ブランドM&Aの実態:アパレル業界における18の事例と戦略

アパレル業界におけるブランドM&Aの最新動向と成功事例を解説。18の事例を通じて、M&Aがもたらすメリットや戦略的意義を探ります。ブランド価値の重要性から異業種参入まで、包括的に解説しています。

目次

  1. ブランドM&Aの定義と特徴
  2. ブランドが持つ重要性と価値
  3. アパレル業界の概要
  4. アパレル業界におけるブランドM&Aの現状
  5. ブランドM&Aが増加している背景
  6. ブランドM&Aがもたらすメリット
  7. アパレル業界内でのブランドM&A事例10選
  8. 異業種からアパレル業界へのM&A事例8選
  9. まとめ

ブランドM&Aの定義と特徴

ブランドM&Aとは、企業が自社で新たなブランドを構築するのではなく、すでに高い知名度を持つブランドを取得することで、短期間でのブランド展開を可能にするM&A手法です。

ブランドM&Aの特徴

この方法は、特にアパレル業界において、コスト削減や事業展開を目的として頻繁に行われています。

ブランドM&Aの主な特徴は以下の通りです。

1. 既存ブランドの獲得:一から構築するのではなく、すでに確立されたブランドを取得します。

2. 迅速な展開:高い知名度を持つブランドを獲得することで、短期間での事業展開が可能になります。

3. 目的の多様性:企業によって実施目的は異なりますが、近年はブランド買収型のM&Aが増加しています。

4. 業界特性:特にアパレル業界において多く見られる手法です。

5. 戦略的活用:コスト削減や事業拡大などの戦略的目的で活用されます。

ブランドM&Aは、企業が市場での競争力を迅速に強化したい場合や、新たな顧客層にアプローチしたい場合に有効な戦略となります。既存のブランド力を活用することで、自社で一から構築するよりも効率的にブランドポートフォリオを拡大することができます。

ブランドが持つ重要性と価値

ブランドは企業にとって非常に重要な無形資産であり、その価値は計り知れません。ブランド力は、商品やサービスに対する消費者の認知度や評価の高さを表す指標となります。

現代の消費者は、多様な選択肢の中から商品を選ぶ環境に置かれています。そのため、競合他社との差別化を図り、市場で勝ち残るためには、強力なブランド力を持つことが不可欠です。

ブランドの重要性と価値

ブランドの価値は、企業の財務状況だけでなく、消費者の心理や行動にも大きな影響を与えます。そのため、多くの企業がブランド構築や強化に多大な投資を行っており、ブランドM&Aもその戦略の一つとして注目されています。

ブランドの重要性と価値は以下の点に表れます。

1. 差別化:競合他社の製品やサービスと区別する要素となります。

2. 信頼性:消費者にとって、品質や信頼性の保証となります。

3. ロイヤルティ:強いブランドは顧客の忠誠心を高め、リピート購入につながります。

4. プレミアム価格:ブランド力が高ければ、より高い価格設定が可能になります。

5. マーケティング効率:認知度の高いブランドは、マーケティング活動の効率を向上させます。

アパレル業界の概要

アパレル業界は、衣服に関連する商品やサービスを取り扱う産業分野を指します。この業界は、衣服のデザイン、企画、製造、販売などの幅広い活動を encompass しています。

アパレル業界の特徴

アパレル業界は、消費者の嗜好の変化や経済状況の影響を受けやすく、常に変革と適応が求められる動的な市場です。そのため、企業は効果的なブランド戦略や効率的な事業運営を通じて、競争力を維持・強化する必要があります。

アパレル業界の主な特徴は以下の通りです。

1. 多様な事業者:アパレルメーカー、製造業者、小売店など、さまざまなタイプの企業で構成されています。

2. トレンドの重要性:ファッションのトレンドに敏感で、常に変化する消費者のニーズに対応する必要があります。

3. サプライチェーンの複雑さ:原材料の調達から製造、流通、販売まで、複雑なサプライチェーンを持っています。

4. ブランドの重要性:消費者の選択に大きな影響を与えるため、ブランド戦略が非常に重要です。

5. 季節性:季節ごとの需要変動が大きく、在庫管理が重要な課題となります。

6. グローバル化:生産拠点の海外シフトや、グローバルブランドの台頭など、国際的な動向の影響を受けやすい業界
   です。

アパレル業界におけるブランドM&Aの現状

アパレル業界は現在、大きな転換期を迎えており、従来のビジネスモデルからの転換と改革が求められています。この状況下で、ブランドM&Aは重要な戦略の一つとして注目されています。

