ホールディングス化で進める持株会社事業承継徹底解説ガイド

事業承継で持株会社(ホールディングス)を活用すると、株式移転の円滑化や税金対策、相続対策など多くのメリットが得られます。一方で、課税や借入金に関するリスクも存在するため、正しい知識と手続の理解が欠かせません。本記事では、ホールディングス化の目的やメリット・デメリット、設立方法の詳細をわかりやすく解説します。

目次

  1. 持株会社(ホールディングス)とは
  2. 事業承継におけるホールディングス化の目的
  3. ホールディングス化のメリットと税金対策
  4. ホールディングス化に伴うデメリット・課題
  5. ホールディングス設立の主な方法(株式移転・会社分割)
  6. スキームと承認手続の流れ
  7. まとめ

持株会社(ホールディングス)とは

持株会社(ホールディングス)とは、子会社の株式を持つことでグループ全体の経営を管理・支援する会社のことです。日本語では「持株会社」と呼ばれることも多く、複数の子会社をまとめて管理する親会社のような存在です。


この持株会社には、主に2種類の形態があります。


純粋持株会社

自分自身では事業を行わず、子会社の経営統括が主な役割です。収益源は子会社からの配当金が中心で、グループ全体の経営戦略や管理を担います。

事業持株会社

自社でも事業を行いながら子会社の株式を保有し、子会社を管理します。収益源は自社の事業収益と子会社からの配当金です。


日本では純粋持株会社が一般的ですが、どちらの形態であれ、ホールディングス化を通じて経営体制が整理されることで、全体の意思決定や組織運営が円滑になりやすいといわれています。とくに複数のグループ会社を持つ場合には、組織再編やグループ全体の方針統一に役立つ仕組みといえます。

持株会社(ホールディングス)とは

事業持株会社

  • 自社も事業を行いながら、子会社の管理も行う
  • 主な収益源は自社の事業収益と子会社からの配当金

日本国内では、純粋持株会社の形態がより一般的であり、事業持株会社はそれほど多くありません。

ホールディングス経営のメリットとしては、複数のグループ会社がある場合に、意思決定のスピードアップや経営効率の向上が期待できます。また、事業承継の際にも経営権の円滑な移転が可能となるため、ホールディングス経営を採用する企業が増加傾向にあります。

事業承継におけるホールディングス化の目的

事業承継とは、会社の経営を次の世代へ引き継ぐことです。親族内承継や社内承継、第三者承継などの方法がありますが、その中でも「ホールディングス化による事業承継」は、株式の移転や相続・税金対策などをスムーズに行いやすい点が注目されています。

株式移転がスムーズになる

ホールディングスを新たに設立し、そこにグループ会社の株式を集約しておけば、最終的には「ホールディングスの株式を移転するだけ」で事業承継を完了できる可能性があります。複数の会社をまとめて管理している場合、従来はそれぞれの会社の株式をひとつずつ移転する必要があり、手間が大きくなりがちでした。しかし、ホールディングス化すれば、対象会社の株式をホールディングスに集めておき、ホールディングスの株式を後継者に引き継ぐ形をとることで、全体としての作業を効率化できます。

相続対策としての利用

ホールディングス化は、相続税や遺留分対策の面でも役立ちます。たとえば、先代経営者が自分で直接会社の株式を持っていると、先代経営者に相続が発生した際に、他の相続人にも遺留分が認められるため、株式が分散しがちです。しかし、先代経営者が株式をホールディングスへ譲渡する形をとることで、先代経営者には現金が入り、かつ既存会社の株式はホールディングスが保有するようになります。これによって、遺留分の問題や相続財産の分割による経営の混乱を回避できる可能性があります。

ホールディングス化のメリットと税金対策

事業承継の場面では、ホールディングス化が株式移転を円滑にするだけでなく、税金対策としても役立つことが知られています。ここでは、特に税金面に着目しながら、ホールディングス化のメリットを詳しく整理します。

株式評価の抑制によるメリット

一般的に、会社の株価が高いほど事業承継時の税金負担が大きくなります。しかし、ホールディングス化を行うと、純資産価額方式において子会社の含み益の一部が控除される場合や、株式保有特定会社に該当しなくなることで類似業種比準方式が適用されやすくなる可能性があります。


純資産価額方式の場合

子会社に含み益があっても、その37%が控除対象となるケースがあり、直接株式を保有する場合と比べて株式評価額が抑えられることがあります。これにより、後継者への贈与税や相続税の軽減が期待できます。


