アパレル業界のM&Aについて、業界動向や売却相場、メリット・デメリット、具体的事例を詳しく解説。企業価値向上と業界変革を目指すアパレル企業の経営者必見の情報を提供します。
目次:
アパレル業界は、衣服や服飾品の企画、生産、卸売、小売に関わる幅広い産業を指します。近年、この業界のビジネスモデルは多様化し、従来の製造業者だけでなく、小売業者や販売員も含めた広範囲な産業として認識されるようになりました。
「アパレル」という言葉は、一般的に衣服や服飾品を意味します。しかし、アパレル業界という文脈では、単なる製品だけでなく、その製造から販売までの一連のプロセスを含む広い概念として捉えられています。このため、アパレル業界は衣料品に関わるすべての事業活動を包括する産業といえます。
アパレル業界では、製品が消費者に届くまでの流れを「川上・川中・川下」という3つの段階で表現します。
川上 |
糸や生地などの原材料を製造する業者 |
川中 |
服や小物を企画・生産するメーカー |
川下 |
卸売や小売を行う販売店 |
アパレル業界でM&Aを検討する際は、自社がこの3段階のどこに位置しているかを明確に把握することが重要です。各段階で求められる経営戦略や必要なリソースが異なるため、M&Aの目的や期待される効果も変わってくるからです。
例えば、川上の企業が川中の企業を買収する場合、素材開発から製品製造までの一貫した生産体制を構築できる可能性があります。一方、川下の企業が川中の企業を買収する場合、製品の企画から販売までを一手に担うSPA(製造小売業)モデルの確立を目指すかもしれません。
このように、アパレル業界の各段階を理解することで、より戦略的なM&Aの実施が可能になります。自社の強みを活かしつつ、弱点を補完するような相手企業を選定することで、M&Aによる相乗効果を最大化できるでしょう。
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
アパレル業界は常に変化し続けており、M&Aを検討する際には最新の業界動向を把握することが不可欠です。現在のアパレル業界では、以下のような傾向が顕著に見られます。
1. 業績の緩やかな回復 新型コロナウイルスの感染拡大により大きな打撃を受けたアパレル業界ですが、現在は徐々に
回復の兆しを見せています。しかし、コロナ禍以前の水準には戻っておらず、業界全体の業績向上が課題となって
います。この状況下で、M&Aは企業の競争力強化や事業再構築の有効な手段として注目されています。
2. ECサイトの重要性の増大 消費者の購買行動の変化に伴い、ECサイトを通じた販売の重要性が高まっています。多
くのアパレルブランドが、自社ECサイトの強化や、AmazonやZOZOなどの大手ECモールへの出店を積極的に進め
ています。実店舗とECサイトの連携(オムニチャネル戦略)も重要なトレンドとなっており、M&Aを通じてこの分
野の強化を図る企業も増えています。
3. D2C(Direct to Consumer)モデルの台頭 自社で企画・製造した商品を、自社ECサイトで直接消費者に販売する
D2Cモデルが注目を集めています。SNSを活用したマーケティングと組み合わせることで、比較的小規模な企業で
も大きな成功を収める事例が増えています。この新たなビジネスモデルは、従来のアパレル業界の構造に変革をも
たらしており、M&Aの対象としても注目されています。
4. サステナビリティへの注目 環境問題への意識の高まりから、サステナブルなファッションへの需要が増加していま
す。リサイクル素材の使用、エシカルな生産プロセス、長寿命設計など、環境に配慮した取り組みを行う企業が評
価されるようになっています。このトレンドに対応するため、サステナビリティ関連の技術や知見を持つ企業との
M&Aを検討する動きも見られます。
5. デジタル技術の活用 AIやVR/AR技術を活用した新しいサービスの開発が進んでいます。例えば、AIを用いた需要
予測や在庫管理、VR/ARを活用したバーチャル試着サービスなどが実用化されつつあります。こうしたデジタル技
術を持つIT企業とアパレル企業のM&Aも増加傾向にあります。
