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人材派遣M&A業界再編の現状と買収売却の成功のポイントを解説

人材派遣M&Aで高値売却や事業拡大を実現するには、業界特有の許認可や市場構造を踏まえた戦略が欠かせません。まずは最新の動向と成功ポイントを押さえましょう。

目次

  1. 人材派遣会社の定義と特徴を押さえて事業価値を見極める
  2. 人材派遣業界の市場規模と将来性からチャンスを読む
  3. 人材派遣業界におけるM&Aの傾向を読み解く
  4. 譲渡企業がM&Aで得られるメリットを最大化する
  5. M&Aを検討する際の基礎知識として許認可と法規制を確認
  6. 譲受企業がM&Aで享受するメリットとシナジー創出法
  7. 人材派遣会社を高値で譲渡するための実践ポイント
  8. 人材派遣会社のM&A取引相場と企業価値の算定方法
  9. 最新M&A実例に学ぶ成功パターン
  10. 人材派遣会社M&Aの進め方と専門家活用の流れ
  11. まとめ

人材派遣会社の定義と特徴を押さえて事業価値を見極める

人材派遣会社は、派遣スタッフを自社で雇用し、派遣先企業の指揮命令下で業務を行わせる事業を営みます。雇用関係は派遣会社と派遣スタッフの間にあり、派遣先企業とは直接雇用契約を結びません。この構造により、派遣先企業は必要な時に即戦力を確保でき、派遣スタッフは多様な環境で経験を積めます。

主な特徴

  1. 派遣スタッフと締結する雇用契約に基づき給与や社会保険を管理する

  2. 派遣先企業が業務内容を具体的に指示し、即戦力として活用できる

  3. 派遣先企業と派遣スタッフの間には雇用関係が存在しない

  4. キャリアアップ研修や福利厚生を派遣会社が提供する


これらの特徴を理解することは、M&Aにおいて企業価値を正確に査定する第一歩となります。

人材派遣と類似サービスの違いを理解しよう

派遣と似たビジネスとして人材紹介や業務請負があります。人材紹介は求職者と企業をマッチングし、雇用契約は求職者と企業が直接結びます。業務請負は成果物の完成を目的とし、顧客企業との指揮命令関係は発生しません。派遣は「人」を提供し、指揮命令系統が派遣先にある点が最大の違いです。

人材派遣業界の市場規模と将来性からチャンスを読む

リーマンショック後に5兆1042億円まで落ち込んだ市場規模は、2020年に8兆6209億円へ回復し、2022年度には8兆7646億円へ伸長しました。回復を後押しした要因は以下のとおりです。


