産業廃棄物業の中小企業M&A動向・事例、市場規模や今後について

このコラムでは、廃棄物業界(収集運搬、中間処理、最終処分)の業界情報や外部環境、M&A動向について詳しく解説いたします。さらに、実際に行われた廃棄物業界の中小企業M&A事例についてもご紹介します。

目次

  1. 産業廃棄物業界とは
  2. 産業廃棄物業の外部環境
  3. 産業廃棄物業のM&A動向

産業廃棄物業界とは

産廃(リサイクル)業界の定義

廃棄物業界は大きく分けて、家庭から出る一般廃棄物と、法令で指定されている種別のごみである産業廃棄物に区分されます。事業所等から出る廃棄物で、産業廃棄物でないものも一般廃棄物に分類されます。また、産業廃棄物の詳細な分類は多岐にわたりますが、ここでは割愛させていただきます。

廃棄物の処理の流れを見ると、以下のような業態に分けられます。

 • 収集運搬業:家庭や事業所から廃棄物を回収し、中間処理場や最終処分場まで運搬する工程

 • 中間処理業:焼却や脱水、分別・破砕などを行い、廃棄物の量を減らし、最終処分する廃棄物を減らす工程

 • 最終処分業:これ以上加工・処理できない廃棄物を埋め立てや海洋投入、リサイクルによって固定化する工程

 • リサイクル業:中間処理を経て、再利用可能な状態にした廃棄物の再資源化。例えば、解体した家屋から金属・木材・

                        プラスチックなどを分別し、溶解などの処理を施して再度資源として活用すること

産廃業界の特性

① ローカルビジネスであること

廃棄物は車両で運搬するため、商圏が狭くなることが特徴的です。そのため、商圏内の経済状況が自社ビジネスに大きな影響を与えることになります。

② 市場が細分化されている

取り扱う廃棄物の種類によってノウハウが異なるため、市場が細分化されていることが特徴です。また、許認可が必要な業界であるため、特化型の企業が多く存在します。

③ 新規参入が困難であること

許認可やノウハウの問題から、新規参入が難しく、既存企業に代わる新陳代謝が起きにくい業界です。

④ 固定費負担が大きいこと

収集運搬業では特殊な車両、中間処理業では処理設備、最終処分業ではリサイクル設備や最終処分場への投資が必要です。そのため、維持費を含めた固定費負担や設備投資が大きな負担となる業界です。

産廃業界の課題

① 最終処分場の不足

最終処分場の残存年数は全体で16.8年であり、首都圏ではわずか6.1年しか残されていません。これは、適切な処分場の立地が少なくなっており、また規制が厳格化されたことにより、最終処分場の設置許可数が平成16年度の2,478件から令和元年度の1,603件へと減少しているからです。この傾向が続くと、近い将来、最終処分場での処理コストが大幅に上昇することが予想されます。

参考:環境省「産業廃棄物処理施設の設置、産業廃棄物処理業の許可等に関する状況」(令和元年度)                                                                                                            

② 産業廃棄物排出量の推移

一方、産業廃棄物の総排出量は年間約4億トンと減りません。さらに、2050年(令和32年)までの排出量の予測では、横ばいまたは徐々に増加することが示唆されています。このため、中間処理における廃棄物の減量化やリサイクルの推進がより一層求められる状況です。

参考:環境省「産業廃棄物の排出及び処理状況等」(令和2年度実績)

③ 働き手の確保

業界においては、特に3K(危険・汚れ・重労働)のイメージが根強く、人員確保が難しい事業者が多く存在します。業界全体の従業員数も徐々に減少しており、今後は自動化や効率化がより一層求められることになると予測されます(図1参照)。また、多くの外国人労働者を雇用していることから、労働法令の遵守に関する課題も抱える事業者がございます。


