非上場株式の評価方法と時価算定のポイントを詳しく解説
非上場株式は取引相場がなく、価値を正しく把握するには評価方法や時価算定の理解が重要です。本記事では、非上場株式の評価方式や時価算定の具体的な手順、そして譲渡時の税金について、やさしく丁寧に解説します。
目次
▶目次ページ:親族内承継(自社株の評価)
非上場株式とは、証券取引所に上場していない会社の株式のことです。上場株式のように市場で自由に売買されるわけではないので、時価が公表されていません。そのため、売買するときには譲渡企業と譲受企業の合意が必要で、価格の決定も一筋縄ではいかない場合があります。
似た概念に「非公開株式」がありますが、こちらは「株式譲渡制限のない会社の株式」を指します。厳密には異なる概念ですが、一般的な取引においては非上場株式と非公開株式を大きく区別しないことが多いです。
非上場株式の価値を求める手法として、大きく原則的評価方式と特例的評価方式があります。
原則的評価方式
非上場企業の株式評価で広く用いられる方法です。類似業種比準方式や純資産価額方式などを組み合わせて、企業の配当や利益、純資産などを基に株価を算出します。
特例的評価方式(配当還元方式)
同族株主以外が少数株を取得する場合などに、原則的評価方式に代わって用いられる手法です。配当を基準に評価額を割り出し、非上場株式の譲渡価格を算定します。
原則的評価方式には、大きく次の2つが存在します。
類似業種比準価額方式
非上場会社と事業内容が類似する上場会社の株価を参考に、配当・利益・純資産(帳簿価額)という3つの要素から株価を計算する方法です。似た業種の実績から、ある程度客観的に株価を推定できるメリットがあります。
純資産価額方式
非上場企業の持つ資産から負債を差し引いた価額(純資産)を、発行済株式数で割って1株あたりの評価を行う方法です。企業を解散したときの資産価値に注目するため、会社の将来性は含まれにくい一方、計算方法が比較的明瞭であるという特徴があります。
いずれの手法を使うべきかは会社の規模や株主構成、譲渡の条件などによって異なります。非上場株式の取引に際しては、自社に合った評価方式を慎重に選択することが重要です。
ここでは、取引相場のない非上場株式の時価を算定する際に、よく使われる手法を解説します。
DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)
将来生み出される見込みのキャッシュフローを現在価値に割り引いて合計し、企業価値を求める方法です。将来予測が誤ると株価に大きく影響するため、算定には慎重さが求められます。
類似会社比較法
業種や規模が近い上場会社などと比較し、その会社の財務データや株価から非上場企業の価値を類推する方法です。実際の市場価格を参考にすることで、一定の客観性を保てるメリットがあります。
時価純資産法
企業が保有する資産を時価で換算し、そこから負債を差し引くことで価値を算定する方法です。計算がシンプルな一方、企業の将来の収益力を十分に反映しきれない場合もあります。
取引相場のない非上場株式を実際に譲渡するには、下記のような選択肢があります。
M&Aによる譲渡
他の企業が非上場株式を譲受することで、事業承継や会社の売却が実現します。M&A専門の仲介会社が間に入り、買い手を探すケースも多いです。最近は手続のスムーズ化も進み、中小企業の事業承継手段として活用される機会が増えています。
相続・贈与による譲渡
非上場株式が相続財産となった場合、相続によって譲受されます。また、生前に自社株を後継者に贈与する方法もあります。相続税と贈与税のどちらが有利になるかなど、慎重な検討と専門家のアドバイスが重要です。
非上場株式を譲渡するとき、どのようなメリットが考えられるでしょうか。
資金調達が期待できる
非上場株式の譲渡によって、株式を取得したいと考える譲受企業からの出資を受けられます。企業の将来性や業績が見込まれるほど、高額で評価されることもあり、必要な資金を効率よく調達できる可能性があります。
手続が比較的スムーズ
