後継者がいない会計事務所のM&A・事業承継の進め方
後継者がいない税理士事務所・会計事務所の所長向けに、親族・勤務税理士への承継やM&Aの違い、顧問先と職員の引継ぎ、売却価格の考え方、税理士法上の注意点、準備から実行までの流れを分かりやすく解説します。
目次

▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
後継者がいない会計事務所でも、廃業だけが選択肢ではありません。勤務税理士への承継、税理士法人への事業承継、M&A(合併・買収)などを検討することで、顧問先との関係や職員の雇用を次の世代へ引き継げる可能性があります。
大切なのは、売却価格だけで相手を決めないことです。会計事務所では、顧問先との信頼関係、職員の経験、所長が持つノウハウなど、決算書だけでは分からない要素が事業価値を支えています。そのため、「誰に引き継ぐか」「顧問先にどう説明するか」「職員の雇用をどう守るか」まで含めて準備する必要があります。
この記事では、後継者不在に悩む税理士事務所・会計事務所の所長に向けて、主な承継方法、M&Aの進め方、顧問先と職員の引継ぎ、価格の考え方、準備時期を順番に解説します。
会計事務所の事業承継を考えるうえで、まず確認しておきたいのが税理士の年齢構成です。
日本税理士会連合会が令和6年(2024年)4月に実施した「第7回税理士実態調査」は、税理士会員・税理士法人会員を対象とした調査で、38,607件の回答、回答率44.8%でした。税理士の高齢化が続くなか、事務所の将来を誰に託すかは重要な経営課題になっています。
出典:日本税理士会連合会「第7回税理士実態調査報告書」(2025年2月21日公表)
https://www.nichizeiren.or.jp/datalibrary/system/survey/250221b/
以前は、所長の子どもや勤務税理士へ事務所を引き継ぐことが代表的な選択肢でした。しかし、親族に税理士資格者がいない、勤務税理士に経営を引き継ぐ意思がないなど、事務所内部だけでは後継者を確保できないケースもあります。
そこで選択肢になるのが、外部の税理士や税理士法人への承継です。
所長が元気なうちに相手を探せれば、顧問先への紹介や職員との関係づくりに時間を使えます。一方、体調悪化などをきっかけに短期間で承継しようとすると、相手選びや条件交渉に十分な時間を取れない可能性があります。
そのため、「まだ働けるから承継は先」と考えるのではなく、元気なうちから選択肢を整理しておくことが重要です。
会計事務所の承継方法は一つではありません。後継候補者の有無や現在の事業形態、所長が承継後も働きたいかなどによって適した方法が変わります。
主な選択肢を整理すると、次のようになります。
| 承継方法 | 向いている状況 | 主な確認事項 |
| 親族への承継 | 親族に税理士として承継できる候補者がいる | 資格・登録、本人の意思、顧問先や職員との関係 |
| 勤務税理士への承継 | 事務所内に経営を任せられる税理士がいる | 本人の意思、資金、経営能力、条件 |
| 外部の税理士・税理士法人への承継 | 親族や所内に適任者がいない | 相手との相性、顧問先・職員の引継ぎ、譲渡条件 |
| 税理士法人同士の合併など | 法人として組織的な再編を検討する | 税理士法上の手続、組織体制、統合後の運営 |
| 個人事務所を法人化して将来の承継に備える | すぐに引退せず組織的な承継体制を整えたい | 法人化の目的、社員税理士、登録・届出、将来の承継方法 |
どの方法が有利かを一律に決めることはできません。まずは「いつまで働きたいか」「後継候補者がいるか」「顧問先と職員をどうしたいか」という三つを整理すると、選択肢を絞りやすくなります。
親族や勤務税理士に適任者がいる場合は、内部承継を検討できます。
長く事務所で働いている人であれば、顧問先の事情や職員の仕事の進め方を理解しているため、承継による変化を小さくできる可能性があります。
ただし、「税務に詳しいこと」と「事務所を経営できること」は同じではありません。後継候補者には、顧問先への対応だけでなく、採用、職員管理、資金繰り、営業なども求められます。
