廃業とM&Aの完全比較でメリットデメリットなどを解説
廃業とM&A、どちらが経営者にとって有利かを徹底解説。メリット・デメリット、税金、従業員への影響、具体的な手続を分かりやすく紹介し、今すぐ使える判断ポイントと準備のコツをお伝えします。
目次
▶目次ページ:事業承継とは(会社の廃業と解散・清算)
廃業とは、経営者が自らの意思で事業活動を終了し、会社を解散して残った財産を整理する行為を指します。法律上の厳密な定義はありませんが、一般的には「会社の解散手続」と「財産の清算手続」を組み合わせた一連の流れをイメージすると分かりやすいです。実務上は、手続を最後まで行わず休眠会社として放置される例も珍しくありませんが、従来の取引先や従業員に与える影響を最小限に抑えるためには正式に清算まで行うことが望ましいとされます。
単に店舗を閉める、製造ラインを止めるといった行為だけでは廃業は完結しません。債権者への弁済、雇用契約の終了処理、税務申告など多岐にわたる後処理が必要です。とくに清算手続の過程で発生する公告や債権申し出期間の設定は、会社法上のルールとして定められているため、経営者自身が把握するか専門家に任せて進めるかを早期に決めることが大切です。
休眠会社で放置するとどうなるか
清算を完了せずに放置された会社は、税務署からの届出義務や毎年の登記費用がかさみ、最終的にはみなし解散の対象となる恐れがあります。みなし解散は強制的に登記簿が閉鎖されるため、自主的な廃業に比べてコントロールできる範囲が狭くなる点に注意が必要です。
廃業は避けた方がよいという意見が主流です。理由は、業績が良好であっても後継者難を理由に廃業に至る企業が約三割存在するように、十分に価値がある会社であっても従業員の雇用や取引先との関係が途切れてしまう損失が大きいからです。
廃業には「倒産より関係者に迷惑をかけにくい」「経営の重圧から解放される」という二つのメリットがあります。
倒産は支払不能などの外的要因で取引関係が一気に崩壊しますが、廃業は計画的に業務を畳むため、従業員への説明や取引先への事前通知を行う時間が確保できます。結果として、従業員が次の就職先を探す準備期間を確保できたり、取引先が代替サプライヤーを選定する余裕が生まれたりする点で影響を最小限に抑えられます。
長年抱えていた資金繰りや市場変化への対応などの重圧から解放されることで、健康面のリスクが減り、家族と過ごす時間や新たなライフワークに充てる時間を確保できる点は大きな魅力です。
メリットの裏返しとして、廃業には深刻なデメリットも存在します。
廃業は、従業員とその家族の生活基盤を失わせる可能性があります。地域における主要な雇用主であった場合、失業者の急増は地域経済への打撃にもつながります。
中小企業の多くは、金融機関からの融資に経営者個人の保証が付帯しています。廃業しても売却益で債務を完済できなければ、残りの負債は代表者個人が弁済しなければなりません。
M&Aを利用すれば、会社を残し従業員を守りつつ、経営者は引退資金を確保できます。
譲受企業が事業を引き継ぐことで、創業者の思いと従業員の技能が生き続けます。ブランド名や主要な取引ルート、製造技術などの無形資産も引き継がれるため、地域社会の中で築いた信用を維持しやすい点が特徴です。
M&Aにより株式や事業を譲渡すると、その対価としてまとまった資金を受け取れます。譲渡価格によっては早期リタイアを実現することも可能で、残った資金を新たな投資や地域社会への還元に充てるケースもあります。
譲受企業が金融機関と再契約して連帯保証人を切り替えることで、経営者の個人保証が外れるケースが多いです。個人資産を守りながらスムーズに世代交代を行えるのは、廃業では得られない大きな利点です。
廃業と似た言葉に倒産・休業がありますが、意味合いと結果はまったく異なります。廃業は経営者が自主的に事業を終える選択であり、計画的に清算を進めることで混乱を抑えることができます。
倒産は弁済期にある債務を支払えず、経済活動を続けられない状況に陥った結果として発生します。債権者の保護が優先され、破産手続などの法的整理に進むため、経営者が選択できる余地はほとんどありません。
休業(休眠)は事業を止めても法人格を残すため、再開を前提にコストと手間を抑えたい場合に採られる手段です。ただし、税務署や自治体への届出、毎年の法人住民税均等割など最低限の維持コストがかかる点には注意が必要です。
