遺産分割の基本や具体的な方法、事業承継との関わりを分かりやすく解説しています。円滑な遺産分割と事業承継を行うためのポイントや注意点を丁寧に説明します。
目次
遺産分割とは、亡くなった方(被相続人)の財産を、相続人全員で話し合って分ける手続のことです。この手続は、被相続人が遺言書を残していない場合に特に重要となります。
遺産分割の主な特徴は以下の通りです:
1. 相続人全員の合意が必要:遺産分割は、原則として相続人全員の合意によって行われます。
2. 共有状態の解消:遺産分割が完了するまでの間、相続財産は相続人全員の共有状態になります。
3. 法定相続分とは異なる分割も可能:話し合いの結果、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することもできま
す。
4. 遺言書がある場合は尊重:被相続人が有効な遺言書を残している場合、その内容が優先されます。
5. 調停・審判の可能性:話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所での調停や審判に移行することがあります。
遺産分割と相続の違いを理解することも重要です。相続は被相続人の遺産を引き継ぐ行為全般を指しますが、遺産分割はその中でも具体的に誰がどの財産を取得するかを決める過程を指します。
また、預貯金については「預貯金の早期払戻制度」があり、一定額までなら他の相続人の同意なしに引き出すことができる点も覚えておくと良いでしょう。
遺産分割は、相続人間の公平性を保ちつつ、被相続人の意思を尊重する重要なプロセスです。適切に行うことで、相続に関するトラブルを未然に防ぎ、円滑な財産承継を実現できます。
▶目次ページ:親族内承継(株式の相続)
遺産分割には主に4つの方法があります。それぞれの特徴を理解し、状況に応じて適切な方法を選択することが重要です。
現物分割は、遺産をそのままの形で相続人に分配する方法です。例えば、「株式は長男」「不動産は次男」「預金は長女」というように、現物をそのまま各相続人に割り当てます。
現物分割のメリット:
1. 手続が比較的簡単
2. 財産の価値が変動しにくい
3. 相続税の計算がしやすい
デメリット:
1. 財産の性質によっては公平な分割が難しい場合がある
2. 分割できない財産(例:一軒家)の取り扱いに課題が生じる可能性がある
現預金は必ず現物分割を行います。また、不動産の場合は分筆して各相続人で相続することもあります。
換価分割は、相続財産の全部または一部を売却し、その代金を相続人の相続分に応じて分割する方法です。
メリット:
1. 不動産や未公開株式など、分割しにくい財産を現金化できる
2. 相続人間の公平性を保ちやすい
デメリット:
1. 財産の売却に時間がかかる
2. 売却手数料などの費用が発生する
3. 急いで売却すると、本来の価値より低い金額になる可能性がある
換価分割は、相続財産に不動産や事業用資産が含まれる場合によく用いられます。
代償分割は、特定の相続人が全ての財産を受け取り、他の相続人に対して本来の相続分を金銭で支払う方法です。
代償分割の特徴:
1. 財産を分割せずに一体のまま相続できる
2. 事業継続や不動産の有効活用に適している
3. 支払う側の相続人に資金力が必要
この方法は、建物など物理的に分けることが困難な遺産がある場合に特に有効です。
共有分割は、不動産などの遺産を複数の相続人で共有する方法です。
共有分割のポイント:
1. 財産の分割が難しい場合に選択される
2. 相続人全員の合意が必要な場面が増える
3. 将来的な権利関係の整理が必要になる可能性がある
共有分割は、一時的な解決策として用いられることが多く、将来的には他の方法に移行することも検討されます。
これら4つの方法は、相続財産の性質や相続人の事情に応じて選択されます。状況によっては複数の方法を組み合わせることもあるため、専門家のアドバイスを受けながら最適な方法を選ぶことが重要です。
遺産分割を円滑に進めるためには、一定の手順を踏むことが重要です。ここでは、遺産分割の具体的な進め方を詳しく解説します。
まず最初に行うべきは、被相続人が遺言書を残しているかどうかの確認です。遺言書がある場合、その内容が遺産分割の基本となります。
