ドラッグストア業界のM&A最新動向と成功のポイント

ドラッグストア業界のM&A動向を徹底解説。大手チェーンの戦略から中小企業の事業承継まで、業界特有の課題や成功のポイントを網羅。M&Aを検討する経営者必見の情報が満載です。

目次:

  1. ドラッグストアの定義と特徴
  2. ドラッグストア業界の変遷
  3. ドラッグストア市場の規模と成長
  4. 大手ドラッグストアチェーンの台頭
  5. ドラッグストア業界におけるM&Aの背景
  6. ドラッグストア業界のM&A傾向
  7. ドラッグストア譲渡のメリット
  8. ドラッグストア譲渡のデメリット
  9. ドラッグストアのM&A価格相場
  10. ドラッグストアM&A成功のカギ
  11. ドラッグストア売却プロセス
  12. ドラッグストア業界のM&A実例
  13. まとめ

ドラッグストアの定義と特徴

ドラッグストア(DgS)とは、医薬品を中心に化粧品、食品、日用品など幅広い商品を取り扱う小売店舗を指します。その特徴は、以下の点にあります。

1. 医薬品販売を主軸とする:処方箋医薬品から一般用医薬品まで、幅広い医薬品を取り扱います。

2. 多様な商品構成:化粧品、健康食品、日用雑貨など、生活に密着した商品を幅広く取り揃えています。

3. 価格戦略:食品や日用品を他の小売業態よりも安価に提供し、集客力を高めています。

4. 収益構造:利益率の高い医薬品販売で主な収益を上げる一方、他の商品で集客を図るビジネスモデルを採用し
    ています。

5. 専門知識の提供:薬剤師や登録販売者などの有資格者が常駐し、顧客の健康相談に応じるなど、専門的なサービス
        を提供しています。

このように、ドラッグストアは単なる小売店舗ではなく、地域の健康を支える重要な役割を担っています。近年では、調剤薬局を併設するなど、より総合的な健康サービスを提供する店舗も増加しています。

経営安定化と売却益の確保

ドラッグストア業界でM&Aが行われる主要な理由の一つに、経営の安定化と売却益の獲得があります。具体的には以下のようなメリットが挙げられます。

1. 経営規模の拡大:M&Aにより経営規模が大きくなることで、顧客獲得や経営効率が向上し、売上の増加や利益率の
        改善が期待できます。

2. 経営基盤の強化:大手企業の傘下に入ることで、資金力や経営ノウハウを活用でき、経営の安定化につながります。

3. コスト削減:規模の経済を活かし、仕入れや物流、広告宣伝などのコストを削減できる可能性があります。

4. 売却益の確保:M&Aによる売却益を得ることで、引退を考える経営者の老後資金を確保することができます。

5. 事業継続の保証:後継者問題に悩む中小ドラッグストアにとって、M&Aは事業継続の有効な手段となります。

このように、M&Aは経営の安定化と売却益の獲得という二つの重要な目的を同時に達成できる戦略として、ドラッグストア業界で注目されています。

ドラッグストア業界の変遷

ドラッグストア業界は、過去数十年で大きな変化を遂げてきました。特に、2000年代以降の法改正が業界に大きな影響を与えています。

1. 2009年の薬事法改正 

 o コンビニエンスストアでの一般用医薬品販売が解禁されました。

 o これにより、ドラッグストアの医薬品販売における競争が激化しました。

2. 2013年の薬事法改正 

 o インターネットでの第一類医薬品と第二類医薬品の販売が可能になりました。

 o オンライン販売の普及により、店舗型ドラッグストアの差別化がより重要になりました。

3. 2017年のセルフメディケーション税制導入 

 o 特定の医薬品購入額について所得控除制度が導入されました。

 o この制度により、消費者の健康意識が高まり、ドラッグストアの需要拡大につながりました。

これらの法改正により、ドラッグストア業界は以下のような変化を遂げています:

