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美容室M&Aの最新トレンドと成功事例を解説

美容室のM&Aは難しい?いいえ、正しい手順と相場観を押さえれば円滑に事業承継や成長戦略を進められます。本記事では美容室 M&Aの基礎から成功事例まで丁寧に解説し、経営者の悩み解決を後押しします。

目次

  1. 美容業界の最新トレンドと課題
  2. 美容室M&Aの主要な手法
  3. 美容室M&Aの相場感と価格帯
  4. 美容室がM&Aを選択するメリット
  5. 美容室M&A実施時の重要ポイント
  6. 美容室M&Aの成功事例5選
  7. 美容室M&Aで事業承継を成功させる4つのコツ
  8. 美容室M&Aに潜むリスクと回避策
  9. 美容室M&Aを検討する経営者への無料相談窓口
  10. まとめ

美容業界の最新トレンドと課題

美容業界は顧客の多様化やサービス領域の拡大で成長を続ける一方、競争が激化しています。店舗数が増え続けることで顧客獲得コストが上昇し、利益率が圧迫されるケースも少なくありません。こうした環境下で美容室 M&Aは、経営者が抱える課題を抜本的に解決する手段として注目を集めています。

美容業界が直面する客単価の伸び悩み

客単価の頭打ちは、価格競争の激化や施術メニューの低価格化が背景にあります。例えば新規顧客獲得を狙ったクーポンやキャンペーンが常態化し、平均単価が下がる傾向が強まっています。この状況では単純な値上げが難しく、収益性を改善するにはコスト削減か顧客数増加のいずれかが必要です。しかし実際には広告費や人件費が増えやすく、経営を圧迫する要因となっています。

美容師の人材不足が深刻化

長時間労働や体力的負担、給与水準の課題から離職率が高止まりし、美容師の確保が難しくなっています。人材不足は施術予約の取りこぼしやサービス品質の低下につながり、結果として顧客満足度を下げてしまいます。M&Aでスタッフ雇用を維持しながら規模の大きい譲受企業へ統合することで、教育体制や採用力を強化できる点が注目されています。

後継者不足による事業継続リスク

美容室の経営者は50~60代が中心で、親族内に適切な後継者がいないケースが増えています。事業が黒字でも廃業を選ばざるを得ない事例は少なくありません。M&Aであれば培ってきたブランドや顧客基盤を残し、従業員の雇用も維持しながらスムーズに承継できます。

美容室M&Aの主要な手法

美容室 M&Aで代表的なのは株式譲渡と事業譲渡の2種類です。それぞれの特徴を把握し、自社状況に合わせて選択することが成功の第一歩となります。

株式譲渡は経営権を丸ごと移転できる手法

株式譲渡では、譲渡企業の株主が保有株式を譲受企業へ売却します。過半数超の株式移転により経営権が移り、株主総会で役員選任や定款変更が可能になります。手続がシンプルで、店舗運営や従業員契約・取引先契約をそのまま維持できるのが大きな利点です。ただし簿外債務も承継するリスクがあるため、デューデリジェンスで潜在負債を徹底確認する必要があります。

事業譲渡は必要資産だけ選んで引き継げる手法

事業譲渡では設備・不動産・スタッフ・ノウハウなどを個別に選定し、必要な資産だけを譲渡します。不要な負債を切り離せるため、譲受企業にとって柔軟性が高い点がメリットです。一方で従業員転籍手続や取引先契約の再締結が必要になるため、運営コストや時間がかかる点は留意しましょう。


株式譲渡と事業譲渡の比較ポイント

  • 承継範囲

  株式譲渡は包括承継、事業譲渡は選択承継

  • 手続期間

  株式譲渡が短い傾向

  • リスク

  株式譲渡は簿外債務リスク、事業譲渡は契約再締結コスト

  • 適用規模

  株式譲渡は株式会社運営の中~大規模店舗、事業譲渡は個人経営や小規模店舗に適する

美容室M&Aの相場感と価格帯

美容室の譲渡価格は1店舗あたり数百万円~数千万円が目安ですが、立地や顧客基盤・収益性など複数要因で大きく変動します。複数店舗をまとめて譲渡するケースでは億単位の取引も珍しくありません。

