不動産M&Aとは?不動産売買との違い、手法、メリット、注意点など

企業がM&A(合併・買収)を実施する際、不動産取得を目的とした「不動産M&A」も検討されることがあります。この不動産M&Aについての基本的な特徴や方法、メリット・デメリットを把握することで、新たな契約の形態を見出すことが期待できます。本記事では、不動産M&Aについて詳しく解説し、不動産M&Aを計画する際の参考になる情報を提供します。

目次

  1. 不動産M&Aとは
  2. 現物不動産の売買と不動産M&Aの相違点
  3. 不動産M&Aのスキーム
  4. 売り手側の不動産M&Aのメリット
  5. 売り手側の不動産M&Aのデメリット
  6. 不動産M&Aに関する税金
  7. 不動産M&Aの事例
  8. 不動産M&Aまとめ

不動産M&Aとは

不動産M&Aとは、不動産の取得を主目的としたM&Aのことを指します。一般的なM&Aでは、譲渡の際に不動産も合わせて取得することになりますが、それが主目的であるわけではありません。しかし、不動産M&Aでは、副次的な形で取得されることが多い不動産を主目的にしてM&Aを実施することが特徴です。不動産に資産価値がある場合、対象企業全体を統合する契約を結ぶことがあります。

現物不動産の売買と不動産M&Aの相違点

現物不動産の売却とは異なり、不動産M&Aでは買い手に対して株式を譲ります。通常の不動産売却の場合、企業が不動産を売却して現金化し、清算を行う過程が必要です。売却金額は清算配当として支払われるため、代金を受け取るまでに時間がかかりますし、所得税が課税されることもあります。一方、不動産M&Aでは株式を譲渡することで、不動産売却代金を株主がすぐに受け取ることができます。

不動産M&Aのスキーム

不動産M&Aを実行する際には、主に2つのスキームが存在します。それぞれのスキームについて、以下で説明します。

株式譲渡スキーム

株式譲渡とは、不動産を所有する企業の株式をすべて取得することで、その企業を完全子会社化し、不動産を取得する手法です。この方法により、譲受企業は事業を継続することができる場合があります。ただし、不動産M&Aの目的は不動産の取得であるため、採算が取れない場合には会社精算されることもあります。株式譲渡は、不動産M&Aだけでなく、一般的なM&Aでも使われる手法です。

会社分割スキーム

会社分割とは、企業が事業における権利義務の一部または全部を別の企業に移転させる手法です。譲渡側の企業が会社分割を行い、不動産を保有しない兄弟会社を新設した上で、譲受側が不動産を所有する旧会社を対象に不動産M&Aを実施します。この方法では、一般的には、組織再編税制の特例措置が適用されるため、税制上の優遇措置を受けられる点がメリットです。

売り手側の不動産M&Aのメリット

不動産M&Aを実施する譲渡側には、以下のようなメリットがあります。

廃業にかかるコスト(費用)を削減できる

不動産M&Aでは、事業や店舗なども譲渡されるため、在庫の処分や原状回復費などのコストが削減できます。

節税効果を得られる

不動産M&Aには、不動産売却に比べて高い節税効果が期待できます。ただし、組織再編税制を上手に利用することが条件です。

従業員の雇用が継続される可能性

不動産M&Aを行うことで、従業員の雇用が継続される確率が高くなります。これにより、従業員が職を失わずに済むため、精神的なストレスを軽減することができます。また、従業員の理解が得られやすくなるため、不動産M&A計画の立案がスムーズに進むでしょう。特に、税務上のメリットを追求する不動産M&Aでは、従業員の雇用が継続されることが重要な要素となります。

売り手側の不動産M&Aのデメリット

不動産M&Aには多くの利点がありますが、譲渡側にとってもデメリットが存在します。以下では、譲渡側が把握しておくべき不動産M&Aのデメリットをご紹介します。

譲受先の選定に時間がかかる

不動産M&Aの過程で、譲受先をしっかり選定することが重要ですが、これには時間がかかることが多いです。希望にマッチする譲受先を見つけるためには、M&A専門のウェブサイトやサービスを活用することが欠かせません。早期から不動産M&Aの準備を始めることで、中長期的な計画に対応することができます。

手続が複雑で手間がかかる

不動産M&Aは、不動産の売却に比べて手続が複雑であり、それに伴って手間がかかるというデメリットがあります。手続によっては、1年以上の期間が必要になることも考えられます。事業や設備の数が多い場合や、迅速な不動産処分を望む場合は、注意が必要です。

不動産M&Aに関する税金

不動産M&Aを行う際には、税金についても理解しておくことが大切です。以下では、不動産M&Aにおける税金の概要を説明します。

現物不動産の譲渡にかかる税金

現物不動産の売却益が生じた場合には、法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税などが課税されます。これらの税率は、企業の規模や所得額によって異なりますが、一般的には30%~34%程度となります。不動産M&Aによる利益および税率を事前に把握し、必要な納税額の目安を立てておくことが望ましいです。

株式譲渡と会社分割における税金の違い

不動産M&Aの手法として、株式譲渡や会社分割があります。株式譲渡による不動産M&Aでは、個人株主の譲渡所得に対しては、申告分離課税の20%が課せられます。一方、会社分割の場合は、適格分割と非適格分割によって税率が大きく異なり、継承される資産・負債の評価損益に対する法人税が一律ではありません。

不動産M&Aの事例

不動産M&Aは、多くの企業が活用しており、事例を学ぶことでイメージがつかみやすくなります。以下に、実際に不動産M&Aを実施した企業事例を紹介します。

トーセイ株式会社の不動産M&A事例

トーセイ株式会社は、優良不動産の譲受・収益性向上・譲渡を目的とした施策を2001年から実施している企業です。2018年時点で13件の不動産M&Aに取り組み、利益獲得に成功しています。2017年には、M&Aに関する法務・財務・リスクマネジメントを担当する専門部署を設置し、よりM&Aに特化した環境を構築しています。

株式会社マイナビの不動産M&A事例

株式会社マイナビは、2021年11月1日にリヴォート株式会社と資本業務提携契約を締結しました。マイナビは社宅サービスやサテライトオフィス事業を展開しており、その基盤を活用して不動産業界のDX化を推進しています。不動産M&Aを通じて、不動産の検索から決済までを簡単に実行できる「classmart」の導入などを実現しました。

不動産M&Aまとめ

不動産M&Aは、不動産の譲渡を主目的としたM&Aです。一般的なM&Aとは異なり、不動産の処分に伴うコスト削減や節税につながることがあります。不動産譲渡を検討している際に、不動産M&Aの活用を検討するのも1つの方法です。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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