 • 医薬品販売における競争の激化

 • 店舗の大型化・複合化の進展

 • 健康・美容関連サービスの拡充

 •  プライベートブランド商品の強化

 • 調剤薬局の併設増加

このような環境変化の中、業界内での競争が激化し、大手チェーンによる中小ドラッグストアの買収や、異業種との提携など、M&Aの動きが活発化しています。

ドラッグストア市場の規模と成長

ドラッグストア市場は、近年着実な成長を続けています。以下に、市場規模と成長の特徴を示します。

1. 店舗数の増加 

 o 2014年以降、ドラッグストアの店舗数は毎年増加傾向にあります。

 o 大手チェーンの積極的な出店戦略が、この成長を牽引しています。

2. 市場規模の拡大 

 o 2022年のドラッグストア市場規模は、前年比で増加しています。

 o 特に食品カテゴリーが全体の約3割を占め、前年比7.1%増の2兆391億円と大きく成長しています。

3. 成長の背景 

 o 高齢化社会の進展

 o 消費者の健康志向の高まり

 o セルフメディケーションの推進

4. 商品構成の変化 

 o 従来の医薬品や化粧品に加え、食品や日用品の比率が増加しています。

 o 健康食品や機能性食品の需要も拡大しています。

5. サービスの多様化 

 o 調剤薬局の併設

 o 健康相談や美容サービスの提供

 o オンラインショップの強化

このような市場の成長と変化により、ドラッグストア業界ではM&Aの機会が増加しています。大手チェーンは規模の拡大と新規エリアへの進出を目指し、中小ドラッグストアは経営基盤の強化や事業承継の手段としてM&Aを活用する傾向が強まっています。


企業名

売上高(百万円)

店舗数

1

ウエルシアホールディングス

1,144,278

2,763

2

ツルハホールディングス

970,079

2,589

3

マツキヨココカラ&カンパニー

951,247

3,409

4

コスモス薬品

827,697

1,358

5

スギホールディングス

667,647

1,565

6

サンドラッグ

451,521

1,016

7

クスリのアオキホールディングス

378,874

902

8

クリエイトSDホールディングス

376,000

1,087

9

カワチ薬品

281,871

364

10

ゲンキー(Genky DrugStores)

169,059

409

売上高ランキング(2023年版)


1. 大手チェーンの特徴 

 o 積極的な店舗展開:全国規模での出店戦略を展開しています。

 o 効率的な経営:スケールメリットを活かした仕入れや物流システムを構築しています。

 o 多角化戦略:調剤薬局の併設や、プライベートブランド商品の開発に注力しています。

2. M&Aへの積極的姿勢 

 o 大手チェーンほど、M&Aに積極的な傾向が見られます。

 o 事業規模の拡大や新規エリアへの進出を目的としたM&Aを実施しています。

3. ドミナント戦略の採用 

 o 特定地域に集中的に出店し、シェアを確保する戦略を展開しています。

 o 中小規模のドラッグストアをM&Aで買収し、ドミナント戦略を強化しています。

4. 業界再編の動き 

 o 大手チェーン同士の合併や、異業種との提携も増加しています。

 o 例:マツモトキヨシとココカラファインの経営統合(2021年)

このような大手ドラッグストアチェーンの台頭により、中小規模のドラッグストアは厳しい競争環境に置かれています。そのため、中小ドラッグストアにとってM&Aは、大手の傘下に入ることで生き残りを図る重要な選択肢となっています。

