システム開発会社のM&Aについて、業界動向や価格相場、メリット・デメリット、成功のポイントを詳しく解説します。具体的な事例も交えて、M&Aを検討する経営者の方々に役立つ情報をお届けします。
目次:
システム開発業界は、デジタル化の進展とともに急速に成長を続けています。この業界の動向を理解することは、M&Aを検討する上で非常に重要です。ここでは、システム開発会社の定義や役割、市場規模、そして最近のM&A動向について詳しく見ていきましょう。
システム開発会社とは、企業や組織からの依頼を受けて、業務効率化のためのシステムを構築する会社のことを指します。具体的には、以下のような役割を担っています。
・クライアントのニーズに合わせたシステムの設計
・システムの実装と開発 ・開発したシステムの運用とサポート
・既存システムの保守や更新
これらの会社は、情報技術(IT)を活用して、クライアントの業務プロセスを効率化し、生産性の向上や競争力の強化を支援しています。
出所:矢野経済研究所の資料を編集部にて加工
システム開発業界の市場規模は、年々拡大傾向にあります。矢野経済研究所の調査によると、2018年度以降、IT業界全体が右肩上がりの成長を続けています。
この成長は、以下のような要因によって後押しされています:
1. クラウドコンピューティングの普及
2. ビッグデータ分析の需要増加
3. IoT(モノのインターネット)技術の発展
4. AI(人工知能)の活用拡大
これらの技術は、あらゆる業界で必要とされており、システム開発会社の需要を押し上げています。今後も、この成長傾向は続くと予想されています。
システム開発業界におけるM&Aも活発化しています。特に注目すべき動向として、以下のようなものが挙げられます:
1. 人材確保を目的としたM&A
o IT人材の不足を解消するため、優秀なエンジニアを抱える企業の買収が増加しています。
2. 技術獲得のためのM&A
o 最新技術やノウハウを持つ企業を買収し、自社の技術力を強化する動きが見られます。
3. クラウドビジネス強化のためのM&A
o クラウド化の進展に伴い、クラウド型システムパッケージを提供する企業の買収が増えています。
4. 業務の内製化を目的としたM&A
o 外部委託していた業務を内製化するため、専門企業を買収するケースも増加しています。
これらのM&A動向は、システム開発会社が直面する課題を解決し、競争力を強化するための戦略的な動きとして捉えることができます。
システム開発業界の現状を理解することで、M&Aを検討する際の判断材料となり、より戦略的な意思決定が可能になります。次のセクションでは、システム開発会社の売却におけるメリットとデメリットについて詳しく見ていきましょう。
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
システム開発会社を売却する際には、様々なメリットとデメリットが存在します。ここでは、売り手側の視点からそれぞれを詳しく見ていきましょう。
1. 後継者問題の解決
o 適切な後継者が見つからない場合、M&Aは事業承継の有効な選択肢となります。
2. 経営基盤の安定化
o 買い手のサポートにより、経営基盤が強化され、収益性が向上する可能性があります。
3. 従業員のキャリア拡大
o 大手企業に買収されることで、従業員に新たな成長機会やキャリアパスが提供されます。
4. 投資回収の加速
o 創業者は、長年の努力の結果を現金化し、投資の回収を図ることができます。
1. 雇用条件の変更リスク
o 買い手による雇用・労働条件の変更や、従業員の離職が生じる可能性があります。
2. 期待以下の評価
o 売却価格が期待を下回る場合があり、長年の努力が適切に評価されないことがあります。
3. 企業文化の衝突
o 買い手との企業文化の違いにより、統合後の運営に課題が生じる可能性があります。
システム開発会社の売却を検討する際は、これらのメリットとデメリットを慎重に検討し、自社の状況に照らし合わせて判断することが重要です。
システム開発会社を買収する側にも、様々なメリットとデメリットがあります。ここでは、買い手側の視点から詳しく解説します。
