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広告業界のM&Aの最新動向や成功事例を徹底解説

広告業界でM&Aを検討していますか?本記事では市場規模の推移、最新のM&A動向、代表的な買収事例を小学生でも理解できる言葉で詳しく解説します。

目次

  1. 広告業界の基本構造と企業分類
  2. 広告業界の市場規模と媒体別動向
  3. 大手広告会社の影響力と中小企業の立ち位置
  4. 広告媒体の変遷とインターネット広告の台頭
  5. 広告業界が直面する課題と今後の展望
  6. 広告業界のバリューチェーンと収益モデル
  7. 広告業界のM&A動向と背景
  8. 売り手企業がM&Aを活用するメリット
  9. 買い手企業がM&Aを活用するメリット
  10. 代表的な広告M&A事例の整理
  11. 広告M&Aの今後の展望と成功のポイント
  12. まとめ

広告業界の基本構造と企業分類

広告業界には大きく広告を取り扱う仲介役の広告代理店と、広告クリエイティブを実際に制作する広告制作会社の二つが存在します。広告代理店は、広告を出したい企業(広告主)とテレビ・新聞・雑誌・Webなどの媒体を運営するメディアの間に立ち、企画立案からメディア選定、制作管理、掲載までを総合的に支援する企業です。一方、広告制作会社は紙面・ウェブを問わず媒体に掲載される広告素材そのものの制作を担い、デザインやコピーなどクリエイティブ領域に特化しています。制作会社は代理店からの依頼を受けてチームを編成し、カメラマンやライター、ディレクターと協働しながら広告主の目的に合った表現を作り上げます。


広告代理店はさらに三つのタイプに分類されます。


総合広告代理店

すべての広告媒体を扱い、全国規模のテレビCMから地域の新聞広告、デジタルバナーまでワンストップで提供します。大量の広告枠を事前に買い付けることで仕入価格を下げ、メディアプランニングから効果測定まで一貫したサービスを提供できる点が特徴です。


専門広告代理店

鉄道会社の交通広告や出版社の雑誌広告など、特定のメディアに特化した広告枠の販売に強みをもつ代理店です。系列メディアとの深い関係性を活かし、他社では調達しにくい独自枠を確保できます。


インターネット広告代理店

検索連動型広告やSNS広告、動画広告などオンライン領域に特化し、アドテクノロジーを用いた運用を強みとしています。キーワード設計から入札調整、クリエイティブABテストまで高速でPDCAを回し、広告効果の最大化を図ります。

それぞれの役割が補完し合う業界構造

総合広告代理店は大量の広告枠を一括購入して価格交渉力を高める一方、専門代理店は特定メディアの深い知見で差別化します。インターネット広告代理店はデータ計測やターゲティングを武器に広告効果の最大化を追求し、制作会社は多様なクリエイティブ提案でコンテンツの質を高めます。これら多様なプレーヤーが補完し合うことで、広告主は目的と予算に応じた最適なメニューを選択できるのが広告業界の特徴です。

広告業界の市場規模と媒体別動向

株式会社電通の調査によれば、2019年の日本の総広告費は6兆9,381億円で前年比101.9%と8年連続で拡大しました。媒体別に見ると、新聞4,547億円(95.0%)、雑誌1,675億円(91.0%)、ラジオ1,260億円(98.6%)、テレビメディア1兆8,612億円(97.3%)とマスメディアは軒並み減少傾向にある一方、インターネット広告媒体費は1兆6,630億円(114.8%)と二桁成長を維持し、初めて2兆円の大台を突破しました。屋外デジタルサイネージ3,219億円(100.6%)や交通広告2,062億円(101.8%)も緩やかに拡大しています。

インターネット広告がテレビを逆転した転換点

2019年、インターネット広告費がテレビメディア広告費を初めて上回りました。この出来事は広告史上の大きな転換点と呼ばれ、媒体の主戦場がテレビからデジタルへ移ったことを象徴しています。背景にはスマートフォンの普及拡大と、アドテクノロジーによる効果測定・ターゲティング精度の向上があります。

