電気工事業界でM&Aが注目されています。人材不足や後継者問題の解決、事業拡大など、様々な目的で活用されるM&Aの特徴や事例、仲介会社の選び方までを詳しく解説します。
目次
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
電気工事会社は、私たちの生活に欠かせない電気設備の設置や保守を担う重要な存在です。一般住宅やマンション、オフィスビルなど、さまざまな建築物における電気工事を請け負っています。国土交通省の定義によれば、電気工事とは「発電設備、変電設備、送配電設備、構内電気設備等を設置する工事」を指します。
総務省の日本標準産業分類では、電気工事業は建設業の中の設備工事業に分類されています。この分類により、電気工事会社の業務範囲や法的位置づけが明確になっています。
電気工事会社は、主に以下の2つに分類されます。
一般電気工事業
主な業務
具体的な工事例
電気配線工事業
主な業務
具体的な工事例
これらの分類により、電気工事会社の専門性や得意分野が明確になり、顧客のニーズに合わせた適切な業者選定が可能となります。
電気工事会社には、他の業種とは異なるいくつかの特徴があります。
労働集約型事業
技術革新への迅速な対応
景気変動の影響を受けやすい
これらの特徴を理解し、適切に対応することが、電気工事会社の持続的な成長と発展につながります。技術力の向上と人材育成、そして景気変動に耐えうる安定した経営基盤の構築が、今後の電気工事会社にとって重要な課題となるでしょう。
電気工事業界は、社会インフラの重要な一部を担う一方で、さまざまな課題に直面しています。業界の現状を正確に把握することは、今後の事業戦略を立てる上で非常に重要です。
電気工事業界の市場規模は、建設業界全体の動向と密接に関連しています。2022年度の設備工事(電気・電設)業界の主要20社の受注高は、1兆8,422億円に達しました。これは前年比11.4%増であり、2年連続の増加となりました。
しかし、この数字を楽観的に捉えるのは早計です。この増加傾向は、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年度に大きく落ち込んだ受注高からの回復を反映したものと考えられます。コロナ禍による建設工事の中止や延期が、電気工事業界の受注高に大きな影響を与えたことは記憶に新しいところです。
このように、電気工事業界は外部環境の変化に敏感であり、経済情勢や社会情勢の変動が業界全体の景気に直接影響を与えます。そのため、市場動向を常に注視し、柔軟な経営戦略を立てることが求められます。
電気工事業界は、近い将来に2つの大きな課題に直面することが予想されています。
2024年問題
内容
影響
対策
2025年問題
背景
課題
これらの課題に対応するためには、以下のような取り組みが必要となります。
電気工事業界は、これらの課題に適切に対応することで、持続可能な成長を実現し、社会インフラの維持・発展に貢献することができます。2024年と2025年に向けて、早急な対策立案と実行が求められています。
電気工事会社は、業界全体の課題に加えて、個々の企業レベルでもさまざまな経営課題に直面しています。これらの課題を適切に把握し、対策を講じることが、持続可能な経営を実現する上で重要です。
多くの電気工事会社、特に中小企業において、後継者不足が深刻な問題となっています。
主な原因
影響
後継者問題の解決には、早期からの事業承継計画の策定や、従業員承継、M&Aなどの選択肢を検討することが重要です。
電気工事業界全体で人材不足が深刻化しており、同時に従業員の高齢化も進んでいます。
人材不足の現状
経済産業省の予測によると、2045年には第3種電気主任技術者が4,000人、第2種電気工事士が3,000人不足する見込みです。
原因
若者の建設業離れ対策
労働環境の改善技術革新のスピードが速い電気工事業界では、競争力の維持・強化が常に求められます。
競争力低下の要因
技術力の不足競争力強化のための施策
継続的な技術研鑽これらの課題に適切に対応することで、電気工事会社は持続可能な成長を実現し、激しい競争環境下でも生き残ることができます。経営者は長期的な視点を持ち、戦略的に課題解決に取り組むことが求められます。
電気工事業界では、さまざまな経営課題の解決策としてM&Aが注目されています。業界特有の課題に対応するため、M&Aの活用方法にも特徴的な傾向が見られます。
人材不足と後継者問題は、電気工事業界における最も深刻な課題の一つです。これらの問題解決のために、M&Aが積極的に活用されています。
事業承継型M&A
目的
特徴
メリット
人材確保のためのM&A
目的
特徴
メリット
電気工事業界では、業界の枠を超えた異業種・他業種とのM&Aも増加しています。これは、事業の多角化や新たな成長機会の創出を目指す動きと言えます。
多角化戦略としてのM&A
目的
事例
メリット
技術融合を目的としたM&A
目的
特徴
メリット
地域拡大を目的としたM&A
目的
特徴
メリット
電気工事業界におけるM&Aは、単なる規模の拡大だけでなく、経営課題の解決や新たな成長機会の創出など、多様な目的で活用されています。
