医療法人M&Aのスキーム概要!価格相場、メリット、M&A事例も紹介

医療法人は近年、後継者問題が増加しており、その解決策の一つとしてM&Aが積極的に実行されることが一般的となっています。この記事では、医療法人に特化したM&Aの基本や特徴、実行時に必要なポイントや注意点について解説していきます。医療法人M&Aを検討している方は、ぜひ参考にされてください。 

目次

  1. 医療法人M&Aとは?
  2. 医療法人の後継者問題
  3. 一般企業のM&Aとの違い
  4. 医療法人M&Aのスキーム概要
  5. 医療法人M&Aのメリット
  6. 医療法人M&Aの進行時に注意すべきポイント
  7. 医療法人M&Aで留意すべきポイント
  8. 医療法人M&Aの価格相場
  9. 医療法人M&Aの事例
  10. 医療法人M&Aまとめ

医療法人M&Aとは?

医療法人M&Aの基本は、通常の企業によるM&Aと同様、持ち分譲渡や合併、事業譲渡などの手法を取り入れることです。しかし、医療法人には独自の点がありますので、以下ではその特徴を述べていきます。

医療法人の後継者問題

医療法人M&Aが増加している最大の理由は、後継者問題の存在です。以下で詳しく解説していきます。

後継者不在率の高さ

現在、医療法人は理事長の高齢化や医療費削減などの影響で、後継者不在率が高まっています。帝国データバンクが行った調査によれば、医療法人(病院・医療)における全国の後継者不在率は73.6%で、全業種の平均65.1%よりも高い水準です。今後、経営者の高齢化が進めば、医療法人の閉鎖が増えることが懸念されます。

事業承継が進まない理由

医療法人の事業承継が進まない主な理由として、医療法人の理事長になるためには医師や歯科医師の資格が必要であることが挙げられます。医療従事者でない者が承継に興味を持っても、資格がないため事業を引き継げず、断念するしかありません。そのため、一般企業と比べて承継者が少ないという問題があります。

一般企業のM&Aとの違い

医療法人M&Aには、一般企業のM&Aとは異なる特徴がいくつか存在します。それらについて解説していきます。

• 医療法人は、医療に特化した法人であるため、一般企業とは異なる規制や制度が存在します。

• 医療法人の理事長には医師や歯科医師の資格が必要です。従って、一般企業に比べて承継者が少ないという問題があり

  ます。

• 医療機関が地域医療に与える影響も大きいため、M&Aは慎重に進められる必要があります。

いかがでしょうか。医療法人M&Aには一般企業とは異なる特徴や注意点があります。医療法人M&Aを検討している方は、これらのポイントを押さえつつ、適切な対策を講じ、成功に導くことが重要です。

医療法人M&Aは株式交換や株式移転が適用されない

医療法人M&Aでは、株式交換や株式移転といった一般的なM&A手法が使用できず、事業承継が制約されるため、通常のM&Aと比較して取り引き方法が限定的になります。このため、医療法人M&Aの自由度は一般的なM&Aと比べて著しく低く、それが両者の最も顕著な差異となっています。

医療分野の専門知識が重要

医療法人M&Aにおいては、医療分野の専門知識が重要です。医療法人を承継する場合でも、企業に医療関連の知識が不足していると、承継した事業やノウハウを活用することが困難になる可能性があります。したがって、M&Aの譲受側にとって、医療法人との交渉は一定のリスクを孕んでいます。その結果、医療法人M&Aに参入できる企業の数が減少し、成約に至らない事例が増加することが予想されます。

医療法人M&Aのスキーム概要

医療法人M&Aではいくつかのスキーム(手法)が存在します。以下では、それぞれのスキームについて詳しく解説します。

吸収合併

吸収合併とは、複数の医療法人が統合されるM&Aの方法で、一方の法人が存続し、もう一方の法人が解散手続きを行わずに消滅する形で合併されます。医療法人M&Aにおいては、主に吸収合併が実施され、これによりコストの合理化や効率的な人材配置、病床の移動(同一医療圏内の場合)などが行なわれます。

