Powered by みつき税理士法人

アプリM&Aの手法と価格設定や企業価値を高める戦略を解説

アプリ業界のM&Aとは何か、なぜ今注目されるのかをご存じでしょうか。この記事では、基礎知識から実践手順、価格相場までをわかりやすく解説します。初心者の方でも安心して学べるよう、平易な言葉でまとめました。

目次

  1. アプリM&Aとは何か
  2. アプリM&Aが活発化する背景
  3. アプリM&Aの三つの類型
  4. アプリM&A主要手法の違い
  5. アプリM&Aの価格設定ポイント
  6. 高評価アプリの特徴と価値向上策
  7. アプリM&A成功の鍵となる準備事項
  8. アプリM&Aで成長を実現するメリット
  9. アプリM&Aの実施プロセス
  10. 注目すべきアプリM&A事例
  11. アプリM&A仲介会社の選定基準
  12. アプリM&Aの相談先と選び方
  13. アプリM&Aの売却相場と高値取得ポイント
  14. まとめ

アプリM&Aとは何か

アプリM&Aは、アプリケーションの開発や運営を行う企業間で行われる合併・買収を指します。対象は「アプリそのもの」「アプリ制作会社」「アプリ開発・運営会社」の三つに大別され、買い手企業は短期間で技術やユーザーベースを取り込み、市場での競争力を高められます。

アプリM&Aは技術と顧客基盤を素早く獲得する戦略

ネイティブアプリやWebアプリに代表されるモバイルアプリ市場は変化が速く、開発スピードが何より重要です。既存アプリや開発チームをまるごと獲得できるM&Aは、時間とコストを節約しながら市場参入できる有効なルートです。

アプリM&Aが活発化する背景

ゲームやビジネスツールなど幅広いジャンルでモバイルアプリが普及し、市場規模は拡大を続けています。特にスタートアップやベンチャー企業が成長資金を得る手段としてM&Aを選択するケースが増え、世界的な大企業も積極的に買収を実施しています。

スタートアップやベンチャー買収が増加傾向

中小規模の開発会社は独創的なアイデアと機動力を持っていますが、資金調達や販路拡大に課題を抱えがちです。大企業による買収は相互補完の関係を築き、短期間でシナジーを発揮できるため、取引件数は増加しています。

個人開発アプリM&Aは限定的だが可能性あり

アプリ開発には継続的な資金投入が不可欠で、個人開発アプリがM&A対象となる例は多くありません。しかし、教育やニッチ分野で高評価とユーザー数を獲得したアプリは、企業の買収対象となる可能性があります。

アプリM&Aの3つの類型

アプリM&Aは目的や範囲に応じて3つのパターンに分かれます。

1. 単体アプリ譲渡はアップデート負担が課題

アプリのみを譲渡する方式です。運営には継続的なアップデートが求められ、プラットフォーム仕様変更への対応コストがかさむため現在は活発ではありません。

2. 開発会社買収で開発リソースを即取得

アプリ開発会社ごと買収する方式は、技術力や開発リソースを持たない企業が短期間でアプリ開発能力を獲得できる点が魅力です。内部開発を省略でき、自社ブランドのアプリを早期市場投入できます。

3. 開発運営会社買収で一括ノウハウ獲得

開発から運営までカバーする会社を買収する方式は、新規リリースだけでなく継続運営のノウハウまで一度に取得できます。ユーザーサポートやメンテナンスを含めた総合力が手に入るため、将来の収益基盤を強化できます。

アプリM&Aの主要手法の違い

アプリM&Aの実行形態は大きく株式譲渡と事業譲渡に分かれます。

株式譲渡は資産と契約を丸ごと承継

株式譲渡は売り手企業の株式を買い手が取得し経営権を得る手法です。資産や契約をそのまま受け継げるため手続が比較的簡単で、税負担も抑えられる点が特徴です。一方で買い手は簿外債務を引き継ぐリスクに注意が必要です。

