M&A人材の確保が困難な理由や必要なスキル、専門家活用のメリットを解説します。M&Aの成功に不可欠な人材戦略について、企業の経営者や人事担当者向けに詳しく紹介します。
目次
M&A(企業の合併・買収)に携わる人材の確保が、企業にとって重要な課題となっています。その背景には、M&Aの活発化や経営人材への需要増加、そしてM&A人材確保の難しさなど、さまざまな要因があります。ここでは、M&A人材確保の重要性が高まっている理由について詳しく見ていきましょう。
近年、多くの業界でM&Aが活発に行われています。その目的は、ビジネスのグローバル化や事業承継、イグジット(出口戦略)など多岐にわたります。このような状況下で、M&Aを円滑に進めるためには、M&Aに精通した人材の存在が不可欠となっています。
M&Aに詳しい人材がいれば、交渉をスムーズに進められるだけでなく、M&Aの成功確率も高まります。そのため、多くの企業がM&A人材の確保に力を入れています。
M&A人材確保の重要性が高まっているもう一つの理由として、経営人材への需要増加が挙げられます。経営人材とは、事業の目的や課題を設定し、企業の経営責任を負う人材のことを指します。
M&Aに詳しい人材は、実践的な学びを多く積み重ねているため、経営人材としても重宝されます。M&Aの経験を通じて培った戦略的思考力や問題解決能力は、企業経営においても大いに役立つからです。
そのため、M&A人材は経営人材としても高い需要があり、企業間での人材獲得競争が激化しています。
M&A人材の需要が高まる一方で、その確保は容易ではありません。この難しさには、いくつかの要因があります。
1. M&A経験者の絶対数が少ない
o 国内のM&A件数は増加傾向にあるものの、1社あたりのM&A実施頻度は限られています
o そのため、M&Aの実務経験を豊富に持つ人材の総数が限られています
2. M&Aに必要な幅広い知識とスキル
o M&A人材には、会計、法務、税務など多岐にわたる知識が求められます
o さらに、高度な問題解決能力や戦略的思考力も必要とされます
o これらの知識とスキルを兼ね備えた人材の育成には時間がかかります
3. 業界特有の知識の必要性
o M&Aを成功させるには、対象企業が属する業界の深い理解が不可欠です
o 業界知識と M&A のスキルを両立させた人材はさらに少なくなります
これらの要因により、M&A人材の確保は多くの企業にとって大きな課題となっています。そのため、次章で説明するM&A人材に求められるスキルを理解し、計画的な人材育成や外部専門家の活用を検討することが重要です。
▶目次ページ:企業買収(買収とは)
M&Aを成功させるためには、幅広い知識とスキルを持つ人材が必要不可欠です。ここでは、M&A人材に求められる主要なスキルについて詳しく解説します。これらのスキルを理解することで、M&A人材の育成や確保の方向性が明確になるでしょう。
M&Aに携わる人材には、会計、法務、税務、ファイナンスなどの幅広い専門知識が求められます。これらの知識は、M&Aプロセスの各段階で重要な役割を果たします。
1. 会計知識
o 財務諸表の分析
o 企業価値評価
o デューデリジェンス(財務面)の実施
2. 法務知識
o 契約書の作成と確認
o 法的リスクの評価
o コンプライアンスの確認
3. 税務知識
o M&Aに伴う税務上の影響分析
o 税務上の最適なスキーム設計
o 税務デューデリジェンスの実施
4. ファイナンス知識
o 資金調達の方法検討
o 投資回収計画の立案
o シナジー効果の試算
これらの専門知識を持つことで、M&Aを円滑に進め、法的な問題や税務上の問題を回避することができます。また、PMI(買収後の統合プロセス)をスムーズに進める上でも、これらの知識は重要な役割を果たします。
M&Aの成功には、会計や法務に関する知識だけでなく、対象企業が属する業界に対する深い理解も欠かせません。業界特有の知識は、以下のような場面で重要な役割を果たします。
1. M&A対象企業の選定
o 業界構造の理解
o 競合他社の動向分析
o 業界特有のリスク評価
2. シナジー効果の予測
o 業界トレンドの把握
o 技術や市場の将来予測
o 相乗効果が見込める分野の特定
