親族内承継で非上場株式を譲渡する際の重要ポイントと税務を解説

非上場株式を親族に譲渡する際には、手続や評価方法、税務面での注意点などを総合的に把握することが大切です。本記事では、親族内承継の基本や売買・贈与・相続といった具体的な譲渡方法の特徴を分かりやすく解説し、円滑に事業を次世代へつなぐためのポイントを詳しく紹介します。

目次

  1. 非上場株式と親族内承継の概要
  2. 親族に非上場株式を譲渡するメリット・デメリット
  3. 非上場株式の評価方法
  4. 親族への株式譲渡における手続の流れ
  5. 譲渡時に注意すべき税務上のポイント
  6. 親族間で活用できる主な譲渡方法
  7. 親族内承継におけるリスクと対処法
  8. まとめ

非上場株式と親族内承継の概要

非上場株式とは、証券取引所に上場していない企業が発行する株式のことです。中小企業の多くがこれに当てはまります。上場株式と違って自由に売買しにくい面があり、値段(株価)を決めるときも慎重な評価が必要です。

一方、事業を次の世代や身近な親族に引き継ぐことを「親族内承継」と呼びます。経営権をスムーズに譲り渡すためには、株式の所有割合を適切に調整しておくことが大切です。特に非上場株式の場合は社外の人に売買するよりも親族間で譲渡するケースが多いため、取引価格や税金に関するチェックが欠かせません。

親族に非上場株式を譲渡するメリット・デメリット

親族への株式譲渡には、いくつかの利点と留意すべき点があります。ここでは、譲渡する側と譲り受ける側の両方にとって重要となるポイントをまとめます。

メリット

会社の経営を続けやすい

親族に株式を譲渡することで、代々同じ家族が会社を支えることができます。新たな出資者を外部から探す必要がないため、後継者が早めに会社の状況を把握しやすいという利点もあります。


計画的な承継ができる

生前贈与などを活用して、時間をかけて株式を少しずつ移転することが可能です。大きな資金を必要とする買収や一度にまとまった株式を相続する場合に比べて、税負担やトラブルを軽減しやすいことがあります。


経営の安定性を保ちやすい

後継者が家族であれば、社内外への安心感につながるケースが多いです。社内の従業員にも「同じ家族が経営を受け継ぐ」という安心感が生まれ、取引先との関係維持も図りやすくなるでしょう。

デメリット

相続や贈与にともなう税金の負担

株式譲渡を贈与や相続で行う場合、贈与税や相続税が課される可能性があります。時価より大幅に低い価格で株式を譲渡すると、差額に贈与税がかかってくることがあるため注意が必要です。


後継者間のトラブル

複数の親族がいる場合、誰に何株譲渡するか、遺留分をどう考えるか、といった問題から相続争いが起こる恐れがあります。事前にきちんと話し合い、周囲の理解を得られるよう準備しておくことが大切です。


売却益や必要資金のやりくり

譲渡価格を高く設定すれば現経営者は多額の売却益を得られますが、譲り受ける側にとっては負担が大きくなります。逆に安すぎる価格で売買すると、後で税務上の問題が生じる場合があります。売主と買主のどちらかに大きな負担が偏らないように注意しましょう。


非上場株式の評価方法

非上場株式の譲渡を行う場合、客観的な根拠をもとに株価を算定することがとても大事です。特に親族間の売買では、実際の価額よりも安い値段で取引すると、贈与があったとみなされて贈与税がかかってしまう可能性があります。ここでは、代表的な評価方法を簡単に紹介します。

類似業種比準方式

同じ業種の上場企業の株価などを参考に、1株あたりの配当金額や利益金額、純資産価額などを比較して計算する方法です。大きめの会社や業種によっては、このやり方が適している場合があります。

純資産価額方式

企業の純資産を元に株価を算出するやり方で、小規模の会社でよく利用されます。企業の純資産を割り出し、それを株数で割ることで1株あたりの価額を求めます。

配当還元方式

これまでの配当実績に注目して株価を決める方法です。毎年ある程度の配当が続いてきた会社の場合、この方式を使うことで合理的な株価の目安を出すことができます。

親族への株式譲渡における手続の流れ

ここからは実際に親族へ株式を譲渡するための手続について、大まかなステップを解説します。法令上のルールや会社の定款内容を確認しながら、正確に進めることが必要です。

(この後の手続や税務面の内容については後半で詳しく解説します)