アドテクノロジーが生んだ「最適化」の価値

アドテクノロジーとは、ユーザーの行動データを解析し「適切な人に適切なタイミングで広告を届ける」技術です。メーカーは購買層に刺さる広告を少額から配信できるようになり、投資対効果の可視化も進みました。結果としてインターネット広告へのシフトが加速し、市場全体の構造変化を引き起こしています。

大手広告会社の影響力と中小企業の立ち位置

広告業界には電通、博報堂、アサツー・ディ・ケイ(ADK)の三大広告会社が存在し、売上高はそれぞれ1兆5,399億円、9,470億円、3,528億円と群を抜いています。彼らは豊富なノウハウと多彩な広告ジャンルを抱え、国内外の大型キャンペーンを包括的にプロデュースできる点が強みです。加えて国際的なネットワークを活用して海外市場へもサービスを提供し、グローバルな広告キャンペーンをリードしています。


一方、中小規模の代理店にも次のようなメリットがあります。


  • 低予算でも柔軟に対応できる
  • 経営者や担当者と距離が近く、迅速な意思決定が可能
  • 特定業界・地域に特化した深いネットワークを保有


広告主は「規模による安心感」か「専門性と機動力」かを天秤にかけ、目的に沿ってパートナーを選択しています。

競争優位を生むのは“専門性”と“スピード”

巨大資本を背景にもつ大手に対し、中小代理店は新興メディアやニッチ領域での先行投資を通じて差別化を図ります。特定プラットフォームに特化した運用スキルや、クリエイターとの緊密な協働体制が競争優位の源泉となり、大手との取引関係を補完する形で市場に存在感を示しています。

広告媒体の変遷とインターネット広告の台頭

数年前まで主流だったマスマーケティングは、不特定多数へ一斉に情報を届ける手法でした。しかし現在はデジタルデバイスの普及によって「個客」単位のアプローチが可能となり、広告は量から質へと価値基準が移行しています。


テレビ・紙媒体の縮小

新聞・雑誌広告費は長期的に減少傾向であり、若年層のメディア接触時間もデジタルに移行しています。


モバイルシフト

スマートフォン経由での検索や動画視聴が日常化し、SNSや動画配信サービスが主要な広告面となりました。


デジタルサイネージの成長

駅や店舗に設置されたディスプレイ広告は2021年に594億円規模となり、IoT技術との連動でさらなる拡大が期待されています。

5Gとコンサルティングファーム参入がもたらす衝撃

通信規格5Gの導入により、動画などリッチメディアの体験が向上し、リアルタイムデータを活用した広告配信が現実的になります。また、データ分析を得意とするコンサルティングファームが広告領域に参入し始めており、ビジネスモデルの再編が進んでいます。

広告業界が直面する課題と今後の展望

今後すべての広告媒体がインターネットと何らかの形で接続されると予想される中、各社が抱える課題は主に三つあります。


  1. デジタル人材の確保と育成
    データサイエンスやAI運用を担う専門人材が不足しており、採用競争が激化しています。
  2. グローバル市場での競争力強化
    国内市場の伸びが限定的なため、海外拠点の拡充やクロスボーダーM&Aが戦略課題となっています。
  3. 技術革新への迅速な対応
    5GやIoTなど技術トレンドの変化が早く、研究開発と事業化を並行で進める体制整備が求められます。


これらの課題を乗り越える鍵として注目されているのがM&A戦略です。特にインターネット広告代理店の買収は、技術力やノウハウを短期間で自社に取り込む有効な手段となっています。また、海外市場を視野に入れたM&Aにより新興国の成長を自社の売上へ取り込む事例も増えています。次章では広告業界におけるM&A動向と代表的な買収事例を詳しく見ていきます。