事業譲渡は必要資産の選択が可能

事業譲渡は会社の一部または全部の事業を選択的に譲渡する方式です。買い手は必要な資産だけ取得でき、意図しない債務を避けられますが、契約移転手続や税負担が大きくなる場合があります。

アプリM&Aの価格設定ポイント

譲渡価格は対象が単体アプリか企業かで変わります。

単体アプリ評価はジャンルとユーザー数が要

単体アプリの価格はジャンル、ユーザー数、類似アプリの取引事例を基準に決まり、最終的には交渉で確定します。アクティブユーザーや有料アカウントが多いほど高評価につながります。

会社買収では営業利益2〜5年分を加算

アプリ開発・運営会社を株式譲渡する場合、時価純資産に営業利益の2〜5年分と退任役員報酬を上乗せした金額がひとつの目安です。事業譲渡では譲渡資産に事業利益の2〜5年分を加算して評価します。

高評価アプリの特徴と価値向上策

アプリを高値で譲渡するには、ユーザー数だけでなく、継続利用率や収益モデルの安定性が鍵となります。ここでは買い手が注目する3つのポイントを紹介します。

高ユーザー数は知名度と市場存在感を示す

ダウンロード数が多いアプリは認知度が高く、市場で大きなプレゼンスを示します。中でも日次・月次のアクティブユーザーは収益予測の指標として重視され、買い手の評価を押し上げます。

マルチプラットフォーム対応でユーザー基盤を拡大

iOSとAndroidの両OSに対応しているアプリは、異なるユーザー層を同時に取り込めます。開発言語やストア審査の違いをクリアしていること自体が参入障壁となり、アプリの希少性を高める要素となります。

複数候補と交渉し条件を引き上げる

譲渡価格は交渉によって決定するため、複数の買い手候補と交渉を行うことで、市場価値を客観的に把握しながら条件を改善できます。単一候補に依存しない姿勢が、結果的に高い評価を引き出す交渉力となります。


アクティブユーザーを維持する更新体制の重要性

高評価を保つには、OSアップデートやセキュリティパッチに即応する体制が不可欠です。買い手は更新履歴やロードマップを確認し、安定運営が継続可能かをチェックします。バックエンドの保守性を高めることで、将来の負担軽減をアピールできます。


サブスクリプションや広告モデルで安定収益を確保

月額課金やアプリ内広告など、収益構造が明確かつ継続的であるほど企業価値は上がります。特にサブスクリプションはストック型収益を生み、買い手が投資回収期間を予測しやすくします。


運営データを整理しデューデリジェンスに備える

ダウンロード推移、KPI指標、保守コストなどのデータを整備しておくと、デューデリジェンス対応が円滑になり、交渉過程の不確実性を下げられます。透明性の高さは買い手の安心材料となり、評価額の引き上げにつながる場合もあります。

アプリM&A成功の鍵となる準備事項

M&Aプロセスに入る前の準備段階で、結果が大きく左右されます。

適切な仲介会社の選定がスタートライン

信頼性と実績を兼ね備えた仲介会社は、買い手ネットワークの広さに加え、税務・法務面のアドバイスを提供します。完全成果報酬型か着手金型かなど料金体系も確認し、総費用を見極めましょう。

企業価値評価は財務情報と運営データの両輪

M&A仲介会社と協力し、財務諸表に加えてDAUやARPUなど運営指標を整理することで、定量的な企業価値を示せます。これにより交渉の根拠を固め、余計な値引きを防ぐことができます。


株式譲渡で注意すべき簿外債務リスク

買い手は過去の契約や潜在債務を包括承継するため、デューデリジェンスで潜在リスクを洗い出すことが欠かせません。保証条項や賠償条項を契約に盛り込み、将来のトラブルを回避する仕組み作りが必要です。


