金融業界のM&A最新動向を詳しく解説。業界再編やフィンテック企業の買収など、注目のトレンドを紹介。成功のポイントや具体的な事例も交えて、金融M&Aの全体像を把握できます。
目次
金融業界は、資金の貸し借りや仲介を行う事業者が集まる産業分野です。この業界は、経済活動の基盤となる重要な役割を果たしています。ここでは、金融業界の定義や分類、市場規模について詳しく見ていきましょう。
総務省は金融業を「資金の貸し手と借り手の間に立って資金の融通を行う事業所及び両者の間の資金取引の仲介を行う事業所」と定義しています。つまり、お金の流れを円滑にする役割を担う事業者が金融業に該当します。
この定義に基づくと、銀行や証券会社、保険会社などが典型的な金融業の例といえます。これらの事業者は、個人や企業の資金需要に応えたり、資産運用の機会を提供したりしています。
日本標準産業分類では、金融業はより詳細に分類されています。具体的には以下の6つの業種に分けられています。
1. 銀行業
2. 協同組織金融業
3. 貸金業、クレジットカード業等非預金信用機関
4. 金融商品取引業、商品先物取引業
5. 補助的金融業等
6. 保険業(保険媒介代理業、保険サービス業を含む)
この分類からわかるように、金融業界は非常に幅広い業種を含んでいます。各業種はそれぞれ特有の役割を持ち、経済活動を支えています。
金融業界の市場規模は非常に大きく、日本経済において重要な位置を占めています。業界動向サーチが公表しているデータによると、2021年から2022年にかけての金融業界の規模は64.4兆円に達しました。これは前年比で6.3%の増加となっています。
特に好調だったのは以下の分野です。
• リース業
• 損害保険業
• 証券業
一方で、消費者金融は若干のマイナスとなりましたが、銀行業や生命保険業なども増加傾向にあります。全体として、金融業界は拡大を続けているといえるでしょう。
このような大規模な市場を持つ金融業界では、M&A(合併・買収)も活発に行われています。
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
金融業界は、経済環境の変化や技術革新により、さまざまな課題に直面しています。ここでは、特に重要な2つの課題について詳しく見ていきましょう。
日本銀行が導入したマイナス金利政策は、金融機関の収益に大きな影響を与えています。この政策下では、金融機関が日本銀行に預ける一部の資金に対して、利息を支払う必要があります。
マイナス金利政策の影響:
1. 貸出金利の低下:企業や個人向けの貸出金利が低下し、利ざやが縮小
2. 預金金利の低下:預金者への金利支払いも減少するが、ゼロ以下にはできない
3. 資金運用の難しさ:安全かつ収益性の高い運用先を見つけることが困難に
これらの結果、多くの金融機関が収益の悪化に悩まされています。対策として、手数料の見直しや業務効率化などが進められていますが、抜本的な解決には至っていません。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の活用は、金融業界にとって避けて通れない課題となっています。顧客ニーズの変化や競争の激化に対応するため、最新技術を活用したサービス提供が求められています。
DX活用の主な目的:
1. 業務効率化:AI・RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による作業の自動化
2. 顧客サービスの向上:ビッグデータ分析による個別ニーズへの対応
3. 新規サービスの開発:ブロックチェーン技術を活用した新しい金融サービスの創出
しかし、多くの金融機関では古いシステムの使用が続いており、DX推進の障壁となっています。また、DX人材の確保や育成も大きな課題となっています。
これらの課題に対応するため、金融業界では様々な取り組みが行われています。その一つが、M&A(合併・買収)を活用した経営基盤の強化や技術獲得です。
金融業界では、様々な課題に対応するため、M&A(合併・買収)が活発に行われています。ここでは、金融業界におけるM&Aの主な動向について解説します。
金融業界では、経営基盤の強化や競争力向上を目的とした業界再編が活発化しています。
業界再編の主な理由:
1. コスト削減:重複する業務や拠点の統合による効率化
2. 経営基盤の強化:規模の拡大によるリスク分散と収益力向上
3. 競争力の強化:専門性や地域性を活かした差別化戦略の実現
特に、地方銀行や信用金庫などの地域金融機関では、人口減少や低金利環境による収益悪化に対応するため、合併や経営統合の動きが目立っています。
フィンテック(FinTech)の台頭により、従来の金融機関は新たな技術やサービスの獲得を迫られています。そのため、フィンテック企業の買収や出資を通じて、先端技術やノウハウを取り込む動きが増えています。
フィンテック企業買収のメリット:
1. 技術力の向上:AI、ブロックチェーンなどの最新技術の獲得
2. 顧客体験の改善:使いやすいアプリやオンラインサービスの提供
3. 新規事業の展開:従来の金融の枠を超えた新しいサービスの創出
大手金融機関だけでなく、中小規模の金融機関もフィンテック企業とのアライアンスやM&Aを積極的に進めています。
