非上場株式を親族へ譲渡する際は、売買・贈与・相続の選び方に加え、税務上の時価、みなし贈与、譲渡承認や株主名簿の書換が重要です。税金と資金負担を比較し、事業承継税制や相続時精算課税を使う際の注意点、親族承継が難しい場合の第三者承継まで解説します。
目次

▶目次ページ:親族内承継(株式の譲渡)
「家族同士だから、株式の値段は話し合いで決めればよい」と考える経営者は少なくありません。しかし、親族間の取引は価格を自由に決めやすいからこそ、税務署から取引の合理性を確認されやすい面があります。
親族へ非上場株式を移すときは、先に契約書を作るのではなく、誰を後継者にするか、売買・贈与・相続のどれを使うか、税務上の株価はいくらか、後継者が代金や税金を負担できるか、という順で整理することが大切です。
会社が黒字か赤字か、不動産や有価証券を多く持っているか、株主が何人いるかによっても結論は変わります。赤字でも資産価値が高ければ、株価が高額になることも。意外と多い落とし穴です。
また、株式を持つことと経営を引き継ぐことは同じではありません。後継者に議決権を集めても、本人に経営する意思がなければ、承継後に判断が止まる可能性があります。株価と税金だけでなく、後継者の意思、他の相続人への配慮、金融機関との関係まで一緒に確認しましょう。
非上場株式を親族へ移す方法は、主に売買、贈与、相続の3つです。どの方法でも同じ株式が移りますが、税金を負担する人、必要な資金、実行できる時期は大きく異なります。
現経営者が個人で、親族である後継者へ適正価格で株式を売ると、現経営者には譲渡益に対して原則20.315%の所得税、復興特別所得税、住民税がかかります。
譲渡益は、売却額から株式の取得費と譲渡費用を引いて計算します。後継者には通常、株式を買ったこと自体による贈与税はかかりませんが、売買代金を用意しなければなりません。
売買は、現経営者の引退資金を確保しやすく、後継者へ株式を集中させやすい方法です。一方、株価が高い会社では、後継者の資金調達が大きな壁になります。
親族から資金を借りた形にしても、実際には返済しなければ、資金そのものを贈与されたと判断されるおそれがあります。借入れを使う場合は、返済期限や利息を決め、実際に返済できる計画を立てることが必要です。
贈与で無償移転する場合
株式を無償で渡すと、現経営者には通常、譲渡所得に対する税金は生じません。後継者には、税務上の株価を基に贈与税がかかります。
暦年課税には、贈与を受けた人ごとに年間110万円の基礎控除があります。ただし、株価が高い会社では、110万円の範囲だけで経営権を移すまでに長い時間がかかります。一度に多くの株式を贈与すると、贈与税の負担が急に大きくなることもあります。
また、暦年課税による贈与は、贈与者が亡くなった時期に応じて、相続開始前の一定期間に贈与された財産が相続税の計算へ加算されます。2024年以後の贈与から、加算対象期間は段階的に7年へ延長されます。
毎年110万円以内の贈与であっても、相続税の計算と常に無関係になるわけではありません。贈与する株数と時期を決める前に、将来の相続まで見通した試算が必要です。
相続で承継する場合
現経営者が亡くなった後に株式を引き継ぐ場合は、相続税の対象です。生前の売買代金が不要という利点はありますが、承継の時期を選ぶことはできません。
後継者が決まっていても、遺言や遺産分割の方針が曖昧だと、株式が複数の相続人へ分散する可能性があります。株主が分かれると、重要事項の決議や将来の会社売却が進めにくくなることも。
相続には基礎控除がありますが、株式以外の不動産や預貯金も含めて相続税を計算します。遺留分への対応や納税資金の準備を含め、売買や贈与と早めに比較しましょう。
非上場株式には、証券取引所で確認できる市場価格がありません。そのため、親族間の贈与や低額譲渡を検討するときは、一般に財産評価基本通達に沿った株価を算定し、税務上の時価を確認します。
同じ会社の株式であっても、誰が取得するかによって評価方法が変わることがあります。親族であるかどうかだけでは決まりません。
後継者が同族株主等に当たり、会社の経営支配力を持つ場合は、原則的評価方式によって株価を算定します。
一般に、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式を中心に評価します。中会社は会社規模に応じて両方の方式を組み合わせます。
類似業種比準方式は、同じような業種の上場会社の株価を基に、自社の配当、利益、純資産を比較して計算する方法です。
利益が大きい会社や配当を多く出している会社では、評価額が上がる要因になります。反対に、一時的に利益が減っていても、そのまま株価が大幅に下がるとは限りません。
