人手不足が深刻な土木工事業界のM&A動向とM&A事例

近年、土木工事業界において、M&A(合併・買収)が注目される事例が増加しています。これは、廃業の代わりにM&Aによる事業承継の機会が増えてきているためです。

土木工事業界を含む建設業全体は、いくつかの大きな問題点に直面しています。それらの問題に、職人不足、過重労働、そして事業承継問題が挙げられます。

土木工事業界は後継者難や事業承継問題を抱えており、後継者が見つからなければ廃業リスクが高まります。そこで、M&Aが重要な対策の一つとして注目されているのです。

本コラムでは、土木工事業界の背景や課題、事業承継対策としてのM&Aなどについて詳しく説明していきます。

目次

  1. 土木工事業
  2. 土木業界の外部環境
  3. 土木業界の課題|人手不足・2024年問題
  4. 土木業界のM&A動向
  5. 土木業界におけるM&Aのメリット
  6. 土木業界の中小企業M&A事例
  7. 土木工事業M&Aのまとめ

土木工事業

土木工事業とは

建築物の建設には、左官工事、電気工事、内装仕上げ工事など、さまざまな工事が組み合わさっています。そして、「土木工事」とは、これらの中の一つであり、建物以外の建設工事全般を指します。

具体的には、建物の基礎工事や、道路、橋、ダムなどの構造物の建設工事も含まれます。ただし、例えば道路の場合、建築工事に該当するのか土木工事に該当するのか、対象物によって定義が曖昧になることもあります。

そこで、本コラムでは、建設工事業のうち、土木工事業を「地面の下に関する工事」とし、建築工事業を「地面の上に関する工事」と簡単に定義付けて話を進めていきたいと思います。 

土木工事業の特徴

土木工事業界は、様々な特性を持ち、多岐にわたる工事が行われています。以下では、土木工事の種類や業界構造、今後の需要、許認可制度など、土木工事業界の特徴を詳しく解説していきます。

まず土木工事には、3つの主要な種類が存在します。

 • 基礎工事

 • 造成工事

 • 外構工事

これらの工事は、住宅地の造成、下水道設備の配管工事、道路や橋梁、ダムなどの建造物の基礎工事等、幅広い形で実施されており、全て土木工事の範疇に含まれます。

現代の土木工事は、中堅・中小規模の工事業者が単独で発注者から工事を請負うケースもありますが、一般的には「土木工事一式」で発注者から請負った元請け会社が指示を出し、専門分野ごとに下請け会社が協力して工事を行う形態が採られています。そのため、業界全体が多重下請け構造になっていると言えます。

また、土木工事の代表例として、公共投資によるインフラ整備が挙げられます。道路や河川、橋梁、港湾などの補修や整備が行われ、日本の土木工事需要が下支えされています。

国土交通省による「道路や橋などの社会資本の老朽化と将来予測」の調査結果によれば、今後20年間で建設後50年以上が経過する施設の割合が急速に高まるとされています。これにより、今後さらなるインフラ整備が求められ、土木工事に関する需要は増加することが予測されています。

土木業界の外部環境

建設業界の市場規模

ここでは、土木工事業界を含む建設業界の市場規模やその推移について、グラフを基に詳細な解説を行います。

国土交通省が発表している建設業界の市場規模を示す建設投資額を調べると、ピークだった1992年度にはおよそ84兆円でしたが、2011年度には約42兆円まで大幅に減少しました。

しかし、その後は市場規模が増加に転じ、2021年度にはおよそ58.4兆円(公共部門22.8兆円、民間部門35.6兆円)まで回復する見込みです(2021年11月調査時点)。

また、建設投資の内訳を見ると、約4割が政府の建設投資や公共工事で、残りの6割が民間の建設投資になっています。そのうえ、公共工事では土木部門が大部分を占め、民間工事では建築部門が大半を占める傾向があります(図1参照)。

(図1)


