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M&A人材の確保と育成や専門家活用で企業価値向上と持続的成長

M&A人材の確保・育成は、事業承継や企業成長を左右する要です。本記事では、M&A人材戦略の全体像と具体策を分かりやすく解説します。

目次

  1. M&A人材確保の重要性と背景
  2. M&A人材に求められる主要スキル
  3. M&A専門家活用のメリットと選定基準
  4. M&A人材戦略実行の具体的ステップ
  5. M&A人材確保と育成で得られる企業成長効果
  6. M&A人材戦略推進の留意点と今後の展望
  7. まとめ

M&A人材の確保と育成や専門家活用で企業価値向上と持続的成長

▶目次ページ:企業買収(買収とは)

M&A人材確保の重要性と背景

M&A人材とは、譲渡企業・譲受企業の交渉から統合までを支える専門家です。近年は事業承継の選択肢としてM&Aが一般化し、各業界で件数が増加しています。その結果、M&Aプロセスに精通した人材の奪い合いが激しくなり、一人ひとりの市場価値が上昇しました。M&Aの成否は企業価値に直結するため、的確な人材戦略が欠かせません。

各業界でM&Aが活発化し専門人材が不足

ITから製造業、地域密着型サービスに至るまで、目的は多様でもM&Aは加速しています。シェア拡大、海外展開、経営者の高齢化対策など背景はさまざまですが、共通して求められるのは「迅速な意思決定」と「確実な統合」です。ところが、実務経験者は国内全企業のごく一部にとどまり、案件数に比べて絶対数が不足しています。そのため、経験と専門知識を持つ人材の採用・育成は急務です。

経営人材への需要が拡大し競争が激化

M&Aを経験した人材は、財務・法務・税務・PMIまで一貫して携わってきたため、経営の現場で即戦力となります。譲受後の新事業推進や再編計画の立案など、経営判断を担うポジションでも高い価値を発揮できるため、人材獲得競争は年々熾烈です。

M&A人材確保が難しい3つの要因

M&A人材が足りない理由を整理すると、次の3点に集約されます。

M&A経験者の絶対数が少ない

国内M&Aは年間4,000件規模に拡大しましたが、368万社という企業母数に対してはごくわずかです。結果として、複数案件を主担当として経験した人材は希少で、転職市場でも容易に見つかりません。

幅広い知識とスキルの習得に時間が必要

M&Aに必要な会計・法務・税務・ファイナンスの各領域は、それぞれ専門家がいるほど深い分野です。これらを横断的に習得し、問題解決力まで備えるには長期的な実務経験が求められます。

業界特有の知識を兼備する人材が希少

対象企業のビジネスモデルや規制環境を理解しなければ、デューデリジェンスで潜在リスクを見落とす恐れがあります。業界知識とM&Aスキルを両立させた人材はさらに少なく、企業は育成か外部連携の二択を迫られます。

M&A人材に求められる主要スキル

幅広い知識と高い実践力は、M&A人材の代名詞です。ここでは、必須スキルを4つに分類して整理します。

会計法務税務ファイナンスの専門知識が必須

財務諸表分析と企業価値評価
財務三表を読み解き、キャッシュフローやEBITDAを基に企業価値を算定します。

契約リスクと税務影響の管理
買収契約の表明保証やクロージング条件を確認し、税務コストを最適化します。

資金調達とシナジー試算

負債比率の調整や投資回収計画を策定し、譲受後の統合効果まで見通します。

業界特有の知識でシナジーを見極める

業界構造、競合動向、技術トレンドを理解することで、譲受企業が得られる市場拡大やコスト削減効果を具体的に描けます。たとえば製造業ではサプライチェーンの重複削減、IT業界ではユーザー基盤の統合など、案件固有の価値を定量化できます。