純資産価額方式は、会社が持つ資産と負債を税務上の価額へ置き換え、1株当たりの純資産価額を計算する方法です。
不動産や有価証券を多く持つ会社では、決算書に記載された金額よりも税務上の評価額が高くなることがあります。会社が赤字であっても、土地などの含み益が大きければ、株価が高額になる場合があります。
経営支配力を持たない少数株主が取得する株式は、一定の場合に配当還元方式で評価します。配当還元方式は、過去の配当実績を基に株価を計算する特例的な方法です。
原則的評価方式より評価額が低くなるケースは多いものの、親族なら自由に使えるわけではありません。取得後の議決権割合、同族関係者が保有する株式、中心的な同族株主に当たるかなどを確認します。
「株数が少ないから配当還元方式になる」と判断すると、税務上の評価を誤るおそれがあります。株主構成を整理したうえで、どの評価方法を使うか決めることが重要です。
「売買契約書を作り、代金を銀行振込すれば贈与にはならない」とは限りません。形式上は売買でも、価格が著しく低ければ、時価との差額について贈与税が問題になります。
みなし贈与で重要なのは、契約書に記載された金額だけではなく、税務上の時価との差です。税務上の株価が高いのに、後継者の資金力に合わせて大幅に安く売ると、差額について贈与税が課される可能性があります。
贈与税の申告漏れと判断されれば、本来の税金に加えて加算税や延滞税がかかることもあります。親族間の取引は、第三者間より価格の合理性を説明しにくいため、評価の根拠を残さなければなりません。
財産評価基本通達に基づく評価明細書は重要ですが、それだけで十分とは限りません。
直近に第三者との株式取引がある場合や、譲渡直前に多額の配当、資産売却、増資などを行った場合には、なぜその時点の株価が妥当なのかを追加で説明する必要があります。
会社の業績や資産状況が決算日から大きく変わっている場合も同じです。実際の譲渡日と株価算定の時点を近づけ、変動があれば評価へ反映させましょう。
実務では、次の3つの金額を並べて考えます。
・税務上の株価
・後継者が用意できる金額
・現経営者が必要とする手取り額
税務上の株価だけを見て売買を決めると、後継者が代金を払えないことがあります。後継者の資金力だけに合わせると、みなし贈与の問題が生じます。
売買だけでは承継できない場合は、一部を売買して残りを贈与する、複数年に分けて移転する、事業承継税制や相続時精算課税を検討するなど、複数の方法を比べます。
単に契約価格を下げるのではなく、制度を使って税金と資金負担を調整する発想が必要です。
親族への株式譲渡では、税金の計算だけでなく、会社法上の手続と取引の記録も重要です。家族間だからと手続を省くと、後日、株主としての地位や取引価格をめぐって問題になることがあります。
直近の決算書、法人税申告書、固定資産明細、株主名簿、不動産や有価証券の資料を基に株価を算定します。
不動産を保有している場合は、帳簿価額だけでなく、路線価や固定資産税評価額など、評価に必要な資料も確認します。会社が保有する生命保険や貸付金なども、株価へ影響することがあります。
譲渡日と評価時点が離れていると、決算後の利益や資産売却が反映されない場合があります。実行時期に合った株価を計算しましょう。
中小企業の非上場株式には、定款で譲渡制限が設けられていることが一般的です。譲渡制限がある場合は、会社へ譲渡承認を請求し、定款や会社法に従って承認手続を行います。
通常、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会が承認機関になります。ただし、定款に別の定めがある場合もあるため、自社の定款を先に確認しなければなりません。
会社の承認がない場合でも、当事者間の合意だけで一定の法律関係が生じることはあります。ただし、会社から株主として扱われず、株主名簿の書換ができない問題が生じます。経営権を確実に移すためには、承認手続と株主名簿の書換まで行うことが大切です。
承認した事実は、取締役会議事録や株主総会議事録、承認通知書として残します。
契約書には、譲渡日、株式の種類と数、1株当たりの価格、代金総額、支払日、支払方法を明記します。
分割払いにする場合は、支払回数、返済期限、利息、支払が遅れた場合の扱いも決めておきます。契約書を作っただけで実際の支払が行われないと、売買そのものの実態を疑われる可能性があります。
家族間であっても、口約束にしないこと。将来の相続や親族間トラブルを防ぐ意味でも重要です。
売買代金は銀行振込で支払い、振込記録を残します。現金による手渡しや、帳簿上だけで支払ったことにする処理は避けるべきです。