出典:国土交通省/建設業の働き方改革の課題と現状 

建設業界での競合

前述した市場規模のグラフからも分かる通り、建設投資額は2012年度頃から再び右肩上がりの状況へと向かい、近年では特に民間建設投資部門が増加しています。

しかし、建設業界の競合状況は依然として厳しいものがあります。物価面では、全国平均の物価だけでなく建設業界でも資材が高騰し、さらに受注競争が激化することで建設コストが大きく上昇し、利益が圧迫されています。

さらに様々なタイプの建設業者がおよそ47万社(2022年度末時点)存在し、都市部や地方エリアを問わず、売上高で数千万円から数十億円までの中堅・中小建設業者が多くを占めています。株式市場に上場するような大手建設事業者は極めて限られています。

このような状況の中で、利益を争うために中小建設業者間で日々過剰な競争が展開されているのが実情です。

土木業界の課題|人手不足・2024年問題

土木業界における「2024年問題」

土木工事を含む建設業界は、多くの問題に直面しています。概ね次のような項目が挙げられます。

 • 労働時間が長いにもかかわらず、適切な賃金水準が確保されていない

 • 仕事量に安定感がなく、過不足が激しい

 • 3K(きつい、汚い、危険)の代表職種として認識されている

 • 若年労働者の参入が少なく、女性が活躍する場も限られている

 • 大手企業を除くと、週休2日制の確保が難しい

 • 主に中小建設業では、社会保険への加入が遅れている

過酷な労働環境や賃金水準の低さが、中小企業を中心とした建設業界の大きな課題であり、これが若年労働者の業界への流入を阻んでいるとも言えます。

建設業界は、現在、人手不足の状況に直面しています。以下の図はその人手不足の状況を示しており、建設業就業者の総数が年々減少している一方で、技術者や技能者の数も続けざまに減っていることがわかります。

さらに別の図では、業界内で就業者の高齢化が進んでおり、若年者が業界に入りづらい状況が浮かび上がります(図2参照)。

(図2)



出典:国土交通省/建設業の働き方改革の課題と現状 

土木業界における他の課題

このような状況が進行すると、建設業界の担い手が減少し、高齢の技術者や技能者が持つ貴重な技術や技能が若手労働者に伝わらず、結果的に業界全体が大きな業績不振に陥ることになります。

それはさらに、老朽化した建物や社会インフラの整備ができなくなり、大きな事故が発生する可能性も考えられます。

しかし、国もこの事態を無視しているわけではありません。これらの問題に対処するため、国は働き方改革の推進、工事の適正化、現場の処遇改善、建設現場の生産性向上などの対策を講じ、建設業界の課題解決に向けて具体的に取り組んでいます。

具体的な対策については、以下の国土交通省のサイトが参考になります(図3参照)。

(図3)



参照先:国土交通省/働き方改革の推進/生産性の向上への取組等

土木業界のM&A動向

競合が厳しい建設業界ではありますが、本章では業界の特性を踏まえた上で、業界内でのM&A動向について解説します。

建設業界独自の事情として、経営者がM&Aに興味を持つ背景に業界全体の高齢化が挙げられます。他業界でも同様の傾向は見られますが、建設業界では特にその傾向が顕著です。これは労働者だけでなく、経営者層においても同様の高齢化が進行しているためです。

一方、後継者問題については、帝国データバンクが2022年に実施した後継者不在率調査によると、全国全業種で平均57.2%なのに対し、建設業界では63.4%という高い割合が示されています。

参照先: 帝国データバンク/全国企業後継者不在率動向調査(2022)

このような状況は建設業界における後継者不在が多く、経営者が会社売却を検討する理由となっています。M&Aはその解決策の一つとして考えられています。

土木業界におけるM&Aのメリット

建設業界において、M&Aが行われた際に、売り手と買い手双方にどのようなメリットが存在するのでしょうか。以下では、簡潔に説明していきます。

売り手のメリット

 • 後継者問題が解決し、事業承継が円滑に進む

 • 従業員の雇用が保護され、取引先との関係も維持できる

 • 保有株式の譲渡により、売却益が得られる(創業者利潤)

