社会福祉法人M&Aの特徴|3つのスキーム、メリット、注意点を解説

社会福祉法人は、一般の民間企業とは異なり、所轄庁の許認可が必要となる法人であり、M&Aにおいては特有のポイントが存在します。理解を深め、適切な手順で手続きを進めなければなりません。この記事では、社会福祉法人のM&Aにおける特徴やメリット、注意点、流れについて解説しますので、ぜひ参考にしてください。 

目次

  1. 社会福祉法人とは
  2. 社会福祉法人のM&Aの特徴
  3. 社会福祉法人M&A 3つのスキーム
  4. 社会福祉法人M&Aのメリット
  5. 社会福祉法人M&Aの注意点
  6. 社会福祉法人M&Aの流れ
  7. 社会福祉法人M&Aまとめ

社会福祉法人とは

社会福祉法人とは、社会福祉法に基づいて設立され、社会福祉事業を目的とする法人です。第一種社会福祉事業および第二種社会福祉事業を行うことができます。福祉サービスだけでなく、地域のニーズに対応した新しいサービスを提供する組織もあります。また、株式を持たない非営利組織となります。 

社会福祉法人のM&Aの特徴

厚生労働省から2020年に「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」が公表されました。このガイドラインでは、社会福祉法人が合併・事業譲渡を行う際の手続・注意点が説明されています。また、厚生労働省は「合併・事業譲渡等マニュアル」も提供しており、実行の際の注意点等が解説されています。

社会福祉法人には、公益性や非営利性が求められるため、株式会社などの一般法人とは異なり、M&Aにも多くの制限があり、所轄官庁などとの事前協議を必要とします。事業譲渡・合併には、許認可や資産移動を伴い完了までに時間がかかることや、年度をまたぐと手続きの重複が生じることがあります。そのため、計画的かつ余裕を持った対応が必要になります。

参考:社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン(厚生労働省)

参考:合併・事業譲渡等マニュアル(厚生労働省)

社会福祉法人M&A 3つのスキーム

厚生労働省が作成した前述の『ガイドライン』や『マニュアル』が予定するM&A手法は、社会福祉法人同士の「合併」か「事業譲渡」の2つです。実務的には、社会福祉法人の理事長等の交代により事業主体を変更し、実質的にM&Aを行う「経営権の譲渡」という方法もあります。

合併

複数の法人が1つの法人に統合することを「合併」といいます。社会福祉法人の場合には、社会福祉法により合併の相手方は社会福祉法人に限定され、株式会社等の一般法人との合併は認められていません。社会福祉法人間での合併には、「吸収合併」と「新設合併」の2通りの方式が存在しますが、通常は「買い手」が「売り手」を実質的に買収する吸収合併が選択されることになります。

合併を進めるには、所轄官庁から合併許可を得ることが必須です、合併に先立って、行政への事前説明・協議が不可欠ということです。

また、「マニュアル」では、社会福祉法人は、社会福祉法人外への対価性のない支出が認められないことが明記されています。そのため、合併対価に関して、正当な価値評価が求められる点に留意する必要があります。

参考:合併・事業譲渡等マニュアル(厚生労働省)

事業譲渡

社会福祉法人がその運営する特定の事業を他の組織に継承させるため、当該事業に関連する全ての資産を他の法人へ移転する取引を「事業譲渡」といいます。土地・建物等の有形資産のみならず、事業運営に必要なソフト資産(従業員、顧客データ、技術・ノウハウ等)も含まれます。

社会福祉法人が事業の一部を別の組織に譲渡することは可能ですが、運営中の全ての事業を一括して譲渡することはできません。合併とは違い株式会社等の一般法人が買い手になり得ますが、社会福祉法人の独占事業を譲渡する場合は、買い手も社会福祉法人である必要があります(一般法人が買い手となる場合新たに社会福祉法人としての認可を受ける必要があります)。

社会福祉法人は公益性が高いため、財産の処分には特に注意が必要です。国庫補助金で購入した財産を譲渡するには、厚生労働大臣等の承認が必要になる可能性があります。租税特別措置法に基づく寄付財産を譲渡するには、行政への事前相談が必要になる可能性があります。

また、社会福祉法人では対価性のない支出が認められていないため、事業譲渡の対象となる事業価値と対価が等価となる必要がある点に留意が必要です。

なお、売り手となる社会福祉法人では、定款記載の基本財産・事業種別の変更に該当する可能性が高く、その場合には所轄官庁の承認が求められます。

経営権の譲渡(理事長交代の“対価”は退職金)

「経営権の譲渡」とは、直接的に事業を移譲するわけではなく、事業の意思決定者である理事長等の交代により、経営権を旧経営陣(売り手)から新経営陣(買い手)に譲渡する行為です。これは、理事会の3分の2以上の賛成により完了するため、合併や事業譲渡と比較して費用や時間の面で節約になります。

退任する理事長等が手放す経営権に対する“対価”としての何らかの支払が可能かどうかは微妙な論点です。社会福祉法人の性質上、出資持分がないため、それを手放す「対価」としての支払いができません。