  • 2012年以降の法改正で「日雇い派遣原則禁止」「グループ企業内派遣規制」などが強化され、健全化が促進

  • 派遣労働者に対するキャリアアップ支援義務化

  • 同一労働同一賃金の適用で待遇格差を縮小


今後の追い風

  1. 建設・運送・医療をはじめ多業界で慢性的な人手不足が顕著

  2. 技術革新により研究者・エンジニアなど専門職派遣の需要が急伸

  3. AIの台頭で「人にしかできない仕事」へのニーズが高まる


これらの要素から、市場は引き続き拡大基調と見込まれます。派遣会社が専門性を磨きつつM&Aを活用すれば、成長機会を着実につかめるでしょう。

人材派遣業界におけるM&Aの傾向を読み解く

近年、人材派遣業界では年間20〜30件のM&Aが開示ベースで行われています。背景には次のような動きがあります。

大手による中小派遣会社の譲受が進む理由

  • 規模拡大と市場シェア上昇を狙う大手が、中小を譲受し全国展開を加速

  • 特定分野に強い専門人材をまとめて確保し、派遣先の多様なニーズに即応

  • 後継者不在の中小企業が増え、譲渡ニーズが顕在化

異業種からの参入が市場を活性化

  • 製造・IT・医療関連など自社の人手不足を補う目的で派遣会社を譲受

  • 人材確保を基盤に新サービスを展開し、グループ全体のシナジーを追求


業界再編がもたらす効果

  1. 市場の集約が進み、派遣スタッフの待遇や法令遵守体制が強化

  2. 大手の財務基盤とノウハウを活用し、派遣先企業への対応力が向上

  3. 単独では維持が難しい中小企業がグループ傘下で成長余地を得る

譲渡企業がM&Aで得られるメリットを最大化する

譲渡企業、すなわち売却側の人材派遣会社にとって、M&Aは単なる出口戦略にとどまらず、次の価値を創出します。

大手グループ傘下入りがもたらす4つの恩恵

  1. 経営ノウハウやITシステムを共有し、業務効率を向上

  2. グループの知名度を活かし、新規顧客獲得や採用を加速

  3. 財務基盤が強化され、安定運営と長期投資が可能

  4. スケールメリットにより広告費・採用費を削減し利益率を改善

事業承継課題を一挙に解決

  • 後継者が不在でも従業員の雇用を守りながら経営者は円滑に引退できる

  • 適正な企業価値で対価を得られ、次のキャリアやライフプランを描ける

M&Aを検討する際の基礎知識として許認可と法規制を確認

人材派遣業を営むには厚生労働大臣の許可が必須で、有効期間は3年です。譲受企業が事業譲渡・合併・会社分割で取得する場合は許可が引き継げず、新たな許可取得が必要です(株式譲渡なら不要)。また、譲渡企業側は競業避止義務を負うケースが多く、期間は実務上1〜5年が一般的です。こうした法的要件を踏まえた上でデューデリジェンスを行い、許認可の有効期間や更新予定を確認することが成功のポイントです。

譲受企業がM&Aで享受するメリットとシナジー創出法

譲受企業、すなわち買い手側が人材派遣会社を譲受する最大の魅力は、短期間で人材・顧客・ノウハウを一括で取得できる点です。労働人口が減少する中、即戦力を社内育成だけで賄うのは難しくなっています。M&Aにより派遣スタッフを丸ごと確保できれば、採用コストや育成コストを大幅に削減できます。