本人に経営者になる意思があるか、必要な資金を用意できるかも早い段階で確認しておきましょう。
親族や職員に適任者がいなければ、外部への承継が現実的な選択肢になります。
外部承継の利点は、事務所を廃業して顧問先や職員との関係をすべて終了するのではなく、事業として次の担い手へ引き継げる可能性があることです。
譲受側にとっても、既存の顧問先、経験のある職員、地域で築かれた信用などを一から構築する必要がないため、事業拡大の方法になり得ます。
ただし、外部承継では条件面だけでなく、経営方針や顧問先への対応姿勢が合う相手を選ぶことが重要です。
個人事務所と税理士法人では、承継の考え方や必要な手続が同じではありません。
税理士法人には、設立、変更、合併、解散などについて税理士法上の制度があります。また、個々の税理士についても登録事項に変更が生じた場合には変更登録が必要になります。
そのため、一般企業のM&Aと同じ感覚で「法人を売れば税理士業務もそのまま承継できる」と考えるのではなく、税理士法人の組織や社員税理士の登録などを確認しながら進める必要があります。
国税庁によれば、税理士法人は設立登記によって成立し、成立の日から2週間以内に税理士会を経由して日本税理士会連合会へ届け出ることとされています。また、税理士の登録事項に変更が生じた場合には、変更登録の申請が必要です。
出典:国税庁「7 税理士法人」(確認基準:2026年10月)
https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishiseido/qa/07.htm
出典:国税庁「税理士法基本通達 第18条《登録》関係・第20条《変更登録》関係」(確認基準:2026年10月)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/zeirishi/02.htm
後継者がいない会計事務所にとって、M&Aの大きな目的は単に事務所を売却して対価を得ることではありません。
顧問先、職員、所長自身という三つの視点から承継後の姿を考えることが重要です。
所内に後継者がいない場合、そのままでは最終的に廃業を選ばざるを得ないことがあります。
外部の税理士や税理士法人への承継が実現すれば、後継者を事務所内部だけで探す必要がなくなります。
特に長年地域で営業してきた事務所では、顧問先との関係そのものが大切な経営資源です。廃業によって関係を終わらせるのではなく、信頼できる承継先へつなぐという選択ができます。
廃業すると、職員は新しい勤務先を探さなければなりません。
M&Aによって事務所の業務が継続されれば、職員の雇用を維持できる可能性があります。譲受側にとっても、会計・税務の実務経験を持つ職員は重要な経営資源です。
ただし、M&Aをすれば自動的に同じ雇用条件が続くとは限りません。給与、役職、勤務地、業務内容、退職金、福利厚生などについて、譲受側と具体的に確認する必要があります。
事務所を閉じる場合、顧問先は新しい税理士を探さなければなりません。
決算や申告の時期が近ければ、顧問先にとって大きな負担になることもあります。
承継先を用意し、所長自身が新しい担当者を紹介できれば、顧問先にとっても選択肢を確保しやすくなります。
この「所長から後継者を紹介する期間」を十分に取れるかどうかが、会計事務所の承継では重要です。
M&Aでは、契約成立と同時に所長が完全に引退しなければならないとは限りません。
一定期間は顧問先への挨拶や引継ぎを行い、その後に勤務日数を減らして引退するなど、承継先との合意によって移行期間を設ける方法も考えられます。
「いつまで働きたいか」「承継後も顧問先対応を続けたいか」を先に整理しておけば、相手探しの条件も明確になります。
会計事務所M&Aは、譲渡側だけにメリットがあるわけではありません。
譲受側から見ると、顧問先、人材、地域拠点、専門分野などをまとめて引き継げる可能性があります。
新しい地域へ進出する場合、ゼロから顧問先を開拓するには時間がかかります。
既存事務所を承継すれば、所長から顧問先を紹介してもらいながら地域に入ることができます。
ただし、顧問先との契約や委任関係について必要な手続を確認する必要があり、「事務所を買えば顧問先も自動的に付いてくる」と考えるべきではありません。