ドラッグストア業界におけるM&Aの背景

ドラッグストア業界でM&Aが活発化している背景には、様々な要因があります。主な理由を以下に詳しく説明します。

優秀な人材の獲得

ドラッグストア業界では、有資格者の確保が重要な課題となっています。M&Aは、この課題を解決する有効な手段の一つです。

1. 薬剤師不足の解消 

 o ドラッグストアでは薬剤師の常駐が法律で義務付けられています。

 o しかし、薬剤師の採用競争は激しく、特に地方では確保が困難な状況です。

2. 登録販売者の獲得 

 o 一般用医薬品の販売には、登録販売者の配置が必要です。

 o 経験豊富な登録販売者の確保は、店舗運営の質を向上させます。

3. 即戦力の確保 

 o M&Aにより、既存の従業員をそのまま引き継ぐことができます。

 o これにより、新規採用や教育にかかる時間とコストを削減できます。

4. 地域に根ざした人材の獲得 

 o 地域密着型のドラッグストアを買収することで、その地域の顧客ニーズを熟知した人材を確保できます。

5. 専門知識・ノウハウの獲得 

 o 買収対象企業の従業員が持つ専門知識やノウハウを、自社に取り込むことができます。

このように、M&Aは単なる事業規模の拡大だけでなく、質の高い人材の獲得という観点からも、ドラッグストア業界で重要な戦略となっています。

事業承継問題の解決

ドラッグストア業界、特に中小規模の企業では、事業承継が大きな課題となっています。M&Aは、この問題を解決する有効な手段の一つです。

1. 後継者不在の解消 

 o 多くの中小ドラッグストアでは、後継者が見つからず事業継続が困難になっていますが、M&Aにより、第三者に事業を引き継ぐことで、廃業を回避できます。

2. 円滑な事業承継の実現 

 o M&Aを通じて、経営ノウハウや顧客基盤を持つ企業に事業を引き継ぐことができ、事業の継続性と発展性を確保できます。

3. 従業員の雇用維持 

 o 廃業ではなくM&Aを選択することで、従業員の雇用を守ることができます。

 o これは、地域経済の観点からも重要な意味を持ちます。

4. 経営者の引退資金確保 

 o M&Aによる売却益は、引退を考える経営者の生活資金となることで、経営者は安心して事業を手放すことができます。

5. 取引先との関係維持 

 o 廃業ではなくM&Aを選択することで、長年築いてきた取引先との関係を維持できます。

 o これは、地域のヘルスケアネットワークを守る上でも重要です。

このように、M&Aは事業承継問題を抱える中小ドラッグストアにとって、事業の存続と発展を両立させる重要な選択肢となっています。

ドラッグストア業界のM&A傾向

ドラッグストア業界のM&Aには、いくつかの特徴的な傾向が見られます。以下に、主な傾向とその詳細を説明します。

大手企業による事業拡大戦略

大手ドラッグストアチェーンは、積極的にM&Aを活用して事業拡大を図っています。

1. ドミナント戦略の強化 

 o 特定地域に集中的に出店し、その地域でのシェアを高める戦略を採用しています。

 o 中小ドラッグストアの買収により、効率的に店舗網を拡大しています。

2. 新規エリアへの進出 

 o 未進出地域の中小ドラッグストアを買収することで、新たな市場に効率的に参入しています。

3. 規模の経済の追求 

 o M&Aにより事業規模を拡大し、仕入れや物流などでのコスト削減を図っています。

4. 競合他社との差別化 

 o 特色ある中小ドラッグストアを買収することで、独自の強みを獲得し、競合他社との差別化を図っています。

中小規模店舗の大手傘下入り

中小規模のドラッグストアは、厳しい競争環境の中で生き残りをかけて、大手チェーンの傘下に入る傾向が強まっています。

1. 経営基盤の強化 

 o 大手チェーンの資金力や経営ノウハウを活用することで、経営の安定化を図れます。

2. 仕入れ条件の改善 

 o 大手チェーンの一員となることで、より有利な仕入れ条件を獲得できます。

3. ブランド力の向上 

 o 知名度の高い大手チェーンの名を冠することで、顧客からの信頼度が向上します。

4. IT化・システム化の推進 

 o 大手チェーンの先進的なITシステムを導入し、業務効率化を図れます。

5. 事業承継問題の解決 

 o 後継者不在に悩む中小ドラッグストアにとって、大手傘下入りは有効な選択肢となります。

複合型ドラッグストアの台頭

ドラッグストア業界では、他業態との融合や機能の複合化が進んでおり、これに関連したM&Aも増加しています。

1. 調剤薬局との融合 

 o ドラッグストアチェーンによる調剤薬局の買収が増加しています。

 o 例:ココカラファインによる薬宝商事の買収(2020年)

2. 食品スーパーとの統合 

 o ドラッグストアと食品スーパーの統合により、より総合的な品揃えを実現しています。

 o 例:クスリのアオキホールディングスによるフクヤの子会社化(2020年)

