民事再生とM&Aの関係性を解説。スポンサー型再生の特徴や成功のポイント、手続の流れ、メリット・デメリット、費用など、企業再建に必要な情報を網羅的に紹介します。
目次
民事再生は、経営難に陥った企業が事業を継続しながら再建を図るための法的手続です。この制度は、債権者の同意と裁判所の認可を経て再生計画を策定し、債務者と債権者の権利関係を調整することで、債務者の事業・経営・生活の再生を目指します。
民事再生の主な特徴は以下の通りです:
1. 事業継続性:手続中も事業を継続しながら再建を進められます。
2. 適用範囲:法人だけでなく、個人事業主も利用可能です。
3. 財産保持:債務整理後も一定の財産を残すことができます。
4. 経営陣の継続:必ずしも経営陣の交代を必要としません。
5. 主体性:再生債務者が主体となり、裁判所が仲介役を務めます。
民事再生は、企業の存続を前提とし、会社の財産や債権者との関係を維持しながら再建を目指す点が特徴的です。
民事再生は、破産や特別清算とは大きく異なる性質を持っています。主な相違点は以下の通りです:
1. 目的の違い:
o 民事再生:会社の存続と再建を目指します。
o 破産・特別清算:会社の閉鎖を前提とした清算型の手続です。
2. 事業継続性:
o 民事再生:申立後も事業を継続します。
o 破産・特別清算:申立と同時に事業が停止します。
3. 財産の処分:
o 民事再生:会社の財産は基本的に維持されます。
o 破産・特別清算:会社の財産は処分されます。
4. 債権者との関係:
o 民事再生:債権者との法的関係は継続します。
o 破産・特別清算:債権者との法的関係は終了します。
5. 手続の主体:
o 民事再生:経営陣が裁判所の監督下で再建を進めます。
o 破産・特別清算:裁判所が指名した管財人や清算人が手続を進めます。
これらの違いにより、民事再生は事業の継続性を重視した再建型の手続として位置づけられています。
▶目次ページ:事業承継とは(事業再生)
民事再生と会社更生は、いずれも再建型の法的手続ですが、いくつかの重要な違いがあります:
1. 適用対象:
o 民事再生:法人、個人事業主のいずれも対象となります。
o 会社更生:株式会社のみが対象です。
2. 経営陣の扱い:
o 民事再生:原則として経営陣の交代は必須ではありません。
o 会社更生:旧経営陣の退任が必須となります。
3. 手続の規模:
o 民事再生:中小企業向けの比較的簡易な手続です。
o 会社更生:大企業向けのより複雑な手続です。
4. 債権者の権利:
o 民事再生:担保権者の権利行使が制限されません。
o 会社更生:担保権者を含むすべての債権者の権利行使が制限されます。
5. 手続の流れ:
o 民事再生:債務者が主導で再生計画を作成します。
o 会社更生:裁判所が選任した管財人が再建計画を作成します。
これらの違いを理解することで、企業の規模や状況に応じて適切な再建手続を選択することができます。
民事再生法に基づく手続には、主に3つの方法(出口)があります。企業の状況や目的に応じて、最適な方法を選択することが重要です。
自力再建型は、主に小規模企業で利用される再生手続です。
特徴:
1. 債務の圧縮:再生会社の債務を削減します。
2. 自社による返済:圧縮された債務を自社の力で返済していきます。
3. 外部関与の最小化:第三者の関与を最小限に抑えられます。
課題:
1. 資金調達の困難:新規の資金調達が難しい場合があります。
2. 信用回復の時間:取引先や金融機関からの信用回復に時間がかかる可能性があります。
3. 経営改革の必要性:抜本的な経営改革が求められることが多いです。
自力再建型は、企業の独立性を保ちつつ再生を図れる一方で、十分な経営資源や改革能力が必要となります。
清算型は、企業の一部または全部を清算しながら債務を弁済する方法です。
概要:
1. 事業の選別:採算部門と不採算部門を分離します。
2. 事業譲渡または会社分割:採算部門の一部または全部を他社に譲渡します。
3. 清算手続:残りの部分を清算し、債務を弁済します。
適用ケース:
1. 複数事業展開企業:異なる収益性を持つ複数の事業を展開している企業
2. 一部事業の価値維持:一部の事業に十分な価値がある場合
3. 全体での再建困難:企業全体での再建が困難と判断される場合
清算型は、企業価値の一部を保全しつつ、債務の弁済を行うことができる方法です。
スポンサー型(M&A型)は、外部のスポンサー企業の支援を受けて再生を図る方法です。
仕組み:
1. スポンサー探し:適切な資金提供者(買い手企業)を探します。
2. スポンサーの選定:入札方式やプレパッケージ型で選定します。
