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不動産M&Aとは?売却との比較や手法と節税効果を事例で解説

不動産M&Aとは何でしょうか?答えは、不動産を主目的に株式を移転する独自のM&A手法です。本記事では仕組みや税負担の違いを示し、選択の材料を提供します。現物売却との比較やメリット・デメリットも網羅し、専門家相談前に知るべき基礎を解説します。

目次

  1. 不動産M&Aとは資産価値ある不動産を取得するM&Aのこと
  2. 現物不動産売却との違いは株式譲渡で代金が即株主に届く
  3. 不動産M&Aが注目される背景は事業承継と節税効果
  4. 不動産M&Aの主なスキームは株式譲渡と会社分割
  5. 売手側メリットは廃業コスト削減と節税など
  6. 売手側デメリットは譲受先の選定と手続の複雑さ
  7. 不動産M&Aに関わる税金は手法で異なる
  8. 買手側メリットは取得コスト削減と柔軟な活用
  9. 買手側デメリットは簿外債務リスクと調査コスト
  10. 譲受先選定を成功させるポイントは情報開示と長期目線
  11. 不動産M&Aの成功事例から学ぶポイント
  12. 不動産M&Aを検討するときのチェックリスト
  13. 不動産M&Aのメリット・デメリットをケーススタディで比較
  14. 不動産M&Aの専門家へ相談する際のポイント
  15. まとめ

不動産M&Aとは資産価値ある不動産を取得するM&Aのこと

不動産M&Aとは、会社が保有する不動産そのものではなく、その不動産を抱える会社の株式を譲渡・取得することで、最終的に対象不動産を手に入れる取引形態です。通常のM&Aでは経営資源の獲得やシナジー創出が中心目的となりますが、不動産M&Aでは不動産の取得が第一目的となる点が大きな特色です。このため、買手は不動産の収益性や立地、含み益といった資産価値を重視して企業を評価し、売手は不動産を売却する代わりに会社ごと譲渡するかたちで現金化を図ります。

不動産M&Aは株式譲渡で不動産を得る取引

現物不動産の譲渡では所有権移転登記や不動産取得税が発生しますが、不動産M&Aでは株式の所有権を移転するため、こうした直接的な不動産関連税は発生しません。買手は株主総会決議や取締役会決議を経て株式を取得し、間接的に不動産を支配します。株式一括譲渡型であれば、買手は会社事業を丸ごと引継ぎ、売手は決済と同時に対価を受領できる流動性の高さを享受できます。

現物不動産売却との違いは株式譲渡で代金が即株主に届く

現物不動産を売却する場合、不動産管理会社の口座に代金が入り、会社を清算してから配当として株主に渡るまで時間が掛かります。さらに、不動産売却益に法人税等約30〜34%が課税され、清算配当時に株主は累進課税最高49.4%を負担するケースもあります。一方で、不動産M&Aの場合、株式の売却代金は直接株主個人に入り、課税は申告分離課税20.315%のみで済むことが多い点が大きな違いです。これにより、株主手取りは同じ10億円の不動産を例にすると、従来の売却・清算ルートでは約3.9億円、不動産M&Aルートでは約6.3億円という試算が示されています。

法人課税と個人課税の二重負担を避けられる

売却益が法人に帰属し二重課税が生じる現物売却と異なり、株式譲渡は一層の課税で完結します。そのため後継者への資産承継を現金で行いたい場合や、高齢株主が納税資金を確保したい場合に、効率的な出口戦略として採用される傾向があります。

不動産M&Aが注目される背景は事業承継と節税効果

後継者不在率が65.1%に及ぶ現状では、資産管理会社を子世代へ引き継ぐこと自体が負担になるケースが増えています。空室対策や修繕などの不動産管理業務を敬遠し、流動性の高い現金で資産を受け取りたいというニーズの高まりが、不動産M&Aを後押ししています。さらに、株式譲渡により税負担が抑えられるメリットがあることから、相続発生前に持株をまとめて処分し、遺産分割をシンプルにしたい株主にも選択されています。

株主個人に現金が直接入る点が決め手

資産管理会社が株式譲渡されると、譲渡対価は株主個人の銀行口座に振り込まれます。これは法人を経由しないため、配当制限や内部留保の問題がなく、相続対策や生活資金の確保としても有効です。加えて、買手側にとっても不動産取得税や登録免許税が不要となり、取引コストを圧縮できます。

不動産M&Aの主なスキームは株式譲渡と会社分割

不動産M&Aで代表的なのは株式譲渡スキームと会社分割スキームの2つです。株式譲渡スキームでは、不動産を保有する会社の発行済株式を100%取得し、完全子会社化したうえで不動産を間接保有します。会社分割スキームでは、譲渡側が事業を分割して新設会社(不動産を保有しない)を立ち上げ、旧会社を不動産M&Aの対象とする方法が一般的です。組織再編税制の適格分割を利用できれば、資産・負債の時価評価を伴わずに移転でき、税負担を先送りにできるメリットがあります。

