従業員持株会と株式譲渡を活用する事業承継の手法とメリット


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従業員持株会で事業承継を進める方法と税務実務の注意点

従業員持株会を事業承継に使うと、後継者の資金負担を抑えながら株主構成を整理できます。株価評価、配当、議決権、退職時の買取り資金、M&A時の注意点を経営者向けに解説します。

目次

  1. 事業承継で従業員持株会を使う場面
  2. 株式を整理しながら後継者の負担を抑える
  3. 配当・議決権・株価評価の設計で失敗を防ぐ
  4. 従業員に説明すべきリスクと会社側の負担
  5. 導入前に整える規約・株価算定・運営手順
  6. M&Aや第三者承継を視野に入れた整理
  7. まとめ

従業員持株会と株式譲渡を活用する事業承継の手法とメリット

▶目次ページ:社内承継(社内承継)

事業承継で従業員持株会を使う場面

従業員持株会は、従業員が給与などから一定額を出し合い、その資金で自社株を共同で保有する仕組みです。上場会社の福利厚生制度として知られていますが、非上場の中小企業では、事業承継の株式対策として使われることがあります。

事業承継では、会社の経営を誰に引き継ぐかだけでなく、自社株を誰が持つかが重要です。社長だけが株式を持っている場合、後継者は多額の買取り資金を用意しなければなりません。親族に株式が分散している場合は、後継者が経営判断をしにくくなることもあります。

このような場面で、従業員持株会に株式の一部を持たせると、後継者がすべての株式を買い取らなくても、株主構成を少しずつ整理できます。会社を支えてきた従業員に株主として参加してもらうことで、社内の求心力を保ちやすくなる点も特徴です。

ただし、従業員持株会は万能ではありません。制度を作れば承継問題が解決するわけではなく、株価、配当、議決権、退職時の取扱いを事前に決めておく必要があります。ここを曖昧にしたまま始めると、後で判断が止まることがあります。

従業員持株会は株式の受け皿になる

非上場株式は、上場株式のように市場で自由に売買できません。そのため、オーナー経営者が保有株式を一部手放したいと思っても、買い手をすぐに見つけるのは難しいのが実情です。

従業員持株会は、こうした非上場株式の受け皿になります。従業員個人に直接株式を持たせるのではなく、持株会でまとめて保有するため、株式の所在を管理しやすくなります。退職者が出たときに、持株会へ株式を戻す仕組みにしておけば、社外への株式流出も防ぎやすくなります。

承継手法の一部として位置づける

従業員持株会は、親族内承継、役員・従業員承継、第三者承継のいずれでも使い方があります。親族内承継では、後継者に議決権を集中させながら、一部株式を持株会に移す方法が考えられます。役員や従業員が会社を引き継ぐ場合には、後継者個人だけでなく、従業員全体で一部株式を保有する形もあります。

一方で、将来の会社売却まで視野に入れる場合は、持株会が少数株主として残ることが課題になることもあります。導入時点で「将来も社内で承継するのか」「第三者への承継もあり得るのか」を整理しておくことが大切です。

株式を整理しながら後継者の負担を抑える

後継者が困るのは、経営能力だけではありません。株式を買い取る資金です。業績が安定している会社ほど株価が高くなりやすく、後継者個人の預貯金や借入だけでは対応できないことがあります。

従業員持株会を活用すると、オーナー経営者が保有する株式の一部を持株会へ譲渡できます。これにより、後継者が買い取る株式の量を抑えられます。後継者にすべてを背負わせず、会社全体で承継を支える設計にしやすい点が大きなメリットです。

もちろん、経営権まで分散させてしまうと本末転倒です。後継者が重要な経営判断をできるように、議決権の割合、持株会の保有比率、種類株式の利用可否などを慎重に検討します。

後継者個人の借入を減らしやすい

中小企業の株式承継では、後継者が金融機関から借入をして株式を買い取ることがあります。しかし、借入が大きくなると、後継者の生活や会社経営に心理的な負担がかかります。事業は順調でも、株式買取りの返済が重くなるケースは珍しくありません。

持株会に一定割合の株式を移せば、後継者が買い取る株式数を減らせます。その分、後継者の資金負担を軽くできます。オーナー経営者にとっても、株式の一部を現金化できるため、退職後資金や相続税の納税資金を準備しやすくなります。

従業員個人への分散を避けられる

従業員承継では、幹部社員や後継者候補へ直接株式を譲渡する方法もあります。ただし、従業員個人に株式を持たせると、退職、相続、離婚、債務問題などで株式が社外に出るリスクがあります。

従業員持株会であれば、個々の従業員が直接株主になる形を避け、持株会としてまとめて管理できます。規約で退職時の買取りや持分精算の方法を定めておけば、株式の分散を抑えやすくなります。

配当・議決権・株価評価の設計で失敗を防ぐ

従業員持株会の導入で失敗しやすいのは、制度の形だけを先に作ってしまうことです。実務では、配当をどう出すか、誰が議決権を行使するか、いくらで株式を売買するかが重要になります。

