タクシー・バスのM&A事例で読み解く業界動向と将来展望

タクシー・バス業界のM&A事例や外部環境、人材不足などの課題をわかりやすくまとめました。地方での運転手不足や競争激化への対策、事例から見る事業の承継手法まで、専門家の視点で丁寧に解説します。業界の将来を考える中小企業オーナーの方に役立つ内容を詳しくご紹介します。

目次

  1. タクシー・バス業界の概観
  2. タクシー会社・バス会社の外部環境
  3. タクシー会社のM&A事例
  4. バス運輸業界の動向と課題
  5. タクシー・バス業界M&Aの将来
  6. バス運輸業界のM&Aで期待できるメリット

タクシー・バス業界の概観

タクシー・バス業界は、交通・運輸業界の中でも私たちの生活と密接に関わる分野です。バス事業では、定時運行の路線バスから貸切バスまで運行形態が多岐にわたり、タクシー事業においては街中での乗り込みや配車アプリだけでなく、介護福祉タクシーや運転代行、さらには荷物の配送といった多様なサービスを展開しています。


しかし実際にかかるコストの中心は車両代よりも人件費であり、バス事業では全体の約6割、タクシー事業では7割を超えることも珍しくありません。ドライバーが増えればその分売上にも直結しやすい一方、若手人材が不足しているため、安定的な収益拡大が難しいという課題を抱えています。


このように、バスとタクシーは地域住民に不可欠な交通インフラの側面を持ちつつも、事業を継続していくには効率的な運営体制や人材確保が大きな鍵となっています。特に地方では人材不足や利用者数そのものの減少が深刻化しており、今後も経営戦略の見直しやM&Aが注目されるでしょう。

タクシー会社・バス会社の外部環境

タクシー・バス業界は比較的参入障壁が高いといわれます。タクシーであれば個人タクシーという存在はあるものの、多くは既存の会社単位での運営が中心であり、新規参入者が入りにくい仕組みがあります。バス事業者も同様で、地域によっては既存の事業者や自治体との契約、運行許認可などが必要になるため、外部からの新規参入が容易とはいえません。


一方、タクシー業界ではリーマンショック後に輸送人員が減少して以降、大きな変化が見られないものの、新型コロナ禍の影響によって移動需要が落ち込み、回復の見込みも地域差が大きい状況にあります。バス業界においては、平成4年以降、営業収入が長期的に減少傾向にある中で、高速乗合バスの利用者は増加しているという点が特徴的です。


また、首都圏や都市部では海外観光客やビジネス需要が見込まれた時期もありましたが、新型コロナ禍による需要減少で苦戦を強いられた事業者も少なくありません。地方ではもともとの乗客減に加え、運転手不足が深刻化しています。しかしタクシーやバスは高いインフラ性を持つサービスであり、採算が合わないからといって撤退しづらい背景があります。地域住民の生活に密着しているからこそ、業界全体としては企業規模の再編や統合を促す動きが見られ始めているのです。

タクシー会社のM&A事例

近年、タクシー業界におけるM&Aが増加している背景には、後継者不足やコロナ禍による経営圧迫など、さまざまな要因があります。ここでは、具体的な事例をいくつか見てみましょう。

イースタンエアポートモータース、ハロー・トーキョー、ナショナルタクシーが日本交通への売却

これらの企業は主にハイヤータクシー事業を中心とし、都心部や成田空港、大阪エリアなどで長い歴史を持つ会社です。日本交通は事業領域を広げるため、2021年を通じて段階的に営業権や株式を取得し、サービス網を拡充しました。こうした段階的な取得方法は、買収のリスクを分散させながら事業拡大を図る上で有効な手段となっています。

互助交通がワイエム交通に事業を譲渡

互助交通は東京都内の限られたエリアで地域密着型のタクシーサービスを提供していました。一方のワイエム交通は日本交通の子会社であり、都内で広域的に展開しています。2021年5月に実施されたこの譲渡によって、ワイエム交通側はドライバーや車両数を増やすことが可能となり、利用者がスムーズにタクシーを手配できる体制を強化しました。