株式譲渡スキームはシンプルで迅速

株式譲渡は株主間契約で完結しやすく、手続が比較的簡易です。売手は不動産処分と会社存続を両立でき、買手は既存のテナント契約や権利義務を維持したまま不動産を活用できます。ただし、買手は簿外債務や偶発債務のリスクを負うため、財務・法務デューデリジェンスが欠かせません。

会社分割スキームは税制優遇を活用しやすい

会社分割は事業単位で資産と負債を切り分けられるため、不動産以外の不要事業を切り離しやすい点が強みです。適格分割が成立すれば、譲渡側の含み益課税を繰延できるうえ、不動産取得税なども生じません。一方で、分割計画書の作成や債権者保護手続など、株式譲渡より手続が煩雑になりやすく、半年から一年以上を要するケースも見込まれます。

売手側メリットは廃業コスト削減と節税など

売手企業にとって不動産M&Aを選択する最大の利点は、廃業時に生じる在庫処分・原状回復費・解体費用などのコストを抑えられる点です。不動産とともに事業設備や従業員を承継してもらえるため、閉鎖リスクを軽減できます。さらに、株式譲渡により所得税20.315%で課税が完結し、現物不動産売却より手取りが増える可能性があります。

従業員の雇用継続で円滑な承継を実現

買手が事業を継続する意向を示せば、従業員は雇用契約を維持でき、売手は社会的責任を果たせます。従業員の賛同が得られやすいことで取引実行の障壁が下がり、交渉期間も短縮する傾向があります。

売手側デメリットは譲受先の選定と手続の複雑さ

一方で、不動産M&Aには明確なデメリットも存在します。最大の課題は、希望条件を満たす譲受企業を見つけるまでに時間が掛かることです。立地や収益性だけでなく、会社の簿外債務リスクを受け入れられる買手は限られるため、専門サイトや仲介者を通じた情報開示とマッチングが欠かせません。また、株式譲渡契約書の作成、表明保証の交渉、株主総会決議など多岐にわたる手続が必要で、案件によっては一年以上を要します。

迅速な処分を望む場合は要注意

事業停止や設備老朽化が差し迫っている場合、不動産M&Aの成立を待つ間に追加コストが発生するリスクがあります。迅速性を優先するなら、現物不動産売却も選択肢として残す必要があります。

不動産M&Aに関わる税金は手法で異なる

不動産M&Aを検討する際には、株式譲渡と会社分割で課税関係が大きく変わることを理解しておくことが重要です。現物不動産を譲渡した場合、法人は譲渡益に対して法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税など合計約30%〜34%が課税されます。さらに清算配当を株主が受け取る段階で所得税が累進課税され、最高49.4%に達する可能性があります。

株式譲渡は申告分離課税20.315%で完結

株主が株式を譲渡する形で不動産M&Aを行う場合、譲渡所得は一律20.315%の申告分離課税が適用されます。法人段階での課税が無いため、二重課税を回避でき、総合的な税負担が軽くなる可能性が高いといえます。

会社分割は適格・非適格で課税が変動

会社分割スキームでは、適格分割の要件を満たすと資産の帳簿価額引継が可能であり、含み益課税を繰延できます。非適格分割に該当すると時価評価課税が発生し、法人税負担が生じるため、組織再編税制の要件確認が不可欠です。どちらの方法も、税務リスクを最小化するため専門家による試算と事前協議が必須です。

買手側メリットは取得コスト削減と柔軟な活用

買手企業にとって不動産M&Aは、不動産取得税や登録免許税が発生しない分、現物取得よりコストを抑えられる特徴があります。また、会社株式の時価評価額は、不動産単体の市場価格より低く設定される場合があり、ディスカウント価格で優良不動産を仕入れる機会が得られます。

既存契約を維持しながら活用できる

テナントが入居している収益不動産の場合でも、賃貸借契約は会社に帰属しているため、株式取得後も入居者との契約関係をそのまま維持できます。これにより、オーナーチェンジの手続きを省略できるだけでなく、安定したキャッシュフローを確保しながらバリューアップ施策を行う余地も生まれます。

買手側デメリットは簿外債務リスクと調査コスト

株式を取得するということは、会社が抱える全ての権利義務を承継することを意味します。帳簿に現れていない補修費用や訴訟リスク、未払税金などが後日判明するケースもあり、買手は財務・法務・不動産の三方向から深度あるデューデリジェンスを行う必要があります。