3. コンビニエンスストアとの連携 

 o 一部のドラッグストアチェーンは、コンビニエンスストア機能を取り入れた店舗を展開しています。

4. 美容・健康サービスの強化 

 o エステやフィットネス機能を併設したドラッグストアが増加しています。

5. オンライン・オフライン融合 

 o EC事業者との提携や買収により、オムニチャネル戦略を強化する動きが見られます。

これらの傾向は、ドラッグストア業界がより総合的な「健康と美容のワンストップショップ」へと進化していることを示しています。M&Aは、この進化を加速させる重要な手段となっています。

ドラッグストア譲渡のメリット

ドラッグストアを譲渡(売却)する側にとっても、M&Aには様々なメリットがあります。以下に主なメリットを詳しく説明します。

円滑な事業承継の実現

M&Aは、後継者問題を抱える中小ドラッグストアにとって、円滑な事業承継を実現する有効な手段です。

1. 後継者不在問題の解決 

 o 適切な後継者が見つからない場合でも、M&Aにより事業を存続させることができます。

2. 従業員の雇用維持 

 o 廃業ではなくM&Aを選択することで、従業員の雇用を守ることができます。

3. 取引先との関係維持 

 o 長年築いてきた取引先との関係を継続することができます。

4. 地域への貢献継続 

 o 地域に根ざした店舗を存続させることで、地域社会への貢献を継続できます。

5. 経営者の心理的負担軽減 

 o 自身が築き上げた事業を存続させることで、経営者の心理的な満足感が得られます。

事業改善と拡大の機会

M&Aにより、売り手の事業にも新たな成長の機会がもたらされます。

1. 経営ノウハウの獲得 

 o 買収側の先進的な経営手法を学び、導入することができます。

2. 資金力の強化 

 o 大手チェーンの傘下に入ることで、新規出店や設備投資のための資金を確保しやすくなります。

3. 仕入れ条件の改善 

 o 規模の拡大により、より有利な仕入れ条件を獲得できる可能性があります。

4. IT化・システム化の推進 

 o 買収側の先進的なITシステムを導入し、業務効率化を図ることができます。

5. 新規サービスの展開 

 o 買収側のリソースを活用して、新たなサービスや商品ラインを展開できる可能性があります。

経済的利益の獲得

M&Aによる譲渡は、経営者にとって経済的な利益をもたらす機会となります。

1. 売却益の獲得 

 o 企業価値に応じた対価を得ることができ、これが経営者の資産となります。

2. 退職金の確保 

 o M&Aによる売却益は、長年経営に携わってきた経営者の退職金的な役割を果たします。

3. 新規事業への投資資金 

 o 獲得した資金を活用して、新たな事業に挑戦する機会が生まれます。

4. 債務の返済 

 o 企業に債務がある場合、売却益でそれを返済し、財務状況を改善できる可能性があります。

5. 相続税対策 

 o 事業承継時の相続税負担を軽減する手段として活用できる場合があります。

このように、ドラッグストアの譲渡は、事業の存続や発展だけでなく、経営者個人の経済的利益にもつながる重要な選択肢となります。

ドラッグストア譲渡のデメリット

ドラッグストアの譲渡(売却)には多くのメリットがある一方で、考慮すべきデメリットも存在します。以下に主なデメリットを詳しく説明します。

従業員の流出リスク

M&Aに伴い、従業員の不安や不満が高まり、離職につながるリスクがあります。

1. 雇用条件の変更 

 o 給与体系や福利厚生の変更により、従業員の不満が高まる可能性があります。

2. 企業文化の違い 

 o 買収側との企業文化の違いに適応できず、従業員が離職する可能性があります。

