株式贈与での事業承継に必要な手続と税金対策と注意点を解説
株式を贈与して事業承継を進めると、贈与税や譲渡所得税などの税金が関わります。本記事では、株式の贈与と譲渡の違いや、贈与税の算出方法、手続の流れ、さらに事業承継で株式贈与をするメリット・デメリットを詳しく解説します。
目次
▶目次ページ:親族内承継(株式の贈与)
まず、株式の「譲渡」と「贈与」がどのように違うのかを確認します。事業承継を考えるうえで、どの方法を選ぶかによって税金や手続が変わりますので、最初に基本をしっかり把握しておきましょう。
株式譲渡とは
株式譲渡とは、株式を金銭などの対価と引き換えに受け渡す方法です。たとえば、親族や社内の従業員に対して株式を譲る場合でも、譲渡価格として一定の金銭を受け取る形となることがあります。これは「売買」のイメージに近く、対価を得る点が特徴です。
株式贈与とは
株式贈与は、生前に後継者へ株式を無償で渡す方法です。個人同士で贈与を行う際には、贈与契約書の作成が重要です。後で贈与があったことを税務的に証明できるようにするためでもあり、書類作成を怠ると贈与が否認されるリスクが生じます。
また、親族内承継で株式贈与を行う場合、会社の重要な意思決定権(議決権)を早めに後継者へ渡せるというメリットがあります。一方で、無償であるがゆえに一度贈与してしまうと、後継者の意向次第で株式が移動してしまうリスクも考慮する必要があります。
株式相続との違い
株式の相続は、経営者が亡くなったあとで株式を家族などに引き継ぐ方法です。法定相続人が複数いる場合には、相続した株式をめぐって遺産分割協議が必要になり、相続争いの原因になるケースもあります。そのため、会社の将来像を見据え、株式をいつどのように後継者に承継するかを早めに検討しておくことが大切です。
株式の贈与を行う際は、基本的に「贈与税」がかかります。贈与税には大きく分けて「相続時精算課税制度」と「暦年課税制度」の2つがあり、それぞれの制度で税額の計算方法や特徴が異なります。ここでは、両制度のポイントを解説します。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度では、贈与財産のうち最高2,500万円までを特別控除の対象とできます。具体的には、年間110万円の基礎控除を差し引いたうえで、さらに2,500万円の特別控除を適用し、そこを超えた金額に対して一律20%が課税される仕組みです。
なお、この制度を利用した場合、贈与者が亡くなった際には、贈与時の株式評価額を相続財産に合算して相続税を計算します。そのため、「株式評価額が下がっているか上がっているか」「ほかの相続人の遺留分にどう影響するか」なども検討しておく必要があります。
暦年課税制度
暦年課税制度では、1年間(1月1日~12月31日)の間に贈与された財産の合計額から110万円の基礎控除を差し引き、残りに累進課税がかかる仕組みです。贈与を受けた人(受贈者)と贈与者の続柄などによって適用税率が異なります。
たとえば、親から18歳以上の子へ株式を贈与した場合は特例税率が適用されますが、それ以外の場合は一般税率が適用されます。株式の価額によっては高い税率が課されるため、一度に多額の株式を贈与すると税負担が大きくなる点に注意が必要です。
株式を「譲渡」するときと「贈与」するときでは、発生する税金の種類や負担が変わります。個人か法人かによっても異なるので、ここで整理しておきましょう。
株式を譲渡する場合
個人が株式を譲渡する場合は、譲渡所得税がかかります。一般的には「株式譲渡益 × 20.315%」の税率が目安とされることが多いです。
法人が株式を譲渡する場合は、譲渡益を法人所得として扱い、約30.315%程度の実効税率(年度や法人規模により異なる)で課税されます。また、法人の場合は株式譲渡益以外の損益と通算され、法人税として計算される点にも注意が必要です。
株式を贈与する場合
贈与は無償での受け渡しですが、贈与税が発生するほか、みなし譲渡や寄附金課税が問題になるケースがあります。
・個人から法人への贈与
個人が法人に株式を贈与するときに、時価と異なる金額で受け渡しした場合、差額を法人側の寄附金や個人側の寄附
金として捉えられる可能性があります。
・個人から個人への贈与
個人同士の贈与では、受贈者に通常の贈与税が課せられます。時価よりも極端に低い金額で譲渡(=実質贈与)した
場合には、その差額部分も贈与税の対象になることがあるため注意が必要です。
・法人から個人への贈与
法人が保有する株式を個人に贈与した場合、個人側は所得税の対象となり、法人側は法人税の対象となります。これ
は、法人からの株式移転が「寄附金相当」として扱われることがあるためです。
・法人から法人への贈与
法人同士の場合は、贈与をした法人・受け取った法人の両方に法人税がかかる可能性があります。贈与された財産が
