飲食店M&A完全ガイド|価格相場から具体的な成功事例まで詳しく解説

飲食店M&Aの基礎から実務まで、具体的な事例を交えて解説します。価格相場や評価方法、メリット・デメリット、注意点など、成功に必要な情報を網羅。経営者や投資家の方々に役立つ実践的な情報をお届けします。

目次

  1. 飲食店M&Aの基本知識
  2. 飲食店業界におけるM&Aの最新動向
  3. 飲食店M&Aに注目が集まる背景
  4. 飲食店M&Aにおける価格相場の実態
  5. 飲食店M&Aがもたらすメリット
  6. 飲食店M&Aで考慮すべきデメリット
  7. 飲食店M&Aにおける重要な注意事項
  8. 具体的な飲食店M&A成功事例
  9. まとめ

飲食店M&Aの基本知識

飲食店M&Aとは、飲食店舗やその運営会社の経営権を、売り手から買い手に移転する取引を指します。具体的な手法としては、以下の2つが一般的です:

・事業譲渡(店舗譲渡):店舗の営業権や資産を譲渡する方式 

・株式譲渡:運営会社の株式を譲渡する方式

また、飲食店特有の方式として「居抜き」という形態があります。これは既存の設備や内装をそのまま引き継ぐものの、営業権は継承しない方法です。厳密にはM&Aには該当しませんが、物件オーナーの承諾が得られれば、新規出店の有効な選択肢となります。

近年の飲食店M&Aは、以下のような特徴があります:

・コロナ禍を乗り越えて新規出店を果たした企業による積極的な買収 

・業績回復基調にある飲食店の売却意欲の高まり 

・デリバリーサービス等の新たな販売チャネル確立による事業価値の再評価

飲食店業界におけるM&Aの最新動向

飲食店M&Aの市場動向を理解することは、取引を検討する上で重要なポイントとなります。最新の業界動向について、以下の観点から詳しく見ていきましょう。

外食需要の回復傾向と市場規模

日本フードサービス協会の調査によると、飲食店の市場規模は以下のように推移しています:

・2019年:14兆5,776億円 

・2021年:16兆9,494億円(回復基調)

コロナ禍による一時的な落ち込みを経験したものの、2021年後半からは着実な回復傾向を示しています。デリバリーサービスの普及や感染対策の定着により、外食需要は徐々に正常化に向かっています。

経営継続の課題に直面する飲食店オーナーの増加

一方で、以下のような課題を抱える飲食店経営者が増加しています:

・事業継続の困難さに直面する中小企業や個人経営店の増加 

・コロナ禍を契機とした廃業や業態転換の検討 

・後継者不在による事業承継の課題

これらの状況から、事業譲渡を選択肢として考える飲食店が今後も増加すると予測されます。特に、事業としての将来性はあるものの、現経営者による継続が難しい店舗がM&A市場に出てくる可能性が高まっています。

飲食店M&Aに注目が集まる背景

近年、飲食店M&Aが注目を集めている背景には、特徴的な要因があります。

既存店舗の評判とブランド力の活用

飲食店経営において最も困難な課題の一つが、店舗の認知度向上と固定客の獲得です。M&Aには以下のようなメリットがあります:

・既存の評判やブランドイメージをそのまま活用可能 

・顧客基盤を即座に獲得できる 

・経営の軌道に乗せるまでの時間を大幅に短縮

参入しやすい投資規模の案件が豊富

飲食店M&Aの特徴として、比較的小規模な案件が多いことが挙げられます:

・個人でも参入可能な投資規模の案件が豊富 

・立地や従業員スキルなど、有形・無形の資産価値が評価対象 

・負債があっても、事業価値次第で成立する可能性

これらの要因により、M&A市場における飲食店案件は、幅広い投資家や事業者からの関心を集めています。

飲食店M&Aにおける価格相場の実態

飲食店M&Aの取引価格は、数十万円から数億円まで幅広い範囲に分布しています。価格形成の特徴について詳しく見ていきましょう。

企業価値算定の基本的な考え方は以下の通りです:

譲渡価格 = 時価ベースの純資産(資産-負債)+ のれん(利益等の複数年分)

飲食店M&Aの価格相場における特徴は以下の通りです:

・個人間取引:数十万円~数千万円規模が中心 

・企業間取引:数千万円~数億円規模 ・投資回収期間が他業態より短い傾向 

・のれん価値の算定期間は1~2年程度が一般的

のれん価値が比較的低く評価される理由: 