3. 資金提供:スポンサーが必要な資金を提供します。
4. 経営支援:場合によっては経営面でも支援を受けます。
利点:
1. 資金調達:再生に必要な資金を確保できます。
2. 信用力向上:スポンサーの信用力を活用できます。
3. 経営資源の獲得:スポンサーの経営ノウハウや人材を活用できます。
4. 再建の確実性:外部支援により再建の可能性が高まります。
スポンサー候補としては、同業大手企業、地元の異業種企業、金融機関系ファンド、投資ファンドなどが考えられます。適切なスポンサーを見つけるために、M&A仲介会社を活用することも有効です。
スポンサー型は、外部の力を借りることで再生の確実性を高められる一方で、経営の自由度が制限される可能性がある点に注意が必要です。
民事再生手続は、一般的に5~6ヶ月程度の期間を要します。以下に、その具体的な流れを順を追って説明します。
1. 準備期間
o 専門家(弁護士など)との相談
o 申立代理人となる弁護士の選任
o 裁判所への提出書類の準備
2. 再生手続開始の申立て
o 管轄地方裁判所への申立て
o 予納金の納付準備
3. 監督委員の選任と保全処分の決定
o 裁判所による弁済禁止の保全処分決定
o 民事再生の専門家(弁護士)を監督委員として選任
4. 債権者への説明会開催
o 債権者の理解と協力を得るための重要な機会
o 今後の協力体制構築の基礎となる
5. 再生手続開始決定と債権調査
o 申立てから1~2週間程度で裁判所が決定
o 債権者による債権の届出
o 債権の金額・原因などの調査
6. 財産評定、再生計画案の策定、債権認否書の提出
o 所有財産の価額評定
o 再生計画案の作成
o 届出債権の認否
7. 再生計画案の可決と認可、再生計画の実行
o 債権者集会での議決(人数で過半数、債権額で2分の1以上の賛成が必要)
o 裁判所による再生計画案の認可
o 認可された再生計画の実行
この一連の流れを通じて、企業の再生が図られていきます。各段階で適切な対応と準備が求められるため、専門家のサポートを受けながら進めることが重要です。
民事再生には、企業再建のための様々な利点がある一方で、いくつかの課題も存在します。以下に主なメリットとデメリットを詳しく説明します。
1. 事業継続性の確保
o 現経営体制のまま事業を存続できます。
o 経営権を保持しながら再建を進められます。
2. 債務の圧縮が可能
o 再生計画認可により、債務の大幅な減額が可能です。
o 弁済期間の延長も実現できます。
3. 必要資金と契約の維持
o 預金口座に入金された資金と金融機関の債権との相殺が禁止されます。
o 事業再建や継続に必要な手元資金を維持できます。
4. 法的保護下での再建
o 裁判所の監督下で再建を進められるため、債権者からの個別の請求を防ぐことができます。
5. 柔軟な再建計画
o 企業の状況に応じて、柔軟な再建計画を策定できます。
1. 社会的信用・ブランドイメージの低下
o 倒産手続の一種であるため、企業イメージが悪化する可能性があります。
o 取引先や顧客との関係に影響を及ぼす可能性があります。
2. 担保財産回収のリスク
o 担保権付債権については権利行使が認められるため、財産を回収される可能性があります。
o 担保権の行使を防ぐには、個別の交渉が必要です。
3. 債務免除課税の発生
o 債務の圧縮により、債務免除益課税が発生する可能性があります。
o 税務上の対策が必要となる場合があります。
4. 手続にかかる費用
o 弁護士費用や予納金など、手続に関する費用が発生します。
5. 取引条件の悪化
o 信用不安により、仕入れ条件が現金取引になるなど、取引条件が悪化する可能性があります。
6. 資金調達の困難
o 再生手続中は新規の借入れが難しくなる可能性があります。
これらのメリットとデメリットを十分に考慮した上で、民事再生の適否を判断することが重要です。企業の状況や将来の見通しに応じて、最適な再建方法を選択することが求められます。
民事再生を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。以下に、成功確率を高めるための主要な戦略と方法を説明します。
スポンサー型(M&A型)の民事再生は、他の方法と比較して成功可能性が高いとされています。
その理由は以下の通りです:
1. 外部資金の活用:スポンサーからの資金提供により、再生に必要な資金を確保できます。
2. 事業協力の獲得:スポンサー企業のノウハウや経営資源を活用できます。
3. 再生の蓋然性向上:外部支援により再生の可能性が高まり、債権者の同意を得やすくなります。
