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医療法人M&Aの手法のポイントと最新動向価格相場を解説

医療法人M&Aは特殊なルールが多く、何から手を付けるべきか迷う方も多いでしょう。この記事では後継者問題の実態から承継スキーム、価格相場、成功事例までを一挙に解説し、初めての方でも安心して次の一手を考えられるようガイドします。

目次

  1. 医療法人M&Aが注目される背景を知る
  2. 医療法人M&Aで解決できる三つの課題
  3. 一般企業M&Aとの違いを理解する
  4. 医療法人M&Aの基本プロセスを押さえる
  5. 医療法人M&Aの主要スキームを整理する
  6. 医療法人M&Aの価格相場を理解する
  7. 医療法人M&Aの具体的事例から学ぶ
  8. 医療法人M&Aを成功させるための注意点
  9. 医療法人M&Aをサポートする仲介会社の選定基準
  10. 医療法人M&Aの価値算定手法を比較する
  11. 医療法人M&Aで必要となる行政手続を整理する
  12. 医療法人M&A成功のための人材と診療科目のチェックポイント
  13. 医療法人M&Aをスムーズに進めるタイムラインの作り方
  14. 医療法人M&A実務Q&Aで疑問を解消する
  15. 医療法人M&Aで挫折しないためのチェックリスト
  16. 医療法人M&Aでよくある失敗例と回避策
  17. 医療法人M&Aを成功へ導く五つの鍵
  18. まとめ

医療法人M&Aが注目される背景を知る

医療法人M&Aが急速に活発化している主因は、人口減少と高齢化による医療需要の変化、そして理事長世代の高齢化です。総務省統計局によれば2023年時点で65歳以上の人口は29.1%となり、医療サービスの需要は今後も増加が見込まれます。一方で医療法人の後継者不在率は75.9%に達し、多くの法人が事業承継の選択肢としてM&Aを検討しています。医療法人は地域医療の安定供給を担うため、廃院ではなくM&Aによる継続が社会的にも望まれているのです。

理事長は医師資格必須だから承継候補が限定される

医療法人の理事長は医師または歯科医師でなければなりません。そのため親族内に医師がいない場合は承継が困難となります。これが後継者問題を深刻化させM&A需要を後押ししています。

非営利性と行政許認可がM&Aプロセスを複雑化

医療法人は非営利法人であり都道府県知事の許可が必要です。営利企業が直接経営に参画できないため買手は主に他の医療法人や医師グループとなります。行政との調整が不可欠で成約まで半年から一年かかることも珍しくありません。

