非上場株式を親族に譲渡する際の手続方法や評価方法、税務上の注意点を解説します。譲渡承認の取得から株主名簿の書換まで、実務の流れに沿って説明。事業承継税制の活用方法や課税関係も詳しく解説しています。
目次
非上場株式とは、証券取引所に上場していない企業が発行する株式のことを指します。一般的に中小企業の多くが非上場企業であり、その株式は非上場株式となっています。
非上場株式には、以下のような特徴があります:
・取引市場が存在しないため、売買が制限される
・株式の価値算定が複雑
・所有者が限定的
・譲渡制限が付されていることが多い
上場株式と非上場株式には、次のような違いがあります:
・取引場所:上場株式は証券取引所で自由に売買可能、非上場株式は相対取引が基本
・価格決定:上場株式は市場価格で決定、非上場株式は評価方法に基づき算定
・流動性:上場株式は高い流動性、非上場株式は低い流動性
・情報開示:上場株式は厳格な開示義務あり、非上場株式は開示義務が比較的緩やか
▶目次ページ:親族内承継(株式の譲渡)
非上場株式を譲渡することには、譲渡する側と受け取る側の双方にメリットがあります。ここでは主なメリットについて説明します。
株式譲渡によって、以下のような資金面でのメリットが期待できます:
・創業時より株価が上昇している場合、多額の譲渡益を得られる可能性がある
・税務上の評価額以上での譲渡が可能な場合もある
・事業拡大や新規投資のための資金を調達できる
事業承継の観点から、次のようなメリットがあります:
・計画的な後継者への経営権移転が可能
・後継者不在問題の解決手段として活用できる
・会社の存続と発展を図れる
非上場株式の譲渡には、慎重に検討すべき重要な留意点があります。
経営権に関する主な留意点は以下の通りです:
・株式の全部譲渡の場合、経営に関するすべての権限を失う
・一部の経営資産や権限のみを保持することは困難
・譲渡後の経営への関与方法を事前に検討する必要がある
リスク管理の観点から、以下の点に注意が必要です:
・売り手が抱える訴訟リスクや債務等を事前に開示する必要がある
・デューデリジェンス(買収監査・企業調査)を徹底的に実施することが重要
・リスクの見落としは、譲渡後のトラブルの原因となる可能性がある
非上場株式を親族に譲渡する際は、法令に従った適切な手続が必要です。
譲渡承認請求書には以下の事項を記載します。
・譲渡する株式の種類および数
・譲受人の住所および
・譲渡の条件
承認手続は以下の流れで行います。
・取締役会設置会社の場合は取締役会での承認
・取締役会非設置会社の場合は株主総会での承認
・承認されない場合は、会社による買取りまたは買取人の指定が必要
通知に関する重要事項
・承認請求から2週間以内に通知が必要
・通知が期限内にない場合、承認したものとみなされる
・不承認の場合は、買取人に関する情報も通知必要
契約書には以下の内容を含める必要があります。
・譲渡合意の意思表示
・譲渡の目的
・譲渡株式数と譲渡価額
・支払方法
・損害賠償に関する事項
最終段階として以下の手続が必要です。
・株主名簿への新株主の記載
・旧株主の記載削除
・代金決済の完了確認
非上場株式の価値を適切に評価することは、譲渡取引を行う上で重要な要素となります。状況に応じて適切な評価方法を選択する必要があります。
主に大企業の非上場株式評価に用いられる方法で、以下の指標を同業他社と比較して算出します。
・1株当たりの配当金額
・1株当たりの利益金額
・1株当たりの純資産価額
・売上高
主に小規模な会社の株式評価に用いられ、以下の手順で算出します。
・企業の純資産額を算定
・1株当たりの純資産額を計算
・必要に応じて評価差額を加減算
継続的な配当実績がある場合に用いられる方法です。
・1年間の配当金額を基準に算出
・一定の利率で割り戻して株式価額を評価
・企業規模にかかわらず適用可能
非上場株式の譲渡には、譲渡者の属性に応じて異なる税金が課されます。
個人が非上場株式を譲渡した場合の課税
・所得税:15.315%
・住民税:5%
・総合課税率:20.315%
法人が譲渡する場合の課税
・法人税、事業税、住民税が課税対象
・譲渡益(譲渡価格-譲渡費用-取得費)に法人税率を乗じて算出
・課税所得に応じた超過累進課税の適用あり
親族への譲渡には、通常の譲渡とは異なる税務上の考慮が必要です:
・生前譲渡の場合の贈与税 贈与税額=(贈与財産-基礎控除額110万円)×税率-控除額
・相続による譲渡の場合の相続税 基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
・時価より低額での譲渡の場合は贈与税の対象となる可能性
親族への譲渡には特有の注意点があり、慎重な検討が必要です。
以下の場合に特別な課税が適用される可能性があります。
・親族間取引での時価との差額
・親族が経営する法人との取引
・時価よりも著しく低額での譲渡
事業承継税制の活用には以下の条件があります。
・5年以上の事業継続
・雇用の維持
・株式の継続保有
・納税猶予の継続要件の遵守
非上場株式の譲渡を検討する際には、手順やメリットを十分に理解することが重要です。事前に入念な準備を行うことで、株式譲渡の手続きを円滑に進めることができます。譲渡のプロセスをスムーズに進めるためには、特に税務に関しては専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画