化粧品業界のM&A動向と事例から学ぶ企業成長戦略
化粧品業界でM&Aは本当に有効なのでしょうか?国内外の成功事例と最新動向を基に、譲渡企業・譲受企業双方のメリットと失敗しない進め方を分かりやすく解説します。
目次
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
化粧品市場は矢野経済研究所の調査でも伸長が続きます。しかし国内人口の減少や競争激化により、企業はこれまで以上に柔軟な成長戦略を求められています。
消費者は成分表示や製造過程の透明性を重視しています。天然由来・低刺激をうたう商品が増え、品質保証の体制整備が不可欠です。
ECモールや自社サイトを活用したダイレクト販売が急拡大しています。リアルとオンラインを組み合わせたオムニチャネル戦略が鍵となります。
アジア諸国を中心に「日本製化粧品」への需要は高水準です。国内市場の成熟化を補うため、海外販路を持つ企業との提携や現地法人設立が盛んです。
競争環境の変化に迅速に対応する手段として、M&Aは今や業界の定番戦略です。短期間で市場シェアや技術資産を獲得できるため、譲渡企業・譲受企業双方に大きな利点があります。
アジア市場での知名度向上を目的に、現地ブランドの譲受や共同出資を行う例が増えています。既存顧客基盤を取り込むことで早期に収益化が可能です。
AI解析や独自原料を保有する研究開発型ベンチャーへの投資が活発化。特許取得済の技術を獲得することで高付加価値商品を展開できます。
百貨店・ドラッグストア向けなど、異なるチャネルを持つ企業を統合することで、ブランド認知と販売網を一気に広げるケースが目立ちます。
バーチャルメイクアップやパーソナライズ診断技術を持つ企業の譲受が加速。顧客体験を向上させるデジタル施策が競争力を左右しています。
M&Aは譲渡企業と譲受企業それぞれに具体的な利点をもたらします。
譲受の目的は多様ですが、いずれも成長課題を解決する明確な意図があります。ここでは代表的な12案件を紹介します。
サンドラッググループの子会社ピュマージは株式会社I-neからスキンケアブランド事業を譲受。目的はオリジナルブランド強化で、ドラッグストア顧客への訴求力を高めました。
コンビ株式会社からの譲受によって、アイケイグループはダイレクトマーケティング事業を拡大。テレビ通販とECを連動させ、顧客との接点を深めています。
株式会社Lyckaのヘアケア・ボディケアブランドを取得し、既存健康食品とのシナジーを創出。販路をドラッグストアからECへ広げました。
ユイット・ラボラトリーズの子会社化により、中国ECと百貨店チャネルを獲得し、高価格帯スキンケアへのアクセスを強化しました。
Reternalからのブランド譲受で、Z世代向けパッケージとSNSプロモーションを導入。ターゲット特化により市場浸透を図っています。
美容・健康事業のラインナップ拡大と研究開発リソース共有を通じて、将来の高成長領域に備える計画です。
株式会社ユーグレナはLIGUNAを傘下に入れ、サプリメントとスキンケアを一体で提案できる体制を構築しました。健康訴求の強い素材と美容を掛け合わせ、クロスセルを加速させています。
粧美堂株式会社はOEMや販促に強みを持つビューティードアを取得。自社開発商品と外部調達品を組み合わせ、国内外の小売店向け提案力を高めました。
医薬中間体で実績のあるイワキ株式会社は、通信販売に強いマルマンH&Bを獲得し、既存原料ビジネスにBtoC販路を追加。顧客データを生かした定期購入モデルを強化しています。
通信販売中心の山田養蜂場は、ドラッグストア向け化粧品に強いPDCを譲受。蜂由来原料と既存ブランドを組み合わせ、販路ミックスで売上を伸ばしています。
同一グループ内の事業を一本化し、研究開発費を集中投下。重複ブランドを整理し、全国販売と訪問販売の両輪でブランド価値を底上げしました。
両社は原料開発とOTC医薬品の知見を融合し、化粧品のみならず再生医療や医療機器分野も視野に入れた長期的な協業体制を構築しています。
海外企業との統合は技術・市場の両面で大きなシナジーを生みます。ここでは代表的な6案件を紹介します。
アメリカの高価格帯ブランドを取り込み、サロンチャネルと専門店チャネルへ同時展開することでプレミアム市場を拡張しました。
AI解析による肌色診断とメイクシミュレーションを取得し、オンライン接客の精度を飛躍的に高めています。
天然由来成分を前面に出したTarteを通じ、米国のクリーンビューティ市場へ本格進出。SNSを活用した拡散戦略で若年層を獲得しています。
マレーシアで人気のヤング女性向けブランドを取得し、男性化粧品中心から男女両市場へ展開範囲を広げました。
サステナブルなボトル設計と植物由来処方を併せ持つO'rightと連携し、国内ヘアサロンの脱プラスチック需要を捉えています。
パーソナライズ日用品の定期配送ノウハウを獲得し、自社ECにサブスク機能を実装。継続課金によるLTV向上を狙っています。
化粧品業界で成果を最大化するには、次の10項目を段階的に実行することが重要です。
具体的なスケジュールとマイルストーンを設け、ガントチャートで共有すると社内外の関係者が一体となって動けます。
希望売上規模や地域、技術領域などを数値で示し、妥協できる範囲を先に決めておくと交渉がスムーズです。
「海外売上比率20%」など定量指標を設定することで、最適な譲渡企業・譲受企業を客観的に選別できます。
ブランド力、研究力、販路といった資産を整理し、統合後にどの機能を主導するかを明確化することが統合作業を円滑にします。
税務・法務・財務のプロが入ることで、デューデリジェンスの網羅性が高まり潜在負債を事前に把握できます。
価値観ヒアリングやワークショップを実施し、双方の文化的な違いと共通点を可視化します。
コスト削減額やクロスセル売上などをKPIとして設定し、PDCAでフォローアップする体制を作ります。
原材料価格高騰やレギュレーション変更など、業界特有のリスクをリスト化し対策をあらかじめ準備します。
権限委譲を図り、段階承認ではなく並列承認フローを採用することで交渉スピードを高めます。
組織図・ITシステム・ブランドポートフォリオを早期に統合し、人材retention策を盛り込むことで離職リスクを抑制します。
化粧品業界のM&Aは、ブランド強化・技術獲得・海外展開など多様な目的で活用され、国内外の豊富な成功事例が示すように高い成長効果が期待できます。明確な目的設定と専門家連携に基づく計画的な実行が、競争力と持続的成長を実現する鍵となります。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画