3. 役職や職責の変更 

 o 組織再編により、従業員の役職や職責が変更される可能性があります。

4. 不安による自主退職 

 o M&Aに対する不安から、優秀な人材が自主的に退職する可能性があります。

5. モチベーションの低下 

 o 経営方針の変更により、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。

これらのリスクを軽減するためには、従業員とのコミュニケーションを丁寧に行い、不安を解消する努力が必要です。

取引先との関係変化と事業制限

M&Aにより、これまでの取引先との関係や事業展開に制限が生じる可能性があります。

1. 取引先との関係悪化 

 o 買収側との関係により、既存の取引先との関係が悪化する可能性があります。

2. 仕入れ先の変更 

 o 買収側の方針により、これまでの仕入れ先を変更せざるを得なくなる可能性があります。

3. 商品ラインナップの変更 

 o 買収側の戦略に合わせて、取り扱い商品の見直しを求められる可能性があります。

4. 地域戦略の制限 

 o 買収側の全社的な戦略により、地域に特化した独自の戦略が制限される可能性があります。

5. 競業避止義務 

 o M&A契約に競業避止条項が含まれる場合、元経営者の新規事業展開が制限される可能性があります。

これらのデメリットを最小限に抑えるためには、M&A交渉の段階で詳細な条件を詰めておくことが重要です。

ドラッグストアのM&A価格相場

ドラッグストアのM&A価格は、様々な要因によって決定されます。以下に、価格相場とその決定要因について詳しく説明します。

1. 価格相場の概要 

 o ドラッグストアのM&A価格は、一般的に数千万円から数億円の範囲で取引されています。

 o 店舗数や売上規模、収益性などにより、価格は大きく変動します。

2. 価格決定の主な要因 

 o 財務状況:売上高、利益率、負債の状況など

 o 店舗数と立地:所有店舗数と各店舗の立地条件

 o 顧客基盤:固定客の数や顧客満足度

 o 人材:薬剤師や登録販売者などの有資格者の在籍状況

 o ブランド力:地域での知名度や評判

3. 価値評価の方法 

 o EBITDA倍率法:調剤薬局業界の上場企業のEBITDAマルチプルは、およそ7~8倍と言われています。

 o DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法):将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出します。

 o 純資産価額方式:企業の純資産をベースに価値を算出します。

4. 価格交渉のポイント 

 o シナジー効果:買収側にとってのシナジー効果を考慮した価格交渉が可能です。

 o のれん代:地域での評判や顧客基盤などの無形資産も価値に含まれます。

 o 将来性:今後の成長可能性も価格に反映されます。

5. M&A市場の動向 

 o 業界再編の加速により、中小ドラッグストアの需要が高まっています。

 o 一方で、買い手市場の傾向が強まっており、売り手にとって有利な価格での譲渡は難しくなっています。

ドラッグストアのM&A価格は、個々の案件によって大きく異なるため、専門家による詳細な企業価値評価が重要です。また、単に高値での売却を目指すのではなく、事業の継続性や従業員の処遇なども考慮したバランスの取れた価格設定が求められます。

ドラッグストアM&A成功のカギ

ドラッグストアのM&Aを成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。以下に、成功のカギとなる要素を詳しく説明します。

