再生資源リサイクル業界のM&A動向と事例を詳しく紹介
再生資源業界やリサイクルのM&A事例を踏まえ、課題や売却のポイントをわかりやすく解説します。本記事では再生資源業界の現状や外部環境、M&A動向を詳しく紹介するとともに、将来を見据えた事業承継のヒントも提供します。資源循環を担う経営を考えるうえで、お役に立つ内容です。
目次
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
再生資源リサイクル業界とは、私たちの日常生活や企業活動で排出される廃棄物を再利用可能な資源として回収し、選別した後に販売する事業を指します。特に「再生資源卸売業」の領域では、鉄スクラップや非鉄スクラップ、古紙、缶、瓶、プラスチック、ゴム、繊維など、さまざまな再生資源を扱うのが特徴です。こうした再生資源を安定的に集荷し、選別して卸売を行うことで循環型社会の一端を担っています。
しかしながら、再生資源リサイクル業界は人手不足や高齢化、3K(きつい・汚い・危険)のイメージといった課題も抱えています。そのため、業界内では新たな人材を確保して事業を持続させるだけでなく、さらなる効率化や規模拡大を目指し、M&Aの活用が注目されるケースが増えています。
再生資源卸売業を営む企業の中には、従業員数が10名にも満たない小規模事業者が多く見られます。特に廃棄物を最初に回収する段階では、適切な許可を取得し、地域や企業との連携を図りながら一般廃棄物や産業廃棄物を安定して集荷する必要があります。例えば、一般廃棄物を扱うには各市区町村の「一般廃棄物収集運搬業」の許可を、産業廃棄物を扱うには都道府県の「産業廃棄物収集運搬業」の許可を受けなければなりません。
加えて、回収した廃棄物のうち再利用可能なものだけを選別し、市場ニーズに応じて加工・卸売を行うといった業務内容も大きな特徴です。ここでは、素材の品質を安定的に確保し、取引先との信頼関係を構築することが企業存続のカギとなります。
再生資源リサイクル業界と産業廃棄物処理業界は非常に近い存在です。産業廃棄物処理業者は、企業が排出する産業廃棄物の収集・運搬・中間処理・最終処分などを担っており、その中でリサイクルが可能な資源を取り出して再生資源として卸売業者に販売することもあります。逆に、再生資源卸売企業が自前で産業廃棄物収集運搬や中間処理まで行うケースも見受けられます。両者は、持続可能な資源循環を実現する上で、互いに密接に連携しながら運営されているのです。
(図1)鉄スクラップ相場の10年間の変化(月平均価格)
(出典先データを元に当社作成)
(図2)「古紙価格の上昇傾向 - 鉄スクラップとの類似性」
※古紙価格は、東京都内及びその近郊の古紙問屋店頭渡し価格を表示したもの
※輸出価格は「古紙品種別輸出先別輸出実績」の各輸出金額計を各輸出数量計で除算し算出
出典:関東製紙原料直納商工組合
2022年度のPETボトルの平均落札単価は、過去最高値の115.4円/kgを更新。容リ入札は逆有償が前提であるため、有償取引はマイナス表示。
落札単価は上期の64.2円に比べて51.2円/kg(80%高)の上昇。昨年同期と比較しても、約2.7倍に急増。
(図3)「PETボトル入札結果」
出典:公益財団法人日本容器包装リサイクル協会/ PETボトル入札結果
再生資源価格の高騰と並んで、業界が直面するもう一つの重要課題は、リサイクル資源の再資源化率の向上です。
下記の(図4)は、世界の廃棄物量の将来予測を示しております。
図によると、世界人口と経済成長に伴い、廃棄物発生量が増加し続ける見込みです。2010年の約104.7億トンから2025年には約148.7億トンに増加すると推計されています。このため、再資源化へのニーズや期待はさらに高まると予想されます。
このような状況から、リサイクル資源の再資源化率の向上が、ますます重要な課題となっているわけです。
(図4)「世界の廃棄物量の推移(将来)
日本における産業廃棄物処理の現状を示すのが、以下の(図5)です。
(図5)は、産業廃棄物の最終処分量と再生利用率の推移を示しています。
最終処分量については、平成9年度(1997年)の約6700万トンから平成26年度(2016年)には約1000万トンへと、約85%の減少を遂げています。しかし、その後はほぼ1000万トン前後の水準で推移し続けている状況です。