親族への非上場株式譲渡における手続の流れ

非上場株式を親族に譲渡する際には、会社法などの規定に従って手続を進める必要があります。一般的には、まず譲渡承認請求などの書類を整え、その後に取締役会や株主総会での承認を経て株式譲渡契約を結び、最後に株主名簿を書き換えるというステップを踏みます。ここでは大まかな流れを見ていきましょう。

株式譲渡承認請求書の作成と提出

会社の定款で株式の譲渡制限が定められている場合は、株式を譲渡する前に「譲渡承認請求書」を作成し、会社へ提出する必要があります。


  • 譲渡する株式の種類や数
  • 譲受人(親族)の氏名や住所
  • 譲渡条件

上記のような内容を明記し、会社が定める手続に沿って提出します。親族間の取引であっても、この承認請求手続を省略することはできません。書面の形式や内容は会社によって多少異なる場合がありますので、自社の定款や社内規程を必ず確認しましょう。

取締役会や株主総会での承認取得

譲渡承認請求を受け取った会社は、取締役会が設置されている場合は取締役会で、設置されていない場合は株主総会で譲渡の可否を判断します。


  • 取締役会設置会社の場合:取締役会での承認決議
  • 取締役会非設置会社の場合:株主総会での承認決議

万が一、不承認となった場合は会社による株式買取りや、会社が指定する第三者の買取りなど代替措置を検討する必要があります。承認の可否が決まれば、会社はその結果を速やかに株式の譲渡当事者に通知しなければなりません。期限内に通知がない場合は、法律上、承認されたものとみなされる点にも注意しましょう。

譲渡契約の締結

式の譲渡が承認されたら、実際に譲渡契約を結びます。譲渡契約書には次のような事項を盛り込むことが一般的です。


  • 譲渡株式の種類・数・価格
  • 支払方法・支払期日
  • 譲渡の目的や条件
  • 損害賠償や契約解除に関する規定

特に親族間のやり取りでは、後日トラブルとならないよう、譲渡価格をどのように決定したかを明確にしておくことが大切です。取引金額が極端に低い場合などは、税務上「贈与があった」とみなされる可能性があるため、適正価格での取り決めが重要になります。

株主名簿の書換と実務の最終確認

譲渡代金の受け渡しが完了したら、会社は株主名簿の名義を新しい株主へと書き換えます。株主名簿を適切に管理しておかないと、配当金支払や議決権行使など後々の事務が混乱する原因になります。


  • 株主名簿への新株主の記載
  • 旧株主の削除
  • 代金受領・決済の最終確認

上記のような作業を速やかに進め、手続がすべて完了したことを確認しましょう。ここまでが、親族間で非上場株式を譲渡する基本的な流れです。

譲渡時に注意すべき税務上のポイント

非上場株式を譲渡する場合、譲渡する人が個人か法人かによって税金の種類や計算方法が変わります。また、親族間での譲渡には、時価との差額について別の税金が課されるリスクもあります。ここでは基本的な税の考え方をまとめていきます。

個人株主が譲渡する場合の課税 

個人が株式を譲渡した場合、譲渡益に対して下記の税金が課税されるのが一般的です。

  • 所得税(15%)
  • 住民税(5%)
  • 復興特別所得税(0.315%)

これらを合計すると、トータル20.315%が譲渡益に対してかかる計算となります。譲渡益は「譲渡価格 − (取得費用 + 譲渡に要した手数料など)」で算出し、取得時の費用が不明な非上場株式の場合、取得費を5%とみなして計算する特例もあります。

法人株主が譲渡する場合の課税

法人が所有する株式を譲渡する場合、譲渡益(譲渡価格-取得費)に法人税率や事業税、法人住民税などが課されます。法人税は累進課税ではなく一定の税率が設定されているものの、課税所得の大きさによって実効税率は変化します。親族間での取引であっても、法人税法上の取引としてしっかり計上することが大切です。

