事業承継の融資制度を理解しスムーズに資金調達する方法を解説


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事業承継融資とは?後継者の資金計画と審査対策を詳しく解説

事業承継融資の種類、資金使途、審査で見られる事業承継計画、個人保証の注意点を解説。親族内承継・従業員承継・M&Aで資金不足を防ぎ、会社売却を含む選択肢を比較する視点も紹介します。

目次

  1. 事業承継融資で最初に決めるべき資金使途
  2. 後継者の状況別に選ぶ4つの融資先
  3. 融資審査で見られる事業承継計画の作り方
  4. 個人保証と既存借入を承継前に整理する
  5. 融資だけに頼らない資金調達の組み合わせ
  6. 事業承継融資で失敗しない実務手順
  7. まとめ

事業承継融資で最初に決めるべき資金使途

事業承継の融資は、「いくら借りられるか」から考えると失敗しやすくなります。先に決めるべきなのは、何のために、いつまでに、いくら必要かです。

事業承継では、後継者が自社株式や事業用資産を買い取る資金、相続税や贈与税を支払う資金、承継後の運転資金などが同時に発生します。親族内承継なら納税資金、従業員承継なら株式取得資金、第三者へのM&A(合併・買収)なら譲渡価格や専門家費用が大きな論点になります。

自社株式を買い取る資金

中小企業の事業承継では、自社株式の移転が経営権の移転に直結します。後継者が議決権を十分に持てなければ、重要な意思決定で迷いが生じます。

ただし、業績が安定している会社ほど株価が高くなることがあります。後継者が役員や従業員である場合、個人の預貯金だけで株式を買い取るのは難しいものです。MBOやEBOの場面で、融資を使って株式取得資金を用意するケースは珍しくありません。

ここで注意したいのは、株価を高く見積もり過ぎると後継者の返済負担が重くなり、低く見積もり過ぎると先代経営者や他の株主との合意が難しくなる点です。融資の前に、株価算定と返済可能額をセットで確認します。

事業用資産や店舗を引き継ぐ資金

個人事業や不動産を多く持つ会社では、株式だけでなく、土地、建物、設備、車両、店舗内装などの取得資金も問題になります。製造業であれば機械、医療・介護業であれば施設や備品、飲食業であれば店舗保証金や厨房設備が重くなりがちです。

資産を承継するだけなら簡単に見えても、実際には名義変更、担保設定、既存借入との関係を整理する必要があります。担保に入っている不動産を動かす場合、金融機関の承諾が必要になることもあります。意外と多い落とし穴です。

相続税・贈与税などの納税資金

親族内承継では、後継者が株式を相続または贈与で取得することがあります。この場合、相続税や贈与税の納税資金が必要になります。

非上場株式は、現金のようにすぐ使える財産ではありません。株式を受け取った後継者に納税資金がなければ、不動産売却、役員報酬の増額、会社からの借入などを検討せざるを得なくなります。いずれも税務や資金繰りに影響します。

事業承継税制を使える場合でも、要件を満たさなくなれば納税が必要になることがあります。制度を使うかどうかに関係なく、納税資金の予備計画は持っておくべきです。

承継後の運転資金と設備投資資金

承継直後は、後継者が新しい体制を作る時期です。採用、人材育成、設備更新、システム導入、販売先の開拓など、前向きな支出が増えることがあります。

一方で、取引先や金融機関は「新しい経営者で大丈夫か」を見ています。売上が一時的に落ちたり、従業員が不安を感じたりする場面もあります。だからこそ、承継後の半年から1年分の資金繰りを見て、余裕資金を確保しておくことが大切です。

後継者の状況別に選ぶ4つの融資先

事業承継融資には、いくつかの選択肢があります。代表的なのは、日本政策金融公庫、信用保証協会の保証付き融資、地方自治体の制度融資、民間銀行の独自ローンです。

どれが一番良いという話ではありません。資金使途、金額、承継の形、返済期間、個人保証の有無によって向き不向きが変わります。

日本政策金融公庫は長期資金に向く

日本政策金融公庫には、事業承継やM&Aに取り組む中小企業向けの「事業承継・集約・活性化支援資金」があります。株式取得、事業用資産の取得、承継後の設備資金や運転資金などを検討する際の代表的な公的融資です。

