居酒屋業界におけるM&Aの現状と戦略を詳しく解説します。需要減少時代の経営課題、M&Aの目的、価格設定の方法、成功のポイントなど、実例を交えて紹介します。M&Aを検討中の経営者必見の情報が満載です。
目次
居酒屋は、日本独自の飲食文化を代表する施設です。主にアルコール飲料を提供しながら、食事も楽しめる場所として広く親しまれています。
居酒屋の特徴として、以下のポイントが挙げられます。
1. 多様な形態:大衆的な酒場から立ち飲みスタイル、特色あるコンセプトを持つ店まで、様々なタイプが存在しま
す。
2. カジュアルな雰囲気:気軽に利用できる点が大きな魅力となっています。
3. 豊富なメニュー:お酒に合う多彩な料理が用意されており、食事としても楽しめます。
4. コミュニケーションの場:友人や同僚との交流の場として機能し、日本の社会生活に欠かせない存在となっていま
す。
このように、居酒屋は単なる飲食店以上の役割を果たし、日本の文化や社会に深く根付いた存在だといえます。しかし、近年の社会環境の変化により、居酒屋業界は新たな課題に直面しています。
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
居酒屋業界は、社会環境の変化に伴い、さまざまな課題に直面しています。業界全体の動向を理解することは、今後の経営戦略を考える上で重要です。
近年、企業や組織における宴会の開催頻度が減少しています。この傾向は居酒屋の収益に直接影響を与え、多くの経営者にとって大きな課題となっています。
宴会需要減少の主な要因:
1. 企業の経費削減傾向
2. 働き方改革による残業時間の減少
3. 若者のアルコール離れ
4. オンラインコミュニケーションの普及
また、団体客の急なキャンセルの増加も、居酒屋経営を不安定にする要因となっています。
アルコール自体の需要も減少傾向にあります。国税庁のデータによると、2021年度の成人1人当たりの酒類消費数量は74.3リットルにまで減少しています。
アルコール需要低下の背景:
1. 消費者の低価格志向
2. 健康志向の高まり
3. ライフスタイルの変化
4. 嗜好の多様化
これらの変化に対応するため、居酒屋業界は新たな経営戦略を模索する必要に迫られています。
居酒屋業界では、厳しい経営環境を乗り越えるために、M&A(合併・買収)を選択する企業が増えています。M&Aは、業界の再編や経営改善の手段として注目されています。
同業者同士のM&Aは、業界内での競争力を強化し、事業拡大を効率的に進める手段となります。
M&Aによる競争力強化のメリット:
1. 市場シェアの拡大
2. 経営資源の統合による効率化
3. ブランド力の向上
4. 新規顧客層の獲得
特に居酒屋業界は競争が激しいため、M&Aを通じて競争上の優位性を確立する企業が増加しています。
居酒屋業界では、収益化までの道のりが長く、経営が悪化するリスクが常に存在します。M&Aは、このような状況を改善する手段として活用されています。
M&Aによる経営改善の例:
1. 店舗の評判向上
2. 新しい客層の開拓
3. マーケティング戦略の見直し
4. 経営ノウハウの獲得
M&Aを通じて、経営基盤の強化や収益性の向上が期待できます。これにより、業界全体の活性化にもつながる可能性があります。
居酒屋業界におけるM&Aは、売り手と買い手の双方にメリットをもたらします。それぞれの立場から、M&Aの目的と意義を理解することが重要です。
売り手(売却側)の企業にとって、M&Aは以下のようなメリットがあります:
1. 事業の拡大:自社のブランド力や資金力を活かして、さらなる事業拡大が可能になります。
2. ブランド力の活用:有名企業の傘下に入ることで、その企業が持つブランド力を活用できます。
3. 経営資源の獲得:買い手の持つ経営ノウハウや人材、設備などを活用し、経営の効率化を図れます。
4. 事業継続性の確保:後継者問題の解決や、経営難からの脱却を図ることができます。
買い手(買収側)の企業にとっても、M&Aは様々なメリットをもたらします:
1. 業容拡大:既存の店舗や顧客基盤を一度に獲得し、売上規模を拡大できます。
2. シェア拡大:特定エリアでの市場シェアを拡大し、ドミナント戦略の実施に役立てられます。
3. 新規事業への進出:異なるコンセプトの居酒屋を獲得することで、新たな市場に参入できます。
4. シナジー効果の創出:双方の強みを活かし、相乗効果を生み出すことができます。
このように、M&Aは居酒屋業界において、事業の成長や競争力強化、経営課題の解決など、多様な目的を達成するための有効な手段となっています。
