Powered by みつき税理士法人

最新2025年版M&A業種別動向と成功事例の解説

いまM&A業種動向が気になる皆さまへ。この記事では需要が高い六業種と注目三業種の成功事例を通じ、最適な戦略をすぐに理解できるよう簡潔に解説します。

目次

  1. M&Aが増加傾向にある背景
  2. M&A需要が高い6つの業種
  3. 注目を集める3つの業種とその将来性
  4. サービス業界のM&A成功事例に学ぶシナジー創出
  5. 建設・物件管理業界のM&A実例で見る地域戦略
  6. 情報通信IT業界のM&A動向と事例で読む競争力強化策
  7. 小売業界のM&A効果で理解するDXと規模の経済
  8. 飲食業界のM&A戦略で実現する業態多角化
  9. 製造業界のM&A実践事例が示す技術シナジー
  10. 業種別M&Aに関するQ&Aで疑問を解消
  11. まとめ

M&Aが増加傾向にある背景

日本企業がM&Aを選択する場面は年々増えています。その最大の理由は、企業が直面する経営課題を自力で解決する時間が残されていないためです。以下では代表的な三つの課題を整理しつつ、M&Aがどのように打開策となるかを説明します。

深刻化する人手不足への対応は人材統合が近道

少子高齢化で労働人口が減少する一方、デジタル化により必要なスキルは高度化しています。二社が一体となれば、

  • 職種や階層が重複しない人材を相互補完できる
  • 専門技術やノウハウを自社内に取り込める
  • 教育コストを抑えながら即戦力を確保できる

という効果が期待できます。単独採用に比べ時間もコストも節約できるため、人手不足解消策として注目されています。

後継者不在を乗り越え事業を守る

帝国データバンクの調査では、2022年時点で約57.2%の企業が後継者不在と回答しました。M&Aで経営を託すことで、

  • 顧客・従業員・取引先との関係を保ったまま事業を存続
  • 株式譲渡益を経営者のリタイア資金に充当
  • 地域雇用や技術を次世代に継承

といった効果が得られます。廃業を防ぎ、企業価値を次に繋ぐ仕組みとして広がっています。

経営基盤を強め競争に備える

市場縮小や原材料高騰など経営環境の変化は急激です。M&Aで規模や事業領域を拡大すると、

  • 売上規模の拡大により資金調達力が向上
  • 多角化でリスクを分散
  • スケールメリットによるコスト削減

といった経営基盤の強化が可能になります。安定しているように見える業種でも、変化の波に備えた布石としてM&Aを検討する動きが加速しています。

M&A需要が高い6つの業種

業種ごとにM&Aの目的や得られるメリットは異なります。ここでは需要が特に高い六業種を取り上げ、それぞれの動向と戦略の勘所を解説します。

サービス業界は介護人材不足解決が鍵

サービス業、特に介護分野では過半数の事業所が人材不足を訴えています。M&AによりICTや介護ロボットを扱う企業を取り込み、

  • 業務効率を高めながら人手不足を緩和
  • 多拠点展開でサービス品質を均一化
  • 新技術導入で利用者体験を向上

といった相乗効果を実現できます。

【深掘り】サービス業界では、介護事業だけでなく学習塾やフィットネスなど対人サービスでも同様の課題があり、買い手は地域で確立されたブランドを得ることで広告費を抑えながら短期に顧客を獲得できます。売り手は大手グループの研修制度や福利厚生を取り入れることで働き手の定着率を高められる点も評価ポイントです。

建設・物件管理業界は資源共有で競争力向上

建設や物件管理では、同業・隣接業種との統合が活発です。販売網、職人、ノウハウを束ねることで、

  • 受注力と施工力を同時強化
  • 地域に根ざした基盤と大手の信用力を融合
  • 一貫施工体制を構築し利益率を改善

といった効果が期待できます。

【深掘り】建設・物件管理では、電気・管工事の資格保有者確保が至上命題です。M&Aで資格者を抱える企業を傘下に入れれば、公共工事の入札要件を満たし案件獲得の幅が広がります。また、物件管理会社を組み合わせることで竣工後のストックビジネスを安定収益源に変える動きも顕著です。

情報通信IT業界は技術獲得と市場拡大を加速

DXの波が全産業に広がる中、IT企業は同業のみならず異業種からも買い手が殺到しています。M&Aを通じて

  • AIやセキュリティなど先端技術を保有する人材を確保
  • 自社サービスと組み合わせた新規事業に迅速参入
  • 海外企業買収でグローバル市場へ一気に展開

といった攻めの戦略を描く事例が増えています。

【深掘り】IT業界におけるクロスボーダーM&Aは資金だけでなく文化の統合が課題となります。成功企業はPMI(統合プロセス)で開発手法やコミュニケーションツールを早期に統一し、離職を防ぎながらイノベーションを継続させています。