遺言書の主な保管場所:
1. 被相続人の自宅や貸金庫
2. 金融機関(貸金庫や遺言書預かりサービス)
3. 法務局(遺言書保管制度を利用している場合)
4. 公証役場(公正証書遺言または秘密証書遺言の場合)
公正証書遺言の場合、公証役場に原本があるため、正本や謄本が見つかったら公証役場に問い合わせましょう。自筆証書遺言が見つかった場合は、家庭裁判所での検認手続が必要です。
次に、法定相続人を確定させる必要があります。これは遺産分割協議に参加する権利を持つ人を特定するために重要です。
相続人確定のための書類:
1. 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
2. 除籍謄本
3. 改製原戸籍
2024年3月1日からは「広域戸籍システム」が開始され、本籍地以外の市区町村でも戸籍関係書類を取得できるようになりました。
相続人の確定手順:
1. 被相続人の子供(実子や認知した子を含む)を特定
2. 子供がいない場合、被相続人の兄弟や両親の戸籍を調査
この作業は時間がかかる場合があるため、早めに着手することをおすすめします。
相続財産を正確に把握することは、公平な遺産分割のために不可欠です。
収集すべき主な書類:
1. 預貯金通帳
2. 株券や株主名簿
3. 取引残高報告書(株式)
4. 不動産の登記事項証明書
5. 賃貸借契約書や賃貸借対照表(不動産)
6. 名義書面(不動産)
7. 保険証書
8. 事業収支関係の帳票
これらの書類を基に、財産目録を作成します。不動産や非上場株式の評価には専門知識が必要なため、専門家に相談することをおすすめします。
相続人全員が参加して遺産分割協議を行います。地理的な制約がある場合は、電話やオンライン会議ツールを活用しましょう。
協議のポイント:
1. 相続人全員の意見を公平に聞く
2. 被相続人の遺志を尊重する
3. 各相続人の事情や希望を考慮する
4. 法定相続分を基本としつつ、柔軟な分割を検討する
特別な配慮が必要なケース:
• 意思能力が不十分な相続人がいる場合:成年後見人の選任が必要
• 未成年者が相続人の場合:特別代理人の選任が必要
遺産分割協議がまとまらない場合、次のステップとして家庭裁判所での調停を申し立てることができます。
調停のプロセス:
1. 中立的な立場の調停委員が介入
2. 当事者の主張を聞きながら解決策を模索
3. 合意形成を目指す
調停でも合意に至らない場合は、審判手続に移行します。審判では、裁判官が遺産分割の内容を決定します。
遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議書を作成します。この文書は法的な効力を持つため、慎重に作成する必要があります。
遺産分割協議書作成のポイント:
1. 「遺産分割協議書」という表題を明記する
2. 被相続人や相続人の氏名を正確に記入する
3. 住所は住民票通りに記入する
4. 財産は第三者が特定できるよう詳細に記述する
5. 将来、新たな財産が発見された場合の対応方法も記載する
6. 署名は実印を使用し、印鑑証明書を添付する
遺産分割協議書は、金融機関や法務局での相続手続で必要となるため、正確な作成が求められます。不動産については、登記事項証明書の内容に合わせて、地番や地目、建物名称、構造なども記入しましょう。
以上の手順を踏むことで、遺産分割を適切かつ円滑に進めることができます。ただし、複雑な案件や専門的な判断が必要な場合は、弁護士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
事業承継と遺産分割は密接に関連しており、特に家族経営の中小企業では、この2つの問題を同時に考えることが重要です。
事業承継における遺産分割の重要性:
1. 経営権の集中: 事業を継続するためには、後継者に経営権を集中させる必要があります。遺産分割で株式や事業用
資産が分散すると、スムーズな経営判断が難しくなる可能性があります。
2. 資産の維持: 事業に必要な不動産や設備などの資産を、遺産分割によって失うことがないよう注意が必要です。
これらの資産が分割されると、事業の継続に支障をきたす可能性があります。
3. 相続税対策: 事業用資産は多額の相続税の対象となる可能性があります。適切な遺産分割を行うことで、相続税の