広告業界のバリューチェーンと収益モデル

広告業界は「メディアバイイング」「クリエイティブ開発」「プロモーション運用」「効果測定」という四つのフェーズで構成されます。広告代理店はメディアから広告枠を買い取り、広告主へ販売する際に広告枠のマージンや取扱手数料を得ています。加えてイベント企画運営やキャンペーンサイト制作などの付随業務を請け負うことで、制作費や運営費が収入源となります。

一方、広告制作会社は制作物ごとに見積を作成し、デザイン料・撮影料・コピーライティング料などを積算して収益を確保します。インターネット広告代理店の場合は、運用代行手数料として広告費の10〜20%を受け取るケースが一般的で、AI最適化ツールを自社開発して月額利用料を課すモデルも増えています。

収益源多角化が加速する背景

メディア環境の変化により、純粋な広告枠販売だけでは十分な利益を確保しづらくなっています。そのため、近年は下記のような収益多角化が進行しています。


CRMなど顧客データを活用したデータ事業

クライアントが保有する顧客データを統合し、広告配信精度を高めるサービスを提供。


コンテンツマーケティング支援

広告主のオウンドメディア運営や動画チャンネル制作を伴走し、継続課金を得るモデル。


海外事業展開支援

アジアや欧米向けキャンペーンの現地運用を請け負い、国際的なネットワーク利用料を得る。


こうした取り組みは、広告ビジネスにおける川上から川下までを一気通貫で支援する「フルファネル型」へのシフトを示しており、M&Aによる機能補完が一層重要になっています。


インターネット広告が主流となる現在、AI・データドリブンの運用だけでなく、ブランド価値を高めるクリエイティブ表現も依然として重要です。大手・中小・専門各社がそれぞれの強みを活かし、協働や資本提携を通じてバリューチェーンを再編する動きは今後さらに加速すると考えられます。

広告業界のM&A動向と背景

広告業界ではインターネット広告代理店を中心にM&Aが活発化しています。背景には三つの大きな流れがあります。


  1. メディア構造の変化
    マスメディア広告費の縮小とインターネット広告費の拡大により、デジタル領域の技術やノウハウを持つ企業の価値が高まっています。
  2. 成長戦略としての領域拡張
    広告主が求めるサービスは、ブランディング・CRM・データ解析など多岐にわたり、単独企業では機能を網羅しきれません。そこでM&Aにより新領域を取り込み、フルファネル対応を目指す動きが強まっています。
  3. 海外市場への進出
    国内市場の成熟と少子化により、海外需要を取り込むためのクロスボーダーM&Aが加速しています。電通や博報堂DYホールディングスはアジアや欧米の広告会社を毎年のように買収し、グローバル展開を加速しています。

インターネット広告代理店買収が増える理由

ブランディング目的の案件が増え、動画制作やSNS運用など専門スキルが不可欠になったことが要因です。中小規模のWeb代理店は独自の運用ノウハウや柔軟な開発体制を持つため、大手にとって魅力的な買収対象となっています。

売り手企業がM&Aを活用するメリット

広告代理店業界のM&Aで売り手が得られる主なメリットは次の五つです。


  1. 経営再建の機会
    財務基盤が弱い企業でも、大手の資本を得て人材投資やシステム投資を行うことで再成長を図れます。
  2. ブランド力・顧客チャネルの活用
    買い手が保有するブランドや取引ネットワークを活かして新規案件を獲得しやすくなります。
  3. 後継者問題の解決
    経営者が高齢化している場合でも、M&Aにより事業を存続させ社員の雇用を守れます。
  4. 経営者保証・担保の解消
    株式譲渡により個人保証の解除や資産担保の返還が可能となり、経営者個人のリスクを軽減できます。
  5. 譲渡収入の確保と引退
    株式譲渡対価を受け取り、経営から退くことでライフプランを明確に描けます。