会計事務所では、人材がサービス品質を大きく左右します。
顧問先の業種や会計処理を理解した職員が承継後も勤務すれば、譲受側は採用や教育にかかる時間を抑えられる可能性があります。
反対に、M&Aをきっかけに職員が大量に退職すれば、顧問先対応にも影響します。このため譲受側は、所長だけでなく、実務を支える職員が誰なのかを確認することが重要です。
承継する事務所が特定地域に強い場合、新しい営業拠点として活用できる可能性があります。
また、相続、医療、建設、国際税務など特定分野の顧問先やノウハウを持つ事務所であれば、自社にない専門性を補完できる場合があります。
ただし、期待する相乗効果だけで価格を決めず、実際の顧問契約、担当者、収益性などを確認する必要があります。
会計事務所の価値を支えているのは、長年積み重ねた顧問先との信頼関係です。
そのため、承継では契約書を交わすだけでなく、「顧問先が新しい税理士を受け入れられる状態をつくる」ことが重要になります。
まず、顧問先を一覧にして整理します。
顧問料だけを見るのではなく、業種、担当者、契約内容、決算月、利用サービス、所長への依存度などを確認します。
特に所長だけが対応している顧問先については、後継者との関係づくりに時間をかける必要があります。
相手が決まる前に不用意にM&Aの話を広げると、顧問先や職員に不安を与える可能性があります。
一方、説明が遅すぎても「突然担当者が変わった」という印象を与えます。
誰に、いつ、誰から、どのように説明するのかを承継先と決めておきましょう。
重要な顧問先については、所長と後継者が一緒に訪問し、承継理由、今後の担当体制、サービス内容などを説明する方法が考えられます。
会計事務所では、所長個人への信頼が顧問契約につながっていることがあります。
そのため、契約成立後すぐに所長が姿を消すより、一定期間は後継者と一緒に顧問先対応を行った方が円滑に移行しやすくなります。
引継ぎ期間を設ける場合は、期間だけでなく、勤務日数、担当業務、報酬、顧問先への説明などを事前に決めておくことが大切です。
顧問契約だけでなく、電子申告などの実務上の権限についても確認が必要です。
e-Taxでは、納税者と税理士との委任関係を登録する仕組みがあります。国税庁は、委任契約が終了した場合には、納税者または税理士が速やかに委任関係を解除するよう案内しています。
承継時には、契約書だけでなく、電子申告、資料共有、連絡窓口など日常業務で利用している仕組みを一覧化し、必要な変更を確認しましょう。
出典:国税庁 e-Tax「委任関係の登録は、毎年、登録しないといけないのですか。」(2025年5月26日更新)
https://www.e-tax.nta.go.jp/toiawase/qa/yokuaru08/22.htm
会計事務所M&Aでは、顧問先と同じくらい職員の引継ぎが重要です。
長年勤務している職員は、顧問先の事情、年間業務の流れ、所内のルールなどを理解しています。こうした情報は決算書には表れませんが、承継後の事業継続を左右します。
職員の処遇を確認するときは、給与だけを見てはいけません。
役職、勤務地、勤務時間、在宅勤務の有無、担当顧問先、福利厚生なども職員にとって重要です。
承継後に勤務場所や仕事内容が大きく変わる場合には、退職につながる可能性があります。
譲渡側は「雇用を継続してほしい」という希望だけでなく、どの条件を維持したいのかを整理して相手と交渉しましょう。
所長以外に、顧問先から強く信頼されている職員がいる場合があります。
例えば、長年同じ顧問先を担当している職員や、所内の業務を取りまとめている管理職です。
こうしたキーマンが退職すると、顧問先の離脱や業務停滞につながる可能性があります。
譲受側も、資格者数だけではなく、「実際に誰が事務所を動かしているか」を確認することが大切です。
会計事務所のM&Aを検討するとき、多くの所長が気になるのが「いくらで売れるのか」という点でしょう。
現行のM&A実務では、年間顧問報酬などを参考に価格を考えることがあります。しかし、年間顧問報酬と売却価格が必ず同額になるという公的な価格基準はありません。
