給食業界のM&A動向を詳しく解説。売り手・買い手それぞれの目的やメリット、成功のポイントを紹介し、最新の成約事例も交えて業界の未来を展望します。経営者必見の情報が満載です。
目次
給食業界は、近年大きな変化に直面しています。この業界のM&A(合併・買収)動向を理解することは、経営者や投資家にとって非常に重要です。ここでは、給食業界の現状分析とM&Aの最新トレンドについて詳しく見ていきましょう。
給食業界は、主に「営業給食」と「集団給食」の2つの分野に分かれています。それぞれの特徴と市場規模を見てみましょう。
1. 営業給食:
o 飲食店、宿泊施設の食事、宴会料理を提供
o 2021年の市場規模:約11兆9,639億円
2. 集団給食:
o 学校、保育所、病院、福祉施設、企業、官公庁などと契約
o 特定の人数の利用者に継続的に調理済みの食事を提供
o 2021年の市場規模:約2兆9,409億円
過去5年間の市場規模推移を見ると、以下のような傾向が見られます:
• 2017年から2019年:営業給食は増加傾向、集団給食は微減傾向
• 2020年以降:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で大幅な市場縮小
現在の給食業界は、以下のような課題に直面しています:
• 物価高騰
• 人件費高騰
• 人材不足
• 低価格競争の激化
これらの要因により、給食業界の事業環境は厳しい状況が続いています。
給食業界におけるM&Aの動向には、以下のような特徴が見られます:
1. 規模の経済を活かしたM&A:
o 同業の給食事業者による積極的なM&A
o スケールメリットを得やすい事業特性を活用
2. 異業種からの新規参入:
o 安定的な収益構造に着目した近隣業種からの進出増加
3. 海外展開を見据えたM&A:
o アジア圏など、食の安全性が徹底されていない地域への進出
4. 事業承継問題への対応:
o 後継者不在企業のM&Aによる事業継続
5. 大手企業による食堂事業の切り離し:
o 自社で抱える食堂事業をM&Aで外部化
6. 中小規模企業の生き残り戦略:
o 価格競争に巻き込まれないよう、M&Aによる事業規模拡大
これらの動向から、給食業界のM&Aは今後も活発化する可能性が高いと言えます。特に、人材不足への対応が重要なポイントとなっており、M&Aを通じて人的リソースを確保する動きが注目されています。
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
給食会社がM&Aを行う目的は、売り手と買い手で異なります。それぞれの立場から、M&Aを選択する理由とそのメリットを詳しく見ていきましょう。
売り手企業、つまり会社を売却する側には、以下のような目的とメリットがあります。
1. 事業の選択と集中
o 不採算部門や非コア事業の切り離し
o 経営資源を主力事業に集中させることが可能
o コスト削減と経営効率化を実現
2. 資本力の強化
o 大手企業グループ入りによる資金調達力の向上
o 成長投資や業務効率化投資の実現
3. 競争力の強化
o ネームバリューの向上
o 業務効率化による価格競争力の向上
o 人材育成・採用の強化によるサービス品質の向上
4. 従業員の安定的な雇用及び処遇向上
o 大手企業グループ入りによる雇用の安定化
o 福利厚生の拡充
o 業績向上による処遇改善の可能性
5. 後継者問題の解消
o 経営者の高齢化や人材不足による事業承継問題の解決
o 事業の継続性の確保
6. 創業者利潤の獲得
o 会社売却による対価の獲得
o 新規事業への投資資金や引退後の生活資金として活用可能
7. 借入金の個人保証の解除
o 株式譲渡スキームのM&Aによる個人保証の解消
o 経営者個人の財務リスクの軽減
一方、買い手企業、つまり会社を買収する側には、以下のような目的とメリットがあります。
1. 事業規模拡大によるスケールメリットの享受
o 新たな商圏(取引先やエリア)の獲得
o 人的リソースの確保
o 生産拠点の拡充
o 仕入れコストの削減
o 食材ロスの削減
2. 給食業界への新規参入
o 既存の業界知識やノウハウの獲得
o 時間とコストの大幅削減
o スムーズな市場参入の実現
3. 事業領域の拡大
o 例:営業給食分野から集団給食分野への進出
o 新たな顧客層や市場セグメントへのアクセス
4. 技術やノウハウの獲得
o 対象企業が持つ独自の調理技術や効率的な運営ノウハウの取得
o 自社サービスの品質向上や差別化に活用
5. 競争力の強化
o 市場シェアの拡大
o 経営資源の統合によるコスト競争力の向上
o ブランド力の強化
6. シナジー効果の創出
o 既存事業とのノウハウ共有
o 業務効率化の実現
o 新たな事業機会の創出
これらの目的とメリットを考慮し、給食会社は自社の状況や将来の戦略に合わせてM&Aを検討することが重要です。M&Aは単なる企業の売買ではなく、両者にとって価値ある成長戦略の一つとして位置づけられています。
給食業界におけるM&Aを成功に導くためには、売り手と買い手それぞれが押さえるべきポイントがあります。ここでは、両者の視点から、M&A成功のための重要な要素を詳しく解説します。
売り手企業は、以下の点に注力することでM&Aの成功確率を高めることができます。
1. 安全性確保のための衛生管理や品質管理の徹底
o 食品安全管理システム(HACCP)の導入と運用
o 定期的な衛生検査と記録の保管
o 従業員への衛生教育の実施
2. 人的リソース管理の徹底
o 正社員とアルバイトスタッフの適切な配置
o 効率的なシフト管理システムの導入
o 従業員教育プログラムの充実