医療法人M&Aで解決できる三つの課題

医療法人がM&Aを選択することで後継者問題の解決、専門人材の確保、経営基盤の強化を同時に実現できます。

後継者問題の根本的な解決

理事長交代がスムーズに行えるため長期的な診療体制を維持できます。患者はかかりつけ医を変えずに済み地域医療へも好影響を与えます。

スタッフの雇用と専門人材の確保

人材不足が続く医療業界ではM&Aによって医師や看護師を確保できる点が大きな利点です。従業員の雇用も守られ買手側は即戦力のチームを得られます。

経営基盤の安定と設備投資の促進

資本力のある医療法人に譲渡することで最新設備の導入や新サービスの展開が可能になります。結果として診療の質が向上し収益性の改善も期待できます。

一般企業M&Aとの違いを理解する

医療法人M&Aでは株式会社間の取引とは異なる規制が数多く存在します。それらを理解することは成功への第一歩です。

株式交換・株式移転が適用不可でスキームが限定的

医療法人には株式が存在しないため一般的な株式交換や株式移転は使えません。主な手法は吸収合併、事業譲渡、持分譲渡の3つに限られます。

持分譲渡には旧法医療法人という条件がある

2012年3月末以前に設立された「持分あり医療法人」のみが持分譲渡を利用できます。新法医療法人では社員交代と理事選任で経営権を移す方法が用いられます。

営利法人役員は理事になれず経営参加が間接的

営利企業が買手の場合直接理事になれません。意思決定を伝える派遣社員を置くなどの対策が必要でここでも医療特有のガバナンスが影響します。

医療法人M&Aの基本プロセスを押さえる

ここからは医療法人M&Aの流れをステップごとに見ていきます。

売却方針の決定とアドバイザー選定が出発点

譲渡側は目的を明確にし医療特化のM&A仲介会社を選びます。医療業界は慣習や行政手続が特殊なため経験豊富な専門家の選定が成功を左右します。

買手候補の選定とトップ面談で相互理解を深める

仲介会社が複数の医療法人を紹介し譲渡側が納得できる候補とのトップ面談を行います。診療科目の方針やスタッフ処遇について詳細確認が行われます。

デューデリジェンスでリスクを可視化する

税務・法務・医療機器の適合状況を調査し買手はリスクと価値を評価します。カルテ数推移や診療報酬改定の影響も重要なチェックポイントです。

最終契約の締結と行政手続の同時進行

デューデリジェンスで大きな問題が見つからなければ譲渡価格と引継条件を確定し最終契約を締結します。同時に理事長変更登記や保険医療機関変更届など多数の申請を準備します。病院と診療所では手続書類が異なり地域ごとに運用が細かく分かれるため事前の保健所相談が欠かせません。

関係者への周知とスタッフ説明会を実施

契約締結後は患者、取引先、従業員に対しM&Aを公表します。特にスタッフへの説明は離職を防ぐために重要です。買手側の人事制度やキャリア支援策を明示し安心して働ける環境を示すことが成功の鍵となります。

クロージング後の統合を計画的に進める

クロージング完了後も統合プロジェクトチームが診療体制や経営管理を段階的に合わせていきます。ICT化や共同購買の導入によりコスト削減を実現し地域医療への貢献度を高めることが求められます。

医療法人M&Aの主要スキームを整理する

医療法人の持つ非営利性と医療法上の制約を踏まえ現場で用いられるスキームを以下にまとめます。

吸収合併は病床移動とコスト削減に有効

吸収合併は存続法人と消滅法人が一体化する手法で同一医療圏内の病床を再編しやすいメリットがあります。例えば老朽化病院を閉鎖し医師・看護師を統合先へ配置することで人員効率が向上します。

事業譲渡では地域医療構想調整会議が鍵

事業譲渡は診療所単位で譲渡できる柔軟性がありますが地域医療構想に適合するかを自治体と協議する必要があります。またスタッフは一度退職し再雇用されるため譲渡前に雇用条件を整備し理解を得ることが不可欠です。

持分譲渡はガバナンス変更を伴う段階的承継

持分を譲渡するだけでは経営権が移転しないため社員総会で新理事を選任し定款変更を行います。2分の1議決や3分の2議決が必要となる事項があるため慎重なスケジュール設定が求められます。

医療法人M&Aの価格相場を理解する

譲渡価格は財務内容だけでなく医療機関のブランドや患者基盤、スタッフ定着率で大きく変わります。

時価純資産法は資産と負債の現在価値を評価

土地・建物・医療機器などの時価から負債を差し引く方法で小規模診療所や資産変動の大きい病院で用いられます。

年買法は営業利益の1~5年分を加算する簡便法

収益の安定した法人で用いられるものの実勢価格と乖離するリスクがあるため結果は他の手法で補正するのが一般的です。

プレミアム評価は持分あり医療法人に特有

持分ありの場合希少性や再販性からプレミアムが付くことがあります。ただし将来の法改正で持分価値が低下するリスクを考慮する必要があります。

医療法人M&Aの具体的事例から学ぶ

ここでは原文に掲載された3つの事例を要約し成功のポイントを整理します。

2022年熊谷総合病院が投資ファンドに譲渡

ユニゾン・キャピタルが経営支援を行うことで臨床技術向上と資金調達を両立しました。第三者の専門性を取り込むことで病院は医療サービスの質を維持しつつ成長資金を確保できた好例です。