産業廃棄物業界就業者 


 出典:総務省「サービス産業動向調査」より作成 


④ コンプライアンス強化

廃棄物処分に関する法令の規制は年々厳格化されており、近隣住民とのトラブルに悩む事業者も少なくありません。そのため、業界全体として環境への取り組みが重要視されています。また、将来的には温室効果ガス排出規制が強化されることが予測されるため、排出権を獲得できるリサイクル事業に力を入れている事業者にはビジネスチャンスが拡大する可能性があります。

産業廃棄物業の外部環境

産廃業の市場規模

2000年以降、日本経済の低迷にもかかわらず、市場規模は微増で推移しています。しかし、2011年と2012年には東日本大震災の影響で一時的に市場規模が増加しました。これは、今後起こりうる大規模災害が市場規模に大きな影響を与えることを示唆しています(図2参照)。

一方で、処理施設数を見ると、特に最終処分場を中心に微減傾向が続いており、中小規模事業者の淘汰が進んでいます。これにより、働き手の確保や自動化がより一層進むものと予想されます。


産業廃棄物業界市場規模

出典:環境省「環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」 「産業廃棄物処理施設の設置、産業廃棄物処理業の許可等に関する状況」より作成 

産廃業が競合する業態

参入障壁が高い産業廃棄物業界では、基本的に他業態からの新規参入があまり多くはありません。しかし、副業や自社の関連事業として産業廃棄物を扱う事業者も多く存在します。主な例として次のようなケースが挙げられます。

 • 物流業界+産業廃棄物収集運搬

    物流単価の低迷に悩む物流会社が、新たな収益源として産業廃棄物業界に進出することがよく見られます。これには

  収集運搬免許の取得が必要です。

 • 自然エネルギー業界+中間処理・リサイクル

    バイオマス発電を行っている事業者が、発電動力源の調達を目的に中間処理業態へ進出し、木材チップや廃プラスチッ

    クの処理を行うケースがあります。

 • 土木・建設業界+中間処理

    土木・建設業界は日々廃棄物を排出しており、近年の処理単価の上昇を受け、自社工事で排出される廃棄物の処理を目

    的に産業廃棄物業界へ進出することが盛んになっています。

産業廃棄物業のM&A動向

環境省のデータによれば、産業廃棄物業界は4人以下の小規模事業者が多く存在する業界で、特に収集運搬業においては約半数を占めています。

産業廃棄物業界におけるM&Aの特徴は、同業の中堅規模~大手事業者が、小規模~中堅規模の企業を買収することでエリア拡大や取扱品目の拡大を目的として行われることが一般的です。これは参入障壁が高い業界であるため、中堅・大手企業でも新たなエリアへの進出が困難であることから、M&Aを通じて目的を達成させるケースが多いのです。

また、近年では投資ファンドによる買収も増加しており、これは省力化や自動化が進んでいない業界であるため、ファンドの経営関与による業務改善の余地が大きく、企業価値の向上度が他業界に比べて高いと考えられるためです。

産廃業のM&Aのメリット・注意点

売り手のメリット

 • 稼働率の安定化が見込めます。

 • 資金的に単独では難しい投資ができます。

 • 借入金の個人保証や担保を解消できる可能性があります。

買い手のメリット

 • 認可制の存在により自社では難しい事業規模拡大を実現できます。

 • 自社にない処理技術、ノウハウを獲得できます。

 • 既存事業との組み合わせにより、会社全体の利益率の向上を見込めます。

 • 教育コストを抑えて従業員を獲得できます。

注意点(買い手が見るポイント)

