事業を取得しシナジー追求

飲食店経営と水産業を手掛ける三光マーケティングフーズは、小売業を営む海商の全事業を取得しました。水産加工から小売までを一気通貫で担う体制を構築し、鮮度管理と価格競争力を高めています。

フジッコがフーズパレットを買収し惣菜事業を強化

健康志向食品で知られるフジッコは、中華惣菜メーカーのフーズパレットを譲受しました。惣菜セグメントのラインアップを拡大し、女性や高齢者向けのヘルシーメニューを開発することで付加価値を高めています。

M&Aプロセスと税理士法人の活用メリット

食品製造業のM&Aは品質・税務・労務など多岐にわたる専門性が必要です。税理士法人グループが伴走することで、統合効果を最大化できます。

戦略設計からクロージングまで専門家が伴走

M&Aアドバイザリー、弁護士、公認会計士が協働し、目的設定、ターゲット選定、バリュエーション、契約交渉、クロージングを一気通貫で支援します。

税務デューデリジェンスでリスクを可視化

設備投資減価償却や在庫評価、移転価格税制など製造業特有の税務リスクを事前に洗い出し、適正な譲受価額を算定します。

PMIで統合効果を最大化

クロージング後は品質基準統一、人事制度整備、原材料共同購買のスケジュールを策定し、100日プランでモニタリングします。

食品業界M&Aを検討する経営者へのアドバイス

最後に、譲渡企業・譲受企業が円滑なM&Aを進めるためのチェックポイントを整理します。

自社の課題と目的を明確化する

売上拡大かコスト削減か、海外展開か後継者対策か、目的を絞り込むことで譲受先・譲渡先の選定精度が高まります。

早期準備が企業価値を高める

財務諸表の整備、内部統制構築、品質管理記録の整備を早期に行うことで、デューデリジェンス時の指摘事項を減らせます。

専門家との連携で成功確度を上げる

税理士法人と連携し、税務リスクの早期発見やスキーム設計を行うことで、想定外の費用負担を回避できます。

従業員と取引先への丁寧な説明が信頼を守る

M&A目的と統合後の方針を説明し、雇用や供給体制が継続することを示すことで、モチベーション低下や取引停止を防ぎます。

まとめ

食品製造業界のM&Aは、市場縮小やコスト高騰、後継者不足といった課題を一挙に解決しつつ、成長分野へ挑戦できる有効な選択肢です。譲受企業・譲渡企業双方がメリットとリスクを把握し、専門家と協働して準備を進めることで、統合効果を最大化し持続的発展を実現できます。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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