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事業承継補助金を活用するポイントを学ぶ種類とメリットを解説

「事業承継補助金を使って会社を次世代へスムーズに引き継ぎたい」とお悩みですか? 本記事では補助金の種類から申請の流れまで丁寧に解説します。

目次

  1. 事業承継補助金の基礎知識
  2. 交付決定率から見る採択のハードル
  3. 事業承継補助金を活用する五つのメリット
  4. 経営革新事業の補助金を詳しく見る
  5. 専門家活用事業の補助金を詳しく見る
  6. 廃業・再チャレンジ事業の補助金を詳しく見る
  7. PMI推進枠と最新公募の変更点
  8. 補助金申請から交付までの流れを完全解説
  9. 申請時に押さえるべき注意点
  10. まとめ

事業承継補助金を活用するポイントを学ぶ種類とメリットを解説

事業承継補助金の基礎知識

事業承継補助金は、中小企業や小規模事業者が事業承継や事業再編をきっかけに新しい挑戦を行う際、その費用の一部を国が支援する制度です。経営者の高齢化と後継者不足が続く中、会社の資産や技術を次世代へ円滑に引き継ぎ、地域経済を活性化させるための重要な施策となっています。対象は法人だけでなく一定条件を満たせば個人事業主も含まれるため、幅広い層が利用できます。制度は大きく三つの類型に分かれ、それぞれ企業の事情に合わせた支援を提供します。

制度が生まれた背景は経営者高齢化と後継者不足

日本の中小企業では経営者の年齢が70歳を超えるケースが珍しくなく、後継者が見つからないまま廃業を選択する事例が増加しています。廃業は地域の雇用や技術継承に大きな損失をもたらすため、国は補助金を通じて事業承継を後押ししています。

三つの類型が企業の多様なニーズをカバー

  • 経営革新事業 
承継後の新規投資を支援

  • 専門家活用事業 
M&A専門家費用を補助

  • 廃業・再チャレンジ事業 
計画的な廃業と新事業挑戦を支援

交付決定率から見る採択のハードル

令和3年度第4次公募では、経営革新事業と専門家活用事業が約55〜56%、廃業・再チャレンジ事業が約36%という採択率でした。数字だけを見ると半数程度が採択される計算ですが、実際には事業計画の完成度や加点条件が結果を大きく左右します。つまり「要件を満たすだけ」では採択を勝ち取れません。計画の実現性、地域経済への貢献、雇用維持の見込みなど、多角的な審査ポイントを踏まえた申請書づくりが不可欠です。

年度や募集回によって数字は変動する

交付決定率は景気動向や予算規模、公募枠の設定によって上下します。最新回の数字を必ず確認してから準備を進めましょう。

事業承継補助金を活用する五つのメリット

1.返済不要で資金繰りを安定化
 融資と異なり返済義務がないため、キャッシュフローを圧迫せずに設備投資や人材強化に資金を振り向けられます。

2.オンライン申請で手続が簡素化
 電子申請に対応しているため、紙書類の郵送や押印の手間が大幅に削減されます。

3.事業承継のハードルを下げる
 資金的支援があることで、承継時の不安要素を減らし、早期から計画的な準備を行えます。

4.経営革新を後押し
 設備導入や販路開拓など、成長に直結する投資を行いやすくなります。

5.専門家の知見を活用できる
 M&A仲介やデューデリジェンス費用が補助されるため、高度な専門サービスを低負担で利用できます。

メリットを最大化する鍵は計画の具体性

補助金は「使い切ること」ではなく「成果を出すこと」が目的です。設備を導入して売上を何%伸ばすのか、雇用をどのように守るのかといった具体的な数値目標を設定し、実行プロセスを明確にすることが重要です。

経営革新事業の補助金を詳しく見る

経営革新事業では、承継やM&Aを機に実施する新規投資や業態転換を支援します。補助率は原則3分の2、400万円超〜600万円部分は2分の1となり、上限額は600万円です。以下では同事業を三つの型に分け、その特徴を整理します。

創業支援型は経営資源を丸ごと引き継ぐケースに対応

創業支援型は、株式譲渡や事業譲渡により事業全体を受け継ぎ、新たな経営者がスタートラインに立つ状況を想定しています。店舗設備や知的財産、従業員の雇用など、企業の中核資源を一体的に承継する場合に適用され、単なる設備だけの取得は対象外です。

