商法と会社法の違いを解説|適用範囲とM&A実務の注意点

商法は商人や商取引の基本ルール、会社法は会社の設立・運営・組織再編を定める法律です。両法の適用範囲、目的、優先関係、2006年施行時の主な変更を整理し、株式譲渡・事業譲渡・合併などM&Aで経営者が確認すべき手続と注意点を分かりやすく解説します。

目次

  1. 商法と会社法の違いを3つの視点で整理
  2. 会社法が商法から独立した背景
  3. 会社法の施行で変わった会社運営
  4. M&Aで会社法を確認する場面
  5. M&Aや日常取引で商法が関係する場面
  6. 会社売却前に確認したい法律上のポイント
  7. まとめ

商法と会社法の違いとは?改正内容や重要用語を徹底解説

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(のれん、法務)

商法と会社法の違いを3つの視点で整理

会社が関係する法律問題だからといって、すべて会社法だけで判断できるわけではありません。会社の組織や株主との関係は会社法、日常の商取引は商法や民法というように、問題の内容によって確認すべき法律が変わります。

商法と会社法の主な違いは、法律の目的、適用される対象、定めている内容の3つです。

法律の目的が異なる

商法は、商人が行う取引を安全かつ円滑に進めるための法律です。同じ種類の取引が繰り返される事業活動では、一般の個人間取引よりも迅速な処理が求められます。そのため、商取引に適した特別なルールが設けられています。

一方、会社法は、会社の設立や運営に関するルールを定める法律です。株主や債権者を保護しながら、経営者による適切な会社運営を確保する役割があります。

簡単に整理すると、商法は商取引の安全と円滑化、会社法は会社組織の運営と関係者の保護を重視する法律です。

適用される対象が異なる

商法は、原則として商人や商行為に適用されます。商人とは、自己の名で商行為を継続して行う者をいい、会社だけでなく個人事業主が該当することもあります。

会社法の対象は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社などの会社です。個人事業主の組織運営には、会社法は適用されません。

株式会社と合同会社も会社法上の仕組みが異なる

株式会社では、株主が出資し、取締役などが会社を経営する仕組みが基本です。株主と経営者の役割が分かれています。

合同会社では、出資者である社員が原則として業務を行います。株式会社と比べて、利益配分や意思決定の方法を柔軟に決めやすい点が特徴です。

どちらも会社法に基づく会社ですが、組織運営や持分の譲渡方法は同じではありません。

定めている内容が異なる

商法は、商人、商号、商業登記、商業帳簿、商行為、運送、寄託などに関するルールを定めています。

会社法は、会社の設立、株式、株主総会、取締役、決算書、剰余金の配当、合併、会社分割、解散などを定める法律です。

会社に関する事項では会社法が優先する

商法と会社法は無関係な法律ではありません。会社も商人として商法の適用を受ける場面があります。

ただし、会社の組織や株式について会社法に特別な規定がある場合は、原則として会社法が優先します。商法が商取引に関する一般的なルール、会社法が会社に向けた特別なルールという関係です。

一方、契約の成立や解除、損害賠償などは、民法のルールも関係します。実際の企業活動では、民法、商法、会社法を組み合わせて判断する必要があります。

会社法が商法から独立した背景

かつて会社に関する規定は、商法の第2編に置かれていました。しかし、会社制度が複雑になるにつれて、商法、有限会社法、商法特例法など、複数の法律にルールが分散するようになりました。