地域密着型経営の実現

地域に根ざした経営は、ドラッグストアの価値を高める重要な要素です。

1. 地域ニーズの把握 

 o 地域住民の健康ニーズを的確に把握し、それに応じた商品やサービスを提供します。

2. 地域医療機関との連携 

 o 地域の医療機関と良好な関係を築き、地域医療の一翼を担う存在となります。

3. 地域イベントへの参加 

 o 健康相談会や地域イベントに積極的に参加し、地域社会との結びつきを強化します。

4. 地域特性に合わせた品揃え 

 o 地域の特性や需要に合わせた商品ラインナップを展開します。

5. 地域雇用への貢献 

 o 地域住民の雇用を積極的に行い、地域経済に貢献します。

有資格者の充実した確保

薬剤師や登録販売者などの有資格者の確保は、ドラッグストアの競争力を高める重要な要素です。

1. 薬剤師の確保 

 o 処方箋調剤や医薬品販売の中核を担う薬剤師を十分に確保します。

2. 登録販売者の育成 

 o 一般用医薬品の販売に不可欠な登録販売者を社内で積極的に育成します。

3. 継続的な教育・研修 

 o 有資格者のスキルアップのため、継続的な教育・研修プログラムを実施します。

4. 働きやすい環境の整備 

 o 有資格者が長く働き続けられるよう、労働環境や待遇の改善に努めます。

5. 資格取得支援 

 o 従業員の資格取得を支援する制度を設け、有資格者の増加を図ります。

透明性の高い情報開示

M&Aの成功には、適切かつ透明性の高い情報開示が不可欠です。

1. 財務情報の開示 

 o 正確かつ詳細な財務情報を提供し、企業価値の適正な評価につなげます。

2. 人材情報の共有 

 o 従業員の構成や有資格者の在籍状況など、人材に関する情報を適切に開示します。

3. 経営課題の明確化 

 o 現在直面している経営課題や今後の課題を隠さず開示します。

4. 将来計画の提示 

 o 今後の事業計画や成長戦略を明確に示します。

5. リスク情報の共有 

 o 潜在的なリスクや懸念事項を隠さず共有します。

M&A専門家の活用

M&Aのプロセスを円滑に進めるためには、専門家の支援が重要です。

1. M&A仲介会社の利用 

 o 適切な買い手の選定や条件交渉をサポートしてもらいます。

2. 税理士・会計士の活用 

 o 税務や会計面でのアドバイスを受け、最適な取引スキームを構築します。

3. 弁護士の起用 

 o 契約書の作成や法的リスクの確認など、法務面でのサポートを受けます。

4. 経営コンサルタントの活用 

 o 企業価値向上のためのアドバイスや統合後の経営戦略立案をサポートしてもらいます。

5. デューデリジェンス専門家の起用 

 o 財務、法務、人事など多角的な観点からの詳細調査を依頼します。

これらのポイントに注意を払いながらM&Aを進めることで、成功の可能性を高めることができます。特に、地域密着型の経営と有資格者の確保は、ドラッグストア業界特有の重要な要素であり、これらを強みとして示すことがM&A成功のカギとなります。

ドラッグストア売却プロセス

ドラッグストアの売却プロセスは、一般的に以下の3つのフェーズに分けられます。各フェーズでの重要なステップを詳しく解説します。

1. 準備フェーズ

売却に向けた準備を行う重要な段階です。

1. M&Aの目標設定 

 o 売却の目的や希望条件を明確にします。

 o 例:事業承継、経営の安定化、成長戦略の実現など

2. 企業価値の評価 

 o 自社の財務状況や市場価値を客観的に評価します。

 o 必要に応じて、専門家による企業価値評価を依頼します。

3. アドバイザーの選定 

 o M&A仲介会社や税理士、弁護士などの専門家を選定します。

4. 必要書類の準備 

 o 財務諸表、事業計画書、従業員リストなど、必要な書類を整備します。

5. 秘密保持体制の構築 

 o 情報漏洩を防ぐため、社内での情報管理体制を整えます。

2. 交渉フェーズ

買い手候補との具体的な交渉を行う段階です。

1. 買い手候補の選定 

 o アドバイザーの支援を得て、適切な買い手候補を選定します。

2. 秘密保持契約(NDA)の締結 

 o 情報開示に先立ち、買い手候補と秘密保持契約を結びます。

3. 情報開示と初期提案 

 o 企業情報を開示し、買い手候補から初期的な提案を受けます。

4. 条件交渉 

 o 売却価格や条件について、具体的な交渉を行います。

5. 基本合意書の締結 

 o 主要な条件について合意に達したら、基本合意書を締結します。

6. デューデリジェンス 

 o 買い手候補による詳細な調査(デューデリジェンス)を受け入れます。

3. 契約・クロージングフェーズ

最終的な契約締結と取引完了に向けた段階です。

1. 最終契約書の作成 

 o 弁護士のサポートを得て、最終的な契約書を作成します。

2. 最終契約の締結 

 o 双方で合意した内容に基づき、最終契約を締結します。

3. クロージング準備 

 o 株式譲渡や資産移転など、取引完了に向けた準備を行います。

4. 取引実行(クロージング) 

 o 契約に基づき、実際の取引(株式譲渡や代金支払いなど)を行います。

5. ポストM&A対応 

 o 従業員や取引先への説明、経営の引継ぎなどを行います。

このプロセスを通じて、以下の点に特に注意を払うことが重要です:

 • 適切なタイミングでの情報開示

 • 従業員の不安解消と士気維持

 • 取引先との関係維持

 • 法的・税務的なリスクの管理

 • スムーズな経営移行の準備

ドラッグストアのM&Aでは、薬事法などの業界特有の規制や、有資格者の処遇など固有の課題もあるため、業界に精通した専門家のサポートを受けながら進めることが成功の鍵となります。

