印刷業界M&A最新動向と市場変化に対応する戦略で成長加速


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印刷業界M&Aの最新動向と会社売却で重視される実務論点

印刷業界M&Aの動向、売却価格の考え方、買い手が見る設備・取引先・環境リスクを解説します。後継者不在や市場縮小に悩む経営者が、会社売却を判断するための実務ポイントを整理します。パッケージ、デジタル印刷、海外展開の動きも踏まえ、準備の順番まで分かります。

目次

  1. 印刷業界M&Aで進む再編の背景
  2. 買い手が評価する印刷会社の特徴
  3. 印刷会社の売却価格を左右する要素
  4. 成約前に確認される実務リスク
  5. 会社売却を成功に近づける準備
  6. 印刷業界M&Aの事例から見る方向性
  7. まとめ

印刷業界のM&A最新動向と市場変化に対応する戦略で成長加速

印刷業界M&Aで進む再編の背景

印刷業界のM&A(合併・買収)は、単なる規模拡大の手段ではなくなっています。紙の需要が減る中で、どの領域に残り、どの領域へ広げるかを決める経営判断になっています。

出版印刷やチラシなどの商業印刷は、ペーパーレス化、電子書籍、Web広告、SNS販促の普及により、長期的に厳しい環境が続いています。一方で、食品、医薬品、日用品向けのパッケージ印刷やラベル印刷、セキュリティ印刷、特殊加工は、紙媒体全体の縮小とは異なる動きを見せています。印刷業界を一括りにして「斜陽」と見ると、買い手に評価される強みを見落とします。

国内の印刷会社には、中小企業が多く残っています。設備、人材、取引先、地域密着の営業網を持ちながら、後継者がいないために将来の選択に迷う経営者も少なくありません。こういうケースは珍しくありません。親族内承継が難しい会社ほど、第三者承継としてのM&Aを早めに検討する意味があります。

紙からデジタルへ移るだけではない

印刷需要は、紙が消えるだけではありません。販促物の小ロット化、可変印刷、Web連動、EC経由の受注、データ管理、BPOなど、印刷会社の周辺領域に仕事が移っています。BPOとは、請求書発送や会員通知など、企業の事務作業を外部に任せる仕組みです。

そのため、印刷会社のM&Aでは、印刷機だけでなく、顧客データを安全に扱う体制、Web制作力、デジタルマーケティング支援、受発注システムの有無も見られます。昔ながらの紙の仕事だけに見える会社でも、顧客の販促や事務処理に深く入り込んでいれば、買い手から高く評価される余地があります。


 

出展:一般印刷市場に関する調査を実施(2020年) / 株式会社矢野経済研究所




パッケージ・ラベル・特殊印刷に買収ニーズが集まる

買い手が注目しやすいのは、価格競争に巻き込まれにくい領域です。たとえば、食品包装、医薬品ラベル、化粧品パッケージ、工業製品向けラベル、偽造防止や可変情報を扱う印刷などです。これらは品質管理、短納期対応、衛生面、表示ルールへの理解が必要で、すぐに新規参入できる分野ではありません。

大手企業や異業種企業が、こうした技術や顧客基盤を持つ中小印刷会社を譲受するケースもあります。買い手にとっては、自社で一から設備と人材をそろえるより、既に稼働している会社を引き継ぐ方が早いからです。売り手にとっても、後継者不在を解決しながら、取引先や従業員を守れる可能性があります。

地方企業による都市部拠点の取得も増えている

地方の中堅印刷会社が、東京、大阪、名古屋などの営業拠点を持つ小規模印刷会社を譲受する動きもあります。目的は、顧客基盤の獲得です。地方に工場を持つ会社が、都市部の営業網を得ることで、生産は自社工場に集約し、営業は都市部で広げる形を作れます。

反対に、都市部の会社が地方の製造拠点を取り込むこともあります。賃料や人件費、設備スペースの制約を避けながら、安定した生産体制を確保する狙いです。印刷業界のM&Aでは、会社単体の売上だけでなく、買い手の既存拠点とどう組み合わせるかが重要になります。

買い手が評価する印刷会社の特徴

買い手は、売上規模だけで会社を判断しません。特に中小印刷会社では、決算書に表れにくい技術、人材、取引先との関係、設備の状態が、譲渡価格や交渉条件に影響します。

「うちは古い印刷機しかない」と感じていても、実際には特定顧客向けの短納期対応や、熟練オペレーターの調整力が強みになっていることがあります。反対に、売上が大きくても、採算管理ができていない会社は評価が下がりやすくなります。

