親族内承継の意味、メリット・デメリット、自社株の移し方、税金・相続・個人保証の注意点を中小企業オーナー向けに解説します。後継者がいる場合もいない場合も、M&A(合併・買収)を含めて会社を残す実務ポイントを整理します。
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▶目次ページ:親族内承継(親族内承継とは)
親族内承継とは、経営者の子ども、配偶者、孫、兄弟姉妹、娘婿などの親族に会社の経営を引き継ぐ事業承継の方法です。中小企業では昔から身近な選択肢でした。
ただし、今は「子どもが継ぐのが当然」とは言い切れません。少子化、都市部への就職、価値観の変化、個人保証への不安などにより、親族内承継は以前より難しくなっています。2024年の調査でも、同族承継の割合は約3割となり、内部昇格やM&Aなど親族外の承継が増えています。
親族内承継の後継者は、長男や長女に限られません。次男、娘、配偶者、孫、兄弟姉妹、甥や姪、養子が候補になることもあります。大切なのは血縁の近さではなく、会社を引き受ける意思と、経営者として育つ見込みがあるかです。
「親族だから分かってくれるだろう」と考えると、後で行き違いが起きます。会社を継ぐことは、役職を受け取るだけではありません。従業員の生活、借入金、取引先との関係、株式の税金まで背負うことになります。
親族内承継が合いやすいのは、後継者候補が事業に関心を持ち、社内外から一定の理解を得られる会社です。地域密着の会社、創業家への信頼が強い会社、長期の取引先が多い会社では、親族への承継が自然に受け入れられやすいことがあります。
一方で、事業の先行きが厳しい、借入金が重い、親族間の関係が悪い、後継者が遠方で別の仕事をしている場合は、早めに別の承継方法も比べるべきです。ここで判断が遅れると、承継準備そのものが止まります。
親族内承継で失敗しやすいのは、「株式を渡せば完了」と考えてしまうことです。実務では、経営権、財産、知的資産、保証、家族関係を同時に整理する必要があります。
経営権とは、会社の重要な意思決定を行う力です。代表取締役の交代だけでなく、議決権のある自社株を誰が持つかも関係します。中小企業では、代表者と株主が一致していることが多いため、役職だけ交代しても株式が分散していれば、後継者が思うように経営できないことがあります。
自社株、不動産、機械設備、車両、許認可に関わる資産なども確認します。特に非上場会社の自社株は、現金のように分けにくく、評価額も分かりにくい資産です。業績が良い会社ほど株価が高くなり、贈与税や相続税の負担が問題になります。
経営理念、取引先との信頼、職人の技術、営業の勘どころ、金融機関との関係も重要です。これらは契約書だけでは引き継げません。後継者が現経営者に同行し、取引先との会話や従業員への接し方を見て学ぶ期間が必要です。
中小企業では、現経営者が会社の借入金の個人保証人になっていることが少なくありません。後継者に株式を渡しても、金融機関が保証の交代や解除に応じなければ、現経営者の責任が残る場合があります。親族内承継では、この保証問題が家族の不安になりやすいです。
親族内承継は、情だけで進めると危険です。家族の気持ちを尊重しながらも、会社を続けるための判断軸を先に置く必要があります。
最初に確認すべきことは、後継者候補の意思です。経営者が「いずれ継いでくれるはず」と思っていても、本人は別の人生を考えていることがあります。こういうケースは珍しくありません。
意思確認では、会社の良い面だけでなく、借入金、休日の少なさ、従業員との関係、親族間の調整、将来の業界環境まで伝えます。配偶者がいる場合は、生活への影響も含めて理解を得ることが大切です。
親族内承継では、後継者育成に5年から10年かかることがあります。営業、製造、経理、人事、資金繰り、金融機関対応などを段階的に経験しなければ、社長就任後に判断が止まりやすくなります。
自社だけで育てると、現経営者の考え方をなぞるだけになることがあります。他社勤務、外部研修、業界団体での活動、金融機関との面談同席などを通じて、後継者が外の視点を持つことも重要です。
後継者に自社株を集中させると、他の相続人から不公平に見えることがあります。会社を継がない子どもにとって、自社株は売りにくく、価値も分かりにくい資産です。遺産の多くが自社株である場合は、遺留分への配慮が欠かせません。遺留分とは、一定の相続人に法律上認められる最低限の取り分です。
親族が後継者になると、従業員や取引先から心情的な理解を得やすい面があります。会社の文化や創業家への信頼が残りやすいからです。
ただし、能力や実績が見えないまま社長になると、古参社員の反発や取引先の不安につながります。後継者を早めに社内外へ紹介し、小さな責任から任せることが必要です。
親族内承継では、自社株をどのように後継者へ移すかが大きな論点です。主な方法は、生前贈与、相続、株式譲渡の3つです。どれが良いかは、株価、後継者の資金力、他の相続人との関係、税負担で変わります。
生前贈与は、経営者が生きている間に後継者へ自社株を無償で渡す方法です。早い段階で議決権を移せるため、後継者育成と経営権の移行を並行できます。
