ドラッグストア業界のM&A最新動向と事業承継成功へのガイド
ドラッグストア M&Aは本当に必要でしょうか?――答えは「はい」です。法改正・市場鈍化・人材不足が進む今、買い手も売り手も早期に戦略を固めることで事業承継と成長を同時に実現できます。本記事では最新動向と成功の秘訣をわかりやすく解説します。
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▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
ドラッグストア(以下DgS)は、医薬品を核に化粧品・食品・日用品まで取り揃え、地域の健康インフラを担う店舗です。総務省の定義によれば「健康と美容関連商品をセルフサービス形式で販売する事業所」と位置づけられます。医薬品を取り扱うため薬剤師常駐が義務付けられており、コンビニやスーパーとの差別化要因になっています。
2000年代以降の薬事法改正でDgSは大きく姿を変えました。
一般用医薬品がコンビニでも買えるようになり、価格競争とサービス差別化が加速しました。
第一類・第二類医薬品のネット販売が認められ、リアル店舗は体験価値向上に注力。
OTC医薬品購入額1.2万円超で所得控除となり、健康意識の高い消費者がDgSを積極的に利用しています。
DgSの店舗数は2014年以降右肩上がりで、2022年には約2万3千店に達しました。市場規模も拡大を続け、22年度は食品カテゴリが前年比7.1%増の2兆391億円と全体成長をけん引しています。ただし医薬品の伸びは緩やかで、成長率は漸減傾向です。
売上上位10社だけで業界シェアの過半を占め、ウエルシアHD(売上高1兆1,442億円・2,763店)がトップを走ります。その戦略はドミナント出店と調剤併設、そしてM&Aを軸にした規模拡大です。
ウエルシアHD
首都圏・中部でドミナント。ふく薬品(沖縄)買収で南進。
ツルハHD
北海道発。ドラッグイレブン買収で九州に展開。
マツキヨココカラ&カンパニー
経営統合で全国3,400店超。調剤強化。
コスモス薬品
EDLP戦略と自前物流で高回転。M&Aより新規出店を重視。
大手は共同仕入れ・物流センター統合で原価を圧縮し、PB商品比率を高め粗利を押し上げています。この結果、中小の単独生存が難しくなり、M&Aが加速しています。
DgSのM&Aは事業規模拡大と同時に、人材確保と後継者問題解決という二つの課題を一挙に解決できる手段として注目されています。
有効求人倍率4.76倍(2020年)は深刻です。買収により地域に根ざした薬剤師・登録販売者を引き継げれば、採用難を一気に解消できます。
事業継続・従業員雇用維持・個人保証解消
新規エリア参入・顧客基盤取得・調剤機能拡充
ここでは実際に見られる代表的な傾向を整理します。
買い手が既存エリア周辺の中小DgSをまとめて取得し、地域シェアを高める手法です。物流効率と広告効果が上がり、競合参入を防ぎます。
大手が未進出地域の有力チェーンを買収して一気に足場を築くケース。例としてウエルシアHDによる沖縄のふく薬品買収が挙げられます。
調剤薬局買収
ココカラファイン×薬宝商事
食品スーパー統合
クスリのアオキHD×フクヤ
オンライン薬局買収
欧州Shop Apotheke×First A
多様なM&Aモデルが併存し、業界は「健康と生活の総合流通業」へ進化しています。
譲渡(売却)は「身を引く」だけでなく、事業と地域を守り、経営者自身の将来設計を叶える積極的な選択肢です。
メリットが大きい一方、計画不足はリスクを拡大させます。
価格は「いくらで売れるか」ではなく「どれだけ価値を創出できるか」で決まります。
上場調剤薬局平均7〜8倍が目安
成長率や資本コストに現実的な前提を置く
土地建物保有が多い企業で有効
のれんを言語化し、買い手のメリットを提案資料に盛り込む
譲渡側・譲受側双方が“地域の健康インフラを守る”視点で協調すると成功率が飛躍的に高まります。
売却を「準備→交渉→契約」の三段階に分解し、それぞれでToDoを明確にします。
具体事例を学ぶことで、自社のシナリオ設計にリアリティが生まれます。
ドラッグストア M&Aは業界再編の波を乗りこえる有力策です。後継者不在や薬剤師不足を一気に解決し、地域密着を守りつつ成長を加速できます。成功には早期準備と専門家連携が不可欠です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画