上場株式の取引と違い、厳しい開示義務や市場の動向などに縛られにくい側面があります。株主総会での承認が不要なケースがあるなど、スピード感を持った手続が可能です。ただし、定款に譲渡制限がある場合は承認手続が必要になる点に留意しましょう。
一方、非上場株式の譲渡には注意が必要な場面もあります。
流動性の低さ
非上場株式は上場市場がないため、買い手を見つけるのに時間や労力を要することがあります。売り手が希望するタイミングで、思うように譲渡が進まないケースもあるので、早めの計画や情報収集が肝心です。
譲渡制限株式には承認が必要
非上場企業の定款によって、株式の譲渡に制限がかかっている場合があります。取締役会や株主総会の決議を得なければ譲渡できないケースもあるため、事前に社内規定を確認することが大切です。
株式を譲渡する際、個人か法人かによって税負担のしくみが変わります。
個人の場合(譲渡所得税)
個人の非上場株式譲渡には、譲渡所得税が課税されます。譲渡所得の合計額に対して、原則として所得税15%、住民税5%の合計20%がかかる仕組みです。ただし、著しく低い価格で譲渡した場合、「みなし譲渡所得」として課税が行われる場合があります。
法人の場合(法人税)
資本金1億円以下の法人が非上場株式を譲渡するとき、その譲渡益と他の所得を合わせて法人税が課税されます。税率は年800万円以下の所得に対して19%(特定要件を満たさないと15%)、800万円超の部分は23.2%と、金額に応じて変わります。
住民税
個人・法人を問わず、株式譲渡益に対して住民税がかかります。個人の場合は、譲渡所得税と合わせると約20.315%になるため、税率の確認が不可欠です。
ここでは、非上場株式を売買・譲渡する際の一般的な手順を紹介します。
基本合意を締結
譲渡企業と譲受企業が株式数や価格などについて合意し、基本合意書を作成します。
譲渡承認手続
会社が定款で譲渡制限を設けている場合、株式譲渡承認請求書を提出し、取締役会や株主総会の決議を得る必要があります。会社が譲渡を認めない場合は、会社側が買い取るか、別の譲受企業を指定することがあります。
譲渡契約締結
互いに条件がまとまったら、正式に株式譲渡契約を結びます。価格や支払い方法、損害賠償リスクなどの事項を明記し、両者が内容を確認します。
株主名簿の書換
契約完了後、株主名簿を更新することで、他者に対して株主としての権利を主張できるようになります。非上場企業の多くは株券を発行していないため、株主名簿が株式保有を証明する重要な手段です。
非上場株式を取引する際、価格は自由に決められますが、税法上は「時価」が求められる場合が多いです。相続税法・贈与税では財産評価基本通達に基づく評価額が原則とされ、法人税法・所得税法では資産の時価評価や類似業種比準価額方式などを参照して算定します。
「時価」は、不特定多数の当事者同士が自由に売買を行ったときに成立すると考えられる金額を指します。同族間や親子間で取引をする際、過度に低い価格での譲渡は「みなし譲渡課税」の対象となることがあるため注意が必要です。
非上場株式の評価では、次の3つのアプローチを用いることがあります。
マーケット・アプローチ
上場市場での類似企業の株価など、市場価格を参考に評価する方法。実在の株価を基にするため、客観性に優れますが、市況に左右されやすい面もあります。
インカム・アプローチ
企業が将来生み出す収益やキャッシュフローに着目し、DCF法などを用いて現在価値に割り引く方法。将来予想が難しいほど、評価額に不確定要素が増えやすいです。
コスト・アプローチ
企業の純資産(資産-負債)をベースに評価する方法。計算は明快ですが、企業がもつ将来性や収益力を十分反映できない場合があります。
非上場株式の取引には、適切な評価方法や時価算定が欠かせません。株主同士の合意が得やすい一方で、譲渡制限や税金など注意すべき点も多く存在します。専門家と連携しながら、会社の状況や将来の計画に合った方法を選択し、スムーズに手続を進めることが大切です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画