東京商工リサーチの調査では、2024年の倒産件数(負債額1,000万円以上)が前年比15.1%増の1万6件と、2013年以来の1万件超えとなりました。
2014年から2020年にかけては金融支援や低金利環境で倒産件数が抑制されましたが、コロナ禍で一時的に減少した後、支援策の縮小・原材料費高騰の影響で再び増勢に転じました。
代表者の平均年齢上昇とコスト高が重なり、体力のない企業ほど資金繰りが難しくなっています。後継者不在で将来像を描けない企業が、倒産か廃業かの二択に追い込まれるケースが増えています。
帝国データバンクの調査によれば、2024年1月〜10月の後継者不在倒産は455件に達し、前年並みで高止まりしています。
月次ベースで見ると増加ペースが加速しており、このままでは2年連続で年間500件超えが確実視されています。
金融機関は将来の経営体制不透明な企業への融資を慎重にするため、資金調達が難化し設備更新が遅れる悪循環に陥りやすくなります。
M&Aで事業を譲り渡すことで、従業員の雇用や取引先との取引が継続できるほか、譲渡益を得て経営者の生活基盤も確保できます。
税負担は手取り額を左右する大きなポイントです。以下の前提で比較します。
譲渡益2億円×20.315%=約4,063万円。手取り額は約2億6千万円になります。
残余財産3億円から繰越欠損金がなく課税所得が生じた場合、法人税約30%=9,000万円が発生。さらに株主が残余財産を受け取る際、累進課税で最大約49%の所得税・住民税が課されるため、手取りは1億円台前半にとどまる例も少なくありません。
廃業には時間とコストがかかりますが、見落としがちな費用を把握することが重要です。
官報公告は約3万円前後、解散・清算結了登記には資本金額に応じた登録免許税が発生します。
会社都合退職のため上乗せ負担が生じやすく、就業規則で定めた退職金が決算書に計上されていない場合、想定外の費用となります。
債権者保護手続だけで2か月は必要で、資産売却に時間がかかる場合1年以上かかることもあります。
スケジュールを可視化し、抜け漏れを防ぐためのポイントをまとめました。
財務、法務、労務、環境など領域別に担当者を設定し、質問表への回答フローを決めておくと混乱を避けられます。
保証切替のための金融機関との交渉や、株主名簿の最終確認を早めに行うことで手続が滞りなく完了します。
価格交渉だけでなく、譲受後のシナジー提案や従業員処遇の確認が成否を左右します。
買い手の経営課題を理解し、自社がどう貢献できるかを示すことで、のれんを上乗せした高評価が得やすくなります。
給与水準・役職・勤務地が曖昧なままだと不安が高まり、譲渡後に人材流出が起こる恐れがあります。
仲介会社・税理士・弁護士など複数の専門家がいますが、以下の基準で比較すると選びやすくなります。
成功報酬は譲渡価格の何パーセントか、最低報酬の設定があるかを必ず把握しましょう。
自社と同規模・同業種の成約実績があるかどうかは、買い手ネットワークの強さを測る指標になります。
複数候補と交渉を並行する場面で、最新状況を分かりやすく報告できる担当者かどうかも重要です。
みつき税理士法人グループは累計500件以上のM&A支援実績を有し、税理士法人ならではの税務アドバイスと全国ネットワークを活かしたマッチング力が強みです。
事業分析から譲受候補紹介、デューデリジェンス対応、クロージング支援まで一貫して担当し、経営者の負担を最小限に抑えます。
バンコク拠点と連携し、海外企業との提携・譲渡にも実績があります。
「まだ売却は早いかも」という段階でも、財務改善や株主構成整理など事前準備の具体策を提供します。
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廃業は手続が比較的容易ですが雇用喪失や税負担が重く、手取り額が減少しがちです。一方M&Aは準備と費用がかかるものの、会社存続・譲渡益確保・個人保証解除など多くの利点があります。後継者不在や将来不安を感じたら、専門家へ早期に相談して選択肢を広げることが最良のリスクヘッジになります。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画