自動車販売業界のM&A動向を詳しく解説します。業界の特徴や課題、市場環境の変化を踏まえ、最新のM&A事例を分析。経営課題解決の手段としてのM&Aの有効性と、今後の展望について解説しています。
目次
自動車販売業界は、一般的にディーラーと呼ばれ、新車・中古車の販売から車両メンテナンス、修理、車検まで、幅広いサービスを提供する業界です。
自動車販売業は、メーカーから新車を仕入れて販売する新車販売事業を中心に、様々な関連サービスを展開しています。消費者の多様なニーズに応えるため、総合的な自動車関連サービスの提供が求められています。
事業構造は主に以下の4つの柱で構成されています:
1. 新車販売事業
・メーカーからの仕入れによる新車販売
・メーカーとの価格
・数量交渉が重要
2. 中古車販売事業
・下取り車両の販売が中心
・価格決定の自由度が比較的高い
3. サービス・部品販売事業
・定期点検、修理、車検などのメンテナンス
・新車・中古車販売との相乗効果を発揮
4. 損害保険事業
・自動車保険の販売
・顧客との長期的な関係構築に貢献
現在、業界が直面している主な課題は以下の通りです:
1. 事業環境の不透明性
・新型コロナウイルスの影響による生産台数の減少
・都市部における公共交通機関の充実
・若年層の車離れ
2. 消費者との力関係の変化
・情報社会における消費者の優位性向上
・価格交渉力の低下
・顧客の選択肢の拡大
3. デジタル化への対応
・オンライン販売の需要増加
・デジタルマーケティングの重要性
4. 人材確保の困難さ
・少子高齢化の影響
・若手人材の業界離れ
・専門知識を持つ人材の不足
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
自動車販売業界の市場環境は、大きな転換期を迎えています。金額ベースでの市場規模は一定の安定性を保っていますが、様々な構造変化に直面しています。
市場規模については、以下のような特徴が見られます:
1. 金額ベースの安定性
・年配層による継続的な需要
・地方移住促進による新規需要の創出
・販売単価の上昇傾向
2. 量的変化
・販売台数ベースでの需要減少
・単価上昇による売上補完
・地域による需要格差の拡大
競争環境については、以下のような特徴があります:
1. 参入障壁
・高額な初期投資の必要性
・営業拠点確保の困難さ
・専門知識・技術の要求
2. 競争の特徴
・業界内での競争激化
・情報化による顧客の選択眼の向上
・利益率の低下傾向
近年、自動車販売業界では様々な形態のM&Aが活発化しています。以下、代表的な事例を紹介します。
1. ビッグモーターの事業承継(2024年)
・伊藤忠商事と伊藤忠エネクスによる新会社設立
・ジェイ・ウィル・パートナーズとの協力体制
・経営管理体制の強化を目指す
2. ヤナセの買収(2017年)
・伊藤忠商事による買収
・総合商社による業界再編の典型例
・シナジー効果の追求
3. 専門ディーラーの統合事例
・グッドスピードによるチャンピオンの買収(2021年)
・バイク販売事業とのシナジー創出
・専門性の高い分野での事業拡大
4.大手企業による業界再編
・オートバックスセブンによるTAインポートの買収(2021年)
・ネットワーク強化による収益拡大
・事業基盤の強化
自動車販売業界では、市場環境の変化や経営課題への対応として、M&Aによる事業基盤の強化が進んでいます。特に、デジタル化への対応や人材確保の課題に直面する中小企業にとって、M&Aは有効な経営戦略の選択肢となっています。今後も業界再編は継続すると予想され、企業の持続的成長のための重要な手段として注目されています。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画