東野タクシーが西日本通商ネクストに全株式を譲渡

栃木県でタクシー事業を行う東野タクシーは高齢化や後継者不足に直面していました。西日本通商ネクストは福岡県に拠点を持つ企業グループで、不動産や携帯電話販売代理店など複数の事業を展開しています。2021年4月のM&Aにより、地域をまたいだ事業拡大を目指す動きが実現し、東野タクシーの経営基盤を安定させる一助ともなりました。

共栄タクシーが三福タクシーに事業を譲渡

福井県内でタクシーやバス事業を手掛ける会社同士のM&A例です。共栄タクシーはコロナ禍での業績不振や後継者難に苦しんでいました。一方で、貸切バスや観光分野にも力を入れる三福タクシーは、同県内におけるサービス網を拡充する目的でM&Aを実行し、2021年3月に譲渡が完了しました。

肥後交通グループとミハナグループによる対等合併

九州南部や熊本エリアでタクシー事業を展開していた両グループが、2021年1月に対等合併という形で新会社を設立しました。大手タクシー業者が地方の会社を次々と取り込む傾向に対抗し、地元同士で力を合わせることで生き残りを図った事例です。

玖珂駅構内タクシーとタカモリタクシーが第一交通サービスに全株式を譲渡

山口県と三重県のタクシー事業者が、全国展開している大手グループの第一交通産業系列へ譲渡した例です。2020年の2月と3月に株式譲渡が実施され、第一交通サービスは地域ごとの営業拠点を拡大し、広域的なサービス提供につなげています。

このように、タクシー業界では大手による小規模事業者の吸収や、地域同士での合併など、多種多様なM&Aが行われています。背景には高齢化に伴う後継者不在や、収益構造の厳しさがあり、M&Aが企業体力の補強や今後の生き残り策として重要視されているのです。

バス運輸業界の動向と課題

バス運輸業は長い間、都市部から地方まで人々の移動手段として欠かせない存在でした。首都圏では電車や地下鉄が交通の中心となるケースが多い一方、地方では車やバスが依然として主要な移動手段です。高齢者をはじめ、自家用車を持たない人々にとって、バスが社会生活を支える欠かせないインフラとなっています。

しかし、近年は新型コロナ禍や人口減少の影響で、利用者数の落ち込みが目立ちます。特にコロナ禍以前に比べて需要が戻りきっていない事業者が多く、観光路線や貸切バスをメインにしていた会社ほど厳しい状況に置かれています。さらに、乗客不足だけでなく、運転手不足も深刻で、過酷な労働環境や給与水準の問題から若手が参入しにくい構造的課題を抱えています。

一方、路線バスの場合は公共性が強いことから、赤字路線であっても地域の足として残さなければならないケースがあります。このようなインフラ性の高さゆえに、経営状況が悪化しても簡単には撤退しづらく、自治体や企業間で支援や再編を模索する動きが増えているのです。

タクシー・バス業界M&Aの将来

タクシー・バス業界の将来を考えるうえで、M&Aはますます重要な選択肢となっています。業界そのものの需要が急激に縮小する見込みは低いですが、高齢化や運転手不足、そして地域によっては乗客不足が深刻化している現状があります。そこで、規模の小さな会社や後継者に悩む企業は、経営統合や譲受企業への株式譲渡を通じて事業を安定化させる動きが活発化しています。

また、バス会社にとっては路線バスなどのインフラ事業を守るため、新型コロナ禍による一時的な利用減をどのように克服するかが焦点となっています。タクシー業界においては、過度な価格競争を避けながら地域住民に求められるサービスを維持していくことが欠かせません。大手企業による小規模事業者の買収、同規模企業同士の対等合併、あるいは多角的に事業展開する企業への譲渡など、さまざまな形でのM&Aが今後も増加すると見込まれています。

