アプリM&A完全ガイド:基礎知識から実施手順まで詳しく解説

アプリM&Aの基本から実践まで詳しく解説。類型、手法、価格設定、高評価アプリの特徴、実施プロセス、注目事例、仲介会社選定基準を網羅。アプリビジネスの成長戦略に不可欠な情報が満載です。

目次

  1. アプリM&Aの基本概念
  2. アプリM&Aの類型
  3. アプリM&Aの主要手法
  4. アプリM&Aにおける価格設定
  5. 高評価で譲渡可能なアプリの特徴
  6. アプリM&Aの実施プロセス
  7. 注目すべきアプリM&A事例
  8. アプリM&A仲介会社の選定基準
  9. まとめ

アプリM&Aの基本概念

アプリM&Aは、近年のビジネス戦略において注目を集めている重要な手法です。ここでは、アプリM&Aの基本的な概念について解説します。

アプリケーションの定義

アプリケーション(略してアプリ)とは、iOSやAndroidなどのオペレーティングシステム(OS)上にダウンロードして使用するソフトウェアの総称です。アプリは主に以下の2種類に分類されます。

1. ネイティブアプリ:端末のOSの機能を使用して動作するアプリ

2. Webアプリ:ブラウザ上で動作し、Webを介して提供されるアプリ

一般的に「アプリ」と呼ばれるのは、主にネイティブアプリを指します。

アプリM&Aの意義

アプリM&Aとは、アプリケーションの開発や運営に携わる企業間で行われる合併・買収のことを指します。その対象は以下の3つに大別されます。

1. アプリそのもの

2. アプリ制作会社

3. アプリ制作・運営会社全体

アプリM&Aは、企業が迅速に技術やユーザーベースを獲得し、市場での競争力を高めるための効果的な戦略となっています。

アプリ業界におけるM&A動向

アプリ業界のM&A動向には、以下のような特徴があります。

1. スタートアップ企業・ベンチャー企業のM&Aが増加傾向 

 o 中小規模の企業が多いアプリ業界では、事業拡大の手段としてM&Aが選択されることが増えています。

 o 大企業も、革新的なアイデアやノウハウを持つ企業の買収を通じて成長戦略を実現しようとしています。

2. 個人開発アプリのM&Aは少数 

 o アプリ開発には多額の資金とリソースが必要なため、個人開発のアプリがM&Aの対象となるケースは限られていま
   す。

 o ただし、教育やビジネスなどニッチな分野では、個人開発者のアプリが大手企業に買収される可能性もあります。

このように、アプリM&Aは企業の規模や開発形態によって異なる傾向を示しており、業界の動向を把握することがM&A戦略を立てる上で重要となります。

アプリM&Aの類型

アプリM&Aは、その対象によって主に3つのパターンに分類されます。それぞれの特徴と意義について詳しく見ていきましょう。

単体アプリのM&A

単体アプリのM&Aは、アプリの一部または全部を譲渡する形式です。しかし、現在このタイプのM&Aは積極的には行われていません。その理由として以下が挙げられます。

アプリの運営には定期的なアップデートが必要

アップデートにはコストがかかるため、単体での譲渡は難しい

アプリ開発会社のM&A

アプリ開発会社のM&Aは、以下のような企業にとって有益な戦略となります。

アプリ開発の専門知識が不足している企業

開発リソースが十分でない企業

メリット:

内部開発をせずに済む

短期間で自社アプリの市場投入が可能

アプリ開発会社は通常、アウトソーシングでアプリの制作を受注して運用するため、買い手企業は迅速にアプリ開発能力を獲得できます。

アプリ開発・運営会社のM&A

アプリ開発・運営会社のM&Aは、アプリの開発から運営までの一連のプロセスを担う会社を対象とします。このタイプのM&Aは以下のような企業に適しています。

新規アプリのリリースに必要なスキルを求めている企業

継続的な運営やメンテナンスのノウハウを必要としている企業

メリット:

アプリの早期市場投入が可能

継続的な運営とメンテナンスによる競争力の向上

アプリ開発・運営会社のM&Aを通じて、買い手企業は包括的なアプリビジネスの能力を一度に獲得できます。

アプリM&Aの主要手法

アプリM&Aの手法には主に「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つがあります。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