配当は、従業員の資産形成を支える原資になります。従業員個人が持分に応じて配当を受ける場合、所得税の配当控除などの対象になることがあります。ただし、税金の扱いは確定申告や課税方式の選択とも関係するため、単純に「必ず有利」とは言い切れません。

議決権の設計も重要です。持株会が保有する株式について、理事長がまとめて議決権を行使するのか、会員の意向をどう反映するのかを規約で決めておきます。場合によっては、議決権を統一しないで行使する方法を検討することもありますが、会社法上の手続や会社側の対応が関係するため、事前確認が欠かせません。

配当は従業員の期待と会社資金の両方を見る

従業員持株会を作ると、従業員は配当を期待します。会社の業績が良いときは、配当が従業員の満足度や会社への帰属意識を高めます。一方で、業績が悪い年にも配当を続けようとすると、会社の手元資金が減ります。

配当を無理に続ける必要はありません。ただし、制度開始時に「配当は業績や資金繰りによって変わる」と説明しておかないと、後で不満につながります。配当政策は、従業員への約束ではなく、会社の財務状況に応じて判断するものとして整理しておきましょう。

議決権は後継者の経営権と合わせて考える

事業承継では、後継者が経営判断をできる状態を作ることが大切です。持株会の保有比率が高くなりすぎると、後継者が株主総会で必要な決議を取りにくくなることがあります。

そのため、持株会へ譲渡する株式は、全体の何%までにするかを事前に決めます。必要に応じて、議決権制限株式などの種類株式を検討することもあります。種類株式とは、普通株式と異なる権利を持つ株式のことです。導入には定款変更などの会社法手続が関係するため、早い段階で確認が必要です。

株価評価は税務評価と売買価格を分けて考える

非上場株式の評価には複数の考え方があります。相続税や贈与税の評価では、同族株主以外の少数株主に該当する場合など、一定の条件で配当還元方式が使われることがあります。配当還元方式とは、配当金をもとに株式価値を計算する方法です。

ただし、これは主に相続税や贈与税の評価で使われる考え方です。実際にオーナー経営者が従業員持株会へ株式を譲渡する価格としてそのまま使えるかは、譲渡所得、贈与税、法人税などの税務上の時価判定を別に確認する必要があります。

持株会の実態がない、従業員の加入が形式的、議決権や配当の扱いが不自然といった場合は、税務上の問題になる可能性があります。低すぎる価格で売買した場合も、思わぬ課税関係が生じることがあります。

また、税務上の評価額とM&A(合併・買収)で買い手が提示する時価は別物です。将来会社売却をする場合、持株会の株式をどの価格で整理するかが大きな論点になります。導入時から、税務評価だけでなく、将来の出口も見ておく必要があります。

従業員に説明すべきリスクと会社側の負担

従業員持株会は、従業員にとって資産形成の機会になります。しかし、投資である以上、元本が保証されるわけではありません。ここを曖昧にしたまま加入を促すと、業績が悪化したときに不信感が生まれます。

特に非上場株式は、すぐに売れません。市場価格もありません。従業員が現金化したいと思っても、規約に沿って退会や持分精算をする必要があります。上場株式のように、いつでも売却できるものではないと説明することが重要です。

元本割れと流動性の低さを説明する

従業員にとっての最大のリスクは、会社の業績悪化です。業績が悪くなれば配当が減り、株価評価も下がる可能性があります。従業員は給与も勤務先に依存しています。さらに資産まで自社株に偏ると、会社が不調になったときの影響が大きくなります。

そのため、加入は任意であるべきです。上司からの強い勧誘や、加入しない従業員が不利に扱われるような運用は避けなければなりません。説明会では、メリットだけでなく、元本割れ、換金のしにくさ、退職時の精算方法を明確に伝えます。

退職時の買取り資金を確保する

従業員が退職すると、持株会はその人の持分を精算する必要があります。退職者が増えた年や、株価が上がっている時期には、買取り資金の負担が大きくなることがあります。

これは意外と多い落とし穴です。制度を始めるときは加入者を増やすことに目が向きますが、将来の退会者への支払いまで考えていないことがあります。会社または持株会に十分な資金がないと、退職者との間で支払い時期や金額をめぐるトラブルになる可能性があります。

経営情報の開示範囲を整理する

従業員が株主になると、会社は従業員を単なる雇用関係の相手としてだけではなく、株主としても扱うことになります。決算内容、配当方針、株価算定の根拠などについて、これまでより丁寧な説明が必要になる場面があります。


非上場会社では、経営情報をどこまで共有するかが悩ましいところです。すべてを詳細に開示する必要があるとは限りませんが、配当や株価に関係する重要情報を全く説明しない運用は避けるべきです。説明不足は、制度そのものへの不信につながります。

導入前に整える規約・株価算定・運営手順

従業員持株会を成功させるには、規約、株価算定、説明、運営の4つを整えることが重要です。特に規約は、将来のトラブルを防ぐ土台になります。後から直そうとしても、会員の同意が必要になり、簡単には変更できないことがあります。