また、「営業利益の何年分なら必ず売れる」といった公的な統一基準もありません。
そのため、特定の倍率だけで売却価格を決めるのではなく、複数の要素を見て判断することが重要です。
会計事務所では、毎年継続して発生する顧問報酬が重要な判断材料になります。
ただし、同じ年間売上でも事務所の価値が同じとは限りません。
例えば、所長個人への依存が強く、引退すると顧問先が離れる可能性が高い事務所と、複数の職員が顧問先との関係を築いている事務所では、承継後の安定性が異なります。
顧問先数、顧問料、契約内容、取引期間、解約状況などを整理しておくと、買い手が継続性を判断しやすくなります。
売上だけでなく、事務所が継続的にどの程度の利益を生み出せるかも重要です。
個人事務所では、所長個人に関係する支出と事業に必要な支出が混在している場合があります。
そのため、決算書の数字をそのまま見るだけでなく、承継後にも必要な費用を整理し、実際の収益力を確認します。
売上が安定していても、一社の大口顧問先への依存度が高ければ、その顧問先が離れたときの影響が大きくなります。
同様に、特定の職員だけが重要顧問先を担当している場合もリスクになります。
買い手は、「現在いくら売り上げているか」だけでなく、「承継後もその売上を維持できるか」を見ています。
高い価格を提示した相手が、必ずしも最適な承継先とは限りません。
例えば、価格は高くても、職員の雇用条件や顧問先への対応方針が希望と合わない場合があります。
所長が「価格」「職員」「顧問先」「事務所名」「引退時期」のうち何を優先するのかを決めておくと、条件比較がしやすくなります。
会計事務所は、顧問先との長期的な関係を基盤とする事業です。そのため、財務条件だけでなく、相手との相性も重要です。
後継者問題を解決するためにM&Aを行うのであれば、譲受側にも将来の承継体制があるか確認しておきましょう。
譲受側の代表者だけでなく、社員税理士や所属税理士など、将来の運営を担う人材がいるかを見ることが重要です。
低価格型のサービスを中心とする事務所と、訪問・相談を重視する事務所では、顧問先への接し方が異なります。
現在の顧問先が何を評価しているのかを整理し、その価値を引き継げる相手かを確認しましょう。
「全員の雇用を続けたい」という希望があるなら、交渉の初期段階で伝える必要があります。
譲受側が求める人員体制と譲渡側の希望が違えば、最終段階で条件が合わなくなる可能性があります。
利用している会計ソフト、税務ソフト、文書管理、顧問先とのデータ共有方法なども確認します。
システムを統一する場合、職員への教育やデータ移行が必要になります。
承継後の混乱を避けるため、契約前に主要システムの違いを把握しておくと安心です。
会計事務所の承継では、一般企業のM&Aとは異なり、税理士法上のルールを意識する必要があります。
特に、税理士登録、名義貸し、守秘義務については基本事項として確認しておきましょう。
国税庁の税理士法基本通達では、税理士となる資格を持つ人が税理士となるには、社員税理士、所属税理士または開業税理士のいずれか一つの区分で登録する必要があるとされています。
日本税理士会連合会の税理士情報検索サイトでも、税理士および税理士法人は、事務所所在地を管轄する税理士会に所属し、日本税理士会連合会に登録されていることが案内されています。
承継相手を検討するときは、単に「会計に詳しい人」ではなく、税理士業務を誰が担うのかを明確にする必要があります。
出典:国税庁「税理士法基本通達 第18条《登録》関係」(確認基準:2026年10月)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/zeirishi/02.htm
出典:日本税理士会連合会「税理士情報検索サイト」(掲載情報:2026年8月31日時点)
https://www.zeirishikensaku.jp/
税理士法では、非税理士に対する名義貸しが禁止されています。
事務所を承継する際も、資格を持たない人が実質的に税理士業務を行い、税理士が名義だけを貸すような体制にしてはいけません。
承継後の経営体制と税理士業務を行う人を明確にしておく必要があります。