時価で評価されるため、差額がそれぞれの法人所得に影響を与えます。
上記で述べたとおり、個人と法人では株式を贈与するときの税金の計算や扱い方が大きく異なります。ここでは、もう少し具体的に注意すべき点を解説します。
個人間での贈与
個人間で株式を贈与する場合、受贈者は贈与税を負担することになります。時価よりも低い価格で贈与すると「みなし贈与」とみなされる可能性があり、差額に対して贈与税が課税される点が特徴です。相続時精算課税制度を使うことで、一定額まで非課税にできるメリットがある反面、将来の相続発生時に財産を持ち戻して計算する必要があります。
個人から法人への贈与
個人の株主が、自分の会社(法人)や関連法人へ株式を贈与するケースでは、株式が時価と異なる金額で贈与された場合に、贈与者側・受贈法人側いずれにも寄附金として扱われるリスクがあります。特に、時価より大幅に安価または高価で贈与したときには注意が必要です。
法人から個人への贈与
法人が保有する株式を個人に贈与すると、受贈者は所得税がかかることがあります。一方、贈与した法人も財産の移転として法人税を計算しなければならないケースがあるため、事前に専門家に確認しながら進めることが重要です。
法人から法人への贈与
法人同士の場合でも、贈与をする法人とされる法人の両方が法人税の課税対象になる点に留意しましょう。受け取った財産は時価で計上されるため、帳簿上の差額をどのように扱うかがポイントです。
会社オーナーの方が事業承継を検討するとき、多くの場合は「自社株」の承継が大きなテーマとなります。自社株は譲渡制限がついていることが多く、贈与の際に会社(株主総会や取締役会)から承認を得なければならないケースがあります。ここでは自社株の贈与手続の流れを整理します。
1. 株式譲渡制限の有無を確認する
非上場会社を中心に、多くの中小企業では「株式譲渡制限」が定款に定められています。これは第三者が勝手に株式を買い占め、会社の経営に影響を与えることを防ぐための措置です。株式譲渡制限がある場合は、勝手に株式を移動できません。
2. 株式譲渡承認請求書の提出
株式譲渡制限がある会社では、株式を贈与(譲渡)する前に、会社に対して「株式譲渡承認請求書」を提出します。後継者の氏名や譲渡する株式数など、必要事項を正確に記載しましょう。
3. 会社による承認決議・通知
譲渡承認請求書が受理されたあとは、株主総会や取締役会で審議が行われます。譲渡を承認するかどうかは会社側の判断に委ねられ、承認がなされて初めて株式の移動が可能になります。もし2週間が経過しても会社から回答がなければ、自動的に承認されたとみなされる仕組みになっている点も重要です。
4. 株式贈与契約書の締結
承認決議が終わったあと、贈与者と受贈者の間で「株式贈与契約書」を締結します。贈与の場合は無償での引き渡しを証明するために、この契約書が必須となります。万一税務調査があった際にも、贈与日や贈与財産の内容などが正確に分かる資料がないと、贈与そのものが認められないリスクがあります。
5. 株主名簿の書換請求
最後に、会社の株主名簿を書き換える手続を行います。贈与が完了していても、株主名簿が更新されなければ正規の株主として扱われない場合があります。株券を発行している会社や発行していない会社で手続が少し異なることもあるので、あわせて確認してください。
ここからは、株式の贈与が事業承継においてどのようなメリットやデメリットをもたらすのかについて、もう少し踏み込んで解説します。株式を譲渡せずに「贈与」を選択する場合には、必ず税金のシミュレーションを行い、相続時精算課税制度・暦年課税制度のどちらが適しているかを検討しましょう。また、株式を無償で渡すことで生じる相続や後継者の問題点などにも目を向けておくことが大切です。
生前に株式を後継者へ移せる 株式贈与最大のメリットは、経営者が生きている間に株式を後継者へ移し、早めに経営権を渡せることです。相続で株式を承継する場合は、経営者の死後に株式が動くため、遺産分割の話し合いや相続税の納付などで時間と手間がかかり、場合によっては後継者の負担が大きくなるおそれがあります。 一方、生前贈与を行えば、現経営者が存命中に後継者への意思伝達や引き継ぎを進められます。経営者が元気なうちに株式を贈与することで、実務上のサポートを行いやすくなるという点も大きな利点です。
株価が低い段階での贈与が可能 特に非上場株式においては、会社の業績や配当状況によって株価が変動します。株価が比較的低い段階で贈与できれば、贈与税や相続税の対象となる評価額を抑えることができるため、結果的に税負担を減らせる可能性があります。 上場株式の場合でも、贈与を行う時期によって基準となる株価が変動するため、贈与前後での株価の推移をチェックしながらタイミングを図ることで、節税効果を期待できます。特に、暦年課税制度では毎年の基礎控除110万円を活用し、少しずつ贈与することで一度に高額な税率がかからないように工夫することも可能です。