3. デューデリジェンスの実施
o 業界特有の財務指標の分析
o 規制環境の理解
o 業界特有の契約慣行の把握
4. 交渉戦略の立案
o 業界内での対象企業の位置づけの理解
o 業界標準の取引条件の把握
o 業界特有の価値評価方法の適用
業界知識を持つM&A人材は、データだけでは見えない業界の構造や潜在的な機会、リスクを適切に評価できます。これにより、より戦略的なM&Aの意思決定が可能となります。
M&Aプロセスでは、さまざまな予期せぬ問題や課題が発生する可能性があります。そのため、M&A人材には高度な問題解決能力が求められます。具体的には以下のようなスキルが重要です。
1. 迅速な状況分析力
o 問題の本質を素早く把握する能力
o 複雑な状況を整理し、優先順位をつける能力
2. 創造的な解決策の提案力
o 従来の枠にとらわれない発想力
o 複数の選択肢を生み出す能力
3. リスク管理能力
o 潜在的なリスクを予測し、対策を立てる能力
o クライシス発生時の迅速な対応力
4. 高度なコミュニケーション能力
o 関係者間の利害調整能力
o 交渉・折衝力
o チーム内での効果的な情報共有能力
これらの問題解決能力は、M&Aの各段階で発生するトラブルを迅速に解決し、リスクを最小限に抑えるために不可欠です。また、売り手や買い手との交渉・折衝の場面でも、高いコミュニケーション能力が求められます。
M&A人材には、さまざまな思考力が求められますが、特に重要なのが戦略的思考力です。戦略的思考力は、M&Aの計画立案から実行、そして統合後の経営まで、あらゆる場面で必要とされます。
1. 長期的視点での分析力
o 市場動向の予測
o 競合他社の動きの分析
o 自社の強み・弱みの客観的評価
2. シナリオプランニング能力
o 複数の将来シナリオの想定
o 各シナリオに対する戦略の立案
o リスクと機会の評価
3. 全体最適の視点
o 部分最適ではなく、企業全体の利益を考える能力
o 短期的利益と長期的成長のバランスを取る能力
4. 柔軟な思考力
o 状況の変化に応じて計画を見直す能力
o 新たな機会を見出す能力
5. 論理的思考力
o データに基づいた意思決定能力
o 複雑な情報を整理し、明確な結論を導き出す能力
これらの戦略的思考力を持つM&A人材は、単なる取引の実行者ではなく、企業の成長戦略を推進する重要な役割を果たします。どの企業を買収するべきか、どのようにシナジーを創出するか、といった重要な意思決定において、戦略的思考力は不可欠です。
以上のように、M&A人材には幅広い専門知識と高度なスキルが求められます。これらのスキルを兼ね備えた人材の確保や育成は容易ではありませんが、M&Aの成功と企業の持続的な成長のためには不可欠な投資といえるでしょう。
M&Aに携わる人材の確保が難しい現状において、外部のM&A専門家を活用することは有効な選択肢の一つです。ここでは、M&A専門家の種類や活用のメリット、適切な専門家を選定するためのポイントについて解説します。
M&Aに関する専門家は多岐にわたります。それぞれの専門家が持つ特徴を理解し、自社のニーズに合った専門家を選ぶことが重要です。
専門家 |
特徴 |
公認会計士・税理士 |
M&A検討時に、財務状態や税務に関して相談に乗ってくれる。デューデリジェンス(買収監査・企業調査)や税金計算に強い。 |
弁護士 |
M&Aに関する法律的なトラブルに対応してくれる。元々顧問弁護士がいた場合は、その弁護士に相談するケースも多々見られる。 |
仲介事業者 |
M&Aに特化した業者であり、知識を豊富に持っている。サポートの範囲は仲介会社によって異なるが、専門的なネットワークを持っているためさまざまな相談に乗ってくれる。 |
金融機関 |
M&A検討時には、メガバンクや地方銀行、信託銀行、証券会社に相談することもある。独自のネットワークを活かし、M&Aの相手を紹介してくれる。 |
ファイナンシャルアドバイザー |
財務や金融関係の専門家として、M&Aの計画や交渉、クロージングなどに、一貫して対応してくれるケースがある。 |
商工会・商工会議所 |
地域の商工会や商工会議所もM&Aの相談に対応している。助成金や補助金などを出しているケースもあるため、資金面の相談先としても選択肢に上がる。 |