類似業種比準方式の適用

ホールディングスが株式保有特定会社に該当しなければ、純資産価額方式よりも評価額が低く出る可能性がある「類似業種比準方式」を用いて株価を算定できることがあります。株価を抑制できる分、譲渡や贈与、相続にかかる税負担を軽くできる可能性があります。

相続対策としてのメリット

ホールディングス化によって、経営者個人が保有する非上場株式をホールディングスに譲渡し、現金を手にする形をとることができます。これにより、現金化が難しかった非上場株式の資産価値が明確になり、経営者個人としては相続税の納税資金を確保しやすくなる点が大きな強みです。


相続税評価額の固定

経営者がホールディングスへ株式を譲渡すると、株式の値上がりリスクから解放され、経営者個人の資産が増減しにくくなります。譲渡益が生じた場合には所得税がかかりますが、その後は大きな株価変動に左右されるリスクを回避できる可能性があります。


遺留分への対処

先代経営者が株式を直接保有していると、相続発生時に後継者以外の相続人から遺留分の請求を受けるリスクがあります。しかし、ホールディングスが事業会社の株式を所有している状態なら、先代経営者が亡くなったタイミングで事業会社株式が相続の対象になるわけではなく、経営権の分散リスクを抑えられます。

ホールディングス化に伴うデメリット・課題

多くの利点をもたらすホールディングス化ですが、同時にいくつかのデメリットや注意点も存在します。事業承継を円滑に進めるためには、以下のようなリスクを十分に理解し、対応策を検討することが大切です。

株式譲渡時の課税

ホールディングス化に際して、先代経営者が保有していた株式をホールディングスに譲渡すると、譲渡益に対して所得税および住民税(合計約20.315%)が課税されます。相続や贈与とは異なり、譲渡する経営者側に税金がかかる点に注意が必要です。


譲渡益=譲渡代金-取得費

先代経営者が当初取得した時点より株価が大幅に上昇している場合、譲渡益が大きくなるため、結果的に納税額が高額になる可能性があります。


今後の財産管理

先代経営者が譲渡によって得た現金を使わずに残したまま亡くなった場合、その現金には相続税がかかるため、事前に資金計画を立てておくことが大切です。

借入金による財務上の課題

ホールディングスが対象会社の株式を買い取るために金融機関などから資金を借り入れる場合、以下のような財務リスクが発生します。


多額の負債を抱える可能性

事業会社の株価が高額になるほど、株式譲渡に必要な融資額も増えます。結果としてホールディングスのバランスシート上の負債が大きくなり、金利負担や返済負担が経営を圧迫する恐れがあります。


返済原資の不安定性

ホールディングスの主な収入源は子会社からの配当です。子会社の業績が低迷して配当が減ると、ホールディングスは借入金の返済に苦慮する可能性があります。綿密な事業計画や返済計画の策定が必須となります。

税務上の留意点

ホールディングス化を利用した事業承継で株価を大幅に下げようとすると、税務当局から「不自然な株価対策」とみなされる場合があります。たとえば、意図的に株価を低く抑える目的だけで組織再編を行ったと疑われると、追徴課税を受けるリスクも考えられます。


設立目的の明確化

ホールディングスを設立した経緯や事業承継の必要性を説明できる資料や記録を整備しておくことが重要です。後日税務署から説明を求められた際、合理的な理由を示すことで不当な課税を回避しやすくなります。


専門家への相談

税理士や弁護士など、組織再編に詳しい専門家の意見を聞きながら、ホールディングス化のスキームを設計することが失敗回避の大きな鍵です。

ホールディングス設立の主な方法(株式移転・会社分割)

ホールディングスを設立する方法には、主に「株式移転方式」と「会社分割方式」の2つがあります。企業の状況や事業内容、許認可の有無などによって最適な手続が異なるため、それぞれの特徴を理解しておきましょう。

株式移転の概要

株式移転方式は、既存の会社が新たに親会社(ホールディングス)を設立し、既存会社の株式をすべて新会社(ホールディングス)に移転する方法です。


メリット

  • 許認可事業を営む会社の場合でも、あらためて許認可を取得し直す必要がないケースが多い。
  • 親会社(ホールディングス)側で株式を購入する資金が不要となりやすく、組織再編をスピーディーに進めやすい。
  • 単独での株式移転だけでなく、複数社を同時に移転して新たなホールディングスを設立できる。


デメリット

  • 反対株主がいる場合、株式買取請求を受ける可能性があり、対応が必要。
  • 複数の会社が一斉にホールディングス化するとき、それぞれの持株比率が変動するおそれがある。

