会社廃業時の従業員への影響と対応策:知っておくべき重要ポイント

会社廃業時の従業員への影響と対応策を詳しく解説します。収入の途絶えから社会保険の切り替え、解雇予告手当まで、従業員が知っておくべき重要ポイントを網羅。企業側のリスクや事業譲渡との比較も含め、総合的に解説します。

目次

  1. 会社廃業時の従業員への影響
  2. 従業員が確認すべきポイント
  3. 廃業に伴う従業員への対応方法
  4. 廃業時の年末調整の取り扱い
  5. 廃業時の手当支払いについて
  6. 会社廃業がもたらす企業側のリスク
  7. 廃業と事業譲渡の比較
  8. まとめ

会社廃業時の従業員への影響

会社が廃業する場合、従業員の生活に大きな影響を及ぼします。単に収入源が失われるだけでなく、様々な面で生活の変化を強いられることになります。ここでは、廃業が従業員にもたらす主な影響について詳しく見ていきます。

収入の途絶え

廃業に伴い従業員が解雇されると、最も直接的な影響として給与や賞与などの収入が途絶えることになります。これは従業員の日常生活を維持する上で大きな障害となり、速やかに新たな就職先を見つける必要性に迫られます。

失業保険の受給

収入が途絶えた従業員にとって、失業保険は重要な支えとなります。会社都合による退職の場合、待機期間なしで失業保険の受給を開始できます。失業保険の額は、従前の給与の約6~7割が上限となっており、受給期間は雇用保険の加入期間や年齢に応じて90日から最長330日まで変動します。

社会保険の切り替え

退職時には、自身と扶養家族の健康保険証を返却する必要があります。保険証がない状態で医療機関を受診すると、医療費が全額自己負担となるため注意が必要です。次の就職先が決まるまでの間、国民健康保険・国民年金への切り替えが必要となります。退職のタイミングで手続を行うことが望ましいでしょう。

なお、配偶者が別の会社の社会保険に加入している場合、求職中に扶養家族として保険に加入することも検討できます。

家族への波及効果

廃業による解雇は、従業員本人だけでなく、その家族にも大きな影響を及ぼします。収入の途絶えは家計を直撃し、保険や年金の変更も伴います。特に、通院中の家族がいる場合は、速やかに国民健康保険への切り替えが必須となります。また、将来の年金受給額の減額や保険料負担の増加など、長期的な影響も考慮する必要があります。

従業員が確認すべきポイント

会社の廃業が決定した際、従業員は混乱や不安を感じるかもしれません。しかし、この状況下でも冷静に対応し、必要な情報を収集することが重要です。

正確な退職条件の把握

廃業決定時には、様々な噂が飛び交う可能性があります。しかし、従業員は同僚とのうわさ話に惑わされることなく、上司や役員、経営層から直接情報を得ることが大切です。特に以下のような退職条件については、明確な回答を求めるべきです。

・解雇手当の支払い時期や方法 

・退職金の有無や支払い時期 

・新たな職場への紹介の有無

これらの情報を正確に把握することで、今後の生活設計や就職活動の方針を立てやすくなります。

未払い賃金への対処準備

経営者の引退に伴う廃業であれば、通常、賃金の未払いは発生しないはずです。しかし、未払いの残業代などがある場合は、廃業手続が混乱した状況下でも見逃されないよう注意が必要です。

一方、事業が停止し再開の見通しが立たず支払能力がない状態(事実上の倒産による廃業)の場合、賃金の未払いが発生する可能性が高まります。このような状況下では、国の未払賃金立替払制度の利用可能性について、労働基準監督署に相談することをお勧めします。

未払賃金立替払制度とは、破産した企業の従業員に対する未払い賃金がある場合に、国が立替払いを行う制度です。ただし、この制度による支払いは未払い額の80%までとなっており、全額の保証はされていません。

廃業に伴う従業員への対応方法

会社が廃業する際、従業員への適切な対応は法的にも道義的にも重要です。ここでは、廃業に伴う従業員への主な対応方法について説明します。

30日前までの解雇予告

廃業に伴い、従業員は会社都合による退職(解雇)を余儀なくされます。解雇は会社が従業員との雇用契約を一方的に解除することを指し、従業員に対して解雇を通知することで進行します。

解雇通知は口頭でも有効ですが、通常は書面での解雇通知書を作成し、従業員に提出します。重要なのは、解雇手続を進める際に、少なくとも30日前までに予告を行うことです。

30日前に予告がなされない場合、会社は解雇予告手当を支払わなければなりません。解雇予告手当の金額は、法律上、平均賃金の30日分以上であることが求められます(労働基準法20条)。

なお、会社清算の場合、法人格は破産管財人による業務(会社財産の管理・換価)に必要な範囲で維持されますが、破産手続が終わると消滅します。従業員の解雇タイミングはケースバイケースですが、破産申し立て前に全ての従業員(正社員、パート、アルバイト、嘱託職員など)を解雇することが一般的です。

