ゲーム業界のM&A動向を徹底解説。市場拡大や技術革新に伴う戦略的M&Aの目的、成功のポイント、最新事例を紹介。業界の変化に対応し、競争力を高めるためのM&A活用法を学べます。
目次
ゲーム業界は、ゲームの企画・開発・製造・販売・配信などを行う企業が集まる産業分野です。この業界は、常に技術革新と市場のニーズに応じて変化し続けており、多様な事業形態が存在します。
ゲーム業界は主に以下の4つのカテゴリーに分類されます。
1. ゲーム機製造会社:プレイステーションやニンテンドースイッチなど、ゲームをプレイするためのハードウェアを
企画・開発・販売する企業です。
2. ゲームソフト開発会社:アクションゲーム、ロールプレイングゲーム、スポーツゲームなど、様々なジャンルのゲ
ームコンテンツを企画・開発・販売する企業です。
3. ソーシャルゲーム開発会社:スマートフォンやタブレット、PCで楽しめるゲームを企画・開発・リリースする企業
です。
4. オンラインゲーム(プラットフォーム)開発会社:PCや家庭用ゲーム機を使ってオンライン上でプレイできるゲー
ムを企画・開発・販売する企業です。
これらの分類は明確に分かれているわけではなく、複数の分野にまたがって事業を展開している企業も多くあります。
ゲーム業界の市場規模は、世界的に見ても非常に大きく、成長を続けています。角川アスキー総合研究所の『ファミ通ゲーム白書2022』によると、2021年の世界のゲームコンテンツ市場規模は21兆8,927億円に達し、前年比で約6%増加しています。
日本国内に目を向けると、2021年のゲーム市場規模は2兆円を超え、前年比99.2%とほぼ横ばいを維持しています。この数字は、ゲーム業界が安定した大規模市場であることを示しています。
現在、ゲーム業界は大きな転換期を迎えています。この変化の中心にあるのが、マルチプラットフォーム展開するゲームの台頭です。従来、ゲーム開発企業は各プラットフォーム向けに個別のゲームを制作していましたが、収益の安定化が課題となっていました。
そのため、ソフトメーカーは自社の知的財産(IP)を多様なプラットフォームに展開し、ソフトの普及と利益拡大を図る傾向が強まっています。また、「サブスクリプション型ゲーム」の人気が高まる中、大手企業はビジネスモデルの転換を進めています。
さらに、モバイルゲーム市場も変化しています。5Gの普及やスマートフォンの性能向上、新規参入者の増加により、開発コストが家庭用ゲームと同等になるケースも出てきました。
これらの変化に対応するため、企業は開発体制の強化や他社IPの活用によるマーケティングの効率化を進めています。また、新規IP創出のリスクを軽減するため、他社とのコラボレーションも活発化しています。
このような環境下では、高い競争優位性を築くための効果的な手段としてM&A(合併・買収)が注目されており、ゲーム業界における主要な戦略の一つとなることが予想されます。
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
ゲーム業界では、市場環境の変化や技術革新に伴い、M&A(合併・買収)の動きが活発化しています。以下では、主要なM&Aのトレンドについて解説します。
大手のプラットフォーム開発会社が、自社のコンテンツラインナップを充実させるためにM&Aを積極的に行っています。特に、ソーシャルゲームの開発会社を次々と買収することで、自社のゲームポートフォリオの多様化を図っています。
充実したコンテンツを持つことで、より多くのユーザーを引き付け、顧客基盤の拡大につなげることができます。また、近年急成長を遂げているモバイルゲーム分野でのM&Aも増加傾向にあります。
ゲーム産業において、複数のプラットフォームに対応する戦略が重要性を増しています。この潮流を背景に、大手ゲーム企業による戦略的な企業買収が増加しています。
特に注目されているのは、サブスクリプション型ビジネスモデルに強みを持つ企業の買収です。さらに、自社が今後注力したいプラットフォームを強化する目的で、関連するゲーム企業を買収するケースも多く見られます。
近年、海外展開を目的とした国内外のゲーム会社間のM&Aが増加しています。日本の人口が減少傾向にある一方で、世界の人口は増加しており、ゲームのユーザー数も今後さらに拡大することが予想されます。
そのため、海外の開発業者との提携をはじめとする、グローバル展開を見据えた戦略は、今後ますます重要になると考えられます。国内市場の成熟化に伴い、成長市場である海外への進出を加速させるためのM&Aが活発化しています。
ゲーム業界におけるM&Aには、売り手と買い手それぞれに異なる目的があります。ここでは、両者の視点からM&Aの目的について解説します。
1. 創業者利益の獲得: ゲーム会社を譲渡することで、創業者は大きな利益を得ることができます。特に、多くの株式
を保有している場合、より大きな金銭的利益を得られる可能性があります。
2. 短期間での投資回収: ゲーム開発には多額の資金が必要ですが、M&Aを通じて投資資金を短期間で回収できる可能
性があります。
3. 経営基盤の安定化: 大手企業の傘下に入ることで、その企業の資金力や知名度、ブランド力を活用できるようにな
り、市場での競争力が高まります。
4. 後継者問題の解決: 適切な後継者が見つからない場合でも、M&Aを通じて事業やゲームブランドの存続が可能とな
ります。
5. 従業員の雇用確保: 経営難による廃業を避け、従業員の雇用を維持することができます。
1. 優秀な人材の獲得: M&Aを通じて、ゲーム開発に実績のある優秀な人材を即戦力として確保できます。