一方で、再生利用率は平成9年度(1997年)から平成17年度(2005年)まで着実に上昇してきましたが、その後は50%強の水準で推移し続けています。このため、産業廃棄物の再生利用率をいかに引き上げていくかが、業界の今後の課題として考えられます。
(図5):産業廃棄物処理の現状(最終処分量と再生利用率)
出典:環境省/産業廃棄物処理の現状(最終処分量と再生利用率)
以下の(図6)は、環境産業の市場規模の推移を示しています。
環境産業の市場規模は、2020年に全体で約104兆4,360億円となっており、2000年の約58兆3,049億円に比べて約1.8倍の増加を達成しています。
分野別に見ると、4つの大分類の中で最も占める割合の大きい「廃棄物処理・資源有効利用」分野の市場規模は、2020年に約49兆9,950億円(おおよそ50兆円)となっており、2000年の約39兆4,530億円に比べて約1.3倍に拡大しています。
(図6)「環境産業の市場規模推移」
そして、環境産業の市場規模のうち、「廃棄物処理・資源有効利用」分野のリサイクル素材の市場規模に限定してみると、以下の(表1)に示す通り、2020年には約9兆2437億円となっており、2011年の約8兆5869億円に対して約107%の増加を達成しています。
(表1)「リサイクル素材の市場規模」
出典: 環境省/観光産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書
これらのデータから、環境産業および廃棄物処理・資源有効利用分野の市場規模が拡大し続けていることが確認できます。今後も継続的な市場成長が期待され、産業廃棄物処理業界においては、再生利用率の向上に努めることが重要課題となるでしょう。
多くの中小企業が集まる再生資源リサイクル業界では、経営者や熟練作業員の高齢化が進み、後継者や若年人材の確保が難しいという問題があります。3K職場とみなされがちな業界環境に加え、廃棄物に関連する作業への抵抗感もあり、若い世代がなかなか就職を選びにくい状況です。その結果、事業承継がままならず、外部に株式譲渡を検討したり、大手企業とのM&Aで事業を引き継いだりする例が増えています。
鉄スクラップや古紙、プラスチックなどの再生資源は国際情勢や資源需要の変動を受けやすく、価格が大きく上下します。例えば、中国や台湾が電気炉での鉄スクラップ利用比率を高めていることや、古紙の海外需要が高まっていることなどが重なり、近年は日本国内の再生資源相場が高騰気味です。しかし、急激な価格変動は事業の安定性を損ねるリスクもあり、業界全体で収益を安定させる工夫が求められています。
地球規模で見ると、人口増加や経済発展に伴い廃棄物排出量が増加傾向にあります。そうした中で再生資源回収業界には、限りある資源を有効活用するために、より高い再資源化率を求める社会的な要請が強まっています。しかし日本国内では、産業廃棄物の再生利用率がここ十数年ほど50%強の水準で停滞しており、技術開発や効率的な分別・回収システムの整備が課題となっています。
下記の(図7)は、産業廃棄物業界が抱える課題について、業界経営者にアンケートを実施した結果です。「同業者との競合」「人材確保」「廃棄物量の減少」「技術力の維持・継承」などが上位に挙げられています。
この中でも「廃棄物量の減少」に関しては、先進国を中心とした「人口減少」「ストック型社会への転換」などの要因が、廃棄物発生量の減少につながっています。さらに、「環境制約」や「資源制約」の下で廃棄物処理業界が果たすべき社会的役割は、収集運搬・処分の低炭素化、廃棄物処理に関する技術・体制の確立、リサイクル資源の再資源化率向上など多くの課題が挙げられます。
これらの課題に対応するためには、労働力不足への対処として生産性向上や資源価格変動に備えた経営基盤強化が求められます。
(図7)「産業廃棄物処理業界の課題認識」
環境産業全体の市場は、過去20年以上にわたり継続的に拡大を続けており、その中でも「廃棄物処理・資源有効利用」分野は極めて重要な位置を占めています。再生資源リサイクル業界においても、一般家庭や企業から出る廃棄物の再利用ニーズは年々高まっており、市場規模は拡大傾向にあります。さらに、環境規制や企業の社会的責任(CSR)意識の高まりによって、廃棄物をただ処理するだけでなく、再資源として活用する流れは強まると見込まれています。