小売業界はオムニチャネル強化で生き残る

ECと実店舗の融合が進む小売業界では、大手同士の統合に加え地域スーパーの買収も活発です。M&Aの利点は、

  • 店舗網を短期間で拡大し商圏を広げる
  • 物流・仕入の共同化でコストを圧縮
  • ARやデータ分析による購買体験の革新

など多岐にわたります。実店舗が抱える課題をデジタル化で乗り越える動きが加速しています。

【深掘り】小売業界のDXは、AR仮想試着やデータドリブンな販促などテクノロジー起点で進んでいます。ITスタートアップとの資本提携は、実店舗が抱える在庫最適化や接客効率の課題に即効性のある解を提供できるため、異業種M&Aの代表例として注目されます。

飲食業界は多様化と効率化へ挑戦

外食産業は消費者ニーズ多様化と人手不足が同時進行です。異なる業態を束ねることで、

  • 顧客層を相互に取り込み需要変動を平準化
  • 仕入・物流を統合して原価とロスを削減
  • 新業態開発力を取り込み変化に素早く対応

といったシナジーが得られます。コロナ禍を経てテイクアウトやデリバリー強化のための提携も増えています。

【深掘り】飲食業界では、セントラルキッチンの共同利用により味の標準化と原価低減を実現するケースが増加中です。M&Aにより新たなメニュー開発力を取り込み、複数ブランドをマルチチャネルで展開する“飲食版D2C”モデルも登場しています。

製造業界は技術力と規模を同時に得る

製造業、とりわけ半導体・精密機器分野では、技術革新の速度が速く設備投資も巨額です。同業買収により

  • 研究開発リソースを共有し次世代製品を早期投入
  • 生産拠点を最適配置し国際競争力を向上
  • 後継者問題を抱える高付加価値メーカーの技術を継承

することで、市場シェアを伸ばす動きが目立っています。

【深掘り】製造業界での後継者問題は深刻で、特許や独自加工技術を持つ町工場が廃業の危機に瀕しています。大企業はこうした技術集積を丸ごと取得することで研究開発期間を短縮し、競合に対し優位に立つことができます。

注目を集める3つの業種とその将来性

社会構造の変化や制度改正を踏まえ、今後さらにM&Aが進むと見込まれる業種を取り上げます。

調剤薬局はチェーン化とICTで再編進行

調剤薬局は報酬改定による収益圧縮と後継者不足の二重苦に直面しています。大手チェーンは地域薬局を買収し、

  • 在宅医療対応や健康サポート機能を強化
  • 発注・在庫をクラウドで一元管理し収益性を改善
  • 地域連携薬局として医療機関との結び付きを深める

ことで持続可能なモデルを構築しています。

【展望】調剤薬局ではオンライン服薬指導が解禁され、IT企業との協業が不可欠になりました。M&Aでシステム開発力を手に入れた薬局チェーンは、患者データを安全に管理しながら利便性向上を図ることで差別化を進めています。

ホテル業界は需要回復とDXで新モデル創出

感染症による需要低迷で経営体力を失った独立系ホテルが増えました。大手チェーンによるM&Aは、

  • ブランド統合で集客力を底上げ
  • バックヤードを共通基盤化し運営コストを削減
  • スマートチェックインなどテクノロジーで顧客体験を刷新

といった再生策を実行し、観光需要回復局面での飛躍を狙います。

【展望】ホテル業界はサブスクリプション型滞在プランやワーケーション需要を取り込むため、データベース化された顧客属性をグループ内で共有し、パーソナライズされたサービスを提供するDXへの投資が盛んです。小規模ホテルは単独での投資が難しく、M&Aが資金とノウハウを受け取る手段になっています。

医療業界は連携と高品質化で構造改革

医療機関は医師高齢化と設備投資負担が重く、単独経営では限界が見え始めています。M&Aや事業統合によって、

  • 地域医療連携を強化し診療科目を補完
  • IT企業との協業で遠隔医療や在宅ケアを拡充
  • 介護・福祉との連携で包括ケア体制を構築

といった新しいエコシステムを形にする動きが活発化しています。

【展望】医療業界では2024年5月の医療法改正により遠隔医療の報酬が見直され、ITインフラ整備を急ぐ医療機関が増えました。連携を前提としたM&Aであれば投資負担を分散し、短期間で質の高い診療体制を整えられます。

サービス業界のM&A成功事例に学ぶシナジー創出

サービス業界では人材確保と事業拡大を同時に進めるため、譲受企業が譲渡企業のブランドやノウハウを取り込み、付加価値を高める事例が増えています。特に介護や人材派遣など労働集約型ビジネスでは、M&Aによって短期間でサービス品質と規模の両方を引き上げることが可能です。