創業支援型で補助対象となる経費例

  • 生産設備の購入・入替
  • 店舗改装や事務所移転に伴う工事費
  • 新商品の開発に関わる外注費や試作費
  • 承継後の販売促進用ツール制作費

経営者交代型は親族内・従業員承継をフォロー

親族や従業員が後継者となる場合、承継前から補助対象になる点が大きな特徴です。事業計画の策定や資金調達準備といった“仕込み”段階から支援を受けられるため、余裕を持った承継スケジュールを描けます。

経営者交代型で支援される具体例

  • 承継に向けた内部統制システムの整備費用
  • 後継者育成のための研修やコンサル費
  • 承継前に実施する試験的な新商品開発費

M&A型は再編や統合でシナジーを狙う企業向け

同業他社を買収して市場シェアを拡大したり、異業種のノウハウを取り込んで新分野へ進出したりする場面で活用できます。単なる資産購入ではなく、事業の継続と発展が審査ポイントとなります。

M&A型で留意すべき審査観点

  • 経営統合後の売上成長シナリオの妥当性
  • 経営資源活用の具体策(人材配置・設備共有など)
  • 雇用維持と地域経済への波及効果

専門家活用事業の補助金を詳しく見る

専門家活用事業は、M&A(経営資源の引継ぎ)に不可欠なファイナンシャル・アドバイザーや仲介業者、デューデリジェンス専門家の費用を補助する枠組です。令和6年度補正予算に基づく最新の11次公募では、募集枠が専門家活用枠のみとなり、2025年5月9日から6月6日17時まで申請を受け付けます。補助事業期間は2025年7月上旬予定から約12か月間です。補助率は原則3分の2(条件により2分の1や3分の1)、補助上限額は譲受企業支援で最大2,000万円、譲渡企業支援で最大800万円と高額です。

譲渡企業支援型は地域雇用維持がカギ

譲渡企業支援型は、自社事業を第三者に引き継ぎたい中小企業者が対象です。地域経済に貢献し、雇用を守る案件が優先されます。たとえば地場産業の老舗が後継不足を理由に譲渡を決断し、従業員をそのまま雇用する譲受企業へ事業を委ねるケースなどが該当します。

補助対象経費の具体例

  • 譲受企業との基本合意作成に伴う仲介手数料
  • 資産評価や法務デューデリジェンスに要する専門家費用
  • セカンドオピニオン取得費用

譲受企業支援型はシナジー創出を示すことが必須

譲受企業支援型は、他社から経営資源を引き継いで事業拡大や経営革新を図る中小企業が対象です。審査では、統合後の売上成長や雇用創出、地域経済への波及効果が重視されます。

採択率を高める三つの着眼点

1.シナジーの定量化

売上○%増、コスト○%削減といった具体的数値を提示。

2.PMI体制の明示

統合後のガバナンスやシステム統合計画を示し、実行責任者を特定。

3.地域貢献の証明

雇用維持・拡大見込みを示し、地元金融機関や自治体との連携体制を添付。

11次公募で追加された注意点

  • 専門家契約の時期制限

補助事業期間開始前に結んだ契約は原則補助対象外。

  • 相見積要件の厳格化

FA・仲介費用も2者以上の見積が必要(一部例外削除)。

  • M&A支援機関登録制度

登録FA・仲介業者を利用しなければ補助対象外。

最新ルールを踏まえ、契約締結や見積取得のタイミングを誤らないようにしましょう。

廃業・再チャレンジ事業の補助金を詳しく見る

廃業・再チャレンジ事業は、既存事業の廃業費用と新事業への挑戦費用を一体で支援します。補助率は3分の2、補助上限額は150万円ですが、経営革新事業や専門家活用事業と併用すると上乗せが可能です。

再チャレンジ申請型はM&A未成立でも利用可

再チャレンジ申請型は、2020年以降に譲渡企業としてM&Aに6か月以上取り組んだものの成立しなかった事業者が対象です。廃業完了後に新規事業へ挑戦する計画を示すことで補助を受けられます。