4. 債権カットの実現:再生の見込みが高まることで、銀行等の債権者も債権カットに応じやすくなります。
自力再生型と比較すると、スポンサー型は外部の力を借りることで、長年の窮境原因を効果的に解決できる可能性が高くなります。
民事再生の本質的な目的は企業の「再建」です。そのためには、効果的な経営戦略の策定が不可欠です。
1. 現状分析:自社の置かれた状況を客観的に分析します。
2. 利益創出計画:「利益」を上げるための具体的な計画を立てます。
o 売上増加策
o コスト削減策
3. 企業価値向上:企業価値の損失を最小限に抑える戦略を考えます。
4. 具体的な行動計画:短期的・中長期的な行動計画を策定します。
5. モニタリング体制:計画の進捗を定期的に確認し、必要に応じて修正する体制を整えます。
効果的な経営戦略がなければ、民事再生は単なる延命措置に終わってしまう可能性があります。
再生計画案は、民事再生の成否を左右する重要な要素です。以下のポイントに注意して作成することが重要です:
1. 実現可能性:無理のない、実現可能な計画を立てます。
2. 収益性:将来的な収益確保の見込みを明確に示します。
3. 債権者メリット:破産よりも多くの債権回収が可能であることを示します。
4. バランス:債権者間の公平性を保ちつつ、事業継続に必要な資金も確保します。
5. 具体性:抽象的な表現を避け、具体的な数値目標や行動計画を盛り込みます。
6. 透明性:財務状況や再建策を明確に開示し、債権者の信頼を得ます。
適切な再生計画案を作成することで、裁判所や債権者の理解と協力を得やすくなります。
民事再生手続中は、通常5ヶ月以上の期間がかかり、その間の資金繰りが大きな課題となります。以下の対策を検討することが重要です:
1. 事前のスポンサー調査:手続開始前からスポンサー候補を探し、支援の可能性を探ります。
2. DIPファイナンス:再生中の企業向けの融資制度を活用します。
3. 資産の売却:不要資産の売却により資金を確保します。
4. 経費削減:不要不急の支出を徹底的に見直します。
5. 取引条件の再交渉:仕入先や賃貸人との取引条件を再交渉します。
6. 債権回収の強化:滞留債権の回収を強化します。
7. 運転資金の最適化:在庫管理の効率化などにより、運転資金を最小限に抑えます。
資金繰り問題を適切に解決することで、再生手続を円滑に進めることができます。
これらのポイントを押さえつつ、専門家のアドバイスを受けながら民事再生を進めることで、成功の可能性を高めることができます。
民事再生を進める上で、いくつかの重要な留意点があります。これらを十分に理解し、適切に対処することで、より円滑な再生手続を実現できます。
民事再生では通常、経営陣の変更は必須ではありませんが、状況によっては経営陣の交代が必要となる場合があります。
1. 債権者の信頼回復:多くの債権者の納得を得るために、経営陣の退任が求められることがあります。
2. 新たな経営視点の導入:再建を確実にするため、外部から新たな経営者を招聘する場合があります。
3. スポンサーの要求:スポンサー型再生の場合、スポンサー企業が経営陣の交代を条件とすることがあります。
4. 裁判所の判断:裁判所が再生の可能性を高めるために経営陣の交代を求める場合もあります。
経営陣の交代は、企業のイメージ刷新や信頼回復につながる可能性がある一方で、事業の継続性や従業員のモチベーションに影響を与える可能性もあります。状況に応じて慎重に判断する必要があります。
民事再生手続中の従業員の処遇は、再生の成否に大きく関わる重要な問題です。
1. 基本的な雇用継続:民事再生は事業継続を前提とするため、原則として従業員は引き続き勤務可能です。
2. 技能・知識の重要性:従業員の技能や知識が企業の重要な資産である場合、彼らの退職を防ぐ努力が必要です。
3. リストラの可能性:スポンサー型再建の場合、出資者からのリストラ要求があることもあります。
4. 事業譲渡時の対応:事業の一部を他社に譲渡する場合、譲渡されない部門の従業員が解雇される可能性がありま
す。
5. 労働債権の扱い:解雇される場合、退職金や給与は優先的な債権として扱われます。
6. コミュニケーションの重要性:従業員との適切なコミュニケーションを維持し、不安を軽減することが重要です。
従業員の処遇については、法的な側面だけでなく、モラルや企業の将来的な発展を考慮して慎重に対応する必要があります。
民事再生手続中は、一定額以下の少額債権を除いて、債権者への弁済が禁止されます。これは重要な法的効果ですが、同時にいくつかの課題も生じます。
1. 取引先への影響:商取引債権者も弁済禁止の対象となるため、取引先から「倒産した」というマイナスイメージを