M&A専門家を活用することで、以下のようなメリットが得られます。
1. 適正な価格でのM&A実行
o 専門家の知識と経験により、適正な企業価値評価が可能
o 不利な条件でのM&Aを回避できる可能性が高まる
o 売り手、買い手双方にとって納得のいく取引条件の設定が可能
2. M&Aプロセスの円滑化
o 専門家のアドバイスにより、各段階でのリスクを最小限に抑えられる
o 契約不成立のリスクを低減できる
o 時間とコストの無駄を省くことができる
3. 専門的な知識とスキルの活用
o 自社で不足している専門知識を補完できる
o 最新の M&A トレンドや法規制の変更などの情報を得られる
o 複雑な交渉や法務・税務の問題に適切に対応できる
4. 客観的な視点の獲得
o 第三者の視点から、M&Aの妥当性や課題を評価できる
o 感情的な判断を避け、合理的な意思決定が可能
5. ネットワークの活用
o 専門家の持つネットワークを通じて、適切なM&A相手を見つけやすくなる
o 他の専門家との連携が必要な場合にも、スムーズな対応が可能
6. PMI(統合プロセス)のサポート
o M&A完了後の統合プロセスまでカバーする専門家もいる
o 企業文化の違いによるトラブルなど、予期せぬ問題への対応が可能
これらのメリットにより、M&A専門家の活用は、特にM&A経験の少ない企業や、複雑なM&Aケースに直面している企業にとって、非常に有効な選択肢となります。
適切なM&A専門家を選定するためには、以下のポイントに注意することが重要です。
1. 費用の比較
o 着手金、月額報酬、中間金、成功報酬などの費用体系を確認
o レーマン方式など、一般的な報酬算出方法を理解する
o 自社の予算と照らし合わせて、適切な費用設定かどうかを判断
下記の表は、レーマン方式の報酬料率です。
金額 |
報酬料率 |
5億円以下 |
5% |
5億円以上~10億円以下 |
4% |
10億円以上~50億円以下 |
3% |
50億円以上~100億円以下 |
2% |
100億円以上 |
1% |
2. サポート範囲の確認
o M&Aプロセスのどの段階まで対応可能か確認
o PMI(統合プロセス)まで対応可能かどうかを確認
o 自社のニーズに合ったサポート範囲を提供できるか確認
3. 専門性と経験の評価
o 過去のM&A案件の実績や成功事例を確認
o 自社の業界に関する知識や経験があるかを確認
o 専門家個人の経歴や資格を確認
4. コミュニケーション能力
o 複雑な内容を分かりやすく説明できるか
o 迅速かつ適切なレスポンスが得られるか
o 自社の企業文化や方針を理解し、尊重してくれるか
5. 信頼性と評判
o 業界内での評判や口コミを確認
o 過去のクライアントからの推薦や評価を確認
o 利益相反の可能性がないかを確認
6. チーム体制
o 専門家個人だけでなく、サポートチームの体制も確認
o 必要に応じて他の専門家と連携できる体制があるか確認
7. 相性
o 初回の相談時の印象や対応を重視
o 自社の企業理念や M&A の目的を理解し、共感してくれるか確認
これらのポイントを考慮しながら、複数の専門家に相談し、比較検討することをお勧めします。また、M&Aの目的や規模によっては、複数の専門家を組み合わせて活用することも効果的です。
適切なM&A専門家を選定し、その知識と経験を活用することで、M&Aの成功確率を高め、自社の成長戦略を効果的に推進することができるでしょう。
M&A人材の確保は、企業の成長戦略において重要な課題となっています。M&Aの活発化や経営人材への需要増加を背景に、M&A人材の重要性は高まっていますが、その確保は容易ではありません。M&A人材には、会計・法務・税務の専門知識、業界特有の知識、高度な問題解決能力、戦略的思考力など、幅広いスキルが求められます。これらのスキルを持つ人材の育成には時間がかかるため、外部のM&A専門家の活用も有効な選択肢となります。適切な専門家を選定し、その知識と経験を活用することで、M&Aの成功確率を高め、企業価値の向上につなげることができるでしょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画