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ドラッグストア業界のM&A最新動向と事業承継成功へのガイド

ドラッグストア M&Aは本当に必要でしょうか?――答えは「はい」です。法改正・市場鈍化・人材不足が進む今、買い手も売り手も早期に戦略を固めることで事業承継と成長を同時に実現できます。本記事では最新動向と成功の秘訣をわかりやすく解説します。

目次:

  1. ドラッグストアとは医薬品中心の多品目小売業態
  2. 業界の変遷は法改正とセルフメディケーションが鍵
  3. 市場規模は拡大も成長率鈍化、食品が牽引
  4. 大手チェーンの台頭と寡占化の進行
  5. M&A活発化の背景は人材と事業承継
  6. M&A傾向はドミナント型拡大と複合化路線
  7. ドラッグストア譲渡のメリット
  8. ドラッグストア譲渡のデメリット
  9. ドラッグストアのM&A価格相場と評価方法
  10. ドラッグストアM&A成功のカギ
  11. ドラッグストア売却プロセスを3段階で押さえる
  12. ドラッグストア業界M&A実例で学ぶ教訓
  13. まとめ

ドラッグストアとは医薬品中心の多品目小売業態

ドラッグストア(以下DgS)は、医薬品を核に化粧品・食品・日用品まで取り揃え、地域の健康インフラを担う店舗です。総務省の定義によれば「健康と美容関連商品をセルフサービス形式で販売する事業所」と位置づけられます。医薬品を取り扱うため薬剤師常駐が義務付けられており、コンビニやスーパーとの差別化要因になっています。

医薬品販売が収益を支え多様な商品で集客する構造

  • 処方箋調剤とOTC医薬品が高利益率
  • 化粧品・健康食品・日用品を低価格で提供し来店頻度を高める
  • プライベートブランド強化で粗利を確保

専門サービスで地域密着を強化

  • 薬剤師・登録販売者による健康相談
  • 調剤薬局併設でワンストップ医療サービス
  • 高齢者向け在宅支援や栄養相談の提供

業界の変遷は法改正とセルフメディケーションが鍵

2000年代以降の薬事法改正でDgSは大きく姿を変えました。

2009年コンビニ販売解禁で競争激化

一般用医薬品がコンビニでも買えるようになり、価格競争とサービス差別化が加速しました。

2013年EC解禁でオンライン化が進展

第一類・第二類医薬品のネット販売が認められ、リアル店舗は体験価値向上に注力。

2017年セルフメディケーション税制導入で需要拡大

OTC医薬品購入額1.2万円超で所得控除となり、健康意識の高い消費者がDgSを積極的に利用しています。

競争激化がM&Aを後押し

  • 店舗大型化・複合化への投資負担増大
  • 人材確保費用の上昇
  • 差別化投資を賄うため、大手は買収で規模拡大を図り、中小は傘下入りで生存を模索

市場規模は拡大も成長率鈍化、食品が牽引

DgSの店舗数は2014年以降右肩上がりで、2022年には約2万3千店に達しました。市場規模も拡大を続け、22年度は食品カテゴリが前年比7.1%増の2兆391億円と全体成長をけん引しています。ただし医薬品の伸びは緩やかで、成長率は漸減傾向です。

成長ドライバーは高齢化と健康志向

  • 65歳以上人口の増加で医薬品・介護用品ニーズ拡大
  • 生活習慣病予防サプリや機能性食品の需要増

多角化で粗利を確保

  • 化粧品・日用品・食品をバランス良く拡充
  • オンラインショップと店頭受取を組み合わせ利便性向上

大手チェーンの台頭と寡占化の進行

売上上位10社だけで業界シェアの過半を占め、ウエルシアHD(売上高1兆1,442億円・2,763店)がトップを走ります。その戦略はドミナント出店と調剤併設、そしてM&Aを軸にした規模拡大です。