2021年藤井病院が竜山会に承継され再生

診療報酬の不正請求で信用を失った医院が地域密着の医療法人による買収で再建に成功しました。新理事長のもとガバナンス強化とスタッフ教育を徹底したことが再出発につながりました。

2018年湯池会が徳洲会に吸収合併し共同体制を構築

離島支援に実績がある徳洲会は北谷病院の高齢化問題に対応しながら医師の配置転換で効率化を実現しました。医療圏内での病床の有効活用により地域医療への貢献度が高まった事例です。

医療法人M&Aを成功させるための注意点

医療法人M&Aは手続も多く期間も長いため以下の点を事前に整理して進めることが重要です。

非営利性維持の確認と剰余金の取扱い

買手が営利目的で配当を行うことは認められません。資本政策や資金使途は非営利性を損なわない形で設計する必要があります。

人員配置基準を満たすスタッフ引継ぎ

病棟や診療科によって配置基準が厳格に定められています。大量離職が起きれば診療報酬算定に影響するため譲渡前から懇切な説明と条件整備を行います。

行政相談は早期に開始しスケジュールを逆算する

医療審議会や保健所との協議に時間を要するため目標時期から逆算して書類作成と内部承認を進めることが不可欠です。

医療法人M&Aをサポートする仲介会社の選定基準

長期戦となる医業承継を成功させるには単に買手を探すだけでなく行政対応や医療法の知識を備えた仲介会社が必須です。実績件数、医療専門スタッフの有無、料金体系の透明性を確認し複数社を比較検討しましょう。


以上が医療法人M&Aの骨格となるポイントです。次節では各スキームの詳細手続や価格算定の実務をさらに深掘りしていきます。

医療法人M&Aの価値算定手法を比較する

医療法人の譲渡価格は複数の評価法を組み合わせて決定します。手法ごとの特徴を理解し、結果を相互補完することが適正価格への近道です。

資産基準+営業権方式は過去の蓄積とブランド力を評価

現預金や不動産など換金性の高い資産に、患者からの信頼など無形価値を加算します。資産保有が大きく地域密着型の医療法人で効果を発揮します。

買収事例比較方式は市場相場を反映しやすい

同規模・同診療科目の過去M&A事例を参考に算定します。公開情報が限られる医療法人ではデータ収集が課題となるため、仲介会社の事例データベースが欠かせません。

DCF方式は将来キャッシュフローに着目

将来計画をもとにキャッシュフローを現在価値へ割引きます。詳細な事業計画を策定できる場合に有効ですが、予測値の根拠が甘いと価格の振れ幅が大きくなるため注意が必要です。

