商法と会社法の違いや改正内容、重要な用語を詳しく解説します。企業経営者やビジネスパーソン必見の内容です。M&Aにおける両法の役割や法的手続についても詳細に説明しています。
目次
商法と会社法は、ビジネスの世界で重要な役割を果たす法律ですが、その内容や適用範囲には違いがあります。ここでは、商法と会社法の違いを明確にし、近年の改正内容も含めて解説します。
商法は、日本国内における商取引全般を規定する基本的な法律です。以下に商法の主な特徴をまとめます。
• 商取引に関する基本的なルールを定めています。
• 民法の特別法として位置づけられています。
• 民法と重複する部分では、商法が優先的に適用されます。
• 個人事業主や会社など、商売を行うすべての主体に適用されます。
商法と会社法には、以下のような主要な違いがあります。
1. 適用範囲:
o 商法:商取引全般に適用
o 会社法:会社の設立、組織、管理に特化
2. 法律の性質:
o 商法:会社法との関係では一般法
o 会社法:商法の特別法
3. 優先順位:
o 商法と会社法が重複する部分では、会社法が優先的に適用されます。
4. 対象:
o 商法:すべての商人(個人事業主を含む)
o 会社法:会社組織のみ
2006年5月1日に施行された新会社法により、商法と会社法の内容に大きな変更がありました。以下に主な改正点をまとめます。
平成18年 商法改正 |
旧(施行前) |
新(施行後) |
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設立できる会社 |
株式会社、有限会社、合名会社、合資会社 |
株式会社、合名会社、合資会社 |
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最低資本金規制 |
株式会社:1,000万円以上 |
制限なし(1円以上) |
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発起設立の払込金 |
必要 |
銀行等の残高証明でよい |
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会社の機関設計 |
株式会社:株主総会+取締役会+監査役 |
株式譲渡制限会社では、取締役会の設置が任意になる。株主総会+取締役(最低1人)も可 |
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取締役・監査役の人数・任期 |
取締役 |
株式会社:3人以上 任期2年 |
3人以上、任期2年が原則 |
監査役 |
株式会社:1人以上、任期4年 |
1人以上、任期4年が原則 |
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会計参与 |
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規定なし |
新設。すべての株式会社に設置可能 |
株主総会の招集 |
招集通知の発送 |
会日の2週間前 |
取締役会非設置会社:会日の1週間前(定款で短縮可能) |
召集通知の手段 |
書面又は電磁的方法 |
取締役会非設置会社:書面等以外の方法でも可能 |
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招集通知の形式 |
会議の目的事項を記載 |
取締役会非設置会社:会議の目的事項の記載不要、計算書類等の添付も不要 |
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株主総会で決定できる事項 |
株式会社:法令や定款で定められた事項 |
取締役会非設置会社:すべての事項が決定できるように規制を緩和 |
商法・会社法の新旧対照表
▶目次ページ:M&Aの種類・方法(のれん、法務)
商法と会社法は、企業活動を円滑に進め、関係者の利益を保護するための重要な法律です。それぞれが異なる側面から企業活動を規制し、支えています。
商法は、商取引全般に関する基本的なルールを定めています。以下に商法が対象とする主な範囲と取引を示します。
1. 対象となる取引:
o 売買
o 交換
o 貸借
o 請負
o 預金
o その他の商取引全般
2. 商法の主な役割:
o 商取引における権利関係の明確化
o 契約形態の規定
o 商行為に関するルールの設定
o 国内外の取引の安定化と円滑化
3. 商法の適用対象:
o 会社
o 個人事業主
o その他の商売を行う主体全般
4. 商法の特徴:
o 反復・継続して行われる定型的な取引を想定
o 大量の取引を効率的に処理するためのルールを規定
o 民法との関係では特別法として位置づけ
会社法は、会社の設立から解散まで、企業の組織運営に関する詳細な規定を設けています。以下に会社法が規定する主な内容を示します。
1. 会社設立に関する規定:
o 設立手続
o 定款の作成
o 出資の方法
2. 会社の機関設計:
o 株主総会
o 取締役会
o 監査役会
o 会計参与(新設)
3. 役員に関する規定:
o 取締役の選任・解任
o 監査役の選任・解任
o 役員の責任
4. 株式に関する規定:
o 株式の発行
o 株式の譲渡
o 株主の権利
5. 計算に関する規定:
o 財務諸表の作成
o 剰余金の分配
o 資本金の増減
6. 組織再編に関する規定:
o 合併
o 会社分割
