印刷業界のM&A最新動向と成功戦略:市場変化に対応する企業の取り組み

印刷業界におけるM&Aの最新動向と成功戦略を解説します。市場環境の変化やデジタル化への対応、事例分析を通じて、印刷業界のM&Aが持つ可能性と課題を探ります。企業の成長戦略立案に役立つ情報が満載です。

目次

  1. 印刷業界の現状と市場トレンド
  2. 印刷業界がM&Aを行う目的
  3. 印刷業界のM&A成功に向けたポイント
  4. 印刷業界におけるM&Aの最新事例と動向
  5. まとめ

印刷業界の現状と市場トレンド

印刷業界は、企業の広告や出版物の製作・印刷を行い、顧客に提供する業種として知られています。近年、デジタル技術の急速な発展により、印刷市場にも大きな変化が訪れています。多くの大手企業が印刷事業のデジタル化に積極的に取り組み、デジタル対応能力を持つ印刷会社の子会社化を進めています。

業界内では、専門技術や設備を持つ企業が独自の付加価値を生み出すことで差別化を図っており、M&Aによる事業再編が活発化しています。競争力を維持するための戦略的なM&Aも増加傾向にあります。

印刷業の市場規模と推移

日本の印刷市場は、単一市場としては世界的な規模を誇る産業の一つです。業界全体には、大手から中小企業まで多様な事業者が存在し、広告、書籍、雑誌、チラシなどの印刷物を製造しています。

 

出展:一般印刷市場に関する調査を実施(2020年) / 株式会社矢野経済研究所


しかし、印刷業界の市場規模は縮小傾向にあります。この傾向は以前から続いていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響でさらに加速しました。2000年頃からのインターネットの普及が、印刷業界の縮小に大きく影響していると考えられます。

市場規模減少の主な要因として、以下が挙げられます:

デジタル化による紙媒体印刷物の減少

少子高齢化

消費者のライフスタイルの変化

しかし、新たなビジネスチャンスを捉えた企業は、デジタルとアナログの融合やクロスメディア戦略を活用し、シェアを拡大させて生き残りを図っています。矢野経済研究所の調査によると、WEBサービスも含めた印刷事業の市場規模は横ばいで推移しており、需要がなくなったのではなく、媒体が変化してきていることがわかります。


デジタルシフトの影響

印刷業界におけるデジタル化は、業務効率化や新たな付加価値の創出といったメリットをもたらす一方で、紙媒体の縮小による事業者間の競争激化というデメリトも生んでいます。

デジタル技術の進化により、印刷物に代わる電子書籍やウェブコンテンツが増加し、従来の印刷業界における紙媒体の需要が減少しています。しかし、印刷業界もこの変化に対応し、以下のような取り組みを行っています:

デジタル技術を活用した印刷サービスの提供

オンデマンド印刷の導入

クロスメディア戦略の展開

これらの取り組みにより、紙媒体の需要減少を補完しています。

また、デジタル化によって生まれた新たな市場に対応するため、印刷業界はサービス拡充や事業領域の多様化に取り組んでいます。これにより、一部の企業は今後も競争力を高め、市場における地位を確保することが可能とみられています。

矢野経済研究所の「デジタル印刷市場規模推移と予測」によると、デジタル印刷市場も緩やかな上昇傾向にあり、印刷事業全てが斜陽産業とは言い切れない状況です。

 

環境問題への取り組み

印刷業界は、環境問題への取り組みが強く求められる産業の一つです。紙やインクに代表される印刷素材は、環境負荷を抑えるような開発が日々進められています。

企業の環境への取り組みとして、以下のような活動が行われています:

ISO認証の取得

エコマークの取得

廃棄物処理の適正化

エネルギー消費の削減

これらの取り組みにより、環境に配慮した姿勢をアピールし、顧客からの信頼を得ようとしています。

印刷業界としては、今後も環境問題への対応が業績や事業展開に大きな影響を与えることが予想されます。環境に配慮した事業運営は、社会的責任を果たすだけでなく、競争力の強化にもつながる重要な要素となっています。

印刷業界がM&Aを行う目的

印刷業界においても、シナジー(相乗効果)を生むM&Aが活発に行われています。企業の成長戦略の一環として譲受を検討し、企業価値を高める重要な手法として位置付けられています。

経営リソースと技術の融合

印刷業界でM&Aを行う目的の一つに、経営リソースや技術の共有があります。これにより、業務の効率化や専門性の向上が可能となります。

例えば、デジタル技術に長けた企業と印刷技術に特化した企業がM&Aを行うことで、互いの得意分野を活用し、サービスの幅を広げることができます。また、経営リソースや人材を共有することで、業務効率化を通じて安定した経営基盤の獲得が見込めます。

事業の多角化戦略

M&Aによる事業ポートフォリオ(事業のラインナップ)の多角化も、重要な目的の一つです。異なる事業領域や顧客層を持つ企業同士が経営統合を行うことで、以下のメリットが得られます:

事業の幅を広げる

リスクを分散する

効果的な営業戦略やマーケティング活動を展開する

市場占有率の向上

印刷業界においても、市場シェアを拡大することは業績向上や競争力強化に直結します。M&Aを通じて他社を買収することで、市場シェアの拡大が期待できます。

シェアを拡大することで得られるメリット:

価格交渉力の向上

顧客ニーズへの柔軟な対応

市場環境の変化への適応力向上

さらなる事業成長の実現

印刷業界のM&A成功に向けたポイント

M&Aは相談から成約まで論点が多岐にわたり、専門家のサポートが欠かせません。印刷業界のM&Aの成功に向けて重要な要素として、以下が挙げられます:

専門家のサポートのもと適切なタイミングでの実行

事前の戦略立案

売り手と譲受企業の調整

両者の協力関係構築

これらは、M&Aの過程だけでなく、M&A後における継続的な事業拡大・成長のためにも欠かせません。

適切なパートナー企業の選定

M&Aにおいて、適切な相手企業を選ぶことは極めて重要です。以下の点を考慮して選定を行います:

業界における市場動向

成長性

事業内容や目的の共有

企業文化や将来ビジョンの一致

相手企業選びには、十分なリサーチと市場分析が必要であり、専門家のサポートを受けることをお勧めします。

デジタル技術と人材の効果的活用

印刷業界のM&Aにおいて、デジタル技術や既存の人材の活用はM&A成功のカギを握ります。以下の取り組みが重要です:

IT技術の導入

人材教育の実施

PMI(M&A後の事業統合)のスムーズな進行

デジタル技術の活用は、印刷物の生産効率向上や環境負荷の軽減にもつながります。また、専門知識やスキルを持つ人材を適切に配置することで、最大限の効果を生み出すことができます。

印刷業界におけるM&Aの最新事例と動向

近年の印刷業界におけるM&Aの動向を見ると、デジタル化がキーワードとなっています。M&Aにより、新しい市場や顧客層へのアプローチを可能にすることで自社の成長を目指しています。

また、日本国内だけでなく、グローバルな視点でのM&Aも注目されており、多様な文化や市場環境に対応したビジネス展開がなされています。

成功例:A社とB社の経営統合

業界をリードする印刷会社A社と、市場で注目を集めるデジタル技術の専門企業B社が、事業拡大を目的にM&Aを行いました。このM&Aにより、以下のような成果が得られました:

双方の強みを活かしたシナジー(相乗効果)の創出

A社の業界における地位の強化

顧客ニーズに応える製品やサービスの提供

A社とB社は経営統合後も営業戦略の見直しを継続的に行い、市場変化に対応しています。

失敗例:C社とD社の合併破談

一方で、M&Aが成功を収められないケースも存在します。印刷業界のC社と出版業界のD社が合併を試みたものの、以下の理由により経営統合が失敗しました:

経営理念の違い

D社の管理体制の不備

D社の対応に対するC社従業員の不満

この失敗事例から学ぶべき教訓は、M&Aの過程においては、企業文化の違いを理解し、M&A前に適切な対話と調整が不可欠であるということです。

スキットによるアヤトの完全子会社化

スキットは商業印刷事業や印刷商品の開発・販売を行っている企業で、選挙ポスターやノベルティーを扱っています。アヤトは企業や公的機関向けに刊行物、宣伝品、伝票などの印刷を行っている企業です。

このM&Aの目的は以下の通りです:

アヤト:事業承継

スキット:経営統合によるシナジー効果の発揮

このM&Aは2020年8月に実施され、印刷業界の統廃合の一環として捉えることができます。

異業種と印刷業界のM&A事例分析

異業種企業と印刷業界のM&Aも、成功の鍵を握る要素の一つです。以下に事例を紹介します:

1. 食品業界大手企業によるパッケージ開発専門企業の子会社化 

• 目的:環境に配慮した持続可能なパッケージ開発能力の獲得

2. 大手出版社と印刷業界のM&A事例

• 目的:自社刊行物の品質向上

• 結果:最先端印刷技術の獲得により、印刷物の品質と顧客満足度が向上

3. デジタル企業と印刷関連会社のM&A事例 

• 大手出版社Eによるデジタル技術専門企業Fの子会社化

• 目的:電子書籍製造やアプリケーション開発への進出

• 結果:デジタル化への対応力強化、出版事業における競争力向上

4. オストリッチダイヤによる北越パッケージからの印刷事業譲受 

• 実施時期:2021年5月

• 目的:北越パッケージが印刷事業を切り離し、主力のパッケージ事業に集中

これらの事例から、異業種企業とのM&Aにおいては、各業界の最新技術や市場動向を把握し、戦略的な取り組みが成功へと導くポイントであることがわかります。

まとめ

印刷業界におけるM&Aは、市場競争を勝ち抜くための重要な戦略として今後も注目されるでしょう。デジタル化が進む市場環境下において、印刷業界は革新的な技術やサービスを提供するためにM&Aを積極的に活用していくと予想されます。M&A成功に向けては、適切な相手企業の選定や、技術と人材の効果的活用が不可欠です。専門家のサポートを受けながら、慎重かつ戦略的にM&Aを進めることが重要です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

相続の教科書