介護事業の規模拡大と革新を両立した完全子会社化の実例

ソニー・ライフケア株式会社が株式会社ゆうあいホールディングスを完全子会社化した取引は、介護事業の規模拡大と技術革新を同時に達成した好例です。ポイントは次の三点です。

  • ソニーグループのICT技術を活用し介護サービスの質を向上
  • 地域密着型運営を維持し従業員の安心感を確保
  • 運営ノウハウとブランド力の相互補完で収益力を強化

成功のポイントを整理

  1. ICTと介護ノウハウの融合が利用者満足度を引き上げた
  2. 従業員への説明会を重ね離職を最小化した
  3. 大手グループの財務基盤が新規施設開発を加速した

異業種提携で不動産ビジネスを変革した資本業務提携

人材サービス大手の株式会社マイナビと不動産テック企業リヴォート株式会社の資本業務提携は、異業種連携によるイノベーション創出を示しました。

  • マイナビの不動産ネットワークとリヴォートのARソリューションを融合
  • 不動産仲介の業務効率化と顧客体験の向上を実現
  • サービス開発を共同で進め新たな収益源を創出

提携が生んだ効果

  1. 成約手続をオンライン完結し時間短縮
  2. 物件閲覧のAR化で内見予約率が向上
  3. 共同マーケティングで若年層顧客を開拓

建設・物件管理業界のM&A実例で見る地域戦略

建設・物件管理業界では地域密着型企業の強みを取り込み、譲受企業が広域展開を進める動きが活発です。技能者不足や案件規模の大型化に対応するため、施工体制の再編が急務となっています。

地域基盤取得で受注増を実現した子会社化

高松建設株式会社が大昭工業株式会社を子会社化した事例では、土地勘と顧客基盤を持つ譲渡企業を取り込むことで、地域の受注機会を一気に拡大しました。両社の技術を共有し、大型案件の受注にも対応できる体制が整いました。

地域企業買収の利点

  • 既存顧客との信頼関係を引き継げる
  • 地元行政や金融機関とのネットワークを獲得
  • 施工後の物件管理ビジネスに横展開可能

総合エネルギー化を進めるLPガス事業買収

東邦ガス株式会社は株式会社ヤマサを買収し、都市ガス・LPガス・電気をワンストップで提供する総合エネルギー企業へ転換しました。顧客基盤を共有しクロスセルを推進することで、安定収益を確保しています。

買収後のシナジー

  1. 複数エネルギーをまとめた料金プランで解約率を低減
  2. 配送ネットワーク統合で物流コストを削減
  3. カーボンニュートラル電源提案で新規契約を獲得

情報通信IT業界のM&A動向と事例で読む競争力強化策

技術のライフサイクルが短いIT分野では、開発リソースと顧客データを素早く統合できる企業が優位に立ちます。以下の二つの事例は、国内外で注目された統合プロセスの好例です。

スマホ決済市場でユーザー統合を図った子会社化

株式会社メルペイは株式会社Origamiを子会社化し、ユーザー基盤と決済技術を統合しました。

  • 統合により加盟店網を迅速に拡大
  • 二社の開発リソースを集中し新機能を短期間で実装
  • 利用データを一元管理してマーケティング精度を高めた

統合成功の鍵

  1. ブランドロゴとUIを段階的に統一しユーザー離脱を防止
  2. コールセンター機能を一本化し運営コストを2割削減
  3. バックエンドAPIを共通化し外部連携を強化

海外セキュリティ企業買収で新興国市場へ拡大

日本電気株式会社(NEC)がブラジルのARCON INFORMATICA S.A.を買収した事例では、現地企業のノウハウを活かしつつNECの技術を展開。新興国市場でのシェア拡大とグローバルブランド価値の向上を同時に実現しました。

クロスボーダーM&Aの教訓

  • 現地経営陣を留任させ文化摩擦を最小化
  • セキュリティ人材の継続雇用でサービス品質を維持
  • NECの研究所と連携した脅威情報共有網を構築

小売業界のM&A効果で理解するDXと規模の経済

小売業界はテクノロジー活用と地域展開の両面でM&Aを戦略化しています。OMOの潮流が強まる今、実店舗の強みをデジタル化で補完する動きが目立ちます。

AR活用で購買体験を革新した資本提携

衣料品大手の株式会社アダストリアはプレティア・テクノロジーズ株式会社と提携し、AR試着サービスを導入しました。消費者は自宅で商品のサイズ感を確認でき、店舗とECの垣根を越えた購買体験が実現しました。

