流通(小売・卸売)業界の課題とM&A!その動向・メリット・事例

このコラムでは、流通業界における業界情報や外部環境、M&A動向について詳しく解説いたします。さらに、実際に行われた流通業界のM&A事例も合わせて解説していきます。

目次

  1. 流通(小売・卸売)業界
  2. 流通(小売・卸売)業の外部環境
  3. 流通(小売・卸売)業界の課題
  4. 流通(小売・卸売)業界のM&A動向
  5. 流通(小売・卸売)業界のM&Aのメリット
  6. 流通(小売・卸売)業界のM&A事例
  7. 流通(小売・卸売)業界M&Aのまとめ

流通(小売・卸売)業界

流通業とは

流通業界とは、商品の製造元であるメーカーから最終的な消費者に届けるまでの過程を担う業界です。これには、仕入れ、保管、管理、販売、運輸などの多岐にわたる業務が含まれます。一般的には、小売業(スーパマケット、コンビニなど)と卸売業を指すことが多いですが、広義には運輸業・交通業も含まれます。

流通業界の特性

流通業界はその特性から、以下のような分類ができます。

● 仕入

● 物流

● 販売

● 管理

● マーケティング

企業によっては、上記の分類のうち複数の業務を担っていることもあります。これにより、流通業界は幅広い戦略が可能であり、市場状況に応じた方針変更やM&Aが容易に行えると言えます。

流通(小売・卸売)業の外部環境

外部環境に関しては、経済状況や技術革新、競合関係、法制度など、流通業界に影響を与える要因が多数存在します。これらの要因によって、業界全体の動向が変化することがあります。そのため、流通業界においては、常に外部環境の変化に対応できる柔軟性が求められると言えます。

市場規模

流通業界全体に関しては総合的な統計データが存在していませんが、小売業や物流業といった部門ごとの統計データは利用できます。現在の市場動向としては、新型コロナウイルスの影響が大きいです。巣ごもり需要が高まって自宅で利用できる商品への需要が伸びており、それに伴い物流の需要も増大しています。

これらの要因により、流通業界全体は拡大傾向にあります。しかし、消費者の嗜好は物品から体験型やデジタルコンテンツへと移行している側面もみられます。新型コロナウイルスで流通業界が盛り上がりを見せましたが、市場規模の今後の動向にはポジティブな要素もあればネガティブな要素も存在します。

「小売の販売額の推移」


参考:業界動向サーチ


「物流17業種総市場規模推移・予測」

参考:矢野経済研究所

競合

流通業界は非常に幅広い範囲をカバーしており、商品の製造から消費者に届けるまでの過程が含まれます。従って、多様な業界が流通業界としてひとくくりになっているわけです。そのため、流通業界全体としての競合は存在しないものの、業界内での競合が生じるケースは考えられます。

今後、市場規模やシェア拡大に向けて競争が激化していくことが予想され、これをうまく活かすことで各業者は成長の道を切り開いていくことが求められます。

流通(小売・卸売)業界の課題 

消費者の物欲の減少

流通業界は物を消費者に届けることがその存在意義であるため、消費者が物を求めることが重要です。しかしながら、現代の消費者は物質的なものよりも体験やデジタルコンテンツを求める傾向にあるため、物理的な商品に対する需要が減少しています。オンラインショッピングの需要が拡大していることから、流通業界の需要が伸びているという意見もありますが、消費者ニーズはさらにデジタルコンテンツや体験に移行しつつあります。

人手不足の問題

流通業界全体において人手不足が深刻な問題となっています。特に運輸業においては、オンラインショッピングの需要拡大が人手不足の原因となっていると考えられます。

燃料価格の高騰

流通業界にとって、商品を運ぶ際に燃料が必要となりますが、燃料価格の高騰により利益率が下落している状況です。今後燃料価格が下落する可能性もある一方で、さらなる高騰の可能性も考慮しなければなりません。

流通(小売・卸売)業界のM&A動向

流通業界は、他の業界と比較してM&Aが盛んに行われる業界とされています。

流通業界では企業数も従業員数も豊富ですが、その数の多さだけがM&Aが盛んな理由ではなく、業界特有の状況がM&Aを促しています。特に業界特有の問題として挙げられるのは、「流通の中抜き」の現象です。ECサイトや大型ショッピングモールの普及により、製造業者と流通業者間で直接取引が行われるようになりました。これにより流通業者は、自身の存在価値をどのように高めていくかが重要な課題となり、その結果企業の存続が問われています。また、流通業に限らず、D2C(Direct to Consumer)という、製造業者が消費者と直接取引するビジネスモデルが注目されており、SNSやECサイトを利用して消費者と直接コミュニケーションを取ることで、効率的なデータの収集やコスト削減を実現しています。このような状況は、特に中小の流通売業者にとっては困難を極め、M&Aを検討する企業が増加しています。