一方で、自社株の評価額が高いと贈与税が重くなります。暦年贈与や相続時精算課税を使う選択肢もありますが、相続時精算課税は一度選ぶと原則として暦年課税へ戻れないため、慎重な検討が必要です。2024年以降は相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除がありますが、自社株の評価や相続全体への影響を見ずに選ぶのは危険です。
相続は、経営者の死亡により自社株が相続人へ移る方法です。後継者が株式を買い取る資金を準備しなくてもよい点はメリットです。
しかし、遺言がないと遺産分割協議が必要になり、自社株が複数の相続人に分散するおそれがあります。株式が分散すると、後継者が経営判断をしにくくなります。自社株を後継者に集中させたい場合は、公正証書遺言などを使い、他の相続人への代償金や別資産の配分も検討します。
株式譲渡は、後継者が現経営者から自社株を買い取る方法です。売買なので、後継者が対価を支払う分、他の相続人から見て公平感を説明しやすい面があります。
ただし、後継者にはまとまった資金が必要です。価格が低すぎると、実質的な贈与と見られる可能性があります。現経営者には譲渡益に対する税金が発生するため、売却代金の使い道、納税資金、老後資金まで含めて考えます。
家族関係や株式の分散状況によっては、事業承継信託や種類株式を検討することがあります。事業承継信託とは、株式などを信託の仕組みで管理し、将来の承継先や権利の扱いを設計する方法です。種類株式とは、議決権や配当などの内容が普通株式と異なる株式です。
便利に見える反面、設計を誤ると税務や会社法の問題が起きます。制度ありきで選ばず、家族構成と経営権の安定を見ながら判断します。
親族内承継は、思い立った時点で一気に進めるものではありません。会社、株式、家族、金融機関の順に論点を見える化し、計画に落とし込むことが大切です。
親族内承継の実務では、後継者が決まった後に問題が表面化することがあります。特に多いのは、税金、遺留分、個人保証です。
事業承継税制は、一定の要件を満たす非上場株式について、贈与税や相続税の納税を猶予し、一定の場合に免除する制度です。一般措置では贈与税の100%、相続税の80%が猶予対象となり、特例措置では贈与税・相続税ともに100%が猶予対象となります。
ただし、特例措置を受けるには、特例承継計画の提出や都道府県知事の認定などが必要です。2026年6月時点では、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、特例措置の対象期間は2027年12月31日までとされています。期限や要件は必ず最新情報で確認してください。
自社株を後継者に集中させると、他の相続人の取り分が少なく見えることがあります。特に、自宅や預金より自社株の割合が大きい場合は注意が必要です。
対策としては、公正証書遺言、生命保険の活用、代償金の準備、種類株式、民法上の遺留分に関する特例の検討などがあります。ただし、制度を並べるだけでは解決しません。家族が納得できる説明が必要です。
後継者が会社を継ぐ意思を持っていても、個人保証を引き受けることに不安を感じることがあります。配偶者が反対する理由も、多くはここにあります。
金融機関には、後継者の経営能力、財務改善計画、会社の返済力を示す必要があります。保証解除や保証の見直しを希望する場合は、承継直前ではなく、数年前から金融機関と話し合うべきです。
社内に信頼できる役員や幹部社員がいる場合、従業員承継も選択肢になります。事業内容をよく理解しているため、従業員や取引先の安心感を得やすい点があります。
一方で、株式を買い取る資金や個人保証の問題は残ります。親族内承継と同じく、自社株の評価、金融機関対応、現経営者の退任後の関与を整理する必要があります。
親族にも社内にも後継者がいない場合、M&A(合併・買収)による第三者承継を検討します。会社を廃業せず、従業員の雇用や取引先との関係を残せる可能性があります。
M&Aでは、経営者が保有する株式を買い手企業へ譲渡する株式譲渡がよく使われます。譲渡価格、従業員の処遇、取引先への説明、個人保証の解除、税引後の手取り額を確認しながら進めます。
後継者が決まらないまま時間が過ぎると、廃業が現実味を帯びます。黒字でも、代表者の病気や高齢化をきっかけに事業継続が難しくなることがあります。もったいない話です。
親族内承継、従業員承継、M&A、廃業を同じ土俵で比べると、今やるべきことが見えます。大切なのは、親族に継がせるかどうかではなく、会社の価値を誰にどの形で残すかです。
親族内承継は、家族に会社を残せる有力な方法ですが、後継者の覚悟、自社株の評価、税金、遺留分、個人保証を同時に整理しなければ進みません。準備には5年から10年かかることもあります。親族内で無理がある場合は、従業員承継やM&Aも比較し、会社と関係者にとって現実的な出口を早めに選ぶことが大切です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人