持たれる可能性があります。
2. 信用取引の困難:弁済禁止により、多くの取引が現金決済ベースとなる可能性があります。
3. 取引継続の交渉:重要な取引先との関係維持のため、個別に交渉が必要となることがあります。
4. 資金繰りへの影響:現金決済が増えることで、資金繰りが厳しくなる可能性があります。
5. 例外的な弁済:事業継続に不可欠な少額の債務については、裁判所の許可を得て弁済できる場合があります。
弁済禁止の影響を最小限に抑えるためには、取引先との丁寧なコミュニケーションや、裁判所・監督委員との緊密な連携が重要です。
民事再生は全ての企業が利用できるわけではなく、一定のハードルがあります。以下の場合、申立てが却下されるリスクがあります:
1. 再生手続費用の予納がない場合
2. 破産手続または特別清算手続の方が債権者の利益に適合する場合
3. 再生計画案の作成・可決の見込み、または再生計画の認可の見込みがない場合
4. 不当な目的で申立てがされた場合、または申立てが誠実でない場合
さらに、再生手続開始後も、以下の場合には破産手続に移行する可能性があります:
1. 再生手続廃止の決定が確定した場合
2. 再生計画不認可の決定が確定した場合
3. 再生計画取消しの決定が確定した場合
これらのリスクを回避するためには、十分な準備と適切な計画立案が不可欠です。専門家のアドバイスを受けながら、慎重に手続を進めることが重要です。
民事再生手続を進める際には、様々な費用が発生します。これらの費用を事前に把握し、適切に準備することが重要です。以下に、主な費用項目とその詳細を説明します。
1. 予納金 予納金は、裁判所にあらかじめ納める必要がある金額で、負債総額に応じて決定されます。
予納金は原則として手続開始決定までに全額を納付する必要がありますが、裁判所によっては分割払いが認められる場合もあります。
裁判所へあらかじめ納めるべき金額は以下の通りです。
負債総額 |
納付金額 |
5,000万円未満 |
200万円 |
5,000万円以上1億円未満 |
300万円 |
1億円以上5億円未満 |
400万円 |
5億円以上10億円未満 |
500万円 |
10億円以上50億円未満 |
600万円 |
50億円以上100億円未満 |
700万円 |
100億円以上250億円未満 |
900万円 |
250億円以上500億円未満 |
1,000万円 |
500億円以上1,000億円未満 |
1,200万円 |
1,000億円以上 |
1,300万円 |
負債総額に応じた予納金
2. 専門家への報酬 民事再生手続では、弁護士や司法書士などの専門家のサポートが必要不可欠です。これらの専門家
への報酬は、以下のような傾向があります:
• 報酬体系:負債総額に応じて変動することが一般的です。
• 金額の目安:予納金の2倍から10倍の間で設定されることが多いです。
• 業務量による変動:案件の複雑さや必要な業務量に応じて変動する場合もあります。
3. その他の費用
• 郵券代:3,880円
• 収入印紙代:10,000円
• その他雑費:書類作成費用、交通費など
これらの費用は案件によって変動する可能性があるため、事前に専門家と相談し、具体的な見積もりを取ることをお勧めします。
費用の準備にあたっての注意点:
1. 十分な資金の確保:手続中の運転資金も含めて、十分な資金を確保しておくことが重要です。
2. 費用対効果の検討:民事再生にかかる費用と、再生によって得られる利益を比較検討することが必要です。
3. 支払いのタイミング:各費用の支払いタイミングを把握し、計画的に準備することが重要です。
民事再生にかかる費用は決して少なくありませんが、これらの費用を適切に管理し、効果的に活用することで、成功的な企業再生につながる可能性が高まります。
民事再生は、経営難に陥った企業が事業を継続しながら再建を図るための重要な法的手段です。その特徴、手続の流れ、メリット・デメリット、成功のポイント、留意事項、費用などを理解することが、効果的な活用につながります。特に、スポンサー型(M&A型)の民事再生は高い成功可能性を持ち、外部の力を借りることで効果的な再生を図れる可能性があります。ただし、社会的信用やブランドイメージの低下、資金繰りの難しさなどの課題もあるため、慎重な検討と専門家のサポートが不可欠です。企業の状況に応じて最適な再生方法を選択し、適切な計画立案と実行により、成功的な企業再生を実現することが可能となります。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画