再生資源卸売業は、私たちの生活や企業活動において発生する廃棄物を再生資源として回収し、選別後に販売を行う業者を指します。
地球上の限りある資源である石油、石炭、鉱物などは、長年にわたって私たちの生活や経済活動に利用されてきました。
しかし、再生資源卸売業にも業界固有の問題が存在しています。その中でも、経営者の高齢化や後継者不足による事業承継問題、若年労働者の減少による労働力確保の問題などが挙げられます。また、3K(きつい・汚い・危険)と称される厳しい業界環境の改善も求められています。このような課題に対処する一つの方法として、M&A(企業の合併・買収)が見込まれています。
本コラムでは、再生資源卸売業界の業界情報や外部環境、M&Aとその事例について詳しく解説していきます。
目次
総務省による日本標準産業分類に基づくと、再生資源卸売業は、建築材料や鉱物・金属材料の卸売業(中分類53)の一部門であり、以下のような業者が含まれます。
・鉄スクラップや非鉄スクラップ
・古紙
・缶や瓶
・プラスチック・ゴム・繊維等のくず
この業者は、それぞれの再生資源を集荷し、選別して卸売を行います。具体的な区分は以下のようになります。
・鉄スクラップ卸売業: 鉄スクラップの集荷・選別・卸売を行う事業者
・非鉄金属スクラップ卸売業: 非鉄金属スクラップの集荷・選別・卸売を行う事業者
・古紙卸売業: 製紙原料用古紙やその他の古紙の集荷・選別・卸売を行う事業者
・空瓶・空き缶等空容器卸売業: 空瓶・空き缶・空袋・空箱などの空容器を再利用可能なものを集荷・選別・卸売を行う
事業者
・その他の再生資源卸売業: プラスチック、繊維くず(ウェイスト)、ガラスくず、くずゴムなど他に分類されない再生
資源の集荷・選別・卸売を行う事業者
再生資源卸売業において、特に最初のステージである再生資源回収業を営む企業には、従業員数10人未満という小規模な事業所が多いことが特徴となっています。このような状況から、まずは人材の確保という経営努力が不可欠となります。
また、再生資源卸売業を安定的な経営に導くためには、再生資源をどのように安定的に手に入れるかという点が重要です。一般廃棄物の確保の際には、地域団体や地元企業との連携が大切であり、産業廃棄物の確保でも地元工場に対して積極的にアプローチを行う必要があります。
さらに、再生資源回収業を行うにあたっては、廃棄物の種類に応じた許可証の取得が求められます。例えば、一般廃棄物を扱う場合には、「一般廃棄物収集運搬業」の許可が必要で、申請窓口は管轄区域の市区町村です。一方、産業廃棄物を取り扱う場合は、「産業廃棄物収集運搬業」の許可が必要であり、窓口は廃棄物の積み降ろしを行う地域の都道府県となります。
再生資源卸売業に関連する現行の業界問題として、資源価格の高騰が挙げられます。資源価格の高騰は、再生資源の仕入れが困難になり、業界の衰退につながる可能性があります。
以下では、再生資源の代表として鉄スクラップ、古紙、プラスチックの資源価格の推移について考察します。
(図1)は、過去10年間の鉄スクラップ相場の推移を示しています。この表から、2020年以降に鉄スクラップ価格が高騰し、現在も市況が高い水準で推移していることが分かります。
鉄スクラップ相場の急激な上昇の背後には、中国の環境政策の変更が関与しています。電気炉ではほぼ100%スクラップを鉄源として利用するため、2020年以降、中国では国内で利用している電気炉の比率を従来の10%から20%に引き上げる目標を設定し、スクラップを再生鋼鉄原料としての輸入規制緩和を実施しました。さらに、台湾から日本産鉄スクラップへの需要も発生しています。この結果、日本の鉄スクラップの中国・台湾向け輸出傾向が強まり、価格高騰が引き起こされています。
(図1)鉄スクラップ相場の10年間の変化(月平均価格)
(出典先データを元に当社作成)
(図2)「古紙価格の上昇傾向 - 鉄スクラップとの類似性」
※古紙価格は、東京都内及びその近郊の古紙問屋店頭渡し価格を表示したもの
※輸出価格は「古紙品種別輸出先別輸出実績」の各輸出金額計を各輸出数量計で除算し算出
出典:関東製紙原料直納商工組合
2022年度のPETボトルの平均落札単価は、過去最高値の115.4円/kgを更新。容リ入札は逆有償が前提であるため、有償取引はマイナス表示。
落札単価は上期の64.2円に比べて51.2円/kg(80%高)の上昇。昨年同期と比較しても、約2.7倍に急増。
(図3)「PETボトル入札結果」
出典:公益財団法人日本容器包装リサイクル協会/ PETボトル入札結果
再生資源価格の高騰と並んで、業界が直面するもう一つの重要課題は、リサイクル資源の再資源化率の向上です。
下記の(図4)は、世界の廃棄物量の将来予測を示しております。
図によると、世界人口と経済成長に伴い、廃棄物発生量が増加し続ける見込みです。2010年の約104.7億トンから2025年には約148.7億トンに増加すると推計されています。このため、再資源化へのニーズや期待はさらに高まると予想されます。
このような状況から、リサイクル資源の再資源化率の向上が、ますます重要な課題となっているわけです。
(図4)「世界の廃棄物量の推移(将来)
日本における産業廃棄物処理の現状を示すのが、以下の(図5)です。
(図5)は、産業廃棄物の最終処分量と再生利用率の推移を示しています。
最終処分量については、平成9年度(1997年)の約6700万トンから平成26年度(2016年)には約1000万トンへと、約85%の減少を遂げています。しかし、その後はほぼ1000万トン前後の水準で推移し続けている状況です。