事業譲渡

事業譲渡とは、医療法人の事業を一部またはすべてを譲渡する方法です。事業譲渡の際には、地域医療構想との関係を考慮し、地域医療構想調整会議が必要になります。また、事業譲渡においては、譲渡される医療機関の従業員は一度退職し、その後再雇用されることが求められます。このプロセスにおいて、従業員の理解を得ることが非常に重要な要素となります。

持分譲渡

持分譲渡とは、譲渡する医療法人の持ち分の譲渡や、社員株主の入社・退社を同時に行う方法です。これは、医療法人社団におけるM&Aだけで実施可能な方法であり、医療法人における出資持分には経営権が伴わないため、持分譲渡だけではM&Aが完了しない点に注意が必要です。総社員の過半数が出席し、出席者の過半数が役員選任・解任に賛成することで、経営権が移転されます。定款の変更、役員の除名、解散の決議などには、総社員の2/3以上の出席および出席者の2/3以上の賛成が求められます。

ただし、持分譲渡が可能な医療法人は、平成24年3月末までに設立されたいわゆる「旧法での医療法人」に限定されています。

参考:新旧医療法人とは?持分あり、なしの医療法人の違い|医師のための医院開業情報|医院開業 クリニック開業 医師開業はFPサービス

医療法人M&Aのメリット

医療法人に関するM&Aでは、一般的な企業のM&Aとは異なる利点が存在します。この記事では、医療法人M&Aのそれぞれの利点について説明致します。

後継者問題の解決や従業員の雇用維持が実現可能

まず、譲渡側の医療法人にとって、後継者問題の解決や従業員の雇用維持が望める点が大きな利点です。多くの従業員が働く医療法人では、M&A後も雇用継続を条件に事業譲渡が行われることがあります。

患者に対して継続的な診療が提供できる

また、譲渡側の医療法人にとって、既存の患者さんに継続的な診療が提供できることも大変重要です。特に高齢者を含む患者さんに対して、中断せずに診療を続けることができれば地域社会への貢献も果たせます。

医師や看護師等の専門的な人材の確保が可能

一方、譲受側の医療法人は、医師や看護師といった専門的な人材を確保できる点が最大の利点です。人手不足が深刻化する医療業界において、M&Aを通じて人材を獲得することは経営的にも有益です。さらに、病床数の拡大や治療提供能力の向上により、収益向上も期待できます。

医療法人M&Aの進行時に注意すべきポイント

医療法人M&Aを実行するにあたって、いくつかの重要なポイントがあります。以下でその具体的な項目を紹介いたします。

監督省庁からの許認可の取得

医療法人M&Aでは、監督省庁の許認可が不可欠です。医療法人の種類によって監督省庁が異なり、手続きの内容もそれぞれ異なるため、事前に確認しておくことが重要です。保健所への開設届提出や都道府県への定款変更・役員変更届け出など、さまざまな対応が求められます。

営利企業が医療法人を買収する場合、会社の意思を伝達する人材の派遣が不可欠

営利企業が医療法人を買収する場合、企業の意思を伝える人材の派遣が必要です。営利企業は原則として医療法人の役員や社員にはなれませんので、会社の意思を代弁する人材を派遣して経営をコントロールすることが求められます。


以上のように、医療法人M&Aには特有の諸特徴と注意事項が存在します。適切な手続きと理解を持って実行すれば、医療法人M&Aはビジネス上の成功をもたらす可能性があります。

医療法人M&Aで留意すべきポイント

医療法人M&Aには、一般的な企業間のM&Aとは異なる要素が多く存在します。以下に、医療法人M&Aで注意すべき点を詳しく解説します。

非営利性の確保が必要不可欠

医療法人のM&Aにおいては、非営利性の確保が必要です。非営利性が担保されている場合にのみ、営利法人が出資や持分の買い取りを行うことができます。剰余金の配当は許可されていないため、M&Aの準備段階から注意が必要です。さらに、都道府県知事の許可を得る必要がありますが、営利目的の医療施設を開設することは認められていません。

長期的なスケジュールでM&Aを進める

医療法人M&Aでは、多くの手続きが伴うため、長期的なスケジュールで進められることが望ましいです。

例えば:

• 行政への事前相談

• 医療審議会への書類提出

• 債権者保護

以上のような手続きには、手間や時間が必要となります。成約に至るまでのスケジュールは余裕をもって確保し、焦らないで進めることが重要です。

医療法人M&Aの価格相場

価値評価の方法

医療法人のM&A評価額を把握する手法は、以下の2つが一般的です。

・時価純資産法

・年買法(年倍法)

また、通常の企業売買の価格を定める際に用いられる「類似会社比較法」ですが、医療法人の価値評価においては基本的に採用されません。これは、医療法人が株式を公開できないため、比較対象となる企業が存在しないからです。さらに、営利を目的とした大企業で利用されることの多い「DCF法」も、非営利の性質を持つ医療法人のM&Aにはほとんど用いられない傾向にあります。

医療法人の価値を評価する際に頻繁に使用される「時価純資産法」と「年買法」についてご紹介いたします。

・時価純資産法

この方法では、医療法人がM&Aを行った際の市場価値を、純資産の現在価値に基づいて計算します。保有資産と負債の現在価値を明らかにし、資産の現在価値から負債の現在価値を引き算することで、売却価格を導き出します。特に、価値の変動が激しい土地や赤字事業を含む場合に適用されることが多い手法であり、医療法人M&Aの価格相場を決定する際に頻繁に利用されます。

・年買法

年買法、別名年倍法とも呼ばれ、時価純資産に「のれん」と言って1年から5年分の営業利益を加算して価値を算出する手法です。医療法人M&Aの大まかな市場価格を迅速に算出できるのがこの方法の利点です。しかし、年買法を用いると、実際の適正価格と大きく異なる価格を導き出すリスクもありますので、注意が必要です。

医療法人の相場

ある程度の事業規模で運営される医療法人は、複数の医師や多くのスタッフを擁し、理事長や理事が交代してもその組織の体制や事業の流れが大きく崩れないと期待されます。そのような、医療法人については、のれんの価値を高く見積もることが可能です。もし、その組織性が一般企業に匹敵するレベルにあるならば、営業利益にかける係数を3から5として年倍法で計算することが適当とされます。

一方で、たとえ医療法人であっても、院長が一人の医師であり、その運営が個人クリニックと大差ない場合には、個人クリニックと同様の評価基準が適用されることがあります。

持分を持つ社団医療法人の場合には、時価純資産とのれんの他に、社団医療法人特有のプレミアム(付加価値)が加味されることがあります。このプレミアムは、持分という投資可能な資産があること、再販が容易であること、また現在では新規設立が不可能であり稀少性があることなどから生じます。

しかし、持分がある社団医療法人は、一時的な措置として一定期間存続が認められている存在であり、将来の法改正によってはその独自の価値を失うリスクがあるため、プレミアムを評価する際には購入者側も慎重な姿勢を取ることがあります。

医療法人M&Aの事例

2022年10月:熊谷総合病院がユニゾン・キャピタルに譲渡

ニッソンキャピタル(東京)は、ユニゾン・キャピタルを介し、熊谷総合病院(埼玉)の経営権を取得しました。ユニゾン・キャピタルは、医療分野の経営支援を行う子会社のCHCP(東京)を駆使し、経営活動を推進する計画です。ニッソンキャピタル側は、臨床技術の向上を目指す姿勢を明確にしています。

2021年6月:藤井病院事業が竜山会に譲渡

医療法人社団竜山会(石川)は、不正な請求行為が原因で保険医療機関の資格を剥奪された医療法人社団博洋会が所有していた藤井病院を引き継ぎました。

2018年8月:湯池会が沖縄徳洲会に吸収合併

医療法人沖縄徳洲会(沖縄)は、医療法人湯池会(沖縄)を吸収合併し、湯池会に属する北谷病院が徳洲会グループに加入しました。徳洲会グループは、離島や遠隔地における医療活動に積極的であり、今回の買収は、北谷病院が直面する医師の高齢化問題や人手不足、さらには中部徳洲会病院の移転により改善されたアクセスの利便性を背景に、両病院間の協力体制を一層強化する目的で実施されました。

医療法人M&Aまとめ

医療法人M&Aは、一般的なM&Aとは異なる特徴が数多く存在します。制約事項も多いため、事前に詳細を把握し、適切に対応することが求められます。専門的な知識が必要なため、M&A仲介会社などのサポートを活用することがおすすめです。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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