AR導入で得た成果

  • 返品率を15%削減し物流コストを圧縮
  • 顧客属性データからおすすめコーデ機能を開発
  • SNS連携によりUGCが拡散

地域スーパー統合で仕入効率を高めた完全子会社化

  • 株式会社アークスが株式会社オータニを完全子会社化した取引は、物流網の共有と共同仕入によりコストを削減し、関東圏への進出を加速させました。

統合後の効果

  1. 共同プライベートブランド開発で粗利率を向上
  2. 基幹システム統合で在庫回転率を改善
  3. 地域特性を踏まえた商品ラインナップで来店頻度が増加

飲食業界のM&A戦略で実現する業態多角化

飲食業界では業態の組み合わせにより需要変動リスクを平準化する戦略が取られています。加えてデリバリーやテイクアウト需要の取り込みも重要課題です。

しゃぶしゃぶと焼肉チェーン統合によるリスク分散

株式会社木曽路が株式会社大将軍を完全子会社化した事例では、異なる客層を持つ業態を組み合わせ、売上の季節変動を抑えました。食材調達の一元化で原価率も改善しています。

多業態展開の成果

  • 宴会需要と家族需要を同時に取り込み売上を平準化
  • 店舗レイアウトと厨房機器を共通化し改装コストを削減
  • 統一POSシステムでデータ分析精度を向上

新業態開発力を取り込んだ子会社化で若年層開拓

アークランドサービスホールディングス株式会社が株式会社バックパッカーズを子会社化し、若年層向けの新ブランドを迅速に展開しました。既存店舗のリブランディングも進め、グループ全体の客単価を押し上げています。

若年層ブランドの効果

  1. 映える内装とメニューでSNS投稿が急増
  2. モバイルオーダー導入により回転率を高めた
  3. 体験価値を高めリピーターを確保

製造業界のM&A実践事例が示す技術シナジー

製造業では技術シナジーが市場競争力を直接左右します。精密加工や半導体など高い参入障壁がある領域ほど、M&Aで技術と人材を一括して取得する動きが盛んです。

半導体装置メーカー統合で研究開発を加速

ローツェ株式会社が株式会社イアスを完全子会社化した統合では、双方の特許技術を組み合わせ次世代装置の開発スピードを高めました。大口顧客への提案力も向上し、受注単価を上げています。

技術統合のメリット

  • 重複設備の廃棄により固定費を圧縮
  • 研究テーマを再編成し開発期間を30%短縮
  • クロスライセンス効果で顧客の開発コストを削減

地域食品メーカー買収で市場と製品を多様化

ヨシムラ・フード・ホールディングスが丸太太兵衛小林製麺を完全子会社化し、北海道市場に本格進出しました。生麺分野のノウハウを活かし製品ラインナップを拡充、地域色を前面に出したマーケティングでブランドを強化しています。

地域展開の成功要因

  1. 既存チャネルとECを併用し販路を拡大
  2. 北海道産小麦を使用しブランドストーリーを訴求
  3. 観光客向け土産品開発で新たな売上柱を確立

業種別M&Aに関するQ&Aで疑問を解消

M&Aを検討する際に多くの経営者が抱く疑問を整理し、意思決定のヒントを示します。譲受企業・譲渡企業双方の視点から回答をまとめました。

同業種と異業種の選択は戦略との整合が決め手

同業種の統合は市場シェア拡大とコスト削減に即効性がありますが、機能重複の整理や企業文化融合に注意が必要です。一方、異業種統合はリスク分散とイノベーション創出に寄与しますが、PMIが複雑になりやすいため統合計画を綿密に立てることが不可欠です。

判断基準の整理

  • 自社が伸ばしたい事業領域と候補先の強みが合致しているか
  • シナジー効果が数値で検証できるか
  • 統合に伴うリスクと対策を可視化できているか

業種特化型仲介会社を選ぶメリットと留意点

特定業界に精通した仲介会社は規制や慣行を熟知し、譲受企業・譲渡企業双方に適切な候補を提示できます。ただし対象が限定されるため、複数社を比較し手数料体系やサポート範囲を確認することが重要です。

仲介会社選定のポイント

  1. 過去成約事例の開示と実績説明があるか
  2. 税務・労務など周辺サービスと連携しているか
  3. 手数料が成功報酬型で費用対効果が明確か

まとめ

M&Aは業種ごとの課題解決と成長加速を同時に叶える有力な手段です。事例が示す通り、譲受企業と譲渡企業が相互の強みを掛け合わせれば、技術革新、人材確保、地域拡大など多面的な効果が得られます。業界特性を正しく理解し、自社戦略と整合する相手を選ぶことが成功の第一歩です。専門家の助言を受けながら計画的に進めれば、PMIの負担を抑えシナジーを早期に実現できます。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

相続の教科書