売り手が注意すべきポイント

価格の妥当性だけでなく、買い手の企業文化や従業員処遇の方針を十分に確認し、統合後の混乱を避けることが重要です。

買い手企業がM&Aを活用するメリット

買い手側には次の三つの利点があります。


  1. 技術・ノウハウの即時獲得
    自社にないスキルを短期間で取り込めるため、デジタル領域での競争力を高められます。
  2. 顧客チャネルの拡大
    譲渡企業が抱える顧客基盤を引き継ぎ、クロスセルやアップセルを実現できます。
  3. 新分野への進出
    既存事業とシナジーを持つ領域に参入しやすく、成長ドライバーを多様化できます。

買い手が成功する条件

M&A完了後のPMI(統合プロセス)を計画段階から詳細に設計し、販売・人事・IT統合を段階的に進めることでシナジーを最大化できます。

代表的な広告M&A事例の整理

多数の事例の中から、原文と参考に記載された代表的ケースを領域別に整理します。

動画・クリエイティブ強化を目的とした事例

  • 2017年、GMOアドパートナーズはモーションコミック制作のシフトワンを子会社化し、動画広告の制作ノウハウを獲得しました。
  • 2020年、ゲンダイエージェンシーは動画広告プラットフォームに強みを持つRitaを買収し、新たなデジタルメディアを活用したサービスを提供しています。

AI・データ解析力を高めた事例

  • 2018年、電通はAIマーケティングソリューションのデータアーティストをM&Aし、AIを活用した広告最適化を強化しました。
  • 2021年、ニューラルポケットはデジタルサイネージ事業を手掛けるフォーカスチャネルを買収し、画像解析技術と屋外広告を組み合わせた新サービスを開発しています。

海外展開を目的とした事例

  • 2018年、大広はインドのFrom Here On Communications社を連結子会社化し、アジア市場への進出を推進しました。
  • 博報堂DYホールディングスはSY PartnersおよびRed Peak Groupを買収し、米国でのコンサルティングサービス基盤を拡充しました。

サービス多角化を狙った事例

  • ローカルフォリオはコンサルティング企業リードプラスを吸収合併し、デジタルマーケティング領域を拡大しました。
  • ベクトルはターミナルのデジタル広告事業を事業譲受し、戦略PRと広告運用を一体化したサービスを強化しました。

事例から学ぶ成功要因

自社戦略との整合性
買収目的を明確にし、足りない機能を的確に補完している。


PMIの迅速化
人材・ブランド統合を早期に進め、クライアントへのサービス提供を途切れさせない。


相互補完の文化醸成
双方の強みを尊重し、共同プロジェクトを通じてノウハウ共有を促進している。

広告M&Aの今後の展望と成功のポイント

インターネット広告市場は引き続き成長が見込まれ、AI・データを活用したターゲティング精度向上が競争軸になります。今後の成功の鍵は次の三点です。


  1. データ連携基盤の構築
    統合データプラットフォームを整備し、広告・CRM・販売データを横断的に分析できる体制を構築することが求められます。
  2. グローバル人材の登用
    海外M&A後の現地運営を担うリーダーを早期に確保し、文化・法制度のギャップを埋める必要があります。
  3. 持続可能な組織統合
    経営理念を共有し、短期的なコスト削減ではなく長期的な価値創造を重視した統合計画を策定することが重要です。

成功のポイントは

M&Aは単なる「買収」ではなく、両社の強みを掛け合わせる「融合」です。買い手はシナジー創出を定量化し、売り手は自社の技術や人材が最大限活かされる環境を選択することが、双方にとっての最適解となります。

まとめ

広告業界ではデジタル化と海外展開を背景にM&Aが拡大しています。売り手は後継者問題解決やブランド活用、買い手は技術獲得や顧客基盤拡大のメリットが得られます。成功には戦略整合性と統合プロセスの設計が不可欠です。今後もAIとデータ活用を軸に、多様なM&Aが進むでしょう。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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