出典:国税庁「税理士制度Q&A 非税理士に対する名義貸しの禁止(法第37条の2)」(確認基準:2026年10月)
https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishiseido/qa/pdf/all.pdf
税理士には、税理士法第38条に基づく秘密を守る義務があります。
M&Aの検討では、買い手が顧問先の内容を確認したい場面がありますが、だからといって交渉初期から顧問先の機密情報を無制限に開示してよいわけではありません。
秘密保持契約を締結したうえで、交渉段階に応じて必要な情報を開示するなど、守秘義務に配慮して進めることが重要です。
出典:国税庁「税理士制度Q&A 秘密を守る義務(法第38条)」(確認基準:2026年10月)
https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishiseido/qa/pdf/all.pdf
会計事務所の承継は、相手を見つけてすぐ契約するものではありません。
準備から引継ぎまで段階的に進めます。
最初に、何のために承継するのかを明確にします。
「完全に引退したい」「数年間は働きたい」「職員全員の雇用を優先したい」「顧問先へのサービスを変えたくない」など、希望を書き出しましょう。
希望条件には優先順位を付けることが大切です。
すべての条件を満たす相手が見つかるとは限らないため、「絶対に譲れない条件」と「交渉できる条件」を分けます。
買い手が事務所を評価できるよう、決算書、顧問先に関する集計資料、職員情報、契約関係、使用システムなどを整理します。
この段階で数字と実態が合っていないと、後の調査や交渉に時間がかかります。
特に顧問料の一覧や職員の勤務状況など、日常的には所長の頭の中だけで管理している情報があれば、資料化しておきましょう。
金融機関、M&A仲介会社、士業ネットワークなどを通じて候補先を探します。
候補先を比較するときは、提示価格だけでなく、地域、規模、経営方針、職員の処遇、顧問先への対応なども確認します。
秘密情報を開示する前には、秘密保持について適切に取り決めておくことが重要です。
相手候補を絞ったら、価格、承継方法、職員、顧問先、所長の引継ぎ期間などを話し合います。
後から大きな認識違いが生じないよう、重要な条件は書面で整理します。
デューデリジェンスとは、買い手が契約前に事業の内容やリスクを調査することです。
会計事務所では、財務や税務だけでなく、顧問契約、職員、労務、情報管理なども重要な確認対象になります。
譲渡側は、質問された資料をその都度探すのではなく、早い段階から整理しておくと対応しやすくなります。
調査結果を踏まえて最終条件を決め、契約を締結します。
価格や支払方法だけでなく、引継ぎ期間、職員への対応、顧問先への説明、譲渡対象などを明確にします。
契約内容は案件によって異なるため、M&Aと士業の制度に詳しい専門家による確認を受けることが重要です。
契約が成立して終わりではありません。
会計事務所M&Aでは、その後の引継ぎが成否を左右します。
顧問先への挨拶、担当者の紹介、職員への説明、システム移行などを計画的に進めます。
所長が一定期間残る場合は、「誰が最終的な責任者なのか」が曖昧にならないよう、役割分担も決めておきましょう。
買い手は、提示された売上や利益だけで判断するわけではありません。
承継後に事業を安定して続けられるかを確認します。
顧問先数、業種、顧問料、決算月、契約内容などを確認します。
特定顧問先への売上集中や、所長だけが対応している顧問先が多い場合は、承継後のリスクとして評価される可能性があります。
税理士資格者、ベテラン職員、管理職などの在籍状況を確認します。
勤続年数、担当業務、給与などに加え、承継後も勤務を続ける可能性があるかが重要です。
残業代、有給休暇、社会保険、雇用契約などの管理状況も確認対象になります。
日常的な管理を口頭だけで行っている場合は、承継準備を機に書類を整理しておきましょう。
事務所賃貸借、リース、ソフトウェア、顧問契約など、事業運営に必要な契約を整理します。
また、会計事務所は顧問先の機密情報を大量に扱うため、データの保存場所やアクセス権限なども確認しておく必要があります。