・参入障壁の低さ ・流行の影響を受けやすい 

・外部環境の変化による業績変動リスク 

・将来的な安定収益の予測が困難

ただし、以下のような場合は十分なのれん価値が認められます: 

・安定的な固定客基盤の存在 

・継続的な利益計上実績 

・独自の強みや競争優位性

飲食店M&Aがもたらすメリット

飲食店M&Aには、通常のM&Aとは異なる特有のメリットが存在します。

確立された店舗の魅力を買収側が活用可能

買収側が享受できるメリットには以下のようなものがあります:

・確立された店舗ブランドの即時活用 

・既存顧客からの信頼関係の承継 

・実績に基づく事業価値の明確化 

・独自のレシピやノウハウの取得

優良立地の価値が資産として評価

立地に関する価値は以下のように評価されます:

・好立地物件の賃借権の承継 

・商圏における認知度の活用 

・周辺環境の発展による価値向上の可能性

 ・固定客が形成されているエリアでの営業継続

これらの立地に関する価値は、新規出店では得られない重要な資産となります。

飲食店M&Aで考慮すべきデメリット

飲食店M&Aには特有のリスクや課題が存在します。取引を検討する際は、以下のデメリットを十分に理解しておく必要があります。

店舗価値の適正評価の難しさ

飲食店の価値評価における課題: 

・多岐にわたる評価要素の存在(立地、内装、設備、レシピ、顧客基盤など) 

・無形資産の価値算定の複雑さ

 ・業界特有の評価ノウハウの必要性 

・相手方が飲食業に詳しくない場合、適正価格での合意が困難

個人の能力に依存する店舗価値の課題

人的依存に関する課題: 

・シェフやオーナーの個人的な技術やノウハウへの依存 

・経営者交代による顧客離れのリスク 

・従業員の継続雇用と技術承継の不確実性

 ・人的資産の価値移転の困難さ

飲食店M&Aにおける重要な注意事項

M&Aを成功に導くために、以下の点に特に注意を払う必要があります。

最適条件を導き出すための複数社との交渉

交渉における重要ポイント: 

・複数の候補者との並行交渉の実施 

・各候補者の事業計画や経営方針の比較検討 

・従業員の処遇条件の確認 

・最適な譲渡条件の設定

無形資産の円滑な承継に向けた準備

承継が必要な無形資産の例: 

・レシピや調理手法のマニュアル化 

・接客サービスの標準化手順 

・顧客データベースの整備

・SNSアカウントの引継ぎ方法の確立

居抜き物件の設備・什器活用について

居抜き取引の特徴と注意点: 

・設備や什器備品の現状評価 

・賃貸借契約の承継手続 

・物件オーナーとの事前調整 

・従業員の継続雇用に関する取り決め

なお、居抜き取引はM&Aとは異なり、事業そのものの承継ではないため、以下の点で制限があります: ・従業員の自動的な承継はない ・営業権やブランドの継承はできない ・取引先との関係継続は保証されない

具体的な飲食店M&A成功事例

飲食店M&Aの実例を見ることで、成功のポイントや実務的な進め方について理解を深めることができます。以下、代表的な成功事例を紹介します。

ゼンショーホールディングスの買収事例

買収の概要:

・対象企業:アドバンスド・フレッシュ・コンセプツ(米国のお持ち帰り寿司チェーン) 

・取引形態:完全子会社化 ・戦略的意義:

• 米国市場における宅配サービス展開の強化

• 海外事業の成長基盤の確立

• 既存の配送網の活用

オレンジフードコートの事業譲渡事例

譲渡の概要: 

・譲渡対象:ドムドムハンバーガー事業の一部 

・譲渡先:レンブラントホールディングス ・取引規模:

• 直営22店舗

• フランチャイズ6店舗 ・目的:事業再生と経営資源の効率的活用

木曾路による経営統合事例

統合の概要: 

・買収対象:焼肉チェーン大将軍 

・取引形態:完全子会社化 ・成功要因:

• コロナ禍における高付加価値戦略

• 既存店舗の効率的な運営

• 新規出店戦略の見直し

これらの事例から読み取れる成功のポイント: 

・明確な事業戦略の存在 

・シナジー効果の具体的な想定 

・適切な価値評価と取引条件の設定 

・効率的な統合プロセスの実施

まとめ

飲食店M&Aは、外食産業における重要な経営戦略の一つとして注目を集めています。市場規模の回復傾向や新たな事業機会の創出により、今後も需要の増加が見込まれます。成功には、店舗価値の適切な評価、無形資産の円滑な承継、人的資産の維持など、飲食店特有の課題に適切に対応することが重要です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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