日本国内の市場が成熟化する中、成長機会を求めて海外進出を図る金融機関が増えています。その手段として、M&Aが活用されているのです。
海外M&Aのメリット:
1. 市場拡大:新たな顧客基盤の獲得と事業規模の拡大
2. リスク分散:地域や事業の多角化によるリスク軽減
3. 現地ノウハウの獲得:進出先の市場特性や規制に関する知見の取得
特に、成長が見込まれるアジア地域を中心に、銀行や保険会社による海外金融機関の買収が増加しています。
これらのM&A動向は、金融業界の構造変化を加速させています。しかし、M&Aを成功させるためには、適切な戦略と実行が不可欠です。
金融業界でM&Aを成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、特に重要な2つのポイントについて詳しく解説します。
M&Aを成功に導くためには、適切なタイミングで実施することが極めて重要です。金融業界は経済環境や規制の変化に敏感であり、これらの要因がM&Aの成否に大きく影響します。
適切なタイミングを見極めるポイント:
1. 自社の経営状況:財務体質が健全で、余裕があるときが理想的
2. 対象企業の状況:業績好調時の買収は高額になりがちだが、将来性も考慮
3. 市場環境:金融規制の変更や技術革新のタイミングを見計らう
4. 競合他社の動向:業界再編の波に乗り遅れないよう注意
特に売り手が有利な条件でM&Aを行うには、自社の経営状態が良好なタイミングを選ぶことが重要です。そのためには、常日頃から業界動向や自社の位置づけを分析し、M&Aの機会を見逃さない姿勢が求められます。
金融業界のM&Aは、一般的なM&Aと比べてより複雑で専門的な知識が必要となります。そのため、M&Aの専門家に相談することが成功への近道となります。
M&A専門家に相談するメリット:
1. 法的リスクの回避:金融関連法規や規制に精通した専門家のアドバイスにより、法的問題を回避
2. 適切な価値評価:金融機関特有の資産や負債を正確に評価し、適正な取引価格を設定
3. 効率的なプロセス管理:M&Aの各段階で必要な手続を漏れなく実施
4. ネットワークの活用:幅広い情報網を通じて、最適な買収先や売却先を見つけやすい
特に、金融業界に強い仲介会社や専門家を選ぶことが重要です。自社の規模や目的に合った専門家を選定し、綿密な相談を重ねることで、M&Aの成功確率を高めることができます。
これらのポイントを押さえつつM&Aを進めることで、より大きな成果を得られる可能性が高まります。
ライザップのM&A戦略は、急速な成長をもたらした一方で、財務面での課題や経営の複雑化を引き起こしました。「負ののれん」の利益計上問題、買収企業の経営改善の困難さ、異業種企業へのM&A展開などが失敗の要因となりました。現在は事業の選択と集中を進め、美容・ヘルスケア分野を中心に、ライフスタイル全般をサポートする総合的なサービス提供を目指しています。
福井県を拠点とする2つの地方銀行、福井銀行と福邦銀行のM&A事例を見てみましょう。
M&Aの概要:
• 実施時期:2021年
• 形態:資本業務提携
• 目的:持続的な地域発展とサービス向上
この事例の特徴:
1. 地域密着型:同じ地域の銀行同士の統合により、地域経済への貢献を強化
2. 経営基盤の強化:経営資源の統合による効率化と競争力向上
3. サービス拡充:両行の強みを活かした新しいサービスの開発
このM&Aにより、福井県内での金融サービスの充実と、経営効率の向上が期待されています。
次に、IT企業のCAICAと暗号資産関連企業のZaif Holdingsの事例を見てみましょう。
M&Aの概要:
• 実施時期:2021年
• 形態:株式譲渡と第三者割当増資
• 目的:ブロックチェーン関連事業の強化
この事例の特徴:
1. 異業種間の統合:IT技術と金融サービスの融合
2. フィンテック強化:暗号資産事業への本格参入
3. シナジー効果:両社の技術や知見を活かした新サービスの開発
このM&Aは、急成長する暗号資産市場への参入を目指すIT企業の戦略的な動きといえます。
最後に、総合金融サービス企業のマネックスグループと仮想通貨取引所のコインチェックの事例を紹介します。
M&Aの概要:
• 実施時期:2018年4月
• 形態:株式譲渡(完全子会社化)
• 目的:仮想通貨交換業への参入
この事例の特徴:
1. 新規事業への参入:既存の金融サービスに加え、仮想通貨事業を獲得
2. リスク管理の強化:マネックスグループの管理体制をコインチェックに導入
3. 顧客基盤の拡大:若年層を中心とした新たな顧客層の獲得
このM&Aは、既存の金融機関が新しい金融技術や市場に対応するための戦略的な動きとして注目されました。
これらの事例から、金融業界のM&Aが単なる規模拡大だけでなく、新技術の獲得や新規事業への参入、地域貢献など、様々な目的で行われていることがわかります。各社の戦略や市場環境に応じて、適切なM&A手法を選択することが重要です。
金融業界のM&Aは、業界再編や新技術獲得、海外展開など様々な目的で活発化しています。成功のカギは適切なタイミングの見極めと専門家の活用にあります。事例から学びつつ、自社の戦略に合わせたM&Aを検討することが重要です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事