安定した取引先と用途の広がり

印刷会社では、主要取引先の構成が重視されます。特定の大手企業や官公庁に売上が偏っている場合、安定性がある一方で、取引停止時の影響も大きくなります。買い手は、上位10社の売上割合、契約期間、発注頻度、価格改定のしやすさを確認します。

用途の広がりも大切です。出版、広告、包装、ラベル、帳票、DM、ノベルティ、Web連動など、複数の用途に展開できる会社は、買い手が自社顧客へ提案しやすくなります。既存顧客に追加提案できる余地がある会社は、M&A後の成長ストーリーを描きやすいのです。

設備よりも稼働率と原価管理が見られる

高額な印刷機を保有していること自体は、必ずしも高評価につながりません。買い手が見るのは、その設備がどの程度稼働し、どれだけ利益を生んでいるかです。意外と多い落とし穴です。

たとえば、最新のデジタル印刷機を導入していても、受注が少なく稼働率が低ければ、固定費の重荷になります。反対に、古い設備でも保守が行き届き、特定用途で安定稼働していれば評価される場合があります。案件別の粗利率、材料ロス、外注比率、機械ごとの稼働時間を説明できるかが重要です。

人材が事業価値そのものになる

印刷会社では、現場の職人、機械オペレーター、色校正に強い担当者、DTP担当者、営業担当者が事業価値を支えています。DTPとは、パソコン上で印刷物のレイアウトやデータを作る作業です。

買い手は、経営者が退いた後も仕事が回るかを確認します。社長だけが主要顧客を握っている、特定の職人しか機械を扱えない、若手育成が進んでいない、といった状態では、引継ぎリスクが高くなります。売却を考える前から、業務分担とマニュアル化を進めることが大切です。


デジタル印刷市場規模の推移・予測

印刷会社の売却価格を左右する要素

印刷会社の売却価格は、単純に売上の何倍で決まるわけではありません。中小企業M&Aの実務では、時価純資産に営業権を加えて考える方法がよく使われます。時価純資産とは、会社の資産と負債を実態に近い金額へ見直した純資産です。

目安としては、時価純資産に、正常化後の利益の数年分を加える考え方があります。中小企業のM&Aでは1〜3年分程度が参照されることもありますが、実際の価格は案件ごとに異なります。印刷機の状態、設備投資の必要額、取引先の継続性、在庫や売掛金の質によって大きく変わります。

設備の時価評価が価格に直結する

印刷会社では、機械装置の簿価と実際の価値がずれることがあります。簿価とは、決算書上の帳簿価額です。減価償却が進んで簿価が低くても、現場ではまだ使える設備があります。一方で、簿価が残っていても、修理費がかさむ設備や更新が必要な設備は、評価を下げる要因になります。

買い手は、印刷機、製本機、加工機、検査機、空調設備、排水設備などを確認します。保守契約、修繕履歴、部品供給の見通しも見ます。古い設備を隠す必要はありません。むしろ、いつ導入し、どの程度稼働し、今後どのくらい使えるかを整理しておく方が、交渉で信頼されます。

正常な利益を説明できるか

売却価格を考える際には、過去の利益をそのまま使わないことがあります。役員報酬、親族への給与、節税目的の費用、一時的な修繕費、遊休資産の維持費などを調整し、実態としてどれくらい利益を生む会社かを見ます。これを正常化といいます。

印刷会社では、材料費や外注費の上昇を価格に転嫁できているかも重要です。紙、インク、電気代、配送費が上がっているのに、昔の単価のまま受注していると、売上はあっても利益が残りません。案件別の採算を見える化しておくと、買い手に改善余地を説明しやすくなります。

株式譲渡と事業譲渡で手取りが変わる

印刷会社のM&Aでは、株式譲渡と事業譲渡が検討されます。株式譲渡は、会社の株式を買い手に渡す方法です。事業譲渡は、印刷事業の資産、契約、従業員などを個別に移す方法です。

中小企業の会社売却では、株式譲渡が選ばれることが多いです。会社全体を引き継ぎやすく、取引先や従業員との関係も継続しやすいためです。ただし、簿外債務や環境リスクを買い手が不安視する場合、事業譲渡を求められることもあります。税金や手取り額も変わるため、早い段階で試算が必要です。

