Powered by みつき税理士法人

民事再生M&Aで企業再建への手続と成功へ導く具体策を解説

民事再生とM&Aを組み合わせると、経営難でも事業を続けながら再建を図ることができますか?――その答えは「はい」です。本記事では、スポンサー型再生を中心に、手続のステップ、費用、成功ポイントを具体的に紹介します。

目次

  1. 民事再生とは経営難企業が事業継続しながら再建する法的手続
  2. 民事再生の3つの方法と特徴
  3. 民事再生手続の流れは申立から計画認可まで約6ヶ月
  4. 民事再生のメリットは事業継続と債務圧縮を両立できる点
  5. 民事再生のデメリットは信用低下や資金調達の制約
  6. 民事再生を成功に導く4つのポイント
  7. 民事再生における重要な留意事項
  8. 民事再生にかかる費用と準備の進め方
  9. プレパッケージ型民事再生はスポンサー確保で再建を加速
  10. まとめ

民事再生M&Aで企業再建への手続と成功へ導く具体策を解説

民事再生とは経営難企業が事業継続しながら再建する法的手続

民事再生は、資金繰りの行き詰まりや債務超過に直面する企業が事業を止めずに再建を図る裁判所主導の仕組みです。再生債務者が主体となり、裁判所と債権者が適切に関与することで、事業の価値と雇用を守りながら負債整理を進めます。法人だけでなく個人事業主も利用でき、財産を一定程度残せるため、再スタートへのハードルが比較的低い点が特色です。

事業継続性など民事再生の5つの特徴

  1. 事業を続けながら再建できるため、顧客・従業員の離脱を抑えられる
  2. 適用対象は法人と個人事業主の双方
  3. 債務整理後も必要最低限の財産を保持可能
  4. 経営陣の退任は必須条件ではなく、経験を活かして立て直せる
  5. 当事者主導型で、裁判所は仲介役に徹する

これらの特徴により、企業は時間を確保しつつ再建計画の実行に専念できます。

破産・特別清算との違いは目的と事業継続性

破産や特別清算は事業を停止し資産を処分して債務を清算します。一方、民事再生は「会社を残す」ことが目的です。申立後も営業を行い、顧客や取引先との契約を維持できるため、ブランドや信用を失わずに済む可能性が高まります。また、破産では管財人が全権を握るのに対し、民事再生では経営陣が主導で再建を進める点も大きく異なります。

会社更生との違いは適用対象と経営陣交代要否

会社更生は株式会社のみを対象とし、原則として旧経営陣の退任が必須です。また、大規模企業向けで手続が複雑になる傾向があります。一方、民事再生は中小企業にも適用しやすく、経営陣が続投できるため、現場感覚を失わずに改革を進められる点が強みです。ただし担保権者の権利行使が制限されないため、個別交渉が必要になるケースがあります。

民事再生の3つの方法と特徴

民事再生には、自力再建型・清算型・スポンサー型(M&A型)の3つの出口があります。企業の規模や財務状況、経営資源に応じて選択肢を見極めることが重要です。

自力再建型は債務圧縮後に自社の力で返済する方法

自力再建型は、外部の支援に頼らず債務を圧縮したうえで自社のキャッシュフローで返済を進める形態です。第三者の介入が最小限で独立性を保てる半面、追加資金の確保や信用回復に時間がかかり、抜本的な経営改革が求められます。資金繰りの見通しが立つ小規模企業に適しています。

清算型は採算事業を譲渡し残余を清算して債務を弁済

清算型では、採算部門を事業譲渡や会社分割で外部に譲り渡し、残った不採算部門を清算します。複数事業を抱える企業が、一部に価値ある事業を残す場合に有効です。事業価値を最大化しつつ債権者配当を確保できますが、会社の法人格は最終的に消滅するため、従業員の配置転換や再雇用計画が欠かせません。