1. 時間の節約
o 新規事業立ち上げや既存事業拡大にかかる時間を大幅に短縮できます。
2. エンジニアの効率的な確保
o IT人材不足の解消に効果的で、即戦力となる人材を獲得できます。
3. 業務の内製化
o 外部委託していた業務を内製化し、コスト削減や業務効率の向上が図れます。
4. 技術・ノウハウの獲得
o 売り手の持つ技術やノウハウを即座に取り込むことができます。
5. 事業規模の拡大
o 既存の取引先や流通網を活用し、ビジネス規模を迅速に拡大できます。
1. 多額の買収資金
o 魅力的な企業を買収する場合、多額の資金が必要となる可能性があります。
2. 統合の難しさ
o 買収後の人事や組織の統合に課題が生じる可能性があります。
3. 想定外のリスク
o デューデリジェンスで把握できなかった問題が顕在化するリスクがあります。
システム開発会社の買収を検討する際は、これらのメリットとデメリットを十分に理解し、自社の戦略と照らし合わせて判断することが重要です。
システム開発会社のM&Aにおける価格相場は、様々な要因によって変動します。ここでは、価格相場の特徴や把握方法、影響する要因について詳しく見ていきましょう。
システム開発会社のM&A価格相場には、以下のような特徴があります:
1. 企業規模による変動
o 小規模な会社から大手企業まで、規模によって価格帯が大きく異なります。
2. 技術力や専門性の重視
o 独自の技術やノウハウを持つ企業は、高い評価を受ける傾向があります。
3. 顧客基盤の重要性
o 安定した顧客基盤を持つ企業は、高く評価されやすいです。
4. 成長性の考慮
o 将来の成長が期待できる企業は、現在の業績以上の評価を得ることがあります。
システム開発会社のM&A価格相場を把握するには、以下の方法が効果的です:
1. M&A専門家への相談
o 経験豊富なアドバイザーから、最新の相場感を得ることができます。
2. M&Aマッチングサイトの活用
o オンラインプラットフォームで、類似案件の相場を確認できます。
3. 公表されたM&A事例の調査
o 過去の成約事例を分析し、業界の相場感を把握できます。
システム開発会社のM&A価格に影響を与える主な要因には、以下のようなものがあります:
1. 財務状況
o 売上高、利益率、成長率などの財務指標が重要です。
2. 技術力と開発実績
o 独自の技術や成功したプロジェクト実績が高評価につながります。
3. 人材の質と量
o 優秀なエンジニアの存在が企業価値を押し上げます。
4. 顧客基盤
o 安定した顧客との長期契約は、将来の収益性を示す指標となります。
5. 市場シェアと競争力
o 業界内での位置づけや競争優位性が評価されます。
6. 将来性と成長戦略
o 今後の成長が期待できる事業計画が高評価につながります。
システム開発会社の企業価値を算定する際、主に以下の3つの手法が用いられます:
1. コストアプローチ
o 純資産をベースに企業価値を算出します。
o 例:年倍法(時価純資産に「のれん」を加えて算出)
2. インカムアプローチ
o 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出します。
o 例:DCF法(将来キャッシュフローの現在価値を算出)
3. マーケットアプローチ
o 類似企業の取引データを参考に企業価値を算出します。
o 例:EBITDAマルチプル(EBITDAに一定の倍率を掛けて算出)
これらの手法を組み合わせることで、より適切な企業価値の算定が可能になります。システム開発会社の特性を考慮し、最適な手法を選択することが重要で
システム開発会社のM&Aを成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、それらのポイントについて詳しく解説します。
1. 技術力の可視化
o 独自の開発手法や特許技術など、他社と差別化できる技術を明確にします。
2. 顧客基盤の整理
o 長期契約や高い満足度を持つ顧客を洗い出し、その価値を明確にします。