実務的には、退任する理事長等のそれまでの労苦に報いる等の観点から、退任する社会福祉法人から退職金の支給等がなされることがあります。

社会福祉法人M&Aのメリット

社会福祉法人がM&Aを行う際に享受できる利点について説明いたします。

事業の効率化が図れる

まず最初に挙げられるメリットは、事業の効率化が図れる点でございます。社会福祉法人同士が事業を統合することにより、重複する業務やコストを削減し、事業をより効率的に運営することが可能となります。

具体的な例としては、経営リソースを共有することで相手法人の人材、設備、ノウハウなどを有効活用できるようになり、より幅広い事業展開が可能となるでしょう。また、事業規模が拡大することで地域社会のニーズにも柔軟に対応できるようになり、それが更なるメリットとなります。

サービス品質の向上が期待できる

M&Aによって社会福祉法人の経営基盤が強化されると、資金や人材の集約が実現し、サービス品質の向上が期待できます。

これにより、新しい事業の展開や効率化が進められ、様々なニーズに対応できる可能性が高まるでしょう。

事業の持続性を強化できる

3つ目のメリットは、事業の持続性を強化できる点でございます。具体的には、事業の効率化や経営基盤の強化により、運営体制の見直しや、一法人では対応が難しい人員面での課題への対処ができるようになります。

社会福祉法人M&Aの注意点

ここでは、社会福祉法人がM&Aを行う際に注意すべき点について説明いたします。企業同士のM&Aとは異なり、社会福祉法人のM&Aでは以下の事柄を考慮して進めることが求められます。

対価の設定に注意すること

社会福祉法人がM&Aを行う際には、対価の設定に注意することが重要です。なぜなら、社会福祉法人の場合、法人外への対価性のない支出が認められないからです。したがって、譲渡側・譲受側のいずれも、適正価格を超える支払いや受け取りを行うと、法人外への資金流出となってしまいますので、注意が必要です。

M&Aの目的や条件によっては、対価を現金で支払わず、自己資本等を用いて支払うことも可能です。

許認可や手続きは注意深く取り組む

許認可や手続きに関しては、注意深く取り組む必要があります。その理由として、社会福祉法人のM&Aには独特のルールが存在し、社会福祉法によって手続きが定められているからです。M&Aを正確に遂行するためには、厚生労働省が提供している「合併・事業譲渡等マニュアル」を参照することが望ましいです。

事前に適切な調査を行い、手続きの確認を怠らないように注意することが重要です。

参考資料:合併・事業譲渡等マニュアル

事業情報は徹底的にチェックする

M&Aの目的には、サービスの質向上、事業効率化、経営基盤強化など様々な要素が含まれます。しかし、これらの目的を達成するためには、事業情報を十分に理解し、どのような方針で改善を進めるかを検討しておく必要があります。

そのため、事業継承に際しては、事業情報を徹底的に調査し、円滑な引き継ぎができるように準備しておくことが大切です。

職員や事業者への事前説明が重要

M&Aを進めるにあたっては、職員や事業者への事前説明が不可欠です。具体的には、M&Aの目的や背景、影響範囲、今後の運営体制など、十分な情報を提供することが求められます。職員や事業者とのスムーズなコミュニケーションを通じて理解を得ることにより、M&A後にも組織の運営や地域社会に質の高い福祉サービスを継続して提供できることが期待されます。

また、事業譲渡や合併を行う場合、原則としてM&A前と変わらない条件での労働が求められます。労働条件を変更したい場合は、詳細な条件が記載された同意書を作成し、対象となる職員全員に配布して同意を得ることが必要です。

社会福祉法人M&Aの流れ

ここでは、社会福祉法人がM&Aを実施する際の流れをご紹介します。

相手方との調整を実施する

まずは、M&Aを実施する対象となる社会福祉法人との調整を行います。具体的な調整内容は以下の通りです。

• 合併後の業務分野や事業範囲の確認

• 組織構造の見直し

• 人員配置の検討

• 財務面の調整

協議する内容は多岐にわたりますので、相手方との調整を丁寧かつ円滑に行い、法的手続きに入る前に理解を深めておくことが重要です。

法的な手続

企業や団体が合併や譲渡を行う際には、様々な方法と手続きが存在しますが、一概にすべてのケースで適用されるわけではないため、必要な書類をそれぞれの状況に応じて用意しなければなりません。詳細は『マニュアル』を参照ください。

参考:合併・事業譲渡等マニュアル(厚生労働省)

関係者に対する説明

事業の合併や譲渡が実施される際は、利用者や家族、職員など関係者全員に十分な説明を行いましょう。具体的には以下の内容を伝えることが親切です。

• M&Aの目的

• 意義(理由)

• 影響

• 職員の給与

• 運営体制

• サービス内容の変更

これらの情報を事前にきちんと伝えておくことで、今後の運営がスムーズになります。

最終手続

上記の手順を踏んだ後、最終的な手続きを進めます。M&Aの内容や条件により手続きが異なりますが、確認事項に基づいてシステムの統合や制度の整備を実施することが一般的です。これらの手続きが完了するとM&Aは終了となります。

社会福祉法人M&Aまとめ

社会福祉法人のM&Aに関する特徴やメリット、注意点、進め方について解説しました。非営利性が求められる社会福祉法人のM&Aは、株式会社などの一般企業に比べて多くの制約があります。そのため、適切な手続きを確認しながら進めることが重要です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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