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測量業界M&Aの市場動向と成功戦略を事例とともに解説

測量業界のM&Aはなぜ活発化しているのか―その答えは、技術者不足と市場再編の波にあります。本稿では業界の特徴から最新事例、成功の秘訣まで税理士目線でわかりやすく解説します。

目次:

  1. 測量業界の概要と特徴を押さえる
  2. 測量業界の市場環境と競合状況を読み解く
  3. 測量業界における寡占化とM&A動向を理解する
  4. 測量業界のM&A市場展望と将来予測を押さえる
  5. M&Aを検討する際の業界特有の注意点を整理する
  6. 測量業界の売却相場と企業価値評価を理解する
  7. 測量会社を積極的に買収する主要プレーヤーを把握する
  8. 計量証明事業・測量請負事業の許認可に関する追加留意点
  9. 売却成功に近づく5つのコツを再確認する
  10. 相談先ごとの特徴と費用感を理解する
  11. まとめ

測量業界の概要と特徴を押さえる

測量業界は測量法に基づく登録制ビジネスです。土地や構造物を正確に計測し、民間建設会社や公共団体にデータを提供します。民間測量はゼネコンやハウスメーカーからの受託が中心で、公共測量は国や自治体の発注を受けます。登記を目的とした測量は土地家屋調査士の独占業務となるため、測量会社は直接登記を行えません。

測量業界は登録制で民間と公共に大別される

測量業を営むには営業所ごとに常勤の測量士を置き、国土交通省へ登録する必要があります。民間測量は開発案件の動向が売上を左右し、公共測量は予算と入札結果に連動します。この二本柱のバランスが経営のカギです。

公共測量は地域要件と入札制度が収益に影響する

公共案件は入札で競争が決まるため、所在地や実績によって参入の可否が変わります。営業所を増やして商圏を広げるには測量士配置や登録コストがかかる点がローカルビジネスと呼ばれるゆえんです。

民間測量は景気と開発量で受注が揺れる

住宅着工や大型開発が減少すると民間受注は細りやすく、地域ごとに仕事量が偏在します。そのため複数エリアをカバーできる体制が求められます。

測量業界が抱えるローカル性と労働集約課題

最新のドローン測量や3Dレーザ計測が普及しても、人が現場で測点を設置し機材を運用する労働集約性は残ります。技術者を確保し続けることが生産能力と品質維持の前提です。

新技術導入は差別化要因になるが初期投資が重い

資本力のある企業は高精度機材や解析ソフトへ先行投資し、競争優位を築いています。一方、小規模事業者は投資負担が重く、技術格差が拡大しています。

技術者高齢化と事業者減少が深刻化

国交省調査によれば測量士・測量士補の約80%が40代以上で、60代以上が若年層を上回ります。業界全体で10年以内に4人に1人が引退する見込みがあるため、人材確保と育成が急務です。また登録業者数は2003年をピークに減少が続き、競争力の弱い小規模業者を中心に市場退出が進んでいます。

測量業界の市場環境と競合状況を読み解く

測量市場は国内需要が主体で、公共案件の比率が高く景気変動の影響を受けやすいのが特徴です。測量業者50社の契約金額は2018年にピークを迎え一時下降しましたが、2021年にはおおむね回復しました。

国内需要中心で公共比率が高いのが市場の実態

契約金額の99%超が国内案件で占められ、特に公共インフラ関連の仕事が安定需要を生み出します。災害対応や維持修繕など測量の必要性は消えないため、市場規模は800億~1,000億円レンジで推移しています。

公共工事依存は入札単価に直結するリスクも抱える

公共予算が縮小すれば受注単価が下がり、件数が減れば売上が目減りします。企業は民間案件の獲得やサービス多角化でリスク分散を図る必要があります。

契約金額は回復傾向だが件数は減少し単価上昇

件数は2018年をピークに減り続けていますが、1件あたりの単価が上がり、総額は持ち直しています。これは高精度測量やデータ解析の需要増が単価を押し上げているためです。

高付加価値サービスで単価を引き上げる動きが顕著

3D点群解析やGISデータ整備など、従来より高度なアウトプットが求められ単価アップに寄与しています。

参入障壁と技術投資格差が競争を決める

測量は登録制のため異業種からの参入が少なく、既存事業者間の競争が主流です。総合建設コンサルタントは測量・土木設計・地質調査をワンストップで提供し、3D測量やドローン測量へ積極投資することで差別化を進めています。