中小企業事業では大きな金額の直接貸付が用意されており、設備資金は長期返済を検討しやすい制度設計です。国民生活事業では小規模事業者や個人事業者向けの枠もあります。制度の細かな条件は、事業規模や資金使途によって変わります。

公庫融資は低利・長期になりやすい反面、事業承継計画書や資金使途の説明が重要です。単に「承継するから借りたい」ではなく、承継後にどのように利益を出し、返済していくかを示す必要があります。

信用保証協会の保証付き融資は保証人対策に使いやすい

信用保証協会は、中小企業が金融機関から融資を受ける際に保証を行う公的な仕組みです。事業承継では、事業承継特別保証、事業承継サポート保証、経営承継関連保証などが検討対象になります。

特徴は、民間金融機関からの融資を受けやすくする点です。経営者保証を不要とする制度や、既存の保証付き借入を借り換える制度もあります。後継者が「個人保証まで背負うなら承継できない」と感じる場合、早めに確認したい選択肢です。

ただし、保証協会を使う場合は保証料がかかります。金利だけでなく、保証料を含めた総コストで比較してください。

地方自治体の制度融資は地域企業に合いやすい

都道府県や市区町村には、地域の中小企業を支える制度融資があります。自治体、金融機関、信用保証協会が連携し、利子補給や保証料補助を受けられる場合があります。

制度内容は地域によって違います。承継に伴う運転資金、設備投資、店舗改装、雇用維持に使えることもあります。地元の金融機関や商工会議所と関係がある会社では、相談しやすい資金調達先です。

一方で、融資限度額は公庫や大手銀行の大型融資ほど大きくないことがあります。株式取得資金の全額をまかなうというより、運転資金や設備更新資金の一部として使う発想が現実的です。

民間銀行の独自ローンは柔軟だが条件比較が欠かせない

普段から取引のある銀行や信用金庫に相談する方法もあります。会社の決算内容や入出金の実績を見ているため、話が早いことがあります。

民間銀行の独自ローンは、株式取得、退職金準備、納税資金、既存借入の借換、M&A資金など、目的に応じて柔軟に設計できる場合があります。プロパー融資とは、信用保証協会の保証を付けずに金融機関が直接リスクを取る融資のことです。

ただし、金利、返済期間、担保、個人保証の条件は金融機関ごとに異なります。1行だけで決めると、後で「別の銀行なら保証なしで借りられた」ということもあります。複数行で条件を比較しましょう。

融資審査で見られる事業承継計画の作り方

金融機関は、承継そのものを評価して融資するわけではありません。見ているのは、承継後も事業が続き、借入金を返済できるかです。

そのため、事業承継計画書は形式的な書類ではなく、融資審査の中心資料になります。ここで判断が止まることがあります。

承継の形と時期を明確にする

計画書には、誰が、いつ、どの方法で承継するのかを記載します。親族内承継、従業員承継、役員によるMBO、第三者へのM&Aでは、必要資金も審査の見方も変わります。

親族内承継の場合

親族内承継では、株式の贈与・相続、納税資金、遺留分への配慮が重要です。遺留分とは、一定の相続人に法律上保障される最低限の取り分です。後継者だけに株式を集中させる場合、他の相続人との調整が必要になります。

従業員承継やMBOの場合

従業員や役員が承継する場合、最大の課題は株式取得資金です。後継者個人に十分な資産がないことも多いため、会社の収益力を返済原資として説明します。

第三者承継やM&Aの場合

第三者承継では、買い手企業が融資を使って株式や事業を取得することがあります。売り手側の経営者にとっても、買い手の資金調達力は重要です。融資が下りなければ、基本合意後に条件が変わる可能性があるからです。

必要資金を目的別に分ける

融資審査では、資金使途のあいまいさが嫌われます。自社株式の取得、事業用資産の取得、退職金、納税資金、M&A専門家費用、承継後の運転資金を分けて整理します。

たとえば、同じ5,000万円の借入でも、株式取得に使うのか、設備投資に使うのかで返済原資の説明は違います。株式取得は直接売上を増やす支出ではありません。設備投資は将来の売上増加やコスト削減につながる可能性があります。金融機関はこの違いを見ます。

