従業員持株会における株式売却の仕組み:会社と社員の視点から考える

従業員持株会における株式売却の方法や注意点を詳しく解説します。会社と社員それぞれの視点からメリット・デメリットを分析し、制度の仕組みや設立方法まで網羅的に紹介しています。

目次

  1. 従業員持株会の基本概念
  2. 従業員持株会における会社側の利点と課題
  3. 従業員持株会に参加する社員の視点
  4. 従業員持株会を設立するステップ
  5. まとめ

従業員持株会の基本概念

従業員持株会は、会社の従業員が自社の株式を共同で購入し、保有するための組織です。この制度では、会員として登録した従業員の給与や賞与から一定額を天引きし、その資金を用いて自社株を共同購入します。

従業員持株会の主な特徴は以下の通りです:

従業員が自社株を取得しやすい環境を提供

毎月の給与や賞与からの天引きによる積立方式

会員は拠出額に応じた持ち分を配分される

加入は任意制で、強制ではない

この制度は、従業員の財産形成支援や会社の人材確保などを目的としています。従業員が自社の株主となることで、会社への帰属意識や経営参画意識が高まることも期待されています。

持株会の種類と特徴

従業員持株会以外にも、いくつかの持株会の種類が存在します。それぞれの特徴を理解することで、自社に適した制度を選択することができます。

持株会の種類

概要

従業員持株会

従業員が自社の株を取得するための持株会。役員は入れません。社員持株会とも言われ、従業員持株会を持株会と称することもあります。

役員従業員持株会

非上場会社(子会社など)の社員が一定な関係を有する上場会社(親会社など)の株式を取得するための持株会。従業員持株会とは異なります。

役員持株会

会社役員が自社の株を取得するための持株会。社員は入れず、従業員持株会とは異なります。奨励金などは含まれません。

取引先持株会

会社が指定した取引先が系列会社の株式を取得できる持株会。奨励金などは含まない一方、取引先(会員)は個人も購入ができます。


これらの種類の中から、会社の状況や目的に応じて適切な持株会を選択することが重要です。従業員持株会は、一般従業員の自社株取得を促進する最も一般的な形態となっています。