計画策定のポイント

  • M&A交渉の経緯と不成立理由を具体的に記載
  • 新事業の市場規模と収益見込みを示す
  • 必要に応じ専門家のサポート体制を明記

併用申請型で手続が一括簡素化

併用申請型は、経営革新事業や専門家活用事業の申請時に廃業費用を同時計上できる方式です。申請書が一本化されるため事務負担が軽減されるほか、不採算部門の整理と新規投資を同じ年度内で進められる利点があります。

採択される併用計画の特徴

  • 廃業によるコスト圧縮額と新事業投資額を対比し、資源再配分の合理性を提示
  • 廃業に伴う従業員再配置や再雇用計画を示し、雇用維持を強調
  • 地域金融機関や支援機関と連携し、廃業後の資金繰り確保を裏付け

PMI推進枠と最新公募の変更点

参考情報に示されたPMI推進枠は、譲受後の経営統合(PMI)を円滑に進めるための費用を補助します。PMI専門家活用類型は上限150万円、事業統合投資類型は最大1,000万円(一定条件で増額可)、補助率は中小企業1/2、小規模事業者2/3です。M&A後のシステム統合費や組織再編費など、統合期に生じやすいコストを賄える点が魅力です。

11次公募ではPMI推進枠は募集対象外ですが、次回以降の公募で再開される可能性があります。PMI費用を見込む企業は、専門家活用枠の計画書に「将来のPMIを検討している」旨を記載し、加点条件を獲得できるよう準備しましょう。

補助金申請から交付までの流れを完全解説

補助金獲得は六つの段階で進みます。順序を守り、抜け漏れなく対応することが成功の秘訣です。

1. 補助対象事業か確認

公式公募要領を熟読し、自社が満たす類型と要件を特定します。不明点は早期に事務局へ問い合わせ、誤認を防ぎましょう。

2. 認定支援機関への相談

経営革新事業と廃業・再チャレンジ事業は事前相談が必須です。商工会・商工会議所・認定コンサルタントなど複数に当たると、計画の精度が高まります。

3. gBizIDプライムアカウント取得

電子申請の鍵となるアカウントは発行まで2〜3週間。遅滞なく申請し、書類の不備がないかチェックリストで確認しましょう。

4. jGrantsで交付申請

締切直前はアクセス集中による遅延が起こりやすいため、余裕を持って入力。添付資料はPDF形式で統一し、ファイル名を「企業名_資料名.pdf」と整理すると審査側の確認がスムーズです。

5. 補助対象事業の実施と実績報告

交付決定後に契約・支払・納品を行うのが原則です。領収書や契約書はクラウドストレージに日付順で保存し、実績報告書にすぐ添付できる体制を整えておきます。

6. 補助金交付

実績報告が受理されると、精算確認を経て補助金が入金されます。入金日を資金繰り表で管理し、運転資金と投資資金のバランスを保つことが重要です。

申請時に押さえるべき注意点

申請から交付まで約1年を要するため、スケジュールの逆算が必須です。gBizID取得→事業計画策定→見積取得→申請書作成→jGrants入力という一連のタスクをガントチャート化し、社内担当者と共有しましょう。

他補助金との重複に注意

事業承継 補助金は原則一度きり。他制度と併用する際は、事業内容や経費を明確に区分し、書面で説明できる準備が必要です。

審査加点条件の活用

中小企業の会計指針適用や経営力向上計画認定、健康経営優良法人認定など、該当する条件は積極的に取得・申請し、加点を狙いましょう。未達成の場合は減点リスクがあるため、目標達成の実行計画も併せて提出すると効果的です。

資金繰りと税務リスクの管理

補助金入金前のつなぎ資金をどう確保するか、廃業費用の税務処理をどう行うかなど、金融機関や税理士と早期に協議しておくと安心です。

まとめ

事業承継 補助金は、経営資源を次世代へ承継しながら経営革新を加速させる強力な手段です。類型ごとの要件と最新公募のルールを把握し、具体性と実現可能性の高い計画書を準備することで、採択率を大きく引き上げられます。専門家と連携し、補助金を企業成長のレバレッジに活用しましょう。

著者|土屋 賢治  マネージャー/M&Aアドバイザー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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