株式譲渡方式

株式譲渡は、株式を譲渡することで会社の経営権を移転させる、または経営に参画してもらう方法です。

メリット:

売り手の資産や各種契約をそのまま承継可能

手続が比較的簡単

M&Aにかかる税金を抑えられる

デメリット:

売り手は株式の割合によっては経営権を失う可能性がある

買い手は簿外債務を引き継ぐリスクがある

事業譲渡方式

事業譲渡は、事業の一部または全部を譲渡する方法です。

メリット(売り手):

譲渡する事業や資産を選択可能

メリット(買い手):

必要な事業のみを選択できる

意図しない債務を引き継ぐリスクを軽減できる

デメリット:

契約や資産の移転手続に時間と手間がかかる場合がある

アプリ運営担当者から個別に同意を得る必要がある

M&Aにかかる税金の負担が大きくなる可能性がある

これらの手法は、各企業の状況や目的に応じて選択する必要があります。

アプリM&Aにおける価格設定

アプリM&Aの価格設定は、対象が単体アプリか、アプリ開発・運営会社かによって異なります。それぞれの相場について解説します。

単体アプリのM&A価格相場

単体アプリのM&A価格は、以下の要因によって決定されます。

アプリのジャンル

ユーザー数

類似アプリの価格

ただし、最終的な価格は売り手と買い手の交渉によって決まるため、実際の相場と大きく異なる場合もあります。双方の利益を考慮した価格の合意が必要です。

アプリ開発・運営会社のM&A価格相場

アプリ開発・運営会社のM&A価格は、主に以下の2つの方法で算出されます。

1. 株式譲渡の場合: 価格 = 時価純資産 + (2〜5年分の営業利益) + 退任役員の役員報酬

2. 事業譲渡の場合: 価格 = 譲渡する資産 + (2〜5年分の事業利益) ※事業利益 = 対象事業単体の損益

ただし、これらは一般的な算出方法であり、実際のM&A取引では以下の要因によって譲渡額が変動する可能性があります。

譲渡するアプリのユーザー数

アプリの市場での需要

買い手との交渉結果

価格設定は、アプリM&Aの成否を左右する重要な要素であり、慎重な検討が必要です。

高評価で譲渡可能なアプリの特徴

アプリを高く評価してもらい、良い条件で譲渡するためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、高評価につながるアプリの特徴を詳しく解説します。

高ユーザー数のアプリ

ユーザー数は、アプリのM&A評価における最も重要な基準の一つです。高いユーザー数は以下の点でアプリの価値を高めます。

アプリの知名度向上

市場での存在感の増大

特に重要なのは「アクティブユーザー数」です。これは実際にアプリを継続的に利用しているユーザーの数を指します。

また、アカウント数も評価の重要なポイントとなります。

会員登録してアプリを本格的に利用するユーザー数を示す

特に有料アカウント数は、収益化の観点から重要

マルチプラットフォーム対応

iOS/Android両方に対応していることも、アプリの価値を高める重要な要素です。

iOSとAndroidは異なる開発言語を使用

リリース時の申請先やユーザー層が異なる

両プラットフォームに対応することで:

より広範なユーザー層にアプローチ可能

異なる特性を持つユーザーを獲得できる

多様な地域やデバイスでのアプリ利用が可能になる

複数候補との交渉戦略

アプリのM&Aでは、譲渡金額は様々な要因の影響を受けます。そのため、以下の戦略が重要です。

1. 複数の買い手候補と積極的に交渉する

2. 単一の交渉相手に依存しない

3. 複数の交渉プロセスを通じて、譲渡条件や契約内容を改善する

この戦略により:

より有利な条件でM&Aを進められる可能性が高まる

市場価値の正確な把握が可能になる

交渉力の向上につながる

これらの特徴を備えたアプリは、M&A市場でより高い評価を受ける可能性が高くなります。アプリ開発者や運営者は、これらの点を意識してアプリの価値向上に努めることが重要です。