6. グローバル展開の加速 国内市場の成熟化に伴い、海外市場への展開を図る日本のアパレル企業が増えています。特
にアジア市場での成長を目指す企業が多く、現地企業とのM&Aや資本提携を通じて市場参入を図るケースが見られ
ます。
これらの動向を踏まえ、アパレル業界でのM&Aを検討する際は、単なる規模の拡大だけでなく、新たな技術やビジネスモデルの獲得、市場拡大などの戦略的な目的を持つことが重要です。業界の変化に対応し、競争力を維持・強化するためのM&Aが今後も増加していくと予想されます。
アパレル業界におけるM&Aでは、特定の分野や業態が注目を集めやすい傾向があります。以下に、M&Aの対象となりやすいアパレル分野を紹介します。
セレクトショップ |
複数のブランドやカテゴリーから選りすぐった商品を販売する店舗 |
アパレル企画・小売 |
自社で服を企画・生産し直接販売する店舗 |
縫製・工場 |
服や小物を縫製する工場 |
ファッション小物 |
帽子やベルト、マフラーなどの小物 |
靴・鞄 |
靴や鞄などの革製品 |
和装関連 |
着物や浴衣などの和服 |
テキスタイル関連 |
生地や染色などのテキスタイル |
これらの分野がM&Aの対象となりやすい理由は、それぞれが独自の強みや専門性を持っているからです。買収企業は、これらの強みを取り込むことで、自社の競争力強化や事業領域の拡大を図ることができます。
ただし、M&Aを検討する際は、単に人気のある分野だからという理由だけでなく、自社の戦略や目標に合致しているかどうかを慎重に見極める必要があります。また、対象企業の財務状況、ブランド価値、人材、技術力などを総合的に評価し、適切な判断を下すことが重要です。
アパレル業界でM&Aを実施する際には、様々なメリットが期待できます。ここでは、主要なメリットについて詳しく解説します。
M&Aを通じて実現できるコスト削減は、アパレル企業の競争力強化に大きく寄与します。主な削減効果は以下の通りです:
1. 重複業務の統合
• 管理部門や物流システムの統合により、間接費を削減できます。
• 例えば、人事、経理、ITなどのバックオフィス機能を一元化することで、効率化とコスト削減を同時に実現できま
す。
2. 規模の経済性の活用
• 原材料の大量発注や生産ロットの拡大により、単位当たりのコストを低減できます。
• 特に、生地や付属品の調達において、大きな効果が期待できます。
3. 販売チャネルの最適化
• 重複する店舗の統廃合や、ECサイトの統合運営により、固定費を削減できます。
• 同時に、各販売チャネルの特性を活かした効率的な運営が可能になります。
4. 研究開発費の効率化
• 重複する研究開発プロジェクトの統合や、技術の共有により、R&D費用を最適化できます。
• 例えば、素材開発や生産技術の研究を共同で行うことで、コストを抑えつつ革新的な製品開発が可能になります。
5. 財務コストの低減
• 規模の拡大により、金融機関からの借入条件が改善される可能性があります。
• また、資金調達の選択肢が増えることで、より有利な条件での資金調達が可能になる場合があります。
売り手の企業にとっても、借入金や在庫などの負債を解消できるというメリットがあります。一方、買い手の企業は、新規に事業を立ち上げる場合と比較して、従業員の採用コストや初期投資を抑えられるというメリットがあります。
M&Aは、アパレル企業にとって事業を拡大する絶好の機会となります。主な事業拡大の可能性は以下の通りです:
1. 新規市場への参入
• 地理的に新しい市場(国内の未進出地域や海外市場)への迅速な参入が可能になります。
• 例えば、海外展開を図る際に、現地で既に事業基盤を持つ企業を買収することで、スムーズな市場参入を実現でき
ます。
2. 商品ラインの拡充
• 異なる顧客層やカテゴリーを持つブランドを獲得することで、商品ラインを一気に拡大できます。
• 例えば、カジュアルウェアブランドがフォーマルウェアブランドを買収することで、総合アパレルブランドへの転
換を図れます。
3. 技術・ノウハウの獲得
• 優れた設計・生産技術や、効率的な経営ノウハウを持つ企業を買収することで、自社の競争力を高められます。
