会社廃業を決定すると、従業員にとって収入源の喪失や社会保険の切り替えなど、多岐にわたる問題が発生します。経営者側も解雇予告手当の支払い、ノウハウ流出リスク、手続の複雑さなどに直面するため、十分な準備と法的手順の理解が欠かせません。本記事では、会社廃業時に必要となる従業員への対応策や企業側の注意点を小学生でもわかるように詳しく解説します。
目次
▶目次ページ:事業承継とは(会社の廃業と解散・清算)
会社が廃業すると従業員は仕事を失い、生活全体に大きな変化をきたします。給与や賞与などの収入は即座に途絶え、社会保険の切り替えを含むさまざまな手続を行う必要が出てきます。家族がいる場合には、保険証の返却や扶養の取り扱いなどにも影響が及ぶため、個々の状況に応じた対応を早めに進めることが大切です。
収入の途絶え
廃業によって解雇となった場合、給与収入が一気に止まります。特に、生活費やローン返済など、毎月の支出がある従業員にとっては大きな負担です。すぐに新たな職を探す必要がありますが、転職先がなかなか見つからなければ失業保険が頼みの綱になります。
失業保険の受給
会社都合での退職であれば、待機期間なしで失業保険を受給できる可能性があります。支給額の上限は従前の給与のおよそ6~7割で、雇用保険の加入期間や年齢などによって支給期間が変動します。退職後の生活資金を確保するために、雇用保険の受給手続は速やかに行いましょう。
社会保険の切り替え
雇用されていた企業の健康保険証や厚生年金は、退職と同時に利用できなくなります。そこで、国民健康保険と国民年金への切り替えが必要になりますが、手続をせずに医療機関を受診すると全額自己負担になるため注意が必要です。また、扶養範囲に入れる配偶者がいる場合は、その配偶者の社会保険に加入する道も検討できます。
家族への波及効果
従業員本人だけでなく、その家族にも影響が及びます。家計が一時的に苦しくなるだけでなく、持病がある家族がいれば医療費の自己負担リスクも増大します。年金制度への加入状況次第では、将来の年金額が減額される可能性もあり、長期的視点での対策が重要です。
廃業が決まった場合、従業員側では「次の仕事をどうするか」という問題ばかりに目が向きがちです。しかし、退職に伴う細かい手続や未払い賃金の有無など、事前にチェックしておくべき事項がいくつもあります。
正確な退職条件の把握
社内では「いつまで雇用が続くのか」「退職金はあるのか」といったうわさが飛び交うことが少なくありません。こうした情報は、上司や経営層から公式に確認を取るようにしましょう。
退職金や解雇手当の支払い方法、タイミングなどは、生活設計にも大きく関わるため曖昧なままにせず、明確な回答を得ることが必要です。
未払い賃金の確認
経営者の年齢的な理由など、比較的余裕をもった廃業なら未払給与が発生しない場合が多いです。しかし、事業の運転資金が底をつき、倒産に近い形で廃業するケースでは、残業代や給与の未払いが起こるかもしれません。賃金が未払いである場合には、国が実施する未払賃金立替払制度が利用できる可能性があります。ただし、全額が補償されるわけではなく、未払給与の80%程度までである点に留意しましょう。
ここまでが記事全体のおおよそ半分の内容です。続きでは、廃業に伴う解雇予告や手当、年末調整の取り扱い、企業側が直面するリスク、そして事業譲渡との比較について、さらに詳しく解説していきます。
会社が廃業を迎えるとき、法令順守はもちろん、従業員への配慮を欠かさず行うことが非常に重要です。特に、解雇予告や解雇手当など、法律で定められた手続をきちんと踏むことで、トラブルを最小限に抑えることができます。
廃業により従業員を解雇する場合は、会社都合の退職という扱いになります。解雇は会社側からの一方的な雇用契約の解除なので、従業員保護の観点から厳密なルールが設定されています。
解雇予告は30日前までに
労働基準法では、解雇通告を少なくとも30日前までに行うよう定めています。もし30日前に予告できない場合は「解雇予告手当」を支払う義務があります。
書面での解雇通知が望ましい
口頭での解雇通告も法的には無効ではありませんが、後々のトラブルを避けるためにも書面で通知し、従業員が内容を理解できる状態にするのが好ましいでしょう。
解雇予告手当の金額は、基本的に「平均賃金の30日分以上」として計算されます。たとえば、廃業までの残り日数が10日しかない場合は、不足分の20日分について平均賃金を支払う必要があります。
なお、会社が破産の手続に入ると、破産管財人が会社財産の処分や整理を行いますが、未払い給与や解雇予告手当は「優先的破産債権」として他の一般債権より先に弁済が受けられる可能性があります。ただし、解雇予告手当に関しては、未払賃金立替払制度の対象外になるので注意が必要です。