成約前に確認される実務リスク

印刷業界のM&Aでは、デューデリジェンスが重要です。デューデリジェンスとは、買い手が売り手の財務、法務、税務、労務、事業内容を調べる手続です。

ここで問題が見つかると、譲渡価格の引下げ、表明保証の追加、スキーム変更、場合によっては交渉中止につながります。表明保証とは、売り手が一定の事実に誤りがないと約束する契約上の条項です。事前に弱点を整理しておくことが、結果的に交渉を守ります。

環境リスクと土壌汚染の確認

印刷工場では、過去に有機溶剤や洗浄剤を使用していたケースがあります。現在は適切に管理していても、昔の使用履歴、排水処理、廃液処理、地下タンク、土壌汚染の可能性を確認されることがあります。

特に土地建物を保有している会社では、工場用地の扱いが大きな論点になります。土壌調査が必要になると、時間と費用がかかります。買い手は、想定外の浄化費用を嫌います。過去の使用薬品、廃棄物処理の契約書、行政対応の履歴を整理しておきましょう。

主要取引先との契約条件

印刷会社は、取引先から預かったデザイン、個人情報、販促データ、会員情報などを扱うことがあります。そのため、取引契約や秘密保持契約の内容が重要になります。

契約書にチェンジ・オブ・コントロール条項が入っている場合があります。これは、会社の支配権が変わったときに、相手方の同意や通知が必要になる条項です。M&A後に主要取引先との契約が解除されると、買い手にとって大きなリスクです。契約書がない口頭取引も、できる範囲で取引履歴や発注条件を整理しておく必要があります。

個人保証と金融機関対応

中小印刷会社では、設備資金や運転資金の借入に、経営者の個人保証が付いていることがあります。会社売却を考える経営者にとって、個人保証が外れるかどうかは重要な関心事です。

M&Aによって必ず個人保証が外れるとは限りません。買い手の信用力、金融機関との交渉、借入条件、担保の状況によって変わります。ただし、交渉前に借入一覧、返済予定、担保、保証人を整理しておけば、買い手や金融機関との協議を進めやすくなります。

労務管理と職人の引継ぎ

印刷会社では、残業、夜勤、納期対応、外注スタッフの扱いなど、労務面の確認も行われます。未払い残業代、社会保険の加入漏れ、就業規則の未整備があると、買い手は慎重になります。

また、熟練者が退職すると品質が落ちる会社では、キーマンの引継ぎが重要です。キーマンとは、事業継続に欠かせない人材です。売却前に従業員へ伝える時期を間違えると、不安が広がることがあります。M&A実務では、従業員への説明順序で判断が止まることがあります。

会社売却を成功に近づける準備

印刷会社の売却準備は、買い手探しから始めるよりも、社内情報の整理から始める方が安全です。買い手候補が現れてから資料を作ると、説明の不足や数字の不一致が目立ちやすくなります。

準備は難しく見えますが、順番に進めれば対応できます。重要なのは、自社の強みを感覚ではなく資料で説明できる状態にすることです。

事業別・顧客別の利益を見える化する

最初に整理したいのは、何で利益を出している会社なのかです。商業印刷、パッケージ、ラベル、DM、オンデマンド、製本、加工、Web制作など、事業別に売上と利益を分けます。可能であれば、顧客別、案件別の粗利も把握します。

利益の高い仕事と低い仕事を分けると、買い手は改善余地を見やすくなります。採算の悪い仕事があること自体は問題ではありません。その理由が、戦略的な受注なのか、価格交渉不足なのか、原価管理不足なのかを説明できることが大切です。

設備一覧と更新計画を作る

印刷機、加工機、検査機、搬送設備、サーバー、ソフトウェア、車両などを一覧にします。導入年月、取得価額、簿価、稼働状況、保守契約、修繕履歴、更新予定をまとめます。

設備の老朽化を隠すと、後で価格交渉が不利になります。更新が必要な設備は、買い手にとって投資計画の一部です。先に示しておけば、買い手は買収後の資金計画を立てやすくなります。

取引先と契約書を整理する

上位取引先の売上割合、取引開始時期、契約書の有無、単価改定の履歴、支払条件、クレーム履歴を整理します。官公庁や大手企業との取引がある場合、入札資格や情報管理体制も確認しておきます。