決済後は、会社の株主名簿を新しい株主の名義へ書き換えます。株主名簿が古いままだと、配当、議決権、株主総会の招集通知などで混乱が生じます。
株券発行会社では、原則として株券の交付が株式譲渡の効力要件になります。株券を発行する定款になっている会社は、実際に株券が存在するか、紛失していないかも含めて確認が必要です。
株価算定書、評価明細書、取締役会または株主総会の議事録、承認通知書、株式譲渡契約書、振込記録、書換後の株主名簿は一式で保存します。
後継者を選んだ理由や、他の親族へ説明した内容も簡潔に記録しておくと、将来の相続人間の話し合いに役立ちます。
株価が高く、贈与税や相続税の負担が重い場合は、事業承継税制や相続時精算課税を検討します。
ただし、制度を使った時点の税負担だけで判断してはいけません。適用後の届出、株式の保有、将来の相続税への影響まで確認する必要があります。
一定の要件を満たす後継者が非上場株式を贈与または相続で取得した場合、対象株式にかかる贈与税や相続税の納税が100%猶予されます。
ただし、最初から税金がなくなる制度ではありません。一定の要件を守りながら納税を先送りし、後継者の死亡など、定められた事由が生じた場合に猶予税額が免除される仕組みです。
適用後も、一定期間の年次報告や税務署への継続届出が必要です。要件を外れたり、必要な届出を行わなかったりすると、猶予されていた税金と利子税を納める場合があります。
2026年7月時点では、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、贈与または相続による承継の対象期限は2027年12月31日です。
期限直前では、株価算定、後継者選定、株主構成の整理、都道府県への認定申請が間に合わない可能性があります。利用する可能性があれば、早めに適用条件を確認しましょう。
相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子や孫などへの贈与で選べる制度です。
2024年以後の贈与には、年間110万円の基礎控除があります。基礎控除を超えた部分については、累計2,500万円まで特別控除を利用でき、2,500万円を超えた部分には原則20%の贈与税がかかります。
贈与者が亡くなったときは、各年の贈与額から年間110万円の基礎控除を差し引いた残額を、原則として贈与時の価額で相続財産に加えて相続税を計算します。
一度相続時精算課税を選ぶと、その贈与者から受ける贈与について暦年課税へ戻すことはできません。
贈与後に株価が下がっても、原則として贈与時の価額を基に相続税を計算します。将来株価が下落する可能性がある会社や、相続税がかからない見込みの家庭では、必ずしも有利になるとは限りません。
親族に後継者候補がいても、本人に経営意思がない、株式の購入資金を用意できない、金融機関の個人保証を引き継げないというケースは珍しくありません。
親族承継だけを前提に準備を進めると、数年後に後継者が辞退し、計画を最初からやり直すことがあります。家族だから継いでくれる、とは限りません。
その場合は、M&A(合併・買収)による第三者承継も同じ時点で比較します。第三者への会社売却では、親族への贈与や相続に使う税務上の評価額ではなく、会社の収益力、保有資産、将来性、買い手企業との相乗効果などを基に価格交渉が行われます。
そのため、親族へ移す場合の株価と、第三者へ会社を売却する場合の価格には差が出ることがあります。同じ非上場株式でも、評価の目的が異なるためです。
親族承継と第三者承継を比較するときは、経営者の手取り額だけでなく、次の点も確認します。
・後継者に経営する意思があるか
・株式の購入資金や納税資金を用意できるか
・従業員の雇用を維持できるか
・取引先との関係を引き継げるか
・経営者の個人保証をどうするか
・会社の成長に必要な資金や人材を確保できるか
親族承継を希望する場合でも、第三者承継の可能性を確認しておくと、後継者の意思や家庭の事情が変わったときに対応しやすくなります。
早い段階で選択肢を比べることは、家族に会社を継がせないためではありません。会社と従業員を残すための準備です。
非上場株式を親族へ移すときは、売買・贈与・相続の税負担だけでなく、税務上の株価、後継者の資金力、議決権の集約、他の相続人への配慮を一体で考える必要があります。実行前に株価算定と承認手続、契約書、振込記録、株主名簿を整え、制度の継続要件や第三者承継も比較したうえで、自社と家族の将来に合う承継方法を早めに選びましょう。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人