融資審査にも時間が掛かる可能性

資産の評価に加え、会社のガバナンス体制やコンプライアンス状況まで確認するため、金融機関の融資審査プロセスが長期化しやすい点も留意点です。

譲受先選定を成功させるポイントは情報開示と長期目線

譲受候補が限られる不動産M&Aでは、早期から情報整理を進め、買手が求める立地データや稼働率、修繕履歴をタイムリーに提示できる体制が欠かせません。専門仲介会社の支援を受けながら、複数候補と面談を重ね、表明保証の範囲や価格調整条項をすり合わせるプロセスを経ることで、最終契約のリスクを低減できます。

計画的な準備が交渉期間を短縮する

決算書の整備や不動産鑑定評価の取得を先行実施しておくと、買手のデューデリジェンスを迅速化でき、スキーム選択の幅も広がります。


このように、不動産M&Aは売手・買手ともに大きなメリットがある一方、慎重な準備とパートナー選定が欠かせません。後半では、具体的な成功事例、税負担シミュレーション、デメリットへの対策、そして専門家に相談する際のチェックポイントを詳しく見ていきます。なお、詳細な手続は案件により異なるため、みつき税理士法人グループへぜひご相談ください。

不動産M&Aの成功事例から学ぶポイント

不動産M&Aの有用性を理解するには、実際に成果を上げた企業の取り組みを確認するのが近道です。ここでは原文・参考に挙げられた二社の事例を通じて、取引を成功させる鍵を整理します。

トーセイ株式会社は13件の取組で収益向上に成功

トーセイ株式会社は2001年から優良不動産の譲受・収益性向上・譲渡を目的とした不動産M&Aに取り組み、2018年時点で13件を完了しました。2017年には法務・財務・リスクマネジメントを担当する専門部署を設置し、社内体制を強化したことが成功要因です。案件ごとにデューデリジェンスを徹底し、簿外債務の洗い出しを怠らなかった点が、継続的な利益確保に直結しました。

株式会社マイナビは不動産DX化で付加価値を創出

株式会社マイナビは2021年11月1日にリヴォート株式会社と資本業務提携を締結し、社宅サービスやサテライトオフィス事業の基盤を活用して不動産業界のDX化を加速させました。不動産M&Aを通じて、検索から決済までを一気通貫で行う「classmart」を導入し、取得物件の付加価値を高めたことが特徴です。

不動産M&Aを検討するときのチェックリスト

取引を円滑に進めるためには、売手・買手双方が着目すべきポイントを把握し、早期に情報を整理しておく必要があります。

売手が準備すべき情報は財務資料と不動産データ

売手企業は、直近の財務諸表と不動産に関する稼働率・修繕履歴・含み益を示す資料を整えることが重要です。特に含み益は課税シミュレーションに直結するため、評価額を明示すると交渉が前進しやすくなります。

買手が確認すべきリスクは簿外債務と適格分割要件

買手企業は、簿外債務の有無や適格分割の要件充足を確認して、想定外の課税リスクを回避します。加えて、既存テナントとの契約内容や将来の修繕義務が財務負担に与える影響を検証することが欠かせません。

不動産M&Aのメリット・デメリットをケーススタディで比較

原文に示された具体例(不動産時価10億円・簿価3億円・含み益7億円)を基に、不動産売却・会社解散ルートと株式譲渡ルートを比較します。

ケース1 不動産売却・会社解散ルートは二重課税が重い

売却益7億円に対して法人税等約34%が課税され約2.3億円が控除されます。その後の清算配当7.7億円には最高49.4%の所得税が課税され、最終的な株主手取りは約3.9億円に留まります。

ケース2 株式譲渡ルートは手取りが約6.3億円に増える

不動産M&Aでは譲渡所得に対して申告分離課税20.315%のみが適用され、約1.4億円の税負担で済むため、株主手取りは約6.3億円となります。数字が示す通り、株式譲渡は手取り最大化に直結する選択肢です。

不動産M&Aの専門家へ相談する際のポイント

不動産M&Aは不動産取引とM&A両方の専門性を要するため、相談先の選定が結果を左右します。

不動産とM&Aの両方に強い専門家が必須

宅地建物取引業免許を持ち、かつM&A実務に通じた専門家に依頼すると、物件評価とデューデリジェンスを同時に進められます。税務面では組織再編税制の適用可否を確認し、最小課税ルートを提示できる専門家が望ましいです。

相談前に整理しておきたい4つの情報

  1. 不動産の時価と簿価

  2. 含み益額と過去の修繕履歴

  3. 株主構成と議決権割合

  4. 希望譲渡時期と最低希望価格

これらを事前共有すると、初回ヒアリングから具体的なスキーム検討に入れます。

まとめ

不動産M&Aは、不動産を主目的に株式を譲渡・取得する手法です。現物売却に比べて税負担を抑えつつ資金を早期回収できる一方、譲受先選定や簿外債務リスクへの対策が不可欠です。事例に学びながら専門家と連携し、最適なスキームで資産最大化を目指しましょう。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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