アパレル業界におけるブランドM&Aの現状

アパレル業界におけるブランドM&Aは、単なる規模の拡大だけでなく、デジタル化やグローバル化といった業界の構造的変化に対応するための重要な手段となっています。企業は、M&Aを通じて新たな技術やノウハウを獲得し、変化する市場環境に適応しようとしています。

アパレル業界におけるブランドM&Aの現状は以下のようになっています。

1. 業界内再編:アパレル企業同士のM&Aが活発化しており、業界の再編が進んでいます。

2. 異業種参入:IT企業や投資ファンドなど、異業種からアパレル業界へのM&Aも増加しています。

3. デジタル化対応:ECサイトの運営会社やデジタルマーケティング企業の買収など、デジタル化への対応を目的とし
   たM&Aが見られます。

4. グローバル展開:海外ブランドの買収を通じて、グローバル市場への展開を図る企業も増えています。

5. ブランドポートフォリオの拡大:複数のブランドを持つことで、リスク分散や顧客層の拡大を図る企業が増加して
   います。

6. 販売チャネルの強化:小売業者との統合や、ECプラットフォームの買収など、販売チャネルの強化を目的としたM
   &Aも行われています。

ブランドM&Aが増加している背景

ブランドM&Aが増加している背景には、アパレル業界を取り巻く環境の変化や市場の成熟化があります。

以主な要因

1. 国内市場の成熟: 

 o 日本の消費市場は成熟期を迎え、新規ブランドの確立が困難になっています。

 o 既存の強力なブランドが市場を占有しており、新規参入の障壁が高くなっています。

2. 新ブランド育成の困難さ: 

 o 飲料業界などと同様に、アパレル業界でも長年の実績を持つブランドが市場を支配しています。

 o 新しいブランドを一から構築し、認知度を高めるには多大な時間とコストがかかります。

3. 市場の停滞: 

 o アパレル市場全体の成長が鈍化し、横ばい傾向にあります。

 o 企業は新たな成長戦略を模索する必要に迫られています。

4. デジタル化への対応: 

 o ECの台頭により、従来の店舗型ビジネスモデルの見直しが必要になっています。

 o デジタルマーケティングやオンライン販売のノウハウを持つ企業のM&Aが増加しています。

5. グローバル競争の激化: 

 o 海外ファストファッションブランドの日本進出により、競争が激化しています。

 o 国内企業も海外展開を視野に入れた戦略が必要になっています。

6. 効率化とシナジーの追求: 

 o 経営資源の効率的な活用や、ブランド間のシナジー効果を得るためにM&Aが選択されています。

7. 投資家からの圧力: 

 o 株主や投資家からの成長期待に応えるため、M&Aによる急速な事業拡大が選択されることがあります。

8. 後継者問題: 

 o 中小企業やファミリービジネスにおける後継者不足が、M&Aの増加につながっています。

これらの要因により、企業は自社でブランドを育成するよりも、既存のブランドを取得する方が効率的かつ効果的だと判断するケースが増えています。ブランドM&Aは、急速に変化する市場環境に適応し、競争力を維持・強化するための重要な戦略となっているのです。

ブランドM&Aがもたらすメリット

ブランドM&Aは、売り手と買い手の双方にさまざまなメリットをもたらします。以下では、それぞれの立場におけるメリットを詳しく解説します。

売り手のメリット:事業継続の可能性

ブランドを譲渡する側にとって、M&Aは以下のようなメリットがあります。

1. ブランドの存続: 

 o 自社ブランドを譲渡することで、そのブランドや商品を完全に消滅させることなく存続させることができます。

 o ブランドの歴史や価値を次の所有者に引き継ぐことができます。

2. 事業継続の機会: 

 o 経営難に陥っている小規模企業でも、ブランドM&Aにより事業を継続できる可能性があります。

 o 後継者不足に悩む企業にとって、事業承継の選択肢の一つとなります。

3. 資金調達: 