3. プロジェクト実績の整理
o 成功したプロジェクトや高い評価を受けた案件を整理し、アピールポイントを明確にします。
1. 技術研修の充実
o 最新技術に関する社内研修を定期的に実施し、従業員のスキルアップを図ります。
2. キャリアパスの明確化
o エンジニアの成長モデルを示し、長期的なキャリア形成をサポートします。
3. 働きやすい環境の整備
o フレックスタイム制や在宅勤務など、柔軟な働き方を導入し、優秀な人材の定着を図ります。
1. 最新技術の調査
o AI、IoT、クラウドなど、注目される技術分野の動向を常に追跡します。
2. 競合他社の分析
o 主要競合他社の戦略や強みを分析し、自社のポジショニングを明確にします。
3. 顧客ニーズの変化を把握
o 定期的な顧客調査を実施し、市場ニーズの変化をいち早く捉えます。
1. 財務諸表の整備
o 過去3~5年分の財務諸表を整理し、収益性や成長性を示します。
2. 主要契約書の整理
o 顧客との契約書、ライセンス契約書などを整理し、重要な取引関係を明確にします。
3. 知的財産権の整理
o 保有する特許や著作権などの知的財産権を整理し、その価値を明確にします。
4. 人材情報の整理
o エンジニアのスキルマトリックスや資格保有状況を整理し、人材の質を示します。
1. M&Aアドバイザーの活用
o 経験豊富なM&Aアドバイザーに相談し、全体的な戦略立案をサポートしてもらいます。
2. 弁護士の起用
o M&A取引に精通した弁護士を起用し、法的リスクを最小限に抑えます。
3. 会計士・税理士の活用
o 財務デューデリジェンスや税務面でのアドバイスを得るため、専門家を活用します。
4. 業界専門家の意見聴取
o IT業界に精通したコンサルタントなどから、業界特有の留意点についてアドバイスを受けます。
これらのポイントを押さえることで、システム開発会社のM&Aをより成功に導くことができます。次のセクションでは、実際のM&A事例を見ていきましょう。
ここでは、システム開発会社が関わる具体的なM&A事例を紹介します。これらの事例を通じて、M&Aの目的や結果を理解することができます。
1. エスエイティーティーによるアイ・ティ・コンサルティングの子会社化(2019年8月)
o 目的:全国展開の加速
o 結果:新規クライアントの獲得と業務拡張の機会を得ました。
2. サンロフトによるS'PLANTの子会社化(2021年3月)
o 目的:基幹業務システム開発事業部門の体制強化
o 結果:サービス範囲と競争力の強化につながりました。
3. 方正(HOUSEI)によるインテック武漢の子会社化(2021年1月)
o 目的:事業規模と事業領域の拡大
o 結果:グローバル展開の足がかりを得ました。
4. TDCソフトによる八木ビジネスコンサルタントの子会社化(2020年2月)
o 目的:ノウハウとシステム開発技術の融合
o 結果:次世代を見据えた新たなサービス提供が可能になりました。
5. ソフィア総合研究所による藤井の子会社化(2020年8月)
o 目的:技術力の強化と事業の拡大
o 結果:研究開発能力の向上につながりました。
6. エイム・ソフト(現・クシムソフト)によるケア・ダイナミクスの子会社化(2020年5月)
o 目的:新市場開拓、人員の効率的活用、自社開発プロダクトの展開
o 結果:企業の成長戦略の重要な一環となりました。
これらの事例から、システム開発会社のM&Aが、技術力の強化、事業領域の拡大、競争力の向上など、様々な戦略的目的を持って行われていることがわかります。各社の特性や市場環境に応じて、適切なM&A戦略を立てることが重要です。
システム開発会社のM&Aは、業界の急速な変化に対応するための重要な戦略となっています。売り手・買い手双方にメリットとデメリットがある中、適切な価格相場の把握と成功のポイントを押さえることが重要です。M&A専門家の活用や綿密な準備を通じて、戦略的なM&Aを実現し、企業価値の向上につなげることが可能です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画