高度な問題解決とコミュニケーション力で交渉を前進

M&Aプロセスでは、価格交渉の行き詰まりやデューデリジェンスの追加要望など予期せぬ事態が発生します。迅速に本質を捉え、複数案を提示して関係者の合意を形成する力が求められます。また、譲渡企業・譲受企業・専門家チームの情報共有を円滑にするコミュニケーションも不可欠です。

戦略的思考力で長期価値を創造

長期視点の市場分析
成長市場か成熟市場かを見極め、中期経営計画に整合させます。

シナリオプランニング
業界環境が変動した場合の複数シナリオを描き、リスクと機会を比較検証します。

全社最適の判断
部分最適ではなく企業全体の資源配分を意識し、短期利益と長期成長のバランスを取ります。

M&A専門家活用のメリットと選定基準

外部のM&A専門家を上手に活用することで、自社だけでは補えない知識と経験を取り込み、M&Aプロセスを円滑に進められます。ここでは専門家の種類と特徴、活用によって得られる具体的な利点、さらに選定時のチェックポイントを整理します。専門家と協働する際は「何を任せ、何を社内で担うか」を事前に線引きしておくと、役割分担が明確になり、費用対効果も把握しやすくなります。

公認会計士税理士弁護士など専門家の種類

M&A業界で依頼される専門家は、公認会計士・税理士、弁護士、仲介事業者、ファイナンシャルアドバイザー、金融機関、商工会議所などです。得意領域が異なるため、自社の課題に合致した専門家を組み合わせることが鍵となります。たとえば、税制が複雑なクロスボーダー案件では税理士と弁護士をセットで起用し、地域再編型のスモールM&Aでは商工会議所と地方銀行の連携を軸に据えるといった具合です。

会計税務の視点を補完する公認会計士税理士

デューデリジェンスや企業価値評価、最適な税務スキーム設計を担い、取引価格と税負担を最適化します。特に株式譲渡と事業譲渡では課税関係が大きく異なるため、税理士の助言は不可欠です。

法務リスクを把握する弁護士

契約書作成や表明保証の精査、独禁法対応を行い、法的トラブルを未然に防ぎます。係争の芽を早期に摘むことで、クロージング後の想定外コストを抑制できます。

交渉をリードする仲介事業者とFA

仲介事業者は譲渡企業と譲受企業の間を調整し、FAは一方の利益最大化を目的に伴走します。案件規模や情報開示レベルに応じて、仲介とFAのいずれが適切かを判断することが成功の鍵です。

資金調達と相手紹介に強い金融機関

メガバンクから地方銀行まで、独自ルートで譲受企業を紹介し、買収資金の調達スキームも提案します。金融機関は多面的な信用情報を持つため、対象企業の財務健全性を早期に把握できます。

地域支援に長けた商工会議所

補助金や助成金など地元向け制度に詳しく、案件規模が小さい中小企業でも相談しやすい窓口です。地域経済や取引慣行に精通しているため、経営者同士の相性を重視したマッチング提案が可能です。

M&A専門家活用で得られる6つの利点

  1. 適正価格での取引実現
    企業価値評価の客観性が高まり、不利な条件を避けられます。
  2. プロセス全体の円滑化 
    工程表管理により契約不成立リスクを低減し、クロージング期間を短縮します。
  3. 最新知識とスキルの獲得 
    法改正や税務動向を反映し、社内担当者も知識更新が可能です。
  4. 第三者視点での妥当性評価 
    感情を排除し、社内合意形成が容易になります。
  5. 強力なネットワークの活用 
    自社では出会えない相手企業に短期間でアクセスできます。
  6. PMIまで一貫支援 
    文化統合やシステム統合を支援し、従業員離職リスクを低減します。