親族間特有の税務リスク 

特に親族間の株式譲渡では、取引価格が「不相当に低い」と判断された場合、差額分が贈与とみなされて贈与税が課されるリスクがあります。親族に安く譲りたいからといって時価の半額以下の金額で売買すると、のちのち課税リスクが高まるおそれがあります。また、会社の経営に深く関わる親族に譲渡する場合、事業承継税制の活用を検討するケースもありますが、一定の要件(雇用維持や株式継続保有など)を満たさないと恩恵を受けられないので注意が必要です。

親族内承継で活用できる主な譲渡方法

親族内で株式を承継する方法としては、「売買」「生前贈与」「相続」の3つが代表的です。それぞれの方法には特徴があり、どれを選ぶかによって税金や手続が異なります。

売買による譲渡

現経営者(株主)と後継者が通常の売買契約を結び、対価を支払って株式を譲り受ける方法です。


メリット

  • 現経営者に売却益が残るため、老後資金や新事業への投資資金などに活用できる。
  • 他の相続人が遺留分を主張しにくく、特定の親族への株式集中を図りやすい。

デメリット

  • 譲渡益に対して所得税などがかかる。
  • 後継者に大きな資金が必要で、資金調達の負担が大きくなる可能性がある。

生前贈与による譲渡

無償で株式を後継者へ譲渡する方法で、いわゆる「贈与契約」を用います。


メリット

  • 現経営者が生存中に計画的に贈与すれば、贈与税の負担を分散できる。
  • 110万円の基礎控除や相続時精算課税制度などを活用し、税金を抑える余地がある。

デメリット

  • 株価が高いと、贈与税率が上がるため負担が大きくなる恐れ。
  • 相続が開始したとき、すでに贈与された株式が「特別受益」と判断されるケースがあり、相続争いの原因となる場合がある。

相続による譲渡(承継)

現経営者が亡くなった後に株式を承継する方法です。遺言によって特定の親族を指定しておけば、相続人全員での協議を簡略化できる場合があります。


メリット

  • 基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)が適用され、相続税をある程度軽減できる。
  • 遺言書を活用することで、誰にどのくらい承継させるかを明確にできる。

デメリット

  • 遺留分を主張されると、株式の集約が思うように進まない場合がある。
  • 被相続人の死後に手続を進めるため、事前に十分な打ち合わせをしておかないと、経営や相続人同士の関係に混乱が生じるリスクがある。

親族内承継におけるリスクと対処法

親族内承継は外部への株式譲渡やM&Aに比べて穏便に進めやすい反面、以下のようなリスクに留意する必要があります。ここでは、代表的なリスクとその対策を整理します。

譲渡価格の不適正による税務リスク

不自然に低い価格で株式を売買すると、税務署から「実質的に贈与が行われた」とみなされる恐れがあります。逆に、高すぎる価格で売買すると譲渡益が大きくなり、所得税や法人税の負担が増える結果となります。


対処法

  • 公認会計士や税理士など専門家と相談のうえ、評価方法に基づいた時価を算定する。
  • 適正価格を明確化して、後から疑義が出ないように契約書へしっかり記載する。

親族間トラブルや相続争い

株式を親族のうち誰に何株譲渡するかは、他の相続人の権利や遺留分に影響する場合があります。一部の親族だけが株式を大きく取得すると、のちに不満が噴出することも考えられます。


対処法

  • 遺言書を作成し、後継者に承継させる理由を記載しておく。
  • 承継内容を生前から家族や会社関係者と共有し、十分に話し合う機会をもつ。

長期的視点の不足

親族内承継だからといって、すぐに後継者が経営を円滑に進められるわけではありません。株式の集約と実際の経営スキルは別物で、十分な引継ぎ期間や資金計画がないまま承継すると、会社の業績が悪化するリスクがあります。


対処法

  • 承継時期を早めに決め、数年かけて後継者の経営能力を育てる。
  • 周辺の専門家(税理士、弁護士、コンサルタントなど)と連携し、経営や税務面でのサポート体制を整える。

まとめ

親族に対して非上場株式を譲渡するときは、譲渡価格の設定や手続上のルール、税務面など幅広い観点から準備を進める必要があります。特に時価を大きく下回る価格で取引すると贈与税や相続トラブルのリスクが高まるため、評価方法や株主名簿の整備などを丁寧に進めましょう。専門家のサポートを適切に取り入れながら、家族と十分に話し合い、会社の将来を見据えた計画的な承継を行うことが大切です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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