親族内承継の意味や特徴、プロセス、メリット・デメリットを詳しく解説します。3つの主要な承継方法や成功のポイントも紹介し、円滑な事業承継の実現をサポートします。
目次
親族内承継は、事業承継の中でも最も一般的な方法の一つです。この方法では、経営者が自身の子どもや親族に事業を引き継ぐことになります。親族内承継の特徴や重要性について、詳しく見ていきましょう。
事業承継とは、企業の経営者が高齢になった際に、事業の継続性を確保するために行う重要な手続です。特に、上場していない中小企業にとっては、適切な事業承継が行われないと、経営者の死亡による廃業のリスクが高まります。
日本の中小企業の廃業は増加傾向にあり、特に65歳以上の高齢経営者が廃業に追い込まれるケースが目立ちます。企業を存続させるためには、適切な承継者に経営を任せることが欠かせません。
事業承継の重要性
親族内承継は、子どもや親族に経営を引き継がせる方法です。上場企業とは異なり、経営権と所有権を同時に引き継ぐことが可能です。これにより、以下のような利点があります。
1.新しい経営者が会社の株式を引き継ぐことで、経営の監視機能が働きます。
2.経営者の意志が反映されやすくなります。
3.従業員や取引先との関係性を維持しやすくなります。
親族内承継は、事業承継の方法の中で最もポピュラーな選択肢となっています。しかし、適切な準備と計画が必要です。
親族内承継を成功させるためには、長期的な視点で計画を立てることが重要です。以下の理由から、計画的な親族内承継が必要とされます。
1.後継者の育成に時間がかかる:経営に関する感覚や能力は短期間で身につくものではありません。
2.関係者への周知と調整が必要:従業員や取引先などに情報を周知し、受け入れてもらう必要があります。
3.相続人との調整:他の相続人がいる場合は、彼らとの調整も行う必要があります。
4.税制対策の検討:株式の移転に伴う税金の問題を事前に検討し、対策を講じる必要があります。
5.経営権の円滑な移行:段階的に経営権を移行させることで、スムーズな承継が可能になります。
専門家は、親族内承継の準備期間として最低でも10年程度を想定することを推奨しています。「現在は元気だから大丈夫」と考えず、早めに準備を始めることが重要です。
親族内承継を成功させるためには、以下の3つのポイントに注意を払う必要があります:
1.早期の準備と関係者への周知
2.後継者以外の親族に対する配慮
3.個人保証に対する対策
これらのポイントを考慮しながら、親族間での事業承継が円滑に進むよう計画を立てることが、事業の継続や関係者間の良好な関係を築くために不可欠です。
▶目次ページ:親族内承継(親族内承継とは)
親族内で事業承継を進める際の一般的な手順について、詳しく見ていきましょう。
1.後継者の選定と育成
2.自社株の承継方法の検討
3.社内外の関係者への周知
4.自社株承継の実行、経営権の移譲
5.保証や担保の交代
事業承継の際は、後継者に自社株式や事業用資産を集中的に引き継がせることが重要です。議決権の目安は、株主総会で重要事項を決議するために必要な3分の2以上が望ましいです。
ただし、自社株式の集中的な引き継ぎにより、多額の資金が必要となることがあります。専門家と相談しながら対策を考えることが重要です。「除外合意」や「固定合意」といった制度の利用も検討しましょう。
親族内で事業を引き継ぐことには、多くのメリットがあります。主な利点を詳しく見ていきましょう。
1.従業員や取引先との関係維持
2.創業者の安心感
3.早期からの準備が可能
4.柔軟なスキーム設計が可能
5.緊急時の対応力
これらのメリットを活かすことで、親族内承継をより円滑に進めることができます。ただし、メリットを最大限に活かすためには、計画的かつ段階的な準備が不可欠です。早い段階から後継者の育成や権限委譲を行い、実践的な経験を積ませることが重要です。
親族内承継には多くのメリットがある一方で、考慮すべきデメリットやリスクも存在します。これらを理解し、適切に対策を講じることが重要です。
1.親族が継いでくれない可能性
2.能力不足のリスク
3.健康状態悪化による承継の難航
4.相続人間での遺産トラブル
5.準備期間の不足
6.個人保証の問題
7.税金の支払原資の問題
出典:日本商工会議所「事業承継に関する実態アンケート」調査結果
これらのデメリットやリスクを認識し、適切な対策を講じることが重要です。専門家のアドバイスを受けながら、計画的に準備を進めることで、リスクを最小限に抑えることができます。また、親族内承継が難しいと判断した場合は、従業員承継やM&Aなど、他の選択肢も検討する必要があります。
親族内承継を行う際には、主に3つの方法があります。それぞれの特徴や、メリット・デメリットを理解することが重要です。
株式譲渡は、後継者が現経営者から株式を購入する方法です。
メリット:
1.相続トラブルを防ぎやすい
2.資金力が弱い後継者の介入を防げる
デメリット:
1.贈与とみなされるリスク
2.譲渡所得税の発生
株式譲渡を選択する際は、適切な株価評価が重要です。
贈与は、現経営者が後継者に株式を無償で譲渡する方法です。
メリット:
1.株式取得に資金が基本的に不要
2.経営者の意向が反映しやすい
3.節税効果が高い
デメリット:
1.株式譲渡時の税制上の不利益
2.贈与の取り消しが困難
3.制度の金額を超えた場合の高額な税負担
贈与を活用する際は、税制を十分に理解し、計画的に行うことが重要です。また、2024年1月1日より相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が創設されることに注意しましょう。
相続は、経営者の死亡時に法定相続人が株式を取得する方法です。
メリット:
1.株式取得に資金が基本的に不要
2.相続税の基礎控除額が高い
デメリット:
1.承継のタイミングが予測不能
2.相続税負担が予想以上に高くなるリスク
3.遺言書がない場合の遺産分割協議のリスク
相続を通じた承継を検討する場合、効力のある遺言書を事前に作成することが重要です。また、相続税対策も含めた長期的な計画が必要です。
これら3つの方法には、それぞれ特徴があります。実際の承継では、これらの方法を組み合わせて活用することも多いです。自社の状況や後継者の事情を考慮し、最適な方法を選択しましょう。
親族内承継を円滑に進め、成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。以下に、主要なポイントを詳しく解説します。
1.早期に検討に着手する
2.後継者候補の意思確認
3.現経営者が能動的に動く
4.遺言の利用
5.計画的な後継者育成
6.関係者への丁寧な説明
7.税制対策の検討
8.個人保証・担保の対策
9.種類株式や信託の活用
10.専門家の活用
これらのポイントを押さえ、計画的に準備を進めることで、親族内承継の成功確率を高めることができます。また、状況に応じて柔軟に対応することも重要です。常に後継者とのコミュニケーションを大切にし、会社の未来を見据えた承継を目指しましょう。
親族内承継は、多くの中小企業が選択する一般的な事業承継方法です。メリットとデメリットを十分に理解し、計画的に準備を進めることが重要です。早期からの取り組みと、専門家のサポートが成功の鍵となります。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事