美容室M&Aの最新動向や手法、メリットを詳しく解説。譲渡相場や注意点、成功事例も紹介し、経営者の皆様に役立つ情報を提供します。事業承継や成長戦略としてのM&Aの可能性を探ります。
目次
美容業界は近年、さまざまな変化と課題に直面しています。この項目では、業界の動向や市場規模、そしてM&Aの傾向について詳しく見ていきます。
美容室の数が増加する一方で、業界内での競争も激化しています。
その結果、以下のような課題が浮き彫りになっています:
1. 客単価の伸び悩み
2. 美容師の人材不足
3. 後継者不足による事業継続の困難
特に後継者問題は深刻で、利益が出ている店舗でも後継者がいないために廃業を選択せざるを得ないケースが増えています。
美容業界の市場規模を把握することは、M&Aを検討する上で重要です。次の項目で、最新のデータを見ていきましょう。
美容室のM&A事例も増加傾向にあります。従来の売却方法では引き継げなかった無形資産(スタッフやノウハウなど)も含めて譲渡できるM&Aに注目が集まっています。
従来の美容室売却では「居抜き」「スケルトン売却」「運営委託」などの手法が主流でしたが、これらは有形資産の譲渡に限られていました。一方、M&Aでは無形資産も含めた事業全体の譲渡が可能となり、美容室の譲渡方法として定着しつつあります。
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
美容室のM&Aでは、主に以下の2つの手法が用いられます。それぞれの特徴を見ていきましょう。
株式譲渡は、売り手の株主が保有している株式を買い手に売却する方法です。
主な特徴は以下の通りです:
1. 株式の過半数を譲渡することで経営権が移転します。
2. 買い手は株主総会で役員選任や定款変更などが可能になります。
3. 株式会社形態の美容室M&Aで多く採用されています。
株式譲渡のメリットとしては、手続が比較的シンプルで、事業の継続性が高いことが挙げられます。
事業譲渡は、美容室の事業の一部または全部を譲渡する手法です。
主な特徴は以下の通りです:
1. 設備、不動産、ノウハウ、人材、取引先との関係など、様々な資産を個別に譲渡できます。
2. 譲渡する資産や負債を選択できるため、柔軟な対応が可能です。
3. 小規模なM&Aで採用されることが多いです。
事業譲渡のメリットは、必要な資産のみを選択して譲渡できる点にあります。不要な資産や負債を切り離すことができるため、買い手にとっても魅力的な選択肢となります。
M&Aを検討する際、譲渡価格の相場を知ることは重要です。美容室のM&Aにおける一般的な価格帯を見ていきましょう。
美容室のM&Aにおける譲渡相場は、1店舗あたり数百万円から数千万円程度が一般的です。ただし、美容室の価値は様々な要因で変動するため、相場の幅は広くなっています。
譲渡価格に影響を与える主な要因には以下のようなものがあります:
1. 店舗の立地条件
2. 顧客基盤の規模と安定性
3. 売上高と収益性
4. ブランド力
5. スタッフの技術力と定着率
6. 設備の状態
複数店舗をまとめて譲渡する場合は、億単位のM&Aになることもあります。正確な価格を把握するためには、専門家による企業価値評価が必要です。
事前に自社の企業価値を正確に把握し、売却金額の目安を立てることが重要です。これにより、適切な譲渡価格での交渉が可能になり、双方にとって満足のいくM&Aを実現できる可能性が高まります。
美容室経営者がM&Aを選択する理由には、いくつかの重要なメリットがあります。ここでは、その主なメリットについて詳しく見ていきます。
M&Aは、後継者不足の問題を解消する有効な手段となります。
以下のような状況で特に有効です:
1. 親族内に適切な後継者がいない場合
2. 従業員承継が難しい場合
3. 利益が出ている店舗でも後継者がいないために廃業を検討している場合
M&Aを通じて事業を外部に譲渡することで、長年培ってきたブランドや技術を存続させることができます。これは経営者にとって大きな安心感をもたらすだけでなく、地域社会にとっても価値ある事業の継続につながります。
M&Aでは、美容室で働いている従業員の雇用を維持できる可能性が高くなります。これには以下のようなメリットがあります:
1. 従業員の生活の安定
2. 技術や顧客関係の継続
3. 地域雇用の維持
M&Aの契約時に従業員の継続雇用を条件とすることで、スタッフの不安を軽減し、スムーズな事業承継を実現できます。
M&Aによる事業譲渡では、適切な企業価値評価に基づいた譲渡金額を得ることができます。
これには以下のような利点があります:
1. 経営者の退職金や老後の資金として活用できる
2. 新規事業への投資資金として使える
3. 債務の返済に充てることができる
特に、美容室の価値が高い場合は、より高額での譲渡が可能となり、経営者の長年の努力に対する適切な報酬となります。