貸借対照表

 • 土地・建物の簿価が高額で、多額の含み損を抱えていないか

 • 設備のメンテナンスを怠り、老朽化が進んでいないか

 • 多額の借入金を抱え、返済が経営を圧迫していないか

 • 多種にわたる備品を厳密に管理しているか

管理体制

 • 精緻な数値の分析に基づいた指示を行っているか

 • 従業員の教育体制が充実しているか

 • 事業を営む根拠となる許認可に不備がないか

 • 処理計画書どおりに処理できているか

 • 設備の修繕計画を作成しているか

損益計算書

 • シフト表を見直さずに運用し続け、人件費が過剰になっていないか

 • 残業手当を実態に即して規定通り支払っているか

 • 保守点検や安全管理体制は、健全な状態であるか

 • 稼働率が悪化している設備はないか

産廃業の中小企業M&A事例

ここでは、廃棄物業界におけるM&Aによる買収、譲渡、経営関与の事例を4件詳しく紹介していきます。

 • ニューホライズンズキャピタルによる黒姫への出資

 • 富士興産による環境開発工業の買収

 • リファインバースグループによるコネクションの買収

 • 日本成長投資アライアンスによるエネルフホールディングスの買収

【1】ニューホライズンズキャピタル(NHC)による黒姫への出資

廃棄物業界における中小企業M&A事例の1つ目として、NHCの黒姫への出資を取り上げます。この出資は、NHCが管理・運営するファンドから行われました。

2022年10月11日、投資ファンドであるNHCは建設廃材リサイクル事業を手がける株式会社黒姫の親会社へ一部出資しました。黒姫グループは、コンクリートガラの収集・運搬と中間処理に特化しており、首都圏の解体工事現場で発生するコンクリートガラを自社処分場に運搬・破砕処理を施し、再生砕石として販売しています。

NHCは、ドライバーの採用強化などを通じて黒姫グループの収集・運搬能力の向上を支援し、企業価値を高めることを目指しています。

【2】富士興産による環境開発工業の買収

2つ目の廃棄物業界における中小企業M&A事例は、富士興産による環境開発工業の買収です。富士興産は、燃料卸売業を行っている上場企業であり、2022年9月28日に廃油・廃プラスチックの再資源化事業を行っている環境開発工業を買収しました。

環境開発工業は、汚染土壌浄化分野にも事業を拡大しており、富士興産は、グループ内での相互連携により総合エネルギー企業としての成長を目指しています。

【3】リファインバースグループによるコネクションの買収

廃棄物業界における中小企業M&A事例の3件目は、リファインバースグループによる株式会社コネクションの買収です。

2022年5月30日、廃棄物の再資源化事業を展開するリファインバースグループは、東京に本社を置く産業廃棄物収集運搬および中間処理事業を行っているコネクションを、中間処理能力の向上を目的に買収しました。リファインバースグループは、自社が保有する廃棄物処理事業のマネジメント手法を活用し、コネクションの企業価値を向上させることを狙っています。

さらに、リファインバースグループは現在取り扱っていない品目の再資源化を推進し、高収益体質への改善も目指しています。

【4】日本成長投資アライアンスによるエネルフホールディングスの買収

廃棄物業界における中小企業M&A事例の4件目は、日本成長投資アライアンスによるエネルフホールディングスの買収です。日本成長投資アライアンスは、日本の中小企業に対する投資にフォーカスしており、2022年1月1日に環境エネルギー企業であるエネルフホールディングスを買収しました。

エネルフホールディングスは、廃プラスチックを中心に収集・運搬と中間処理を行い、再資源化した製品を製造・販売しています。愛知県ではトップクラスの業容を誇る廃プラスチック処理会社です。日本成長投資アライアンスは、経営人材を提供し、企業価値を向上させることを目指しています。

産廃業の今後の見通し

産業および一般廃棄物業界におけるM&Aの将来的な見通しは、増加することが予想されます。その背景として、以下の理由が挙げられます。

 • 静脈産業として欠かせない存在であること

 • 小規模事業者が多く、生産性の向上が進んでいないこと

 • 事業承継適齢期のオーナーが多いこと

今後の少子化・人口減少社会においても、一定程度の業界規模が維持されることが想定されます。そのため、M&Aの活発化がさらに進むと考えられます。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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