再生資源リサイクル業界では、自治体による廃棄物収集運搬許可や設備投資のハードルが高いため、新規参入はそう簡単ではありません。既に許可を持つ既存事業者や大手企業が安定したシェアを確保しやすい構造があり、一方で別業種の企業が新たにリサイクル分野に取り組む際には、M&Aによる買収を選択することで時間とコストを削減できるケースが増えています。
再生資源リサイクル業や産業廃棄物処理業を営むためには、市町村や都道府県などの行政機関から許認可を得る必要があります。具体的には、下記のような許可制度が存在します。
一般廃棄物収集運搬業許可
一般家庭から出るごみ(一般廃棄物)を収集・運搬するための許可です。市区町村の管轄であり、自治体によっては申請前に事前協議が必要な場合もあります。
産業廃棄物収集運搬業許可
企業などから排出される産業廃棄物を収集・運搬するための許可です。積み降ろしを行う都道府県単位で許可を取得する必要があり、新規参入には申請時の審査や実地調査など、相応の手間が掛かります。
産業廃棄物処分業許可
産業廃棄物を中間処理や最終処分を行う場合に必要な許可です。施設の建設には環境保全や騒音対策など多くの要件を満たさなければならず、新規取得はさらにハードルが高いといえます。
こうした許認可制度の存在が参入障壁となり、既に許可を保有する業者が比較的優位を保ちやすい構造です。一方で、規模拡大や新規地域への進出を目指す企業にとっては、許認可を保有している事業者をM&Aで取得するほうが時間やコストを抑えられるため、M&Aを活用する動きが活発化しています。
再生資源リサイクル業界のM&Aは近年、経営者の高齢化や後継者不足を契機とした「事業承継」目的の案件に加え、事業拡大を志向する企業が既存事業とのシナジーを狙って進出するケースも増えています。実際に参入障壁の高さが、逆に既存プレイヤーの強みを高め、大企業による買収の対象になりやすい構図を生んでいます。
同業他社との統合
生産性向上や技術力の補完を目的に、同業他社同士がM&Aを行い、競合他社との差別化を図る事例が少なくありません。
異業種からの参入
既に環境関連事業を営む企業や、循環型ビジネスへの進出を目指す別業種の企業が、リサイクル業界へ新規参入する手段としてM&Aを選ぶことも多いです。
こうした背景から、業界特有の許認可や施設管理ノウハウなどを持った事業者を早期に取り込むことで、時間と費用を節約しながらリサイクル分野を強化する動きが活発化しているのです。
再生資源リサイクル業界と密接な関係にある産業廃棄物処理業界でも、次のような動向が見られます。
市場規模は一時拡大後、長期的には縮小傾向の予測
環境省の資料によると、産業廃棄物処理業界全体の市場規模は5兆円を超えるといわれつつも、2050年にかけて緩やかに縮小していくと予測されています。背景には人口減少や廃棄物発生量の減少などが挙げられます。
技術革新とDXの浸透
廃棄物の収集や分別工程の効率化を目指して、AIやロボット、IoT技術を活用したDXが進みつつあります。効率的なリサイクルや再資源化の追求が産業廃棄物処理業界の大きな課題であり、こうした技術投資に積極的な企業ほど競争力を高めています。
許認可の厳格化とM&Aの関連
新規参入者に対する許認可要件は年々厳しくなる傾向にあり、既存事業者の買収(M&A)が地域展開や規模拡大の手段として非常に有効となっています。
ここでは、再生資源リサイクル業界を代表するM&A事例を3件紹介します。それぞれ事業シナジーや経営基盤強化を狙った動きであり、業界の実態をより具体的に把握できます。
M&Aの背景
富士興産株式会社は燃料油や太陽光発電などエネルギー関連を中心に幅広く手がけており、環境開発工業株式会社は再生資源の製造・販売、産業廃棄物収集運搬・処理などを行っています。
内容と目的
2022年10月、富士興産が環境開発工業の全株式を取得し、子会社化に成功しました。これにより、再生資源分野でのノウハウを取り込み、相互連携によるシナジー創出と新規事業の展開を図っています。
M&Aの背景
