従業員承継をスムーズに進める方法と注意点を解説
従業員承継とは、社内の従業員を後継者として会社を引き継ぐ方法です。本記事では、従業員承継の流れやメリット・デメリット、成功させるためのポイントについて詳しく解説します。
目次
▶目次ページ:社内承継(社内承継)
従業員承継とは、社内の従業員を後継者として指名し、会社の経営を引き継ぐ事業承継の方法です。親族内に後継者がいない場合の選択肢の一つとして、長年会社を支えてきた信頼できる従業員に会社を承継してもらうことで、経営の安定性を保つことが期待されます。
従業員承継には、事業の継続性や社風の維持が可能であるというメリットがありますが、一方で資金調達や経営者としてのスキル習得など、さまざまな課題も伴います。そのため、計画的な準備が必要です。
事業承継の第一歩は、会社の現状を正確に把握し、必要な改善を行うことです。具体的には、財務状況や収益性の分析、資産・負債の整理を進めます。特に中小企業では、社長個人の資産と会社の資産が混在しているケースも多いため、承継の際にどの資産が会社に属するのかを明確にする必要があります。
また、経営状況が不安定な場合は、承継前に収益性の向上やコスト削減などの対策を講じることが重要です。健全な経営基盤を整えた上で承継を進めることで、後継者がスムーズに経営を引き継ぐことができます。
後継者を選定する際には、単に業務能力が高いというだけではなく、リーダーシップや決断力、周囲からの信頼など、経営者としての資質が求められます。経営者には以下のような能力が必要とされます。
後継者が自信を持って経営に取り組めるよう、事前に育成計画を策定し、段階的に経営のノウハウを学ばせることが大切です。
事業承継を円滑に進めるためには、承継計画を具体的にまとめた「事業承継計画書」を作成することが推奨されます。この計画書には、承継のスケジュールや財務状況の整理、後継者の育成計画などを盛り込みます。
計画書の内容としては、以下のようなポイントが含まれます。
一般的には、事業承継の開始から完了まで10年程度の期間を想定して計画を立てることが多いです。長期的な視点で事業承継を進めることで、リスクを最小限に抑えながらスムーズな引継ぎが可能になります。
後継者が決定したら、経営者としての育成を進めると同時に、従業員や取引先に対して承継の周知を行います。特に従業員承継の場合、社内の人間関係や業務フローに大きな変化が生じるため、円滑に進めるためには十分な準備が必要です。
後継者育成のポイントは以下の通りです。
また、社内外の関係者に対して事前に承継計画を説明し、理解を得ることで、従業員承継の成功率を高めることができます。
従業員承継では、現社長が所有する自社株式を後継者が取得する必要があり、多額の資金が必要となるケースが多いです。この資金をどのように調達するかが、大きな課題の一つとなります。
主な資金調達方法としては、以下のようなものがあります。
また、株式の評価額が高すぎる場合には、退職金や剰余金の分配を活用して評価額を引き下げるといった工夫も検討できます。
資金調達が完了したら、現社長から後継者に対して自社株式の譲渡を行います。株式譲渡は、取締役会での承認を経て正式に行われ、株式譲渡契約書を作成・締結することで完了します。
さらに、名義書換えを行い、新たな株主としての登録を進めます。これにより、後継者が正式に株主として会社を経営することになります。
従業員承継は、会社の存続において大きなメリットがありますが、一方で後継者や企業側にとってのデメリットもあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
会社の経営理念や文化が継承されやすい
従業員承継は、社内で長年勤務してきた人物が後継者となるため、会社の経営理念や文化を維持しやすいという利点があります。外部から後継者を迎える場合に比べ、業務の理解度も高く、スムーズな経営移行が可能です。
社員や取引先の信頼を得やすい
外部の第三者に会社を譲る場合、従業員や取引先との関係構築に時間がかかることがあります。しかし、社内の従業員が後継者となることで、すでに社内外の関係者と信頼関係が築かれており、事業の継続性が高まります。
従業員のモチベーション向上
従業員の中から経営者を輩出することは、社内のモチベーション向上につながります。「努力すれば経営者になれる」という実例を示すことで、社員の成長意欲を引き出す効果が期待できます。
承継後も安定した経営が期待できる
従業員承継では、後継者がすでに会社の業務に精通しているため、大きな混乱なく引継ぎを進めやすいというメリットがあります。特に長年会社を支えてきた従業員であれば、経営者の視点を持ちやすく、経営の一貫性を保つことができます。
後継者としての責任が重い
経営者には、会社の業績向上だけでなく、従業員やその家族の生活、取引先との関係構築、金融機関との対応など、多岐にわたる責任が生じます。従業員として働いていたときとは異なり、経営判断に対するプレッシャーが大きくなります。
経営スキルの習得が必要
経営者となるには、単に現場の業務に精通しているだけでなく、財務管理や経営戦略の立案、人材マネジメントなど、幅広いスキルを習得する必要があります。そのため、後継者の教育や育成に時間がかかるケースが多くなります。
資金調達の負担
従業員承継では、自社株式の買取資金が必要になるため、多額の資金調達が求められます。従業員が個人で負担することが難しい場合もあり、金融機関からの融資や社内資金の活用が不可欠となります。
経営者保証の引継ぎ問題
現経営者が金融機関から借入を行っている場合、その保証を新しい経営者が引き継ぐ必要があります。しかし、金融機関が後継者の資金力や信用力を評価し、保証人として認めないケースもあります。そのため、保証の引継ぎには慎重な調整が求められます。
従業員承継を進めるにあたり、いくつかの重要な課題があります。これらの問題を事前に把握し、適切な対策を講じることが、成功のカギとなります。
社内の従業員の中から後継者を選ぶ場合、適切な人材がいないケースもあります。特に、小規模な企業では、経営者としての資質を持つ従業員が少ないことも課題です。
対策
E従業員承継では、現経営者が保有する自社株式を後継者が取得する必要がありますが、その資金調達が大きな負担になる場合があります。
対策
金融機関の借入に対する個人保証を後継者が引き継ぐことに抵抗を感じるケースがあります。
対策
事業承継を進めるタイミングを見極めるのは難しく、遅れが生じることで後継者育成が不十分になり、スムーズな承継が難しくなることがあります。
対策
会社が複数の事業を展開している場合、一部の事業のみを承継したいと考えることもあります。
対策
従業員承継を成功させるためには、次の点を意識することが重要です。
従業員承継は計画的に進めることで成功率が高まります。
従業員承継は、社内の信頼できる人材に会社を引き継ぐことで、経営の継続性を保つ有効な手法です。しかし、資金調達や経営スキルの習得など、乗り越えなければならない課題も多くあります。計画的な準備を進め、専門家の助言を活用しながら進めることで、円滑な事業承継が実現できます。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画