小規模業者は受注領域特化と技術連携が生存戦略

隣接業務を持たない純粋測量会社は専門領域に磨きをかけ、大手との協業やM&Aによる技術補完で存在感を示す必要があります。

測量業界における寡占化とM&A動向を理解する

業界再編は中堅・大手による買収を軸に進んでいます。同業間M&Aは経営統合が比較的スムーズで、人材・営業基盤・技術を一括取得できる即効性が魅力です。

M&Aの主流は中堅~大手が小規模~中堅を取り込む形

買収企業はエリア拡大、技術者確保、登録部門拡充を目的に案件を発掘します。新規出店で測量士を配置し登録を得るより、既存企業の買収が時間とコストを抑えられるためです。

人材難がM&Aを後押しする最大要因

測量士資格取得には実務経験と試験合格が必要で、即戦力確保が困難です。買収により熟練技術者を迎え入れる方がリスクが低いと判断されています。

同業・隣接業者間M&Aは統合効果が出やすい

業務プロセスが類似し、顧客層も重なるため、バックオフィス統合やクロスセルが早期に実現します。

地域拡大と技術取得を目的とした代表的な事例を学ぶ

M&Aは案件ごとに狙いが異なりますが、測量業界では次の3つが典型とされています。

ERIホールディングスが日建コンサルタントを取り込んだ理由

北海道を拠点とする日建コンサルタントをグループ化し、インフラストック分野を強化しました。北海道での土木インフラ案件をワンストップで対応し、企業価値向上を図ったのがポイントです。

メイホーホールディングスが安芸建設コンサルタントを迎えた背景

子会社を通じて広島県の建設コンサルタント会社を買収し、グループ内の建設コンサルタント6社と連携。スケールメリットと支援体制の強化を実現しました。

新日本コンサルタントが東光測建を買い取った狙い

神奈川県川崎市で強みを持つ測量会社を取得し、補償コンサルタント業務やGIS技術を獲得。既存事業の補完と領域拡大を同時に進めました。

これらの事例に共通するのは、エリアや技術といった無形資産を短期間で獲得できる点です。買収後はバックオフィスや営業ネットワークを統合し、早期にシナジーを発揮しています。