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従業員持株会における会社側の利点と課題

従業員持株会を導入する際、会社側にはさまざまなメリットとデメリットがあります。これらを十分に理解し、検討することが重要です。

会社にとってのメリット

1. 安定株主の確保 

 o 従業員持株会は長期的に自社株を保有する傾向があり、安定した株主基盤を形成します。

 o 敵対的買収のリスクを軽減する効果も期待できます。

2. 福利厚生の充実 

 o 奨励金制度などにより、従業員の中長期的な資産形成を支援します。

 o 法定外福利厚生として位置づけられ、従業員満足度の向上につながります。

3. 株式の分散防止 

 o 従業員持株会が株式を保有することで、個々の従業員が退職しても株式が分散されにくくなります。

 o 会社の意思決定の一元管理が容易になります。

4. 事業承継対策 

 o オーナーの保有する自社株の一部を従業員持株会に譲渡することで、相続財産における株式の比率を下げることが
   できます。

 o 将来の相続税対策として有効な手段となる可能性があります。

会社が直面する可能性のある問題点

1. 配当政策の難しさ 

 o 業績悪化時に配当を減らすと、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。

 o 一方で、業績悪化時に無理に配当を出すと、会社のキャッシュフローに悪影響を与えます。

2. 運営コストの発生 

 o 持株会の管理や運営には一定のコストがかかります。

 o 外部の証券会社などに委託する場合は、委託費用が発生します。

3. 株価変動リスク 

 o 株価が下落した場合、従業員の資産価値が減少し、制度への信頼性が低下する可能性があります。

4. 情報開示の必要性 

 o 従業員株主が増えることで、より詳細な経営情報の開示が求められる可能性があります。

これらのメリットとデメリットを総合的に判断し、自社の状況に適しているかどうかを慎重に検討する必要があります。

従業員持株会に参加する社員の視点

従業員持株会は、参加する社員にとっても様々なメリットとデメリットがあります。制度への参加を検討する際は、これらの点を十分に理解することが重要です。

社員が得られるメリット

1. 効果的な財産形成 

 o 少額から自社株を購入できるため、無理のない範囲で資産形成が可能です。

 o 通常、最低拠出額は1,000円~数千円程度と設定されることが多いです。

2. 奨励金の恩恵 

 o 多くの企業では、従業員の拠出額に対して一定割合(一般的に5~10%)の奨励金を上乗せします。

 o これにより、自己負担額以上の株式を取得することができます。

3. 配当金の受取 

 o 保有する株式に応じて配当金を受け取ることができます。

 o 会社の業績が好調な場合、配当金の増額も期待できます。

4. 経営参画意識の向上 

 o 自社の株主になることで、会社の経営に対する関心や理解が深まります。

 o 従業員としての意識だけでなく、株主としての視点も持つことができます。

社員が考慮すべきデメリット

1. 流動性の制限 

 o 持株会を通じて購入した株式は、すぐに売却することが難しい場合があります。

 o 1単元未満の株式を現金化する場合、持株会の解約手続が必要となり、時間がかかることがあります。

2. 株主優待の対象外 

 o 持株会名義での購入となるため、個人の株主としては認識されず、株主優待を受けられないことがあります。

3. リスクの集中 

 o 給与と資産の両方が同じ会社に依存することになり、リスクが集中する可能性があります。

 o 会社が経営不振に陥った場合、雇用と資産の両方が影響を受ける可能性があります。

4. 株価変動リスク 

 o 株価が下落した場合、資産価値が減少するリスクがあります。

 o 長期的な視点が必要となり、短期的な利益を求めるには適さない場合があります。

従業員は、これらのメリットとデメリットを十分に理解した上で、自身の経済状況や将来の計画に照らし合わせて、持株会への参加を判断することが重要です。また、投資の基本原則である分散投資の観点からも、自社株への過度の集中を避けることが賢明です。

従業員持株会を設立するステップ

従業員持株会の設立は、慎重に計画し、適切な手順を踏んで進める必要があります。以下に、主な設立ステップを説明します。

1. 規約・細則の作成 

 o 従業員持株会の運営に関する基本的なルールを定めます。

 o 規約は後から変更が難しいため、変更の可能性がある項目は細則に盛り込むことをお勧めします。

2. 理事などの選任 

 o 設立発起人、理事(理事長)、監事を選任します。

 o 発起人と理事・監事の兼任は可能ですが、取締役がこれらの役職を兼任することは認められません。

 o 各役職は従業員から選任する必要があります。

3. 取締役会による承認 

 o 従業員持株会の設立を取締役会で正式に承認します。

 o 給与天引きのルールや奨励金支給に関する事項も同時に承認を得ます。

4. 銀行口座の開設と覚書の締結 

 o 従業員持株会専用の銀行口座を開設します。

 o 企業と持株会の間で覚書を締結します。覚書には、持株会の目的外利用の禁止や企業側の手数料負担などの事項を
   含めます。

5. 会員の募集 

 o 従業員に対して規約や細則等の説明会を開催します。

 o 希望する従業員に入会してもらいます。強制ではなく、任意での参加が原則です。

6. 運用開始 

 o 入会手続や資金の拠出が完了したら、実際に従業員持株会の運用を開始します。

 o 多くの場合、管理および運営は外部の証券会社などに委託されますが、社内で実施するケースもあります。

設立に際しては、以下の点に注意が必要です:

従業員持株会は、通常、民法上の組合として設立されます。

税務や法律面での専門的な知識が必要となるため、専門家(税理士、弁護士など)への相談を検討することをお勧
   めします。

制度設計を誤ると、経営の不安定化を招く可能性があるため、慎重に計画を立てることが重要です。

従業員持株会の設立は、会社の長期的な発展と従業員の福利厚生の向上につながる重要な取り組みです。しかし、その運営には継続的な努力と適切な管理が必要となります。会社の状況や従業員のニーズを十分に考慮した上で、慎重に進めることが成功の鍵となります。

まとめ

従業員持株会は、会社と従業員の双方にメリットをもたらす制度です。会社にとっては安定株主の確保や事業承継対策となり、従業員には資産形成の機会を提供します。しかし、株価変動リスクや運営上の課題もあるため、導入には慎重な検討が必要です。設立の際は専門家に相談し、適切な制度設計を行うことが重要です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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