ドラッグストア業界のM&A実例

ドラッグストア業界では、様々なM&Aが行われています。ここでは、特徴的な2つの事例を詳しく紹介します。

ココカラファインによる薬宝商事の買収

2020年1月に実施されたこのM&Aは、大手ドラッグストアチェーンによる地域密着型調剤薬局の買収事例です。

1. 買収の概要 

 o 買収企業:株式会社ココカラファイン

 o 被買収企業:有限会社薬宝商事

 o 買収形態:子会社化

2. 買収の背景 

 o ココカラファインは「健康サポート薬局」づくりを重点戦略としていました。

 o 地域のヘルスケアネットワーク構築を目指していました。

3. 買収の目的 

 o 神奈川県におけるドミナント戦略の深耕

 o 調剤薬局事業の強化

 o 地域密着型のノウハウ獲得

4. 買収対象の特徴 

 o 薬宝商事は川崎市内で2店舗の調剤薬局を運営

 o 年間売上高は約3億円規模

5. 買収後の展開 

 o ココカラファインの経営資源を活用した事業拡大

 o 地域医療連携の強化

この事例は、大手チェーンが地域に根ざした小規模薬局を買収することで、地域戦略を強化するとともに調剤事業を拡大する典型的なケースと言えます。

クスリのアオキホールディングスとフクヤの統合

2020年10月に実施されたこのM&Aは、ドラッグストアチェーンと食品スーパーの統合という、業態をまたいだ事例です。

1. 統合の概要 

 o 買収企業:株式会社クスリのアオキホールディングス

 o 被買収企業:株式会社フクヤ

 o 買収形態:子会社化

2. 統合の背景 

 o クスリのアオキは、食品部門の強化を経営課題としていました。

 o 地域に根ざしたスーパーマーケットとの連携を模索していました。

3. 統合の目的 

 o 食品部門の強化による総合的な品揃えの実現

 o 新たな地域(京都府)への進出

 o シナジー効果による競争力強化

4. 買収対象の特徴 

 o フクヤは京都府宮津市を中心に食品スーパーを展開

 o 地域に根ざした経営で強い顧客基盤を保有

5. 統合後の展開 

 o ドラッグストアとスーパーマーケットの強みを活かした新業態の開発

 o 両社の経営資源を活用した効率化と競争力強化

この事例は、ドラッグストア業界が食品分野へ進出し、より総合的な小売業態へと進化していく傾向を示しています。また、地域密着型の経営を重視する点も特徴的です。

これらの事例から、ドラッグストア業界のM&Aには以下のような傾向があることがわかります:

1. 大手チェーンによる中小企業の買収が活発

2. 調剤薬局事業の強化を目的としたM&Aが増加

3. 異業種との統合による総合的な小売業態への進化

4. 地域戦略の強化を重視したM&Aの実施

5. シナジー効果を重視した戦略的なM&Aの増加

これらの傾向は、今後もドラッグストア業界のM&A動向に大きな影響を与えていくと予想されます。

まとめ

ドラッグストア業界のM&Aは、業界の構造変化や競争激化を背景に活発化しています。主な特徴と今後の展望をまとめると以下のようになります:

1. 業界再編の加速:大手チェーンによる中小ドラッグストアの買収が進み、業界の寡占化が進行しています。

2. 複合化の進展:調剤薬局との融合や食品スーパーとの統合など、より総合的な小売業態へと進化しています。

3. 地域戦略の重要性:地域密着型の経営を重視し、地域におけるドミナント戦略を強化するM&Aが増加しています。

4. 事業承継問題への対応:後継者不在に悩む中小ドラッグストアにとって、M&Aは有効な解決策となっています。

5. 異業種からの参入:IT企業や異業種小売業からの参入も見られ、業界の境界線が曖昧になりつつあります。

今後のドラッグストア業界のM&Aでは、単なる規模拡大だけでなく、専門性の強化や地域戦略の深化、デジタル化への対応など、より戦略的な視点が重要になると予想されます。M&Aを検討する企業は、自社の強みや課題を客観的に分析し、長期的な成長戦略の中でM&Aを位置づけることが成功の鍵となるでしょう。

この情報が、業界関係者やM&Aを検討している方々にとって有益なものとなれば幸いです。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

相続の教科書