主な大手の特徴とM&A姿勢

ウエルシアHD

首都圏・中部でドミナント。ふく薬品(沖縄)買収で南進。


ツルハHD

北海道発。ドラッグイレブン買収で九州に展開。


マツキヨココカラ&カンパニー

経営統合で全国3,400店超。調剤強化。


コスモス薬品

EDLP戦略と自前物流で高回転。M&Aより新規出店を重視。

規模の経済とPB拡大が競争優位を決定

大手は共同仕入れ・物流センター統合で原価を圧縮し、PB商品比率を高め粗利を押し上げています。この結果、中小の単独生存が難しくなり、M&Aが加速しています。

M&A活発化の背景は人材と事業承継

DgSのM&Aは事業規模拡大と同時に、人材確保と後継者問題解決という二つの課題を一挙に解決できる手段として注目されています。

薬剤師不足が買収動機を高める

有効求人倍率4.76倍(2020年)は深刻です。買収により地域に根ざした薬剤師・登録販売者を引き継げれば、採用難を一気に解消できます。

後継者不在の中小DgSに出口を提供

  • 経営者高齢化と若年後継者不足
  • 大手傘下で雇用と地域医療を守れる利点
  • 売却益で老後資金を確保

売り手・買い手双方のメリットが一致

  • 売り手

事業継続・従業員雇用維持・個人保証解消

  • 買い手

新規エリア参入・顧客基盤取得・調剤機能拡充

M&A傾向はドミナント型拡大と複合化路線

ここでは実際に見られる代表的な傾向を整理します。

ドミナント強化型M&A

買い手が既存エリア周辺の中小DgSをまとめて取得し、地域シェアを高める手法です。物流効率と広告効果が上がり、競合参入を防ぎます。

新規エリア進出型M&A

大手が未進出地域の有力チェーンを買収して一気に足場を築くケース。例としてウエルシアHDによる沖縄のふく薬品買収が挙げられます。

異業種統合・複合化型M&A

調剤薬局買収

ココカラファイン×薬宝商事


食品スーパー統合

クスリのアオキHD×フクヤ


オンライン薬局買収

欧州Shop Apotheke×First A


多様なM&Aモデルが併存し、業界は「健康と生活の総合流通業」へ進化しています。

ドラッグストア譲渡のメリット

譲渡(売却)は「身を引く」だけでなく、事業と地域を守り、経営者自身の将来設計を叶える積極的な選択肢です。

円滑な事業承継を実現し従業員と地域を守る

  • 後継者がいなくても店舗と雇用を継続できる
  • 取引先や医療機関との関係を切らさずに済む
  • 顧客はかかりつけ薬局を失わず安心できる

経営ノウハウと資金力を得て事業改善が進む

  • 買い手のITシステムや物流網を活用して在庫回転率を向上
  • 仕入れ条件が改善し粗利が厚くなる
  • 設備更新や新サービス導入の投資資金を確保

経営者の経済的利益と心理的安心を同時に取得

  • 株式譲渡益が退職金代わりになり老後不安を解消
  • 個人保証を外せるためリスクから解放される
  • 遺族の相続税負担軽減にもつながる

ドラッグストア譲渡のデメリット

メリットが大きい一方、計画不足はリスクを拡大させます。

従業員流出リスクはコミュニケーション不足が原因

  • 給与体系や評価制度が変わると不安が高まる
  • 役職変更でモチベーション低下が起きやすい
  • 早期に説明会を開き、不明点を解消することが重要

取引先との関係変化と事業制限に注意

  • 仕入れ先が統合され価格交渉力を失う場合がある
  • 競業避止義務で元オーナーの新規起業が制限される
  • NDAや基本合意段階で条件を詳細に詰めることで回避可能