測量業界のM&A市場展望と将来予測を押さえる

今後のM&A件数は増加基調が続くと見込まれます。

建設需要の安定が市場拡大を支える

建設工事が続く限り測量需要は一定量存在します。人口減少下でもインフラ維持や防災需要が底堅く、M&Aによる規模拡大の意欲は衰えません。

小規模事業者の退出が再編を加速させる

現状は小規模企業が多く、大手の寡占が進んでいません。人材確保や設備投資負担を背景に、後継者難の事業者が譲渡を選ぶケースは増える見通しです。

事業承継需要が譲受側のチャンスを広げる

経営者高齢化が進むなか、後継候補を社内や親族に見つけられない企業はM&Aを選択肢としています。譲受企業は経営資源をまとめて取り込む好機になります。

M&Aを検討する際の業界特有の注意点を整理する

成功確率を高めるには、測量業ならではのポイントを見落とさないことが重要です。

従業員年齢構成を早期に把握し譲渡時期を決める

測量士の高齢化が進んでいるため、従業員が引退する前に譲渡を検討すると評価が高くなりやすいです。買収側も若手比率を重視します。

労働時間と残業代の適正管理を徹底する

測量業務は長時間労働になりがちです。労務違反があると買収交渉が停滞するため、残業代支払いや勤怠管理を事前に整備しましょう。

専門家へ早期相談し準備を進める

M&A仲介会社や社会保険労務士など専門家に相談することで、許認可、財務、労務の課題を事前に解決し、円滑なプロセスを実現できます。

許認可の有効期限と登録更新にも注意が必要

測量業の登録は5年ごとに更新が必要です。更新直前での譲渡は手続が複雑になるため、スケジュールを逆算して検討します。

計量証明事業や測量請負事業取得時の留意点

事業譲渡で許認可が引き継げない場合、取得側は再申請が必要です。株式譲渡なら許認可が維持されるため、スキーム選択は慎重に行います。

測量業界M&Aを成功に導く実務アクション

実際に譲渡を進める経営者向けに、準備から交渉までの要点をまとめます。

経営課題とM&A目的を明文化する

譲渡企業は何を優先したいかを整理します。価格なのか従業員雇用なのかを明確にすると譲受企業との条件調整がスムーズです。

譲れない条件と妥協できる条件を設定する

最終契約で後悔しないために、譲渡額の下限や役員処遇などの優先順位をはっきり決めておきます。

最適な相談先を早期に選定する

金融機関や公的機関、M&A仲介会社など複数の支援先があります。自社規模と目的に合致する機関を活用するとコストと時間を抑えられます。

成功報酬型の仲介サービスで費用対効果を高める

着手金が不要な仲介会社を選べば、初期コストを抑えつつ専門支援を受けられます。

測量業界の売却相場と企業価値評価を理解する

譲渡企業が適正価格で交渉するには、売却相場を把握し企業価値評価の手法を知ることが欠かせません。

測量会社の売却価格は純資産と営業権で決まる

企業価値は「純資産価額+営業権(のれん)」で表されます。純資産は現在の財務価値、営業権は将来の収益性を示し、両者のバランスが査定額に反映されます。

DCF法と類似会社比較法を組み合わせて精度を高める

現金流に着目するDCF法は将来利益を割り引いて現在価値を算出します。一方、類似会社比較法は同業他社の取引倍率を参考にするため、市場感覚を反映できます。

簡易査定は可能だが本査定は専門家依頼が必須

無形資産や将来シナジーを加味した本格査定は専門家でなければ困難です。迅速に専門家へ相談しましょう。

北関東測量業案件の相場例にみる価格感

公共事業主体の測量会社(売上1億~2.5億円)は、純資産以下の9,000万円超で譲渡希望が提示されています。顧客基盤と技術者保有数が価格の決め手となっています。

測量会社を積極的に買収する主要プレーヤーを把握する

譲渡企業は買収意欲の高い企業を早期にリストアップし、交渉効率を高めることが重要です。

共和電業は応力計測事業拡大を狙う

タマヤ計測システムを取り込み、ダム計測機器など独自製品群を伸ばしました。測量関連技術の垂直統合で競争力を強化しています。

エスクロー・エージェント・ジャパンは専門家支援を多角化

測量・鑑定・設計のノウハウを取得し、不動産BPOサービスの付加価値を高めています。株式交換を活用した柔軟なM&Aが特長です。

土木管理総合試験所は全国展開と東証上場で調達力を活かす

測量設計や非破壊検査を手がける企業を次々と傘下に入れ、地域拠点と技術ラインを拡充しています。沖縄進出などエリア戦略が顕著です。

計量証明事業・測量請負事業の許認可に関する追加留意点

許認可は企業価値だけでなく、交渉期間にも影響します。

事業譲渡では許認可が引き継げず再申請が必要

計量士常勤配置など要件を満たす準備期間を考慮しなければ、取得後の事業停止リスクが生じます。

株式譲渡は許認可を維持できるため交渉が円滑

ただし役員変更や営業所追加がある場合、監督官庁への届出が求められる点に注意します。

売却成功に近づく5つのコツを再確認する

計画的なスケジュール策定で焦りを防ぐ

早期に準備を始めることで、候補企業の比較検討や条件交渉を余裕をもって行えます。

目的を資本関係・雇用・技術継承の切り口で整理する

何を守り、何を伸ばしたいかを文章化しておくとブレが生じません。

譲れない条件を社内で共有し意思決定を迅速化する

役員や主要株主との認識合わせを行い、交渉段階での意思統一を図ります。

売却先選定は事業シナジーと文化相性を重視する

単に価格が高い企業より、従業員処遇や地域貢献度が近い企業と組む方が長期的満足度は高まります。

専門家と二人三脚で交渉プロセスを進める

書類準備、企業価値算定、デューデリジェンス対応などは専門家の助言が不可欠です。

相談先ごとの特徴と費用感を理解する

相談機関選びはコストとサービス範囲のバランスが重要です。

金融機関は大型案件に強いが費用が高め

資金調達支援や総合的アドバイスが受けられる一方、中小規模案件だと優先順位が下がる場合があります。手数料体系を事前に確認しましょう。

公的機関は無料支援が魅力だがスピードは限定的

事業承継・引継ぎ支援センターなどは専門家紹介やマッチングを無償で行います。柔軟対応が必要なら民間仲介との併用が効果的です。

M&A仲介会社はネットワークと交渉力が強み

成功報酬型を選ぶことで初期費用負担を抑えつつサポートを受けられます。複数社を比較し、自社に合う担当者を選定すると安心です。

まとめ

測量業界のM&Aは、技術者不足と設備投資負担を背景に再編が進行中です。譲渡企業は許認可と人材構成を整えた早期準備が好条件を生み、譲受企業はエリアと技術を同時に獲得できます。専門家と連携し明確な目的で交渉に臨み、市場トレンドを把握し適正な企業価値を算定することも忘れずに。


著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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