経営者にとっては、どの法律を確認すればよいのか分かりにくい状態です。そこで会社関係の規定を整理し、一つの法律としてまとめた会社法が2005年に制定されました。

会社法が施行されたのは2006年5月1日です。

単なる法律の分離ではなく制度も見直された

会社法の制定では、商法から会社関係の規定を切り離しただけではありません。会社の設立や機関設計、株式、組織再編などの制度も大きく見直されました。

会社の規模や株主構成に応じて、運営方法を選びやすくしたことが大きな特徴です。

現在も商法は企業活動に関係する

会社法が独立した後も、商法が不要になったわけではありません。

株主総会の決議方法や取締役の権限は、主に会社法で判断します。一方、取引先との売買、運送、保管などには商法が関係することがあります。

どの法律が適用されるかは、会社かどうかだけでなく、問題となっている行為の内容から判断します。

会社法の施行で変わった会社運営

2006年の会社法施行により、中小企業の設立や運営に関する制度も変わりました。代表的な変更は、最低資本金規制の廃止、合同会社の創設、機関設計の柔軟化などです。

最低資本金規制が廃止された

旧制度では、株式会社の設立には1,000万円以上、有限会社には300万円以上の資本金が必要でした。

会社法の施行により、最低資本金規制は廃止されています。現在は、資本金1円でも株式会社を設立することが制度上は可能です。

ただし、事業に必要な運転資金や取引先からの信用も考える必要があります。設立できる金額と、安定して事業を続けられる金額は別の問題です。

合同会社が新設された

会社法の施行により、合同会社という会社形態が新たに設けられました。

合同会社は、出資者が経営にも参加しやすく、会社内部のルールを比較的柔軟に設計できます。小規模な事業や共同事業などで利用されています。

一方、有限会社は新たに設立できなくなりました。会社法施行前から存在する有限会社は、現在も特例有限会社として存続できます。

会社の機関を柔軟に設計できるようになった

株式会社では、株主総会、取締役、取締役会、監査役などを会社の機関と呼びます。

会社法では、公開会社か非公開会社か、会社の規模がどの程度かなどにより、設置すべき機関が変わります。

すべての株式に譲渡制限がある中小企業では、取締役会を置かず、取締役1人だけとする設計も可能です。一方、取締役会を置く会社では、原則として3人以上の取締役が必要となります。

役員任期を長くできる会社がある

取締役の任期は原則として2年、監査役は原則として4年です。

ただし、すべての株式に譲渡制限がある非公開会社では、定款に定めることで、取締役や監査役の任期を最長10年まで延ばせる場合があります。

役員変更登記の回数を減らせる点はメリットです。ただし、任期途中で役員を解任すると、残りの任期に応じて損害賠償を求められることがあります。長く設定すれば常に有利とは限りません。

平成18年 商法改正」の新旧対照表


平成18年 商法改正

旧(施行前)

新(施行後)

設立できる会社

株式会社、有限会社、合名会社、合資会社

株式会社、合名会社、合資会社
合同会社(日本版LLC)

最低資本金規制

株式会社 1,000万円以上
有限会社 300万円以上

制限なし(1円以上)

発起設立の払込金
保管証明

必要

銀行等の残高証明でよい

会社の機関設計

株式会社 株主総会+取締役会+監査役
有限会社 社員総会+取締役会(+監査役)

株式譲渡制限会社では、取締役会の設置が任意になる。株主総会+取締役(最低1人)も可

取締役・監査役の人数・任期

取締役

株式会社 3人以上 任期2年
有限会社 1人以上 任期無し

3人以上、任期2年が原則
株式譲渡制限会社は一人以上で、任期は最長10年まで延長可

監査役

株式会社 1人以上、任期4年
有限会社 設置は任意、設置時は任期無し

1人以上、任期4年が原則
株式譲渡制限会社 設置は任意、任期は最長10年まで延長可

会計参与

 

規定なし

新設。すべての株式会社に設置可能

株主総会の招集

招集通知の発送

会日の2週間前

取締役会非設置会社 会日の1週間前(定款で短縮可能)

召集通知の手段

書面又は電磁的方法

取締役会非設置会社 書面等以外の方法でも可能

招集通知の形式

会議の目的事項を記載
定時株主総会については計算書類等を添付

取締役会非設置会社 会議の目的事項の記載不要、計算書類等の添付も不要

株主総会で決定できる事項

株式会社 法令や定款で定められた事項
有限会社 すべての事項

取締役会非設置会社 すべての事項が決定できるように規制を緩和


この対照表は、2006年当時の主な制度変更を理解するためのものです。その後にも会社法の改正が行われているため、実際の手続では現行法と自社の定款を確認する必要があります。

M&Aで会社法を確認する場面

M&A(合併・買収)では、会社法が中心的な役割を果たします。ただし、「会社を売るなら株主総会が必要」と一律に決めることはできません。

株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割など、選ぶ手法によって必要な手続が異なります。

株式譲渡では株式の譲渡制限を確認する

中小企業の会社売却で多く使われる株式譲渡は、経営者などの株主が、保有する株式を買い手に譲渡する方法です。

会社自体はそのまま存続します。資産、負債、従業員との雇用契約、取引先との契約も、原則として会社に残ります。

ただし、非公開会社の株式には譲渡制限が付いていることが多いため、会社による承認が必要です。承認する機関が株主総会か取締役会かは、会社の機関設計や定款によって異なります。

株主名簿や名義株も確認する

株式譲渡を進める前には、株主名簿、定款、過去の株式移動に関する資料を確認します。

実際の出資者と株主名簿が違うこともある

昔の会社では、設立時に親族や知人の名義を借りて株主としていることがあります。いわゆる名義株です。

名義株が残っていると、誰が株式を売却できるのかが不明確になります。株券発行会社では、株券の所在も確認が必要です。M&A実務では、ここで手続が止まることもあります。

事業譲渡では株主総会と個別承継を確認する

事業譲渡は、会社の事業を構成する資産、負債、契約などを選んで買い手に移す方法です。

会社法上の事業の全部または重要な一部を譲渡する場合、原則として株主総会の特別決議が必要です。ただし、譲渡する事業の規模などによって、株主総会が不要となる場合もあります。