居酒屋のM&Aを成功させるためには、いくつかの重要な留意点があります。これらを適切に考慮することで、M&Aのリスクを最小限に抑え、期待される効果を最大化することができます。
主な留意点:
1. シナジー効果の精査:
o 相手企業とのシナジー(相乗効果)を十分に吟味します。
o 双方の強みが活かせるか、弱みを補完できるかを慎重に検討します。
2. 譲受対象の慎重な選定:
o 譲受対象となる店舗や事業の価値を適切に評価します。
o 立地、顧客層、ブランド力などの要素を総合的に判断します。
3. 収益化までの時間考慮:
o 飲食店は一般的に収益化まで時間がかかることを認識します。
o 中長期的な視点で投資回収計画を立てる必要があります。
4. デューデリジェンスの重要性:
o 財務、法務、人事など多角的な視点から詳細な調査を行います。
o 隠れたリスクや負債がないか徹底的にチェックします。
5. 従業員への配慮:
o M&A後の従業員の処遇や雇用継続について明確な計画を立てます。
o 従業員のモチベーション維持に努めます。
6. ブランドイメージの維持:
o 既存顧客の離反を防ぐため、急激な変更は避けます。
o 両社のブランド価値を損なわないよう慎重に統合を進めます。
これらの点に注意を払いながら、M&Aを進めることで、成功の可能性を高めることができます。専門家のアドバイスを受けながら、慎重に検討を重ねることが重要です。
居酒屋のM&Aにおいて、適切な取引価格の設定は非常に重要です。価格が高すぎれば買収側の負担が大きくなり、低すぎれば売却側の利益が損なわれる可能性があります。適切な価格設定のために、市場の相場観と具体的な決定方法を理解する必要があります。
居酒屋のM&A取引相場は、事業の規模やブランドの知名度などによって大きく異なります。
1. 個人事業主運営の居酒屋:
o 取引相場:100万円~250万円程度
o 主に小規模な単独店舗が対象
2. 大手企業運営の居酒屋チェーン:
o 取引相場:数億円~数十億円以上
o ブランド力や店舗数により大きく変動
3. 中規模チェーン:
o 取引相場:数千万円~数億円程度
o 地域密着型のチェーン店などが該当
これらの相場は、経済状況や業界動向により変動する可能性があります。
居酒屋のM&A取引価格を決定する際は、以下の要素を考慮します:
1. 財務指標:
o 売上高
o EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)
o 純資産価額
2. 非財務的要素:
o ブランド力
o 店舗数と立地
o 顧客基盤
o 従業員のスキルと経験
3. 将来性:
o 成長potential
o 市場動向
o 競合状況
4. シナジー効果:
o 買収側との相乗効果
o 統合後の効率化余地
5. 類似取引事例:
o 同業他社のM&A事例を参考に
価格決定の具体的な方法:
1. 多角的評価法:複数の評価方法(DCF法、類似会社比較法など)を用いて総合的に判断
2. デューデリジェンスの結果反映:詳細な調査結果を価格に反映
3. 交渉による調整:両者の希望価格を基に交渉を行い、最終的な価格を決定
適切な取引価格の設定は、M&Aの成功に直結する重要な要素です。専門家のアドバイスを受けながら、慎重に検討を重ねることが推奨されます。
居酒屋のM&Aを成功に導くためには、いくつかの重要なポイントがあります。これらを押さえることで、M&Aの効果を最大限に引き出すことができます。
M&Aを成功させるためには、まず自社の強みを明確に理解し、アピールすることが重要です。
1. 独自性の把握:
o メニューや価格帯など、自店舗の特色を明確にします。
o 他店との差別化ポイントを洗い出します。
2. 顧客ニーズの理解:
o 利用者の価格意識や好みを分析します。
o 立地特性に応じた需要を把握します。
3. 経営戦略の柔軟性:
o 市場の変化に応じて戦略を変更できる能力を示します。
o 新しいアイデアを取り入れる姿勢をアピールします。
4. 従業員のスキル:
o スタッフの専門知識や接客力を評価します。
o チームワークの良さなど、組織の強みを明確にします。
5. 財務健全性:
o 安定した収益構造や成長性を数字で示します。
o コスト管理の効率性をアピールします。
これらの強みを明確にすることで、M&Aの交渉において有利な立場を築くことができます。
M&Aを進める際には、自社にとって譲れない条件を明確にし、交渉に臨むことが重要です。
主な検討ポイント:
1. 役員の処遇:
o 現経営陣の継続起用の有無
o 新たな役職や権限の設定
2. 従業員の雇用維持:
o 雇用継続の保証期間
o 待遇変更の有無
3. 事業やブランドの継続:
o 店舗名やコンセプトの維持
o メニューや価格帯の継続性
4. 経営の自由度:
o 意思決定権限の範囲
o 報告義務の内容と頻度
5. 資金調達や投資の方針:
o 設備投資の決定権
o 新規出店の自由度
6. シナジー効果の具体化:
o 共同仕入れや人材交流の範囲
o 技術やノウハウの共有方法
これらの条件を事前に整理し、優先順位をつけておくことで、交渉を効果的に進めることができます。ただし、相手企業との Win-Win の関係構築を目指すため、柔軟な姿勢も必要です。
合理的な主張と適切な交渉を通じて、双方にとって価値のあるM&Aを実現することが重要です。
M&Aを成功させるためには、適切な専門家のサポートが不可欠です。相談先の選び方によって、M&Aの進め方や結果が大きく変わる可能性があります。以下では、主な相談先とその特徴を解説します。
M&A仲介会社は、M&Aの全プロセスを一貫してサポートする専門家集団です。
特徴:
1. 豊富な経験と専門知識
2. 幅広いネットワークを活用した案件紹介
3. 中立的な立場での助言
4. 最新の業界動向や市場情報の提供
選ぶ際のポイント:
• 居酒屋業界での実績
• 手数料体系の透明性
• コミュニケーション能力
• 提案の具体性と実現可能性
公的機関も、M&Aに関する相談を受け付けています。特に中小企業向けのサポートが充実しています。
主な機関:
1. 事業引継ぎ支援センター
2. 中小企業基盤整備機構
3. 地域の商工会議所
特徴:
• 低コストでの相談が可能
• 地域密着型のサポート
• 公平・中立な立場での助言
• 専門家の紹介サービス
活用のコツ:
• 初期段階での情報収集に適している
• 地域の特性を踏まえたアドバイスが得られる
税理士や弁護士などの士業専門家も、M&Aにおいて重要な役割を果たします。
主な専門家:
1. 税理士:税務面のアドバイス
2. 弁護士:法務面のサポート
3. 公認会計士:財務デューデリジェンス
4. 中小企業診断士:経営全般の分析
特徴:
• 専門分野における深い知識と経験
• 個別の課題に対する具体的な解決策の提示
• 法律や会計制度の変更への迅速な対応
選ぶ際のポイント:
• M&A案件の経験値
• 居酒屋業界への理解度
• 他の専門家とのネットワーク
多くの場合、これらの専門家が連携してサポートを行うことで、より効果的なM&Aが実現できます。自社の状況や課題に応じて、適切な相談先を選択することが重要です。
居酒屋業界では、近年多くのM&A事例が見られます。これらの実例を分析することで、M&Aの傾向や成功のポイントを学ぶことができます。以下では、いくつかの代表的な事例を紹介します。
概要:
• 時期:2019年12月(株式取得)、2020年3月(子会社化)
• 目的:海外事業の拡大、ブランド強化
ポイント:
• 既存の外食事業との相乗効果を期待
• 海外市場(ハワイ)への本格的な進出
• 和食レストランの運営ノウハウの獲得
概要:
• 時期:2023年1月
• 対象:「やきとり大吉」の運営会社
ポイント:
• 異なる業態(焼き鳥)の獲得によるポートフォリオ拡大
• 両社の強みを活かしたシナジー効果の創出
• 規模の経済による効率化
概要:
• 時期:2019年5月
• 形態:株式譲渡による子会社化
ポイント:
• 「SFPフードアライアンス構想」の一環
• 独自ブランドの育成支援
• 広域展開のサポート
概要:
• 時期:2018年10月
• 形態:株式の87.8%取得
ポイント:
• 酒類販売大手による居酒屋チェーンの買収
• 運営店舗数の確保による規模の拡大
• 酒類販売との相乗効果を狙う
これらの事例から、以下のような傾向や成功のポイントが見えてきます:
1. 異業種からの参入:酒類販売業など、関連業種からの参入が見られる
2. 海外展開:国内市場の縮小を見据え、海外市場への進出を図る
3. ブランドの多様化:異なる業態やコンセプトの店舗を取り込み、リスク分散を図る
4. シナジー効果の重視:既存事業との相乗効果を重視した買収が多い
5. スケールメリットの追求:店舗数の拡大による効率化を目指す
居酒屋業界におけるM&Aは、厳しい経営環境を乗り越えるための重要な選択肢となっています。競争力の強化や経営改善、事業拡大などの目的で活用されており、適切に実施することで大きな効果が期待できます。成功のカギは、自社の強みの明確化、慎重な条件設定、適切な相談先の選択にあります。実例から学びつつ、専門家のサポートを受けながら戦略的にM&Aを進めることが重要です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事