多くの企業が抱える事業承継問題は、現在も深刻な課題として存在しています。後継者がいないと悩む経営者が少なくなく、事業承継先を見つける上で相談すべき場所が分からないという状況が散見されます。
この記事では、そんな事業承継を考えている経営者の方々に、相談先やその選び方、また注意すべき点を分かりやすく解説します。事業承継の過程で適切な相談ができるよう、この情報を活用していただきたいと思います。
目次
中小企業庁が発表する2023年版「中小企業白書」によれば、企業経営者の高齢化が問題となっておりますが、最近では年齢層にばらつきが見られるようになっています。
これまで経営者の年齢層は、団塊の世代の年齢と大体一致していましたが、2020年頃からはその年齢よりも10歳ほど下の層まで年齢が広がっており、事業承継が進行中であることが伺えます。
しかしその一方で、75歳以上の高齢経営者の割合が依然として高く、事業承継をしている企業としていない企業の二極化が進行している状況です。また、後継者不在率は2017年の66.5%が最高で、近年は減少傾向にあり、2022年には57.2%まで下がっています。
東京商工会議所の中小企業委員会が行った「中小企業の経営課題に関するアンケート」では、事業承継を検討している経営者が全体の88.3%でした。自分の代で廃業する予定の人は僅か7%であり、大多数の企業が事業承継を考えています。
その後継先として親族を検討している人が75.4%ですが、自社の役員や従業員に承継を任せる人も27.4%おり、それなりの割合で存在します。
▶目次ページ:事業承継とは(事業承継の相談先・費用)
事業承継を検討している経営者にとって、どのような相談先があるのでしょうか。以下に一般的に検討される5つの相談先を紹介します。
事業引継ぎ相談窓口と事業引継ぎ支援センターは、中小企業庁が設置した公的な相談機関で、全国各地の都道府県にあります。これらは事業承継に関する課題解決や情報提供、マッチング支援など、多くのサービスを提供しています。
特に引継ぎ支援が多い地域では、さらに専門的な支援を提供する事業引継ぎ支援センターが設置されています。2023年現在、北海道、宮城県、東京都、静岡県、愛知県、大阪府、福岡県の7箇所で事業引継ぎ支援センターが開設されています。
これらの相談窓口は無料で利用できますが、登録機関や士業の具体的な支援を受ける際には報酬が発生することがありますので事前に確認しておくことが大切です。
事業承継の相談を専門家に依頼する際、税理士などの士業を活用する場合が一般的です。特に、既に顧問契約がある税理士や弁護士に相談することが多いでしょう。ただし、事業承継に関する専門知識を持っているかどうかは、事前に確認が必要です。また、弁護士や行政書士に相談する場合、家族間での相続問題にも対応できる可能性があるのがメリットです。
M&A会社やコンサルティング会社は、M&Aに関する豊富な経験と専門知識を持ち、そのノウハウが社内に蓄積されていることが多いです。これらの組織は、税理士や行政書士などの他の専門家とも連携してサービスを提供しています。特にM&A会社はM&Aに特化していることが多く、コンサルティング会社はM&Aだけでなく、他のビジネスコンサルティングサービスも提供していることがあります。
商工会議所は、地域の商工業者によって構成される公共経済団体であり、経営者向けの様々なサポートを提供しています。事業承継に関する相談も受け付けており、商工会議所に入会していれば無料で利用できる場合も多いです。商工会議所のサービスを活用し、事業承継に関する相談やサポートを受けることを検討しましょう。
事業承継に関する相談は、銀行や信金でも受け付けています。金融機関は資金調達や各種相談に対応しており、長期にわたる取引関係がある場合は、相談もしやすいでしょう。また、金融機関が主催する事業承継に関するセミナーに参加することで、専門的なアドバイザーを紹介してもらえることがあります。
事業承継の相談先を選ぶ際には、以下の3つの観点を考慮しましょう。
• 事業承継に関する解決実績が多い相談先を選ぶ
• 専門家との連携がある相談先を選ぶ
• 費用が明瞭である相談先を選ぶ
解決実績が豊富な相談先は、相談者の状況に応じた適切なアドバイスを提供することが期待できます。特にM&Aの場合、譲渡先の選定や条件交渉など複数の検討事項があるため、解決実績が豊富で関連知識とノウハウを持った相談先を選ぶことが重要です。また、法律・税金の知識が必要な事業承継では、弁護士や税理士と連携している相談先が望ましいです。最後に、事業承継の相談費用が明瞭な相談先を選ぶことで、費用面でのトラブルを避けることができます。
2017年版「中小企業白書」においては、東京商工リサーチが実施した事業承継を相談する相手に関するアンケート結果が紹介されています。アンケート調査からわかることは、最も多くの相談先が顧問の公認会計士や税理士であり、その割合が59.1%を占めています。続いて親族、友人・知人が43.4%、取引金融機関が42.3%と続いています。これらの結果から、信頼できる相手に相談する傾向が多いことが明らかになっています。
事業承継を実際に行う際には、相談先とどのような連携を取ることが望ましいのでしょうか。注意すべきポイントについてご紹介いたします。
公認会計士や税理士が必ずしも事業承継を専門分野としているわけではないことに留意してください。得意とする分野が事業承継以外だった場合、適切な指示や助言が得られないこともあり得ます。ただし、事業承継が専門外であっても、他の士業と連携して業務に取り組んでもらえる場合は、納得のいく事業承継が進められる可能性があります。
経営状況や相談内容に応じて、最適な相談先が変わることがあります。例えば、親族内での承継で後継者が決まっている場合には、相続税対策を得意とする税理士が適切な相談先となります。一方で、第三者承継の場合には、M&A仲介業者やコンサルティング会社の活用が望ましいでしょう。
さらに、事業承継に関する情報収集を進めたい場合は、商工会議所や相談窓口を利用することで、全体を俯瞰的に把握することができます。まずは自分のニーズを把握し、適切な相談先を見つけてください。
事業承継に関する具体的な相談先とその特徴や、どのような状況で最も役立つかについて詳しく解説いたします。
M&A仲介会社は、事業承継に関する実績が豊富であり、多様な業種・業態のM&Aを成功に導いた組織も多く存在しています。そのため、安心して相談できる相談先といえます。また、企業によっては、相続に関する相談や依頼が一貫してできることも大きな魅力となります。
中小企業再生支援協議会は、事業再生を目指す中小企業を支援している組織です。商工会議所などが全国的に運営に関わっており、借入金や資金繰りに関する問題に対して専門家がサポートを提供しています。
事業承継は、多くの企業にとって重要な節目となります。複雑なプロセスを円滑に進めるためには、実績ある相談先の選定や専門家との連携が不可欠です。幸い、事業承継に関しては、様々な専門機関が支援を提供しており、国や金融機関からの補助制度も利用できるため、しっかりとした準備をしておくことが大切です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画