美容室のM&Aを成功させるためには、いくつかの重要なポイントに注意を払う必要があります。ここでは、特に重要な2つのポイントについて詳しく説明します。
M&Aを成功させるためには、適切なタイミングで計画を立てることが重要です。
以下の点に注意しましょう:
1. 経営が安定している時期にM&Aを検討する
2. 将来のビジョンが明確な段階でM&Aを計画する
3. 業績悪化後のM&A計画は避ける
経営が傾いてからM&Aを計画しても、理想的な結果を得ることは難しくなります。経営状況が良くない店舗を高額で譲り受けたいと考える買い手は少ないため、譲渡額が低くなる可能性が高くなります。
M&Aを成功させるためには、自社の美容室の強みを明確にすることが重要です。
以下のような点を具体的にアピールしましょう:
1. 他店との差別化ポイント
2. 独自の技術やサービス
3. 顧客基盤の特徴
4. スタッフの技術力や接客力
5. 立地条件の優位性
買い手に自社の価値を認識してもらうためには、経営者から積極的に魅力を伝える姿勢が大切です。また、以下のような具体的なデータを提示することも効果的です:
• 過去数年間の収益推移
• 新規顧客獲得数の推移
• リピート率
• 顧客満足度調査の結果
これらの情報を整理し、わかりやすく提示することで、買い手の興味を引き、より有利な条件でのM&Aにつながる可能性が高まります。
美容室のM&Aは、実際にどのように行われているのでしょうか。ここでは、具体的な成功事例を5つ紹介します。これらの事例から、M&Aの多様性や可能性を学ぶことができるでしょう。
L.B.Gは、20〜30代の女性向けの美容室を展開する企業です。
2019年10月、以下の特徴を持つM&Aを実施しました:
• 譲渡先:ヤマノホールディングス
• 手法:株式譲渡
• 評価されたポイント:
1.「La Bonheur」ブランドの確立
2. 効果的なWebマーケティング戦略
3. 自社アプリを活用したトレンド把握能力
このM&Aにより、L.B.Gのブランド力と独自のマーケティング手法を活かした全国展開が進められることになりました。
Aguグループと株式会社ロイネスが実施した大規模なM&Aは、以下の特徴を持ちます:
• 譲渡先:CLSAキャピタルパートナーズの運営ファンド「Sunrise Capital」
• 取得額:約100億円(推定)
• 目的:Aguグループの店舗開発の加速
• 期待される効果:CLSAキャピタルパートナーズのノウハウや資源を活用した事業拡大
この事例は、美容業界における大規模M&Aの可能性を示すものとして注目されています。
エム・エイチ・グループのケースは、以下のような特徴を持つM&A事例です:
• 実施年:2015年6月
• 買付者:剣豪1号投資事業有限責任組合(剣豪集団と潤首有限公司の共同出資)
• 手法:TOB(株式公開買付)
• 取得価額:約19億円
• 目的:「モッズ・ヘア」ブランドを活用した中国美容サービス産業への参入
この事例は、国際的な事業展開を視野に入れたM&Aの好例といえます。
ダイヤモンドアイズによるアルテサロンHDの買収は、以下の特徴を持ちます:
• 実施年:2014年12月
• 手法:全株式取得による子会社化
• 取得額:1億2,400万円
• 目的:アイラッシュ事業(まつ毛エクステンション)の市場拡大に向けた事業ノウハウの獲得
この事例は、特定の美容サービス分野に特化したM&Aとして注目されています。
ヘッドライトのケースは、以下のような特徴を持つM&A事例です:
• 事業規模:140店舗以上の美容室とアイラッシュサロン
• 特徴:美容師や施術者との業務委託契約による運営
• 投資先:日本最大のベンチャーキャピタル「ジャフコグループ」と「AZ-Star」
• 評価されたポイント:独自の事業体制と高い成長率
• 目標:アジアへの新規出店を含む企業価値のさらなる向上
この事例は、ベンチャーキャピタルによる美容業界への投資の可能性を示しています。
これらの事例から、美容室のM&Aには様々な形態があり、それぞれの企業の強みや目標に応じて最適な方法が選択されていることがわかります。M&Aは単なる事業承継の手段だけでなく、新たな成長戦略を実現するための重要なツールとしても活用されています。
美容室のM&Aは、事業承継や成長戦略の有効な手段として注目を集めています。適切なタイミングでM&Aを計画し、自社の強みを明確に示すことが成功の鍵となります。M&Aを通じて、後継者問題の解決、従業員の雇用維持、経済的利益の獲得など、多くのメリットを得ることが可能です。美容室経営者は、M&Aを選択肢の一つとして積極的に検討することをおすすめします。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画