会社分割方式

会社分割方式は、既存の会社を分割して一部を新会社として設立し、既存会社を親会社(ホールディングス)とする方法です。純粋持株会社を設立する場合によく使われます。


メリット

  • 新たに設立された会社の株式を対価に用いることが多く、直接的な資金調達を必要としない。
  • 既存会社を親会社にできるため、株主の持株比率が基本的には変わらない。
  • 上場企業の場合、再上場手続が不要なことが多い。


デメリット

  • 分割する事業に許認可や従業員雇用契約などが含まれる場合、改めて取り直しや再契約の手続が発生する可能性がある。
  • 税務面での取り扱いが複雑になりやすく、専門家の助言が欠かせない。

新設分割と吸収分割

会社分割方式には、大きく「新設分割」と「吸収分割」の2つがあります。


新設分割

既存会社が特定の事業を切り離し、新たに設立した会社に承継させる方法です。新会社の株式を既存会社やその株主が保有する形をとりやすく、純粋持株会社に移行しやすい手法といえます。


吸収分割

既存会社が分割した事業を、すでにある他社(存続会社)が承継する方法です。存続会社の株式が承継元となる会社に交付される形となり、グループ内で兄弟会社を作りたい場合などに用いられます。

スキームと承認手続の流れ

ホールディングス化による事業承継を実施するには、スキームの全体像と承認手続の要点を押さえておく必要があります。ここでは、後継者が新会社を設立し、既存会社の株式を買い取る方法を例に、主な流れを確認してみましょう。

スキーム全体のイメージ

1. 後継者が出資してホールディングスを設立

後継者が100%株主として新会社(ホールディングス)を作り、後継者自身がその新会社の株主になります。これにより、新会社を通じて後継者が経営権を実質的に握ることが可能になります。


2. ホールディングスが金融機関から融資を受ける

新設したホールディングスが、対象会社(既存の事業会社)の株式を購入するための資金を金融機関から借り入れます。取締役会を設置している会社であれば、その承認が必要となります。


3. ホールディングスが先代経営者の持株を買い取る

先代経営者はホールディングスへ株式を譲渡し、その対価として現金を受け取ります。先代経営者には譲渡益があれば所得税がかかる点に注意が必要です。


4. ホールディングスは事業会社の配当を返済原資に充当

買取資金を融資で賄った場合、返済は事業会社からの配当金で行うことが多いです。事業会社が安定した利益を上げ、配当を出し続けることが、ホールディングスの財務健全性に直結します。

株式譲渡時の承認手続

日本の非上場会社の多くは「株式の譲渡に会社の承認が必要」と定めています。こうした場合、以下のような流れを経る必要があります。


1. 先代経営者(譲渡人)またはホールディングス(譲受人)から承認の請求

既存会社の取締役会や株主総会に、どれだけの株式を、誰に譲渡するのかを示して承認を求めます。会社法上の規定に基づき、請求の内容を具体的に記載することが重要です。


2. 取締役会または株主総会で承認決議

既存会社に取締役会があれば取締役会決議、ない場合は株主総会で議決します。定款の定めによっては承認手続が若干変わることもあるため要確認です。


3. 株式譲渡承認の通知

決議が承認されると、会社から譲渡人・譲受人に対し承認された旨を通知し、正式に譲渡を進めることができます。

ホールディングスの取締役会での承認

ホールディングス側が取締役会設置会社である場合、対象会社の株式を取得する行為が「重要な財産の譲受け」に該当します。会社法第362条4項1号により、取締役会の承認が必要です。取締役会を設置していない場合でも、取締役が複数いる会社なら過半数の同意が必要となるため、きちんと手続きを踏むことが求められます。


こうした各種の承認手続をきちんと行わないまま株式譲渡を進めてしまうと、後日「無効」と判断される恐れもあり、経営権を巡る重大なトラブルにつながる可能性が高いです。必ず専門家の力を借りてスキームを固めるようにしましょう。

まとめ

事業承継のためのホールディングス化は、株式移転の簡略化や税金・相続対策に大きなメリットがある一方、譲渡益課税や返済リスクなど、デメリットも見逃せません。ホールディングス化の実施方法(株式移転や会社分割)や手続の流れを正しく把握し、専門家のアドバイスを受けながら計画的に進めることが、将来の経営を安定させる大きなポイントとなります。慎重な検討と正確な手続によって、円滑な事業承継を目指していきましょう。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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