承継後の売上・利益の根拠を示す

計画書には、承継後の売上、粗利益、営業利益、借入返済額を入れます。数字は強気過ぎても弱気過ぎても説得力を欠きます。

顧客が残る根拠

先代経営者との個人的な関係で売上が成り立っている会社では、承継後に取引が続くかを説明する必要があります。主要取引先との面談予定、契約更新の見込み、担当者の引継ぎ状況を整理します。

技術や人材が残る根拠

製造業、建設業、医療・介護、ITなどでは、技術者や現場責任者が残るかが重要です。後継者だけでなく、番頭格の社員や幹部候補の定着も金融機関は見ています。

返済できる根拠

返済原資は、基本的には事業から生まれるキャッシュフローです。キャッシュフローとは、会社に実際に残るお金の流れです。利益が出ていても、在庫や売掛金が増えれば資金繰りが苦しくなるため、月次の資金繰り表も用意しておくと説明しやすくなります。

個人保証と既存借入を承継前に整理する

事業承継の融資で、後継者が最も不安を感じやすいのが個人保証です。会社を引き継ぐだけでなく、借入の保証まで引き継ぐとなれば、家族の生活にも影響します。

先代経営者の保証を外せないまま後継者にも保証を求めると、承継の決断が止まることがあります。これは実務上よくあります。

経営者保証を外せるか早めに相談する

経営者保証を外すには、会社と個人のお金が分かれていること、財務内容が一定程度安定していること、金融機関へ適切に情報開示していることが重要です。

役員貸付金や役員借入金が多い、社長個人の支出を会社が負担している、月次試算表が遅い、といった状態では、保証解除の交渉は難しくなります。承継直前ではなく、数年前から改善したい論点です。

既存借入の借換も検討する

先代経営者時代の借入が短期返済に偏っている場合、承継後の資金繰りを圧迫します。この場合、事業承継を機に長期借入へ借り換える方法があります。

借換によって毎月返済額が下がれば、後継者が設備投資や採用に使える資金を確保しやすくなります。ただし、返済期間を延ばすと利息総額は増えるため、目先の返済額だけで判断してはいけません。

経営承継円滑化法の認定も確認する

経営承継円滑化法は、中小企業の事業承継を支援する法律です。一定の認定を受けることで、金融支援、信用保証の別枠、税制支援などにつながる場合があります。

認定には申請が必要です。都道府県が窓口になる手続もあります。融資の申込直前に気づいても間に合わないことがあるため、株式移転や納税の計画と同時に確認しましょう。

融資だけに頼らない資金調達の組み合わせ

事業承継の資金調達は、融資だけで完結させる必要はありません。借入を増やし過ぎると、承継後の経営が守りに入りやすくなります。

大切なのは、自己資金、融資、補助金、出資、譲渡条件の調整を組み合わせることです。

補助金は後払いである点に注意する

事業承継やM&Aに関連する補助金では、設備投資、専門家費用、PMI(M&A後の統合プロセス)費用などが対象になる場合があります。現在は公募ごとに名称や枠が変わるため、申請時点の制度を確認する必要があります。

補助金は、原則として先に支出し、後から入金されます。つまり、採択されたとしても、最初の支払いに必要な資金は別途用意しなければなりません。ここを見落とすと、補助金を使うつもりなのに資金ショートすることがあります。

退職金や譲渡代金の支払い時期を調整する

先代経営者への退職金や株式譲渡代金を一括で支払うと、後継者や会社の資金繰りが重くなります。場合によっては、分割払い、役員退職金の時期調整、譲渡代金の一部後払いなどを検討します。

ただし、税務上の扱いや契約上のリスクがあります。退職金は不相当に高額だと税務上問題になることがあります。譲渡代金の後払いは、売り手側に回収リスクが残ります。専門家を交えて条件設計を行うべきです。

持株会社やSPCを使う場合は返済原資を確認する

後継者が持株会社やSPCを設立し、その会社が融資を受けて事業会社の株式を取得する方法があります。SPCとは、特定の目的のために作る会社のことです。

この方法では、事業会社からの配当や経営指導料などを返済原資にすることがあります。見た目はきれいなスキームでも、事業会社に十分な利益と資金余力がなければ返済は続きません。