会社に勤めている従業員であれば、通常は年末に企業が年末調整を行い、1月から12月までの源泉徴収額を精算します。しかし、廃業が11月や10月など年末を待たずに行われる場合、以下のような対応が基本的な流れとなります。
勤務が年末前に終了する場合
例えば、11月末で廃業して従業員がいなくなるケースでは、企業側が年末調整を実施しないこともあります。その場合、企業は従業員に源泉徴収票を交付し、従業員は新たな勤め先で年末調整をしてもらうか、あるいは自分自身で確定申告を行う必要があります。
源泉徴収票の発行義務
廃業しても、廃業するまでに支払った給与や源泉徴収額を示す「源泉徴収票」を従業員へ渡す義務があります。新しい勤務先に提出するか、確定申告に使うかは従業員の判断ですが、この書類を受け取らなければ正しい税金の精算ができません。
年末調整を会社がやらない場合でも、従業員が個人で確定申告すれば問題なく税金の精算は行われます。ただし、手続のタイミングを逃すと過不足の税金を調整できなくなるため、早めに確認し、源泉徴収票を必ず受け取るようにしてください。
廃業にともない従業員との雇用契約が終了する際には、解雇予告手当や退職金など、いくつかの手当を支払う義務が発生することがあります。それぞれ法律や就業規則などでルールが定められていますので、漏れがないように手続を進めることが大切です。
前述のとおり、解雇を告げるのが30日を切ってしまった場合、会社は解雇予告手当として平均賃金の30日分以上を支払わなくてはなりません。これは労働基準法に明記された、従業員を保護するための制度です。
資金繰りが厳しい状態の会社では、解雇予告手当が用意できないケースもあり得ます。しかし、その場合でも法律に基づく支払い義務があるため、破産などの手続を進めながら労働債権を整理していくことになります。
退職金は会社の就業規則や労使協定などによって支払われる場合があります。廃業の際も、規定どおりに退職金が支給されるのかを、従業員はしっかりと確認しましょう。
一方で、資金的に厳しい企業が退職金を全額支払えず、分割や減額を提示してくる可能性もあります。もし不明点がある場合は、会社の担当者や労働組合に相談するなど、早めに情報収集を行うことが大切です。
廃業は従業員にとって大きな問題ですが、経営者側にも深刻なリスクをもたらします。社内に蓄積されたノウハウが流出してしまったり、適切な手順を踏まない解雇によって訴訟問題に発展したりと、思わぬトラブルに直面する可能性があるのです。
知的財産権の侵害
開発した技術や業務上の機密情報を従業員が持ち出し、第三者に不正に提供するなどの問題が起きる可能性があります。
労働問題(未払い残業代・解雇無効など)
過去にさかのぼって未払い残業代を請求されるケースは、廃業による解雇をきっかけに発生しやすくなります。また、解雇手続が法律に違反しているとして「解雇は無効である」と訴えられるリスクもあります。
企業がこうした訴訟リスクを避けるには、廃業の手続を進める前から就業規則・労働契約などを見直し、労働基準監督署に相談しながら適切な方法を取り、従業員とトラブルにならないよう対策しておくことが大切です。
会社の将来を考えるとき、「廃業」だけが選択肢ではありません。もし後継者がいなかったり、事業を続けるのが難しかったりする場合でも、別の企業に事業を譲渡する選択肢(いわゆるM&Aによる事業承継)があります。ここでは、廃業と事業譲渡を簡単に比較してみましょう。
メリット
デメリット
メリット
デメリット
廃業の大きなデメリットは、従業員が仕事を失うだけでなく、地域経済にも影響を与えやすい点です。一方、事業譲渡であれば、会社を引き継いだ譲受企業が事業を継続するため、従業員の雇用が守られる可能性が高く、取引先にも安心感を与えられます。
このように、事業譲渡には多くの利点がありますが、譲渡先を探すためには時間や労力が必要です。実際にM&Aを検討する際は、専門家に相談しながら進めることで、より良い条件を引き出せる場合もあります。
会社廃業は、経営者だけでなく従業員やその家族、さらには地域にも大きな影響を与えます。廃業に伴う解雇予告手当や未払い賃金、年末調整など、処理が漏れやすい事柄をしっかり把握することが大切です。適切な予告期間を取り、法令に沿った手続を踏むことで、紛争をできる限り回避できます。また、雇用を守りつつ事業を続ける手段として、事業譲渡(M&A)を検討するのも有効です。会社や従業員双方にとってより良い未来を築くために、早めの情報収集と慎重な検討を行いましょう。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事