一方で、再生利用率は平成9年度(1997年)から平成17年度(2005年)まで着実に上昇してきましたが、その後は50%強の水準で推移し続けています。このため、産業廃棄物の再生利用率をいかに引き上げていくかが、業界の今後の課題として考えられます。
(図5):産業廃棄物処理の現状(最終処分量と再生利用率)
出典:環境省/産業廃棄物処理の現状(最終処分量と再生利用率)
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
以下の(図6)は、環境産業の市場規模の推移を示しています。
環境産業の市場規模は、2020年に全体で約104兆4,360億円となっており、2000年の約58兆3,049億円に比べて約1.8倍の増加を達成しています。
分野別に見ると、4つの大分類の中で最も占める割合の大きい「廃棄物処理・資源有効利用」分野の市場規模は、2020年に約49兆9,950億円(おおよそ50兆円)となっており、2000年の約39兆4,530億円に比べて約1.3倍に拡大しています。
(図6)「環境産業の市場規模推移」
そして、環境産業の市場規模のうち、「廃棄物処理・資源有効利用」分野のリサイクル素材の市場規模に限定してみると、以下の(表1)に示す通り、2020年には約9兆2437億円となっており、2011年の約8兆5869億円に対して約107%の増加を達成しています。
(表1)「リサイクル素材の市場規模」
出典: 環境省/観光産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書
これらのデータから、環境産業および廃棄物処理・資源有効利用分野の市場規模が拡大し続けていることが確認できます。今後も継続的な市場成長が期待され、産業廃棄物処理業界においては、再生利用率の向上に努めることが重要課題となるでしょう。
再生資源卸売業における競合業態ですが、廃棄物処理業と同様に参入障壁が高いことから、基本的には全く業種が異なる他業態からの新規参入は多くは見られません。再生資源卸売業に参入する上で不可欠な「廃棄物収集運搬」の許可取得は、近年では自治体が許可を出しにくくなっており、これが既存業者にとって有利な状況となっています。
一方で、自社の上流もしくは下流の関連事業として再生資源卸売業に進出しようとする事業者も存在し、その際にはM&Aが活用されることがあります。また、他業種を営む企業が新規に再生資源卸売業に進出する場合には、M&Aを利用することが手っ取り早い方法となります。
下記の(図7)は、産業廃棄物業界が抱える課題について、業界経営者にアンケートを実施した結果です。「同業者との競合」「人材確保」「廃棄物量の減少」「技術力の維持・継承」などが上位に挙げられています。
この中でも「廃棄物量の減少」に関しては、先進国を中心とした「人口減少」「ストック型社会への転換」などの要因が、廃棄物発生量の減少につながっています。さらに、「環境制約」や「資源制約」の下で廃棄物処理業界が果たすべき社会的役割は、収集運搬・処分の低炭素化、廃棄物処理に関する技術・体制の確立、リサイクル資源の再資源化率向上など多くの課題が挙げられます。
これらの課題に対応するためには、労働力不足への対処として生産性向上や資源価格変動に備えた経営基盤強化が求められます。
(図7)「産業廃棄物処理業界の課題認識」
以下では、再生資源卸売業界のM&A事例を3件紹介いたします。
富士興産株式会社は、燃料油、アスファルト、潤滑油などの石油製品販売や太陽光発電事業を手掛ける企業であり、一方で環境開発工業株式会社は、再生資源の製造・販売、土壌浄化、産業廃棄物収集運搬・処理といった事業を展開しています。
2022年10月3日には、富士興産株式会社が環境開発工業株式会社の全株式を取得し、子会社化を実現しました。このM&Aの目的は、相互連携を通じてシナジー効果を生み出し、新規事業の推進を図ることによって、中期的な成長と事業価値向上を達成することです。
鈴木商会株式会社は、資源・家電・漁網など様々な資源をリサイクルする総合企業であり、木村工務店株式会社は、ビルなどの解体工事や産業廃棄物処理を行い、現場から出る金属スクラップを選別して産業資材へ再生・販売する事業者です。
2021年7月には、鈴木商会株式会社が株式譲渡を通じて木村工務店株式会社の株式を取得し、子会社化を行いました。M&Aの目的は、リサイクル業と解体業の一体化により、鈴木商会が原料調達をグループ内で行うことが可能となり、事業の川上から川下までカバーして事業をさらに発展させることです。
株式会社KIORITSUは印刷・BPO・デジタル事業及び環境事業を展開する事業会社であり、有限会社山陰クリエートはリサイクルプラスチックの開発・製造などに取り組んでいます。
2023年3月1日には、株式会社KIORITSUが有限会社山陰クリエートの全株式を取得し、子会社化を果たしました。M&Aの目的は、リサイクル製品の原料となるポリプロピレンの収集や農業用資材の回収の仕組みを構築し、リサイクルプラスチック製品の全国展開を実現することです。
再生資源卸売業界におけるM&Aの動向は、今後も増加が見込まれます。その背後には、業界が静脈産業として重要な存在であること、多くの小規模事業者が存在し生産性向上が進んでいないこと、少子化や業界特性等から人材確保が難しいこと、後継者問題に直面するオーナーが多いことなどが挙げられます。
再生資源卸売業においては、生産性向上が十分に進んでいないという課題がありますが、M&Aを通じた解決策が求められることで、今後も活発化が予想されます。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事