会社に給与や解雇予告手当を支払う資金がない場合、破産申し立て時に裁判所に提出する「債権者一覧表」に「労働債権」として、未払給与や解雇予告手当を記載することになります。解雇予告手当は、破産手続の中で優先的破産債権となり、一般の破産債権よりも優先的に弁済を受けられます。ただし、未払給与とは異なり、労働者健康安全機構による未払賃金立替払制度の対象外となることに注意が必要です。

廃業時の年末調整の取り扱い

年末調整は、雇用者(企業)が1月〜12月の1年間の給与にかかる税金額を算出し、源泉徴収との差額を精算する手続です。廃業時の年末調整については、以下のように対応します。

例えば、11月に廃業し、12月時点で従業員が勤務していない場合、企業は年末調整を行う必要はありません。ただし、廃業するまでの期間について源泉徴収票を発行する義務があります。

従業員は、この源泉徴収票を基に、新たな勤務先で年末調整を受けるか、自身で確定申告を行う必要があります。これにより、その年の税金の精算を適切に行うことができます。

廃業時の手当支払いについて

廃業に伴う従業員への手当には、主に解雇予告手当と退職金が存在します。これらについて詳しく説明します。

1. 解雇予告手当 労働基準法で定められた解雇予告手当は、廃業する30日以上前に解雇を告げなかった場合に支払う必
                            要があります。計算式は以下の通りです。

                            解雇予告手当 = 平均賃金 ×(30日 – 解雇予告から解雇までの日数)

2. 退職金 退職金については、会社の規定や労使間の取り決めに基づいて支払われます。ただし、廃業の場合、会社の
                            財政状況によっては全額支払いが困難な場合もあります。

これらの手当の支払いは、従業員の生活保障という観点から非常に重要です。会社は可能な限り、これらの支払いに努める必要があります。

会社廃業がもたらす企業側のリスク

廃業は従業員に大きな影響を与えますが、企業側にもさまざまなリスクが存在します。ここでは、廃業に伴う主な企業側のリスクについて解説します。

ノウハウや技術の流出リスク

長年の事業活動を通じて蓄積されたノウハウや技術は、企業の重要な資産です。しかし、廃業に伴う従業員の解雇により、これらの貴重な情報が競合企業へ流出するリスクが高まります。

特に、核心的な技術や営業秘密を知る従業員が競合他社に転職した場合、企業の競争力が大きく損なわれる可能性があります。このリスクを軽減するためには、重要情報の管理を徹底し、可能な限り従業員との良好な関係を維持することが重要です。

訴訟リスクの増大

廃業決定後、従業員との関係性が変化し、場合によっては法的紛争に発展するリスクが高まります。例えば、以下のようなケースが考えられます。

・知的財産権の侵害:従業員が会社の機密情報を持ち出し、不正に使用する 

・残業代未払い等の労働問題:過去の未払い残業代について訴訟を起こされる 

・解雇無効訴訟:解雇手続が適切でなかった場合に提起される可能性がある

これらのリスクを軽減するためには、日頃から法令順守を徹底し、廃業時の対応を慎重に行うことが重要です。また、訴訟リスクや法的な観点だけでなく、道義的な観点からも最善の方法を選択すべきです。

廃業と事業譲渡の比較

会社の将来を検討する際、廃業だけでなく事業譲渡(M&A)も選択肢の一つです。ここでは、廃業と事業譲渡のメリット・デメリットを比較し、どちらが適しているかを考察します。

廃業のメリット・デメリット

メリット: 

・経営者の負担が完全になくなる 

・債務超過の場合、清算により債務から解放される可能性がある

デメリット: 

・従業員の解雇が必要となる 

・取引先との契約解除が必要 

・資産の処分に時間と費用がかかる 

・地域社会への影響が大きい

事業譲渡(M&A)のメリット・デメリット

メリット: 

・事業の継続が可能 

・従業員の雇用継続の可能性がある

・取引先との関係継続が期待できる 

・経営者が譲渡益を得られる可能性がある 

・ブランドや技術、ノウハウが存続する

デメリット: 

・適切な譲渡先を見つけるのに時間がかかる場合がある 

・譲渡条件の交渉に時間と労力がかかる 

・従業員の一部が譲渡先で働けない可能性がある

廃業と比較すると、M&Aによる事業承継の方が多くのステークホルダーにとって望ましい選択肢となる場合が多いです。事業の存続や従業員の雇用継続が可能であり、取引先との関係も維持されやすいためです。

また、経営者自身にとっても、譲渡後に新たな事業を起こさない場合でも、その地域に住み続ける限り、自身の経営者としての引退は周囲への影響も考慮し、最善の方法を選択することが重要です。

まとめ

会社廃業は従業員に大きな影響を与えます。収入の途絶え、社会保険の切り替え、家族への波及効果など、多岐にわたる課題に直面します。一方、企業側もノウハウ流出や訴訟リスクなどの問題に注意が必要です。廃業を選択する際は、従業員への適切な対応と法令順守が不可欠です。また、M&Aによる事業承継も有効な選択肢として検討すべきでしょう。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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