流通(小売・卸売)業界のM&Aのメリット

流通業におけるM&Aの主なメリットを売り手視点と買い手視点に分けて紹介します。

売り手のメリット

創業者利潤の確保

創業者は、非上場の自社株式を換金し、多くの場合、事業を閉鎖するよりも多くの収益を手に入れることができます。

事業存続

企業名、従業員の職、ビジネスパートナーの関係が存続します。

人材採用が有利になる

大企業との提携により、よりスムーズに人材を確保することが可能になります。

個人連帯保証の解除

企業経営者は、銀行からの借入れに関する連帯保証人の責任から解放される可能性があります。

販売チャネルの多様化

これまで実店舗のみで商品を提供していた企業が、買収企業の電子商取引サイトを通じて商品を全国の消費者に提供するようになることで、販売チャネルが拡大します。販売の専門知識を持つ買収企業により、販路が劇的に広がる場合があります。

仕入コストの低減

買収企業が一括して商品を仕入れることにより、量の割引が適用され、仕入れコストが削減されることがあります。特に、赤字経営の企業が同業他社によって買収される場合、コスト構造が改善され、利益を出すようになる事例がしばしば見られます。

買い手のメリット

周辺アイテム群への拡張

たとえば、日用品を扱う企業が、家具やインテリア商品の取り扱いを開始し、提供する商品の範囲を広げることができます。さらに、お互いの顧客基盤を活用して、相手の商品を販売する「クロスセル」の機会も生まれます。

新たな地域への展開

例えば、隣接する県への進出や、地方から大都市へ、あるいは大都市から地方へというような様々な進出形態が考えられます。新規の地で事業基盤を構築するには時間がかかりますが、M&Aを利用することで迅速に展開を進めることができます。このような理由から、M&Aを行う例は数多く見られます。

ドミナント戦略の推進

同一地域や同業界でのM&Aは一般的な事例です。競合他社をグループ企業に加えることで、地域社会での事業基盤をより強固にすることが可能になります。

新規顧客の獲得

譲渡企業が有する魅力的な既存顧客の存在は、卸売りや小売業界のM&Aにおける重要な要素の一つです。著名な企業を顧客に持つ場合や、地元で人気の小売店を多く顧客に持つ場合などは、買収側にとって特に魅力的に映ります。

人材の獲得

他業界同様に、人手不足が深刻な業界のため、一定の人材が確保できるM&Aは有力な手段となります。

流通(小売・卸売)業界のM&A事例

ドンキホーテホールディングスによるユニーの買収

2019年にドンキホーテホールディングスがユニーを買収しました。ドンキホーテホールディングスは食品、日用品、雑貨など様々な商品を取り扱っている企業です。一方、売り手であるユニーは食料品、日用品、衣料品などのアイテムを幅広く取り扱っている企業で、スーパーマーケットの運営も手がけています。

ドンキホーテホールディングスとユニーは2017年に業務提携契約を締結し、共同で店舗開発に取り組んでいました。その結果、大成功を収め、さらに企業価値を高めていくためにM&Aに踏み切ったという経緯があります。

エイチ・ツー・オーリテイリングによるイズミヤの買収

2014年にエイチ・ツー・オーリテイリングがイズミヤを買収し、完全子会社化されました。エイチ・ツー・オーリテイリングは、阪急百貨店と阪神百貨店を運営する会社であり、商業施設などを傘下に持つ持ち株会社です。

エイチ・ツー・オーリテイリングは、市場シェアの確保や消費者のニーズ変化への対応を目的として、イズミヤの買収を行いました。

ブリリアントトランスポートによるファイズホールディングスへの第三者割当増資

ブリリアントトランスポートは、2021年4月にファイズホールディングスを引受先とする第三者割当増資により、議決権の51%に相当する株式を売却しました。ブリリアントトランスポートは国内外の輸入貨物の運送サービスや通関手続の代行サービスなどの事業を展開する物流会社です。

ファイズホールディングスは、トラックによる輸配送や物流センターの運営など物流業務を包括的に行う企業です。ブリリアントトランスポートは、経営資源を確保し、国際業務を発展させる目的で第三者割当増資を実施しました。一方、ファイズホールディングスは物流事業の強化を目指していました。

CREによるCREロジスティクスファンド投資法人への物流施設の売却

2021年1月には、CREは物流施設をCREロジスティクスファンド投資法人へ売却しました。CREは、物流不動産の基盤構築や物流プラットフォームの構築・拡大を主な事業として展開している会社です。

CREロジスティクスファンド投資法人は、投資家から集めた資金を物流不動産に投資する事業を行っており、ボートフォリオの分散や長期的に安定した分配金の創出などを目的に物流施設の買収を行いました。

流通(小売・卸売)業界M&Aのまとめ

流通業界においては、今後M&Aが活発化していくと予想されます。その理由として以下の要因が挙げられます。

・少子高齢化による後継者不足

・規模の経済が働くため、統合が進む

・隣接する業界がシナジー効果を狙って買収を行う

現状の流通業界では、M&Aが既に活発化しており、今後さらに進行することが予想されます。流通業界は事業規模が大きいほど単価を下げやすい傾向にあるため、他の業界に比べてM&Aに対する動機が大きいのです。また、他の業界と同様に、少子高齢化が進む中で後継者不足も問題となっています。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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