配当金の移転による相続税対策 生前贈与で株式を後継者に移しておくと、贈与後に発生する配当金は受贈者の所得になります。もし経営者が存命中に株式を保有し続けていると、将来その配当金が相続財産に含まれてしまい、相続税の課税対象となる可能性があります。株式を早めに贈与すれば、配当金を受贈者に移すことができ、結果的に相続財産を圧縮できるケースもあるわけです。
贈与税の負担 株式を無償で渡す「贈与」は、基本的に受贈者に贈与税がかかります。株式の価額が高ければ高いほど、累進課税により税率が上がるため、想定以上に大きな負担になることも考えられます。
さらに、相続時精算課税制度を選択した場合、いったん2,500万円までの特別控除が利用できても、贈与者が亡くなった時点で再び相続財産に含めて計算し直すことになります。こうした手続きを理解せずに大きな金額を贈与してしまうと、最終的に想定外の税負担が生じる恐れがあります。
相続トラブルの可能性 株式を早めに後継者へ贈与した結果、ほかの相続人にとっては「特別受益」となる場合があります。特別受益は、一部の相続人だけが生前に大きな利益をもらっていると見なされ、最終的な遺産分割において調整対象となるのです。
また、遺留分侵害額請求を受けるリスクも否定できません。遺留分とは、一定の近親者に保障されている最低限の相続分であり、贈与によってその取り分を脅かすことになると、後継者が現金で補償しなければならない事態に発展するケースがあります。
後継者トラブルや経営上のリスク 自社株を後継者に贈与してから、後継者が「やはり会社を継がない」といった方針転換をする可能性もあります。一度贈与された株式は原則として贈与者のもとに戻りづらく、会社経営に混乱が生じるかもしれません。
さらに、非上場株式でも、定款や法律の規定によっては、譲渡を受けた後継者が第三者に株式を売ってしまうリスクが全くないわけではありません。株式贈与を行う前に、後継者の意思や今後の経営方針についてしっかり話し合っておくことが大切です。
ここでは、株式贈与による税金負担を少しでも抑えたい場合に検討される方法や、手続上の注意点をご紹介します。
中小企業の事業承継を円滑に進めるため、一定の要件を満たす非上場会社の株式を後継者が贈与される場合、「納税猶予」や「免除」を受けられる特例制度があります。要件や手続がやや複雑なので、制度を使うときは専門家に相談しながら進めることが重要です。
この制度を利用できれば、贈与税の負担を大きく減らせるだけでなく、事業承継をスムーズに行う助けにもなります。ただし、一定期間は後継者が代表者として在任を続けるなどの義務が生じるため、活用する際は将来的な経営体制も含めた長期的視点が必要です。
特に非上場会社では、株価の評価方法が複雑ですが、赤字や業績悪化などで株価が一時的に下がるケースもあり得ます。そのようなタイミングで贈与すれば、評価額が低いために贈与税や相続財産の計算額を抑えられることがあります。
上場株式の場合は、贈与する月や前月・前々月の株価を比較し、最も低い価額を評価額として採用できるルールがあるため、贈与を行うタイミングの見極めが節税につながります。
自社株を後継者に移したいが、まだ後継者としての経験や経営能力に不安がある場合、「民事信託」を検討する方法もあります。民事信託を利用すれば、議決権を現経営者が保有したまま、実質的な株式の管理・運用を後継者に託す形をとりやすくなります。
たとえば、株主としての議決権は今のオーナーが持ち続けながら、配当金などの経済的利益だけを後継者へ渡すといった組み立ても可能です。ただし、信託契約の構造や税務上の取扱いが複雑になりがちなので、これも専門家のサポートのもとで慎重に進めることが望ましいでしょう。
株式贈与によって事業承継を円滑に行うには、ほかの相続人の理解が欠かせません。自社株を一部の相続人だけに多く贈与すると、不公平感が生じる可能性が高まります。また、将来的に特別受益や遺留分侵害の問題が出てくると、贈与者の思惑とは異なる形でトラブルになるおそれがあります。
生前にしっかり話し合いを行い、どのタイミングで、どの程度の株式を誰に贈与するのかを周知し、納得を得られるよう努めることが大切です。
株式の贈与による事業承継は、後継者にスムーズに経営権を渡せる点や生前から相続税対策を進められる点など、多くのメリットがあります。一方で、贈与税の負担や特別受益・遺留分によるトラブルを引き起こすリスクも存在します。今回ご紹介した制度や注意点を踏まえて、専門家と相談しながら進めることが大切です。株式の贈与を上手に活用して、スムーズな事業承継を実現しましょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画