事業承継には、相手探しだけでなく、資料整理、条件交渉、顧問先への引継ぎなど多くの工程があります。
そのため、「来月引退したい」となってから準備を始めるより、引退を意識した時点で準備を始める方が選択肢を広げやすくなります。
必要な期間は、事務所規模、後継候補者の有無、希望条件などによって異なるため、「必ず何年前」という一律の基準はありません。
重要なのは、承継日から逆算して準備することです。
まずは、引退したい時期と承継後の希望を書き出します。
後継候補者がいるなら本人の意思を確認し、いなければ外部承継も選択肢に入れます。
この段階では実際に売却活動を始めなくても構いません。選択肢を把握するだけでも、急な承継リスクへの備えになります。
決算書、顧問先情報、職員情報、契約書などを整理します。
収益性の低い業務や、所長しか分からない業務があるなら、承継前に見直すことも有効です。
「自分がいなくても事務所が動く状態」に近づけることは、承継後の混乱を減らすことにつながります。
相手との契約が成立したら、顧問先や職員への引継ぎを行います。
特に所長との関係が深い顧問先については、複数回の面談が必要になることも考えられます。
余裕のあるスケジュールを組み、承継日だけをゴールにしないことが大切です。
M&Aは後継者問題を解決する有力な方法ですが、相手が見つかれば必ず成功するわけではありません。
承継後まで見据えて準備しましょう。
価格は重要ですが、職員や顧問先の継続を重視するなら、それ以外の条件も比較する必要があります。
数年後に「この相手に任せて良かった」と思えるかという視点を持つことが重要です。
すべての顧問先を所長一人で担当していると、引退による影響が大きくなります。
承継前から職員を面談に同席させる、業務手順を文書化するなど、少しずつ組織で対応する体制へ移しておきましょう。
職員は、M&Aを知ると「勤務先がなくなるのではないか」「待遇が悪くなるのではないか」と不安になることがあります。
説明時期を誤ると退職につながる可能性もあるため、譲受側と相談して説明の時期、内容、説明者を決めます。
顧問先には、「事務所を売りました」という事実だけでなく、なぜ承継するのか、誰が後継者なのか、今後のサービスはどうなるのかを説明します。
長年の信頼関係があるからこそ、所長本人の言葉で説明することが重要です。
会計事務所M&Aでは、価格交渉だけでなく、税理士法、契約、税務、労務、顧問先情報の取扱いなど幅広い論点があります。
仲介会社やファイナンシャル・アドバイザーなどを選ぶ場合は、士業事務所の承継を理解しているか、報酬体系が明確か、どこまで支援するのかを確認しましょう。
複数の専門家を比較する場合も、単に手数料の安さだけではなく、会計事務所特有の承継論点を理解しているかを見ることが重要です。
専門家へ相談する場合は、「M&Aを扱っている」という理由だけで決めず、支援内容を確認しましょう。
まず確認したいのは、会計事務所・税理士事務所のM&Aを扱える体制があるかです。
一般企業の株式譲渡と個人の税理士事務所の承継では、考えるべき内容が異なります。
次に、報酬体系を確認します。着手金、中間金、成功報酬など、いつ、何に対して費用が発生するのかを書面で確認しましょう。
また、相手探しだけでなく、条件整理、デューデリジェンスへの対応、最終契約、顧問先・職員の引継ぎまで、どこを支援してもらえるのかも重要です。
特に、売却価格を高く見せることだけを強調するのではなく、顧問先や職員を含めた承継後の姿について相談できる相手を選ぶことが大切です。
後継者がいない会計事務所でも、親族や勤務税理士への承継だけでなく、外部の税理士・税理士法人へのM&Aなど複数の選択肢があります。大切なのは、売却価格だけを見るのではなく、顧問先との関係、職員の雇用、税理士法上の手続、所長自身の引退時期まで含めて承継計画を考えることです。体調などの事情で急いで承継先を探す状況になる前に、希望条件と事務所の現状を整理し、どの方法なら大切な顧問先と職員を次の世代へ引き継げるかを検討しておきましょう。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人