スポンサー型(M&A型)は外部資本とノウハウを活用し再生確率を高める方法

スポンサー型では、資金力や経営資源を持つスポンサー企業が出資し、運転資金やDIPファイナンスを提供します。信用力の向上、経営ノウハウの注入、債権カットの実現など多面的な効果が期待でき、三類型の中で最も成功確率が高いとされています。スポンサー候補には同業大手、異業種の地元有力企業、金融機関系ファンド、投資ファンドなどがあり、M&A仲介会社を通じた入札方式やプレパッケージ方式で選定が進みます。

民事再生手続の流れは申立から計画認可まで約6ヶ月

手続は大きく次のような段階に分かれます。

  • 専門家へ相談し、申立代理人となる弁護士を決定。
  • 地方裁判所へ申立を行い、予納金を納付。
  • 裁判所は弁済禁止の保全処分を下し、監督委員を選任。
  • 債権者説明会を開催して協力を要請し、開始決定後に債権届出と債権調査の実施。
  • 財産評定と再生計画案の策定を進め、債権認否書を提出。
  • 債権者集会で可決され、裁判所が認可すると、計画の実行フェーズに移行。

通常、申立から認可まで5〜6ヶ月を要し、この期間の資金繰り対策が鍵となります。

民事再生のメリットは事業継続と債務圧縮を両立できる点

民事再生では、現経営体制のまま事業が続けられます。債務は再生計画で大幅に減額でき、弁済期間も延長可能です。さらに、預金と債務の相殺禁止により手元資金を確保しやすく、裁判所の保護下で個別請求を防げるため、計画に集中できるメリットがあります。

民事再生のデメリットは信用低下や資金調達の制約

倒産手続の一種であるため、取引先の信用不安やブランドイメージ悪化が避けられません。担保権者が権利行使できるため、財産を保持するには個別交渉が必要です。債務免除益課税が生じる場合もあり、弁護士費用や予納金も高額です。手続期間中は新規借入が難しいことから、スポンサーやDIPファイナンス活用を検討する必要があります。

民事再生を成功に導く4つのポイント

民事再生を単なる延命ではなく「真の再建」に変えるには、以下の4点を総合的に実践することが不可欠です。

スポンサー型(M&A型)の活用で外部資本と知見を取り込む

スポンサー型は、資金調達・信用力向上・経営ノウハウの獲得を同時に実現でき、再生計画の可決率を高めます。債権者は再建の実現性が高まるほど債権カットに応じやすくなるため、早期のスポンサー探索が重要です。

実現可能な経営戦略を数値付きで策定しモニタリングする

現状分析で課題を「売上拡大」「コスト削減」に分類し、数値目標と期限を設定します。短期施策(キャッシュ確保)と中長期施策(ビジネスモデル転換)を併記し、月次で達成度を検証・修正するPDCA体制を敷くことで計画の形骸化を防げます。

資金繰り対策としてDIPファイナンスや不要資産売却を併用

手続期間は5〜6ヶ月に及ぶため、その間の運転資金確保が生命線です。事前にDIPファイナンス枠を設定し、在庫圧縮や遊休資産売却で追加キャッシュを捻出します。スポンサー候補と協議し短期融資保証を得る方法も有効です。

ステークホルダーとの透明なコミュニケーションで信頼を維持

債権者・従業員・取引先に対し、再建の目的・手順・進捗を定期的に開示します。特に従業員は技能と知識の担い手であり、処遇方針を明確に示すことでモチベーション低下と離職を防ぎます。

民事再生における重要な留意事項

成功率を高めるには、法的ルールと実務上の論点を的確に押さえる必要があります。

経営陣交代は債権者・スポンサー・裁判所の要請に備える

経営責任を問う声が強い場合やスポンサーが刷新を条件とする場合には、外部経営者招聘を含む交代シナリオを準備します。交代は企業イメージ刷新に寄与しますが、現場の知見喪失リスクもあるため、引継ぎ計画を同時に策定します。