譲渡価格に影響を与える6つの主要因

1. 店舗立地条件

  駅前や商業集積地は集客力が高く評価も上昇。

2. 顧客基盤の規模と安定性

  固定客比率やリピート率が高いほど価値向上。

3. 売上高と収益性

  過去数年の売上推移と利益率で評価が変動。

4. ブランド力

  店名・コンセプトの知名度が高いと高評価。

5. スタッフ技術力と定着率

  離職率が低く指名率が高いほど企業価値に反映。

6. 設備状態

  最新設備や清潔感ある内装は追加投資が少なく有利。

正確な企業価値把握が交渉成功の鍵

EBITDA倍率法や年倍法を用いた企業価値評価を専門家に依頼し、譲渡企業側は売却金額の妥当性を把握しておくことが重要です。適正価格を共有することで、譲受企業との交渉をスムーズに進めることができます。

美容室がM&Aを選択するメリット

美容室経営者がM&Aを活用する理由は大きく3つに整理できます。いずれも事業継続とステークホルダー保護の観点で大きな意義を持ちます。

1. 後継者問題を外部承継で解決

親族や社員に適切な後継者がいない場合、外部の譲受企業へ株式や事業を譲渡することで長年積み上げたブランドを残せます。廃業に伴う顧客流出と従業員解雇を回避できる点は経営者の心理的負担を大きく軽減します。

2. 従業員雇用を守り顧客関係を継続

M&A契約で雇用継続を条件に入れることで、従業員は処遇面の不安なく働き続けられます。技術や接客ノウハウ、顧客との信頼関係が維持され、譲受企業も即戦力として活用可能です。

3. 経営者の経済的リターンを確保

適切な企業価値評価に基づき譲渡金額を得られれば、経営者は老後資金の確保や新規事業投資、負債返済など多用途に活用できます。特に複数店舗を運営し高収益を上げている場合は、高額譲渡で長年の努力が報われます。

美容室M&A実施時の重要ポイント

成功率を高めるためには「タイミング」と「自社強みの明確化」が欠かせません。

経営が安定している時期に計画する重要性

店舗売上が堅調な時期にM&Aを進めると高評価を得やすく、交渉力も高まります。業績悪化後の売却は譲渡価格が下がるため、早めの検討が推奨されます。

自社の魅力を定量データで示す

収益推移・新規顧客数・リピート率・顧客満足度などを整理し、買収後のシナジーを具体的に訴求することで、譲受企業の理解と関心を高められます。


アピールデータの具体例

  • 過去3年の月次売上と経常利益

  • 新規顧客獲得数の年次推移

  • リピート率・指名率の統計

  • オンライン口コミ評価の平均点

美容室M&Aの成功事例5選

ここでは実際に行われた代表的なM&A事例を5つ取り上げ、それぞれの背景と成果を解説します。事例を通じて、自社に合った譲渡方法や買収戦略を具体的にイメージしましょう。

1. L.B.Gはブランド力とWeb戦略で高評価を獲得

L.B.Gは20〜30代女性を主顧客とするサロンブランド「La Bonheur」を育成し、2019年10月にヤマノホールディングスへ株式譲渡を実施しました。譲受企業が注目した主なポイントは次の3点です。


1. 独自ブランドの確立

  トレンドに敏感な若年層を的確に捉えた店舗コンセプトが全国展開に適していました。

2. 積極的なWebマーケティング

  SNS運用と広告最適化により、新規顧客獲得コストを低減していたこと。

3. 自社アプリによる顧客分析

  予約履歴や嗜好データを蓄積し、リピート率を高める仕組みが構築済みでした。


M&A後はヤマノホールディングスの資本力を背景に多店舗展開を加速し、アプリを通じたCRMも強化されました。

2. Aguグループは100億円超で大型資本提携を実現

日本全国に多数の店舗を持つAguグループと株式会社ロイネスは、2018年に香港系投資ファンド「Sunrise Capital」と約100億円規模で資本提携しました。目的は以下の通りです。