o 株式交換・株式移転
7. 会社の解散・清算に関する規定
会社法の規定により、企業の組織運営の透明性が確保され、株主や債権者の利益が保護されています。また、企業の柔軟な組織設計や再編が可能になり、経営の効率化や事業の拡大を支援しています。
商法と会社法には、ビジネスや法律の専門家でなければ馴染みの薄い用語が多く使用されています。これらの用語を理解することは、企業活動を適切に行う上で非常に重要です。
商法には、以下のような基本的な概念が含まれています。
1. 法人:
o 商業活動を行う法人格を持つ組織
o 例:株式会社、有限会社など
2. 商業登記:
o 企業の重要事項を公示する制度
o 取引の信用を確保するために必要
3. 商行為:
o 商事法人が営業目的で行う法律行為
o 例:商品の売買、運送、保管など
4. 負債:
o 商事法人の商行為によって生じる債務
5. 代理商:
o 法人に代わって商行為を行う権限を持つ者
6. 商標権:
o 商品やサービスに関する特定の表示を独占的に使用する権利
7. 売買:
o 財産権の移転を目的とした契約
8. 交換:
o 財産権の相互移転を目的とした契約
9. 貸借:
o 物の使用や収益に関する権利の一時的な移転を目的とした契約
10. 請負:
o 所定の業務の完成を約束する契約
11. 預り:
o 物の保管を約束する契約
12. 委託:
o 他人に代理権を与えて商行為を行わせる契約
これらの概念を理解することで、商法上の取引や契約を適切に把握し、実践することができます。
会社法には、企業経営や法律上の権利・義務に関わる多くの専門用語があります。以下に主要な用語とその意味を解説します。
1. 株式会社:
o 会社の資本を株式によって分割し、株主の責任を出資額に限定した会社形態
o 大規模な資金調達が可能
2. 取締役:
o 会社の経営を担当し、法的責任を負う役員
o 株主総会で選任される
3. 役員報酬:
o 取締役や監査役に支払われる報酬
o 株主総会で決定または承認が必要
4. 株主総会:
o 株主が意思決定を行う最高意思決定機関
o 年に1回以上の開催が義務付けられている
5. 社債:
o 企業が資金調達のために発行する借入証券
o 一定期間後に元本を返済する約束で発行される
6. 資本提携:
o 企業同士が株式の取得や出資を通じて経営協力関係を築くこと
o 業務提携とは異なり、資本関係を伴う
7. 財務諸表:
o 企業の経営成績や財務状況を示す報告書
o 主に貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書から構成される
8. 有限責任:
o 株主が保有する株式の額以上の責任を負わないこと
o 会社の負債に対して株主の責任が限定される
9. 定款:
o 会社の基本規則を定めた文書
o 会社の目的、機関設計、株式に関する事項などが記載される
10. 株主権:
o 株主が会社に対して持つ権利
o 議決権、配当請求権、残余財産分配請求権などがある
これらの用語を理解することで、会社法に基づく企業活動や意思決定プロセスをより深く把握することができます。
M&A(合併・買収)は、企業の成長戦略や事業再編の重要な手段として広く活用されています。商法と会社法は、M&Aを行う際の法的枠組みを提供し、関係者の利益を保護する重要な役割を果たしています。
1. M&Aにおける商法・会社法の意義:
o 企業の合併・買収に関する適切な手続を規定
o 株主や取引先の利益を保護
o M&Aの透明性と公平性を確保
2. M&Aに関する主な法的手続:
o 合併の場合:
・株主総会の承認(原則として)
・合併契約書の作成
・債権者保護手続
o 買収(株式取得)の場合:
・株式譲渡契約の締結
・取締役会の承認(大規模な買収の場合)
3. M&Aにおける法令遵守の重要性:
o 適切な法的手続を踏まないM&Aは無効となる可能性がある
o 法令違反の場合、経営者や役員に罰則が科される可能性がある
o 適切な法的手続の遵守が企業の信頼性向上につながる
4. 会社法改正によるM&A手続の変更点:
o 一部の手続や制限が緩和されたが、基本的な法令の目的は変わっていない
o 簡易合併・簡易株式交換の要件緩和
o 株式等売渡請求制度の創設(スクイーズアウトの容易化)
5. M&Aにおける法務デューデリジェンスの重要性:
o 対象会社の法的リスクを洗い出す
o 契約関係、労務関係、知的財産権などを精査
o M&Aの成否や条件に大きな影響を与える可能性がある
6. クロージング後の法的対応:
o 組織再編や人事制度の統合
o 契約の承継や再交渉
o コンプライアンス体制の統合
M&Aを成功させるためには、商法・会社法の規定を十分に理解し、適切な法的手続を踏むことが不可欠です。また、法務、財務、税務など多角的な視点からのアプローチが必要となるため、専門家のアドバイスを受けながら進めることが重要です。
商法と会社法は、企業活動の基盤となる重要な法律です。商法は一般的な商取引を規定し、会社法は会社組織に特化した詳細な規定を設けています。両法の違いと改正点を理解することで、適切な企業運営やM&Aの実施が可能となります。また、これらの法律に関連する用語や概念を把握することは、ビジネスにおける意思決定や戦略立案に不可欠です。今後も法改正の動向に注目し、最新の法的枠組みに基づいた企業活動を行うことが重要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画