最新2025年版M&A業種別動向と成功事例の解説
いまM&A業種動向が気になる皆さまへ。この記事では需要が高い六業種と注目三業種の成功事例を通じ、最適な戦略をすぐに理解できるよう簡潔に解説します。
目次
▶目次ページ:第三者承継(M&A)(業種別M&A)
日本企業がM&Aを選択する場面は年々増えています。その最大の理由は、企業が直面する経営課題を自力で解決する時間が残されていないためです。以下では代表的な三つの課題を整理しつつ、M&Aがどのように打開策となるかを説明します。
少子高齢化で労働人口が減少する一方、デジタル化により必要なスキルは高度化しています。二社が一体となれば、
という効果が期待できます。単独採用に比べ時間もコストも節約できるため、人手不足解消策として注目されています。
帝国データバンクの調査では、2022年時点で約57.2%の企業が後継者不在と回答しました。M&Aで経営を託すことで、
といった効果が得られます。廃業を防ぎ、企業価値を次に繋ぐ仕組みとして広がっています。
市場縮小や原材料高騰など経営環境の変化は急激です。M&Aで規模や事業領域を拡大すると、
といった経営基盤の強化が可能になります。安定しているように見える業種でも、変化の波に備えた布石としてM&Aを検討する動きが加速しています。
業種ごとにM&Aの目的や得られるメリットは異なります。ここでは需要が特に高い六業種を取り上げ、それぞれの動向と戦略の勘所を解説します。
サービス業、特に介護分野では過半数の事業所が人材不足を訴えています。M&AによりICTや介護ロボットを扱う企業を取り込み、
といった相乗効果を実現できます。
【深掘り】サービス業界では、介護事業だけでなく学習塾やフィットネスなど対人サービスでも同様の課題があり、買い手は地域で確立されたブランドを得ることで広告費を抑えながら短期に顧客を獲得できます。売り手は大手グループの研修制度や福利厚生を取り入れることで働き手の定着率を高められる点も評価ポイントです。
建設や物件管理では、同業・隣接業種との統合が活発です。販売網、職人、ノウハウを束ねることで、
といった効果が期待できます。
【深掘り】建設・物件管理では、電気・管工事の資格保有者確保が至上命題です。M&Aで資格者を抱える企業を傘下に入れれば、公共工事の入札要件を満たし案件獲得の幅が広がります。また、物件管理会社を組み合わせることで竣工後のストックビジネスを安定収益源に変える動きも顕著です。
DXの波が全産業に広がる中、IT企業は同業のみならず異業種からも買い手が殺到しています。M&Aを通じて
といった攻めの戦略を描く事例が増えています。
【深掘り】IT業界におけるクロスボーダーM&Aは資金だけでなく文化の統合が課題となります。成功企業はPMI(統合プロセス)で開発手法やコミュニケーションツールを早期に統一し、離職を防ぎながらイノベーションを継続させています。
ECと実店舗の融合が進む小売業界では、大手同士の統合に加え地域スーパーの買収も活発です。M&Aの利点は、
など多岐にわたります。実店舗が抱える課題をデジタル化で乗り越える動きが加速しています。
【深掘り】小売業界のDXは、AR仮想試着やデータドリブンな販促などテクノロジー起点で進んでいます。ITスタートアップとの資本提携は、実店舗が抱える在庫最適化や接客効率の課題に即効性のある解を提供できるため、異業種M&Aの代表例として注目されます。
外食産業は消費者ニーズ多様化と人手不足が同時進行です。異なる業態を束ねることで、
といったシナジーが得られます。コロナ禍を経てテイクアウトやデリバリー強化のための提携も増えています。
【深掘り】飲食業界では、セントラルキッチンの共同利用により味の標準化と原価低減を実現するケースが増加中です。M&Aにより新たなメニュー開発力を取り込み、複数ブランドをマルチチャネルで展開する“飲食版D2C”モデルも登場しています。
製造業、とりわけ半導体・精密機器分野では、技術革新の速度が速く設備投資も巨額です。同業買収により
することで、市場シェアを伸ばす動きが目立っています。
【深掘り】製造業界での後継者問題は深刻で、特許や独自加工技術を持つ町工場が廃業の危機に瀕しています。大企業はこうした技術集積を丸ごと取得することで研究開発期間を短縮し、競合に対し優位に立つことができます。
社会構造の変化や制度改正を踏まえ、今後さらにM&Aが進むと見込まれる業種を取り上げます。
調剤薬局は報酬改定による収益圧縮と後継者不足の二重苦に直面しています。大手チェーンは地域薬局を買収し、
ことで持続可能なモデルを構築しています。
【展望】調剤薬局ではオンライン服薬指導が解禁され、IT企業との協業が不可欠になりました。M&Aでシステム開発力を手に入れた薬局チェーンは、患者データを安全に管理しながら利便性向上を図ることで差別化を進めています。
感染症による需要低迷で経営体力を失った独立系ホテルが増えました。大手チェーンによるM&Aは、
といった再生策を実行し、観光需要回復局面での飛躍を狙います。
【展望】ホテル業界はサブスクリプション型滞在プランやワーケーション需要を取り込むため、データベース化された顧客属性をグループ内で共有し、パーソナライズされたサービスを提供するDXへの投資が盛んです。小規模ホテルは単独での投資が難しく、M&Aが資金とノウハウを受け取る手段になっています。
医療機関は医師高齢化と設備投資負担が重く、単独経営では限界が見え始めています。M&Aや事業統合によって、