 • 規模の大きな企業に売却することで、相手の経営資源を活用し、運営コストが削減される

 • 売却を通じて、企業の成長をさらに促進することが可能となる

買い手のメリット

 • 技術や資格を持つ人材を一度に獲得し、人材不足の解消や成長スピードの向上につながる

 • 土木工事業に関連する隣接業種が多いため、M&Aによってシナジーが生まれやすい

 • 事業で使用する資材や機械の共同利用により、スケールメリットが得られ、コスト削減につながる

 • 新規事業への進出や異なる地域への事業拡大が可能となる

 • 外国の土木関連企業を買収することで、インフラが未整備な発展途上国への海外進出が実現できる

土木業界の中小企業M&A事例

日本乾溜工業株式会社と有限会社大邦興産のM&A

買い手である日本乾溜工業は、福岡県福岡市を拠点に、建設事業、防災安全事業、化学品事業などを展開している事業会社です。一方、売り手である大邦興産は熊本県熊本市に本社があり、地元で一般的な建設事業を行っています。

2019年4月に実施されたM&Aにより、日本乾溜工業が大邦興産の全株式を取得し、子会社化しました。M&Aの目的は、大邦興産が地元で官民双方の工事を幅広く請け負っているため、子会社化することで日本乾溜工業の九州地区における土木建設工事のシェア拡大を目指すことです。また、両社が隣接業種であることからシナジー効果も期待されています。

コニシ株式会社と山昇建設株式会社のM&A

買い手であるコニシは、大阪市中央区でボンド事業、土木建設事業、化成品事業を手掛ける製造会社です。売り手である山昇建設は、愛知県名古屋市に本社を構え、土木工事や舗装工事などの土木工事全般を行う総合建設業者です。

2020年7月に行われたM&Aにより、コニシが山昇建設の株式を取得し、子会社化しました。コニシは「土木建設事業」を成長戦略の柱と位置づけており、山昇建設の買収を通じて、コニシが有する補修・改修・耐震・補強工事に関する材料・工法・施工能力や全国展開の営業ネットワークを活用することができます。シナジー効果により、業績や収益の拡大が図られると見込まれています。異業種間の買収ではありますが、技術や材料などの共通部分が存在し、両社の事業戦略が一致した結果と言えるでしょう。

大盛工業株式会社と井口建設株式会社のM&A事例について

東京都千代田区を拠点に土木工事業(上下水道工事)および不動産事業を展開している大盛工業株式会社(以下、大盛工業)と、山梨県上野原市を拠点に土木工事業および宅地建物取引業を行っている井口建設株式会社(以下、井口建設)のM&A事例について解説します。

2018年9月に実施された今回のM&Aでは、大盛工業が井口建設の全株式を取得し、井口建設を子会社化しました。事前に行われた取引の段取りとして、井口建設は自社の土木工事業と宅地建物取引業を分割し、事業部門を明確にしております。

大盛工業が井口建設を買収した理由は、山梨県の公共工事を多く手掛けている井口建設の土木工事業部門が魅力的であったためです。一方で、井口建設の経営者は不動産賃貸事業を継続したい意向がありました。このように双方の意向が一致した結果、M&Aが成立することとなりました。

土木工事業M&Aのまとめ

土木工事業界におけるM&Aの動向を、建設業全般の状況も踏まえながら詳細に解説しました。建設業界は、上水道や道路などの社会インフラ整備に欠かせない業界ですが、生産性向上が進まず、過重労働が幅を利かせています。

さらに、職人不足や経営者の高齢化といった深刻な問題も抱えており、これらの課題解決策としてM&Aが注目されています。

以下の背景がM&A増加の要因となっています。

 • 建設業界の生産性向上が進まないこと

 • 過重労働による労働力不足

 • 職人不足と経営者の高齢化

以上の理由から、建設業におけるM&Aは今後も増加すると見込まれます。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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