  • 店舗開発スピードの向上

  ファンドの資金力を活用し出店を加速。

  • 経営管理体制の高度化

  国際ファンドの経営ノウハウを取り入れ、財務・人事制度を整備。

  • ブランド価値の向上

   グループ各店のサービス水準を均質化し、顧客満足度の底上げを図りました。

   このケースは、大規模チェーンが外部資本と提携して急成長を狙う好例です。

3. エム・エイチ・グループはTOBで国際展開を加速

2015年6月、エム・エイチ・グループは剣豪1号投資事業有限責任組合より約19億円でTOB(株式公開買付)を受けました。狙いは「モッズ・ヘア」ブランドを活用し、中国を中心とするアジア美容市場へ参入することでした。


  • TOB採用の理由

  上場企業の株式を一括取得することで迅速に経営権を移転できる。

  • 国際展開戦略

  既存ブランド力を生かし、現地パートナーと連携して店舗網を拡大。

  • 成果

  買収後は中国主要都市にサロンを開設し、海外売上比率を高めることに成功しました。

4. ダイヤモンドアイズはアイラッシュ事業の強化を実現

まつ毛エクステンション事業を展開するダイヤモンドアイズは、2014年12月にアルテサロンHDの全株式を1億2,400万円で取得し子会社化しました。


  • 目的

  美容室チェーンの持つ顧客基盤を活かし、アイラッシュ事業を拡大。

  • 評価ポイント

  アルテサロンHDが保有する教育体制と店舗運営ノウハウ。


子会社化により、ダイヤモンドアイズは施術メニュー拡充と新規客層の開拓に成功し、シナジー効果を最大化しました。

5. ヘッドライトはVC資金でアジア進出を狙う

140店舗以上の美容室とアイラッシュサロンを運営するヘッドライトは、日本最大級のベンチャーキャピタル「ジャフコグループ」および「AZ-Star」から投資を受け、企業価値向上を図っています。


  • 特徴

  美容師との業務委託契約モデルを採用し、固定費を抑えながら急速に店舗網を拡大。

  • 今後の方針

  資金調達によりアジア主要国への進出を計画。

  • 評価点

  高い成長率と独自マネジメントモデルが投資家に支持されました。


この事例は、VCとの連携でグローバル展開を視野に入れる戦略の参考になります。

美容室M&Aで事業承継を成功させる4つのコツ

成功事例からは、共通する重要ポイントが浮かび上がります。ここでは以下の4項目に整理しました。

1. デューデリジェンスで潜在リスクを可視化

財務・法務・税務・労務の観点で詳細調査を行い、簿外債務や未払い残業代など将来的な負担を洗い出します。買い手は適正価格を判断でき、売り手も後日の補償リスクを軽減できます。

2. 適切なタイミングと手法を選択する

経営が安定している時期に検討し、店舗規模や法人形態に応じて株式譲渡か事業譲渡を選びます。不動産所有の有無や許認可の必要性も加味し、交渉を優位に進めることが重要です。

3. 従業員と顧客への丁寧な配慮を行う

雇用条件や店舗運営方針の変更点を早期に共有し、不安を最小化しましょう。顧客にはサービス品質維持を明確に伝え、離反を防ぐことが成功後の収益確保につながります。

4. 専門家の活用で交渉と手続を円滑化

税理士・公認会計士・弁護士・M&Aアドバイザーが一体となり、企業価値評価、条件交渉、契約書作成をサポートします。専門家費用は発生しますが、トラブル未然防止と最終譲渡価格向上の両面で大きな効果があります。

美容室M&Aに潜むリスクと回避策

M&Aは魅力的な選択肢ですが、以下のようなリスクを理解し、事前に対策を講じることが欠かせません。


簿外債務の発覚

回避策

専門家による財務デューデリジェンスを徹底し、表面化していない負債を確認する。


契約関係の再構築コスト

回避策

事業譲渡時には取引先と早期に協議し、契約移管の同意を得る。


従業員離職によるサービス低下

回避策

雇用条件を維持し、譲渡前後で研修や面談を実施して安心感を提供する。


顧客離反による売上減少

回避策

M&A後も価格や施術内容を大きく変えず、ブランドメッセージを一貫させる。


情報漏洩リスク

回避策

秘密保持契約(NDA)を締結し、交渉段階から機密情報を適切に管理する。

まとめ

美容室M&Aは後継者不在解決だけでなく、新規出店や海外展開など成長戦略を叶える手段です。適切な時期に専門家と連携し、強みを定量的に示せば高評価を得られます。事例に学び、リスクを管理して円滑な事業承継を実現しましょう。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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