• 例えば、高品質な縫製技術を持つ工場を買収することで、製品の品質向上と生産効率の改善を同時に実現できま
す。
4. ブランド価値の向上
• 高いブランド力を持つ企業を買収することで、自社のブランドポートフォリオを強化できます。
• 例えば、老舗ブランドを買収し、そのヘリテージ(伝統)を活かしつつ現代的にリブランディングすることで、新
たな顧客層を獲得できる可能性があります。
5. バリューチェーンの強化
• 川上(原材料)から川下(小売)までの一貫した体制を構築することで、商品開発から販売までの効率化が図れま
す。
• 例えば、アパレルメーカーが小売チェーンを買収することで、SPA(製造小売業)モデルへの転換を図れます。
6. デジタル化の推進
• ECサイトの運営に強みを持つ企業や、デジタルマーケティングに長けた企業を買収することで、自社のデジタル戦
略を加速できます。
• 例えば、D2C(Direct to Consumer)ブランドを買収することで、オンライン販売のノウハウを獲得し、既存ブラ
ンドのデジタル戦略に活かせます。
7. サステナビリティへの対応
• 環境に配慮した素材や生産プロセスを持つ企業を買収することで、サステナブルファッションの潮流に迅速に対応
できます。
• 例えば、リサイクル素材を用いた製品開発に強みを持つブランドを買収することで、自社の環境対応を強化できま
す。
これらのメリットは、単独で事業を展開する場合と比較して、より迅速かつ効果的に実現できる可能性があります。ただし、M&Aによる事業拡大を成功させるためには、買収後の統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)が極めて重要です。文化の異なる組織を統合し、シナジーを最大化するためには、慎重かつ戦略的なアプローチが必要となります。
M&Aには多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。アパレル業界特有の課題も含めて、主なデメリットを以下に解説します。
アパレル業界では、ブランドイメージが企業価値の重要な要素となります。M&Aにより、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
1. ブランドアイデンティティの希薄化
• 買収後に、元々のブランドコンセプトやデザイン哲学が失われる可能性があります。
• 例えば、高級ブランドが大衆向けブランドに買収されることで、プレミアム感が損なわれる恐れがあります。
2. クリエイティブ人材の流出
• M&Aに伴う組織変更により、ブランドの核となるデザイナーや企画者が離職するリスクがあります。
• これにより、ブランドの独自性や創造性が失われる可能性があります。
3. 顧客層の混乱
• 異なる顧客層を持つブランド同士のM&Aにより、既存顧客に混乱が生じる可能性があります。
• 例えば、若者向けブランドがシニア向けブランドを買収した場合、双方の顧客にブランドイメージの不一致が生じ
る恐れがあります。
4. 商品品質の変化
• コスト削減を目的としたM&Aにより、使用素材や生産プロセスが変更され、商品品質が低下するリスクがありま
す。
• これは長期的にブランド価値を毀損する可能性があります。
M&Aにより、顧客との関係性に影響が出る可能性があります。主なリスクは以下の通りです。
1. サービス品質の低下
• 組織統合の過程で一時的に顧客サービスの質が低下し、顧客満足度が下がる可能性があります。
• 例えば、カスタマーサポート体制の変更により、応対の質や速度が低下する恐れがあります。
2. 個人情報の取り扱いへの不安
• M&Aに伴い顧客データが移管されることで、プライバシーに関する懸念が生じる可能性があります。
• 特に、ECサイトを運営する企業のM&Aでは、この点に注意が必要です。
3. ブランドロイヤリティの低下
• 急激な変化により、長年のファンが離れてしまうリスクがあります。
• 特に、独立系ブランドが大手企業に買収された場合、「売り切った」という印象を与える恐れがあります。
4. 商品ラインナップの変更
• M&A後の戦略変更により、顧客が愛着を持っていた商品ラインが廃止されるリスクがあります。