事業譲渡で発生する契約移転手続の手間

ライセンス契約や従業員の雇用契約は個別同意が求められる場合があります。移転対象資産のリストアップを早期に行い、関係者への説明を徹底することで、移行コストの増大を避けられます。


価格交渉ではシナジー効果を数値化して提示

買い手が取得後にどのような収益改善や顧客拡大が見込めるかを数値で示すと、評価額を上乗せしやすくなります。クロスセルや広告収入の増加見込みなど、具体的な計画を示すことが有効です。

アプリM&Aで成長を実現するメリット

M&Aを通じて得られる具体的な効果を整理すると、買い手だけでなく売り手のメリットも明確になります。

買い手は開発期間を短縮し市場投入を加速

既存アプリや開発チームを獲得することで、ゼロから企画・開発する場合に比べて大幅にタイムトゥマーケットを短縮できます。競合よりも早く新サービスを展開できる点が最大の魅力です。

売り手は知的財産の価値を最大化し新事業へ転換

売却によって得た資金を新規事業や研究開発へ再投資できるため、経営リソースの最適化が図れます。また、従業員が買い手企業の豊富な資源下で成長できる点もメリットとなります。

M&A増加傾向が示す市場の成熟度

取引件数が増加し交渉期間が短縮している現状は、アプリ市場が成熟し評価基準が整備されつつある証拠です。過去には数カ月を要した交渉が、資料整備と専門家支援により数週間でまとまる事例も報告されています。迅速な意思決定がチャンスを逃さない鍵となるでしょう。


これらのポイントを踏まえて準備を進めれば、アプリM&Aは企業規模を問わず成長戦略の強力な選択肢となります。次節では、実際のM&A手順を時系列で詳しく見ていきます。ご期待ください。

アプリM&Aの実施プロセス

アプリM&Aを円滑に進めるには、段階ごとの手順を丁寧に踏むことが大切です。ここでは一般的な8つのステップを時系列で示し、注意点をまとめます。

1. 信頼できる仲介会社を選定して契約を締結

最初に実績豊富な仲介会社を比較検討し、料金体系やサポート範囲を確認して正式契約を結びます。完全成果報酬型か着手金型かを早めに把握し、想定コストを明確にしておくと安心です。

2. 必要資料を整備し企業価値を評価

財務諸表だけでなく、アクティブユーザー数や広告収入など運営データも整理します。仲介会社と協力し、買い手が理解しやすい形式で提示しましょう。

3. 買い手候補をリストアップし優先度を設定

仲介会社のネットワークから複数の買い手を抽出し、シナジー効果や資金力を基準に優先順位を付けます。候補が一社だけだと交渉力が弱まるため複数候補の確保が重要です。

4. 経営者面談で事業ビジョンを確認し条件を交渉

面談では双方の経営戦略や文化が合致するかを確認します。金額だけでなく従業員の処遇やブランド使用条件など非財務項目も明確にし、基本合意書に盛り込みます。

5. 基本合意書締結で主要条件を文書化

買い手と売り手が大枠の条件に合意したら基本合意書を締結します。この段階で独占交渉期間や秘密保持義務を設定し、後工程のリスクを抑えます。

6. デューデリジェンスで詳細調査を実施

買い手は財務・税務・法務・ITなど多角的な調査を行います。事前に資料を整えておくことで調査期間短縮と信頼性向上が期待できます。

7. 最終契約書を締結し対価を決定

デューデリジェンス結果を踏まえ、価格や引渡し方法を確定します。表明保証や競業避止義務など将来トラブルを防ぐ条項も忘れずに盛り込みます。

8. クロージングと条件履行を確認

株式や事業の譲渡実行後、対価支払いや名義変更を行い、従業員や取引先への説明も完了させます。移行期間のサポート体制を明確にし、運営が途切れないようにしましょう。

注目すべきアプリM&A事例

実際の事例を知ることで、自社の戦略策定に役立ちます。ここでは代表的な3つのケースを紹介し、成功要因を整理します。

楽天がFablicを買収しフリマ事業を拡大

2016年、楽天はフリマアプリ「フリル」を運営するFablicを完全子会社化しました。楽天の顧客基盤とFablicのノウハウが結合し、サービスの利便性向上と新規顧客獲得に成功しました。