 o ブランド売却により、資金を調達することができます。

 o この資金を用いて、他の事業への投資や債務の返済などに充てることができます。

4. 経営資源の最適化: 

 o 非中核事業やパフォーマンスの低いブランドを売却することで、経営資源を主力事業に集中できます。

5. シナジー効果の実現: 

 o より大きな企業グループの一員となることで、スケールメリットや新たな成長機会を得られる可能性があります。

6. ブランド価値の最大化: 

 o 自社よりも効果的にブランドを運営できる企業に譲渡することで、ブランドの潜在的な価値を最大化できる可能性
   があります。

買い手のメリット:事業拡大と多角化の実現

ブランドを取得する側にとっては、以下のようなメリットがあります。

1. 迅速な事業拡大: 

 o 既存の知名度や顧客基盤を活用することで、短期間で事業を拡大できます。

 o 新規ブランドの立ち上げよりも、迅速に市場シェアを獲得できます。

2. 多角化の実現: 

 o 異なる市場セグメントや商品カテゴリーのブランドを取得することで、事業の多角化が可能になります。

 o リスク分散や新たな成長機会の創出につながります。

3. シナジー効果の創出: 

 o 既存事業とのシナジーを通じて、コスト削減や収益性の向上が期待できます。

 o 例えば、共通の生産設備や流通チャネルの活用などが可能になります。

4. 新技術やノウハウの獲得: 

 o ブランドと共に、そのブランドが持つ技術やノウハウを獲得できます。

 o これにより、自社の競争力を高めることができます。

5. 市場ポジションの強化: 

 o 競合ブランドを取得することで、市場でのポジションを強化できます。

 o 特定の市場セグメントでのシェア拡大につながります。

6. 新規顧客層へのアプローチ: 

 o 異なる顧客層をターゲットとするブランドを取得することで、新たな顧客層にアプローチできます。

 o これにより、顧客基盤の拡大と多様化が可能になります。

7. ブランドポートフォリオの最適化: 

 o 複数のブランドを保有することで、市場の変化に柔軟に対応できます。

 o 各ブランドの強みを活かした戦略的な展開が可能になります。

8. 海外展開の加速: 

 o 海外で人気のブランドを取得することで、グローバル展開を加速させることができます。

 o 現地の市場知識や販売ネットワークを活用できます。

ブランドM&Aは、売り手と買い手の双方にとって、事業戦略上重要な選択肢となっています。適切に実行されれば、両者にとってWin-Winの結果をもたらす可能性があります。

アパレル業界内でのブランドM&A事例10選

アパレル業界では、さまざまな理由でブランドM&Aが行われています。

特徴的な事例を10選

1. TSIホールディングスと3ミニッツ: 

 o TSIホールディングスが、Webマガジン運営会社の3ミニッツを買収。

 o 目的:デジタル企業化を推進する経営戦略の一環。

 o 結果:ETRÉ TOKYOの事業を譲受し、新たな顧客層の獲得と市場拡大を目指す。

2. C.R.E.A.Mとジャパンイマジネーション: 

 o ドレス企画・販売のC.R.E.A.Mが、カジュアルブランド2つを譲受。

 o 目的:フォーマル以外の分野への展開。

 o 結果:自社サイトを活用した新たなブランド展開を実現。

3. W&Dインベストメントデザイン・八木通商とリデア: 

 o ファンド運用会社と繊維専門商社が、セレクトショップ「STRASBURGO」を展開するリデアの共同スポンサー
   に。

 o 目的:リデアの事業再構築。

 o 結果:新設されたオンラインストアに事業を譲渡。

4. 宝島ジャパンとアパレルECサイト運営会社: 

 o アパレルショップ運営の宝島ジャパンが、ECサイト運営会社の事業と在庫を譲受。

 o 目的:デジタル化への対応とシナジー効果の創出。

 o 結果:デジタル面の強化と過剰在庫の解消を同時に実現。

5. ワークトゥギャザー・ロックトゥギャザーと神戸ザック: 

 o セレクトショップ運営会社が、老舗バッグメーカー神戸ザックの「イモック」ブランドを譲受。

 o 目的:神戸ザックの後継者問題の解決。

 o 結果:ブランドの存続と技術継承を実現。

6. ニッセンとマロンスタイル: 