• これにより、既存顧客の離反を招く可能性があります。
その他のデメリット:
1. 財務リスク
• 買収価格が高すぎる場合、財務的な負担が大きくなり、長期的な経営に影響を与える可能性があります。
• また、想定していた相乗効果が得られず、投資回収が難しくなるリスクもあります。
2. 組織文化の衝突
• 異なる企業文化を持つ組織の統合は困難を伴うことがあります。
• 特に、クリエイティブな側面が重要なアパレル業界では、この点が大きな課題となる可能性があります。
3. 法的リスク
• 買収対象企業の隠れた債務や法的問題が、M&A後に表面化するリスクがあります。
• 例えば、知的財産権の侵害や労務問題など、事前のデューデリジェンスで発見できなかった問題が生じる可能性が
あります。
4. 市場環境の変化
• M&Aの検討から実行までに時間がかかる場合、その間に市場環境が変化し、当初の目的が達成できなくなるリスク
があります。
• アパレル業界は流行の変化が速いため、このリスクは特に注意が必要です。
これらのデメリットを最小限に抑えるためには、M&Aの計画段階から細心の注意を払い、綿密な調査と戦略立案を行うことが重要です。また、M&A後の統合プロセス(PMI)においても、ブランド価値の維持や顧客との関係性の強化に焦点を当てた取り組みが必要となります。
特にアパレル業界では、ブランドイメージや創造性が企業価値の核となるため、これらを損なわないようなM&A戦略の立案が求められます。同時に、デジタル化やサステナビリティなど、業界の新たな潮流に対応できるような形でM&Aを活用することが、長期的な成功につながる可能性が高いといえるでしょう。
アパレル業界におけるM&Aの売却価格は、様々な要因によって大きく変動します。ここでは、一般的な価格の目安と、価格に影響を与える要因について解説します。
1. 一般的な価格の目安
アパレル企業のM&A売却価格の一般的な目安は、以下のようになっています:
• 小規模な店舗や個人経営のブランド:1店舗あたり250万円程度から
• 中規模のアパレルブランドや複数店舗を持つ企業:数千万円から数億円
• 大手アパレル企業や有名ブランド:数十億円から数百億円
ただし、これらはあくまで目安であり、実際の売却価格は企業の規模、業績、ブランド力などによって大きく異なります。
2. 価格に影響を与える主な要因
a) 財務状況
• 売上高、利益率、成長率などの財務指標が良好な企業ほど、高い評価を受けます。
• 特に、安定した収益性と成長性を併せ持つ企業は高く評価されます。
b) ブランド力
• 知名度の高いブランドや、特定の顧客層に強い支持を得ているブランドは、高く評価されます。
• ブランドの歴史や独自性も重要な評価要素となります。
c) 店舗網
• 優良な立地に多数の店舗を持つ企業は、高く評価される傾向にあります。
• また、EC事業の強さも重要な評価ポイントとなります。
d) 顧客基盤
• 固定客の多さや、顧客データベースの質も評価の対象となります。
• 特に、若年層や富裕層など、特定の顧客層に強みを持つ企業は高く評価されることがあります。
e) 製品ラインナップ
• 幅広い製品カテゴリーを持つ企業や、特定カテゴリーで圧倒的なシェアを持つ企業は、高く評価されます。
f) 技術力・ノウハウ
• 独自の生産技術や、効率的な経営ノウハウを持つ企業は、高く評価されます。
g) 人材
• 優秀なデザイナーや経営陣を抱える企業は、高く評価される傾向にあります。
h) 市場環境
• アパレル業界全体の景気動向や、対象企業が属する市場セグメントの成長性も評価に影響します。
i) シナジー効果
• 買収企業との間で期待されるシナジー効果の大きさも、価格に影響を与えます。
3. 価格算定の方法
アパレル企業の価値を算定する主な方法には、以下のようなものがあります:
a) 類似企業比較法
• 同業他社の財務指標(PER、PBR、EBITDAマルチプルなど)を参考に価値を算定します。
b) DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)