鈴木商会株式会社はリサイクル事業を主軸に、鉄スクラップから漁網リサイクルまで幅広く取り扱う企業です。木村工務店株式会社は解体工事で出る金属スクラップなどをリサイクル資材として再生・販売しています。
内容と目的
2021年7月、鈴木商会が木村工務店の株式を取得して子会社化しました。リサイクル業と解体業の垂直統合により、スクラップの安定調達がグループ内で完結し、川上から川下まで一貫した事業を構築することで更なる発展を目指しています。
M&Aの背景
株式会社KIORITSUは印刷やBPO事業に加え、環境事業も展開しています。有限会社山陰クリエートはリサイクルプラスチックの開発・製造などを手がけています。
内容と目的
2023年3月、KIORITSUが山陰クリエートを子会社化する形でM&Aを実施しました。リサイクル製品の原料となるポリプロピレンの収集や農業用資材の回収体制を整備し、全国展開につなげることが狙いです。
続いて、産業廃棄物処理業界で行われたM&A事例をいくつか紹介します。再生資源リサイクル業界の事例と同様、事業承継や市場シェアの拡大、技術獲得など多面的な動機がうかがえます。
概要
成友興業は建設事業と併せて産業廃棄物処理を手がける企業であり、栄興産業は解体コンクリート塊の中間処理を中心に行っています。
M&Aの目的
成友興業は栄興産業の全株式を取得して子会社化することで、首都圏における産業廃棄物処理能力を高め、建設汚泥や汚染土壌の中間処理分野を拡大させています。
概要
ヤマダホールディングスは家電流通やリサイクル分野で実績を持つ企業グループであり、あいづダストセンターは産業廃棄物の収集運搬・中間処理・最終処分を担ってきました。
M&Aの目的
2023年に全株式を取得し子会社化することで、ヤマダHDは不要となった家電の再利用から焼却・埋め立て処分までをワンストップで完結できるシステムを整えています。
概要
ミダックHDは多角的な事業展開の一環として産業廃棄物処理を行い、柳産業は建設廃棄物の破砕や圧縮といった中間処理を手がけています。
M&Aの目的
2021年にミダックHDが柳産業をグループに加え、自社の廃棄物処理工程を柳産業の施設へシフトしてコスト削減を図るとともに、長期的な事業基盤強化を目指しています。
リサイクル業界や産業廃棄物処理業界におけるM&Aには、売り手・買い手双方に大きなメリットがあります。とりわけ参入障壁の高い業界では、許認可を一気に取得し、既存の取引先や人材を獲得できることが買い手側の大きな利点です。
事業承継の円滑化
後継者不足の問題を解決し、従業員の雇用や取引先との関係を維持しながら事業を存続できる可能性が高まります。
経営資源の最適化
大手や他事業との統合であれば、追加投資や人材確保を大幅に軽減でき、経営資源をより効果的に活用できます。
財務基盤の強化
譲渡益によって負債の圧縮や新規投資が可能となり、企業全体として財務健全化を果たせる場合があります。
許認可の迅速な取得
新規で時間を掛けて申請する必要がなく、既存企業のノウハウや設備も一度に取り込めます。
スケールメリットによるコスト削減
収集運搬ルートの統合や施設の共有化で、運営コストを削減しながら効率を高めることが可能です。
技術力やノウハウの獲得
先進的なリサイクル技術を持つ企業や特定の廃棄物処理工程に強みを持つ企業を取り込むことで、自社の弱点を補完できます。
再生資源リサイクル業界や産業廃棄物処理業界は、限りある資源を効率的に循環させる上で欠かせない産業です。一方で、後継者不足や労働力確保、資源価格の変動、再資源化率の向上など、多くの課題を抱えています。そこで注目されるのが、事業承継や経営基盤強化を実現しやすいM&Aです。許認可の取得難度の高さから、新規参入や地域拡大にもM&Aは有力な選択肢となっています。
各社が事例に示すように、M&Aをきっかけに垂直統合やシェア拡大、最新技術の取り込みなどを通じて、事業を安定的に拡大する流れが今後も続くでしょう。適切な専門家や仲介会社のサポートのもとであれば、売り手・買い手双方にとって大きなメリットを享受できる可能性があります。これからも、地球環境と資源の持続可能性が叫ばれる中で、リサイクル業界や産業廃棄物処理業界のM&A動向はますます重要視されるはずです。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事