3. 取引先や顧客との安定的な取引関係の継続
o 長期契約の締結
o 顧客満足度調査の定期的な実施
o クレーム対応体制の整備
4. 業務の効率化・原価管理の徹底
o 食材の仕入れ先の見直しと交渉
o 調理工程の標準化と効率化
o 食材ロス削減の取り組み
o 原価計算システムの導入と活用
5. 営業・業務ノウハウの蓄積と人材育成体制の構築
o 独自のレシピや調理技術の開発と文書化
o 社内研修制度の充実
o キャリアパスの明確化
これらのポイントを押さえることで、売り手企業は自社の価値を高め、より有利な条件でのM&A実現につなげることができます。
買い手企業は、以下の点に注意を払うことでM&Aのリスクを軽減し、成功につなげることができます。
1. デューデリジェンスの徹底
o 財務デューデリジェンス
• 過去の財務諸表の精査
• 将来の収益予測の妥当性確認
o 税務デューデリジェンス
• 税務申告の適正性確認
• 潜在的な税務リスクの洗い出し
o ビジネスデューデリジェンス
• 事業モデルの分析
• 市場動向と競合状況の調査
o 法務デューデリジェンス
• 契約書の確認
• 法的リスクの洗い出し
o 労務デューデリジェンス
• 労働条件の確認
• 労務関連の問題点の把握
2. PMI(経営統合プロセス)の計画と実施
o 統合計画の策定
• 組織構造の見直し
• 業務プロセスの統合
• システム統合の計画
o コミュニケーション戦略の立案
• 従業員向け説明会の実施
• 顧客・取引先への対応方針の決定
o シナジー効果の具体化
• コスト削減策の立案
• 新規事業機会の探索
o 人事・文化面での統合
• 人事制度の統一
• 企業文化の融合策の検討
3. リスク管理体制の構築
o M&A後のリスク評価
o リスク対応策の策定
o モニタリング体制の整備
4. 財務戦略の立案
o 資金調達計画の策定
o 投資計画の見直し
o 財務指標の管理目標設定
5. 法令遵守体制の強化
o コンプライアンスプログラムの統合
o 内部監査体制の整備
これらの点に注意を払い、綿密な計画と準備を行うことで、買い手企業はM&A後の統合プロセスをスムーズに進め、期待した成果を上げる可能性を高めることができます。
給食業界のM&Aを成功に導くためには、売り手と買い手の双方が、それぞれの立場で重要なポイントを押さえ、綿密な準備と計画を行うことが不可欠です。
給食業界では、様々な目的や背景のもとでM&Aが行われています。ここでは、実際に行われた給食会社のM&A事例をいくつか紹介し、その特徴や目的を解説します。
o 買い手:トーカン(セントラルフォレストグループ傘下の食品・酒類食品卸企業)
o 売り手:三給(業務用食材卸売業)
o M&Aの内容:三給の全株式を取得
o 目的:
• トーカンの給食事業と三給の業務用食材卸売事業のシナジー創出
• 三給子会社(ヒカリ)のスーパー惣菜向け食品卸売事業の獲得
o 特徴:
• 食品卸売業界における垂直統合の事例
• 給食事業の強化と新たな事業領域への進出を同時に実現
o 買い手:レバスト(給食事業、食事宅配事業)
o 売り手:マシモ(寿司や弁当の製造・販売)
o M&Aの内容:マシモの食品工場を全事業譲渡により取得
o 目的:
• 中食事業への新規参入
• 既存の給食・宅食事業とのシナジー創出
o 特徴:
• 給食事業者による製造部門の獲得
• 事業多角化による成長戦略の実現
o 買い手:ACA Next(官公庁・病院・学校・介護福祉施設などの食事提供事業、人材派遣・ヘルスケア事業)
o 売り手:タイリョウ
o M&Aの内容:タイリョウの給食事業の一部を譲受
o 目的:
• 給食事業の販路拡大
• 競争力の強化
o 特徴:
• 既存事業の補完・強化を目的としたM&A
• 部分的な事業譲渡による戦略的な事業再編
o 買い手:京進(個別指導塾、英会話サービス、保育サービス、介護サービス、国際人材交流事業)
o 売り手:リッチ(産業給食事業、食堂委託事業、園児給食事業)
o M&Aの内容:リッチの全株式を取得
o 目的:
• 自社の配食サービスとのノウハウ共有
• 業務効率化によるシナジー創出
o 特徴:
• 教育サービス業による給食業界への参入
• 既存事業とのシナジー効果を見込んだ多角化戦略
これらの事例から、給食業界におけるM&Aの特徴として以下の点が挙げられます。
1. 垂直統合による事業強化
o 食材調達から給食提供までの一貫体制の構築
o コスト削減と品質管理の向上を実現
2. 事業多角化による成長戦略
o 新規事業領域への参入
o 既存事業とのシナジー効果の創出
3. 販路拡大と競争力強化
o 新たな顧客層や地域への進出
o 規模の経済によるコスト競争力の向上
4. 異業種からの参入
o 給食業界の安定性に着目した新規参入
o 既存事業とのシナジー効果を期待
5. 部分的な事業譲渡による戦略的再編
o 経営資源の最適配分
o コア事業への集中と非コア事業の切り離し
これらの事例は、給食業界におけるM&Aが単なる規模拡大だけでなく、戦略的な事業再編や新たな価値創造の手段として活用されていることを示しています。今後も、業界内外からの様々なM&Aが行われ、給食業界の構造変化が進んでいくことが予想されます。
給食業界のM&Aは、事業環境の変化や競争激化を背景に活発化しています。スケールメリットの追求、新規参入、事業承継問題の解決など、様々な目的で実施されており、今後も増加傾向が続くと予想されます。M&A成功の鍵は、綿密な準備と戦略的なアプローチにあり、業界の発展に大きな役割を果たすでしょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画