測量業界のM&A動向を徹底解説します。業界の特徴や課題、最新の市場環境、競合状況を分析し、M&Aの事例や今後の展望をご紹介。M&A検討時の重要ポイントもお伝えします。
目次:
測量業界は、測量法に基づいて測量業者登録を行い、土地や構造物、河川の流量などを測定・観測する業界です。主に民間測量と公共測量の2つの分野に分かれており、それぞれ異なる特徴を持っています。
民間測量は、主に建設会社(ゼネコン)や建築会社(ハウスメーカー)などからの依頼で計測を行う業務です。一方、公共測量は国や都道府県などの公共団体から業務を受託し、計測を行います。
ただし、注意すべき点として、登記を目的とした測量業務は土地家屋調査士の独占業務であり、測量業者が直接登記を行うことはできません。
測量業界には、以下のような特徴があります。
1. ローカルビジネス性:
o 公共工事は入札で獲得するため、地域要件があります。
o 営業所の登録には常駐の測量士が必要で、商圏拡大にはコストがかかります。
2. 受注変動:
o 公共工事の予算や入札の結果により、仕事量に偏りが生じやすいです。
o 民間業務も開発工事に依存するため、地域や時期による変動があります。
3. 労働集約型ビジネス:
o 新技術(ドローンや3D測量)の導入が進んでいますが、人の補助は不可欠です。
o 技術者の確保が最重要課題となっています。
測量業界は現在、主に2つの大きな課題に直面しています。
1. 技術者の高齢化:
o 平成30年時点で、測量士・測量士補の約80%が40代以上です。
o 60代以上の技術者数が10代~30代の合計数を上回っています。
o 今後10年以内に全体の約25%が引退する可能性があり、人材確保が急務です。
図1【測量士合計と測量士補合計の年代別人数と構成比】
参考:国土交通省「測量業における測量士・測量士補に関する実態調査報告書」
2. 測量業者の減少:
o 2003年をピークに18年連続で業者数が減少しています。
o 競争力の弱い小規模事業者を中心に減少が続いています。
o 公共工事の大幅な増加は見込めず、今後も減少傾向が続くと予想されます。
図2【登録業者数の推移】
出典:国土交通省「建設関連業 登録業者数調査」(令和3年度)
これらの課題に対応するため、業界では中堅・大手企業による寡占化が進むと考えられています。しかし、災害対応や維持保全など、測量の需要自体がなくなることはないため、業界の再編と効率化が進むことが予想されます。
図3【測量業者50社の契約金額及び契約件数の推移】
出典:国土交通省「建設関連業等の動態調査報告」より作成
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
測量業界を取り巻く環境は日々変化しており、競合状況も変化しつつあります。市場の動向と競合企業の実態を詳しく見ていきましょう。
測量業界の市場は、以下のような特徴を持っています:
1. 国内需要主体:
o 2021年度の測量業者50社の契約金額の99%以上が国内となっています。
o 公共工事の比率が非常に高く、日本の景気に左右されやすい傾向があります。
2. 契約金額と件数の推移:
o 契約金額は2018年をピークに一時下降しましたが、2021年には概ねピーク時の水準まで回復しています。
o 一方、契約件数は2018年をピークに下降傾向にあり、1件当たりの単価が上昇しています。
3. 市場規模の安定性:
o 過去10年の契約金額は800億円~1,000億円のレンジで推移しています。
o 今後も継続的な需要が見込まれるため、業者間の競争は続くと考えられます。
測量業界の競合状況は以下のような特徴を持っています:
1. 参入障壁の高さ:
o 異業種からの新規参入は稀で、既存の測量業者間での競争が主となっています。
2. 企業規模による差異:
o 小規模測量会社:測量業の登録業務のみを請け負うケースが多いです。
o 中堅・大手企業:総合建設コンサルタントとして、土木設計、測量、地質調査などの隣接業務を一貫して対応できる体制を整えています。
3. 技術投資の格差:
o 資本力のある総合建設コンサルタント会社:3D測量やドローンなど、新しい機材への積極的な設備投資を進めています。
o 小規模事業者:設備投資が進まず、技術力の格差が生じています。
4. 今後の展望:
o 総合建設コンサルタントとして運営する企業の増加が予想されます。
o 測量業務のみの事業者は、技術力や業務範囲の拡大など、専門業者としての差別化が必要となっています。