時価純資産法と年買法を併用して下限価格を設定

時価純資産法と年買法は資産の安全価値と簡易的な収益価値を示すため、上記3手法の検証用として併用されるケースが一般的です。

医療法人M&Aで必要となる行政手続を整理する

手続きを理解しないまま進めるとクロージングが大幅に遅延します。譲渡形態ごとに必要書類と提出先を把握しましょう。

理事長変更登記と役員変更届はセットで準備

法務局への変更登記後、都道府県へ役員変更届を提出します。医師免許証写しや議事録が必須で不備があると再提出となります。

保険医療機関変更届は厚生局へ速やかに提出

診療報酬の請求に影響するためクロージング直後に提出するスケジュールを組みます。保険医登録票や指定通知書原本を忘れずに添付します。

クリニック個人事業の譲渡では廃止届と開業届を同時進行

保健所・税務署・厚生局へ個人事業廃止と新規開業の届出を行います。法人譲渡と手順が異なるためスケジュールを別建てで管理しましょう。

医療法人M&A成功のための人材と診療科目のチェックポイント

スタッフの確保と科目収益性は買手にとって最大の関心事です。

診療科目の収益性を事前に検証する

慢性疾患を扱う内科やリハビリ科など患者数が安定する科目は高評価を得やすい一方、急性期依存が高い科目は設備投資負担が大きく価格調整の対象になります。。

患者カルテ数と地域人口動態をセットで分析

現在の患者数だけでなく、地域の年齢構成や将来人口を踏まえた推計を資料化し買手の不安を低減します。

スタッフ引継ぎの条件提示で離職リスクを抑える

譲渡前に雇用条件・昇給テーブルを整理し説明会を実施することで離職を最小化できます。人材難の医療業界では最重要ポイントです。

医療法人M&Aをスムーズに進めるタイムラインの作り方

6か月から1年といわれる全体工程を可視化し、遅延要因を先取りします。

着手からクロージングまでの4フェーズを設定

売却方針決定、マッチング、デューデリジェンス、行政手続の4段階に分割し、各フェーズのゴール・提出書類・担当者を明確にします。

行政協議は最終契約の三か月前に始めるのが目安

医療審議会の日程は固定されているため逆算が必要です。資料作成は仲介会社と協力し、回答期限を共有することで関係者の負担を軽減します。

クロージング後3か月は統合モニタリング期間

システム切替や診療報酬請求体制を定点観測し、買手・譲渡側双方が週次で課題を共有すると統合が軌道に乗りやすくなります。

医療法人M&A実務Q&Aで疑問を解消する

現場で頻出する質問をまとめました。

出資持分の譲渡代金は法人で受け取れるか

いいえ。社員個人が保有する持分の譲渡代金は個人に帰属し法人に入金されません。税務上の取扱いにも注意しましょう。

営利企業が医療法人を完全子会社化できるか

できません。医療法上、営利法人は医療法人の社員になれず、あくまで間接的な関与に留まります。

スタッフ退職による診療報酬減額リスクの対策は

雇用条件の事前提示と引継ぎ研修をセットで行うことが最善策です。買手の人事制度を早期に共有しましょう。

医療法人M&Aで挫折しないためのチェックリスト

実務を円滑に進めるため最終確認項目を列挙します。

後継者確保の可否

医師資格保持者の確保状況を確認。

主要資産の名義と担保設定

土地・建物・機器の名義人と借入担保の有無を洗い出します。

行政手続の責任者

保健所・法務局・厚生局への届出担当を決めます。

スタッフ説明会の日程

クロージング前後で二回実施。質問受付窓口を明確にします。

譲渡価格算定根拠資料

評価手法・前提条件・数値を添付し買手と共有します。

医療法人M&Aでよくある失敗例と回避策

成功事例だけでなく失敗事例から学ぶことでリスクを低減できます。

デューデリジェンス不足で簿外債務が発覚

会計方針の違いを見落とすと簿外債務がクロージング後に判明するケースがあります。専門家を交え内部統制まで確認しましょう。

行政手続が遅れ診療報酬請求に空白期間が発生

提出書類不足で保険医療機関指定が間に合わずキャッシュフローが悪化する例があります。提出先と締切を一覧化し二重チェックを徹底してください。

スタッフ離職により人員基準を下回る

説明不足や待遇悪化の不安が原因です。クロージング前のヒアリングと条件整備で回避可能です。

医療法人M&Aを成功へ導く5つの鍵

最後に重要ポイントを整理します。

1.専門家チームの活用

医療専門の仲介会社・弁護士・税理士を早期に組成する。

2.行政との早期協議

事前相談で要件を確認し資料を先行準備する。

3.スタッフエンゲージメント向上

譲渡後のキャリア支援策を明示し安心感を与える。

4.価値算定の複数手法比較

資産・収益・将来価値をバランスよく評価する。

5.統合後のシナジー計画

ICT化や共同購買でコスト削減と診療の質向上を実現する。

まとめ

医療法人M&Aは後継者問題の解決だけでなく地域医療の継続、スタッフの雇用維持、診療体制の強化を同時に達成できる有効な選択肢です。非営利性や行政許認可など独自のハードルはありますが、専門家と連携し計画的に進めれば大きな成果が期待できます。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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