また、契約、債務、許認可、従業員との雇用関係は、株式譲渡のようにそのまま移るとは限りません。取引先や債権者の同意、契約の締結し直し、許認可の取得などが必要になることがあります。

合併や会社分割では手法別の手続を確認する

合併、会社分割、株式交換、株式移転などは、会社法が定める組織再編です。

実行する手法に応じて、契約や計画の作成、株主総会、反対株主による株式買取請求、債権者保護手続、登記などが必要かどうかを確認します。

すべての組織再編で同じ手続が必要になるわけではありません。簡易手続や略式手続を利用できる場合もあるため、資産規模、株主関係、対価の内容などから個別に判断します。

必要な手続を見落とすと、予定した効力発生日に実行できないおそれがあります。価格や条件の交渉だけでなく、実行可能な日程を組むことも重要です。

法務デューデリジェンスで問題を調査する

法務デューデリジェンスとは、買い手が対象会社の法律上の問題を調査する手続です。

主に、株式、契約、許認可、従業員、知的財産、訴訟、社内規程などを確認します。取締役会議事録や株主総会議事録も重要な調査資料です。

重要な契約にチェンジ・オブ・コントロール条項が入っている場合、株主が変わることで契約解除や事前承諾の対象になることがあります。

調査で問題が見つかれば、譲渡価格の調整、実行前の是正、契約書の表明保証や補償などに反映します。法律の確認は、単に決められた手続を済ませるためだけのものではありません。

M&Aや日常取引で商法が関係する場面

M&Aの組織上の手続では会社法が中心となります。一方、商法は、M&Aを行う会社の日常的な取引や、商人間の取引ルールに関係します。

株式譲渡契約や事業譲渡契約の成立、解除、損害賠償などは、基本的には民法の契約ルールを確認します。そのうえで、取引が商行為に当たる場合には、商法の特別な規定が適用されることがあります。

商法は商人間の取引を円滑にする

商法が定める代表的な内容には、商人、商号、商業登記、商業帳簿、代理商、商人間の売買、運送、寄託などがあります。

例えば、商人間の売買では、商品を受け取った買主に検査や通知が求められる場面があります。一般の個人間売買とは異なる対応が必要です。

商法は、会社だけを対象とした法律ではありません。個人事業主であっても、商人として商法の適用を受けることがあります。

M&A後の収益や企業価値にも影響する

会社売却後も、対象会社は取引先との契約を履行し続けます。

売掛金の回収、商品の検収、運送中の事故、在庫の品質、クレーム対応などに問題があれば、買収後の収益に影響します。表面上の売上や利益だけでは分からないリスクです。

そのため、M&Aでは会社法上の手続だけでなく、取引基本契約、販売条件、契約更新、解約条件なども確認します。

会社売却前に確認したい法律上のポイント

商法と会社法の条文をすべて覚える必要はありません。経営者にとって重要なのは、自社の売却や事業承継で、どの書類と手続を確認すべきかを把握することです。

定款と登記事項を確認する

定款には、株式の譲渡制限、株主総会、取締役会、公告方法など、会社運営の基本ルールが記載されています。

登記事項証明書と定款の内容が一致しているかも確認します。役員変更や本店移転の登記が漏れていると、M&Aの準備中に修正が必要になることがあります。

株主と意思決定権を確認する

株主名簿、過去の株式譲渡、増資、相続などを確認し、現在の株主を確定します。

株主が複数いる会社では、経営者だけで会社売却を決められないことがあります。株式譲渡に反対する株主がいると、すべての株式を買い手に渡せない可能性もあります。

早い段階で株主構成と意向を確認することが大切です。

選ぶ手法による承継範囲の違いを確認する

株式譲渡では、会社の資産や負債、契約関係が原則として会社に残ります。

事業譲渡では、譲渡する資産、負債、契約を選び、個別に移します。合併や会社分割では、会社法に基づき、決められた範囲の権利義務がまとめて承継されます。

同じ会社売却でも、選ぶ手法によって経営者に残るリスクや手取り額が変わることがあります。

会社法以外の法律も確認する

M&Aでは、民法、労働関係法令、独占禁止法、金融商品取引法、税法、許認可に関する法律なども関係します。

特に、事業譲渡では許認可をそのまま引き継げないことがあります。会社法上の手続を終えても、必要な許認可がなければ事業を続けられません。

法務、税務、会計を別々に検討すると、後から手続のやり直しが生じやすくなります。基本合意を結ぶ前から、同じスキームを前提に各分野を確認することが重要です。

まとめ

商法は商人や商取引、会社法は会社の設立・運営・株式・組織再編を定める法律です。会社に関する事項では会社法が優先するのが基本ですが、M&Aでは民法、税法、労働関係法令、許認可法なども関係します。会社売却を検討するときは、定款、株主構成、契約、許認可を早めに整理し、選ぶ手法に必要な承認や承継手続を具体化することが大切です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人