M&Aを活用することにより、廃業のリスクを回避し、企業の存続が期待できます。しかし、M&Aにもデメリットがあるため、その特徴を理解し、熟慮して実行することが重要です。
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廃業とは、会社が経営・事業を自主的に終了することを指しますが、法律上で定義されている用語ではありません。廃業する際には、どこかのタイミングで「会社自体の解散手続」と「会社の財産の清算手続」を行うのがベターです。これらの手続を経ず、休眠会社として放置することも実際には多いです。
東京商工リサーチ「休廃業・解散企業」動向調査によれば、2023年に全国で休廃業や解散した会社は5万9105件、前年比10%増にも及んだことから廃業の問題が注目されています。
廃業が増加している背後には、経営者の高齢化も大きな要因となっています。東京商工リサーチの調査によれば、休廃業・解散した会社の代表者の年齢は、70代が41.7%を占めており、高齢化が顕著であることが伺えます。
参考:2020年「休廃業・解散企業」動向調査 | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ (tsr-net.co.jp)
▶目次ページ:事業承継とは(会社の廃業と解散・清算)
ここでは、廃業によるメリット・デメリットをそれぞれ明らかにしていきます。
廃業がもたらすメリットは、以下の通りです。
• 倒産に比べて従業員や取引先などへの影響を最小限に抑えられる
• 経営に関する精神的な負担から開放される
廃業がもたらすデメリットは、以下の通りです。
• 従業員の働き場がなくなる
• 従業員の家族の生計まで悪影響を及ぼす可能性がある
• 廃業しても代表者の個人保証は続くため、会社資産で返済しきれない負債は、代表者の個人資産で支払う必要がある
この記事では、廃業と似た概念である倒産や休業との違いについて説明します。これらの用語は、ビジネス業界でよく使われるため、正確な理解が重要です。
倒産と廃業の違いについて見ていきましょう。倒産は、債務の弁済ができなくなったり、経済活動が継続できなくなったりする状態を指します。また、その可能性が高い場合も含まれます。これに対し、廃業は後継者不足や他の理由から自主的に事業を辞めることを指します。したがって、業績不振や債務による経営難とは異なる点があります。
休業と廃業の違いです。休業は、一時的に事業を停止することを意味しますが、会社自体は消滅せずに存続します。この点で、会社が完全に消滅する廃業とは異なります。
M&Aを活用して廃業を回避するべきかどうかについて説明します。
一般的に、廃業はできるだけ避けたいとされています。なぜなら、廃業によって従業員のスキルやノウハウが失われるからです。M&Aを通じて事業や業務を引き継ぐことで、従業員がこれまで培った経験を活かすことができます。
実は、業績が良い会社でも廃業を検討することがあります。日本政策金融公庫の調査によれば、廃業を検討する会社の約3割が業績が良い状態です。しかし、後継者不足などの理由で廃業を選択せざるを得ない状況になっています。
廃業を選択せずにM&Aを実施することで得られるメリットを5つ紹介します。
M&Aを行うことで会社の存続が可能です。経営者が育ててきた企業への思いが、引き継ぎ先の企業を通じて存続できるのです。
M&Aによる事業承継で、従業員の雇用が守られることも大きなメリットです。さらに、引き継ぎ先の企業と雇用条件の引き継ぎに関する交渉もできます。
・企業価値の向上 : M&Aを通じて市場シェアや技術力が強化されることがあります。
・経営資源の効率的活用 : M&Aによって企業の経営資源がより効率的に活用され、シナジー効果が期待できます。
・事業の多角化 : M&Aを利用することで、異業種からの知見やノウハウが取り入れられ、事業の多角化が進むことがあ
ります。
これらのメリットを考慮して、適切な選択を行いましょう。
M&Aを効果的に活用することで、廃業するよりも高い譲渡益を獲得できることがあります。その結果、株式や多額の現金が手に入り、金額によっては事業を立て直す可能性も存在しています。
M&Aで事業承継を行うことにより、多額の資金を得ることができるケースがあります。このような資金を活用し、早期退職という選択肢も実現可能であります。
中小企業の場合、金融機関からの借入時に、経営者の個人保証がほとんど必須となっています。しかし、M&Aを実行することで、譲受企業が個人保証を引き受けることができるため、経営者は個人保証から解放されます。
M&Aを実行した場合、いくつかのメリットが存在しますが、デメリットも同様に存在します。本稿では、廃業せずにM&Aを実行するデメリットについて検討していきます。
中適切な譲受企業を見つけるためには、時間と労力がかかることが挙げられます。自社にとって最適な譲受企業を選択するためには、多くの候補から慎重に選ぶ必要があります。これには、情報収集や整理に多くの時間と労力が必要となります。
M&Aを成功させるためには、専門家のアドバイスが欠かせません。そのため、専門家との契約に伴う費用負担が発生します。専門家は豊富な知識とネットワークを活用して、最善の結果を出すためのサポートを提供します。
廃業とM&Aの両方において、税金が発生します。ここでは、それぞれにかかる税金について説明します。
廃業し、解散登記届を提出した場合、登録免許税が3万円かかります。また、決算内容に応じて、法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税、消費税の納付が求められます。
M&Aの際には、株式譲渡がよく用いられます。株式譲渡を行った場合、株式譲渡利益に対する所得税が課税されます。
後継者難や事業継続が困難な状況で廃業を検討する場合でも、M&Aの活用により、より良い結果を得られる可能性があります。M&Aによって株式や多額の資金を獲得できる場合があり、事業を立て直したり、早期退職を実現することができる場合もあります。ただし、デメリットも存在するため、慎重に判断し、適切な選択を行うことが重要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画