保育園はM&Aできる?メリット・デメリット、価格相場、手法を解説

近年、保育園業界においてM&A(合併・買収)の事例が増加傾向にあります。しかし、保育園のM&Aをどのように進めていくべきか」と悩んでいる方も少なくないでしょう。この記事では、保育園のM&Aに関する疑問や悩みを解決するための詳細情報を提供します。参照してください。

目次

  1. 保育園・保育所とは
  2. 保育園のM&Aのメリット・デメリット
  3. 保育園M&Aの価格相場
  4. 保育園M&Aの手法
  5. 保育園の事業譲渡での注意点
  6. 社会福祉法人の保育園のM&A
  7. 保育園のM&A事例
  8. まとめ

保育園・保育所とは

保育園のM&Aについて考える前に、保育園の定義について把握しておくことが大切です。保育園とは、保育の理念や目標を基盤とし、子どもや保護者のニーズや地域の実情を考慮して実施される施設です。保育園は、認可保育所、認可外保育所、認証保育所などのさまざまなタイプに分類され、それぞれ独自の特性や相違点があります。そのため、保育園や保育所に関するM&Aの市場規模は拡大し、企業の買収、売却、事業譲渡が活発化しています。

保育園・保育所・幼稚園の主な違い

保育園、保育所、幼稚園の違いは以下のようになります。

• 保育園:0歳から小学校就学前までを対象とし、保育を中心に生活習慣の指導も実施

• 保育所:0歳から小学校就学前までの短時間保育を提供し、保育園と施設の内容はほぼ同様

• 幼稚園:3歳から6歳までの教育施設で、遊びを通じて社会性や基礎的な学力を育成する教育を行う


保育園のM&Aのメリット・デメリット

保育園でのM&Aの際に得られるメリットは何か、譲渡側と譲受側の観点から見ていきましょう。

売り手のメリット

譲渡側には以下のようなメリットがあります。

• 財務的メリット:譲渡により資産を現金化し、経営資源の有効活用ができる

• 経営上のメリット:譲渡により経営リソースを集中的に活用でき、競争力を強化することが期待できる

• 事業継承のメリット:譲渡によって後継者問題を解決でき、事業の持続性が確保される

つまり、現在抱える問題をM&Aによって解決する可能性がでてきます。

買い手のメリット

保育園のM&Aには、譲受企業にとって多くのメリットが存在します。保育園業界においてM&Aが盛んに行われており、業界再編が進行しているため、譲受企業はM&Aを通じて規模の拡大や事業の多角化など、戦略的な利点を享受できます。これによって競争力の向上が可能となります。

また、M&Aを行うことで事業の効率化や強化が図れる点も大きな利点です。譲渡企業の経営ノウハウや人材を取り入れることにより、事業効率及び強化が期待できます。事業規模が拡大すれば、運営費用の共有化や資材調達の効率化が実現し、サービスの質が向上することが見込まれます。

さらに、経営上の課題が解決できる点も重要なメリットです。保育士不足や資金調達の課題など、経営上の問題を抱える場合、M&Aによって解決策が見つかることがあります。譲受企業の資金力やネットワークを活用することで、保育園運営の安定化が期待できます。

保育園のM&Aのデメリット

保育園のM&Aがもたらすメリットが多い一方で、デメリットにも注意が必要です。

まず、M&Aが子どもたち、保護者、職員などに不安感を生じさせる可能性があります。また、企業文化や理念の違いから摩擦が生じることもあります。このように、M&Aによって組織が大きく変化すると、関係者が不安を抱くことがあるため、適切な対応が求められます。

さらに、M&Aに伴う費用負担も無視することはできません。保育園の買収にあたっては、設備更新や人材再編、営業権譲渡など多くのコストが発生することがあります。また、M&Aが失敗した場合には、不要な費用が発生してしまうリスクも存在します。

保育園M&Aの価格相場

保育園をM&Aする際の相場は、ケースバイケースになります。業績はもとより、その保育園の地域での位置付け、定員規模、立地、面積、運営主体の属性(株式会社か社会福祉法人かなど)などに影響を受けます。

そのため、価格交渉の出発点としては、通常の株式会社における価値評価方法で価格を算定することが一般的です。

相場としては、安定して黒字体質の保育園の場合で、小規模なものだと数千万円というケースもありますし、複数園を運営し地域有数の園なら数億円から数十億円というケースもあるようです。

保育園M&Aの手法

ここでは、保育園でのM&Aの具体的な手法について解説します。

株式譲渡

保育園のM&Aにおいて最も一般的な方法は、株式譲渡です。株式譲渡は、保育園を運営している企業の全株式を譲渡する方法であり、譲受企業は新たな株主となります。株式譲渡によるM&Aは、保育園の事業譲渡に比べて手続きが容易であり、また売却価格の設定も比較的簡単であるため、迅速にM&Aを進めることができます。

ただし、株式譲渡にはリスクも伴います。譲受企業は株主としての責任を負うことになります。例えば、保育園に簿外債務が存在したり、赤字があった場合には、譲受企業が引き継がなければなりません。このため、保育園の経営状況によっては株式の売却が難しい場合がありますので注意が必要です。

合併

一般的に、保育園の合併とは、2つ以上の保育園が手を組んで新しい法人を設立することを意味します。この過程において、元の保育園のうち譲渡側の保育園が消滅し、譲受側の会社に組み込まれます。基本的に、合併は主に2種類の形態が存在します。