また、不動産や株式を多く持つ会社では、株価評価や資産の切り分けが資金計画に影響します。株式保有特定会社に該当するかどうか、不動産を別会社に持たせるべきかなど、税務面の検討も必要です。

不動産を活用した資金調達や資産流動化を検討する場合、TMKなど特定目的会社の仕組みが話題になることもあります。ただし、中小企業の通常の事業承継では複雑になりやすいため、目的と費用対効果を慎重に見極めます。

第三者承継も選択肢に入れる

後継者が融資を受けて株式を買い取る方法だけが、事業承継ではありません。親族や従業員に資金力がない場合、第三者承継として会社売却を検討することもあります。

会社売却であれば、買い手企業が資金を用意し、経営者は譲渡対価を受け取る形になります。従業員の雇用、取引先との関係、個人保証の整理を進めやすい場合もあります。もちろん、相手選びや条件交渉は慎重に行う必要があります。

事業承継融資で失敗しない実務手順

融資は、必要になってから急いで申し込むものではありません。事業承継のスケジュールから逆算して準備します。

金融機関の審査には、通常1か月から3か月程度かかることがあります。追加資料が出ればさらに延びます。株式譲渡日や納税期限の直前に動くと、選択肢が狭くなります。

1. 必要資金を洗い出す

最初に、資金使途ごとの金額を出します。自社株式の買い取り総額、事業用資産の取得額、相続税や贈与税、先代経営者への退職金、専門家費用、承継後の運転資金を分けます。

この段階では、細かい金額まで確定していなくても構いません。大まかな金額を置き、後で株価算定や税額試算により精度を高めます。見積もりを置かないまま話を進める方が危険です。

2. 返済できる金額から借入上限を考える

「必要額」と「借りてもよい額」は違います。必要額が1億円でも、会社のキャッシュフローで返せる金額が6,000万円なら、残りは譲渡条件の見直しや他の資金調達で補う必要があります。

返済計画では、売上が計画より下がった場合、金利が上がった場合、主要社員が退職した場合も見ます。厳しい前提でも資金繰りが回るかを確認することで、承継後の失敗を防げます。

3. 事業承継計画書を作る

事業承継計画書には、承継時期、後継者の経歴、株式移転の方法、資金使途、承継後の経営方針、売上・利益計画をまとめます。

金融機関に伝えるべき内容

金融機関に伝えるべき内容は、後継者の熱意だけではありません。既存顧客が残る理由、従業員が定着する理由、利益が出る理由、返済できる理由を具体的に示します。

専門家に確認すべき内容

株価算定、税額試算、退職金の妥当性、個人保証の扱い、契約書の支払条件は専門家の確認が必要です。税務、会計、法務、金融の論点が重なるため、1つの視点だけで判断しないようにします。

4. 半年前を目安に金融機関へ相談する

株式譲渡や相続対策の実行時期が見えているなら、少なくとも半年前には金融機関へ相談するのが安全です。公庫、取引銀行、信用金庫、保証協会付き融資、自治体制度融資を比較します。

相談時には、決算書3期分、直近試算表、資金繰り表、株主名簿、借入一覧、担保一覧、事業承継計画のたたき台を用意します。完璧な書類でなくても、早めに方向性を確認することで手戻りを減らせます。

5. 融資実行後も金融機関へ報告する

融資が実行された後も、金融機関との関係は続きます。承継後の月次実績、資金繰り、投資の進捗を共有しましょう。

計画より利益が下がった場合でも、早めに説明すれば条件変更や追加支援を相談しやすくなります。逆に、報告が遅れたり、資料が出なかったりすると信頼を失います。金融機関との信頼関係は、後継者にとって大切な経営資源です。

まとめ

事業承継融資は、後継者が株式取得や納税、承継後の運転資金を確保する有効な手段です。ただし、借入額を先に決めるのではなく、資金使途、返済原資、個人保証、補助金との組み合わせを整理することが重要です。資金計画に無理がある場合は、第三者承継や会社売却も含めて比較し、事業を残す方法を早めに検討しましょう。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人

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