持株会規約で退職時の取扱いを決める

規約には、加入資格、拠出金、配当の分配方法、議決権行使、退会時の精算、持分の譲渡制限などを定めます。中でも重要なのは、退職時の取扱いです。

退職時は持株会へ戻す仕組みにする

退職者が株式や持分を外部に持ち出せる設計にすると、株式が社外へ流出するおそれがあります。そのため、退職時には持株会が買い取る、または持分を精算するルールを入れておくのが一般的です。

買取価格の決め方を明記する

退職時の買取価格も重要です。簿価純資産価額、配当還元価額、直近の評価額など、どの基準を使うかを規約で定めます。ただし、将来M&Aや会社売却を行う場合、規約上の価格と実際の売却価格に大きな差が出ることがあります。ここは導入時から想定しておくべき論点です。

株価算定は税務上の説明に耐える水準にする

非上場株式の評価は専門性が高く、会社の規模、株主の属性、配当、利益、純資産、土地や有価証券の保有状況などによって変わります。経営者の感覚だけで価格を決めるのは危険です。

低すぎる価格で譲渡すれば、税務上、贈与や低額譲渡と見られる可能性があります。高すぎる価格で譲渡すれば、従業員側の負担が大きくなり、加入が進まないかもしれません。株価算定は、税理士などの専門家に依頼し、算定根拠を残しておくことが望ましいです。

説明会では加入を強制しない

従業員持株会は、従業員の理解があって初めて機能します。制度の目的、拠出方法、配当、リスク、退会時の精算、税金の基本を説明し、加入は本人の判断に委ねます。

説明が不十分なまま加入を進めると、後で「聞いていなかった」という不満が出ます。特に、元本割れリスク、すぐに換金できないこと、業績によって配当が変わることは、必ず伝えるべきです。制度のメリットを強調しすぎないことも、長く続けるための実務上の配慮です。

設立後の事務負担も見積もる

持株会を設立した後は、毎月の拠出金管理、会員の入退会、配当分配、株式の買付け、決算や税務対応などの事務が発生します。管理部門が少ない中小企業では、この負担が想定以上に重くなることがあります。

外部の証券会社や専門家に事務を委託する方法もありますが、費用がかかります。社内で管理する場合でも、誰が担当し、どの書類を残すのかを決めておく必要があります。制度設計だけでなく、運営体制まで含めて検討しましょう。

M&Aや第三者承継を視野に入れた整理

従業員持株会は、社内承継だけを考えるなら有効な仕組みです。しかし、将来M&Aによる第三者承継を選ぶ可能性がある場合は、別の視点が必要になります。買い手企業は、対象会社の株式をできるだけ100%取得したいと考えることが多いためです。

持株会が少数株主として残っていると、買い手企業との交渉前に株式をどう整理するかが問題になります。持株会の株式を維持したまま譲渡するのか、会社や経営者が事前に買い取るのか、持株会を解散するのか。どの方法も、規約、価格、従業員説明が関係します。

会社売却前の買取価格が争点になりやすい

M&Aで会社の価値が高く評価されると、持株会が保有する株式にも高い価値があるように見えます。一方で、持株会規約では、退会時や解散時の買取価格を低めに定めていることがあります。この差が大きいと、従業員が不公平感を持つ可能性があります。

法律や規約だけを見れば処理できる場合でも、従業員の納得が得られなければ、M&A後の人材流出や士気低下につながります。会社売却を検討する段階では、持株会の株式をいつ、誰が、いくらで買い取るのかを早めに整理することが大切です。

EBOや従業員承継との関係を確認する

従業員が会社を引き継ぐEBOでは、従業員持株会が株式取得の受け皿になることがあります。EBOとは、従業員が会社の株式を取得して経営を引き継ぐ方法です。後継者候補だけでは資金が足りない場合、持株会を組み合わせることで、社内で承継しやすくなることがあります。

ただし、実際に経営責任を負う人と、持株会の会員全体の利害が一致するとは限りません。経営判断を誰が行うのか、資金調達をどうするのか、従業員全員がどこまでリスクを負うのかを分けて考える必要があります。

持株会は承継方針が固まる前に作らない

従業員持株会は、早く作ればよい制度ではありません。親族内承継を進めるのか、幹部社員へ承継するのか、第三者承継を選ぶ可能性があるのかで、適切な設計は変わります。

承継方針が固まっていない段階で株式を移すと、後から買い戻しが必要になったり、議決権の整理に手間がかかったりします。導入前に、現在のおおよその株価、資産規模、承継時期、持株会へ移す株式割合を整理しましょう。そのうえで、税務、会社法、M&A実務を横断して検討することが重要です。

まとめ

従業員持株会は、後継者の資金負担を抑え、従業員の求心力を保ちながら株式を整理できる手法です。ただし、株価評価、議決権、配当、退職時の買取り資金を誤ると、税務上の指摘や従業員との不信につながります。事業承継や会社売却の方針と合わせて、導入前に専門家と設計を確認することが大切です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人

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