負担を軽減し、事業の継続性を確保することができます。
4. 後継者以外の相続人への配慮: 事業を承継する後継者と、それ以外の相続人との間で公平性を保つことも重要で
す。適切な遺産分割を行うことで、家族間の争いを防ぎ、円滑な事業承継を実現できます。
5. 事業の継続性確保: 遺産分割によって事業用資産が分散すると、事業の継続が困難になる可能性があります。事業
承継を見据えた遺産分割を行うことで、事業の継続性を確保できます。
6. 従業員や取引先への影響: 事業承継がスムーズに行われないと、従業員の雇用不安や取引先との関係悪化につなが
る可能性があります。適切な遺産分割は、これらのステークホルダーへの影響を最小限に抑えることができます。
事業承継を成功させるためには、早い段階から計画を立て、遺産分割を含めた総合的な対策を講じることが重要です。専門家のアドバイスを受けながら、事業の特性や家族の事情を考慮した最適な方法を選択することをおすすめします。
事業承継を成功させるためには、遺産分割を戦略的に考える必要があります。ここでは、事業承継を見据えた遺産分割の具体的な戦略について解説します。
事業承継を円滑に進めるためには、法定相続分にとらわれない柔軟な遺産分割が必要になる場合があります。
ポイント:
1. 後継者への事業用資産の集中: 株式や事業用不動産などを後継者に集中させることで、経営権の分散を防ぎます。
2. 代償分割の活用: 後継者が事業用資産を相続し、他の相続人には現金などで代償することで、公平性を保ちつつ
事業の継続性を確保します。
3. 遺留分への配慮: 遺留分を考慮しつつ、可能な限り後継者に事業用資産を集中させる方法を検討します。
4. 生前贈与の活用: 計画的な生前贈与を行うことで、相続時の遺産分割の負担を軽減できます。
公正証書遺言を作成することで、事業承継を見据えた遺産分割をより確実に実現できます。
公正証書遺言のメリット:
1. 法的効力が強い: 自筆証書遺言と比べて、無効になるリスクが低くなります。
2. 遺言の内容を明確に示せる: 後継者への株式や事業用資産の承継を明確に指定できます。
3. 相続人間のトラブルを防止: 遺言者の意思が明確なため、相続人間の争いを未然に防ぐことができます。
4. 相続手続の簡略化: 遺言執行者を指定することで、相続手続をスムーズに進められます。
注意点:
• 遺留分に配慮した内容にする必要があります。
• 定期的な見直しと更新が重要です。
事業承継と遺産分割は複雑な問題であり、専門家のサポートを受けることが重要です。
専門家に相談するメリット:
1. 法律・税務・金融など多角的な視点からのアドバイス
2. 最新の制度や税制に基づいた対策立案
3. 客観的な立場からの助言や調整
相談すべき専門家:
• 税理士:相続税対策、事業承継税制の活用など
• 弁護士:遺言作成、遺産分割協議のサポートなど
• M&Aアドバイザー:第三者承継の検討など
• 中小企業診断士:事業の将来性評価、経営改善など
効果的な専門家の活用方法:
1. 早期からの相談:事業承継の計画段階から専門家に相談することで、長期的な視点での対策が可能になります。
2. チームでの対応:複数の専門家によるチームを組むことで、総合的な対策を立てられます。
3. 定期的な見直し:事業環境や法制度の変化に応じて、定期的に計画を見直し、必要に応じて専門家の助言を受けま
す。
4. 後継者を含めた相談:後継者も交えて専門家に相談することで、スムーズな承継準備が可能になります。
事業承継を見据えた遺産分割戦略を立てる際は、自社の状況や家族の事情を十分に考慮し、専門家のアドバイスを受けながら最適な方法を選択することが重要です。早期からの計画的な準備と、状況の変化に応じた柔軟な対応が、成功の鍵となります。
事業承継と遺産分割は密接に関連しており、円滑な事業の継続のためには両者を適切に計画し実行することが重要です。早期からの準備、後継者の育成、専門家の活用が成功の鍵となります。状況に応じて柔軟に対応し、家族や関係者との調整を図りながら、最適な方法を選択することが大切です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画