一方で、業界外の企業がタクシー・バス事業に参入するケースは多くはありません。乗車用車両や運行許認可などのハードルが高く、一定の経験とノウハウが求められるからです。結果として、タクシー・バス業界では内部再編ともいえるM&Aが中心になっています。地方では人口減が続くため、地域全体のインフラ維持の観点からも、業界内の再編を通じて経営基盤を強化する動きが加速するでしょう。

バス運輸業界のM&Aで期待できるメリット

バス運輸業界では、M&Aによって生まれるメリットは譲渡側と譲受側それぞれで異なります。共通して言えるのは、事業を安定的に継続しながら地域の移動手段を守るという公益性が大きな目標になっている点です。

事業の譲渡・売却・承継したい企業のメリット

既存の運行網とフリートの取得

バス運行を主体とする企業にとって、自前で路線や車両を整備し直すには大きな時間とコストがかかります。M&Aを通じて既存の運行網や保有車両をそのまま引き継ぐことで、これまで築いてきた路線やブランドを維持しつつ、経営の継続を図ることができます。譲渡企業側としては、これまで培ってきたビジネスを大きく損なわずにバトンタッチできるため、従業員や利用者にとっても安心感を提供しやすいメリットがあります。

運行ライセンスや許認可の取得

バス事業を開始するためにはさまざまな許可やライセンスが必要となります。譲渡・買収の形を取れば、すでに運行実績を持つ企業の許可関係をそのまま引き継げるため、新たな手続や審査の負担が大幅に軽減されます。

ブランドと顧客基盤の継承

長年地域で運行していたバス会社には、住民が認知しているブランドや顧客基盤があります。バス停や営業所といった拠点だけでなく、長年使い慣れた路線名や広告展開などが大きな資産です。譲渡企業側は、自社のブランドを残したままM&Aを実施することで、地域に根付いた知名度を買い手に継承できます。

事業の譲受・買収したい企業のメリット

即応性と市場進出の迅速化

新たな地域でバス事業を展開したいとき、自社でゼロから開始するには多大なコストと時間が必要です。既存事業を買収すれば、運行に必要な車両や人材、そしてルート網をすぐに活用できるため、市場参入がスピーディに進みます。これは事業拡大を急ぐ企業にとって、非常に大きな利点となります。

運行ノウハウや技術の取得

バス運行には安全管理や整備、乗務員のシフト管理など専門的なノウハウが必要です。譲り受けた企業が豊富な経験を持っていれば、新しい経営者や管理部門はそのノウハウをスムーズに吸収できます。結果として、既存サービスの質を維持または向上させながら、さらに付加価値を高めることが期待できます。

既存の顧客基盤とブランド利用の可能性

バス会社に限らず、M&Aで手に入るものの大きな要素は「顧客基盤」です。地元の人が当たり前に使っている路線や停留所名は、その地域とバス会社の歴史を象徴する存在です。買収企業は既に確立されたブランドをうまく活かすことで、新サービスや新路線の導入時も利用者に受け入れられやすい利点があります。


このように、バス運輸業界のM&Aは単なる規模の拡大だけでなく、サービスを維持しつつ新たな可能性を模索する手段でもあります。運行網と乗務員がそろった状態で運営を始められるメリットは非常に大きく、乗客や地域社会にとっても重要な移動インフラが守られることになります。

まとめ

タクシー・バス業界は、いずれも高いインフラ性を持つ交通手段として、私たちの生活を支えています。しかし、人手不足や高齢化、そして地方での乗客不足などの課題は深刻であり、大手企業による統合や、中規模・小規模同士の合併が増えています。M&Aは単なる事業拡大だけでなく、今後の生き残りやサービス維持に欠かせない手段として注目されています。地域の移動手段を絶やさず、効率的な経営を可能にする方法の一つとして、タクシー・バス業界のM&Aは今後もますます進展していくでしょう。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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