2. 開発力の強化: 人気ゲームを生み出した企業を買収することで、その技術やノウハウを自社のプロジェクトに活か
せます。
3. 人気コンテンツの獲得: 既存の人気コンテンツを獲得することで、継続的な収入源を確保し、新規開発リスクを軽
減できます。
4. コスト削減: ゲーム会社同士のM&Aにより、営業所の統合などを通じてコスト削減が可能です。
5. ゲーム業界への新規参入: 既存のゲーム会社を買収することで、異業種からでもゲーム業界への参入が容易になり
ます。
近年のトレンドとして、IT企業やメディア企業など、ゲーム関連以外の業種からの新規参入が目立っています。このため、ゲーム関連企業の売却において、買収側が必ずしもゲーム業界内に限定されないケースが増えています。
ゲーム業界でM&Aを成功させるためには、以下のポイントに注意する必要があります。
1. シナジー効果が期待できる相手企業の選定: M&Aにより、それ以前より大きな成果を出せるかどうか、シナジー効
果が得られるかを見極めることが重要です。相手企業との相性や得意分野、不得意分野などを事前に十分確認しま
しょう。
2. 最適なタイミングの見極め: ゲーム業界は流行の移り変わりが激しいため、M&Aの最適なタイミングを逃さないこ
とが重要です。売り手は、自社の企業価値が高まったタイミングでの譲渡を検討しましょう。
3. 自社コンテンツの優位性のアピール: 売り手は、自社コンテンツの市場における優位性を、買い手に対して具体的
かつ明確に伝えることが重要です。人気ゲームを保有していれば、継続的な収益が見込めるため、買い手の企業が
見つかりやすくなります。
4. 技術力とIP(知的財産)の評価: ゲーム業界のM&Aでは、対象企業の技術力やIPの価値を適切に評価することが重
要です。特に、将来性のある技術やフランチャイズ価値の高いIPは、M&Aの成否を左右する要因となります。
5. クリエイティブ人材の維持: ゲーム開発に携わる優秀なクリエイターの維持は、M&A後の事業継続に不可欠です。
買収後の人材流出を防ぐための施策を事前に検討しておくことが重要です。
6. 文化の融合: ゲーム業界特有のクリエイティブな企業文化と、買収側の企業文化をうまく融合させることが、M&A
後の円滑な事業運営につながります。
これらのポイントを押さえつつ、慎重かつ戦略的にM&Aを進めることで、成功の可能性を高めることができます。
ゲーム業界では、近年多くのM&Aが実施されています。ここでは、代表的なM&A事例を紹介し、その特徴や狙いについて分析します。
1. 任天堂とネクスト・レベル・ゲームズのM&A
2021年、日本の大手ゲーム会社である任天堂は、カナダのゲーム開発会社ネクスト・レベル・ゲームズの全株式を取得し、子会社化しました。
ネクスト・レベル・ゲームズは、「ルイージマンション」シリーズをはじめ、Nintendo SwitchやニンテンドーDS向けのソフトを開発してきた実績があります。この買収により、任天堂は以下の効果を期待しています。
• 開発ノウハウを含む開発リソースの安定確保
• 人気シリーズの継続的な開発体制の強化
• 北米市場での開発力の拡大
2. ソニー・インタラクティブエンタテインメントとFiresprite Limitedの買収
2021年、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、イギリスのゲーム開発会社Firesprite Limitedを買収しました。Firesprite LimitedはSIE出身者によって設立された企業で、最先端ハードウェア向けのソフト開発に強みを持っています。
この買収の狙いは以下の通りです。
• 両社の8年以上にわたる協力関係をさらに強化
• PlayStation 5向けの革新的なゲーム開発体制の拡充
• VR(仮想現実)技術を活用したゲーム開発の促進
3. サイバーステップとネッチのM&A
2022年、オンラインゲーム開発・運営会社のサイバーステップは、インターネットゲームの配信事業を行うネッチの全株式を取得し、子会社化しました。
この買収による期待効果は以下の通りです。
• より効率的な運営体制の構築
• 収益機会の拡大
• 両社の強みを活かしたシナジー効果の創出
これらの事例から、ゲーム業界のM&Aには以下のような特徴があることがわかります。
1. 開発力の強化:優秀な開発スタジオを買収することで、自社の開発能力を補完・強化しています。
2. IPの獲得:人気シリーズや有力なIPを持つ企業を買収することで、安定した収益源を確保しています。
3. 技術革新への対応:VRなどの最新技術に強みを持つ企業を買収し、次世代ゲーム開発に備えています。
4. グローバル展開:海外の開発会社を買収することで、国際市場での競争力を強化しています。
5. 垂直統合:開発から配信まで、ゲームビジネスの各段階を強化するM&Aが行われています。
これらの事例は、ゲーム業界におけるM&Aが、単なる規模の拡大だけでなく、技術力の獲得や市場戦略の強化など、多様な目的で実施されていることを示しています。
ゲーム業界におけるM&Aは、市場環境の変化や技術革新に対応するための重要な戦略となっています。コンテンツの拡充、グローバル展開、新技術の獲得など、様々な目的で活発に行われており、業界の競争力強化と成長に貢献しています。M&Aを成功させるためには、シナジー効果の見極めや適切なタイミングの選択が重要です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事