アプリM&Aの実施プロセス

アプリM&Aの実施には、一連の手順があります。これらの各ステップを丁寧に進めることで、スムーズなアプリM&Aの実現が可能となります。特に、初期段階での適切な仲介会社の選択と、詳細な企業価値評価が重要です。

M&Aのプロセス

以下に、一般的なアプリM&Aのプロセスを順を追って説明します。

1. M&A仲介会社の選択 

 o 信頼性と実績のある仲介会社を慎重に選ぶ

2. M&A仲介会社への依頼・契約 

 o 選定した仲介会社と正式に契約を結ぶ

3. 必要資料の準備・企業価値の評価 

 o 財務情報や運営データを基に、企業価値を評価する

4. 買い手のリストアップと選定 

 o 譲渡対象のアプリに適した買い手を選定する

5. 両経営者の面談・条件の交渉 

 o 売り手と買い手の経営者が直接交渉を行う

6. 基本合意書の締結 

 o M&Aの基本的な条件について合意し、文書化する

7. デューデリジェンス(買収監査・企業調査)の実施 

 o 買い手が売り手の詳細な調査を行う

8. 最終契約書の締結 

 o すべての条件について合意し、正式な契約を結ぶ

注目すべきアプリM&A事例

アプリM&Aの実例を知ることは、戦略立案に役立ちます。ここでは、注目に値する3つのアプリM&A事例を紹介します。

楽天によるFablic買収

時期:2016年9月

内容:フリマアプリ「フリル」運営のFablicが楽天の完全子会社に

目的:

Fablicのフリマアプリ市場ノウハウの獲得

楽天の幅広い顧客基盤との連携

Eコマース事業の拡大

結果:

両社の強みを活かしたサービスの利便性向上

多数の新規利用者の獲得

メルペイによるOrigami買収

時期:2020年2月

内容:決済サービス「Origami Pay」運営のOrigamiがメルペイの完全子会社に

背景:

Origamiの資金調達難

メルペイとの連携による事業成長の期待

目的:

競争激化するスマートフォン決済市場での独自価値の提供

毎日新聞によるPoliPoli買収

時期:2018年6月

内容:俳句アプリ「俳句てふてふ」をPoliPoliから毎日新聞が事業譲渡で取得

背景:

PoliPoliの運営体制・資産状況による成長の限界

毎日新聞の長年の俳句コンテンツ提供実績

目的:

俳句事業の拡大

俳句愛好家向けの新サービス・コンテンツ提供

期待される効果:

両社の資源と専門知識の活用

日本の俳句文化のさらなる発展

これらの事例は、アプリM&Aが企業の成長戦略や新規事業展開に有効な手段となりうることを示しています。

アプリM&A仲介会社の選定基準

アプリM&Aを成功させるためには、適切な仲介会社の選択が重要です。以下に、仲介会社を選ぶ際の主要な基準を解説します。

適切な料金体系

仲介会社の選定において、料金体系は重要な考慮事項です。

事前に手数料や報酬体系を確認する

完全成果報酬型の仲介会社も存在する

公正で透明性の高い料金体系を提供する会社を選ぶ

適切な料金体系は、M&Aプロセス全体のコスト管理にも寄与します。

豊富な実績と専門性

仲介会社の実績と専門性は、M&Aの成功率に大きく影響します。

1. 豊富なネットワーク 

 o 売り手・買い手双方に幅広いネットワークを持つ

 o 適切な相手企業を見つける力がある

2. 専門的知識 

 o 税務や法務の専門知識が必要

 o 会計士や弁護士などの専門家が在籍していることが望ましい

3. アプリ業界への理解 

 o アプリ特有の価値評価やリスク分析ができる

 o 業界動向に精通している

これらの基準を満たす仲介会社を選ぶことで、スムーズで効果的なアプリM&Aの実現可能性が高まります。仲介会社選びは、M&Aプロセス全体の成否を左右する重要な決定であるため、慎重に検討することが大切です。

まとめ

アプリM&Aは、急速に成長するアプリ業界において、競争力強化と市場シェア拡大のための重要な戦略です。

アプリ業界の動向を常に注視し、自社の成長戦略に合わせたM&Aを検討することが、今後のビジネス展開において重要となるでしょう。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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