• 吸収合併: 譲受側の会社が譲渡側の会社を吸収する。

• 新設合併: 両社ともに消滅し、新たな会社が設立される。

合併によって、労働コストや経費の削減が可能となり、経営効率が上がり市場シェアの拡大が期待できます。ただし、譲受側がリスクを引き継ぐことになるため、株式譲渡と同様に注意しながら進める必要があります。

事業譲渡

保育園の事業譲渡とは、保育園の営業権や資産を売却する形態のことを指し、保育園を運営する法人自体を売買する「株式譲渡」とは異なります。事業譲渡では、保育園の経営権を売買することが特徴です。そのため、事業を継承しても会社が存続することから独立性が保たれます。

しかし、事業譲渡によって経営主体が変わるため、対象となった保育園の従業員や保護者、地域住民に不安や不信感を抱かせる可能性があります。これを避けるためには、適切なコミュニケーションが重要です。

保育園の事業譲渡での注意点

保育園や保育所の事業譲渡でよく見られる問題について説明していきます。

許認可の申請が必要となる場合がある

保育園や保育所の事業譲渡では、許認可の申請が必要となる場合があります。また、事業譲渡に関する手続きは細かく専門知識が求められます。そのため、許認可に関する情報を正しく理解し、手続きを適切に行うためには、専門家の支援が求められます。

契約や取引の見直しが必要となる

保育園や保育所の事業譲渡で発生する問題の一つとして、契約や取引の見直しが必要となることがあります。賃貸契約、保育士との雇用契約、備品の使用契約など、取引契約は譲渡前の運営者と異なるため、事業譲渡と同時に契約を結びなおす必要があります。

さらに、契約書の改定や新たな契約の締結、取引先との調整などが必要となります。事業譲渡の際には、保育園を利用しているすべての保護者と契約を再締結する必要があることにも注意が必要です。

従業員や債権者の同意が得られない場合もある

従業員の同意が得られない場合、労働契約の継続や解雇に関する問題が生じることがあります。これは、労働環境や待遇の変化による不安を感じ、離職に至るケース等が考えられます。そのため、従業員に対しては、事前に十分な説明を行い、同意を得ることが重要です。

また、従業員だけでなく、負債の引き継ぎや清算に関する問題が発生し、債権者の同意が得られない場合も考えられます。事業譲渡を実行する前に債権者と交渉し、同意を得ることが必要な場合があります。ただし、株式譲渡ではこのような検討は不要であり、あくまで事業譲渡の際に発生する問題となります。

社会福祉法人の保育園のM&A

社会福祉法人の保育園や保育所のM&Aに関する注意点について説明いたします。

社会福祉法人とは何か?

社会福祉法人とは、社会福祉事業を目的として設立された法人を指します。社会福祉事業は、社会福祉法第2条で定められた第一種社会福祉事業及び第二種社会福祉事業を指し、社会福祉に関する公共事業や収益事業を展開することができます。

設立には社会福祉法に基づく認可が必要であり、法人の運営についても「支援を必要とする人に対して無料もしくは低額な料金でサービスを提供しなければならない」などの規制が存在します。

理事長等に特別な利益を与えることは禁じられている

社会福祉法人における保育園や保育所のM&Aでは、社会福祉法第27条により、理事長などに特別な利益を与えることが禁止されています。保育園業界ではM&Aが活発化し、事業譲渡や経営多角化の動きも見られていますが、発生した利益は事業に活用することが求められます。

法人外への余剰金の流出は許されない

また、社会福祉法人の保育園や保育所のM&Aにおいて、法人外への余剰金の流出は禁止されています。これは、M&Aの際に相手方に金銭を支払ったり、相場より低い価格で譲渡したりして利益を与えることが許されないことを意味します。M&Aで得られた利益は、保育園が存在する法人内でのみ利用されるべきであるため、注意が必要です。

社会福祉法人のM&A方法

保育園の運営が社会福祉法人の場合には、特有のルールがあります。

保育園のM&A事例

保育園におけるM&A事例を詳しくご紹介いたします。

プリインターナショナルスクールの事例

プリインターナショナルスクールは、地域での評判が良く、経営も順調に進められていた保育園でした。しかし、別の事業に注力することを決め、プリインターナショナルスクールの法人譲渡を決断しました。

このM&Aケースでは、譲受側は介護事業も展開しており、また別のプリインターナショナルスクールの買収経験もありました。それにより、スムーズに契約が進められたと言えます。以前、仲介業者なしでM&Aを行った際に、譲渡後にトラブルが発生した経験があったものの、今回は適切な仲介業者を通じて進められたため、問題なく完了することができました。

認可保育園の事業譲渡と法人譲渡を組み合わせた事例

この事例では、認可保育園と被認可保育園の両方を運営していた法人が、認可保育園の運営における制約の多さに疲れを感じ、譲渡を検討することになりました。認可保育園における再認可申請などの煩雑な手続きを考慮し、事業譲渡と法人譲渡を組み合わせた形で譲渡が実施されました。その結果、約2ヶ月という短期間で譲渡が完了しました。

まとめ

保育園のM&Aについて詳しく解説してきました。通常のM&Aとは異なる点もあるため、保育園のM&Aは難易度が高い場合があります。許認可の引き継ぎや雇用契約の更新といった保育園に特有のポイントを押さえ、M&Aを成功させることが重要です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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