メルペイがOrigamiを子会社化し決済市場を強化

2020年、メルペイはOrigami Payを運営するOrigamiを買収しました。資金調達が難航していたOrigamiにとってもメリットが大きく、両社の強みを融合して独自価値を提供できました。

毎日新聞がPoliPoliから俳句アプリ事業を譲受

2018年、毎日新聞は俳句アプリを事業譲渡で取得し、長年の俳句コンテンツと組み合わせてサービスを拡充しました。専門知識と既存コンテンツを活用した好例です。

アプリM&A仲介会社の選定基準

仲介会社はM&Aの成否を左右します。以下の3つの基準を満たす会社を選ぶと、交渉の成功率が高まります。

1. 料金体系が透明で予算管理しやすい

手数料の構成(着手金・中間金・成功報酬など)を事前に提示し、追加費用の有無を明確にしている会社を選ぶとコスト管理が容易です。

2. 豊富な実績と業界特化の専門性がある

アプリ業界のM&A実績が多い会社は、買い手ネットワークやトレンド知識が豊富です。会計士や弁護士が社内に在籍し、税務・法務質問にもワンストップで対応できる体制が望まれます。

3. アフターフォローまで一貫支援する体制

譲渡後の運営支援や組織統合サポートを提供する会社は、買い手にとっても安心材料となり交渉が進みやすくなります。

アプリM&Aの相談先と選び方

相談先は金融機関、公的機関、M&A仲介会社の3種類が主流です。自社の規模や目的に合わせて選択しましょう。

金融機関は資金調達支援と大型案件に強い

大手投資銀行やメガバンクは大型案件の経験が豊富で資金調達を含む総合支援が得意です。ただし中小規模案件は優先度が下がる場合があります。

公的機関は無料相談でリスクを抑えられる

事業承継・引継ぎ支援センターなど公的窓口では無料で情報提供やマッチング支援を受けられます。柔軟性やスピードは民間より劣るため、時間軸に余裕を持って利用しましょう。

M&A仲介会社はネットワークと交渉力が強み

専門的知識と広い買い手網を持ち、交渉から契約書作成まで一貫サポートします。費用体系が会社ごとに異なるため、複数社を比較して自社に合う料金プランを選びましょう。

相談先選びは料金と実績を比較し相性を確認

料金体系が良心的でアプリ案件の実績が豊富かどうかを基準に比較検討すると後悔が少なくなります。また担当者との相性が良いかも重要な判断材料です。

アプリM&Aの売却相場と高値取得ポイント

相場はアカウント数や対応OSなど複数要素で決まります。以下の視点を押さえると評価額を引き上げやすくなります。

利用者数とアクティブ率を具体的に示す

ユーザー数が同程度の取引事例を参考にしつつ、自社アプリのアクティブユーザーや有料アカウント数を提示し、市場価値を証明します。

iOSとAndroid双方への対応で需要を拡大

両OS対応は開発難度が高いため、買い手は資産価値を高く見ます。片方のみの場合はクロスプラットフォーム化計画を示し、将来価値をアピールすると効果的です。

多数の買い手と交渉し競争環境を作る

複数候補と条件交渉を同時並行で進めると、譲渡価格を引き上げやすくなります。仲介会社のネットワークを活用して候補母数を増やしましょう。

まとめ

アプリM&Aは短期間で技術と顧客基盤を獲得できる強力な成長戦略です。実施プロセスを理解し、価格設定や仲介会社選定で客観的な基準を持てば、譲渡側も譲受側も大きなメリットを享受できます。適切な準備と専門家の支援を通じて、将来の市場拡大に備えましょう。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

相続の教科書