この記事では、タクシー・バス業界の情報、外部環境、M&A動向について解説します。さらに、タクシー・バス業界における実際のM&A事例も紹介していきます。
目次
タクシー・バス業界とは、交通・運輸業界の一部で、バスやタクシーを利用して乗客を目的地まで運搬する業界を指します。この業界にはドライバーだけではなく、事務職、経理職、営業職など多くの職種が存在します。ただし、タクシー・バス業界の主要な職種はドライバーであり、ドライバーの仕事が業務の中心となります。
タクシー・バス業界にはいくつかの運行形態があります。バスでは、定められたルートで定時運行するものが一般的ですが、貸切バスも存在します。また、タクシーは街中で拾ったり配車アプリで呼んだりするだけでなく、介護福祉タクシーや運転代行サービス、荷物の配達なども行われています。
バス事業の原価において、人件費が約6割を占めています。一方、タクシー事業では人件費が原価の7割を超えることがあります。これらの事業は車両にお金がかかると考えられがちですが、実際には人件費が大部分を占めているという特性が存在します。さらに、ドライバー1人あたりの業務量には限界があり、人材の確保が直接的に売上に影響します。
タクシー・バス業界が直面している課題は以下の通りです。
• 地方での人材不足が加速
• 若手人材の不足
地方での人材不足が加速している理由は、バスやタクシー事業者が利益の追求から都市部への進出を選択しているためです。都市部では利用者が多く、利益が上がりやすいのに対し、地方では選択肢が限られているため交通機関の需要が高まっています。
若手人材の不足は、賃金の低さや労働環境の厳しさ、資格取得が必要なことが原因です。若手人材が不足すると、業界の将来が危ぶまれるため、タクシー・バス業界は人材確保に取り組んでおり、大手タクシー会社は新卒採用を積極的に行っています。
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
バス業界は平成4年以降、営業収入が減少傾向にありますが、高速乗り合いバスの輸送人員は増加しています。一方、タクシー業界はリーマンショック以降、輸送人員数が減少したものの、その後は大きな変化はみられません。タクシーの年間輸送人数は全国で約310億人、東京都内では約53億3500万人となっています。
「高速乗合バスの輸送人員の推移」
参考:https://www.ma-cp.com/gyou/d8/c52/
バスおよびタクシー業界は、新規参入が容易でない傾向があります。これはタクシーについては、個人タクシーも存在しますが、大部分はタクシー会社と契約している形で運営されているためです。このため、業界内においては、外部からの競合よりも内部の競合に注目し、競争力を維持する必要があります。バス業界も同様に、事業運営には既存のバス会社との契約が必要であり、外部からの新規参入が難しいという状況が見られます。
以下に示すのは、中小企業におけるM&Aの事例です。
• イースタンエアポートモータース、ハロー・トーキョー、ナショナルタクシーが日本交通への売却
• 互助交通がワイエム交通に事業を譲渡
• 東野タクシーが西日本通商ネクストに全株式を譲渡
• 共栄タクシーが三福タクシーに事業を譲渡
• 肥後交通グループとミハナグループが対等合併で新会社設立
• 玖珂駅構内タクシーとタカモリタクシーが第一交通サービスへ全株式を譲渡
イースタンエアポートモータースは、空港送迎を中心としたハイヤータクシー事業を展開しています。ハロー・トーキョーは東京および成田を中心にハイヤータクシー事業を行っている企業です。また、ナショナルタクシーは、1951年に創業した歴史あるタクシー会社で、大阪府内を拠点にしています。
日本交通は首都圏を中心にハイヤータクシー事業を展開しており、2021年2月、3月、9月にかけてイースタンエアポートモータース、ハロー・トーキョー、ナショナルタクシーを買収しました。このM&Aの目的は、事業拡大、付加価値向上、対象地域の拡大を図るためであり、段階的に実施された点が特徴的です。
具体的には、2月にハロー・トーキョーが日本交通に営業権を譲渡し、3月にイースタンエアポートモータースが日本交通に営業権を譲渡、9月にナショナルタクシーが日本交通に全株式を譲渡する形で連続して買収が行われたのです。
互助交通は、東京都墨田区および江東区を中心にタクシーサービスを提供している企業で、地域密着型の強みを持っています。一方、ワイエム交通は日本交通の子会社であり、東京都内を主な事業エリアとしている企業です。
2021年5月に実施されたM&Aにより、東京都内における車両やドライバーの数が増えることで、タクシー手配がスムーズに行われることが期待されています。
東野タクシーは、栃木県を中心にタクシー事業を展開する企業で、本社は宇都宮市にございます。一方、西日本通商ネクストは福岡県久留米市を拠点とする企業で、タクシー事業は直接行わず、グループ内に複数のタクシー会社が存在します。この企業は、経営管理やコンサルティング、不動産賃貸、携帯電話販売代理店プロモーションなどのビジネスを展開しています。
東野タクシーは規模が小さく、高齢化の影響で後継者問題が浮上していたため、規模の大きな西日本通商ネクストが東野タクシーの株式を全て取得し、タクシー事業の拡大を目指しました。このM&Aは2021年4月に実施されました。
共栄タクシーは福井市でタクシー事業を手掛けている企業であり、三福タクシーは同県小浜市を拠点にタクシー、路線バス、貸し切りバスなどの事業を展開しています。このため、福井県内の事業者同士のM&Aとなります。
共栄タクシーはコロナ禍で経営難に陥り、後継者問題も抱えていました。それに対して、三福タクシーは観光分野に力を入れることで、事業を継続できる土台を持っていたため、両社のニーズが一致し、M&Aが成立しました。このM&Aは2021年3月に実施されました。
肥後交通グループは九州南部を中心にタクシー事業を展開している企業で、ミハナグループは熊本市や菊池市でタクシー事業を行っています。肥後交通グループが規模的には大きいですが、対等な合併を行い、新会社を設立しました。
両グループがM&Aを実施した理由は、市場での生き残りを図るためです。大手タクシー業者が全国展開し、地方のタクシー業者が吸収されることがあります。そのため、大手業者に取り込まれないようにするために、M&Aを通じて企業力を強化しました。このM&Aは2021年1月に実施されました。
玖珂駅構内タクシーは山口県岩国市でタクシー事業を展開している企業で、タカモリタクシーは三重県津市を拠点にタクシー事業を手掛けています。第一交通サービスは、全国展開している第一交通産業グループのタクシー会社です。
第一交通サービスがM&Aを実施した理由は事業拡大を図るためであり、山口県と三重県での事業力を高めました。このM&Aは2020年2月と3月に実施されました。
タクシー・バス業界においては、今後も需要が続くと予想されるため、業界そのものが衰退することは考えにくいでしょう。しかし、後継者不足や地方展開の課題が存在し、M&Aが増えている状況です。これからもM&Aの数は増加すると予測されます。
タクシー・バス業界は他業界からの参入は少ないものの、業界内での競争が激化しています。特にタクシー業界では、競合企業に負けないよう、規制の範囲内で新たなサービス展開を行い、高い付加価値を持つ生き残り策を検討している企業が多く見受けられます。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事