システム会社のM&Aの現状と成功ポイントや事例を解説
「システム会社のM&Aで高値譲渡を実現するには?」──まず結論を述べると、適切な相場把握と専門家活用が成功の鍵です。本記事では最新動向から価格要因、譲受企業との交渉術まで、詳しく説明します。
目次:
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
M&Aは、企業同士が統合したり株式を譲受したりして経営資源を最適化する手法です。システム会社の場合、業務効率化を支えるソフトウェアやサービスが評価されるため、譲渡価格が他業種より高水準になりやすい点が特徴です。
システム会社はクライアントの課題を聞き取り、最適なシステムを設計・開発・運用します。要件定義から保守まで一貫対応できるため、顧客の生産性向上に直結する存在です。
受託開発型は顧客の要望に合わせて一品物を作ります。一方、自社製品型は自社パッケージを改良しながら販売します。どちらも強みが異なり、M&Aで評価されるポイントも変わります。
デジタル化の波でシステム需要は拡大を続けています。IDCジャパンによれば国内ITサービス市場は2023年に6兆4,608億円、2028年には8兆1495億円へ伸長見込みです。
出所:矢野経済研究所の資料を編集部にて加工
クラウド移行の加速やAI・IoT技術の導入が増え、企業は専門知識を持つシステム会社を求めています。この需要増がM&Aを活発化させる原動力となっています。
優秀なエンジニア不足を補うため、譲受企業が人材目当てで譲受するケースが目立ちます。譲渡企業は従業員の雇用確保とキャリア拡大を図れるため、双方に利点があります。
クラウド型業務システムを持つ企業を譲受し、自社サービスラインを強化する事例も多く見られます。
ここではシステム会社を譲渡する立場で得られる利点と留意点を確認します。
適切な譲受企業を選ぶことで後継者不在の課題を解消し、資本力や営業網を取り込んで経営を安定させられます。また、従業員に広いキャリアパスが生まれる点も魅力です。
投資回収を加速し個人資産を確保できる
創業者は株式を現金化し、長年の努力を資産として形にできます。
譲受後に企業文化が合わないと離職や混乱が発生します。さらに雇用条件が変わる恐れや、期待以下の評価額になる可能性もあります。
システム会社を譲受する側の視点も押さえましょう。
新規事業をゼロから育てるよりも、既存の技術基盤と顧客ネットワークをまとめて取得できるため、市場投入までの期間を大幅に短縮できます。
業務の内製化でコストと品質を同時に向上
外部委託費を抑え、自社で開発ノウハウを蓄積することで長期的な競争力を高められます。
魅力的な企業ほど譲受金額が高くなり、統合後の組織管理も複雑です。デューデリジェンスで把握できなかった潜在リスクが表面化するケースもあります。
システム会社の譲渡価格は「いくらが妥当か」を一言で示しにくいのが実情です。なぜなら技術力や顧客構成、人材の質など多様な要素が絡み合うからです。ここでは価格形成のポイントを整理し、相場感をつかむ方法を説明します。
企業規模が大きいほど案件単価と収益基盤が安定しているため高値になりやすい一方、ニッチ領域で独自技術を持つ小規模企業も希少価値で評価が跳ね上がるケースがあります。
長期契約や大手企業との取引が多いほど「安定的に売上が見込める」と判断され、割安リスクが低減します。
ロックイン率を示すと評価が高まる
継続課金比率や保守契約の更新率をデータで示すと、買い手は将来収益を具体的にイメージできます。
クラウドやAIなど高成長領域での実績は倍率を押し上げる要因です。
M&Aアドバイザーに相談し、類似案件の成約実績や最新のEBITDA倍率を確認しましょう。
システム会社の企業価値は単一指標では測れません。複数アプローチを組み合わせて妥当なレンジを導きます。
時価純資産に「のれん」を加算する年倍法が代表例です。設備資産より人材資産が大きいIT業界では、のれんの妥当性が議論になります。
DCF法で5年程度のフリーキャッシュフローを割引計算し、端数価値を足し合わせます。成長シナリオが明確な場合に有効です。
EBITDAマルチプルが使われることが多く、システム会社の場合は5〜10倍のレンジになる事例が見られます。
価格が決まっても交渉と統合でつまずけば価値創出は実現しません。以下の五点を守ると成功確率が高まります。
技術特許や成功プロジェクトを案件リストに整理し、第三者が見ても分かる形で提示しましょう。
キーパーソンにはインセンティブ契約やリテンションボーナスを設定し、PMI期間中の離脱リスクを抑えます。
AI、IoT、DX需要の変化を定期調査し、買い手に最新ニーズへの対応力を示すことが重要です。
財務諸表、主要契約書、知財リスト、人材スキルマトリクスを事前にまとめると時間短縮になり、買い手の信頼を獲得できます。
アドバイザー、弁護士、会計士、税理士、ITコンサルタントをワンチーム化し、戦略策定からクロージング、PMIまで一貫して伴走してもらいましょう。
過去の具体的な事例は成功要因を示す格好の教材です。ここでは6件を簡潔に振り返ります。
アイ・ティ・コンサルティングを子会社化(2019年8月)し、新規クライアントを獲得しました。目的が明確でPMIも短期間に完了した点が成功要因です。
S'PLANT子会社化(2021年3月)により競争力を高めました。内製化とサービス範囲拡大が狙い通り成果を上げました。
インテック武漢を子会社化(2021年1月)し海外拠点を獲得。地理的シナジーを重視した典型例です。
八木ビジネスコンサルタント子会社化(2020年2月)後、次世代サービスを共同開発しました。
藤井の子会社化(2020年8月)により研究開発能力が向上。技術背景が近い企業を組み合わせる好例です。
ケア・ダイナミクス子会社化(2020年5月)で自社製品展開を加速し、人員活用効率が向上しました。
交渉成立後の統合こそが価値創出の本番です。
JIRAやRedmineなど開発管理ツールを統一し、ガバナンスを共通化すると情報共有がスムーズになります。
定期的に部門横断のワークショップを行い、価値観のすり合わせを図ります。これにより人材の相互理解が深まり、離職率低下に寄与します。
買収契約に退職防止条項を盛り込み、重要人材の突然退職を未然に防ぎます。
最後に、譲渡・譲受双方が注意すべきリスク対応をまとめます。
従業員説明会を複数回行い、不安を払拭する。
複数手法で企業価値を算定し、根拠を示す。
PMI計画を詳細に作り、実行責任者を明確化。
デューデリジェンス範囲を拡大し、IT・人事面も深掘りする。
デジタル化への対応と人材不足が続く限り、システム会社M&A需要は高水準で推移する見通しです。特にAIやクラウド領域に強い企業は引き合いが強く、プレミアム評価が期待できます。
システム会社M&Aを成功させるカギは、自社の強みをデータで示し、適切な譲受企業と早期に信頼関係を築くことです。価格相場を正しく把握し、専門家と共に綿密な準備とPMIを進めれば、事業承継と成長の両立が実現できます。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画