契約書がない取引でも、発注書、請求書、見積書、メールの履歴が説明資料になります。個人情報や機密情報を扱う仕事では、社内ルールやアクセス管理も見られます。買い手が安心できる状態に近づけることが、価格の維持につながります。

後継者不在を前向きな理由に変える

会社売却の理由が後継者不在であることは、マイナスとは限りません。むしろ、業績が大きく悪化する前に第三者承継を検討している会社は、買い手にとって引継ぎやすい場合があります。

ただし、「後継者がいないので急いで売りたい」と見えると、交渉上は不利になりやすいです。売却理由は、従業員と取引先を守るため、設備や技術を次世代へつなぐため、買い手の営業力や資本力で事業を伸ばすため、と整理すると伝わりやすくなります。

印刷業界M&Aの事例から見る方向性

近年の印刷業界M&Aでは、同業者同士の統合だけでなく、海外展開、デジタル化、パッケージ強化、FA事業の取り込みなど、目的が多様化しています。FAとは、工場の自動化や省力化に関する仕組みです。

大手企業では、国内市場だけに頼らず、海外のセキュリティ印刷やカード関連事業を取り込む動きがあります。欧米、アフリカ、アジアなど、地域をまたいだ事業展開を強化するためのM&Aです。中小企業にとっても、海外大型案件そのものを真似る必要はありませんが、国内市場の縮小を前提に、成長領域へ軸足を移す姿勢は参考になります。

ネット印刷と自動化の組み合わせ

ネット印刷販売事業を持つ会社を譲受する事例では、ECチャネル、受注管理、商品ラインナップ、アプリケーション、工場の自動化が評価されます。従来の営業担当者が受注するモデルに加え、Webから受注し、工場で効率よく生産する仕組みを持つ会社は、買い手との相乗効果を出しやすくなります。

人手不足が続く中では、印刷業界でも自動化や省力化の重要性が増しています。受注、データチェック、面付け、印刷、加工、発送までの流れをどこまで標準化できているかが、買収後の拡張性を左右します。

封筒・パッケージ・包装領域の内製化

封筒、包装、パッケージ関連では、外部に委託していた工程をグループ内に取り込む目的のM&Aがあります。デザイン、印刷、加工、物流まで一貫して提供できれば、納期短縮や品質管理の強化につながります。

包装関連企業では、軟包装や環境配慮型印刷の事業再編も行われています。水性フレキソ印刷のように、環境負荷を抑えやすい技術は、今後も評価されやすい領域です。フレキソ印刷とは、柔らかい版を使う印刷方式で、包装材などに使われます。

異業種とのM&Aで販促支援へ広がる

印刷会社がIT企業、広告会社、Web制作会社、物流会社と組むことで、単なる印刷受託から、販促支援や顧客管理支援へ広がることがあります。紙の印刷物だけでなく、Web広告、動画、アプリ、DM発送、効果測定まで提供できれば、顧客との関係は深くなります。

ただし、異業種とのM&Aでは、文化の違いに注意が必要です。印刷現場は品質と納期を重視し、IT企業は開発スピードや仕様変更への柔軟性を重視する傾向があります。M&A後の統合プロセスであるPMIでは、業務ルール、評価制度、顧客対応の基準を丁寧に合わせる必要があります。PMIとは、M&A後に組織や業務を統合する作業です。

中小印刷会社は「残す強み」を決める

売却を検討する中小印刷会社は、すべてを広げる必要はありません。むしろ、自社が残すべき強みを絞る方が、買い手に伝わりやすくなります。

地域密着の営業力、特定業界への深い理解、小ロット短納期、パッケージ加工、ラベル品質、官公庁案件、個人情報を扱う事務処理、熟練者の技術。どれが自社の価値なのかを言語化します。そのうえで、買い手の営業網、資金力、デジタル技術、採用力と組み合わせると、M&A後の成長が見えやすくなります。

まとめ

印刷業界M&Aでは、市場縮小への対応だけでなく、設備、原価管理、取引先、環境リスク、人材承継まで見られます。売却を急ぐ前に、自社の強みと弱点を整理し、価格の根拠を説明できる資料を整えることが重要です。第三者承継も選択肢に入れ、早い段階から実務に詳しい専門家へ相談すると、交渉の幅を広げやすくなります。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人

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