外食業界のM&Aの最新動向と成功事例で学ぶ今後の展望と戦略
外食M&Aの業界動向と事例をもとに、後継者問題や撤退費用を解決し利益を最大化する方法を分かりやすく解説します。
目次
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
外食業界は家庭外で食事を提供するすべてのサービスを指し、レストランや居酒屋、カフェなどが含まれます。弁当や総菜の持ち帰りは外食ではなく中食に区分されるため、同じ食品ビジネスでも市場特性が異なります。
外食は単に調理済み食品を提供するだけでなく、接客・空間・雰囲気といった体験価値を伴います。この体験価値こそが中食との大きな違いであり、価格以外の競争要素となります。
外食市場は2020年の新型コロナウイルス流行で40億円規模が消失しましたが、2021年以降徐々に回復しています。2024年、日本フードサービス協会調査によれば売上高は前年同期比108.4%となり、客数104.3%、客単価103.9%と伸長しました。インバウンド需要の復活や物価上昇に伴う値上げが追い風です。それでも2019年比では完全回復に至らず、変動の大きい外部環境が続いています。
消費者は手軽・早い食事から個室でゆったりした高付加価値体験まで幅広い選択を求めています。
SNS活用とインフルエンサー戦略が鍵
単なる投稿では埋もれるため、動画やライブ配信・専門業者活用で話題化を図る必要があります。
長時間労働による離職で人手不足が悪循環を生みます。セントラルキッチン導入やITオペレーション効率化が対策として進んでいます。
消毒、人員配置、検温設備などの追加費用が発生し、利益を圧迫しています。
店舗売却は後継者不在の解決策となり、創業者利益も獲得できます。
親族や社内に適任者がいなくても、第三者へ承継することで店舗と従業員の雇用を守れます。
株式や事業譲渡により創業者は対価を得られ、連帯保証が外れるケースが多いです。
通常撤退に必要なスケルトン工事費を負担せずに済み、居抜き価値が評価されるため経済的メリットが大きいです。
「国内外食市場規模推移と予測」
レコフM&Aデータベースによると2024年の外食M&A件数は約70件で過去最多を記録しました。背景には買い手の投資意欲復活と売り手の業績可視化があります。
すかいらーくHDは資さんうどんを買収し、3~5年で200店舗超を目指す戦略を公表しました。さらにマレーシアのムスリム向けチェーンCCグループを取得し、東南アジア展開を加速しています。
24年10月にジーHD、11月にB級グルメ研究所HDを買収し、牛かつ店舗105店体制を構築。鎌倉パスタに次ぐ第二の柱を形成しました。
居酒屋中心から健康志向サンドイッチへ業態多角化し、20年かけて国内3000店舗を目指すと発表しています。
2024年の外食M&A件数は約70件と過去最多を更新しました。買い手の投資意欲が復活し、売り手も実力値を基に譲渡対価を算出できる環境が整ったことが主因です。特に上場チェーンによる連続買収が目立ち、ラーメンやうどんなど日常食業態への集中投資が顕著でした。倒産件数が過去最多を記録した一方で、強いブランドや安定したオペレーションを持つ企業は高い評価を獲得しています。
新型コロナの影響が薄れた2023年以降、売上と利益が回復したことで資金調達と投資判断が容易になりました。多くのチェーンが中期経営計画に「複数社買収」を盛り込み、人材やノウハウを一気に獲得するシナジーを狙っています。資金に余裕のある大手のみならず、フランチャイズ本部や地方有力チェーンもM&A市場に参入しました。
直近決算がコロナ影響をほぼ含まないため、本来の収益力を示しやすくなりました。これにより買い手との価格交渉がスムーズに進み、案件成立数が伸びています。EBITDA倍率10倍超の評価がついたケースも散見され、2017年に匹敵するハイバリュエーション環境が再来しています。
2025年もM&A件数は高水準を維持すると見込まれますが、買い手側のリソースや予算制約から踊り場を迎える可能性があります。
PMI(統合後管理)には多大な工数が掛かるため、年に複数の大型買収を継続できる企業は限定的です。今後は小規模案件や部分買収、資本提携など柔軟な手法にシフトする見通しです。
インバウンド需要を取り込む業態
訪日客が支持するムスリム対応チェーンなどは国際競争力が高く、引き続き高倍率が期待できます。
固定ファンを持つ差別化ブランド
立地依存ではなくストーリー性あるメニューやSNSコミュニティで常連を育てた店舗は高評価を得やすいです。
黒字のうちに交渉を始め、大手チェーンやファンドと提携することでブランド存続と高い譲渡対価を両立できます。
M&Aは準備段階での情報整備が勝敗を分けます。
投資目的を明確化し、物流網やセントラルキッチン、デジタルオーダーシステムなど自社資源との組合せ効果を事前に試算します。
店舗別損益、客単価推移、原価率、口コミ評価、厨房機器のリース残債まで開示し、不確実性を減らして企業価値を高めます。
従業員処遇の早期共有、段階的メニュー統一、ピークを避けたシステム統合でモチベーション低下と顧客離脱を防ぎます。
税務・法務面の準備を怠ると取引後に想定外コストが発生します。
株式譲渡は株主が所得税課税を受け、事業譲渡は法人税課税となります。譲受側ののれん償却メリットも勘案し最適手法を選択します。
連帯保証解除は金融機関との覚書を事前に交わし、譲受企業の事業計画を示すことでスムーズに進みます。
労働条件変更は合理的範囲で行い、労働者代表との協議記録を残すことが不可欠です。
店舗評価、税務、労務、設備契約など論点が多いため、専門家チームを組成しデューデリジェンスを実施することでリスクを最小化できます。
段階的リブランディングと顧客ヒアリングでファン離れを防ぎます。
食材規格やサプライヤーが異なる場合、共通化コストを精査し過大評価を回避します。
一定期間の監修継続やレシピ開示を契約で担保し、味の継続性を確保します。
食材共同仕入で原価5%削減、配送ルート統合で物流コスト10%削減、オペレーション標準化で労働生産性15%向上など具体的効果が期待できます。
内装・厨房設備をそのまま活用できるため開業リードタイム短縮と初期投資削減が可能です。
残存耐用年数やメンテナンス履歴を提示し、適正対価を確保します。
統合後はデジタルオーダー端末とモバイル決済で回転率を高め、CRM施策へ展開します。データ分析で来店時間帯を可視化し販促を最適化、海外展開時はハラール対応や言語別メニューを整備して需要を取り込みます。
財務・法務・ビジネス・労務の四面から詳細に確認し、潜在リスクを顕在化させます。
経営方針、KPI、投資計画、コミュニケーション戦略を文書化し、従業員と顧客に安心感を与えることが成功の近道です。
外食M&Aは2024年に過去最多を記録し、2025年も高水準が続く見込みです。投資意欲復活と実力値の可視化が追い風ですが、買い手リソースや統合負荷に注意が必要です。ブランド力と固定ファンを持つ企業は高評価を得やすく、税務・法務・PMIを専門家と連携しリスクを抑えることが成功のカギ。チェックリストで居抜き利点を最大化しましょう。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事