失敗しない専門家選定7つのポイント

  1. 費用体系を比較し予算に適合 
    着手金・成功報酬を明確化し、レーマン方式料率を理解します。
  2. サポート範囲を明確化 
    デューデリジェンス止まりかPMIまでかを事前確認します。
  3. 専門性と実績を評価 
    同業種の成功事例があるかを確認します。
  4. コミュニケーションの質を確認 
    難解な概念を平易に説明できるかが重要です。
  5. 信頼性と評判をチェック 
    利益相反の有無やクライアント評価を参照します。
  6. チーム体制を把握 
    担当者だけでなくバックアップ体制があるかを確認します。
  7. 企業文化との相性を重視 
    初回面談の印象や価値観の共有度を見極めます。

M&A人材戦略実行の具体的ステップ

人材の確保と育成を同時並行で進めるには、計画的なステップ設計が不可欠です。以下の五段階モデルを自社に合わせてカスタマイズしましょう。ステップを可視化すると進捗が追跡しやすく、投資対効果も測定できます。

経営課題と目標を定義し人材要件を明確化

事業戦略と連動させ、M&Aの目的(市場拡大・技術獲得・承継など)を言語化します。その上で必要なスキルセットを洗い出し、人材像を具体的に定義します。目的が曖昧だと採用基準や育成方針がぶれ、結果的にリソースが分散します。

社内人材の棚卸とギャップ分析を実施

既存メンバーの経験・資格を可視化し、理想像とのギャップを数値で確認します。ギャップが大きい領域は外部採用か専門家連携を検討します。スキルマトリクスを作成すると、補完すべき分野が一目でわかります。

育成プログラムとOJTで経験を蓄積

基礎知識研修
会計・法務・税務の基礎講座を実施

ケーススタディ
過去案件を題材に課題解決演習

OJT参加
小規模案件からアサインし実務経験を積む

研修だけでなく実際の案件に関わることで学習効果が飛躍的に高まります。

外部専門家との協働で実務スキルを高速習得

プロジェクトごとに専門家チームと混成でタスクを進めることで実践知を社内に移転します。専門家報告書のレビューや会議ファシリテーションを担当させると効果的です。

知識共有と評価制度で学習を定着

案件終了後はレポートをナレッジ化し、社内勉強会で共有します。M&A成果だけでなく学習成果も評価指標に組み込み、人材育成を継続します。

M&A人材確保と育成で得られる企業成長効果

適切な人材戦略を実行すると、単なる取引成功にとどまらず企業全体に波及効果が生まれます。

戦略オプションの拡大と迅速な意思決定

M&A経験者が社内にいることで新規事業拡大や再編の選択肢が増え、市場の変化へ素早く対応できます。

PMIの質向上による企業価値の最大化

統合プロセスの遅延や文化摩擦を抑え、想定シナジーを確実に実現します。従業員エンゲージメント向上と離職率低下にも寄与します。

人材ポートフォリオの強化で持続的成長を実現

会計・法務・業界知識を兼備した人材が増えることで次世代経営人材も育ち、事業承継リスクが低減します。

M&A人材戦略推進の留意点と今後の展望

M&A人材戦略を社内施策として根付かせる際には、長期的視点での投資判断と継続的改善サイクルが重要です。

短期成果に偏らず長期視点で投資判断

育成成果が見えるまで時間がかかります。教育投資を中期計画に組み込み、定期的に進捗をレビューする仕組みを整えましょう。

定期的な振り返りと改善で戦略をアップデート

法規制や業界構造の変化が激しいため、社内マニュアルや研修プログラムは毎年見直し、最新事例を取り入れて更新します。

多様性を尊重した組織文化の醸成

異なる専門性とバックグラウンドを持つ人材が協働する環境では、多様性を尊重した組織文化がパフォーマンス向上につながります。

まとめ

M&A人材戦略は、確保・育成・専門家活用の三本柱で進めることが成功の近道です。専門知識と実務経験を持つ人材を計画的に育て、外部専門家と協働しながらPMIまで高品質に遂行することで、企業価値向上と持続的成長が期待できます。

著者|土屋 賢治  マネージャー/M&Aアドバイザー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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