このような市場環境と競合状況の中で、測量業界ではM&Aによる事業再編が活発化しています。次の項目では、その動向と事例について詳しく見ていきます。
測量業界では、近年、総合建設コンサルタント企業を中心にM&Aが活発化しています。この項目では、M&Aが増加している理由と、実際の事例について解説します。
測量業界におけるM&A戦略には、以下のような特徴があります:
1. M&Aの主な形態:
o 同業の中堅~大手企業が、小規模~中堅の企業を買収するケースが多くなっています。
2. M&Aの目的:
o エリア拡大
o 技術者の確保
o 登録部門の拡充
3. M&Aを選択する理由:
o 人材確保の困難さ:新規エリアでの事業拡大に時間がかかるため、M&Aによる即戦力の獲得が効果的です。
o 費用対効果とリスク管理:自社での拡大に比べ、M&Aの方がリスクを抑えられる場合があります。
4. M&Aの特徴:
o 同業または隣接業者間でのM&Aが主流であり、比較的スムーズな経営統合が可能です。
5. 今後の展望:
o 小規模事業者の事業継続が困難になるケースの増加が予想されます。
o 大手企業による寡占化が進む可能性が高いです。
実際に行われた測量業界のM&A事例をいくつか紹介します:
1. ERIホールディングス × 日建コンサルタント
o 買収企業:ERIホールディングス株式会社
o 被買収企業:日建コンサルタント株式会社(北海道の建設コンサルタント会社)
o 目的:
2. メイホーホールディングス × 安芸建設コンサルタント
o 買収企業:株式会社メイホーホールディングス(子会社の株式会社メイホーエンジニアリングを通じて)
o 被買収企業:株式会社安芸建設コンサルタント(広島県の建設コンサルタント会社)
o 目的:
3. 新日本コンサルタント × 東光測建
o 買収企業:新日本コンサルタント株式会社
o 被買収企業:株式会社東光測建(神奈川県の測量会社)
o 目的:
これらの事例から、測量業界のM&Aは地域拡大や技術力の獲得、事業領域の拡大を目的として行われていることがわかります。今後も同様の傾向が続くと予想されます。
測量業界のM&Aは今後も増加が見込まれています。ここでは、M&A市場の将来予測と、M&Aを検討する際の重要なポイントについて解説します。
測量業界におけるM&A市場の将来的な見通しは、以下の理由から増加傾向が続くと予想されます:
1. 安定した需要:
o 建設工事が存在する限り、測量は必須の業務です。
o 少子化・人口減少社会においても、一定程度の業界規模が維持されると予想されます。
2. 業界構造:
o 現状では小規模事業者が多く、大手企業の寡占化が進んでいない状況です。
o 今後、業界再編が進むことで、M&Aの機会が増加すると考えられます。
3. 事業承継の需要:
o 事業承継適齢期の経営者が多く、後継者問題を抱える企業が増加しています。
o M&Aによる事業承継の選択肢が注目されています。
これらの要因により、測量業界のM&Aはより一層活発化すると予測されます。
測量業を営む企業の経営者がM&Aを検討する際には、以下の業界特有のポイントに注意が必要です:
1. 従業員の年齢構成:
o 測量業界の高齢化は顕著に進んでいます。
o M&Aによる譲渡を検討する場合、従業員の高齢化が進む前の方が良い条件での譲渡が可能です。
o 買収側も、従業員の年齢構成を重要なポイントとして考慮します。
2. 労働環境の整備:
o 測量業界は長時間労働になりやすい特性があります。
o 近年の雇用規制強化に伴い、労務管理には特に注意が必要です。
o 労務違反がある場合、M&Aの障害となる可能性があります。
o 適正な残業代の支払いなど、事前に対応を行うことが重要です。
3. 専門家への相談:
o M&Aを検討する際は、M&A仲介会社や社会保険労務士などの専門家に相談することが推奨されます。
o 事前の準備と適切なアドバイスにより、スムーズなM&Aプロセスを実現できます。
これらのポイントに注意を払い、十分な準備を行うことで、測量業界におけるM&Aの成功確率を高めることができます。
測量業界のM&Aは、業界の構造変化と技術革新を背景に活発化しています。小規模事業者が多く、大手企業の寡占化がまだ進んでいない現状から、今後もM&Aの増加が予想されます。エリア拡大や技術者確保、新技術獲得を目的としたM&Aが主流となり、業界の再編が進むでしょう。M&Aを検討する際は、従業員の年齢構成や労働環境の整備に特に注意が必要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画