 o 通販大手のニッセンが、大きいサイズ専門ECサイト運営のマロンスタイルを完全子会社化。

 o 目的:特殊サイズセグメントへの経営資源集中。

 o 結果:ニッセンの大きいサイズ事業の強化。

7. ワールドとラクサス・テクノロジーズ: 

 o アパレル大手のワールドが、ブランドバッグレンタルサービス会社を譲受。

 o 目的:新たなビジネスモデルの獲得。

 o 結果:シェアリングエコノミー市場への参入を実現。

8. アングローバルとアンドワンダー: 

 o TSIホールディングス子会社のアングローバルが、アウトドアブランドのアンドワンダーを子会社化。

 o 目的:EC分野の強化と事業規模の拡大。

 o 結果:アウトドア市場への本格参入を果たす。

9. 花菱縫製とメルボグループ: 

 o オーダースーツ企業の花菱縫製が、紳士服・メンズウェアを扱うメルボグループと統合。

 o 目的:生産・販売事業の統合によるシナジー効果の創出。

 o 結果:両社の強みを活かした事業展開が可能に。

10. TSIホールディングスとHUF: 

 o TSIホールディングスが、米国のストリートブランドHUFの株式90%を取得。

 o 目的:グローバル展開の強化。

 o 結果:国内外での成長機会の獲得。

これらの事例から、アパレル業界内でのブランドM&Aは、デジタル化対応、事業多角化、グローバル展開、後継者問題の解決など、さまざまな目的で行われていることがわかります。各企業は、M&Aを通じて自社の課題解決や成長戦略の実現を図っています。

異業種からアパレル業界へのM&A事例8選

アパレル業界では、業界内だけでなく異業種からのM&Aも増加しています。以下に、特徴的な8つの事例を紹介します。

SpiberとCRF Citrus: 

o バイオ素材開発のSpiberが、アパレル商社CRF Citrusと資本業務提携。

o 目的:環境配慮型素材の共同開発と普及。

o 結果:サステナブルファッションの推進。

アパレルReSTARTファンドとFactory Express Japan: 

o アパレル業界支援ファンドが、アパレルOEM企業を完全子会社化。

o 目的:Factory Express Japanの事業拡大支援。

o 結果:OEM事業の強化とアパレル業界全体の活性化。

インキュベイト・ファンドとpark&port: 

o ベンチャーキャピタルが、D2Cブランド運営のpark&portに出資。

o 目的:park&portの成長支援。

o 結果:D2Cブランドの拡大と新たなビジネスモデルの促進。

九州オープンイノベーションファンドとpatternstorage:

o 地域密着型ファンドが、アパレル生産管理クラウドソフト開発のpatternstorageに出資。

o 目的:アパレル製造業のDX支援。

o 結果:地域産業のイノベーション促進。

ZホールディングスとZOZO:

o IT大手のZホールディングスが、ファッションECサイト運営のZOZOを子会社化。

o 目的:EC事業の強化とシナジー効果の創出。

o 結果:オンラインファッション市場でのポジション強化。

株式会社ヤギと有限会社アタッチメント:

o 繊維卸売業のヤギが、アパレルブランド運営のアタッチメントを子会社化。

o 目的:企画から販売までの一貫体制構築。

o 結果:ブランド力と販売事業の強化。

AnyMind GroupとLÝFT: 

o IT企業のAnyMind Groupが、フィットネスブランドLÝFTに資本参加。

o 目的:インフルエンサーマーケティングとの連携。

o 結果:新たなブランド展開とグローバル販路の拡大。

丸井グループの子会社とGOOD VIBES ONLY:

o 小売大手の子会社が、アパレルDXソリューション提供のGOOD VIBES ONLYと資本業務提携。

o 目的:アパレル業界のDX推進。

o 結果:リアル店舗とデジタル技術の融合。

まとめ

ブランドM&Aは、アパレル業界において重要な戦略となっています。市場の成熟化や消費者行動の変化に対応するため、企業は既存の強力なブランドを獲得し、迅速な事業展開を図っています。業界内だけでなく、異業種からの参入も増加しており、デジタル化やサステナビリティなど、新たな価値創造が進んでいます。ブランドM&Aは、企業の成長戦略を実現する有効な手段として、今後も注目され続けるでしょう。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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