統合後の文化ギャップとガバナンス変更

  • 企業文化の違いは現場の混乱を招く
  • 本部指示が増え現場裁量が減るケースも多い
  • 両社でPMI(統合マネジメント)の計画を共有しておく

ドラッグストアのM&A価格相場と評価方法

価格は「いくらで売れるか」ではなく「どれだけ価値を創出できるか」で決まります。

価格帯は数千万円~数億円、主要要因は5つ

  1. 財務指標(売上・EBITDA・負債)
  2. 店舗立地とドミナント度合い
  3. 顧客基盤とリピート率
  4. 有資格者数と人件費構造
  5. 地域ブランド力とのれん価値

主な評価手法と交渉ポイント

  • EBITDA倍率法

上場調剤薬局平均7〜8倍が目安

  • DCF法

成長率や資本コストに現実的な前提を置く

  • 純資産価額法

土地建物保有が多い企業で有効

  • シナジー効果

のれんを言語化し、買い手のメリットを提案資料に盛り込む

市場動向と売買タイミング

  • 業界再編が進む現在は買い手市場傾向
  • 赤字転落前に早めの打診が高値売却につながる
  • 地域競合が買い手の場合はタイミングで倍率上振れが期待できる

ドラッグストアM&A成功のカギ

譲渡側・譲受側双方が“地域の健康インフラを守る”視点で協調すると成功率が飛躍的に高まります。

地域密着経営を維持し顧客ロイヤルティを落とさない

  • 地域イベントや健康相談会を継続開催
  • 地域限定商品の取扱いを続けブランドの連続性を示す
  • 地域医療連携パスを強化し医師・看護師とのネットワークを保全

薬剤師・登録販売者の確保と定着が競争力を決める

  • 資格手当や研修支援で処遇を明確化
  • ワークライフバランス改善で離職を防ぐ
  • 研修を共同開催し買い手の企業文化に自然に触れさせる

透明な情報開示と専門家の組成チーム

  • 財務・人事・法務データルームを早期に整備
  • 税理士・弁護士・仲介会社が連携し論点を洗い出す
  • 双方の決算期や会計方針の違いを埋める調整表を作成

ドラッグストア売却プロセスを3段階で押さえる

売却を「準備→交渉→契約」の三段階に分解し、それぞれでToDoを明確にします。

準備フェーズの10ポイント

  1. 売却目的の言語化
  2. 財務三表の精査
  3. 設備・在庫の棚卸
  4. 有資格者リストの整備
  5. 顧客属性データの整頓
  6. 競業避止範囲の検討
  7. M&A仲介・税理士・弁護士の選定
  8. 売却希望価格と根拠の整理
  9. 社内情報管理ルール策定
  10. 売却後ライフプラン試算

交渉フェーズで妥協しない条件整理

  • 秘密保持契約締結後に情報開示を段階的に行う
  • LOI(意向表明書)で価格と大枠条件を固める
  • デューデリジェンス質問票は早期に回答し信頼を獲得

契約・クロージング後の統合対応が実は本番

  • 従業員説明会とQ&Aシートの配布で不安を抑える
  • 取引先あいさつ回りを共同で実施
  • PMIチームを組成し月次で進捗をレビュー

ドラッグストア業界M&A実例で学ぶ教訓

具体事例を学ぶことで、自社のシナリオ設計にリアリティが生まれます。

ココカラファイン×薬宝商事—調剤機能強化型

  • 神奈川県2店の買収で調剤比率を引き上げ
  • 地域医療連携を深耕し処方箋枚数増加

クスリのアオキHD×フクヤ—食品強化型

  • スーパーマーケット統合で“食と健康”の総合店を実現
  • 物流統合により青果の鮮度と医薬品の回転率を同時に向上

ウエルシアHD×ふく薬品—新規エリア進出型

  • 沖縄進出の足掛かりとして既存15店舗を活用
  • 人材・PB商品・物流を段階的に統合し3年で売上1.4倍

まとめ

ドラッグストア M&Aは業界再編の波を乗りこえる有力策です。後継者不在や薬剤師不足を一気に解決し、地域密着を守りつつ成長を加速できます。成功には早期準備と専門家連携が不可欠です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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