従業員処遇は雇用維持とリストラのバランスが鍵

民事再生では原則雇用が継続されますが、事業譲渡や部門縮小に伴い配置転換や希望退職が必要になる場合があります。退職金・未払給与は優先債権として扱われるため、支払原資の確保と労使間の丁寧な交渉が欠かせません。

弁済禁止による現金決済化への対応

弁済禁止期間中は取引先から現金決済を求められるケースが増えます。主要サプライヤーとは個別に覚書を締結し、裁判所の許可を得た少額弁済や保証付取引を提案して取引継続を図ります。

申立却下リスクを避けるため事前要件をチェック

予納金未納、計画策定見込みの欠如、破産の方が債権者利益に適合する場合などは却下要因となります。申立前に財務シミュレーションを行い、破産より高い弁済率と実現可能な再生計画を提示できるか確認します。

民事再生にかかる費用と準備の進め方

手続費用は予納金・専門家報酬・雑費に大別されます。

予納金は負債総額に比例し200万〜1,300万円

たとえば負債10億円の場合は600万円が目安です。裁判所によっては分割納付も認められますが、開始決定までに全額納付が原則となるため、スポンサーや金融機関と調整し資金を手当てします。

弁護士報酬は予納金の2〜10倍が相場

着手金は予納金相当、成功報酬は着手金の2倍程度が一般的です。案件の複雑さや利害関係者の数で変動するため、複数の見積を比較し、報酬と成果物範囲を契約書に明記します。

雑費は郵券・収入印紙・交通費などで数万円規模

郵券3,880円、収入印紙1万円のほか、書類提出や債権者説明会開催に伴う実費が発生します。見落としがちな費用も含めた資金繰り表を作成し、支払タイミングを管理します。

費用対効果を検証し余裕資金を確保

再生後の事業価値と比較し費用が過大でないか検討します。予備費を含めたキャッシュフロー計画を立て、想定外支出に備えることが成功率を高めます。

プレパッケージ型民事再生はスポンサー確保で再建を加速

プレパッケージ型は、再生計画とスポンサーを申立前に確保する手法で、通常型に比べ手続期間を短縮し企業価値毀損を抑えられます。

事業スポンサーとファイナンシャルスポンサーの役割を区別

事業スポンサーはシナジーを目的に事業を引き継ぎ、経営支援を行います。ファイナンシャルスポンサーは投資回収を目的に資金提供し、経営は現陣営や専門家に任せるケースが多いです。企業の再建目的に合わせ、適切なタイプを選定します。

スポンサー確保の4ステップと実務ポイント

  1. 業界ネットワークや専門家紹介で候補リストを作成
  2. 財務・事業デューデリジェンスを実施し提示条件を精緻化
  3. ロックアップ契約で支援表明を文書化し計画骨子に反映
  4. 裁判所申立と同時に計画を提出し迅速な認可を得る

準備段階のコストと時間を正確に見積る

計画策定・スポンサー交渉・デューデリジェンスに要する専門家費用が追加で発生しますが、手続後の時間短縮と信用維持効果を考慮すると費用対効果は高い場合が多いです。

法的整理手続と私的整理手続の選択眼

裁判所の強制力を活用できる法的整理は債権者間調整が容易ですが、費用と公開性の負担が増します。私的整理は柔軟かつ非公開で進められる半面、全債権者の合意が得られないと頓挫します。企業の規模・負債構造・利害関係者数を踏まえ、弁護士と協議して選択します。

まとめ

民事再生は、事業を止めずに債務を整理し再建を図れる強力な制度です。中でもスポンサー型やプレパッケージ型は外部資本・ノウハウを活用でき、成功確率が高まります。費用、資金繰り、ステークホルダー対応を事前に把握し、実現可能な再生計画と透明な情報開示を行うことで、企業は持続可能な成長軌道へ復帰できます。

著者|土屋 賢治  マネージャー/M&Aアドバイザー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

相続の教科書