SES業界のM&Aの現状と価格相場や成功ポイントを解説
「SES企業のM&A、何から始めれば良い?」そんな疑問に即答します。市場動向から価格相場、成功事例までを体系的に整理し、譲渡企業と譲受企業双方のメリットと注意点をわかりやすく解説します。
目次
▶目次ページ:業種別M&A(様々な業界でのM&A)
SES(System Engineering Service)は、専門エンジニアを顧客企業に常駐させるビジネスモデルです。自社雇用の技術者をプロジェクト単位で派遣し、期間・人数を自在に調整できるため、顧客は正社員採用よりも低リスクかつ機動的にIT人材を確保できます。一方、SES企業は稼働率が安定収益を左右するため、継続案件の確保と待機率の低減が経営のカギとなります。
顧客先で直接開発・運用を行うため、要件変更に素早く対応できます。短期から長期まで契約期間が柔軟で、繁忙期に合わせた人員補強も容易です。
業務指示は原則SES企業が行うため、エンジニアは本来の技術力発揮に集中できます。品質管理や納期管理もSES企業が責任を持つことで、顧客の負担を軽減します。
クライアントの開発規模や予算に合わせ、必要スキルを持つ人材を迅速にアサインできます。案件終了後には配置転換が容易で、固定費を抑えながら事業展開が可能です。
DX投資の拡大と5G普及を背景に、SES市場は成長を続けています。2024年のデジタル人材サービス市場は前年度比9.1%増と報告され、AI・クラウド関連需要が追い風です。しかし成長の裏で慢性的なエンジニア不足と多重下請け構造が深刻化し、利益率と労働環境の改善が業界全体の課題となっています。
企業のデジタル化加速により、アプリ開発や基幹システム刷新案件が増大。SES企業は新規顧客の獲得機会が広がっています。
高度スキルを持つエンジニアほど採用競争が激しく、確保・定着が難航。人材獲得コスト上昇が利益を圧迫しています。
元請→二次請→三次請と商流が長くなるほど中間マージンが重なり、最終的にエンジニア単価が低下。待遇格差が離職を招き、さらに人材不足を加速させる負の連鎖が起きています。
上記課題を一気に解決する手段としてM&Aが注目されています。譲受企業は優秀な人材と顧客基盤を短期間で獲得でき、譲渡企業は事業承継や資金回収を実現できます。特にAIやクラウド領域に強い企業はプレミアム評価を受けやすく、同業統合や異業種参入ともに案件数が増加傾向にあります。
M&Aにより即戦力エンジニアをまとめて獲得し、採用コストと時間を大幅に削減。人手不足リスクを一気に低減できます。
双方の技術ノウハウを融合し、直請け比率向上や大型案件対応力アップを実現。規模拡大で金融機関からの信用力も向上します。
他地域の拠点・顧客を取り込むことで市場シェアを拡大。譲受企業にない専門技術を取り込み、事業ポートフォリオを多様化できます。
SES企業が売却側に立つ場合、M&Aは「後継者不足の解消」と「まとまった譲渡益の確保」を同時に実現できる手段です。長年培った技術と顧客基盤を守りつつ事業を残せるため、「従業員を守りながら引退したい」という経営者の想いを形にできます。
・譲渡先に従業員が継続雇用され技術・ノウハウが失われません。
・主要取引先との関係を維持しやすく顧客へ迷惑を掛けずに承継できます。
・企業価値に応じた対価を一括で受け取り、新規投資や個人資産形成に充当できます。
・経営者保証や個人連帯債務のリスクから離脱し、リタイア後の生活基盤を安定化できます。
買収側は“人材・顧客・技術”を短期間で取り込み、市場ポジションを一気に拡大できます。
・採用コストと時間を大幅に削減し、人材不足リスクを緩和。
・多様なスキルセットを獲得し、大型案件へ参入しやすくなります。
・直請け案件や販路を引き継ぎ、市場シェアを短期間で拡大。
・クロスセルにより売上単価と利益率を向上できます。
・AI・クラウドなど買い手にない専門性を取り込み競争力を差別化。
・買収先の拠点網を活用し地方や海外へ低リスクで展開可能。
高評価の鍵は“可視化された強み”と“リスク最小化”です。
・決算書、月次推移、主要契約を整理し質問に即答できる資料室を準備。
・エンジニアのスキルマトリックスや資格一覧を整備し人材価値を数値化。
・待機率を下げBP比率を減らし自社雇用比率を高める。
・AI/クラウド資格取得支援やリスキリング制度で定着率を向上。
・大手直請け比率を高め安定売上を示す。
・長期契約を増やし将来CFを明確にする。
実務ではEBITDA×5〜8倍がボリュームゾーン。AI・クラウド案件比率が高い成長企業は8倍超で取引される例もあります。価格に影響する主因はエンジニアの質と数、直請け比率、売上成長率、特殊技術領域の強み、待機率・BP比率などのKPIです。
人材確保と直請け案件の獲得でシナジーを創出。
人材育成ノウハウと販路を融合しサービスを拡充。
インフラ開発力を取り込みDX事業を加速。買収額799万円を公表。
IT人材ビジネス領域を拡大しエンジニアリソースを強化。
異業種が内製開発力を確保し自社DXを推進した好例。
M&Aは財務・法務・税務・IT技術が絡む複雑なプロセスです。
SES業界に詳しい仲介会社を選び、候補企業の質と提案スピードを向上。
デューデリジェンスで指摘されやすい会計処理を早期是正し、譲渡益課税への対策を立案。
株式譲渡契約や表明保証を整備し責任範囲を明確化。
シナジー創出のロードマップとKPI管理を支援し統合効果を最大化。
株式譲渡なら許可番号は維持されます。事業譲渡の場合、買い手が派遣許可を持たないと再申請が必要です。
顧客・従業員の信頼維持のため1年前後顧問などで残留する例が多いです。完全リタイア希望なら引継ぎ計画と報酬条件を事前交渉しましょう。
書類が整いDDで大きな修正がなければ最短6か月、平均で6〜8か月程度です。
統合後に価値を最大化するには「コミュニケーション」「ガバナンス」「KPI管理」が不可欠です。
まず経営陣がビジョンを共有し従業員の不安を解消。次に規程・業務フローを統一し二重統治を排除。最後に売上成長率・待機率・離職率などを毎月可視化し課題があれば即対応する体制を敷くことで、統合効果を継続的に検証できます。初年度はオンボーディング研修やワークショップを設け、文化の違いを乗り越える機会を意図的に作ると成功率が高まります。
SES業界のM&Aは、人材不足解消・事業承継・競争力向上を同時にかなえる有効策です。エンジニアの質や直請け比率、KPIの整備など“見える強み”を磨き、専門家とともに慎重なDDとPMIを行えば、高値売却と統合後の成長を両立できます。M&Aをゴールでなく成長戦略と捉え、計画的に準備を進めましょう。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事