• 将来のキャッシュフローを予測し、現在価値に割り引いて企業価値を算出します。
c) 純資産価額方式
• 企業の資産から負債を差し引いた純資産額を基に価値を算定します。
d) 収益還元法
• 将来の予想利益を基に企業価値を算定します。
実際のM&Aでは、これらの方法を組み合わせて総合的に企業価値を算定することが一般的です。
4. 価格交渉のポイント
売却価格の交渉では、以下のような点が重要になります:
• 自社の強みを明確に示し、それが買収後にもたらす価値を説明すること
• 将来の成長性や、買収企業とのシナジー効果を具体的に提示すること
• 財務状況や事業リスクを適切に開示し、信頼関係を構築すること
• 複数の買収候補との交渉を並行して行い、競争環境を作り出すこと
アパレル企業のM&A売却価格は、これらの要因を総合的に考慮して決定されます。適切な価格での売却を実現するためには、専門家のアドバイスを受けながら、自社の価値を正確に把握し、それを買収側に効果的に伝えることが重要です。また、単に高値での売却を目指すだけでなく、買収後の事業継続性や従業員の処遇なども考慮に入れた総合的な判断が求められます。
アパレル業界では、様々な目的や形態でM&Aが行われています。ここでは、近年注目を集めた具体的なM&A事例を5つ紹介し、それぞれの特徴や狙いについて解説します。
1. ベインキャピタルによるマッシュホールディングスの買収
• 買収企業:ベインキャピタル(米国の投資ファンド)
• 被買収企業:マッシュホールディングス(ジェラートピケ、スナイデルなどのブランドを展開)
• 買収年:2022年
• 買収の狙い:
o マッシュホールディングスの海外展開の加速
o ベインキャピタルの投資経験とグローバルネットワークの活用
o デジタル戦略の強化
この事例は、成長期にある日本のアパレル企業が、グローバル展開を加速させるために外資系投資ファンドを選択した例です。ベインキャピタルの資金力と経営ノウハウを活用し、特にアジア市場での成長を目指しています。
2. 豊島株式会社とSpiber株式会社の資本業務提携
• 提携企業:豊島株式会社(繊維商社)、Spiber株式会社(構造タンパク質素材開発)
• 提携年:2020年
• 提携の狙い:
o 次世代素材の共同開発
o サステナブルファッションへの対応
o 相互の技術・ノウハウの活用
この事例は、伝統的な繊維商社と先端技術を持つスタートアップ企業の協業という点で注目を集めました。環境配慮型の新素材開発を通じて、アパレル業界のサステナビリティ課題に取り組む狙いがあります。
3. RIZAPグループによるジーンズメイトの子会社化
• 買収企業:RIZAPグループ株式会社
• 被買収企業:株式会社ジーンズメイト
• 買収年:2017年(2021年に完全子会社化)
• 買収の狙い:
o ジーンズメイトの経営改善
o RIZAPグループのアパレル事業の強化
o 相互の顧客基盤の活用
この事例は、業績不振に陥っていたジーンズメイトの再建を目的としたM&Aです。RIZAPグループの経営ノウハウを活用し、ブランドの刷新や商品力強化を図っています。
4. 株式会社ニッセンによる株式会社マロンスタイルの買収
• 買収企業:株式会社ニッセン(通販大手)
• 被買収企業:株式会社マロンスタイル(女性用アパレル通販サイト運営)
• 買収の狙い:
o ニッセンの通販事業の強化
o 若年層顧客の獲得
o ECビジネスのノウハウ獲得
この事例は、既存の通販大手が、成長するEC市場でのプレゼンス強化を目指したM&Aです。マロンスタイルの若年層向けブランドイメージとECノウハウを活用し、ニッセンの事業多角化と顧客層拡大を図っています。
5. 株式会社ヤギによる有限会社アタッチメントの子会社化
• 買収企業:株式会社ヤギ(繊維専門商社)
• 被買収企業:有限会社アタッチメント(紳士・婦人服のデザイン、製造・販売)
• 買収の狙い:
o ヤギのアパレルODM事業の強化
o デザイン力・企画力の向上
o 生産・販売ルートの共有によるシナジー効果
この事例は、素材供給を主な事業としていた繊維商社が、付加価値の高いODM(相手先ブランド設計製造)事業を強化するためのM&Aです。アタッチメントのデザイン力とヤギの素材調達力を組み合わせることで、競争力の向上を目指しています。