電気工事会社におけるM&Aは、事業売り手(売り手)と事業買い手(買い手)の双方にさまざまなメリットをもたらします。これらのメリットを理解することで、M&Aを戦略的に活用し、企業価値の向上につなげることができます。
事業売り手、特に中小の電気工事会社にとって、M&Aは事業継続の有効な選択肢となります。
事業継続の実現
後継者問題の解決
従業員の雇用維持
技術・ノウハウの継承
経営者の引退後の生活保障
譲渡対価の確保
退職金の確保
事業の発展機会
経営資源の補完
新規事業への挑戦
負債の解消
財務体質の改善
経営リスクの軽減
事業買い手にとっても、M&Aは成長戦略を加速させる有効な手段となります。
人材の確保
即戦力の獲得
技術力の向上
事業規模の拡大
市場シェアの拡大
地域展開の促進
新規事業への参入
多角化の実現
リスク分散
コスト削減とシナジー効果
重複業務の統合
設備の共同利用
技術の相互補完
競争力の強化
技術力の向上
顧客基盤の拡大
財務体質の改善
キャッシュフローの改善
税務上のメリット
電気工事会社のM&Aは、売り手・買い手双方にとって、さまざまなメリットをもたらす可能性があります。しかし、これらのメリットを最大限に引き出すためには、綿密な事前調査と適切なM&A戦略の立案が不可欠です。
M&Aを成功させるためには、専門的な知識と経験を持つM&A仲介会社のサポートが不可欠です。電気工事会社が最適なM&A仲介会社を選ぶ際には、以下のポイントに注目することが重要です。
電気工事業界特有の課題や動向を理解している仲介会社を選ぶことが、スムーズなM&Aプロセスにつながります。
重要ポイント
メリット
M&A仲介会社には、得意とする企業規模があります。自社の規模に合った実績を持つ仲介会社を選ぶことが重要です。
重要ポイント
メリット
M&Aには多岐にわたる専門知識が必要です。様々な分野の専門家が在籍している仲介会社を選ぶことで、包括的なサポートが期待できます。
重要ポイント
メリット
その他の選定ポイント
コミュニケーション能力
フィー構造の透明性
ネットワークの広さ
アフターフォロー体制
適切なM&A仲介会社を選ぶことは、M&Aの成功確率を高める重要な要素です。電気工事会社の経営者は、これらのポイントを考慮しながら、自社の状況と目的に最も適した仲介会社を慎重に選定することが大切です。
電気工事業界では、さまざまな目的でM&Aが活用されています。ここでは、実際に行われたM&Aの事例を紹介し、その目的や効果について解説します。これらの事例を参考にすることで、自社のM&A戦略立案に役立つ洞察が得られるでしょう。
フジクラエンジニアリングは、電力会社や通信事業者を主要顧客とし、電力設備・通信設備の設計、加工などを請け負う企業です。この事例では、フジクラエンジニアリングがきんでんの完全子会社となるM&Aを実施しました。
M&Aの目的
期待される効果
このM&Aにより、両社は相互の強みを活かしつつ、成長が見込まれる再生可能エネルギー市場や5G関連の通信インフラ市場での競争力強化を図ることができます。
この事例では、建設機械レンタルや発電機・受変電機器などの販売、レンタル事業を営むサスコが、電気工事や電気設備、資材の販売を行う親和電気を連結子会社化しました。
M&Aの目的
期待される効果
このM&Aは、関連事業を持つ企業同士の統合による相乗効果を狙ったものと言えます。サスコにとっては新たな需要の創出につながり、親和電気にとっては大手企業の傘下に入ることで経営基盤の強化が期待できます。
この事例では、ガス供給事業、住宅販売・リフォーム、空調・衛生設備工事業などを手掛ける株式会社TOKAIが、電気設備工事業を営む中央電機工事の全株式を取得し、子会社化しました。
M&Aの目的
期待される効果
このM&Aは、地域展開と事業領域の拡大を同時に実現する戦略的な取り組みと言えます。TOKAIにとっては新たな地域での事業拡大とサービスラインナップの拡充につながり、中央電機工事にとっては大手企業グループの一員となることで、経営の安定化と成長機会の獲得が期待できます。
これらの事例から、電気工事業界におけるM&Aの特徴として以下の点が挙げられます。
電気工事会社がM&Aを検討する際は、これらの事例を参考にしつつ、自社の経営課題や成長戦略に合致した方法を選択することが重要です。また、M&A後の統合プロセスや社内文化の融合にも十分な注意を払い、期待される効果を最大限に引き出すことが成功への鍵となります。
電気工事業界におけるM&Aは、人材不足や後継者問題の解決、事業拡大、新規事業への参入など、様々な経営課題に対する有効な戦略として注目されています。業界特有の課題に対応するため、技術力の補完や地域展開を目的としたM&Aが多く見られます。
電気工事会社の経営者は、自社の状況と目的を十分に分析し、M&Aを経営戦略の一つとして積極的に検討することで、持続可能な成長と競争力の強化を実現できる可能性があります。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画