人材と顧客ネットワークの同時獲得で成長を加速

  1. 多数の派遣スタッフを一度に取り込み、自社リソース不足を迅速に解消

  2. 既存の派遣先企業との信頼関係を引き継ぎ、契約解約リスクを最小化

  3. 需要が伸びる専門領域(IT・医療・建設など)の人材を確保し、事業多角化を推進

スケールメリットによるコスト削減とブランド強化

  • 重複業務やシステムを統合し、管理コストを圧縮

  • 統一ブランドで広告効果を高め、採用・営業費用を低減

  • 複数拠点を束ねることで新人研修やキャリア支援の質を底上げ


シナジーを最大化する統合のポイント

  1. 許認可・コンプライアンス体制を統一し法令遵守を徹底

  2. 人事制度と評価基準を早期に一本化し従業員の不安を払拭

  3. CRMや派遣管理システムを統合し、派遣スタッフの配置最適化を実現

人材派遣会社を高値で譲渡するための実践ポイント

譲渡企業が高い企業価値を実現するには、自社の強みを買い手のニーズと合致させる戦略が不可欠です。

専門性の可視化で評価額を引き上げる

  • ITエンジニアや医療従事者など、希少人材が占める比率を示す

  • 派遣スタッフ向け研修プログラムや評価制度を資料化し、育成力を訴求

  • 派遣先企業からのリピート率や満足度調査結果を提示し、サービス品質を証明

買い手の優先条件に合わせた情報開示

  • 許認可の残存期間や更新履歴を整理し、引継ぎリスクを低減

  • 登録スタッフ数・連絡可能率・資格保有状況を具体的に示す

  • キーパーソン(営業責任者、労務管理責任者など)の継続意向を明示し、人材流出懸念を払拭

内部管理体制を強化しデューデリジェンスに備える

  • 労務関連書類や派遣契約書を整備し、調査対応の工数を削減

  • 競業避止義務の範囲・期間を事前に想定し、交渉材料を準備

  • 派遣料金・給与水準・社会保険負担率を一覧化し、コスト構造を透明化

人材派遣会社のM&A取引相場と企業価値の算定方法

人材派遣会社の譲渡価格は、主に「株式譲渡」と「事業譲渡」のいずれかで決まります。

株式譲渡の一般的な目安

時価純資産額 +(営業利益 + 役員報酬調整後)× 2〜5年分

営業利益の成長余地や専門性の高さによって、乗数が上限側に近づきます。

事業譲渡の一般的な目安

事業資産 + 事業利益 × 2〜5年分

有形固定資産よりも無形資産(許認可、顧客基盤、登録スタッフ)の質が価格形成に大きく影響します。


評価を押し上げる3つの無形要素

  1. 許認可の有効期間が長く、直近更新に問題がない

  2. 連絡可能な登録スタッフが多く、離職率が低い

  3. 特定業界に強いブランド力や独自プラットフォームを保有

最新M&A実例に学ぶ成功パターン

実例を通じて、譲渡・譲受双方が得たものを見てみましょう。

コプロ・ホールディングスによるIT派遣強化(2021年)

  • コプロがバリューアークコンサルティングを全株式譲受

  • フリーランスITエンジニアの登録拡大を図り、IT人材派遣の競争力を強化

  • 新規顧客の獲得と既存顧客へのクロスセルでシナジーを創出

UTグループによる製造系特化派遣の拡大(2021年)

  • 製造業に強いプログレスグループを子会社化し、約1,100人規模の派遣スタッフを一括確保

  • 愛知県中心の顧客ネットワークを取得し、地域と業界を同時に拡大

アピリッツによるITクリエイティブ派遣の取得(2022年)

  • Y’sを3億7,590万円で譲受し、ECサイト開発など受託開発事業を強化

  • 教育ノウハウと派遣人材を組み合わせ、長期的な人材育成体制を確立

ツナググループHDによる医療・福祉派遣への参入(2024年)

  • AIGATEキャリアを譲受し、医療・福祉分野での派遣サービスを拡大

  • 提携先とのシナジーで新たな働き方を創出し、市場ポジションを強化


成功事例から得られる教訓

  • 専門性特化の派遣会社は高い評価を受けやすい

  • 地域・業界の補完関係が強いほどシナジー効果が大きい

  • 買い手が自社の成長戦略と整合するKPI(登録者数、顧客数、利益率)を明確に持つことが成功を左右

人材派遣会社M&Aの進め方と専門家活用の流れ

M&Aを円滑に進めるには、計画立案から統合完了までのプロセスを可視化し、専門家の力を適切に借りることが重要です。

戦略立案とターゲット選定

  • 譲受企業は「市場拡大」「専門領域強化」「地域進出」など目的を具体化

  • アドバイザーを活用し、財務・事業シナジー観点で候補をリスト化

デューデリジェンスと交渉

  • 財務・法務・税務・人事の四面から詳細調査を実施

  • 調査結果を基に譲受価格と表明保証の条件を詰める

  • 譲渡企業は資料整備と社内キーパーソンの協力体制を早期に構築

クロージングと統合プロセス

  • 許認可の取得・更新手続を完了

  • システムや業務フローを統合し、早期にシナジーを顕在化

  • 統合後100日プランで人事・労務課題を集中解決し、離職を防止


専門家を活用する3つのメリット

  • ネットワークを活用した候補企業探索と交渉窓口の一本化

  • デューデリジェンスの負担軽減とリスク可視化

  • 契約書・スキーム設計の最適化により税務・法務リスクを最小化

まとめ

人材派遣M&Aは人手不足を背景に今後も活発化が見込まれます。譲渡企業は専門性と内部管理体制を磨き、譲受企業はシナジーを明確に描くことで、双方が高い価値を享受できます。適切な許認可対応と専門家の支援を得て、スムーズな統合を実現しましょう。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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