これらの事例から、アパレル業界のM&Aには以下のような傾向が見られます:
1. グローバル展開の加速:海外市場での成長を目指すM&A
2. デジタル化への対応:EC事業強化や新技術獲得を目的としたM&A
3. サステナビリティへの取り組み:環境配慮型の素材開発や生産体制構築を目指すM&A
4. 垂直統合:素材からデザイン、製造、販売までを一貫して行う体制構築を目指すM&A
5. 異業種からの参入:他業界の企業がアパレル事業に参入するためのM&A
アパレル業界のM&Aは、単なる規模の拡大だけでなく、業界の構造変化や新たな課題に対応するための戦略的な手段として活用されています。今後も、デジタル化やサステナビリティなどの新たなトレンドに対応するため、様々な形態のM&Aが行われていくことが予想されます。
アパレル業界におけるM&Aは、企業の成長戦略や業界の構造変化に対応するための重要な手段となっています。本文で解説した内容を踏まえ、以下にアパレル業界のM&Aに関する主要なポイントをまとめます。
1. アパレル業界の特性とM&A
• アパレル業界は「川上」(原材料)、「川中」(製造)、「川下」(販売)の3段階で構成されており、各段階でM
&Aの目的や効果が異なります。
• 業界の動向として、ECの台頭、D2Cモデルの成長、サステナビリティへの注目などがM&Aの方向性に影響を与えて
います。
2. M&Aのメリット
• コスト削減:規模の経済性の活用、重複業務の統合などによる効率化が可能です。
• 事業拡大:新規市場への参入、商品ラインの拡充、技術・ノウハウの獲得などが実現できます。
3. M&Aのデメリット
• ブランド価値の毀損リスク:ブランドアイデンティティの希薄化や顧客層の混乱が生じる可能性があります。
• 顧客信頼の低下リスク:サービス品質の低下や個人情報の取り扱いへの不安などが懸念されます。
4. M&A売却価格の目安
• 企業規模や業態によって大きく異なりますが、小規模店舗で250万円程度から、大手企業では数十億円以上まで幅 広い価格帯があります。
• 財務状況、ブランド力、店舗網、顧客基盤などが価格に影響を与えます。
5. 具体的なM&A事例
• グローバル展開の加速、デジタル化への対応、サステナビリティへの取り組み、垂直統合、異業種からの参入な
ど、様々な目的でM&Aが実施されています。
アパレル業界でM&Aを成功させるためのポイント:
1. 明確な戦略と目的の設定
o 単なる規模拡大ではなく、自社の長期的なビジョンに基づいたM&Aを計画することが重要です。
2. 適切なデューデリジェンス
o 財務状況だけでなく、ブランド価値や顧客基盤、人材などの無形資産も含めた綿密な調査が必要です。
3. 文化的統合への配慮
o 特にクリエイティブな側面が重要なアパレル業界では、企業文化の違いに十分な注意を払う必要があります。
4. ブランド管理の徹底
o M&A後もブランドの独自性や価値を維持・向上させる取り組みが求められます。
5. デジタル戦略の強化
o EC事業の強化やデジタルマーケティングの活用など、デジタル化への対応が重要です。
6. サステナビリティへの取り組み
o 環境配慮型の素材開発や生産プロセスの改善など、持続可能性を考慮したM&Aが求められています。
7. シナジー効果の最大化
o 生産、販売、マーケティングなど、様々な面でのシナジー効果を追求することが成功の鍵となります。
アパレル業界は常に変化し続けており、M&Aはその変化に適応し、競争力を維持・強化するための有効な手段となっています。しかし、M&Aの実施には慎重な検討と戦略的なアプローチが必要です。企業の経営者は、自社の強みと弱みを正確に把握し、業界動向を見極めた上で、M&Aを通じて持続的な成長を実現することが求められています。
専門家のアドバイスを受けながら、綿密な計画を立て、適切なプロセスを踏むことで、アパレル業界におけるM&Aは企業価値の向上と業界全体の発展につながる可能性を秘めています。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画