人材派遣M&A業界再編の現状と買収売却の成功のポイントを解説
人材派遣M&Aで高値売却や事業拡大を実現するには、業界特有の許認可や市場構造を踏まえた戦略が欠かせません。まずは最新の動向と成功ポイントを押さえましょう。
目次
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
人材派遣会社は、派遣スタッフを自社で雇用し、派遣先企業の指揮命令下で業務を行わせる事業を営みます。雇用関係は派遣会社と派遣スタッフの間にあり、派遣先企業とは直接雇用契約を結びません。この構造により、派遣先企業は必要な時に即戦力を確保でき、派遣スタッフは多様な環境で経験を積めます。
主な特徴
これらの特徴を理解することは、M&Aにおいて企業価値を正確に査定する第一歩となります。
派遣と似たビジネスとして人材紹介や業務請負があります。人材紹介は求職者と企業をマッチングし、雇用契約は求職者と企業が直接結びます。業務請負は成果物の完成を目的とし、顧客企業との指揮命令関係は発生しません。派遣は「人」を提供し、指揮命令系統が派遣先にある点が最大の違いです。
リーマンショック後に5兆1042億円まで落ち込んだ市場規模は、2020年に8兆6209億円へ回復し、2022年度には8兆7646億円へ伸長しました。回復を後押しした要因は以下のとおりです。
今後の追い風
これらの要素から、市場は引き続き拡大基調と見込まれます。派遣会社が専門性を磨きつつM&Aを活用すれば、成長機会を着実につかめるでしょう。
業界再編がもたらす効果
人材派遣業を営むには厚生労働大臣の許可が必須で、有効期間は3年です。譲受企業が事業譲渡・合併・会社分割で取得する場合は許可が引き継げず、新たな許可取得が必要です(株式譲渡なら不要)。また、譲渡企業側は競業避止義務を負うケースが多く、期間は実務上1〜5年が一般的です。こうした法的要件を踏まえた上でデューデリジェンスを行い、許認可の有効期間や更新予定を確認することが成功のポイントです。
譲受企業、すなわち買い手側が人材派遣会社を譲受する最大の魅力は、短期間で人材・顧客・ノウハウを一括で取得できる点です。労働人口が減少する中、即戦力を社内育成だけで賄うのは難しくなっています。M&Aにより派遣スタッフを丸ごと確保できれば、採用コストや育成コストを大幅に削減できます。
シナジーを最大化する統合のポイント
譲渡企業が高い企業価値を実現するには、自社の強みを買い手のニーズと合致させる戦略が不可欠です。
人材派遣会社の譲渡価格は、主に「株式譲渡」と「事業譲渡」のいずれかで決まります。
時価純資産額 +(営業利益 + 役員報酬調整後)× 2〜5年分
営業利益の成長余地や専門性の高さによって、乗数が上限側に近づきます。
事業資産 + 事業利益 × 2〜5年分
有形固定資産よりも無形資産(許認可、顧客基盤、登録スタッフ)の質が価格形成に大きく影響します。
評価を押し上げる3つの無形要素
実例を通じて、譲渡・譲受双方が得たものを見てみましょう。
成功事例から得られる教訓
M&Aを円滑に進めるには、計画立案から統合完了までのプロセスを可視化し、専門家の力を適切に借りることが重要です。
専門家を活用する3つのメリット
人材派遣M&Aは人手不足を背景に今後も活発化が見込まれます。譲渡企業は専門性と内部管理体制を磨き、譲受企業はシナジーを明確に描くことで、双方が高い価値を享受できます。適切な許認可対応と専門家の支援を得て、スムーズな統合を実現しましょう。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事