といった新しいエコシステムを形にする動きが活発化しています。
【展望】医療業界では2024年5月の医療法改正により遠隔医療の報酬が見直され、ITインフラ整備を急ぐ医療機関が増えました。連携を前提としたM&Aであれば投資負担を分散し、短期間で質の高い診療体制を整えられます。
サービス業界では人材確保と事業拡大を同時に進めるため、譲受企業が譲渡企業のブランドやノウハウを取り込み、付加価値を高める事例が増えています。特に介護や人材派遣など労働集約型ビジネスでは、M&Aによって短期間でサービス品質と規模の両方を引き上げることが可能です。
ソニー・ライフケア株式会社が株式会社ゆうあいホールディングスを完全子会社化した取引は、介護事業の規模拡大と技術革新を同時に達成した好例です。ポイントは次の三点です。
成功のポイントを整理
人材サービス大手の株式会社マイナビと不動産テック企業リヴォート株式会社の資本業務提携は、異業種連携によるイノベーション創出を示しました。
提携が生んだ効果
建設・物件管理業界では地域密着型企業の強みを取り込み、譲受企業が広域展開を進める動きが活発です。技能者不足や案件規模の大型化に対応するため、施工体制の再編が急務となっています。
高松建設株式会社が大昭工業株式会社を子会社化した事例では、土地勘と顧客基盤を持つ譲渡企業を取り込むことで、地域の受注機会を一気に拡大しました。両社の技術を共有し、大型案件の受注にも対応できる体制が整いました。
地域企業買収の利点
東邦ガス株式会社は株式会社ヤマサを買収し、都市ガス・LPガス・電気をワンストップで提供する総合エネルギー企業へ転換しました。顧客基盤を共有しクロスセルを推進することで、安定収益を確保しています。
買収後のシナジー
技術のライフサイクルが短いIT分野では、開発リソースと顧客データを素早く統合できる企業が優位に立ちます。以下の二つの事例は、国内外で注目された統合プロセスの好例です。
株式会社メルペイは株式会社Origamiを子会社化し、ユーザー基盤と決済技術を統合しました。
日本電気株式会社(NEC)がブラジルのARCON INFORMATICA S.A.を買収した事例では、現地企業のノウハウを活かしつつNECの技術を展開。新興国市場でのシェア拡大とグローバルブランド価値の向上を同時に実現しました。
クロスボーダーM&Aの教訓
小売業界はテクノロジー活用と地域展開の両面でM&Aを戦略化しています。OMOの潮流が強まる今、実店舗の強みをデジタル化で補完する動きが目立ちます。
衣料品大手の株式会社アダストリアはプレティア・テクノロジーズ株式会社と提携し、AR試着サービスを導入しました。消費者は自宅で商品のサイズ感を確認でき、店舗とECの垣根を越えた購買体験が実現しました。
AR導入で得た成果
統合後の効果
飲食業界では業態の組み合わせにより需要変動リスクを平準化する戦略が取られています。加えてデリバリーやテイクアウト需要の取り込みも重要課題です。
株式会社木曽路が株式会社大将軍を完全子会社化した事例では、異なる客層を持つ業態を組み合わせ、売上の季節変動を抑えました。食材調達の一元化で原価率も改善しています。
多業態展開の成果
アークランドサービスホールディングス株式会社が株式会社バックパッカーズを子会社化し、若年層向けの新ブランドを迅速に展開しました。既存店舗のリブランディングも進め、グループ全体の客単価を押し上げています。
若年層ブランドの効果
製造業では技術シナジーが市場競争力を直接左右します。精密加工や半導体など高い参入障壁がある領域ほど、M&Aで技術と人材を一括して取得する動きが盛んです。
ローツェ株式会社が株式会社イアスを完全子会社化した統合では、双方の特許技術を組み合わせ次世代装置の開発スピードを高めました。大口顧客への提案力も向上し、受注単価を上げています。
技術統合のメリット
ヨシムラ・フード・ホールディングスが丸太太兵衛小林製麺を完全子会社化し、北海道市場に本格進出しました。生麺分野のノウハウを活かし製品ラインナップを拡充、地域色を前面に出したマーケティングでブランドを強化しています。
地域展開の成功要因
M&Aを検討する際に多くの経営者が抱く疑問を整理し、意思決定のヒントを示します。譲受企業・譲渡企業双方の視点から回答をまとめました。
同業種の統合は市場シェア拡大とコスト削減に即効性がありますが、機能重複の整理や企業文化融合に注意が必要です。一方、異業種統合はリスク分散とイノベーション創出に寄与しますが、PMIが複雑になりやすいため統合計画を綿密に立てることが不可欠です。
判断基準の整理
特定業界に精通した仲介会社は規制や慣行を熟知し、譲受企業・譲渡企業双方に適切な候補を提示できます。ただし対象が限定されるため、複数社を比較し手数料体系やサポート範囲を確認することが重要です。
仲介会社選定のポイント
M&Aは業種ごとの課題解決と成長加速を同時に叶える有力な手段です。事例が示す通り、譲受企業と譲渡企業が相互の強みを掛け合わせれば、技術革新、人材確保、地域拡大など多面的な効果が得られます。業界特性を正しく理解し、自社戦略と整合する相手を選ぶことが成功の第一歩です。専門家の助言を受けながら計画的に進めれば、PMIの負担を抑えシナジーを早期に実現できます。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事